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変っていく、少しづつ。そして変わらない俺

 その後は俺の話を色々とした。そう、本当に長々と、色々と。

 そしてドン引きされている。ミルは何と言って良いやらと言った表情をして俺の話をずっと聞いてくれていた。


「ああ、スマン。ちょっと長話が過ぎた。俺はコレで失礼させて貰うよ。」


「いえ、貴重、過ぎるお話をどうも有難うございます。」


「あー、ちょっと調子に乗って話しちゃったけど、こんな話は何の役にも立たんよな。」


「いえ、砂漠の国の競売の話は凄く面白いと感じます。エンドウさんが創った村もいつか見に行ってみたいですね。まあ、私はこの話を信じますけど、多分エンドウさんの事を全く知らない方にはホラ話にしか聞こえないですよね、コレ。」


 そう言ってミルは苦笑い。これには「確かに言う通りだ」としか俺には答えられなかった。


 俺も自覚はしている。これまで俺が体験して来たり、して来た事は誰が聞いた所で「嘘乙」と言われる様な内容だと。


 こうして俺は店を出る。思い掛けない長話をして時間を結構消費した事でオヤツの時間と言ったくらいになっていた。


「小腹は、空いて無い。今日のこの後の予定も、決めて無い。さて、何をして過ごそうか?」


 暇潰しをする気なら俺は何処にでも行ける。どれだけ遠い地方でも魔法で一発チョチョイのチョイである。


「・・・はッ!?俺は何でここまで色々と詰め込んでせかせかと遊び回っているんだ?心のゆとりを全く持っていないみたいだコレじゃあ・・・魔改造村で過ごしていた時が一番ゆったりノンビリ時間を使えていたな、これじゃあ。」


 そう思えども、別に俺は完全なるスローライフを目指していた訳でも無い。

 この思考は直ぐに忘れてブラブラと散歩をする事に決めて歩き出す。


 久しぶりにやって来たマルマルは別段何かが変わったと言った風では無い。

 しかしちょっぴり懐かしいと感じる位には長くこちらに戻っていなかったので何かと感じ入るモノがある。


「今晩の夕食を一品増やそう。お土産で香草焼きを買って行くか。店の方の繁盛具合も確認できて一石二鳥だな。もうあれから結構経ったし?当初の物珍しさと爆発的人気は落ち着いただろ、流石に。」


 そうして俺はテルモの所に向かう。あの大人気行列店は一体今どうなっているだろうかと言った確認も込めて。


 閉店はしていないだろう、そう思ってその店の前に来たのだが。


「・・・何だコレ?店、デカくなってね?しかも、何で店がデカくなって客の収容人数増えてるはずなのに行列が以前と変わらねーの?」


 ソレは客が減る事も無く増え続けていたと言う証拠である。

 昼を過ぎている、夕食もまだちょっと遠い、けれども、この行列。


「いや、正直言っておかしい。何がどうしたら客入りが落ち着かずに、寧ろ逆にこんな増え続けるとかしてんだ?」


 幾ら人気店だ、とは言え、これには限度があろうと言うモノ。

 何をどうすればこれ程の人気が続くと言うのか?

 人は飽きる生き物だ。毎日毎日ここに食べに来る者などはいないと思うが。


「口コミが広まって?いや、それだけじゃこの光景は過剰に過ぎるよな?じゃあ、リピーターが減る事も無く鰻上りで天井知らず?それこそ無いんじゃね?流石に連日は飽きるでしょ?ここの近所に住んでいた所で毎日食べに来るとかは、ソレは何でも・・・有り得ないんじゃないのか?」


