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邪な風に振舞うには

「どう言う事?こいつら、殴り込み?」


 ミャンレンはそう俺へと向かって言う。


「いや、うーん?個人的に俺に対して恨みがある奴だな。そこの吠えてる奴がそうで、他の奴等は有象無象の兵隊さん、って所だな。俺一人に対して御大層にそんな数引き連れて来ちゃってまあ、意気地が無いなぁ。」


「この邪仙が!ボケた事を言いやがって!やるんだ!マーボル一家を舐めた事を後悔させろ!」


 どうやらこいつのバックに居るのが「マーボル」と言う名前らしい。

 一家と言うくらいだから相当な兵隊を抱えているんだろう。


 いわゆるマフィアと言う事になるのだろうか。


「あんたら、待ちなさいよ。彼はウチの道場の客人よ。それにここはウチの修練場。好き勝手にやらせる訳無いでしょ。」


 そう言ってミャンレンが俺へと一番乗りで襲い掛かって来ていた男を横から蹴り飛ばす。


「マーボルって言えばあの・・・」

「え?ミャン姉、ちょっと待った方が!」

「うん、こりゃ駄目だ。もう始まっちまった。俺たちはどうする?」

「ここで舐められたら終わりじゃね?だったらさぁ・・・」

「やるっきゃない、かぁ・・・姐さん突っ走るの早過ぎだよ・・・」


 こうして門下生たちも混じっての乱闘になりかけるのだが。


「はーい、そこで止まって。全員ね。」


 俺が魔力ソナーからの魔力固めでこの場の全員を拘束する。敵も味方も無い。


「はぇ!?ちょ!ちょっと!動けないんですけど!?私まで動けなくさせてどうするのよ!」


 ミャンレンはそう言って怒ってしまうのだが。


「いや、これは俺が受けるべきであって、何でミャンレンは事を余計に大きくしようとするのかって。ミャンレンがしゃしゃり出て来ちゃったら、この道場とマーボル?ってのの抗争って事に変わっちゃうだろ?何で俺とそこの坊やとの喧嘩だった物をそこまでの大事に発展させようとしちゃってんの?」


「いや、だってウチの食客でしょうに貴方は。だったらこいつらの好きな様にさせるのはウチのメンツにも関わるのよ?しかも無断での侵入でしょうにこいつらは!だったら叩き出されても文句は言え無いのよ?」


 真っ当な事を言っているのは分かる。この国ではミャンレンの言っている事が多分正しいのだろう。


「それでも俺は一言でも助けてくれなんて頼んで無いよ。それに、この程度の奴等に俺がやられるなんて事は無いって、ミャンレンなら分かるんじゃないのか?」


「・・・いや、まあ、そうだけどさ。」


 ここでやっとミャンレンが落ち着きを取り戻し始めた。

 さっきまで暴れていたからその興奮の勢いで参戦しようとしていたのだろう。


 ミャンレンの悪い所はこういった部分と言えるか。

 落ち着いていればしっかりと判断を付けられるようだが、しかしちょっとでも熱くなると見境が直ぐに無くなってしまいやすい、と。


 そんなミャンレンの事はさておき、俺は魔力固めで動けなくなっている者たちに近づく。


「えー、お前、確か俺の事をさっき邪仙、なんて言っていたよな?で、俺がもしそう言った存在だった場合、この後に何をすれば良いかを教えてくれないか?」


 動けないこいつらは俺のそんな質問に顔を青くさせ始めた。

 どんな想像をすればそんなにも血の気が顔から引くのか。俺にはサッパリ分からない。

 まあ自身の身体がどうあっても自分の意思で動かせなくなってしまっているのなら、その事に恐怖して顔も青褪めるか。


 さてここで俺は疑問だ。邪仙と言う存在はこの国ではどれ程に恐れられていると言うのか?

