習うより慣れろ?そんな無茶な、とまでは言え無い。経験回数、試行回数は大事
連休に連続投稿。
本日10日から18日まで。
そんな酒盛りも夜まで続いてどんちゃん騒ぎ。俺は途中で退席させて貰って就寝。
そして翌日の朝。サッパリとした気分、とまではいかずともそこそこに目覚めは良かった。
昨日の酒は透き通っていて口当たりが甘く飲みやすかった。恐らくは相当に高い酒だったと思う。
「そこそこ楽しかったな。料理も美味しかったし、良い酒も飲めて、うん、悪くは無かった。」
グッと背伸びをして部屋を出れば聞こえて来る鍛錬している門下生たちの気合の入った声。
「あー、張り切ってるなあ。俺もここで型稽古を習ったらそれなりに格好良くバシッと正拳突きとかできる様になるのかね?」
俺には魔法があるので自分の身を護る為の武術と言うモノは必要は無い。
しかしやはりこうして道場の食客としてここに居るのだから一手くらいは教わってみても良いかもと思ってしまう。
「じゃあ教えてあげようか?」
そこに現れたのはミャンレンだった。どうやら俺のさっきの言葉が聞こえていたらしい。
「朝食の用意が出来てるわ。それとも二日酔い?水を飲んでまた寝る?」
「いや、食事を貰おうかな。で、教えてくれるのか?」
「え?ああ、簡単な基礎なら私でも教えられるわ。食べた後にでも軽い運動がてらやってみる?」
「ああ、そうさせて貰おうかな。」
「この程度じゃ恩を返した内には入れられ無いわ。どう?何かもっとして欲しい事とか無いかしら?」
「・・・うん?恩返し?」
「貴方ねぇ・・・私を助けてくれたじゃない。その恩返しよ。私にできる事なら何でも言ってくれて良いのよ?」
「え?別に要らない・・・」
「ちょ!どう言う意味よソレ!?」
そんなじゃれ合いをしつつも食堂に入って俺はテーブルに既に出されて準備されていた食事を頂く。
マーボーナスみたいな料理と香草たっぷりの白濁したスープが今日の朝食となった。
食事をしつつ俺はミャンレンにキョウの事を聞いてみた。
「うん、美味い。それで、キョウはどうしてるんだ?」
「父さんはまた朝早くに出かけて行ったわ。昨日の件での事で多分色々と役所に申請する為ね。」
その申請とやらの中身がどんな内容なのかと言った事は詳しくは聞かない。俺には関係無い事だどうせ。
既に「暴龍」の件は俺の中でもう終わっている。これ以上の事に関わる気は無いし、その後、と言った情報も知る気も無い。
後は全部キョウがそう言った役所への書類処理などは片づけるのだから、そこに俺の出る幕はそもそも無い。
取り合えず俺のこれからの予定は特に無いので一日と言う時間をたっぷりと掛けてミャンレンから教えて貰う型を習得するのが良いだろう。
食事を終えた俺は少々の食休みを貰って時間を空けてから鍛錬場に向かう。
到着してみればそこにはダグの姿があった。
「おうエンドウ!とびっきりの所に連れて行ってやるよ!」
「遠慮する。今日はミャンレンに型を教えて貰う事になったから。」
「あぁぁん?どう言うこったよ?」
ダグは誘いを断られた事でちょっとだけ「え?」と言った顔になってから眉根を顰めてそう凄んで来たので俺は言い返した。
「ダグ、そもそも俺の監視はもう契約解除でしなくても良くなったんだろ?なら来なくても良いんじゃね?」
俺への監視と言う仕事は既に取り下げられてダグはそれまでの分の報酬はもう受け取っているはずだ。
だから今日は俺はダグは来ないだろうなと思っていたのだ。
「おいおい、別にそこは俺の自由だろうが。確かにケンフュからの指名依頼は切られちまったけどよ。俺とお前の仲だろ?遊びに誘うのは別に構わんだろうが。」
ダグの言う事には別に間違いは無いのだが、しかしそこにはダグの勝手しか無く、こっちの都合などは考えてもいない。
「あー、言ってる事は真っ当だな。けど、俺の都合とか、我儘とか、気持ちとか考えて無いよねソコ。俺だって気まぐれでやりたい事が出来たりしてダグの誘いに乗ら無い時もあるって事だ。」