 ここで俺はハッとなる。まさか、と。


「おいおい、テルモ?まさか違法薬物とか混ぜて客に提供してんじゃなかろうな?」


 まさかの禁断症状?とか思って行列を見るが、そんな異常な様相をした客は一人も見えない。


「・・・いや、テルモの性格じゃそんな真似は思いもしないか。そんな危ない御薬の入手経路とかそもそもテルモじゃ無理な話だな。」


 俺はテルモの事を思い出す。取り合えず彼女の根性ではその様な違法に手を出す様な性格はしていない事を。


「事情はバックヤードに本人が居たら聞いてみりゃ良いか。ついでにお土産を貰う為にちょっとだけ店を手伝うのも良いかな。」


 これ程に店が大きくなり、大繁盛をしているのだから、テルモは大忙しで下処理やら下拵えをしていると思っていたのだが。


「・・・あ!お久しぶりです!いきなり来てどうしたんです?何だか不思議そうな顔してますけど?」


 俺は店の裏手に回ってスタッフ専用の休憩所と思わしき一角のドアを開けて中を覗いて見たのだが。

 そこはテルモがのんびりと帳簿と睨めっこしている光景だった。


「え?どうしたんだ?色々と変わっちゃって俺には何が何やら・・・」


「ああ、そう言う事ですか。まあ、うちも色々と変わったんですよ。今ではこうして私もゆっくりとできる程になりました。」


 俺はその変わって行った経緯をテルモから聞く為に部屋の中へと入らせて貰った。


 とは言え、聞けた話の内容には別段おかしな所は無い。


 客足が途絶え無い事で、じゃあ店を大きく、と言った流れに合わせて従業員を増やし。

 従業員だけ増やしても下拵え、要するに、魔力操作で肉の柔らかさを出す専用の職人が少なくては増えていく客をスムーズに捌けないと言う事で魔法使いを募集したと言う。


 これらは全てクスイが手配したのだそうだ。出資金の出所はもちろん俺の口座。

 魔法使いの募集は王宮、国にも話を持って行って王子様に相談を持ち掛けたらしい。


 あれよあれよと言う間に事は大きくなりはしたが、収まるべくして収まったと言う奇跡。


「それで私はクスイさんに経営の勉強を教わってこうしてお金の勘定と管理に回っているんですよ。」


「えーっと、何か、スマン?」


 どうにもテルモは完全に裏方に回る事になった様で。

 この事に色々と何故か謝罪の言葉を言わなくてはならない気分になったのでそう口にしてみたが。


「いやー、何で謝られてるのかはサッパリ分からないですけど。今はあの追いかけられて、せっつかれる事もありませんから気楽に仕事出来て嬉しいですねー。」


 そんな呑気な事をテルモが言うので俺はそれ以上何も言えない。


(要するに、この店の総責任者になったって事なんだよなテルモは?そんな気分の軽い役職じゃないだろ、ソレ)


 そこら辺を解っているのか、分かっていないのか?テルモのそんな気楽な声に俺は指摘をする事を止めておく。知らぬが華。知らぬが仏である。


「あー、お土産に三つ程買っていきたいんだが、確保はできるか?持ち帰るのは無し?」


「いえいえ、準備させますよ。じゃあコレがキリの良い所まで済んだら私がやりましょう。ちょっと待っていてください。」


「あー、ゆっくりやってくれ。急かしたみたいになって仕事に間違いが出たりするのは、イカンだろ?」


 俺はテルモに「仕事の方を優先で」と言って落ち着かせてから少々の時間を待つ。

 しかしテルモは既にもう殆どの帳票を既にチェックしてあった状態だったらしく、直ぐに部屋の奥へと向かう。


「じゃあパパッと作ってきますね!」


 恐らくはテルモの向かった先は調理場なのだろう。

 その後は何も問題も無さそうで約十五分後には戻って来た。


「お待たせしましたー。コレは私からの奢りって事で。」


「あー、うん、まあ、分かった。ありがとう。素直に受け取っておく。」


 焼き立てを三つ纏めて大きな紙袋に包んで渡された際に「奢り」と言われてしまった。

 ソレをすんなりと受け取ってしまった俺は何故かここで「支払う」と言う言葉が出せずに礼の言葉を吐き出して店を出た。


 香草焼きはインベントリに直ぐに仕舞ってまた再びブラブラと通りを歩く。


 世界は俺が居なくても回るし、俺が動かなくても世界は回る。

 他にも色々と知り合いの所に顔を出して行こうとも考えたのだが、それは止めておいた。


 今楽しんでいるあの中華な国での観光を楽しみ終わったら一度ここに戻って来て何かと挨拶に回れば良い。


 そう考えて俺は道場に戻る事にした。ワープゲートでササッと道場裏手の人気の無い場所にパパッと移動する。


 今回こうしてマルマルに戻って来たのは魔力回復薬を求めに来ただけであり、その他はついでだった。

 その目的の品は一本しか買っていないが、これで充分と言えば充分である。

 他に重要な依頼やら用事なども無い俺はマルマルの散歩にそれ以上の未練はなかったのでササッと道場へと入る。


「機関長を驚かせて楽しもうと思っただけだからな。大量に持ち込んでもソレはソレで面白かったと思うけど。機関に俺がデカい顔して介入するのはあっちこっちから怨まれそうだからな。機関長がそこは全面に出て頑張って受け止めて貰わんとさ。」


