おいこいつらどうしてくれよう?
「舐める、ねぇ?死にてーのか、ねぇ?寧ろこっちが聞きたいよ。お前らみたいな奴等って、どうして人を襲う時に「もしかしたら返り討ちに遭うかも?」とか思ったりしないの?こっちの人数の方が多い、こっちは武器を持ってる、相手は弱そうな見た目で冴えない顔をしている・・・そうやって何かしらを理由にして「きっと対処できる」とか勘違いするのは止めておいた方が良いぞ?もしくは無条件に自分の事を「選ばれた人間だから死ぬなんて事はあり得ない」とか思っちゃってるのか?そんなに自分の「死」を想像した事が無いのか?全ての前提条件が間違ってた場合、お前らに全員、死ぬ可能性が目の前にぶら下がるんだぞ?自分の命を掛け金にして遊ぶ火遊びでそんなに夢中になって、いざその時が来ても後悔したって自業自得なんだぞ?笑い話にもなりゃしないんだからなその時には。身分も地位も名誉も関係無い、死ぬときは死ぬ。しかもそう言った時には何らの価値もその死に付かないで、だぞ?無意味に死ぬのがお前らの本望なのか?」
俺の説教にこいつらはキョトンとした顔になった。何にも理解してない。
「お前たちは何処の家のクソガキだよ?死んで悲しむ親は居るか?それとも家では構って貰え無いから外でこうして当たり散らして溜まった鬱憤を発散してんの?それとも本当に家族内で「落ちこぼれ」なんて言われてる出来損ないの集まりなのか?五人も集まっておいてやってる事が犯罪とか。真っ当に働いて小銭でも稼いでいりゃ可愛いモンなのに、詰まらねぇ事で自分の株を余計に下げてるってのが分かって無いのか?いや、分かって無いんだろ、その顔だと。だからお前らみたいなのを「使え無い」って言いうんだよ。・・・んん?俺の事を見下して来ていたクセに言いたい放題されて悔しがるのかよ?忍耐が足りねーな。心の小っちゃい奴。そんな意気が残ってるんだったらもっと真っ当に自分の「格」を上げるにはどうしたら良いかに頭を使えってんだよ。お前らみたいなのに一々絡まれるのって面倒臭いんだよこっちは。」
俺は言いたい事を言い終えてしまった。勢いで。
ここで言われた内容を理解し始めた五人は次第に怒りで顔を赤く染め始める。
「テメエに何が解かるってんだゴラァ!」
「その口を切り刻んでズタズタにしてやる!」
「全身の皮を剥いで大通りに吊るしてやんよぉ!」
「俺たちの後ろに誰が付いてるか知らんのかボケがぁ!」
「殺す殺す殺す殺す殺す!」
「・・・何だよ、全員図星かよ。そんでもって、背後に大物が付いてますって脅してくるの?知らんがな。俺はこの間にここに来たばかりで誰がどうの、彼がどうのとか全く知らんよ。お前らの背後に誰が居ようが関係無いしな。それと、自分たちは偉くありませんとか自白してるじゃん。凄いのはお前らを後援してる奴で、自分たちはその威を借りてるだけって自ら言ってるじゃん?情けないな。しかもその者の名前も出さないで、知らないのかとか言われても、知るはず無いしなあ?お前らの事だってそもそも知らんがな。前提が最初かっらお前らズレてんだよ。」
殺すと連呼していた五名の内の一人がここでその手の刃物を俺に向かって振り抜いてきた。
「は?」
だけどもそいつは呆けた顔をする。
しかしソレはしょうがない事だ。俺を切り裂くはずだったその刃物が半ばから折れているんだから。
ついでに。
「な!?何で上着が無くなってやがるんだ!?・・・へ?」
俺の手の中にはその切り掛かって来た奴の着ていた上着がある。
「い、何時の間に!?」
「お前らが襲い掛かって来た分だけ、着てる服を脱がしていってやるよ。最終的に真っ裸になった時にはそのまま大通りを歩かせてやる。さあ、引くか?それともまだやるか?」
魔法とは本当に何でもできてしまう。俺はインベントリを開いたのだ。
そして切り掛かって来た奴の上着にだけそっと触れる様に当てた。すると一瞬で「スッ」とその上着だけが吸い込まれたのだ。不思議過ぎる光景だ。
