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楽しいお時間?

 俺は棍の端を両手で持って右へと大きく振る。まるで野球選手、バッターの様に。


 コレは流石にキョウにバックステップで避けられた。無理も無い。動作が大き過ぎて相手に対し「これから行きますよ」と言っている様なモノなのだから。

 武術を習っている者がコレを避けられずして何を避けるのか?と言った具合である。避けれて当然だ。


 しかし空振っても俺は気にせずにそれから一歩踏み込んで今度は左へと連続で棍を振る。


 しかもコレはキョウの足を狙う動きで。


 これは軽いジャンプで、まるで縄跳びでもするかの様に避けられた。


 でもこれも俺は気にしない。空振ったソレをまた右へと、一歩踏み込むと同時に振る。

 今度はキョウの二の腕辺りを狙ってだ。


 コレはしゃがんで躱される。余裕を持って。


 別に俺はこの一連の攻撃が当たるとは思っていない。只々に形だけを意識して動いているに過ぎない。


 今はキョウと俺との只の「試し合い」の場であるから勝ち負けなど関係無いのだ。


 ここで大事なのはキョウの「面子」と俺の「実力」を良い感じに門下生に示す事である。


 なので俺はここで動きを止めた。もう充分かなと思って。

 三回もこちらの攻撃をしたのだから次はキョウの手番にするべきだと思って。


 そして俺の意図が通じているのかいないのかは分からないが、ここでキョウがまたしても突きを放ってくる。


 肩、喉、臍の下辺り、三連突きだった。これも瞬き一つの時間でなされている高速連撃。物凄い技術力と正確性である。

 見事にソレは俺を捉えてしっかりと当たってはいるが。


「勝てる想像が出来ないのですが・・・」


 何らの痛痒も感じていない俺に対して思わずと言った感じでキョウがそんな言葉を漏らした。


「がッはッはッはッは!もう充分だろ。いやー、それにしてもエンドウ、お前本当に訳が分からねー奴だな?」


「ダグ、何をいきなり特大な失礼を言ってきてるの?今度はダグが俺とやる?良いんだよ?ケンフュに苦情を言いに行っても。こいつは不快だから他を宛がってくれって。」


「おい!ソレは止めろって!貶したんじゃねえ。褒めてんだよ!」


「だったら言葉を選べよ。訳が分からないって、それ、別に誉め言葉でも何でも無いからな?次にそんな事言うと本気でケンフュに物申しに行くからな?」


「おいおい、心の狭い事を言うなよ。俺とお前の仲だろ?」


「親しき中にも礼儀ありって言葉、知ってる?」


 俺のこの言葉にキョウが「その通りだな」と賛意を示して来た。

 これにダグが「おい、勘弁しろよ・・・」と嫌そうな顔をキョウへと向けている。


「そんな事はどうでも良いだろ?ここに居る奴らはエンドウに絡んだりはしないだろコレを見て。だったらもう良いんじゃねーか?遊びに行くぞエンドウ!」


「勝手に決めるなって。遊びに行くって言っても、何処に行く気なんだよ?観光名所を案内してくれるってか?」


 ここでキョウがダグへと「おい、まさかあそこに連れ込む気じゃ無かろうな?」と言って睨んでいる。


 そんな事を気にせずにダグは俺の肩に腕を回して来てがっちりと身柄を確保してきた。


「おう!それじゃ行くぞ!」


 そう言って半ば強引に俺を引きずって行こうとするダグ。


 これには抵抗を見せても良かったのだが、ダグが何処に俺を連れて行こうとしているのかちょっとだけ気になったのでそのまま連行される事にした。


 キョウはこれに一瞬だけ止めに入ろうとした動きをしたのだが、ソレも一瞬で。次には大きな大きな溜息を一つ吐いて諦めていた。


「で、何処に連れて行こうって言うんだ?」


 既に俺の肩からはダグは腕を退かしている。

 俺の先を行く、のっしのっしと歩くその動きは愚鈍に見えるのだが、その一歩の幅が広くてなかなかに道を行く速度は早い。


「おう、こっちだコッチ。すぐそこだぜ。」


 何やら怪しげな道を通り始めるダグに俺は訝し気な目を向けてはいるのだが、向こうはそんな事など気にも留めていない。


 そうして到着したのは如何にもな怪しい雰囲気の一件の家。しかも結構大きい。

 その入り口にはどうにも見張りをしていると思わし気な二名の男が。


 そこに向かってダグは一直線に向かう。俺がここは何だと問う間も無く。


「おう、邪魔するぜ。」


「お久しぶりですダグロンさん。カマリー様にはお会いになられます?」


「おう、そうだな。一応はここで遊ぶ前に紹介しておきたい奴も居てな。そこら辺のトコも伝えておいてくれるか?何時もの場所で待つからよ。そっちに来てくれって言っておいてくれ。」


