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カチコミじゃい!あ、それとお前ら、破門な?

「どう言う事だこれは?」


 俺に斬り掛かろうとしていた三名がこの声でピタリと止まる。


「・・・ちッ!?何で戻って来てやがる!時間はまだまだあったはず!」


 そう、会合とやらで遅くなるはずのキョウが戻って来たのだ。

 そして目の前に広がる光景に訳が分からないと言った感じでそう溢している。


「いやー、話すと長くなりそうだし、凄く下らない事だから後でにした方が良いかな?今はこいつらを無力化するのが先かな?」


 俺は手短にキョウへと「次の行動」を伝える。


「この三人を潰せば終わりだから。キョウがやるか?」


「・・・見物させて貰っても?」


「うーん、まあ、良いか。」


 キョウは非常に不機嫌な感じで俺へと見学すると言って来た。

 ミャンレンが巻き込まれていると言う事がどうやら眉根を顰める原因と言った感じに見受けられる。


 こうしてキョウが帰って来てしまってはこの「裏家業」の男たちの不利だろう。

 とは言っても、キョウは戦闘に参加しないとの表明を聞いて奴らは多少戸惑ってはいる。

 てっきり参戦してくると思ったんだろう。だけどもこの思わぬ展開に何時までも面食らっている者たちでは無かった。

 場数を相当に踏んでいるんだろう。切り替えが早い。


「ちッ!こいつだけでも殺すぞ!やれ!」


 リーダーの男だけはキョウを警戒して俺に襲い掛かって来ない。

 残りの二名が俺へと剣を振りかぶってくる。


 俺が腕を潰してやった男は額から脂汗を多くにじませて呻いていて戦意を完全に喪失している。

 しかしどうやら痛みで動けないらしく逃げると言った様子も見えない。


 ここで俺は反撃をする事にした。キョウが戻って来たならさっさとこの場を片づけて事情説明をしてしまうのが手っ取り早い。


 俺が作り出した魔力障壁で振り下ろされた二本の剣は弾かれる。


 振り下ろした剣が何も無い空中で弾かれるとは思っていなかったのか、俺へと斬り掛かって来ていた二人の男は全く同じ様なモーションで後ろに腕が流されて無防備を晒す。


 俺はその男たちの顎にデコピンをお見舞いしてやった。ソレはもちろん身体強化を全力でした重い一撃である。

 コレを食らった男たちはその衝撃でギュインと顎が跳ね上がる。

 その上がった顎が元の位置に戻って来た時には男たちの意識は既に飛んでいた。気絶している。


 そのまま倒れ伏す男たちを放って俺は残るリーダーの男の方に目を向ける。


「ち、畜生が!どう言う事だ!てめえは、テメエは一体何者だって言うんだ!?」


 既に門下生たちが身動ぎ一つもせずに動かない、ここの道場主が戻って来ても騒ぎもしない事を気づいていた様で。

 リーダーの男はこの奇妙な状況に一層の心理的圧迫を感じているのか額から出る汗が止まっていない。


「ああ、俺は別にお前の正体なんて興味無いし、知りたいとも言って無いんだから、そっちの要求を呑む何て義理をすると思うか?」


 先ずは俺の事を知りたいなら、そっちが自己紹介をしろと遠回りに言ってみる。


「こ、このおおおおお!」


 その手の剣を一心不乱に振り回して俺を斬ろうとしてくる男。


「なッ!?何で避けようともしねえ!?くそぉ!」


 どうやら剣の振り回しを避けようとする俺の隙を突いてこの場から逃げ出そうと言った魂胆だったらしい。

 真正面からその剣の乱切りを全身で文字通りに受け止めている俺を恐怖の目で見始めた男は引き下がる。


 どうやら、どうあっても俺を害する事が出来ない事をここでようやっと悟ったらしい。


 その乱切りを受けても俺の身体に傷なんて一つも付かない。

