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悪目立ちをやはりここでもしてしまうんだな

 荷物袋へと解体した部位を入れて運ぶ。もちろん帰りもあの特急馬車である。


 待たせている場所へと荷物を持って運び入れたらその馬車の御者が。


「おいおい、一気にそんな量を一度で持ってくるって、どう言う事なんだよ?」


「お前は黙って自分の仕事だけやってりゃ良いんだ。余計な事は気にすんな。俺だって文句の一つも付けてェ所なんだぞ?待ち時間が短く済んでお前は儲けが出てるんだから、ソレを喜んどけ。」


 御者の男は俺を一瞥してから微妙な顔つきになってダグロンに叱られている。

 しかし俺に対して何も言ってこないので納得は行かずとも黙っているつもりなんだろう。


 しかし帰りもあのドッタンバッタンになるのかと思って心配したのだが。


「帰りは何でゆっくりと?」


「ああ?そりゃこんな大荷物積んであそこまでの速度が出せるはずねーだろが。」


「あー、そこは単純にそう言う理由・・・」


 確かにあんな状態では積み込んだ荷物があっちにこっちにと跳ね上がってしまうだろう。至極当然な理由だ。

 それにそもそも黒カエルは重量がある。ソレも二体だ。そこまでの速度がそんな荷物を積んで出せるはずも無い。


(いや、無理すれば出せそうな程に逞しい馬なんですが、それは?)


 気になっても口にはソレを出さない。だって「じゃあ、出します」何て事になったら俺は我慢できずに馬車を降りるだろうから。


 こうして帰り道は長閑な風景を眺める余裕が出来た。けれどもソレも何時しか飽きる。


「で、この魔獣って幾らで売れるんです?相当な金額になるんで?」


「ああん?そんなのは売ってからのお楽しみで良いじゃねーか。大金、とまでは言わねーが、コレ一匹でそこそこ遊べる程度の額にはなる。まあ俺以外が相当な数を持ち込んだりしていなけりゃな。」


 相場の値崩れが無ければどうやら良いお値段になると言うのだが。


「あそこはダグロンの縄張りじゃ無かったの?」


「そんなもんはねぇな。只あの魔獣は俺くらいの実力が無けりゃ狩れねぇってだけだ。そんでもって俺くらいの力があれば無理してあそこで狩る必要もねぇ。そんで、こいつだ。」


 そう言って指差すのはこの馬車の床。


「狩場が微妙に遠いんだわ。だからこいつを使わねーと割が合わねーてこった。そんで、お前も体験しただろ?」


「コレに耐えられるのがダグロンぐらい、って事?まあ確かに慣れる、って言う次元じゃ無いね。ソレでこの馬車の運営も成り立ってるって事なのかね?」


「まあ何時しか俺専用みたいなモンになっちまってるが。こいつは別に他の客も使ってるぞ?」


 俺はその事実に戦慄が走る。この馬車を利用する客が他にも居る事に。


「とは言ってもな。相当に急ぎの奴らが切羽詰まって使うくらいだ。数は多くねぇし、毎日利用客が居る訳でもねぇな。そんで、もう二度と利用しねえ、ってな奴らも出る訳だ。」


 納得した。幾ら急いでいようが、この馬車の揺れは許容できる範囲を遥かに超えていると思うから。


 こうして帰りは行きと違って相当に時間が掛かって町へと戻って来た。


 専用の降車場に入って行く馬車。俺たちはソレが停止した後にゆっくりと荷物袋を持って馬車を降りる。

 俺が一つ半、ダグロンが残りと言った形だ。ダグロンは「よっこらせ」と掛け声を出してその袋を担いでいる。相当に重そうだ。


「しっかしお前が術師だとはねぇ。此処までの熟練者なら何をさせても金なんて簡単に稼げるぜ?羨ましい限りだ。とは言っても、それだけの事が出来るまでは相当に修行を重ねて来た苦労ってのがあるんだろうけどな。」