使っている俺自身が原理が全く分からない。困って良いやら、万能な使い勝手に喜んで良いやら。
そしてインベントリからソレを即引き出しただけ。コレが手品の全貌だ。
「ふ、ふざけるんじゃねえ!」
また一人別の奴が俺に切り掛かって来たが。
刃物は先程と同じく半ばから折って、そしてそいつのズボンを今度は消す訳で。
「な!?何じゃこりゃぁ!?どうなってるんだよ!?」
「お?下着丸出しだな。まだやるか?次からは面倒だから連帯責任でこの場の全員の服を剥いでくぞ?」
男の裸を見て喜ぶ趣味は無い。ストリップ何て事になればその内に諦めてくれるだろうと思ったのだが。
「お前ら全員で掛かるぞ!こんな奴の奇術に乗せられてビビってんじゃねぇ!」
リーダーらしい奴がそう叫んで気合を入れる様に叫ぶ。
これに呼応して全員が「お、おう!」と少々躊躇いがちにではあったが返事をする。
そして一斉に俺に切り掛かって来る。五人全員で俺を囲ってである。一気に片を付ける気らしかった。
「はい、じゃあ全員五枚ね。上着、ズボン、下着、で。靴もポイ。あ、靴は片方で一個で数えてやるよ。そうじゃ無いと不足が出るだろ?生皮剥ぐとか恐ろしい拷問はしないで済むだろこれなら。あ、不足出ちゃった奴は身に付けてる首飾りや腕輪で勘弁しといてあげるな?」
辛うじて全員がパンツ一丁になった。と言うか、俺がそう調整した。
何が悲しくて野郎の股間のイチモツを五人分も視界に入れなくてはならないのか?と言った所である。
こいつらも最後の尊厳だけは回避できてほっとしている事だろう。
ここで俺は全員が漏れ無く裸で刃物をその手にしている格好が何故かシュールに見えて吹き出してしまった。
「ぷふッ!面白いなお前ら。それで、その恰好でお前らの所属している組織の頭領に泣き付きに行くのか?説得力が半端無いな!」
バックに付いている人物が誰かなんて俺は知らん。
けれどもこいつらがその者にパンツ一丁で五人並んで訴えている光景を妄想して余計に笑ってしまった。
「ぷふッぷふ・・・アッハハハハハ!ヤバい!何か分からんけどツボに入った!めっちゃ笑う!」
俺が大笑いしている事を睨んでこられてもどうしようもない。
こいつらは今顔を真っ赤にして怒っているのか、羞恥で赤くしているのか分からない状態だろう。
ここで俺へと一撃でもいれるか、或いは服を取り返す事を優先するかを決めあぐねているのかもしれない。
俺の手からは既に服は無く、こいつらから巻き上げた衣類はインベントリの中だ。
俺はここでインベントリを上空に発生させてそこからこいつらの服をばら撒いた。
風はそこまで無かったので多少風に揺れつつも空から衣類がこいつらの側に降って来る。
「さて、じゃあな。俺はもう行くから。今からは心を入れ替えて真っ当に生きる様にガンバレ。」
慌てて自身の服の確保に走っている奴らをしり目に俺はこの場を離れる。
何時までもこいつらに絡まれ続けたりする気は無い。
こうして俺はこの寂れた通りを抜ける事に成功したのだが。
「今度はいきなり豪勢な屋敷。うん、かなりの迫力。」
通り抜けた先でこの目に入って来たのは中華風?の豪華な屋敷だった。
まさかここがさっきの五人の後ろに付いてると言う者の住んでいる屋敷なのかと思ったが。
「うん、別に俺はここに用事がある訳じゃ無いし、その確認をする気も無いんだから避けて通れば良いだけだな。」
誰が住んでるかなど今の俺には一切興味も無い。別にここに忍び込む用事など有る訳で無し。
そう言う訳でこの屋敷から離れる道の方へと足を向けて歩き出す。
不審者だと思われて警備の者に怪しまれて尋問を受けると言った事にはなりたくはない。
そうして歩き続ければ見知らぬ通りに出る。
しかし人気が感じられない。周りを見ると壁、壁、壁。
「・・・高級住宅街な感じの所に出ちゃったか?そうなるとあの寂れた場所とコッチじゃ通りを挟んで紙一重な距離?」