 そこら辺を俺は軽くミャンレンに聞いてみれば。


「ミャンレン、どうやら俺は邪仙らしいぞ?で、そんな奴って、何をしてこんなにも怖がられるんだ?」


「あー・・・そうねぇ。人を人と思わぬ所が恐れられてるのよ。」


「いや、全く分からんのだが?」


 ソレは要するにサイコパス、と言いたいのだろうか?ミャンレンの説明は曖昧で具体性が無く分からない。


「まあそうねぇ。いきなり何の罪も無い人を新しく作り出した術の実験台にする、って所かしら。」


「通り魔とか辻斬りとかそんな感じなのかな?うん?ああ、そうなるとこいつらは今俺の意思一つで煮るなり焼くなり蒸すなり磨り潰すなり、自由にできるよなぁ。」


 今の所はそんな事をする気は俺には無い。

 けれどもこの言葉で余計にマーボル一家だったか?その兵隊たちの顔からより一層血の気が引いて真っ白に。

 そこに響く一言。


「ちょっと!もう良いでしょ!解放してよコレ!」


「おっと、すまん。いや、もう暴れない?」


「はぁ~、暴れないわ。だからもうコレ解いてよ。」


 俺はちゃんとミャンレンから言質をとってから魔力固めを解除する。もちろん門下生たちの方の分もだ。


 動ける様になった門下生たちの顔も何故だか青かったのだが、気にしないでおく事とする。


「で、こいつら、どうしたら良いと思う?俺を見かけたら一目散に逃げ出す様にさせたいんだけど。」


 面倒な輩にこれからは絡まれ無い様にと思ってそんな思い付きを口にする俺だが。

 これにミャンレンが「いや、もうコレだけで充分じゃない?」などと呆れた感じでそう言ってくる。


 俺はこれに納得しないで続けてアイデアを求める為に言葉を続ける。


「いやー、元々がさ、そもそもこいつら五人で最初俺に突っかかって来てるんだぜ?まあ揶揄ってやったけどさ。ソレの報復とか、やって来たのがコイツ一人だぞ?後の四人どうした?ってなるじゃん?せめて来ちゃったこいつだけでも今しっかりと完璧に懲らしめてやらんと。他の四人ってのが反省して大人しいのか、別働で動いてるのかは知らんけどさ。」