 俺を殺そうと思ったら、その剣にこちらの障壁として展開している魔力を遥かに凌駕する魔力を込めなくてはならないだろう。

 けれどもこの男にそんな事が出来る様子は一切無い。これでは俺を殺そうなどと百年早い。


 だから男はここで逆を向いた。キョウの方である。


「きぇえええええい!」


 切り替えと思い切りが良い。男は俺に敵わないと思えば、ターゲットを切り替えた。

 ミャンレンはそもそも遠い位置に居て男が斬り掛かろうとしても中途半端になる。


 位置としてキョウの立つ距離は絶妙だったと言えるだろう。

 男は気迫と共にその剣をキョウへと振り下ろしたのだが。


「・・・滅。」


 その上段からの一撃を最小限の動きで華麗に避けたキョウはその流れのままに、何ら変わり映えの無い只の「中段突き」で男の腹を打つ。


「・・・うごぼぇ!?」


 ソレは見事で綺麗なカウンターだった。コレを食らった男は一瞬だけ体を硬直させる。

 その間にキョウはサッとそいつから2m程離れる。その瞬間に男の口からは盛大に血が溢れ零れた。


「あー、それってもしかして、致命傷?こいつらから情報を絞らなくて良かったのか?」


「・・・思わずやってしまいましたね。でも、残っている者たちから吐かせれば充分でしょう。」


「一応は応急処置で命だけは取り留められる様にも出来るけど?」


「なら一応はお願いしても?」


 俺はそのまま倒れて動かない男に近づく。男は蹲ってキョウに打たれた部分に手を当てて痙攣しっぱなし。

 その背中に俺は手を当てて魔力を流して怪我を負っている個所を魔力ソナーで調べて治す。

 魔力とは万能過ぎる。こうして内臓がヤバい状態になっているのも治療できてしまうのだから。


「・・・よし、コレで良いかな。とは言え、何から聞けば良いんだ?あー、まあ、そうだな。こいつらの所属って判るか?」


 俺はそんな事をキョウに聞いた。するとこれに返って来たのは小さい溜息。


「先ずは状況の説明をお願いしても?」


「うーん、まあ良いか。」


 俺は順を追ってザックリと説明をして行く。ミャンレンが危険な目に遭っていた説明の部分を聞いていたキョウの目はかなり厳しいモノに変わっている。


「・・・流れも分かりましたし、今朝の彼らが最悪の選択肢を選んだ事も、解りました。では、こいつらの身元が分かる物が無いかどうかを調べましょう。」


 そう言って話を聞き終えたキョウがサラッと気絶している二名の懐を探る。

 するとそこからは首飾りが。しかも二名ともその首飾りの形は同じ。


 腹を殴られたリーダーは俺に治療された事をまだ分かっていないが、どうやら体調が安定したのは気づいた様で不思議がっている。

 さっきまで血反吐を吐いていたのに今は大丈夫な事を不気味に感じている様子。


 しかしキョウの動きが視界に入り、そこで取り出された首飾りを見て「ちッ!」と舌打ちをした。

 そこに響くのは空気が読めない男の縋る声。


「い、医者・・・医者に連れて行ってくれよぉ・・・う、腕が、俺の、俺の腕・・・」


 腕を骨折している男が顔面を涙、鼻水、涎でぐちゃぐちゃにしながらそう懇願して来た。

 けれども俺はコレを許す気は無い。哀れだとは思うが。


「・・・お前はそう言うけどな?じゃあ俺がお前に斬られそうな場面で、こっちが「助けてくれ」って言った場合、お前、その振り落とした剣を止めたか?止めなかったんじゃねーのか?」


 俺が返したこの言葉に男は絶望をその表情に滲ませる。


「俺は助けない。この場から逃げたきゃ逃げろ。医者に行きたきゃ自分の足で行け。治療代も自分で出せよ。ソレでも腕が以前と同じにはなりませんでした、使い物にならなくなりました、ってなっても、お前の自業自得だろ。それで逆恨みでもしてきたら、次はもっと酷い怪我を負わせてやるから、そのつもりでな。」


