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何処までも疑われるのは覚悟の上

 俺はケンフュを微動だに出来ない位に固める。久々の魔力固めである。

 ダグはコレに「何をしてんだ?」と何も解っていない模様。


 この魔力固めを食らっている当人だけが事の本質を受け止めている状況だ。


「はい、コレで良いか?ちゃんと冷静になれたか?頭は冷えた?俺の求めは観光だ。ソレを信じられ無いって言うならもう別に何も言う事無いけど。監視を付けるなら俺の判らない様にしてやってくれよ?」


 一瞬で俺は魔力固めを解いた。けれどもその効果は抜群だ。

 ケンフュは動ける様になったにも関わらずその場から一切動く気配が無い。

 構えた状態からも指先一つ動かさない。どうやらその一瞬だけで肝が冷えたらしい。

 小さい呼吸を務めて冷静に繰り返そうとしている様子だけが見られる。


「・・・な、何者なの貴方は・・・これ程の力をどうやって・・・」


「話が先に進まないから俺の事は放っておいてくれない?それで、ああ、どう落とし前を付けるって話だったっけ?」


「・・・ダグ、命じます。エンドウの監視、暫くはソレが貴方の仕事です・・・」


 そう言ってやっと姿勢を正すケンフュ。それにツッコミを入れる俺。


「それ本人の目の前で言う事か?まあ別に俺も悪さする気は無いし、ダグにはこの国の案内やら紹介をして貰うつもりで雇ったけどさ。」


「おう、今から俺はケンフュからの直接依頼を受けるからよ。宜しく頼むぜ。エンドウからの依頼の案内役ってのは契約解除でここは一つ頼むわ。総責任者様からの指名が入っちまっちゃぁ、こりゃ断れねーからよ。ガッポリ稼がせて貰う為にも、お前さんにゃあ、この国に長く観光で居て貰いたいもんだぜ。一日幾らだ?日当って事で良いよな?こんな危険なヤツの見張りだ。高額で無きゃ納得できんぜ?」


「・・・少々早まりましたね。まあ、良いでしょう。大金「二」でどうです?」


 ダグの良い笑顔、ケンフュの少々苦い顔、俺は全く訳分らん呆れ顔と三つ揃う。


「金額の基礎が全く分からん。勝手にそっちで俺の事を危険人物扱いにしてくるの止めてくれない?」


 俺は「勝手に決めるな」と文句を付けたのだが、ここでダグがソレを無視して「乗った!」と大きな声を出す物だから決定となってしまったらしい。


「全く、つまらない出費になってしまいました。まあこの程度ならはした金ですが。・・・忌々しい、何故貴方の様な正体不明な存在がこの国に・・・しかも、敵対的では無いなんて。」


「武闘派過ぎるだろ・・・一発殴ってから考えるとか止めて欲しいんだが?」


 ケンフュはどうやら俺の事をこれ以上追究すると言った気は削がれた様だ。しかしこちらを睨むその目には今も敵意が込められている。


 それと出費の金額に関してはどうやら「はした金」などと言える位にはお金持ちらしい。

 まあ俺にはその日当の金額が俺の監視の金額として適切なのかなどは全く分からんのだが。


 しかしどうやら俺の「嫌われてるのか?」の発言をケンフュは根に持っている様で、こちらに向けて来るその視線には極寒の冷気が込められている様に感じる。


 まあそんな事はこの先で俺がケンフュとこれ以上関わらなければ良いだけだ。


「はぁ~。それじゃあ退出しても?じゃあ失礼しますよ。」


 俺は椅子から立ち上がって部屋を出る。その後ろには早速ダグが付いて来ている。

 彼は俺の監視役。こうして付いて来るのは「お仕事」なので俺はコレに何も言う気は無い。


「おうエンドウ!早速飯と酒だ!俺の奢りで良いぜ!何せ大金「二」だぞ?遊びたい放題だぜ!ガハハハッ!エンドウ様様だ!お前のおかげで苦労せずガッポリだ!」


 物凄く機嫌が良いダグ。コレに俺は一言。


「で、俺の案内役はやってくれないのか?」


「はっはっは!その程度の事なら喜んでやってやるよ!嫌でも俺はお仕事でお前と一緒に居なくちゃいけなくなったからな!色々とこの国の事も教えてやるよ!お前のおかげで、いや、ファロのおかげか?何でも良いぜ!良い稼ぎになったからな!」