こんな場所を歩いても面白そうな物は見れそうにも無い。
なので俺は方向をザックリと決めて商店街があるんじゃないかと思う方向の道に向かって進む。
「・・・道に迷ったかな?遠くで騒いでる様な感じがあったからこっちの道を進んでたけど。空耳だったかな?」
俺は今極力魔力での五感強化のレベルを落としている。そうで無いと鋭敏になった感覚が何でもカンでも拾ってしまってやかましいから。
そんな状態で捉えた遠くに感じた賑わいを求めての方向転換だったのだが、どうにも景色が変わり映えが無く、道の分岐もそこそこに多く。
「道に迷ったね、こりゃ。さてさて、帰るにしても別に一瞬だからもっと迷子の気分を味わいますかね。」
最近はワープゲートも使っていない。使う必要と言うか、場面が無かったから。
とは言え別に無理に使うモノでも無いのでここで使ったりはしないのだが。
「迷子の気分って自分で言っておいて、一瞬で帰れる安心感があるから不安と言ったドキドキは全く感じられないんだがな。」
一人突っ込みをして苦笑いをしていると壁の向こうからキャッキャウフフな笑い声が。
「おー、女子会?お茶飲みながらお喋りを楽しんでるのかな。」
ここで会話内容に耳を傾けようとするのは流石に低俗過ぎるなと思って足早にそこから離れていく。
「可愛らしい女子に囲まれるとか、うーん?別にときめかないなぁ。枯れてるぜ。」
そんな場面を想像しても鼻の下など一ミリも伸びない。自分の性欲は何処に行った?とか一瞬思ったが、ソレを頭の隅に追いやる。
「花より団子?意味あってるか?使い方が間違ってる?何にせよ、今の俺にはどうやら欲情する対象が女じゃない、って事だな。」
心は以前とかなり変わった自覚がある。そして残っている部分もあると感じている。
この様に若返った身体になっているのだから性欲の一つや二つ、情欲の一つや二つ、と思ったが。
「うん、ワクワクした気分てのがここに来て一番最近だと・・・あの寂れた通りの時?」
この事実に俺は少しだけ頭を抱えたくなった。
だって「この通りを魔改造したらさぞかし賑やかな場所に」などと言った事を思いついた時の俺の浮かれ具合である。
ついさっきまで居た場所の事である。俺の性癖は何時何処で歪んだのか?とか思ってしまう。
「うん、戻ろう。こういう気分は体を動かして無心になって忘れるに限る。」
俺はここで道場に戻る事にした。
性欲と言った面で言えば、別に俺が男色な訳では無く、女性に対しては「異性」として見て接するのではなくて、一人の「人間」として接していると言った部分があるのが影響をしているのだと思われる。
それでも俺の心をときめかせてくれる女性が現れれば、どの様に自身が動くかは予想だにできないが。
「只今~。ちょっと修練場の隅っこ借りるよ~。」
俺は道場に戻って来るなりそう声を掛けて広場の隅に行って一人で型稽古をし始める。
別に誰に断るでも無くこの道場で俺は自由にしていても良いのであるが。
だからと言って誰にも一声も掛けずに一人黙々としているのはコミュニケーションが壊滅していると言っても良い。
なのでそう一言だけ発して俺は他の迷惑にならない様にと目立たない様にして型稽古を続ける。
そんな所にミャンレンがやって来た。そして呆れた感じでこう言ってくる。
「出かけていたんじゃなかったの?戻って来て早々に型稽古なんてし始めて。変よ?何かあったの?」
「いやー、鋭いね。何かあったんだよ。だからちょっとソレを忘れたくて無心になれるのは何かなって考えて今コレって事なんだよね。」
「だったらじゃあちょっと私との組み手の相手してよ。丁度私今から稽古を始める所だったのよね。どう?」
「ああ、まあいっか。んじゃ先ずは体をほぐしておきなよ。あ、もうやってあるって?」
「そう言う事。それじゃあ・・・行くわよ!」
その一言を発したと同時にミャンレンが俺のコメカミ狙っていきなりのハイキック。