「・・・あぁ・・・あぁ・・・ぁぁぁぁ・・・」


 痛みを堪えて歩き出すそいつの後姿は惨めなものだった。周囲の事など見えていない。

 仲間がまだ残っているのに自分可愛さにそいつらを助けようともせず、この道場から逃げて助かりたい一心で医者の下を目指すのだから。


「で、キョウ、何か分かった?」


「ええ、そうですね。彼らはうちの道場を目の敵にしている所の者です。」


「欺瞞工作って線は?」


「無いでしょう。とは言え、一応はそこの者も持っているか確かめはしますけども。・・・確定ですね。」


 リーダー男の懐も探るキョウ。これに抵抗をされないのは俺が魔力固めで動けなくさせているから。

 とは言え、抵抗の動きが少しでも出ればキョウはこのリーダー男を即座に無力化する事も自力で出来ただろうけど。


「同じ首飾りかぁ。ひし形の鉄板に槍と剣が交錯してるって?ありきたりな感じの見た目だな。」


「うちの道場と対立、まあ向こうが勝手にそう言っているだけで、私は別に向こうの事など眼中に無いのですが。」


 キョウは本当に何とも思って無いと言った感じの声でそう言った後に。


「しかし、この様な真似をされては黙ってはいられませんね・・・禍根は全て絶つとしましょう・・・」


 物凄く重い声で続けて「根絶やし宣言」をした。

 しかし次にはここでまた声の調子が切り替わって優しいモノに変わった。


「と、ソレは明日以降にするとして。彼らにもしっかりとこの場でケジメを付けねばなりませんね。」


 俺が魔力固めで動けなくさせているここの門下生たちにキョウは目を向けた。


 このタイミングで俺は魔力固めを解除した。そうで無いと誰も口を開く事はできない。申し開きが出来ない。


 そんな必要などなかったのだろうが、コレは俺の最後の情けである。


「聞きましょうか。私の娘を巻き込んでまで、一体何がしたかったのです?」


 この質問に門下生の誰もが口を開かない、と思ったら例の一人だけが威勢良くこれに答えた。


「そんなの決まっています!貴方の目を覚まさせる為です!こんな詐欺師に騙されてはいけません!それに、この道場の理念を全く理解していない娘なんてこの道場に必要無い!」


 俺はこれに呆れた。こいつ、頭が駄目だ、と。


 この道場の事など全く以って分かっていない俺でもそう言った感想が出て来たのだ。

 道場主のキョウではどうだろうか?その娘のミャンレンは?


「・・・そうですか。君は君自身で思う所の、この道場の心配をして、ソレを行動に移したと。」


「わ、私なんかよりも馬鹿な考えをしている奴がこの道場に居たなんて・・・」


 キョウはガッカリした様にそう言い、ミャンレンは自分よりもよっぽどの馬鹿が居たと冷静にそう口にする。


 この二人の反応にその門下生は不満そうな顔をする。


「何がいけないんですか!?俺はこの道場の事を思って!」


「なら、君が満足するこの道場の未来とは一体何です?彼の、エンドウ殿の実力がハッキリと理解できれば詐欺師呼ばわりはしないのですね?それと、この道場と敵対的な態度を取っている道場の者たちを巻き込んでミャンレンを危険に晒した事は関係ありませんね。道場の理念などとは関係無く、親と子として、私は娘を愛している。そんな愛する娘を危険な目に晒したお前たちを私は許さない。幾らこの道場の門下生であっても、道場の理念がなどと・・・理解も出来ていないクセに、小賢しく解っているかの様に口に出していても、人として許されざる行為を行ったお前たちは犯罪者と何ら変わらない。」


 キョウは淡々と冷たく突き放す。当然だ。

 もしかしたらミャンレンの命が危うかったのだ。その貞操も。そこに怒りを感じない訳が無かった。


 この指摘に何も言い返す言葉が浮かばないのか「ぐぅぅぅ・・・」と呻くだけになったそいつはキョウの言葉を「正論」だと受け止めているから何も言え無いのだろう。


 ここでキョウが決定的な一言を彼らにぶつけた。


「お前たち全員を破門する。今からお前たちは只の犯罪者だ。全員捕縛して官憲へと突き出す。」


「待ってください!俺たちは道場の事を思って!」


 道場の事を思っての行動などでは無い。ソレがもう見苦しい只の言い訳にすらならないのだと、まだこの犯罪者は分かっていない。いや、理解したくは無いのかそんな言葉を吐き出すが。


「では、この道場の将来とは?理念とは?一言で説明できるか?なに、簡単な言葉一つで説明できる。理解できていると言うのなら言って見せなさい。」


「・・・え?そ、それは・・・」


「答えられ無いのか?・・・それはな、お前たちが道場の事など一切考えておらず、自らの身勝手な感情だけで事を起こしたからだ。自分勝手な、自己中心的な、自分の信じる事しか認めない子供だからだ。ソレを精々、牢の中で噛み締めて過ごすがいい。」