今朝に起きて思い付いた事である、型を習ってみると言うのは。
ダグに誘われたら必ずそれに付いて行かねばならない訳じゃ無い。
だから俺は今日と言う一日を型稽古に使う気でいる。
「おいおい、お前は例のアレがあるだろうが?必要ねーだろ、型なんてよ。しかも、ミャンから習うってか?だったら俺と実戦形式でやり合った方がよっぽど有意義だぞ?」
例のアレとは魔法の事だろう。この国では「仙術」と呼ばれる。
ソレが使えれば敵を千切っては投げ、千切っては投げできるだろうと。型を覚える何て事をせずとも良いだろうと言いたいのだダグは。
ここでダグの言葉にミャンレンが怒りながら言い返す。
「ちょっと!このクソ爺!私の事を馬鹿にすんのかゴラァ!?」
「まだまだケツに殻が付いてるピヨピヨちゃんには人に教える何てのはまだ早いっての。」
こんなやり取りは別段珍しい光景と言うのでも無いのか、鍛錬をしている門下生たちはこの二人の漫才には何も反応などは無しである。
「じゃあダグ、俺の型稽古に付き合ってくれよ。ミャンレンに対して教える立場にゃ早いって言うなら、ダグが教えてくれても良いよ?」
俺のこの言葉にダグが即座に「うへぇ」といった嫌そうな表情を見せた後に言う。
「そんな面白く無さそうな面倒な事は御免だぜ。分かった分かった。今日は退散させて貰うとするぜ。」
「ダグ、稼がなくても良いのか?仕事しろよ。」
「たっぷり報酬を得たからな。暫くはコレで遊び倒すんだよ。んじゃまたな。」
ダグはそう言って早々に退散していった。俺に型を教えるのを相当に面倒臭いと感じたのだろう。
遊びに誘うのをすんなりと諦めて道場を出て行く。
その後ろ姿にミャンレンが「もう二度と来るな!」と吐き捨てていた。
ダグに対して怒りを吐き出したミャンレンは一度大きく深呼吸をすると改めてこちらに向き直る。
「じゃあやりましょ!基本の基本、基礎の基礎、先ずは構えからね。」
そうしてミャンレンが構えを取るので俺はソレを真似してみる。
「あら?・・・ちょっと貴方、一発で良い感じとか、指導の一つも出来ないじゃないコレじゃあ。」
俺はしっかりと意識してミャンレンの取る「構え」を真似したので表面上はしっかりとした見た目にはなっているだろう。
けれどもこの後だ。大事なのは。
「じゃあここから先ずは「一の動」ね。良く見ていて。・・・ハッ!」
ソレは単純に腕を高速で突き出す動きではあったが、体幹はブレないし、その拳の動き出しも滑らかで瞬間的であり、ある意味で美しい一撃だった。
拳を引き戻す速度も一瞬であり、最初の状態と一切ブレなど無く元の構えに戻っている所が凄い。
「どう?単純にして基礎よ?ここから「二の動」「三の動」と言った感じで「攻の基礎」ってのがあるの。まあ達人になればより小さい動作で大きな威力を発揮できる様になるわ。その奥義は体全体の「連動」が重要になって来る所でね?コレを修めるのに才能の無い者では毎日一日中修行しても三十年は掛かるって言われてるのよ。因みに私は、まだまだ全身を使っての「連動」させての一撃ってのには程遠いのよね。」
全身では無く一部でなら出来ていると言う事なのだろう。そうなるとミャンレンは才能があると言う事だ。
これに「自慢か?」と一瞬思ったが、しかしミャンレンは「ドヤ顔」などはしていない。本当に自然な表情である。他を気にしてはいないんだろうこの分であれば。
自分の才能をひけらかしていると言った感覚は無いと見られた。
「うーん?才能が無いと三十年ねぇ。俺は多分その才能無しってのだと思うよ自分で。うん、今日は構えと「一の動」ってのを自分なりに納得いくまでやろうかな。ありがとうミャンレン。」
「ちょっと、それじゃあ私が教える事がもう何も無いって事でしょ?「二の動」と「三の動」も出来る様になっておきなさいよ。」
「いや、要らないかな。」
「ちょっと何でよ!?」
俺が頑なに「一の動」以外を遠慮するのでミャンレンがこれに呆れた感じで言う。