 機関長は今の「千年機関」を変えたくて外部からの力の介入を選びはしたが。

 そこで呼ばれた俺がソレをして、その結果に俺だけが恨まれると言った事態にはしたく無い。


 何事にも程度が大事だ。安易に俺もオッケーの返事をしてしまっているのも問題ではあるけれども。


 俺は只のアドバイザー的な立場に抑えて、改革は機関長が頑張って貰わないと始まらない事でもある。


 それだけでも恐らくは俺に恨みを持つ者が現れるだろう事は予想できるし。

 俺がその中心になって力づくで派閥全てを「分からせ」て改革を成し遂げてしまったら目も当てられ無いくらいに大勢から怨まれるのなんて目に見えてしまう。


 俺の姿を見え無い様にして上手く機関長が動いてくれるのが一番良いのだけれども。


「既に一部の者たちには俺の事は周知されてるっぽいよなぁ。ソレがどれくらいの影響が出てるかが今後のカギなのかね?」


 とは言え、俺が今ここで幾ら考えた所で先の事など分かるはずも無い。

 どれだけのパターンを想像した所で、そんな俺の限界を超えた斜め上の展開になる事など幾らでも起きるのが世の中と言うモノだ。


 食堂の椅子に座ってそんな事を考えていれば夕食の用意をする為だろう、ミャンレンが入って来た。


「あー!ちょっと!明日はもう一度アレやらせなさいよ!絶対に完遂して見せるんだから!」


 どうやら納得がいっていないミャンレンは例の「遊戯」を強請って来る。


「昨日今日で劇的に強くなれるはず無いだろ?まあ、やるなら三日後だな。」


「え?何その基準?三日とかどう言う事?と言うか!ここで今直ぐにもう一度やらせてよ!」


「はいはい、女の子が「やらせて」なんて大声で言うモノじゃありません。」


 俺がそうやってふざけ込みで言ってやればミャンレンは「きぃー!」と悔しそうな声を上げる。


 その後は夕食の準備の為に台所に入るミャンレンに俺はおかずを一品買って来たと伝える。

 何を買って来たのかと言われたので俺はその時になるまでは秘密とだけ言っておいた。


 そうして夕食にはキョウもやって来る。そこで俺はテーブルに並べられた料理にインベントリから香草焼きを二人の前に出す。


「・・・え?今それどうやって、何処から出したの?って言うか、これ、何?え?物凄く良い匂い・・・」


「コレは参りましたね。今のは・・・いえ、何も聞かないでおきましょう。エンドウ殿は何でもできてしまいますね。」


 ミャンレンは驚いた後に香草焼きの匂いでうっとり。

 キョウは顔を一瞬手で覆ってから気を取り直して香草焼きへと目を向ける。


「まま、ヨイでは無いか、ヨイではないか。さあさ、食べようぜ。」


「何なの?そのヨイでは無いかって・・・何にも良くないわよ!?」


 ミャンレンが俺にそんなツッコミを入れて来るが、コレを無視して肉に俺は齧り付く。

 インベントリに入れてあったのでまだ暖かいままな香草焼き。かなり久しぶりに食べたが美味い。


 元々は俺が思いついて作ったモノではあるが。


 既にテルモはもう俺の作ったモノよりも美味しく仕上げる事が出来ているのでは無いだろうか?