 豪快に笑うダグに対して俺は小さく溜息を吐く。そしてここで俺が言い返す。


「じゃあ俺が今日、今直ぐにこの国から出て行けばダグの儲けは一切無しだな。」


「おい!冗談は止せ!お前は観光するつもりだったんだろうが!?そうなりゃお前何しに来た?って事になるだろ!」


 冗談だとダグの方も分かっている様で本気で俺がこの国を今直ぐに去ろうとしているとは思っていない。

 けれどもほんのちょっとだけ「まさか?」と思ってしまった様でちょっとそのセリフは早口であった。


 こうして俺たちは再び受付にいつの間にかシレッと座っていたケンフュに呼び止められた。何処で追い抜かれたのか?先に部屋を出たのは俺たちの方だったし、抜かれた何て事も無いのだが。


「査定金の受け取りを。割符をこちらに。」


 どうやらお仕事モードに変わっているケンフュに俺は言われた通りに割符を差し出す。

 すると中指よりもちょっとだけ大きい太さ、長さの金の棒が十四本と、それと同じ位の銀の棒が八本乗った御盆がスッとカウンターの上に出て来る。


「では、これからも貴方たちの活躍を期待しています。」


 どうやら定型文の様子なそんなセリフを吐いてケンフュが視線だけで「さっさと消えろ」と伝えて来る。

 こちらを睨んでくるその目は何処までも俺を疑っている様子。


 これには俺も「どうしたもんか?」と心の中だけでウンザリした。

 相手が俺の言葉を何処までも信用しないのであれば、どれだけ言葉を、説明を並べても通じない。

 ケンフュの性格がどれ位まで頑固なのかは知らないが、この調子だと相当に苦労させられそうだと感じてしまった。


「話は変わるが、その金はお前が全部貰っとけ。俺は別口でこうして大金稼がせて貰ったからな。それで構わねえ。」


「おー、それじゃあ遠慮無く貰っとく。」


 この黒カエルの買い取り金額の相場や価値がどれ程かと言うのは未だ俺にはサッパリだ。

 けれども言われた通りに遠慮無く俺がその金銀の棒を手に取って上着のポケットに入れるとダグはコレに「うんうん」と頷いた。


 まあ俺はポケットに入れる振りしてインベントリにそれらを入れているのだが。

 そんな事を知らないダグはさっさと受付カウンターを離れて行く。これには「俺の監視はどうした?」とツッコミを入れたい。


 けれども振り返ったダグはそんな事など気にしていない様子で。


「おう!良い店を知ってるんだ。そこへ行くぞ!」


 意気揚々とそう言って俺に構わずに先に外へとダグは向かって行ってしまった。


 そうしてダグの後に付いて行けばそこは高級中華料理店、と言って差し支えない見た目の建物。


「二人!個室!最上級を頼む!酒は最上!瓶で五本!おら、行くぞエンドウ。」


 店内に入ってすぐダグは注文を大声でする。そこに店のスタッフが慌ててやって来てダグを奥の通路に案内し始めた。


「もうちょっと上品に振舞えないの?」


「俺はここの常連だよ。この程度は許されてるのさ。」


 俺はダグに意見を言ってみるが、しかしあっけらかんとした返事で返された。

 コレにスタッフの方に俺が視線を向けたら店側もどうやら慣れている様子で一つ頷いて肯定して見せるだけ。

 どうやらダグの常連と言う言葉は本当らしかった。


 店側もどうやら大金を落としていくダグにはこの程度の態度くらいでは無下に扱えないんだろう。


 それとどうにも店内に居た客の中にはダグを見て「おぉ!」と驚いている奴らもいた。

 良いモノを見た、珍しいモノを見たと言った感じだったので客側もそこまで不快になった訳では無さそうだった。


 そうして入った個室はこじんまりとしているのだが、二人で入るにはそこまで狭いとは感じない程度の広さ。


「ここなら内緒話しても誰にも聞こえやしないぜ。さて、エンドウ、洗い浚い吐いて貰おうか?」


「別にそんな御大層な事しないでも説明が欲しかったら欲しいで素直にそう言って時間と場を作ってくれたら抵抗も無しに話はしたんだけど?」


「はっはッは!こんなのはこじ付けだ。美味い飯と酒にはある程度面白れぇ会話ってのは必要だ。今の場合はお前さんの事情、ってのがピッタリだな。ここは俺の奢りなんだ。いっちょ笑えるのを頼むぜ?」