「もう、何なの一体・・・まあ良いわ。取り合えず構えの方で一つだけ指摘する所があるわ。重心がちょっとズレてるのよね。もうちょっと下、うーん、そうねぇ・・・お腹の中心に重りが入っている所を想像して。そこが中心なのよ。動く際にはその中心がガタガタと雑に動いちゃダメで。とは言っても攻撃するのに動きはするでしょ?でもその芯が滑らかに動く様じゃ無きゃいけなくて、元に戻った際にはピタッと止め無きゃダメ。あー、言葉にして説明しようとすると難しいわねぇ・・・」
身体を動かす事の言語化は結構難しい。余りにも長々とした説明になると分かり難くなるし。事細か過ぎても頭の中に入って来ない。
そうは言っても「ずばーん!」とか「シュババババ!」みたいな擬音で表されてもソレを聞く側は「分からんわ」となる。
説明する側とソレを聞く側の互いの感性とかもこういう時は結構重要である。
ザックリと言えば「バランスが大事」と言う所か。
「取り合えずゆっくりと一回一回動くからさ。ミャンレンはその都度何処か悪かった点があったら指摘してくれ。細かく、小さくても良い。何度も修正していく覚悟はある。」
「そこまで言うのなら、先ずはやってみましょうか。」
こうして俺はミャンレンからの指導を受けて「一の動」の修行を開始した。
一回一回本当にゆっくりと、俺は動作を確認する様に動く。
その為に時間的な面で見て回数を熟す事はできない。
しかしそうやって毎度の事にミャンレンが指摘を入れて来てソレを修正しつつ次に移るのでその密度と言うか、濃度と言った部分においては高い修行を出来ていると思う。
そうやって修正をしつつも段々と一回の動きの速度を上げて行く。
余りにもゆっくりと動くだけではダメだ。拳の撃ち出し速度を次第に上げていって「通用」する様に整えていかねばならない。
俺は舞踏を習っている訳では無い。コレは武術だ。
こちらの繰り出す攻撃のスピードが余りにも遅かったら相手に簡単に避けられてしまう。
動きの確認をするだけならば緩慢な速度でも良いが、コレを敵に対して当てようと思ったら素早く一連の動作をできなくちゃならないのだから。
そして当てるだけではダメだ。その一撃に相手を撃沈できる威力が乗っていなくちゃ意味が無い。
まあそもそも当てる技術も必要だから、そう言った面ではどんな時でも臨機応変に体勢を変えつつも、しっかりと「一の動」が放てる様になるまでは相当な修練が必要になるのだろうけれども。
こうして俺は集中力を発揮してずっと「一の動」を繰り返し続けた。
身体の「連動」と言う部分もしっかりと考えつつ、関節や筋肉の動きも気にしながら丹念に拳を撃ち出し続ける。
最初は自分の身体の動きを解り易く受け止める為に大きく、派手に動く。
これに慣れて来たらその動きを次第に小さく、地味なものへと整えていく。
そうしている内に周囲の音が聞こえない位に、周囲の事が気にならない位に集中していたらしく。
「ちょっと!何時までやってんのよ!もう夕方よ!」
ミャンレンのこの大声で俺はハッと気が付いた。
「・・・え?もう?時間が経つのが早かったなぁ。」
「はぁ~・・・もう何も言え無い位に呆れるわ。ずっとあれから同じ動きを繰り返し続けてたの?本当におかしいわ、貴方。」
ミャンレンが昼頃に「教える事が無くなった」と言って俺への指導を止めて昼食を摂りに行った事は覚えている。
その時に俺へと「好い加減に休憩を入れたら?」と言われていたが、これには「あともうちょっと」と返している。
その際に「適度に切り上げなさいよ」などと言った内容の事をミャンレンから注意されていたと思うが、ちょっと記憶が曖昧だ。それ程にその時くらいから集中力はかなりアゲアゲになっていたと思われる。
ソレで夕方と言う訳だ。これ程に周りの事が見えなくなったのは久しぶりだ。
「夕食、食べるでしょ?さっさと食堂に来なさいよね。何時までも片づけられないんだから。全くこんな時間まで夢中になってどう言う事?時間を忘れる程熱中して、そんなに楽しかったの?」