 熟練と言っても良いだろうその「香草焼き」はミャンレンもキョウも唸らせる味である。


 二人は美味い美味いと言って夢中で齧り付いている。俺の解説などは要らないだろう。


 そうやって香草焼きを食べ終わったミャンレンが名残惜しそうにその無くなった皿を見つめる。


「もっと食べたかったなぁ。でも、コレって何の肉だったの?物凄く柔らかくてジュワッと汁と香りが噛めば噛むほど溢れて来て・・・あー、涎出ちゃう。」


「ミャンレン、はしたないから止めろ。作り方は、まあ教え無いけど、何の肉かは教えるよ。」


「え?ホント!と言うか!作り方も教えてよ!」


「そこら辺は何だろ?既得権益とかがあるから?ダメ?みたいな?企業秘密だから教えられ無い的な?」


「何よソレー!?と言うか、こんなの売ってる店ってここに在ったかしら?」


「いや、まあ、無いな、うん。他所から買って来たからな。」


「・・・他所って何処?何でそんな事になるの?」


 ミャンレンの追求が激しくなる前に俺はこの香草焼きの元が何なのかの映像を壁に映し出す。

 魔力を使ってこうして映像を一発で出せてしまうのは本当にズルいと思うが、便利なので何も口には出さない。


「・・・げッ!?コレが!?」


 そう、ミャンレンが見たのは、と言うか、キョウもここにまだ居るので二人が目にした映像はと言うと。


 あのコウモリみたいな魔物「エコーキー」である。懐かしい。


「って言うか!何よコレも!どうなってるのよ!?」


 どうやら魔力で再現した大画面スクリーンにもミャンレンは驚いている模様。


 まあそれもそうであろう。俺がする事の大抵はこの世界の非常識と認識してはいる。


 してはいるけれども、ソレを今の状況で無理に控えようとか言った事は考えていないのでこう言った場面では使用した方が説明しやすいし、話も早いので使うが。


 とは言え、最初の頃の自重は何処へ行った?である。


 だがキョウもミャンレンも、既に俺の中では信用して良い人物だと言う結論が出ているのでその自重を今、外して対応しているのだ。


「言い触らして貰いたくは無いんだけどさ。まあ、こういう事も俺はできるんだよって、そう言うのを知っておいてくれ。今後は少しずつだが、もっと色々と解放していくからさ。」


「・・・え、何その不穏な言葉。解放って・・・これ以上何を出そうって言うのよ?もっとって、後どれくらいを言ってるの・・・?」


 ミャンレンが驚き過ぎたらしく「頭痛いわー」と額を手で押さえている。


 キョウの方は大きく溜息を吐くだけでその感情を抑え込んでいた。


 こうして本日は就寝となる。色々とこの国での自重が外れて来ている俺はその事に自覚をしつつ、明日の事に頭を悩ませながらベッドの上でゴロリと横になる。


(うーん、もうそろそろ派手な事をしでかしちゃいそうだよなぁ。しかも、問題な千年機関とやらに関わっちゃったしな。さて、明日は明日の風が吹くしかないなぁ)


 明日の事は、明日の俺に丸投げである。そうして俺は目を瞑って何も考えずに寝る事にした。


 そうして次の日の朝。取り合えずは別段これと言って特に言う事も無い無難な朝である。


 何時もの様に朝早くから鍛錬を行っている門下生たちの掛け声が僅かに聞こえて来る程度だ。


 そんな日の朝食は目玉焼きにソーセージ、サラダにスープとパン・・・?と言った軽めの洋風な朝食となった。


「おー、何だか良く分からないけど、なんだか懐かしい感じがするなぁ。」


「簡単モノですみませんね。本日は私が作りました。朝から用事がありまして直ぐに出かけなくてはならなくなったので。この様になってしまいました。」


 キョウがそう言って卓に食事を並べていく。


「何かの会合か?遅くなる?」


「いえ、ちょっとした野暮用と言うやつですね。」


 別に俺はキョウの行動に色々と首を突っ込む気は無いし、余計なお節介やら世話を焼く気は無い。

 興味が無いと言ってしまえばソレまでなのだが、俺に関係する事などが有ればキョウはしっかりとソレを伝えて来てくれると思っているのでそこまでの心配をしていなかったりするだけである。