「そ、そうだ!俺がもしやられでもすれば仲間が今の倍以上の戦力を連れてお前を討つぞ!」


「さっきまでの威勢が全く無いじゃん。まあ問題の早期解決はコッチとしても望む所なんだけど。」


 ここで男がいきなり声を上げてそう脅しを掛けて来たが、そこには何の迫力も無い。そいつの声はバッチリ震えているから。


 そして俺が何らの変化も見せずこれに「望む所」と返事をしたのだが。これに相手の方が余計に怯えてしまった。


「今の倍っつってもなぁ?六十?その千倍の兵士をけしかけられても返り討ちにするけど。」


 俺が追加で口にした言葉にミャンレンの方が反応して「えぇ・・・?」と困惑する始末。

 これを聞いていた門下生たちも。


「いや、常識考えてもろて・・・」

「何の冗談なんすかね?え?本気で言ってるのか?」

「六万?・・・いや、そんな数って、想像も出来ないんですが?」

「いやいや、撃退するって?そもそも万単位にどんな方法で?無理にも程がありません?」

「・・・あー、さっき俺たち動けなくなったじゃん?アレを大規模にすれば?」

「・・・え?それって無茶じゃ無い?・・・あれ?無茶でも無いの?お客人ってば何者!?」


 自由好き勝手に何やら言っているのだが。そこは完全にスルーである。一々返事はしない。

 俺の澄ました態度に門下生のその内の一人が「マジもんかよ・・・」とドン引きしているが、これも無視する。


「まあ取り合えず誰からも良い案が出なかったから俺の思い付きでいこうか。しっかりと恐怖を味わって貰ってから帰って貰おう。」


 誰からも案が出なかったと言った俺に対してまるでこの場の代表かの様にミャンレンが。


「え?本気で言ってたの?」


 とか言って来た。解せない。俺は最初からそう言っていたのに。


「ミャンレン、その剣かして貰っても良い?」


「・・・え?まあ、良いけど。変な事しないでよ?」


 俺はミャンレンから剣を受け取ってから。


「えー、変な事はするね。」


「ちょっと!?じゃあ返してよ!それ私のお気に入りなのよ!?」


「はいはい、じゃあちょっと借りるねー。」


 俺へと飛び掛かろうとしたミャンレンを魔力固めでほんの一瞬だけ動けなくさせてから躱す。

 それから俺はマーボル一家の兵隊たちの方に近づいて警告をする。


「あー、これから恐怖の体験をしたく無い奴は右手を上げて。特別に今右腕の方だけ解除したから。それじゃあ、はい、どうぞ。」


 アンケート結果は以下の通り。俺へと絡んで来た男以外の全員が手を上げて「イヤだ」と言う表明をして来た。


 俺はちゃんとしっかり全員の右腕だけを魔力固め解除している。この男だけ手を上げさせない、とか言った陰湿で意地の悪い虐めはしない。

 この場合はこの男の意思で右手を上げなかったのだ。


「じゃあ決定な。なに、殺しはしないよ。だけど、痛くて怖い目にはあって貰う。覚悟しておいてな。」


「な、何をする気だ!俺に何かあればマーボル一家が黙っちゃいな・・・」


「はいはい、それじゃあ、ブスリとな。」


「い・・・は?い、い、い、いってええええ!?うぐぅ・・・」


 俺はミャンレンから借りた剣をその男の腹のド真ん中に突き刺した。


「こ、殺すの?」


 ミャンレンがこれに驚いた声でそう言うのだが。


「いや、殺さないよ。だけどまあ、死にたくなる位には痛めつけるけどね。」


 俺はここで剣をずぶりとより深くゆっくりと刺し込む。

 これに男は剣がズブズブと自らの腹に沈み込んで行く感覚を覚えている事だろう。


「うぎぃ!?い、いだい!いだいいだいいだい!や、やめ!」


「じゃあ抜くぞ~。はい、じゃあまたズブズブ~。」


「うげごッ!?ななななん!何を!?フグッ!?」


「じゃあまたぬくぞー、そして今度は一気に!」


「おぎゃ!?ッふぐぇぇぇ・・・」


 完全に抜き切ったりせずに剣を引いたり入れたりを俺は繰り返す。


 しかしコレだけやっても男は意識を失ったり、死んだりもしない。ましてや血の一滴すら刺された部分からは滲み出てすらいない。


 まあそこは当然だ。俺が魔法でアレコレと「そうならない様に」してあるから。

 剣で刺されている部分は魔法で肉体も内臓も瞬時に修復。血も出させない。


 コイツには自分の体に剣が刺さって出し入れされる感覚を思う存分に感じるアトラクションを楽しんで貰う。


「はーい、じゃあ土手っ腹はここまでにしておくか。」


「・・・おげぇぇぇ・・・」


 苦痛でグロッキーになっている男。口からは涎が垂れ流しされてしまっている。


「今度は太ももな?」


「ひぃッ!?や!止め!」


「ずぶりとな。」


「うぎいい!?」


 此処でも同じ事を繰り返す。引いたり押したりと何度も何度も。


「それじゃあ休憩な。10秒。」


 剣を抜いてから俺はキッチリと十秒数えてから今度は男の脇腹に剣を刺す。


「ぶへぁ・・・お、おたす・・・け、た、たす、たすけて・・・」


「イヤだなぁ。助けてだなんて人聞きの悪い。俺はちゃんと言ったじゃ無いか。殺さないって。だから安心して思う存分この感触を楽しんで・・・いや、ソレは違うな。俺が飽きるまで付き合って貰うぞ。」