「ふざけてる訳でも無く、しっかりと本気なのね。まあ良いよ。何処から話す?最初から?それともここに来る前に居た国の話でもする?長くなりそうだけど、部屋の占有に関しては追加料金取られたりは?」


 そんな小っちゃい心配をする俺をダグは大笑いして運ばれて来た酒の一本をいきなりガブリと大きく一口飲み込んだ。


 この後に運ばれて来た料理の数々は俺の知っている中華料理に限りなく近い物ばかりだった。

 餃子、らーめん、炒飯、チンジャオロース、ホイコーロー、小籠包、豚の角煮、エビチリ。

 恐らくは使われている素材などはこの世界独自のファンタジー食材なのだろうが、味は俺の味覚でも

 同じかそれに非常に近いと言える代物だった。


 お酒は紹興酒みたいなもの、日本酒みたいなもの、ウイスキーみたいなもの、などなど、何故かバラバラなラインナップであったのだが、どれも最上級品らしく物凄く飲みやすかった。


 そう言った理由で俺も食事とお酒が進んで上機嫌で会食は始まった。そして。


「それで、お次の観光地は何処にしようかと考えて雑に真っすぐ飛んで来てここに辿り着いたんだよ。」


「・・・頭が痛くなってきやがった。仙術ってのは本当に何でも出来ちまうもんなんだな。空を飛ぶ?地形を変える?国の流行を作り出す?新たな薬の開発?お前、何を一体目指してやがるんだ?」


「俺の説明を全部疑い無く受け止めて、即座に受け入れるダグの方がスゴイと思うけど?」


「いや、だってよぉ?目の前であんなモノ見せられちゃ信じるしかねーだろ・・・」


 料理を堪能しつつ、酒を楽しみ、ダグからの時折飛んで来る質問に答えながら俺は自身の身の上話を終える。

 するとダグはコレを全部「真実」だと受け止めて自分の想像の域を超えた現実に「頭が痛い」などと口にしている。


 因みに「ドラゴン」の事は喋っていない。コレを言ってしまうとその内にファロとケンフュの事もポロッと漏らしてしまうかもしれないから。


 あの二人はどうやらその正体をバラしたりなどは無く、隠してこの国の一人として生きている様子だった。

 なのでそこに俺の方が勝手にその事を吹聴してしまうのは駄目な事だろう。


「頭の痛くなりそうな、と言うか、痛くなった話だってのが駄目な点だな。俺は言ったぜ?笑える話を一丁頼むってな。」


「ダグ、ソレは個人の受け止め方次第じゃないかな?今の話を笑って受け入れる奴を俺は一人知ってるよ。」


「何だよ、その剛毅な奴ってのは・・・今のエンドウの話の何処に笑える要素があった?」


「うーん、そいつにとっては全部、かな?」


「・・・頭のおかしい奴だぜ、そいつ。」


「俺もそう思うけどね。」


 もちろんその一人とはドラゴンの事である。アイツなら何の話を聞いても面白がるに違いない。

 今頃は何処ら辺に居るのかも連絡一つ無いが、アイツの事を心配するだけ無駄な事は無い。


(案外この国にも来ていたりして?その時にはファロもケンフュも居る事だし、その二人がドラゴンが来た事に気付かない訳が無いだろうしな。そうなれば何かと一悶着起きていそうだけど、そんな感じの話は無さそうにみえたしな)


 そんな事を考えたのだが、ファロに関してはそうじゃない可能性もある。

 最初に俺が映像で見せた「ドラゴン」への反応だ。アレは一度見た事があるからなのか、いきなり俺が妙な真似をして驚いただけの反応だったのか、ちょっとそこら辺の判断は難しい。


 ファロの正体が「ドラゴン」であると言う事を俺が見抜いたよ、と伝える為にアレを見せたのだが。

 当の本人がそれをどの様に受け止めたかは俺には分からないのだ。


(いきなり見せるもんじゃ無かったなアレは。とは言え、単刀直入でまどろっこしいのは無しって感じで話を先に進めるにはあれが一番効果的だったんだけどねぇ)