 キョウはそう言って哀れみの目をその犯罪者に向ける。


 これにどうやらそんな視線を向けられる事に我慢ならなくなったのか、そいつは雄たけびを上げつつキョウへと斬り掛かった。


「子供か。いや、クソガキだったな。」


 その癇癪的な行動に俺は思わずツッコミを入れた。しかしもうこの言葉はソイツの耳には入っていない。


 何せ既にキョウが斬り掛かられた剣を躱してソイツの顎を掌底で打ち上げて気絶させていたから。


「で、残りのこいつらはどうする?」


「エンドウ殿、拘束して見張っていて頂けないでしょうか?私が官憲を連れてきますので。」


 キョウの求めに俺は「オッケー」と言って再びの魔力固め、からの操縦でその犯罪者共を壁際に一列に並ばせた。


 この光景を目にしたミャンレンが「は?」と言って信じられ無いモノを見たと言った感じで固まってしまった。


「え?こ、これって、もしかして、仙術?」


 ミャンレンは今頃そんな事に気付いたらしい。遅い。

 キョウは壁際に並ばされた者たちを一瞥もしないで道場を出て行った。官憲に通報しに行ったに違いない。


 こんな大きな道場の主を務めている訳だから、きっと国家権力にも伝手があってそちらの方にもこの件を直接に伝えに行く可能性もある。


 とは言え、この場で何も言わずに出て行くキョウが何処に行くのか何てのは知らない。

 俺はここでこの犯罪者たちを固めておくだけで良い。どの様に今回の事を処理するのかはキョウに任せておけばいい。


「あ、貴方一体何者なの?」


 ミャンレンがこんなタイミングでそう俺に問うが、俺にだってそんなのどう答えて良いか分からない。


「まあ自由にしたら良いんじゃ無いか?俺も自分で何者かって聞かれても、答えは分からんし。」


 この言葉にミャンレンは肩をガックリと落として盛大な溜息を吐き出した。


「一体これからどうなるって言うのよ・・・」


「え?キョウが言ってただろ?明日以降になるけど、その敵の本拠地ってのに攻め込むんだろ?」


「・・・は?え、でも・・・」


 どうやらミャンレンの知る父親像からは「カチコミ」なんて想像が出来ない様子。

 だけどもそんな事は関係無いだろう。あれほどの怒りである。キョウは多分今もはらわたが煮えくり返っていると思うが。

 今直ぐにでも、と言う感情を抑えて明日以降と口にしたキョウは精神力もかなりタフである。

 この分では恐らくは下準備を充分にして、根回しをちゃんとキッチリした上で攻め込むに違いない。


 そうして待っているとザワザワと道場に入って来る者たちが。

 ソレはキョウが連れて来た官憲だろう。その全員が同じ服を着ていて武装も統一されていた。


「連行せよ!」


 その官憲のリーダーだろう男がそう言い放つとその部下たちだろう者が壁際に並んでいた奴らを縄で縛って道場の外へと連れ出していく。

 どうやら今日の所はコレで終わりの様だ。やっと休める。


 と思ったら。


「事情聴取の為に貴方にも御同行願います。」


 官憲リーダーにそう言われて思わず俺は。


「え?嫌ですけど?」


 と即座に切り返してしまった。


「え?・・・いや、その。は?」


 俺のこの返答がどれだけ想定外だったのかと言った事がその官憲リーダーの反応で解かる。

 同行願いを口にするのは向こうの職務上で仕方が無い事ではあるし、俺も協力したい所は山々だが。


「いや、願われたのを断っただけですよ。そこまで狼狽えられても。俺はこのままもう寝ますんで。事情聴取ならミャンレンとキョウにして貰ってください。それに事情なんて問題を起こした当人たちがこれだけの数いるんだからそっちにするのが筋でしょ。それじゃあ、おやすみなさい。」