「いや、楽しいって感じじゃ無かったな。夢中になったのは確かだけど。熱中と言うか、冷静に自分の身体の動きを隅々まで確認していたと言うか、何と言うか?」
「はぁ~、一体何を言ってるのよ?・・・いや、でも、分からないでもない、か。」
溜息を吐いたりして呆れた様子を見せたミャンレンだが。
どうやらミャンレンも俺と同じ様な感覚を持った事がある様で次にはそんな風に納得している。
さて、こうして一日中動いていても俺は魔法の力で以ってして汗の一つも掻いてはいない。
なのでこのまま夕食を食べてからそのまま就寝。良く運動した事で即座に眠りに落ちてグッスリだ。
そんな日の翌朝はバッチリと目覚めが最高だった。
「うーん!こうしてたまにはキッチリと適度な運動をした方が心の方にも良い影響があるんだろうなぁ。凄く晴れやかな気分だ。」
そんな気分で起き上がって部屋から出て朝日を浴びる。
その時にふと思う事があった。
「こんなに気持ちの良い朝をより一層にスカッとする気分にする方法は無いだろうか?」
そして俺はビビッと来た。そう、風呂だ。朝風呂である。これ程に贅沢な時間の使い方は無いだろう。
昨日は魔法の力で汗を掻かなかったとは言え、アレだけの運動をしているのだから気分的には一ッ風呂浴びていた方が気持ちが良かったかもしれない。
「なら、思いついたらやるべきだな。とは言え、どうするかな?凄く景色の良い場所で露天風呂とかしたい。・・・そう言えば近くにちょっと高い山があった様な?」
すぐさま俺は周辺の地理を確認する為に空へと飛ぶ。
この際にはミャンレンやキョウなどは来ておらず、空を飛ぶ俺の姿を見ている者は運良く居なかった。
魔法での光学迷彩で姿を消しておくのをすっかりと忘れていた俺はそのままぐるりと辺りを見回して目に入った山の天辺に向けて一気に飛ぶ。
久しぶりにこの様にして高速で飛行した爽やかさがより一層にテンションを上げる。
そうして山の頂、何も無い所に到達。そこへと魔法で作り出した風呂に、これまた魔法で出す湯を這ってそこへと一気に服を脱いでマッパでドボン。
「ぐッ・・・くぅ~ぅぅぅ・・・あぁぁぁ~・・・痺れるぅぅぅぅぅ~。」
少々熱めの湯に一気に入った事で感じる体表面の痺れに俺は思わずと言った唸り声を上げてしまう。
「あー、最高だこの眺めを見つつ風呂とか。・・・こんな事いきなりやるなんて、俺って自分で分からない内にストレスでも溜め込んでたのかな・・・」
自分を見つめ直したりしてボーっとする時間を作る。
色々と思う所はあるが、別段この国に不満と言ったモノは無いはずだ。
充分以上に楽しめていると言う自覚はある。あるが。
「もうちょっと自由に歩き回りたいって感じだったかな。いきなりケンフュに目の敵みたいな扱いを受けてたからなぁ。そのせいで知らぬ間にジワジワとストレスが溜まったか?」
しかしもうソレは止まったと見て良いはず。ケンフュがダグへと指名依頼で出した俺への監視はもう取り下げられている。
「一応は信用して貰えたって事なんだろうけどな。でもここで俺が派手に何かやらかしたら、元に戻るんだろ?」
別に俺はこの国で問題を起そうとやって来た訳じゃ無い。
だから派手にやらかす気なんて早々無いのだが。
「それでも何があるか分からないってのが人生だしなぁ。あー、そろそろ出るか。良い湯だったな。」
こんな山頂に誰が来る訳も無い。俺は湯も風呂も片づけてパパッと服を着る。
「戻ったら俺がいきなり消えた事の言い訳どうしよう?・・・まあいっか。」
別に俺は謝らねばならない事など何も無い。悪い事もしていない。
まだこの風呂に入っていた時間なら朝食をずっと放置していたと言った事にもならない程度だ。
今日は何をして過ごそうかと考えながら俺は道場へと戻った。
そうして戻ればキョウが俺の部屋の前で立っていた。
姿を隠し忘れていた俺はすっかりと風呂での事で上機嫌で。
「キョウ、おはよう。今日の朝食は何だい?」
「・・・いやはや、仙術を扱えるのは分かっていたんですが。空も自在に飛行する事が?」