 時すでに遅し、後悔先に立たず、手遅れ、そんな言葉を思い浮かべてしまう。

 もうちょっと慎重に話の流れを作っておけばファロの警戒心をもっと小さいモノにできたのではないかと思ってしまう。

 が、ソレももう無理な話だ。今更だ。この国を早く見て回りたいと言う気持ちが無かった訳では無い。ソレが少々作用してあんな早まった事をしている、と言うのも否定できない所である。


 長々と今した様な俺の話をするには、あの時のシチュエーションでは面倒だと感じてしまったのは致し方ない。

 時間はある、などと確かあの時は言ったと思うが、それでも俺は早く話を切り上げて観光の続きをしたいと、心の隅で思っていたのは事実だ。

 こうして美味い料理と酒があの時にあったら、今とは違った状況になっていたはずである。

 そうなればケンフュにいきなり飛び蹴りを放たれ、あれ程の敵意をぶつけられると言った事にはならなかったのでは無いか?と思ってしまう。


 時間を巻き戻す、なんて事はできるハズが無いのだから、その時の事をアージャナイ、コージャナイと思い返すのは無駄な話だ。俺はこの事を忘れる事にした。


「おう!飯も食った!酒も飲んだ!後は女だ!」


 支払いを終えたダグは店を出るなりそんなセリフを大声で吐き出す。随分と酔っぱらっている様子だが。


「普通の宿で良いんだが?」


 紹介してくれるならそんな「娼館」などではなく、普通の宿で良いのだ。ソレを言えばダグは。


「ツマンネー事言ってんじゃねーって!オラオラ!行くぞイクゾいくぞ~!」


 ヤル気がマンマンダグ。そんなに酔っぱらっていて下は起つのか?と言ってやりたい。

 アルコールは脳の性を司る部分を麻痺させる効果があるはずだ確か。

 そんなほろ酔いを超えた状態で若くは見えないダグは果たして本当に股間の一物が今夜、役に立つのだろうか?


 もちろん俺は酔って無い。こう言うと「酔っ払いの言うお決まりのセリフ」だなどとツッコミされるかもしれないが。

 本当に俺は酔っぱらっていない。身体を魔法で強化しているとどうにも内臓の方と言った部分もその働きっぷりが相当に上がるらしく。


(もう既にほろ酔いすら醒めて来てるんだけどね。このままダグを放置していくのも出来ないしなぁ)


 後方すら見ずにダグは道を先へ行く。俺を案内する気などそこには微塵も無い。おい、俺の監視役、仕事しろ、とツッコむところだ。


 しかし大抵の酔っ払いと言うのは世界共通と言う事か。前しか見えていない。自分のやりたい様にしかやらない。

 酩酊状態とまではいかないモノの、ダグは非情に上機嫌で右に左にとふらふら歩いている。典型的な酔っ払いだった。


「で、何処まで行く気なんだ?」


 俺が聞いたのはもちろん今ダグが向かっているだろう「娼館」の事である。

 既に今、色町に踏み込んでいる状況である。そこかしこにセクシー衣装の女たちが客引きをしているのだ。

 この通りには男の通行人が沢山。その全員、とまでは言わないが、それでも七か八割は娼館目当てでの者たちなんだろう。

 今夜抱く女の品定めでもしているのか、目の保養に来ているのか、道端に立つ、性を前面に出した衣装の女たちをじっくりと観察している者たちも居る。


 そう言った男たちを捕まえようと女たちもあの手この手と言った動きで男たちを誘惑している。


 そんなやり取りがそこかしこでされているのにダグに対して近づいて来る者は一人も居ない。

 だからこそ酔っ払いのダグが道の中央を右、左にと揺れながら歩けるのだが。


 その為に非常に歩きが遅いダグ。しかしそんなチンタラした歩く時間も俺にはこの色町の観光ができるので悪い事でも無い。


 赤、ピンク、紫などなどの明かりの提灯?で店先を照らす店が多い。

 暗くなった通りはそう言った光でライトアップされて怪しい、妖艶な雰囲気で男を誘致している。


「おう!ここだ!入るぞエンドウ!ガハハハ!おーい!邪魔するぜぇ!」


 ソレはこの通りで一番大きく、立派な建物。店の前には看板も無い、呼び込みも居ない。色付きの提灯なども無く、しかし入り口ははっきりとした白の光でライトアップされている。