 俺はこの道場で与えられている部屋へと向かってゆっくり歩く。

 その後姿をどんな気持ちで官憲リーダーが見送ったのか何て知らないし、知る気も無い。


 部屋に付いたら俺は寝床へダイブ。そのままグッスリと眠った。


 そうして翌日の朝。静かな朝である。そう、静かなのだ。


「朝練はどうしたのかな?声が聞こえないねぇ?」


 鍛錬場で門下生たちが気合を込めて発する声がしない。

 何かあったかと思ってボンヤリした時間も短い。昨日の事を思い出したから。


 そこに響いたのはミャンレンの言葉。


「起きた?なら、朝食が出来てるわ。」


 そう言って俺を食堂へと案内しに来てくれた。これに俺は質問を飛ばす。


「誰も道場に居ないのか?随分と静かだけど。」


「父が今朝から走り回って準備をしてるの。それで今は門下生たちも鍛錬どころじゃ無いのよ。」


「あー、敵対組織に総力戦?それは俺も参加するべきだな。」


 この俺の発言にミャンレンは驚いた感じでこっちを急に見て来る。


「え?何を驚いてるの?昨日命を狙われたの俺だからね?この道場だけの話じゃないでしょ。」


「た、確かにそうだけど・・・」


「何でそんなにビビってるの?・・・あー、俺が仙術?を使えるからって腫物を扱う感じになっちゃってる?」


 どうにもこの国では魔法を使える者は貴重と言った見方がある様で。ミャンレンはそこを気にして俺への対応をどうしたら良いかを迷っている様子に感じる。


 とは言え、俺の方がその様子に忖度して合わせる気は無い。


「何時頃に襲撃かけるの?あ、こっちがこれ程に派手に準備してりゃ防衛の事を考えてあっちも準備もしてるかね?」


「本当に、貴方、訳が分からない・・・」


 食客としてこの道場に受け入れられているのだから、一宿一飯の恩?に報いないといけないだろう。

 そうで無くても向こうの敵対していると言う相手のやり方が気に食わない。

 だから気まぐれにも近い気持ちで俺は参戦する気でいる。

 普段の俺だったらばここでキョウのお手並み拝見、みたいな感じで観客気取りで様子を見ていると思うが。


(人の事を簡単に殺そうとする奴を組み入れてる組織だろ?潰す方が良いそんなのは)


 ミャンレンまで人質に取って俺を殺そうとしてきた奴らだ。

 そんなのを抱え込んだ組織、どう考えてもマトモとも思えないし、害悪としか考えられない。


 真正面から激突して正々堂々と戦っているのならまだしも。

 そんな悪質な手法を取って何かしら企んでくる様な相手に容赦など要らないだろう。


 この俺の気まぐれが例え偽善と言われ様とも、社会的にも潰しておいた方が宜しい組織である事は否定はできないはずである。

 個人としての報復も兼ねてキョウと一緒にカチコミして潰してしまうのが良いと俺は判断する。


 そんな訳で今朝の朝食は塩ラーメンでした。・・・塩ラーメン?

 そうとしか言え無い料理だったのでしょうがない。俺はソレをスープまで全て平らげてから鍛錬場に足を運んだ。


 一緒に食事をしたミャンレンと話していて、カチコミ要員はその鍛錬場に集められていると言う事だったので俺もそこに向かったのだ。


 その途中でミャンレンには「本気なのね・・・」と諦めに近い感じの溜息を吐かれている。

 俺が一緒に同行するのの何が不満なのか聞いてみても良かったが、ソレはしないでおいた。


 今日のミャンレンは随分と大人しい。何かしらの気持ちの変化でもあったのだと推測はするが。

 ソレが何かは俺には分からないし、気にする所でも無い。


 この変化がキョウとミャンレンとの関係に良い方向に進む要因になれば良いなと思うくらいだ。

 親の心、子知らず、子の心、親知らず、とまでは言わないが、二人はコミュニケーションを取れてはいても少々のズレをそこに起こしていた様に感じたので。


 他人の家族の事情に対して俺が余り心配をする事では無いのかもしれないが、しかしこの道場に世話になっている以上はそうもいかない。

 ここで食客として持て成されている以上はそこは首を突っ込まざるを得ないと言うか、何と言うか。人情?