「分かりました。そちらのお連れさんの事っすね。見た事無い身なりですけど、ダグロンさんの紹介なら信用できますから。」


 そう言った見張りと思わしき男の一人が家の中へと入って行った。

 その後にダグが続けて中へと入っていく。ここでダグに手招きされてしまったので俺も入る以外に無い。


「で、何処に俺は連れて来られたんだ?」


「まあそこは後で分かる。それまでは楽しみにしとけ。」


 まあ大体がこんな怪しい場所なのだ。合法な場所だとは思えなかったのだが。


 ダグが向かい入った部屋はそこそこ広めのどうにも客間と言われそうな装飾品が多く飾られている部屋だった。

 家の外観からは想像も出来ない位に豪華な部屋であり、どうにもギラギラし過ぎていて俺としては「さっさと出たいな」と思ってしまうくらいに落ち着きを感じさせない部屋である。


 そこのソファにドカリと遠慮無く座るダグ。物凄くリラックスした態度で居るので俺と真逆だなと、そんな感想を思う。


 そこに一人の老人が入って来た。この人物がさっきのダグと見張りのやり取りで言っていたカマリーと言う名の者なのだろう。


「おい、ダグ、何しに来よった?よもや前回の事を忘れた訳ではあるまいな?」


「何だよ、ケチ臭い心の狭い爺だな。俺が一人で大勝ちしただけじゃねーか。」


「バカを言え。ソレをされてこっちは調整であの後が大変だったのだぞ?ウチの裏を多少知っているお前なら分かるだろうが馬鹿者めが。」


「しかしソレも俺の純粋な運で勝ったもんだぞ?文句を言われる筋合いはねーぞ?勝った金を俺はちゃんとここに還元してから帰っただろうが。何時までも過ぎた事をネチネチと五月蠅い爺さんだぜ。」


「ぬかせ小僧が。それでもお前の懐に残った額がどれ程だったか思い出せ。場荒らしギリギリだっただろうに。」


「だから何だってんだよ?文句があるなら俺を潰しに来な。幾らでも刺客を放って来いっていつも言ってるだろ?それにその金はまたここで落として行ってやるって言ってるだろうに。文句はもう良いだろうが。」


「刺客など、そんな事がまかり通って堪るか。ウチは合法だぞ?政府に印証を受けているんだ。違法賭博の元締めの様な真似ができるもんかよ。・・・まあ今回はこの辺で良いか。お前は以前からこちらの小言になど聞く耳を持たなかったからな。」