俺はそこに手を入れて直撃を防ぐ。いきなりのご挨拶にちょっとびっくりさせられながら。
「こわァ・・・いきなりトバしてきて、ちょっとおじさんを脅し過ぎじゃないかな?」
「貴方の何処がおじさんだっていうの?若いじゃない。冗談はそれくらいにしておいて、そっちからも打ち込んで来ても良いのよ?」
「いや、俺は先ず受けるから、ミャンレンが動きたい様に動いてくれて良いぞ?」
「あら、余裕ぶってるけど。・・・いえ、余裕なのよね、本当に。なら、遠慮は要らないわよね!」
次にはミャンレンが様々な蹴りを俺へと放ってくる。
(あー、凄い。あっちにこっちにとまあ飛んだり跳ねたり俺をかく乱する目的もあるんだろうけど)
ジャンプして蹴って、そこから回転してまた後ろ回し蹴りと空中二段蹴りである。
と思ったら着地後には下段蹴りが迫り、その後は俺の腹を狙ってミドルキックと忙しい。
ソレが次々に上、下、中、と止まらず連続で放たれて俺はソレを受け止めている。
いや、受け止めていると言うか、食らっている?防ぐ事が出来るものは手で防いで、届かない、間に合わないなと思った攻撃は素直に蹴られるがままに。
そんな動き回っていたミャンレンが途中でピタリと止まる。
俺はこれに何をしようとしているのかジッとミャンレンを観察したのだが。
「・・・ふぅゥゥ~。はッ!」
ソレは多分ミャンレンの全力を込めた一撃だったのだと思う。
掌底を付き出して俺の腹を狙った中段攻撃。その迫る速度は別段遅くも無く、早くも無く。
コレを敢えて俺は食らってみた。直撃したその一撃にミャンレンがにやりとその顔を崩すのだが。
「なるほど。俺の防御はミャンレンの本気の一撃を食らってもビクともしないんだな。まあ結構力入れてる所あるし、コレで突破されてたら俺が困っちゃうんだけどね。」
「うそでしょ・・・?」
俺が纏う魔力の壁をミャンレンは突破できなかったと。
まあ自分が痛い目を見る気は一切無いのでワザと纏う魔力を解除して一撃食らう何てやりたいとは思わないので。
「ホント、どうなってるの貴方・・・頑丈、って言葉は通り過ぎて不気味・・・意味不明よ?」
「そこまで言う?酷い言い様だ。俺は別に痛い思い何てする気は無いから。誰だってそうじゃ無い?」
「ええ・・・何それ?」
「いや、魔力で体を覆ってるから、今の一撃はそれに受け止められたって事だよ。」
「うん?魔力?・・・ああ、仙術って事ね。はぁ~。私の全力はまだまだ力不足って事かぁ。」
どうやら理解してくれた様だ。とは言え、どうにもミャンレンはそこまで悔しがっている様子でも無い。
「今の私じゃ術を使われたら敵うはず無いわ。だけどソレを破る事が出来てこそ、超一流の武術家ってモノよね。」
「目指している所がどんな高みかは俺にはイマイチ想像できないけど。ミャンレンは一流って呼べる力量はあると思ったんだけど今ので俺は。」
「あら?褒めてくれて嬉しいけど。まだまだよ私は。父さんの様に仙術使いの防御を崩せる様になりたいわねいつか。」
「ふーん、じゃあ俺がそれに付き合ってあげようか?」
「・・・へ?どいう事?」
説明するより見せた方が早い。俺は青みがかった透明な壁を作り出す。もちろん魔法で。
「コレを殴ってみて。少し脆い位にしてあるから。」
「・・・えぇ・・・?」
ミャンレンはこれに困惑の表情。だけども俺が一言。
「コレが壊せ無かったらもうちょっと柔らかくするよ。取り合えずやってみたら?」
「ああ、そう言う事ね。なら・・・遠慮無くやらせて貰うわ。」
壊せ無かったら、この言葉にミャンレンはプライドを刺激された様で。
その場でジャンプして体をほぐすと構えを取って目の前の魔力障壁を睨んだ。
その後はすぐさま気合一閃。飛び蹴りを放つミャンレンだったが。
「・・・ッく!?こんっの!」
飛び蹴りは俺の魔力障壁を破壊できなかった。
なので着地後続け様にミャンレンがムキになって連続して攻撃を仕掛けるが。