 そうして到着した鍛錬場には五十名以上の門下生たちが集まっていた。

 誰もが気合が入りまくっていてざわざわとした空気の中にも張り詰めた感じが充満している。


 そこに丁度キョウが姿を現して演説を開始した。


「これから攻め込むのはこの道場を勝手に敵対視している「暴龍」へだ。昨日奴らの所からの刺客によってウチの門下生たちが唆され、そしてミャンレンにも危害を加えようとして来た。・・・私は奴等の事など眼中に無かったのだが、向こうがこうも直接的にこちらへと害を与えようと干渉してくるのなら、今後の事を考えても早急に滅せねばならないと判断を下した。」


 集まっている門下生たちは静まり返りジッとキョウの方に視線を向け続けている。


「君たちには本日、これまで鍛えて来た武を発揮して貰いたい。奴らの行った事は「悪」である。それを滅するに躊躇いは要らない。今こそ我が道場の門下生、君たちの義を示す時!奸を討つ!」


 キョウが最後に声を張り上げてそう言い切った時、、集まっている門下生たちの口から即座に気合の籠もった「応!」と言う声が一斉に吐き出される。


(・・・ヤベー。これって義侠ってヤツか?迫力凄いなぁ)


 キョウを先頭にして道場を出て行く門下生たち。

 綺麗な列を作ってまるで行軍の様に動きが揃っていた。


 俺もその後ろを付いて行く。そこで通りを見渡してみればこの様子に通行人が何事かと言った野次馬目線でコレを眺めてきている。


 因みに、ミャンレンはこれに参加していない。道場に御留守番。

 短い時間でしか無いが、俺の知る範囲でのミャンレンの性格であればこのカチコミには参加すると思っていたのだが。


(まぁキョウがそこは許しはしないか。とは言え、ミャンレンも許して貰え無かったからってそんな簡単に諦める性格してないと思ったけどなぁ)


 昨日の事で何かしらミャンレンの中の何かが本当に変わったのかもしれない。

 ならば来ないなら来ないでソレはソレ、本人の決めた事だから俺が口を出す事では無いのだろう。


 そうして余計な事を考えている内にその敵対していると言う「暴龍」なる組織?道場?へと到着。


「皆の者、油断するな。先ずは・・・門を開く!」


 キョウがそんな注意の後にその閉じられた門の真ん中に拳を添えた。

 次の瞬間に「ズドン!」と重い物が衝突したかの様な衝撃が門から発生する。


 何事かと思えばソレはキョウがその門をこじ開ける為に一撃打ち込んだ音だった。

 添えられた拳の部分が思い切り凹んでいる。相当な力が掛けられた証拠である。


 そしてまた再び同じく門へと衝撃が走る。すると二撃目を撃ち込まれた門は破壊され、吹き飛んでいく。


「よし、行くぞ。正面から叩き潰す!」


 その一言と共に列を乱さずにその内部へと入って行くカチコミ要員たち。


 そうして中へ中へと進んで行けばそこそこの広場に出る。

 そこでは地べたに座って酒盛りをしていたであろう者たちが十名程居た。

 昨夜から酒を飲み続けていたのか、誰もが酔って寝ている様子でこの騒ぎでも誰も起きて来ない。


「こいつらは縛り上げて壁へと寄せておけ。これから私たちは・・・この屋敷を破壊する。徹底的にだ。」


 この言葉で門下生の中で大柄な男性が五名前に出て来た。その手には大きな斧。

 ソレを大きく大きく振り上げると思い切り屋敷の壁へと打ち込んだ。


 五人でのその斧での屋敷破壊はドンドンと進んでいくのだが、この音に、破壊に誰も出て来ない。


 そんな事をお構い無しで無残に瓦礫と化していく屋敷。

 大きな柱が一本切り倒された所でやっとコレを止めようとする声が。


「やめろおおおおおお!?お前ら一体なにしてくれやがってんだあああああ!?」


「・・・やっと出て来たか。」


 どうやらこの「暴龍」の頭領であるらしいその男はボロボロな家屋を見て顔を怒りと驚愕に染めてキョウを睨みつけていた。

 キョウの方はこれに「やっとお出ましか」と言った具合で小さく溜息を吐いて返す。


「何のつもりだ貴様あああああ!?」


 強い怒りが込められたその怒鳴り声をキョウはサラッと流して言う。


「心当たりが無いのか?コレを見てもか?」


 キョウは取り出した物を放り投げる。ソレは昨日の奴らが持っていた菱形のプレート。剣と槍が交錯した紋様が描かれているソレ。

 その男の首にも同じ物がぶら下がっている。コレを見てそいつは。


「あの無能共がぁ!失敗してやがったのか!」


 もうこの一言で確定した。コイツが指示を出していたと言う事が。


「本日で「暴龍」は消滅する。覚悟しろ。」


 キョウはそう言ってその腰に佩いた剣を抜いた。

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