「そ、そんな・・・うごげッ!?」


 男の身体には傷など一切付いていない。俺が剣を抜く際には魔法で傷一つすら残さずに修復しながら抜くから。

 まるで幻、奇術の類でも見ているかの様に見える事だろう。

 けれども剣が刺された部分の服が裂けている事でソレが現実だと言う証明として残っている。


「うーん、ちょっとお前さっきから煩いから、今度は喉な?」


「ごぼぉッ!?おげッ!ぉげッ!」


「あ、喉に刺したら呼吸がヤバいか?ソレは違うな。でも、五往復くらいはやっておくか。」


「ぶへぇァ!?だず、だずけて、もう、や、やめ・・・」


 その後もあっちもこっちもと俺は剣を刺しては抜く。

 その内に男の反応が少々鈍くなってきた所で俺は止めておいた。


「それじゃあミャンレン、これ返すね?・・・あれ?何でドン引きしてんの?あ、汚れて無いか心配?血糊は一切付いて無いから安心してよ。」


「え?何でって、その理由が分からないの?どう言う神経してんの貴方・・・それと、心配なのはソコじゃ無いから。」


 ミャンレンが「うわぁ・・・」とおずおずと俺の手から剣を取って行く。

 因みに門下生の全員も顔色を青くさせてドン引きしていた。


 ふとそこで俺はマーボル一家の兵隊たちに視線を向けてみた。

 するとこっちはコッチで門下生たちとは比較するのが可哀そうな程の状態になっていた。


 血の気が完全に頭から引いているのか顔が真っ白になっている者やら。

 どうにも今の行為を見てショックが大きかったのか気絶している者までいた。


「うーむ?過激だったかな?いや、今後の事を考えればやり過ぎくらいが丁度良いか。いや、寧ろもっと過激にした方が?」


「今さっきの以上って、一体何をしようって言うの?こっちにも気を失いそうなのが居るから止めておいて。」


 ミャンレンからのツッコミをされて俺は思い止まった。

 門下生たちの数名が若干涙目なのを確認したので。


「いやー、剣をブッ刺すだけじゃ無くて、真っ二つに切り裂くとか?」


「・・・絶対に止めて。」


 剣で斬った先から魔法で修復、とかしたらさぞその光景は奇怪なものとなるだろう。

 いや、今回の事も奇怪と言えばそうなのだが。


 こうして案を口にしただけで門下生たちが瞬時に一気に五歩程離れる。余程俺に近寄りたく無くなったらしい。


「んー、それじゃあもう良いか。マーボル一家の皆さん、お疲れさまでした。どうぞお帰り下さい。」


 ここで俺は魔力固めを完全に解除した。

 するとさっきまで俺に加虐されていた男がバタリと倒れる。


「あー、こいつ邪魔だから皆さんで持って帰ってくださいね?」


 俺がそう言うと直ぐに倒れた男を数名が持ち上げてさっさと道場を出て行った。

 それに合わせてダッシュで逃げ出すマーボル一家の兵隊たち。


「これで終わりかね?親分さんが出て来たら、その時はその時で対処するか。」


「・・・絶対に後で来るわよね、それ。」


 フラグと言うモノだろうか?ミャンレンにそうツッコミを入れられて今日の所は鍛錬は御開きになってしまった。


 その日の寝る前にキョウが部屋にやって来て話をする。


「エンドウ殿、マーボルの所とやり合ったそうで?」


「いや、誤解だなソレは。」


「・・・まあ、そうですよね。貴方にとってはこの程度の事など些事以下でしょうから。」


「そもそも俺の方が寧ろ被害者だからね?そこはちゃんと言わせて貰うよ。やり合ったなんて大袈裟だ。」


「はぁ~、そうですね。向こうの者たちから一方的に絡まれたと聞いています。その後に面子からの逆恨み、殴り込み、返り討ち。これ以上無く痛い目を見させられたそうですね相手は。」


「痛い目は見させたけど、怪我もさせていなければ殺してもいないしな。コレで諦めてくれりゃ良いんだが。」


「いっその事死んだ方がマシだと言う目に遭わされたと耳にしていましたが。貴方からしてみればその程度の事と。憐れですね相手が。ですが。」


「うん?ですが?」


「マーボルは明日にでも動くと思いますよ?」


「え?メンドイ・・・」


 俺は物凄く嫌そうな顔を浮かべていたんだろう。キョウがこれに苦笑いをして続きを口にする。


「どんな手を使って来るかは分かりません。単純に武力で貴方を狙うか。或いは絡め手で縛り付けようとするか。或いはこの国に居られ無い様にと罠に嵌めて来るか。向こうはその手の事を生業として来た裏の組織です。その名は最近になって表にも出て来ています。どうやら光の当たらぬ所で仕事をし続ける事に飽きたらしい。名誉とやらが欲しくなった様で。強欲な事だ。そんな時にエンドウ殿にケチを付けられた、そんな状態でしょうから。奴らは絶対に諦めたりはしないと思いますね。」