「なんで!コレ!壊せないのよ!?少し脆いですって!?ドンダケよ!」
文句を言いつつも攻撃を止めないミャンレン。次第に熱を入れ始めて込める力が上がっていく。
そこでようやっと十数発目で障壁に罅が入る。ここで。
「こんんんんんのおおおおおおおお!」
思い切り叫んだミャンレンがこれでもかと言わんばかりに力を込めてその入っている罅へと後ろ回し蹴りをぶつけた。
ここでようやっと障壁は割れる。コレを見届けてミャンレンが軽く乱れた息を整え始めた。
「ふぅ・・・はぁ~、ふぅ・・・はぁ~・・・貴方ねぇ、何よコレ?」
「いや、何って言われても?あ、体に異常とかは出て無い?拳を痛めたりとかは?」
「無いわよ。心配ありがと。って、そうじゃ無いわ。貴方の「脆い」って感覚、間違ってない?コレじゃあ相当な力量の仙術師の作る障壁の硬さよ?どうなってんだか・・・」
「ミャンレンは以前に体験した事があるのか?・・・ああ、キョウの伝手で?」
「そう言う事。その時の私の実力と今じゃかなりの差があるけどね。あの時の経験は良く覚えてるわ。・・・ねえ、本気で今のをやると、どれ位になるの?」
「いや、知らん。やった事無い。あ、以前に一度あったか?」
しかし全力を意識して改めてやろうとはこれまでした事が無い。
なのでここで全力、と迄は言わないけれど相当な魔力を込めて障壁を出して見る事にした。
「じゃあコレで。出してみたけど、どうする?」
「え?・・・うーん、ちょっと待ってて。」
そう言ってミャンレンは家屋の方に消えていく。
何をしようとしているのか分からない俺は只待つ事しか出来ない。
と思ったらすぐにミャンレンは戻って来た。その手に剣を携えて。しかもどうにも練習用の木剣では無く、真剣だった。
「それじゃあ行くわよ?・・・はぁぁぁぁ~!」
障壁の大きさはちょっと大きめの窓くらい。俺の身長の高さで、横幅はざっと150cmくらいだ。
そこへミャンレンは華麗な剣捌きでガンガン障壁へと攻撃を仕掛けている。
いや、剣だけの攻撃だけじゃなく体術も混ぜて本気、全力で障壁を壊しに掛かっていた。
剣での一撃、拳での一撃、掌底での一撃、蹴りでの一撃、体当たりでの一撃などなど。
その全身を使って障壁を壊すと言った意思がその動きからありありと受け止められる。そんな必死さだ。
だけどそれでも障壁は崩れない。小さな傷跡一つ付かない。罅が入る何て以ての外と言った様子で何も変わらずにミャンレンの攻撃全てを受け止め続けている。
それでもミャンレンのペースは寧ろ上がるばかりで。
全力で攻撃し続けて脳内で良い感じで興奮作用の物質でもドバドバ出ているのかもしれない。
疲れ知らずとでも言わんばかりな連撃。その音を聞いていた離れていた者たちが自分たちの鍛練を止めてこちらの事を見学し始めた。
そうしているとミャンレンの動きが徐々に遅くなっていく。どうやら限界を超えてしまったらしい。
余りにも激しく力を込めながら動いた為に無酸素運動の様な状態になっていた様だ。
止めていた息を少しづつ吐き出しながらも連撃は続いていたのだが。
最後の最後を吐き出し切った後にはミャンレンの動きはピタリと止まってしまった。
その後に大きく息を吸ってから。
「・・・ぶはぁ!もーダメだぁ~・・・」
と言いながら地に大の字でぶっ倒れてしまった。どうやらお手上げと言った様だ。
「こんなのどうやって壊せって言うの?絶対に無理でしょ・・・」
「まあそう簡単に壊されたら、その時は俺も驚きだよ。そこそこしっかりと魔力込めたからな。それで、まだやる?」
「んん~?じゃあちょっと待って。おーい、みんなもやってみない?」
ミャンレンがそう声を掛けたのはさっきからこちらを見学していた者たち。
この声掛けにその全員がワラワラと集まって来る。
「これ、どうなってるんです?」
「おー、これ、全力でぶん殴って良いのか?」
「つか、薄っす!?え?髪の毛の厚さも無いぞ?」