 入って来て直ぐに開始されたこのやり取りでカマリーとダグが随分と深い知り合いだと言うのが解った。


 それとどうにもここ、政府公認の賭博場らしい事も。


 そしてどうやらダグが強運の持ち主らしいと言う事も。


「で、紹介したいと言うのはそこの者か。何者だ?お前が私にまで一々紹介しようとするのだ。只事ではあるまい?」


「おう、さっさと言っちまった方が話が早いな。勿体ぶるのは互いに好きじゃねーしよ。こいつはエンドウって言うんだ。爺、手を出すなよ?絶対にな。」


「あー、ご紹介に与りました、遠藤と言います。宜しく。とは言っても、貴方と絡む場面なんて今後にそもそも今以外にあるんです?」


「・・・ダグよ、こやつ、どう言う者だ?何と捉えて良いか全く分からん。」


 このカマリーと言う老人、まさに見た目が「ザ・仙人!」と言った姿で。

 今も俺を見つつもその顎に流れる真っ白な長い髭を手で優しくしごいて思案顔である。


「余りここで詳しく説明してやると時間が掛かるからな。一度しか言わんし、こいつに関わってる人物の名前だけ連ねるぞ?」


 そしてダグはざっくりとし過ぎとしか言え無い説明をし始めた。


 ファロン、ケンフュ、キョウ。この三名の名をダグは口にする。

 そうするとカマリーは直ぐに眉根を顰めた。どうやらこの三名に思う所でもあったのだろう。


「このエンドウとやらはそこまで妙な事になっとるのか。こりゃ寧ろ手など絶対に出したくは無いな。どんな理由を上から押し付けられようともな。」


 何を勝手に納得したのかカマリーは一つ溜息を吐いた。


「よし!それじゃあもう顔合わせは終わりで良いな。早速遊ぶぞエンドウ!先ずは俺のお気に入りからだぜ。」


 話は終わりだと言う感じでダグは立ち上がってさっさと部屋を出て行く。

 俺はこれに付いて行く。別に断る理由も無いし、観光だけでは無くこう言った所でたまに遊ぶのも悪くは無いと思って。


 しかし俺の懐にある金額でどれ程の事が出来るかなどと言うのは全くまだこの時は分かっていない。

 相場としてここで賭けで遊ぶ際にどれ程の金額を掛ければ無理無く楽しめるのかと言った所が分からない。

 あとどんな種類の賭けがあるのかも教えて貰えてないこの時点で。分からないだらけだ。


 しかしダグはここで安心しろと言って来た。


「先ず初めは倍数の低い所から始めさせてやるさ。いきなり一手に大金を掛ける遊びなんてさせやしねえって。そう言うのは慣れて来て、仕事の収入が安定して大きく金を稼げる様になってから遊ぶもんだからな。」