「なーんだ。犯罪組織な訳ね。だったら最初っから根絶目指して動いてりゃ面倒も減らせたのか。打つ手を間違えたなぁ。」


 マーボル一家とは?の説明に俺がそんな感想を口にするとこれにキョウは苦笑いをしつつ。


「・・・本当にマーボルは憐れですね。可哀そうに。」


「うん、マーボルの件でキョウに頼る事が出来たら手を借りるのをお願いしても?」


「ええ、大丈夫ですよ。それではおやすみなさい。」


 こうして話は終わり俺は明日の事に思いを馳せながら寝る事にした。


「回りくどい事されるのが一番鬱陶しいんだけど、どうなる事やらなぁ。」


 そんな翌朝。別段これと言った変化も無くミャンレンに朝食の準備が出来たと言われて食堂へ。

 本日の朝飯は「餃子」っぽい何か。中の餡は野菜たっぷりで味付けもされていてそのまま食べる感じだ。因みに水餃子?である。


「はー、美味い。それで、ミャンレン、何かおかしな事とかはあったりした?」


「何も無さそうよ?それはまあ、あくまでもウチの道場には、って所だけど今の所。」


「じゃあこの後に攻め入られる事もあるかも?」


「ソレもあるかもね。でも、多分そうはならないんじゃない?」


「何で?」


 俺は食事をしつつミャンレンと会話を続ける。この俺の疑問にミャンレンが微妙な顔をしつつ。


「何でって、そりゃ昨日の事があるからでしょ?自覚、無いの?」


「あの程度の事で道場攻めは無いって言える方が楽観し過ぎだと思うんだけどな。」


「・・・あの程度って・・・」


 ミャンレンは俺のこの言葉にドン引きしている。俺は別に普通だと思ったが。


「いや、だって被害を受けたのは一人だけで、その他の奴等には一切手を出して無いし?」


「あんな光景を目にしたら普通は絶対に手を引くからね?」


「えー?そんなもんか?上からの命令で仕方なく抗争に参加させられるとかあるんじゃないの?」


「多分そんな命令を受けたら逃げ出すわよ。あの場に居た奴等だったらきっと。」


「生きていれば丸儲けって言葉があるんだけど。」


「心が死んじゃったらそんな言葉なんて無意味にも程があると思わない?」


「あー。そう言うのもあるか。じゃあ昨日のは?」


「分かってて言って無いその言葉?あーもう、私まで向こうの奴等の事を可哀そうだと思って来ちゃったわ・・・」


 ミャンレンに呆れられてしまった。まあ俺がそれだけ昨日の出来事にまるっきり関心が無くなっている事を悟られているんだろう。


 こうして朝食は終了。鍛錬場に向かう。

 そこでキョウが門下生たちに指導を行っていた。


「・・・ああ、お早うございますエンドウ殿。本日の御予定は?」


「うーん、別に何かある訳でも無いんだけどな。ブラブラ通りを散策にでも・・・あ、俺ってばウッカリしてたわ。」


「何を?」


 一緒に付いて来ていたミャンレンがそんな質問を飛ばしてきたが。


「ああ、そうなんだよ。昨日俺ってば全財産ばら撒いたからスッカラカン、無一文な事忘れてた。」


 昨日の一件、俺はおふざけで金を撒いてそのままだったので今は素寒貧なのである。


「は?何を言ってるの?・・・は?何馬鹿な事してるのよ・・・」


 カクカクシカジカとその際の事を説明すればミャンレンが呆れた顔して俺を見て来る。


「いやー、あの時は悪ノリしててなー。と言う訳で、本日はお金稼ぎかな。」


「いえ、必要なモノがあれば言って頂ければ私が用意しますよ?」


 キョウが金の事は気にするなと言ってくるが、コレは俺の安心の為でもある。


「ちゃんと俺一人でもしっかりと金銭を得ないとそこは駄目でしょ?世話になるって言ってもさ、そう言う所まで頼ってたら只の寄生虫みたいじゃない?」


「うっわ・・・寄生虫って嫌な言い方・・・貴方は命の恩人だからそんな言い方しないで欲しいんだけど・・・」


 ミャンレンが眉根を顰めて俺の口にした表現に抗議してくる。

 しかし俺からしてみればこの道場に金銭的な所まで縋りつく様な事はする気は無い。


「はいはい、良いじゃないそう言う事は。それじゃあ・・・うーん?ケンフュにでも話を持って行って良い稼ぎの仕事が無いか聞こうかな。」


 少々の苦手意識があるが、ケンフュなら何かと適度な仕事を見繕ってくれるだろうと思ってそんな事を口にする。すると。


「え?あの方と知り合いなの?」


 ミャンレンが驚いた感じでそんな事を聞いて来た。


「ああ、知り合い、だな?知り合いで良いんだよな?若干不安だけど。まあ、そう言う事。」


 これにキョウが「なら心配いりませんね」と言って見送ってくれる。

 俺は道場を出てそのままケンフュの所に顔を出す為に出発した。


 そして何故かこれに付いて来るミャンレン。


「で、どうして?」


「だって!ケンフュ様に会えるのよ!私も付いて行くに決まってるでしょ!」


「そんな事知らんわ。何で決まってるんだよ。訳分らねーよ。」


 ケンフュは有名人なのか、はたまたミャンレンが過剰にケンフュに対して憧れているだけなのか。

 取り合えず心配いらないと言っていたキョウは知り合いなのだと思うが。


 そうして通りを歩いていれば久々の例の建物に到着。

 かなり巨大であるこの施設は取引の為の商人だろう者たちやら、ここで働いているのであろう職員の姿が多く見受けられた。


「ダグは居たりするかな?いや、暫く遊んでいられる金が手元にあるって言ってたから来てはいないか。ここの仕事は自由って事だったし。うーん?あれからファロンは姿を現わさないし?どっかで今も俺の事を監視してるのかね?」