 非常に清潔感も感じさせるその外観の建物は一言で言えば「浮いている」のだ。


 そしてダグがその暖簾を潜って店内に入ってしまうので俺もそれに続いた。

 そして内装を見てここで俺は思った事を口にする。


「おい、ここってもしかしなくても、高級店じゃないのか?」


 中の内装が上品に整っている印象なのだ。飾ってある品も、絵画も、どれもさり気無く置かれていてどうにも洗練されていて俺としてはこの国でこんな店に入るのは初めてだし落ち着かない。


 ダグは何だってこんな高そうな店に来たのか?と思ったが、本当にここはどうやら「お泊り」が出来る娼館らしく。


「あらやだ、ダグの旦那じゃ御座いませんか。お久しぶりですね?」


「おう女将!長らく顔を出さなくて済まなかったな!今日は泊りだ。ミーレは居るかい?」


「ふふふふ・・・ミーレは身請けされて出て行っちまいましたよ。旦那が来ていなかった間にねぇ。」


「マジか!誰だ!俺のお気に入りを搔っ攫って行きやがったのは!?」


「ダメですよう。しっかりとした身分で、お金の稼ぎもあって、幸せな身請けだったんですよ?ミーレが時々店に顔を出してくれますけど、そりゃもう幸せそうなんですから。」


「うむむむむゥ!?なら俺も祝い金を出さなきゃならねーなぁ・・・また次に顔を見せた時にでも渡してやっておいてくれねーか?」


「イヤだわ~。旦那からそんな金貰ったらミーレが申し訳無く思っちまいますよ。新しいお気に入りを作って内の店をこれからも御贔屓にしてくださいな。ミーレには旦那のお気持ちだけ伝えておきますよ。」


「くぅ~・・・しょうがねぇ!じゃあ俺に合った娘っ子は?女将が見繕ってくれ。」


「それじゃあお部屋の方にご案内を・・・あら?そちらの方は?」


 ダグがこの店の最高取り締まり役であろう三十台前半と言えそうな色気抜群の女性とお喋りを交わす。


 その女将さんがその話の終わった際に俺を見つけてダグの顔を見て言った。コレに答えるダグは豪快に笑い。


「がははは!こいつは俺の友だ。エンドウと言う。飯も酒も済ませて来たからな。後は女だ!って事で連れて来てやったんだ。コイツにもイイ女見繕ってやってくれ。」


「あら、そうでしたか。では新しいお客様にご挨拶をば。私はここの店主をしているエマルダと言います。以後お見知りおきを。それにしても、この国では見ないお召し物ですねぇ。それに顔つきも。・・・旦那とは以前から御知りたいでしたか?」


「あー、お初にお目に掛かります。エンドウです。えー、本日初めてダグとは知り合いました。俺は普通の宿を紹介してくれって言ったんですけどねぇ。女性の紹介は要らないんで、もうこんな時間だし、寝るだけで良いので狭い一部屋貸してくれると助かります。代金は如何ほどに?」


「あらやだ。旦那と今日初めてでこんなに仲良くなりましたの?ふふふ!コレは驚きですねぇ。」


 何がどう面白くて、どう驚く所なのかは全く説明が無い。女将さんはどうにもその後にちょっと不機嫌そうに言う。


 濡れた様な黒い艶髪、ちょっと垂れ目で泣き黒子、柔らかい雰囲気と言った感じの女将さんのその調子は、しかして不機嫌そうと言えども纏う色気は微塵も減らない所かちょっと増えた印象。


「ソレは横に置いておきまして。此処まで来て女無し、何てのは無しにしてくださいな。無粋も極まりますよ。旦那の紹介ですし、お安くしておきます。」


「あー、いや・・・オイ、ダグ、何とかお前も言えって・・・居ないし・・・」


 既にダグは店の奥に何時の間にか消えていた様で姿も見えない。


「あの、俺この国に本当に今日来たばかりで金銭価値も全く分からないんですよ。女を付ける、って言ったって、今日稼いだ金で足りるかも分かっちゃいないんですけどね?素泊まりだけなら最悪でもイケるかな?って考えでの発言でしたから。」