「で、ダグはその点では前回ソレをやっている、と。」


「言っただろ?その時は俺の運が偶々爆発しただけだぜ。ソレもここで事前に遊んでた賭けで儲けた額を全部そこに突っ込んでから帰る予定だったんだぞ?」


「負けて良いと思って稼いだ金額を全部?」


「おうよ!そこで勝っちまったからどうしようもねえのさ。迷惑かけた代わりにそこでここに残っていた客全員に俺の奢りで飯と酒を奢ってやったんだぞ?大盤振る舞いだぜ。」


 どうやらここは酒と飯も提供するらしい。まあ考えてみればこういった場所では珍しくも無い事ではあるかと直ぐにその件の事は頭から消す。


「で、何で遊ぶんだ?」


「良し、それじゃあここの部屋だ。おーい、邪魔するぞ。」


 会話しながら進んだ廊下の一番端にあった部屋の中へと入っていくダグ。


 しかしそこの部屋には先程に会ったばかりのカマリーが居た。


「おい、爺・・・何でここに居るんだよ?」


 先程の豪奢な部屋から出たのは俺たちだけ。

 なのに何故かここにはカマリーが先に居るとはどう言う事かと俺もちょっとびっくりした。

 まあ種明かしとしては簡単なモノであった。


「お前も知っとるだろうが。従業員専用通路を使えば簡単に先回りなどできる。」


「そう言う意味で言ったんじゃねーよ!分かって言ってやがるだろ!?」


 ダグはカマリーにツッコミを入れているが、向こうは涼しい顔だ。


「どうせお前の事だからな。札合わせを最初はやらせると思っておった。当たったな。」


 ここで既にカマリーの美しい手捌きで丸テーブルの上にはトランプよりも一回り小さいカードが五枚づつ、三名分並べられていた。


 そして「場」には十枚のカードがオープン状態で並んでいる。


 どうにもコレは花札みたいな物なのかなと言った予想が立つ。

 俺は素直に席へと座って配られたカードの一つを取って見てみる。


 すると「場」に出ている絵柄と似たカードがある事でかなり似たルールなのだろうなと確信した。


 配られたカードと「場」に出された以外の残りのカードは「山」として積まれてテーブル中央に鎮座している。


「おい、爺、もう一人呼べよ。しかも女な。この面子じゃ華が無くて息が詰まるぜ。」


 ここで席に着きながらダグがそんな注文を付けている。これにカマリーは。


「お前が個人で金を出せ。それなら呼んでやる。」


 これに俺はコンパニオンかな?と思った。要するに接待。


「おうおう、分かった分かった。前回ここで勝った分を使ってやるから、今日一日専用で俺たちに付けてくれ。飛び切り美人じゃねーと納得しねーぞ?」


「・・・どうにもお前、怪しいな?随分と金使いが荒いでは無いか。まあ良い。ちょっと待っておれ。」


 そう言うとカマリーは席を立って部屋の隅、その壁に付いていた紐を引っ張った。

 すると何処からともなく、ここの職員であろう者が部屋へと入って来た。

 そして「ご用件は?」と聞いて来たのでカマリーが。


「エルー、この部屋に、ダグに今日一日だ。行け。」


 この指示に職員はスッと部屋を出て行く。しかしここでダグがこれに文句を付けた。


「おぉい!爺!エルーかよ寄りにも因って!何考えてんだテメエはよ!」


「お前の注文は全て叶えておるが?」


「あいつ容赦ねーじゃねーか!エンドウも居るんだぞ!?考えろよ!」


「しかし今日空いているのはエルーしかおらん。」


「何で今日って時にこうなるんだよ!」


 そのエルーと言うコンパニオンの何がいけないのかが俺にはサッパリ分からない。

 ダグがこれ程までに恐れる女人とはいかなる人物であろうか?


 そうして待っていればその人物は直ぐに部屋へとやって来た。


 美しい青紫?のサラリとしたロングヘア、切れ長の目元、スッと通った鼻筋。

 正しく美人な女性が部屋へと入って来て席に着く。


「ダグ、久しぶり。今日は私を可愛がってくれるって聞いたのだけれど?こんな安い場に私を引っ張って来るなんて詰まらない事するのはどうして?」


「お前を呼びたくて呼んだんじゃねーっての。爺が悪い。お前しか空いてねーとぬかしやがって勝手に呼び出したんだ。他のもっと愛想の良い女が良かったっつーの。」


「あら酷い。今から席を立っても良いけれど、払い戻しは無いわよ?」


「ダーもう!分かった分かった。手加減しろよ?初心者が居るんだ。楽しませろ。」


「あら、そちらの方ね?見た事が無い格好。でも、フフフ、似合ってるわ。素敵な服ね?」


「そりゃどうも。遠藤と言います。本日はお手柔らかにお願いします。」


「私はエルー。宜しく。」


 挨拶は終わりだとでも言いたいのだろう。ダグが手札からオープンしている絵柄と同じモノを早速出して手元に引き寄せた。

 そして「山」から一枚取ってソレを自分の手札に加える。


「おう、俺たちのやり方を最初は見とけ。エンドウの番が回って来た時に簡単な説明はしてやる。」


 ダグはそう言って俺の方を見てニヤリと笑う。順番としてはダグ、カマリー、エルー、俺と言う順だ。

 次のカマリーが場に手札を一枚出すが、オープンされている札と揃いの絵柄が無い。

 カマリーはここで「山」から一枚札を引いて手札に加えた。

 出された札はそのままオープンのままに場に残る。


 そこでどうやらカマリーの番は終了したらしい。次の手番のエルーがここで手札から一枚出す。


「げッ!オイ!お前手加減しろって言っておいただろうが!」


 それはド派手なクジャクの様な鳥の絵が描かれた札だった。

 ソレは場に出ていたオープンされている中の札の一枚と同じ絵柄。


 どうやらこの札は高得点だった様でダグがここで注意をエルーにしたのだが。


「あら?最初の一回目ぐらいは良いでしょう?勝負は楽しく行きましょうよ。」


 エルーはダグの注意など気にも留めないで「山」から札を一枚とると、その札をオープンしてある札に重ねる。

 ソレは今度はダリアの様な大きな花が描かれた札だったのだ。コレをエルーが手元に引き寄せる。


 どうやら「花札」と似ているが、微妙に違うルールと言った感じだ。


 ダグはここで「遠慮しろや!」とムスッとした顔になる。これもどうやら得点の高い札の模様。


 ここで次は俺の番だ。流れは解ったので俺は自身の手札から一枚を場に出す。

 しかしオープンされた札の中に俺の出した札と同じ絵の物は無い。


 しかし次に「山」から引いた札は俺の出した札と同じ絵だった。


「コレは俺が取得しても良いのか?」


「おう、そいつはエンドウの点になる。何と無く流れは掴んだ様だな。ならもうちょっと速度を上げてテキパキやってくぞ。」


 こうして俺はこのゲームを暫し楽しんだ。

 最終的に誰が一番高得点で優勝したのかと言えば、エルーだ。ちなみに最下位はダグだった。


 俺とカマリーが同点と言った具合でまるで操作でもされていたかの様に感じる。


 ダグはここでエルーに対して「手加減どうしたぁ!」とツッコんでいたのだが。

 これにエルーは涼しい顔で「そんな約束をした覚えは無いのだけれど?」とスルーである。


(確かにダグの言葉に対してその点を頷いたりはしてないんだよなぁ)