「おっと?これは周囲には言い触らさないでくれよ?とは言え、ちょっと俺自身の自重が無くなって来てるな。危ない兆候かな?反省しないと駄目だなぁ。」
「何処に、行っていたかは聞かないでおきましょう。特にこの国に深く影響が出る様な真似は為さっていないのでしょう?ならば構いませんので。」
俺が起きてから今まで何をしていたかを確認はするつもりはキョウは無い様だった。そのまま食堂へと俺を誘う。
本日の朝食は豚の角煮の様な料理と生野菜のサラダ。それとあっさりとしているが旨味の濃いスープ。これには何が材料になっているのか俺には分からない。
「さて、エンドウ殿。本日の予定は何か考えてありますか?」
食事をしつつキョウがそんな事を聞いて来た。だけども別段これと言った事は考えていない俺は首を横に振りつつ食事を続ける。
そのままキョウは話の続きをし始めた。
「ならば行ってみてください。千年機関から招待状がエンドウ殿へと来ました。こちらを。」
そう言ってキョウが懐から取り出したのは美しく折り畳まれた書状だった。
使われている紙は和紙の様に綺麗で透き通っていてその表面には「招待」とだけ書かれている。
一応はこの国の使用されている文字も既に覚えた。コレを受け取って中を読んで行くと。
「ああ、そうか。エルーが話を通したのかな?だったら行ってみるか。」
こうして俺の予定は決まった。ついこの間にダグに連れて行って貰ったあの施設である。
四方を高い塀壁に囲まれていて何処にも内部に入る門が無かったあの場所だ。
確か正式な入り方があるとダグは言っていた。
こうして招待状が俺に届けられたのだから行けば何かわかるかもしれない。
さて、そんなダグだが。昨日の事もあってかダグは本日の朝は道場にやって来なかった。別にダグが来ようが来まいがどちらでも良いのだが。
もう俺はその「千年機関」?とやらの施設までの道は覚えている。一人で歩いても別に道には迷わ無い。
そうしてその場所へと向かう途中で何者かに付けられている事を俺は察した。
余りにもタイミングがアレ過ぎるのでもしかしなくても「千年機関」とやらの差し金かなと考えた。
この後はワザと人気の無い道に入ってその追跡者が俺の側へと近づき易い様にと誘導する動きを取った。
(まさかスパイ映画か、或いはアニメ何かの様な事をするとはなぁ)
とか思いながら人気の全く無い路地へと入った所で俺は背後に振り向いて言う。
「もうここなら良いだろ?姿が見えないと会話もしずらいし。何で俺を付けているのかを教えてくれないか?」
反応は無い。しかし俺の発した魔力ソナーには直ぐ近くの曲がり角にその追跡者が三名居るのが分かっていた。
「問答無用で攻撃しても良いか?バレてるぞ?会話をする気が無いなら敵意があると見做してこちらから先制攻撃を仕掛けるけど?」
追跡がバレていると分かった時点で逃げ出すか、或いは姿を見せてこちらの動きを制すると言った事をするべきだ。
向こうからしても嘘か真かその判断は付かなくても、俺が会話を所望しているのだからその要求に沿った行動をした方が牽制になるはずである。
ここで観念したのか一人の女性が姿を見せる為に俺の前に出て来た。
「機嫌を悪くしてしまったのなら謝ります。攻撃は無しにして欲しいですね。」
「なら教えてくれるか?何用なんだ?口から出まかせでも良いから納得いく理由を聞かせて貰えると良いんだが?」
「招待状を受けた貴方がちゃんと我々の所に辿り着けるか否かを確認の為にこうして後を付けていました。」
どうやら俺の力量とやらを計る為に招待状だけ送って来たらしい。
俺がその施設に一人で辿り着けない位に能力が低ければ「資格無し」と放っておくつもりだったのだろう。
こうして案内人などを寄越すのでは無く、こんな追跡者を出して来たと言った所にその「千年機関」とやらの性根の捻じ曲がった所が見え隠れ、窺える。
そして俺の前に現れたのが女性と言う点もその性格の悪さが滲み出ている様に受け止められる。