「俺の力が必要になったら言ってくれ。世話になってるし、できる事なら何でも協力するさ。」


「何でも、ですか?いえ、エンドウ殿が出来ない事など何も無いのでは?」


「いやいや、冗談は止してくれ。俺に出来ない事なんて世の中には沢山あるだろ・・・いや、あって貰わないと困るぜ・・・」


 俺はそんな会話をキョウとしつつ食事を終える。

 そこでミャンレンが居ない事に遅ればせながら気づく。


「ミャンレンはどうしたんだ?」


「朝食を直ぐに食べ終えて鍛錬に。」


 どうやら俺の言った「三日後」を見据えて早々に鍛錬に励む事を決めた様だ。

 ミャンレンは相当に負けず嫌いである様子なのでしょうがない事なんだろう。


「鍛えるのも良いけど、程よく休むのも重要だからなぁ。やり過ぎには注意だって言っておくか。」


「あの子の事ですので、エンドウ殿からソレを言って聞かせてみても納得はしないかもしれませんね、今の心理状態では。」


「あー、そうかも?でもまあ、一応は言っておくのは損じゃ無いだろ?」


 朝食をゆっくりと食べ終わった俺はキョウと分かれて鍛錬場へ。


 そこでは大勢の門下生に囲まれて戦うミャンレンが。


「次!はー・・・はッ!よし!次!・・・たりゃ!・・・良し!もう一丁!次!・・・はぁ!」


 何と言うか、まあ、激しい戦いを繰り広げると言った感じでは無く、一人一人に対面してその相手へと一撃入れると言った形で次々に人を順番に入れ替えて戦うスタイルで鍛錬を行っている。


「あー、俺のあの「遊戯」を想定したやり方って感じか?付き合わされてるのも、アレは・・・やった事の有る門下生たち、だな?」


 俺の記憶が正しければ、そうである。恐らく彼らはミャンレンに頼まれてこの相手をしているんだろう。

 ミャンレンを円で囲って「次」と言う掛け声と共に前後左右ランダムで彼らはその手の棍での攻撃を仕掛けている。


 その攻撃を読んでミャンレンがそれにカウンターを当てている。と言った具合だ。


 コレは周囲への注意力と集中力を高めると言った目的などが有るんだろう。

 周りを囲む者たちの動き、その気配、動き出しなどの僅かな乱れを捉えてそれに即応すると言った修行方法なのかもしれない。


 俺は武術のド素人であるからこの光景にそんな妄想などしか思いつかない。


「もっと他の要素があったりする鍛錬なのかもしれないし?まあ、俺が何かと口を挟む事は止めようか。」


 当人のやる気が削がれる事程にダメな事は無い。

 ここで俺が何かと注意をしようとしたならば、もしかしたらもっとミャンレンが意地を張ってしまう可能性もあるのだ。


 俺はそこへと近づかずに遠くから見守る選択をしてその鍛錬風景を暫く眺めていた。

 恐らくは工夫をして、考えてこの様な方法を取っているのだとそう思って何も口出しはしない。


(昨日今日で直ぐに機関長が俺を呼ぶような事は無さそうだし。この国で他に何かしらやって無い事、見て回っていない所って、残りは何かあったかな?)


 そんな事を考えていると一人の人物の事を思い出す。


(ファロンは何を今してるのかね?俺の事を監視してるのか?それとも他に何処かに居て、俺の事など忘れてるか?魔力ソナーで調べて・・・いや、別に良いか。何か向こうから用事があれば接触して来るよな)


 俺を武侠組合に案内したあの後から姿を一切見ない。

 普段ファロンは何をしているのかと少々気になる所ではある。

 しかし積極的にこちらからファロンに接触しようと言った動きをする気は無い。


(ケンフュがどんな動きをして来るか分からねーからなぁ。ファロンに対してコンプレックス?を持ってるっぽかったからなぁ。余計な事はしない方がファロンもやり易い?まあ、そこら辺は俺の考える所じゃ無いか)


 どうにもケンフュにファロンの話は地雷らしかったし、これには余り関わらない方が良いのだろう。ケンフュはブラコン?