 別に俺はこのゲームを楽しめなかった訳じゃ無い。充分に遊ばせて貰ったと思っている。


 ここで昼食を摂ろうと言う事になった。どうやら専用の食堂があるらしくそちらに移動である。


 最下位だったダグの奢りで食事を摂ったのだが。エルーも一緒だ。カマリーは仕事があると言って別れている。


「くっそ。何でお前は毎度の事に手加減しないんだよ。ちょっとは接待しやがれ。」


「私は勝つのが好きよ?どんな事にもね。でも、一番この仕事が性に合ってるの。それに、ダグには遠慮しないでも良いでしょ?私と貴方の仲じゃない。」


「以前に俺がお前から大勝ちして上がったのがそんなに今も根に持つ事なのかよ。そんなので「私と貴方の仲」とか言われたって嬉しくも何ともねーよ。色気もへったくれもねぇじゃねーか。」


「あの時は本当に悔しくて堪らなくて、眠れ無い程だったわー。懐かしいわねぇ。」


 などと言った会話が二人の間に流れている。ソレを俺は聞き流しながらチンジャオロース?っぽい料理に舌鼓を打っている。


「良し!食い終わったら別ので勝負だぞ!入れる卓はあるか?」


 ダグはまだまだ俺をここで遊ばせるつもりらしい。賭け事に嵌まる様にと誘導したい様だ。


「なぁ?さっきのでの掛け金やら何やらはどうなってるんだ?そこら辺の計算とかは俺には全くまだ理解が追い付いていないんだけど?」


 まだ俺はこの国の金の価値を解っていないのにギャンブルである。

 ある意味怖ろしい事をしていると自覚はあるが。


「おう、そこは心配すんな。後で計算が出るからよ。エルーがそこら辺の記録は取ってある。後で全部一気に清算するからよ。」


「それって負けが大分溜まっていた場合は借金になるんじゃないの?」


「スッカラカンになったら仕事を斡旋される。ソレを熟せば借金は支払ったと見做されるぜ。安心しろよ。国が運営してるから無茶はさせたりしねーからな。」


 妙なシステムを導入している。しかし感心もする。ギャンブル借金で首が回らなくなり自殺とか、犯罪に走ると言った事にこれならなり難いだろうと思ったから。

 とは言え、穴がありそうだな、とか思ったりはするけれども。

 ギャンブルで痛い目を見てもこの様な救済方法があると、どうしても賭け事を止められ無いと言った事にもなりそう。

 真面目に働かない者たちが増えそうなモノである。


 食事が終わって俺たちは再び専用部屋に向かう。その際には先程と同じ部屋には入らずに別の所に入った。


 そこには俺の見た事がある物があった。


(マージャン?初心者にはちょっとハードル高く無いか?)