「あら?本気で女は要らないので?しかも稼いだ?あらら?何だかエンドウ様が一体今日どんな過ごし方をしたのか少々気になってまいりました。・・・そうですねぇ。ならば、私にそのお話を聞かせちゃくれませんか?そうしたら貴方のお人柄がもっと良く解ります。そうしたら相性の良さそうな子も見繕う事も出来ます。お話をして貰えるなら、今日の所は素泊まりもソレで許しましょう。どうです?」


「・・・しょうがない、のかなぁ?まあ、確かにここで店を出て行ってしまうのも、面白く無いよなぁ。あ、そう言えば俺、この世界に来てこう言った施設に一度も入った事が無い?」


「あらら?ソレは・・・御年は幾つで御座いますの?見た目ではお幾つか分かりませんわねぇ。」


 クスクスと笑って女将さんは俺を揶揄ってくる。俺の見た目が若く見えてでもいるんだろう。でもコレに俺は何の不快も無い。

 別段こうして童貞と笑われてもソレを怒る理由なんて俺に無い。今日あった出来事を女将に話して聞かせる事を了承する言葉だけを返した。


「話が長くなりそうなので何処か落ち着いて話せる場所にお願いします。あ、それと宿泊料金幾らです?」


「あら?動じないのですねぇ。ふふふ、今日は特別です。お金なんて要りませんよ。ここは求める男に女を宛がう店ですよ?女は要らないけど一泊させてくれ、なんて言う客から金なんて取れば懐が浅いと同業に笑われちまいます。しかもダグの旦那からの紹介の客ですよ?付けるなら旦那の支払いにこっそり付けておきますって。でも、二度目は御座いませんよ?」


 クスクスとそう笑う女将さんは増々色気ムンムン。そんな事を言い終えてスッと俺に背を向ける女将さんは「こちらにどうぞ」と振り向いてこちらに流し目を向けて来て店の奥へと歩いて行ってしまう。


(随分と自然に誘惑して来るんだなぁ。貫禄が凄い。所作が深い。包容力もあるとくれば相当に女将さん狙いの客は多いんじゃないだろうか?)


 そんな事をボンヤリ考えつつ俺はその後ろに付いて行った。


 通されたのは別段これと言って可笑しな所では無く、只ぽつんと中央にテーブル、椅子が揃っている部屋。


「お茶を今持ってきます。待っていてくださいな。お話、楽しませてくださいね?」


 そう言って部屋の奥に消える女将さん。この間に俺は話す内容を何処までにするか纏めておく。


(まあドラゴンの話とか、魔法の話は避ければ良いくらいか?あんなにニコニコ嬉しそうにされてるのが演技なのか、本心なのか分からんなぁ)


 女将さんの態度の読め無さは凄い。長年の男相手の商売で身に着けたのか、或いは天性のものであるのか?その両方か。

 幾らダグの紹介と言えどもだ。俺はこの国には今日やって来たばかりで、そしてダグとも今日知り合って間もない存在だ。これ程の対応をして貰える要素とは思えない。

 何かしらの思惑があるのでは無いかとちょっとだけ疑う部分が俺の脳内を過ぎる。


 そんな今考えなくても良い下らない事を思い浮かべていればすぐに女将さんはその手に茶器を持って戻って来た。


 そして美しい所作でテーブルでお茶を入れ始める。その際にお茶の良い香りが部屋内に溢れてリラックス効果抜群だ。


 そうやって差し出された茶を一口飲めば口内には微かな甘みを、そして鼻腔には複雑な花の香りが吹き抜ける。


「美味しいですね。コレ、かなり高い物では?」


「あら、コレは特別なお客様にお出しする用なんですよ?コレに見合うだけの楽しませて貰えるお話を期待させて貰います。」


 ちょっと悪戯っぽく笑う女将さん。一つ一つの何気無い言葉や動作に色気が乗るので俺としては何ともコレには小さく溜息が漏れかける。


(ずっと向き合ってると妙に疲れるなぁ。さっさと話を終えて寝床に案内して貰おう)


 ファロやケンフュが人とは異なる存在だと言う所と、俺が魔法を使える部分をカットした話をすれば良いだろう。


 俺はこの町に入る前に見たファロが決闘?をしている辺り部分から話を始めた。

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