「薄紙の厚さ以下?・・・有り得無くない?」
「仙術ってスゲーなー。こんな薄っぺらなのに、ミャン姉の攻撃を幾ら受けても壊せねーんだろ?」
「姐さんで壊せなかったんだ。なら俺たちが幾らぶっ叩いても壊れないんだろ?こりゃ安心だ。良い鍛錬になるぜ。」
「アンタがコレを出してるんだよな?不思議だなぁ。仙術ってのは奇妙奇天烈だ。」
「なあ?もっと大きいの出せないか?あ、出せる?え?しかも何枚も?へ?形も自由自在?」
俺は一人の門下生の口にした求めに応じて同じ魔力障壁を何枚も出す。そして円柱やら四角柱やら人型などを出して見せる。
するとさっきからずっとお喋りしていた門下生たちはこれに唖然とした顔をして黙ってしまった。
なのでコチラから促す。
「各々で勝手にやって良いぞ。足り無かったら幾らでも出すし。形を変えたかったら言ってくれりゃ直ぐ変えてやるよ。」
俺がそう言ったら誰もが顔を見合わせて誰も動き出さない。
そこで息を整えたミャンレンが。
「あたしはこの人型でやらせて貰うわね。」
そう言って一番乗りで動き出す。ここで俺は一言。
「休憩はもう良いのか?」
「こう見えても結構悔しいって思ってるのよね。だから、まだもうちょっと暴れたいの・・・よ!」
そう言ってかなり力を込めたハイキックが人型バージョンの魔力障壁・・・障壁?と言って良いのか分からないが、それにクリーンヒットする。
俺はここでちょっと面白がってその障壁を動かした。
この人型障壁は俺の魔力でできているのだから操作するのも簡単だ。
「え!?ちょっとコイツ!動くわよ!?」
ミャンレンはこれに驚きつつも直ぐに冷静になって対処し始めた。
俺がコレを動かすパターンはそこまで豊富でも無いし、素早くも無い。
あくまでも練習用であり、この修練場で鍛錬を積んでいた門下生たちの動きを真似して動かしているだけ。
「ああ、コレは面白いわ!対人戦と言えども手心を加えたりするのが普通だし。全力でぶっ叩けるのはいい経験になるわね!」
ミャンレンは今その手に剣を持ったまま。そして遠慮も何も無く障壁へと斬り掛かっている。
「まともに斬撃が入ってるのに反撃されるのって滅茶苦茶やり難いわ!けど!コレはコレで!」
肉を切らせて骨を断つ、などと言った言葉があるのだ。
実戦では剣で斬られた相手が相打ち狙いで動いて来るとも限らない。
そうした時に油断しない経験と言うのは多分あって困るモノでは無いだろう。
今ここでそう言った一見無駄かもしれない体験はしておいても損は無い。
ミャンレンがそう言ってバンバンと動き続ける事で他の門下生たちも釣られてそれぞれ目の前にあった障壁へと攻撃をし始めた。
「まあ食客と言えども、寝食を提供されてるんだからソレの還元も多少はしないとな。」
ここで俺も型稽古の続きをする。
この程度の事なら別に意識を障壁の方に向けていなくても維持し続ける事は簡単だ。
俺は俺のしたい事をして、門下生たちも各々で好きな様にすればいい。
こうして時間を忘れて体を動かしていたらお客様がやって来て。
「やっと見つけたぞ!よくも俺たちに恥を掻かせやがったな!」
鍛錬場に響いたその声には聞き覚えがあった。しかもソレはついさっきと言える程の前。
ソイツの背後には三十名もの武器をその手に持った集団が居て。
「あ、パンツ一丁だ。そいえば俺がばら撒いた金、ちゃんと拾った?恵んでやったんだからしっかりと有効活用しないと許さないぞ?」
「何を勝手にふざけた事を・・・!」
怒りでそいつは顔真っ赤。そう、あの下着一枚にしてやった奴らの中の一人だったソイツは。
「ん?どうした?他の奴は一緒じゃ無いのか?あ、もしかして仲間外れにされたのか?可愛そうに・・・」
「おちょくるのも大概にしろ!この数が見えねーのか!ズタボロの屑肉にしてやるから覚悟しろ!今更謝ってもぜってー許さねえ!」
その男は俺に対して「殺す」を連呼して来ていた奴だった。