 そう思ったのだが、ダグもエルーもさっさと席に座ってしまうので俺もそれに倣うしかない。


 そこへ直ぐに一人の男が入って来た。そして開口一番に。


「あ!ダグの兄貴じゃないっすか!お久しぶりです!兄貴と卓を囲めるなんて光栄です!・・・って!?エルーの姉貴も居るぅぅぅぅぅ!?」


 忙しい奴だった。ダグを見て喜んだのもつかの間。そこにエルーが居るのを認識して今度は驚いている。少し引き気味に。


「おう!さっさと座れ座れ。始めっぞ。」


「兄貴ぃぃぃ~、エルーの姉貴も居たら、俺また借金になっちまいますよぉぉぉ・・・」


「じゃあ外れるか?」


「・・・座るっス・・・」


 男は諦めた様子で残った席に座った。そう、四人マージャンであるっぽい。

 どうやら入って来た男はダグと知り合いである様子だった。


 こうしてゲームは始まったが、俺は簡単な説明をダグとエルーに受けつつ流れを進めて行きながらルールを覚えていく。


「げッ!?エルーてめえ!俺の顔を立てる気無いのかよ!」


「追加料金をくれたなら考えても良いわ。」


「汚い!考えるだけなんだろ!前にソレで騙されたからな!このクソ女!」


 余りにも何だかエルーだけが独り勝ちしている。不自然に。

 しかもダグのこの様子だと毎回なのだと思われる。

 このエルーと言う女性がこうして席に着けばどんな面子でも、どんな種類の勝負でも、恐らくは彼女の一人勝ちで場が終わるんだろう。


 ここで俺はやっと違和感を覚えた。余りにも余裕過ぎるエルーのその態度。

 見た目が超が付くくらいに美人なのでそちらにこれまでずっと意識が向いていたのだが。


(ちょっとだけ、そう、ちょっとだけ様子を見てみるか)


 俺はここで賭けを楽しむ、勝負を楽しむのではなく「イカサマ」を調べてみる気になった。


 エルーはどうにも先程から容赦なく、と言うか、徹底的にダグを狙っていたからだ。

 余りにも露骨、余りにもあからさまなので分かり易かった。

 卓に付いている名も知らぬ男の方もどうやら今回は自分がエルーのターゲットにならずに済んでいる事にホッとしている。

 まあダグが集中的に狙われている事にちょっとだけ罪悪感?そんな気分を覚えている様子だが。


 で、俺はここで魔力ソナーを広げてみた。


(・・・あぁー、そう言う感じ?油断できない相手だなぁ、コレは)


 一瞬で違和感の正体が判明した。何せエルーはどうにも「魔法」を使っているからだ。


 卓上にある「牌」に俺のとは違う魔力が纏わり付いているのを感知できたのだ。


 ここで俺が広げた魔力ソナーをその「牌」に纏わせていた魔力から感知したのかエルーが厳しい表情を取った。


「・・・お?何だエルー、厳しい配牌にでもなったか?」


 ダグはこのエルーの反応に勘違いしている。

 この一言でエルーは元の表情に戻ったが、先程までの機嫌の良さは鳴りを潜めていた。


 エルーはずっとこの方法で、どんな時でも勝負の流れを全て読み切り、対戦相手の手の内も知っていたのだ。


 ここで俺はこれに悩む。コレを「イカサマ」と言っていいモノだろうか?と。


 自らの使える能力をフルに使って、そしてルールを逸脱しない手を使って全力で勝ちに行く。

 しかも不正を行ったと言う証拠を全く残さないし、看破もされない。


 どう考えてもこれでは吊るし上げられないのだ。「お前はイカサマをしている」と。


 ここで出来る抵抗はと言えば。


(俺が同じ事をして、かつ、エルーに「読み取らせない様にする事」だな)


 さて、ここで一番大人げ無い者は誰だろうか?


 声を荒げて「クソが!」とか「うおぃ!」とか「このぉ!」と叫んでいたダグだろうか?


 それともこれまでずっと魔法で「ズル」をして勝ち続けて来ていたエルーだろうか?


 そんなエルーのやっている事をより強い力で「返り討ち」にしている俺だろうか?


 俺がエルーへの妨害をし始めた事で場の流れが一気に変わって行く。


 エルーはポーカーフェイスを保ってはいるが、先程までの勢いはピタリと止まった。


 ダグはこのエルーの不調に「ここからだ!」と言って奮起している。


 俺は俺で魔力で脳の強化をして自分の配牌を最短で揃える事をシミュレーションし始める。


 そうやって場をあれよあれよと何度も何度も繰り返しゲームを回していたら終わりの合図をダグが口にする。


「おう!集計だ。くッくッくッ!途中でエルー、お前の運も尽きてたじゃねーか。結局はここで俺様大勝利よ!」


 そう、俺が場を支配してダグを一位に輝かせた。因みに二位は俺で、三位が名を知らぬ男。


 最下位にエルーである。


 卓に頬杖をついてエルーは「どう言う事よ・・・」とぼやいていた。

 大分不満な様子ではあるが、どうやら俺の仕業だとは分かっていない模様。


「まあ大勝利とか言ってるけど、僅差なんだよねェ、コレが。」


「おおい!エンドウ!俺が勝利の余韻に浸ってるのにソレを今言うなや!」


 そう、俺が場を整えた事でどれもコレもが僅差での順位でしかないのだ。


 しかしダグにとってはエルーに勝った部分が一番大きかったんだろう。喜びの笑顔を浮かべていた。

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