 これ以上の事を考えるのを止めて俺は鍛錬風景を眺めるのを止めて出かける事にした。


 とは言え、別にこの散歩に目的が有る訳じゃ無い。

 何か成し遂げなくてはいけない事も俺には無い。


「観光するだけじゃ飽き足らず、何かやろうと思い付きで動こうとするのは何時もの悪い癖だな。抑え気味にしてたつもりなのに、ちょっとソワソワして来た。うーん、我慢だ。俺はワーカーホリックじゃないぞ?」


 やり残した事は無いか?そんな事を脳内に思い浮かべて俺は気を紛らわす。


「あ、湖の主、残りの分の方の買取はして貰えるのか?まだもう少し時間が必要か?」


 引き取って貰ったのは頭だけ。まだ胴体の方が残っている。


 とは言え、まだあれから一週間も経っていないのでまだまだ捌き切れてはいないと思える。

 アレだけの物だ。売り先を決めるにも、買い手を探すにも、相当な手間と労力、それと時間が必要になるはずだ。


 だけども俺はここで武侠組合に経過を見に行く事にした。

 既に頭の分の金額はキャッシュカード?みたいなモノを受け取っているのでこの金で豪遊するのも良いのだが。


 ソレを後回しにして俺は何かと気になったそちらの状況を見に行く。


「・・・で、何事?」


 組合は大盛況だった。何が?と言われれば、商人たちで、である。

 組合の建物前の広場には人の群れ、群れ、群れ。まるでゴミの様だ?みたいな事になっていた。


 まさかとは思ったが、どうにも周囲の会話から聞こえて来るのはここが直接に競売会場になると言う話で。


「えー、マジか?タイミングがバッチリ・・・まあ、見学していこっかな?」


 俺が組合の中へと入ってみれば。本日のこの催しの為に組合の中はカウンター前だけでは無く、併設されていた酒場の方まで人の出入りやらが管理されていてそこら中に職員が何かしらの仕事で忙しく走り回っていた。


 あの湖の主の頭の骨の一部も壁際に飾られていてソレを商人たちだろう者がジッと睨んでいる。

 その一部と言えども巨大であることは変わりなく、今回の出品される品が本物であると言う事がこの場に来ている商人たちの目にも一目で解かる様にされている。


 組合の建物からその前に有る広場まで、全てを使ってのお祭り騒ぎの様になっていた。


「ケンフュは競売で一気に素材を纏めて売り飛ばす気でいたのか最初から?まあ、コレはコレで俺の気にする所じゃ無いか。でもなぁ?」


 競売制にするなら俺に前払いで全てを買い取ってしまうのではなく、競売での売り上げを終えてからの売却額を支払いにしておけばよかったのでは?と思ってしまう。


 幾らで売れるのかも分からないのに先に買取をしてしまっては、その額よりも競売での売り上げが予想よりも下がってしまえば赤字である。


 一言そこら辺の説明をしてくれれば俺だって売り上げの中から手数料などを支払って競売を組合に任せると言った事をしても良かったのだが。


 何かとケンフュもプライドと言ったモノがあったのか?

 はたまた競売の売上金が相当な高額になると踏んでの事であるのか?


 そこら辺はこの競売の結果を最後まで見て行けば明らかになるのだろう。


「とは言え、見物人も大量に集まっていて会場の周囲がヤベーくらいに人口密度・・・」


 おしくらまんじゅうなど甘い。満員電車「120%」と言える様な状態である。


 そんな状況で俺は魔法で姿を隠して空を飛び、組合施設内に入っているのでこの混雑は全く関係無かったりするのだが。


 広場の専用会場の部分だけはこの競売に参加する者たちだけの予約席である様でそこだけスカスカだった。


 まだ競売の開始時間は少し先である様でその予約席に座っている者たちの数は少ない。

 コレが時間になれば一気に椅子は埋まっていくのだろう。


 さてはてどんな盛り上がりを見せるのかと思って俺は余裕で空を飛んでいるままに会場全体を眺める。

 かなり上空から眺めてみれば専用会場裏手では競売に出される部位の順番などが決められている様で職員たちが台車をバタバタさせながら走り回っているのが見えた。


 そこにはケンフュの姿もある。陣頭指揮を執っているのだろう。あっちに向けて、こっちに向けてと指と腕をビシッと伸ばして職員たちへと指示を出している様子だった。


 俺はソレを他人事として眺めつつ競売の始まりを待つ。


「うーん?この人だかりだしな?盛り上がらない訳が無い。さてはて、どうなる事やら?」


 次第にスカスカだった予約席であろう方も埋まって来ている。

 俺はどの様な結果になるのかを最後まで見届ける気でその光景を空の上から眺めた。

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