女と言う性別であれば攻撃を躊躇うのではないか?と言った考えが薄ら透けて見える。
この女性のエージェント、その上司らしい残り二人の男の追跡者はずっと曲がり角に隠れたままだ。
そう、そこまで既に俺の魔力ソナーは調べ切っている。
こいつらに少々馬鹿にされた気分にちょっとなったのだが、もう少しだけ冷静さを保つ様に努めて俺は会話を続ける。
「そんなにそこに辿り着くのは難しいのか?ならお邪魔するのは無理かもなぁ。この間にダグに連れて行って貰ったあの塀壁には何処にも入り口が無かったしな。勝手にソレを乗り越えて入るのは流石に無しだろ?」
俺のこの発言に鼻で「ふッ」と一笑して来たその女。どうやら俺の事を「その程度か」と勘違いしたらしい。
こんな下らない駆け引きでまともに相手の言葉を信じるなどどうかしている。経験が浅過ぎると言っても過言じゃ無い。
どうにも世間とは関係をずっと断ってこれまで過ごして来たんだなと分かってしまう。中身が幼稚に過ぎる。
そして俺がダグと一緒についこの間にあの場所を散歩していた事もこの分だと向こうは把握している。
澄ました様子で俺と対峙しているこの女のメッキはもう剝がれたも同然だ。相手にする価値も無いと俺は判断してしまった。
「すまないな。そんな訳で案内を頼みたいんだが?こんな招待状を出したくらいだ。それくらいはやってくれるんだろ?」
俺を追跡して後を付けるなどと言う手間を取るくらいなのだ。案内くらいはして欲しい所である。
寧ろ最初から案内をこちらに寄越して連れて行ってくれた方が楽だったはずだ。寧ろ何でソレをしてくれないのかと疑問である。
そうしてくれていれば、俺もここまでその「千年機関」とやらに落胆しないで済んだ。
「ふふ、ソレは出来ないですね。コレは試練ですから。栄誉ある千年機関に所属したくば自身の身のみで解決して頂かなくては。」
「そうか、上から目線か。どうと言う事も無い機関なんだな。馬鹿馬鹿しくなってきた。勘違いも甚だしいとはこの事か。そっちは俺がその機関にどうしても入りたいんだと、そう断じてるんだな。呆れた。」
「・・・何を言っているのです?この国で仙術を学ぶ、使える物は誰しもがその名を我が機関に連ねたいと必死になるのですよ?その栄華を受けたいと願うのならば・・・」
眉根を顰めて俺の言葉を聞いた女は少々の不機嫌に。
だけども俺は女の言葉に被せて続けて言う。
「くだらない。つまらない。どんな奴らの集まりなのかと思えば、只の高慢な奴等の集まりって事か。俺は「招待状」を貰ったんだ。だから、行ってやっても良いかと思ってこうして尋ねようと足を運ぼうとしたんだが?お前たちから招いておいて、案内など出さずに試練?解決?栄誉に栄華?辿り着けなかったら、なんだって?礼儀も何も無いじゃないかコレじゃあ。止めだ。これならダグと一緒に賭博で遊んでいた方が楽しいよ。」
ここで女は俺の言った「賭博遊び以下」と言う評価に怒りを現したのだが。
俺が直ぐにその場を去ろうと歩き始めたので慌てて引き留めようとしてくる。
「な!?待ちなさい!我々を侮辱するその言葉!許せる訳が無いでしょう!謝罪しなさい!」
この言葉の次には角に隠れていた男二人も出て来た。そして俺の行く手を阻む様に道を塞いでくる。
「結局は出て来たんだな。出て来なけりゃ見逃したのに。で、アンタら二人も案内をしてくれる気は無いのかな?機関ってのに所属する人なんだろ?」
「今先程の言葉を撤回せよ。さすればこの場は見逃してやる。」
「いや、それでは足りんな。お前は何をどう勘違いをしているのだ?我らが機関を賭博以下だと?許せるはずも無かろう。この場で切り刻んでくれる。」
片方は穏便?もう片方は過激?まあそのどちらも俺の力量とやらを全く分かっちゃいない。
ソレはソレで当然かもしれない。今日会ったばかりの相手なのだからソコはしょうがないとしても。
「あーあ。エルーは俺の事をどんな風に報告したって言うんだよ・・・」
俺はここで大きく一つ溜息を吐いてエルーへの非難を溢した。