「え?ファロン様!ねえ!どうして貴方がファロン様の名を!?」


 ミャンレンがそこに食いついて来た。説明が難しい。


「いや、そこは面倒だから今説明する気無いけど?」


「えー!良いじゃない!教えてよ。どうして貴方がファロン様と?」


「もう到着したんだから中に入るよ?おいてくぞ?・・・あ、ケンフュ居るかな?」


 ファロンがどうにも有名人と言うのは前にも色々と聞いていた。なのでこのミャンレンの反応がどうにも「アイドル」の追っかけみたいに何となく見えた。


 さっさと施設の中に入る俺の後ろに付いて来るミャンレンはその見た目が場違いだ。


 周囲には武装した屈強な男たちばかりなのだ。目立つ。


(いや、俺も同じか、この格好じゃあ、なぁ)


 俺はそんな事を思いながら受付カウンター?の方へと歩き出すが。


「おおい、ここはお前みたいな奴が来るところじゃねえ。怖い目に遭いたく無けりゃその女を置いて何処かへ行きな。」


 俺はこの声掛けに「ヤバい」と咄嗟に思った。ソレはミャンレンが、である。


 俺はこの声を掛けて来た男を無視するか、或いは対応するかを迷った。

 あともうちょっとで目の前のケンフュの居るカウンターに届くのだ。


 だけど駄目だった。聞こえなかった振りをして無視して行こうとしたけれど。


「あんた、それって私たちを脅してるつもりなの?喧嘩売って来てるなら恥を掻く前に退散した方がそっちの身の為よ?」


 ミャンレンがコレを買ってしまったのだ先に。


 再び俺はこれに無視しようか悩んだ。悩んだのだが、ソレも一瞬。


「ミャンレン、ダメだよ。行こう。こう言うのは無視してしまえば良かったんだよ。俺たちの用事は直ぐそこだったんだ。そうやって頭に血が上り易いのがミャンレンの悪い所だぞ?」


「はぁ~、こういう場では舐められた方が負けなのよ?向こうがこっちを明らかに舐めて掛かって来てるんだからぶちのめした方が早いわ。それに、舐められっぱなしだと何時まで経ってもこういう馬鹿が付きまとって来て邪魔なだけなんだから。さっさと片づけるのが良いんだから。」


「逆恨みされて何時までも粘着される方が鬱陶しくないか?こんな下らない事で恨みを買っても何にもこっちの得にもならないぞ?」


「ここで息の根止めちゃえばいいのよ。もしくは今後に仕事が出来なくなる位に潰してしまえばそれで解決よ。」


「てめえら!何処までも舐め腐りやがって!「斧鉞」の俺様の事を知らんのか!」


 その男は手に斧と鉞で二刀流に構えて俺たちを怒鳴り散らして来た。


 だけどもここでミャンレンが。


「え?知る訳無いじゃない。ここ最近になって「二つ名」を貰ったの?もっと有名になりたくて詰まらない喧嘩を吹っ掛けて大声で宣伝したかったのならこっちに協力料払ってからにしなさよ。ケチ臭いわね。」


 ここでミャンレンが煽る。コレを聞いていた周囲の者たちがじわじわと笑い始める。


「いや、そう言うのは、なぁ?」

「いやいや、コレはコレでありだな・・・ぶふっ!」

「下らん方法だけど、うまく行きゃ確かに知れ渡るかもしれんけども・・・」

「器が小さいよな。相手にするのがあんな見た目の野郎とお嬢ちゃんだろ?そんなの相手にして名を売ろうと大声出すのって、なぁ?」

「逆にこれ、寧ろ恥かいてるだけじゃね?いや、面白いんだがなぁ?」

「いや、こいつ男の方を脅して女は置いてけって言ったんだぞ?義侠の風上にも置けない奴じゃん。笑うしかないだろコレは。」


 この嘲笑に男は耐えられなかったのだろう。顔真っ赤。そしておそらくは衝動的だったはず。

 その手に持つ武器を振り上げてミャンレンに対して振るってしまったのだった。

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