「あー、俺はそう言った事は無かったんだよなぁ。スマン。」


「あーあー、そうかよ。天才様ってのはやっぱ嫌なモンだぜ。ホレ、ぼさっとしてねーで売りに行かなきゃ何時まで経っても重いまんまだ。さっさと行くぜ。」


 そんな雑談をしながら俺はダグロンの後に付いて行く。

 そして戻って来たのはあの建物。今回はダグロンと一緒であるが、やはり俺の姿は目立つ様で注目を浴びている。


 持ち運んでいる荷物袋が相当にデカいものだから余計に話題に上がるようで。

 どうやらダグロンが一緒なので俺はその荷物持ちと言った予想で周囲の者たちはコソコソと俺の値踏みをしている様子だった。


 ダグロンが狩って来る獲物がこの黒カエルと言うのはどうやら知れ渡っている様で、その重さも周知されているらしい。


「おい、アイツ、あんなデカい袋を持っていても平然としてるぞ?」

「マジかよ。アイツ俺の所で雇え無いかな?」

「止めとけよ。あの「大熊ダグ」と対等な態度で喋ってやがるんだぞ?怖すぎだろ・・・」

「中身がどんな奴だろうとあの大荷物を一人で持ってる。有用だろうが。何とか内に引き込めねーかね?」

「おい、アイツを最初に見かけた時はファロンと一緒だったと思うんだけど?」

「はぁ?あのファロンと?マジかそりゃ?」

「だったら余計に近づかねー方が良いんじゃねーか?」

「いやいや、あの怪力は欲しい所だぞ?アイツが荷運びしてくれるなら持っていける量も大幅に増やせるし、持ち帰れる量も、稼ぎもそれで・・・」

「待て待て、もうちょっと様子見しねーと危ない橋を渡る可能性もあるぞ?ここは・・・」

「おい待ちやがれ。お前そうやって俺たちを出し抜いて先に接触しようと考えてるだろゴラァ!」


 などなどとヒソヒソ話を遠くでしている集団が居たりもしたが、コレを聞こえ無かった事にする。

 耳が良いと聞かなくても、聞こえなくても良い様な内容の会話を拾ってしまう事もしょっちゅうだ。


 そうやって建物の中には居ればそのままダグロンはどうやら買取カウンターと思わしき所にまで直進していく。

 俺もその後を着いて行く。ここの利用は初めてなので知らない事ばかりだ。だからダグロンの行動を見て勉強である。


 魔力ソナーを使えばそこら辺の事は多分一瞬で把握できると思うが、今回はそれらを滅多な事では使わない事にしている。

 そんな縛りも「面倒だな」とか思った時にはすぐさまポイしてしまうのだろうが。


 今はまだこの国を楽しんでいる時間である。緊急の問題に直面した、と言った事にならない限りは魔力ソナーはまだ使う気は無い。


「例の奴を二体だ。何時もの形で切り分けは終わってる。」


 慣れた様子でダグロンはカウンターに袋をドサリと置く。

 ソレを絢爛なチャイナドレス?を着た受付嬢が冷たい声音で「はい、分かりました」と表情一つ変えず言う。


 ここでダグロンに顎で指図されたので俺の持っていた荷物もカウンターに置く。

 その際に受付嬢がちょっとだけ驚いた顔をして直ぐに表情を元に戻す。


「・・・珍しいですね。ダグ、あなたが誰かと共に狩りをするなんて。」


 その受付嬢は銀髪ロング。その瞳は赤。非常に美人なのだが、何故か見ていると寒気を感じそうな程に無表情。

 しかしその一言にはホンの少しだけ温かみが含まれていた。


「けッ!ファロの奴が俺にこいつを押し付けて来たんだよ。だから、しょうがなく、だ。まあ、そのおかげで面白いモンも見れたし、コレでアイツから受けてる借りも返した。悪くねぇ。全く、悪くねぇな。」


 ダグロンは二ッと笑う。元々強面であるからして、笑ったその顔は余計に凶悪さが増している。

 だがソレを見ても何も変わらぬ顔してその受付嬢はバックヤードに行ってしまう。


 そうして戻って来た受付嬢のその背後には屈強な男が三名。

 コレは恐らくはこの黒カエルを運ぶための要員なんだろう。

 その男たちが凄く重そうにしてカウンターに置かれた袋を担いで荷車に慎重に乗せていく。


「査定をして金額を算出しますので、少々のお時間を頂きます。こちらの割符を無くさない様に持っていてください。」


 そう言ってダグロンにでは無く俺へと渡されたのは奇妙な文字の掛かれた割符。

 まだ俺はこの国の「文字」の方は学習していないのでまるきり書かれている字が分からない。


 ここでダグロンに「行くぞ」と短く言われ付いて行くと待機する専用のスペースだろうベンチの並んだ壁際。

 そこにドカリとダグロンは座って俺にその隣に座る様にジェスチャーをして来る。

 コレに素直に俺は横に座ってダグロンへとお願いを申し出る。


「お金の面も全く分かって無いんでそこら辺も教えて欲しい所なんだけど、良い?」


「酒と飯を奢れ。それで教えてやるさ。今回の売却額の七割はお前が持って行け。狩ったのはお前だしな。それと、傷があの額にある一個だけだからな。買取金額は一割か、一割半は上がるだろうさ。あんな止めの刺し方は見た事がねぇ。アイツの額は絶妙に硬いんだ。槍で突いても一撃で刺さる何て事はあり得ねんだが。ソレも術を使えばあんな風に仕留めれちまうんだから、恐ろしいもんだぜ。」


 正面を向いてこちらに顔も向けずにそうダグロンが言ってくる。

 褒められているのか恐れられているのか微妙なセリフだ。


「報酬は半々じゃ無くて良いのか?まあ貰えるなら貰っておくけど。」


「その金で案内人を雇うべきだな。お前一人で歩き回っていれば目立つ。そうなりゃ絡んでくる奴らは多いぞ?」


「はぁ~、そこはどうしようか悩むんだよなぁ。」


 観光を全力で楽しもうとするのならば、やはり魔法で姿を消さずにこのままの状態で楽しみたい。

 ここで暮らしている人々との交流とか触れ合いなども楽しみたいと思うのだ。


 一々状況に合わせて魔法を掛けたり解いたりとするのは面倒だし、忘れがちと言った事もある。


「そこで・・・俺の出番だ。どうだ?ここの事なら九割九分は知ってると言っても過言じゃねえ。それに俺が隣に居りゃ絡んでくる奴も「何処までも頭の悪い馬鹿」か「新参者」くらいで、全部俺が後腐れ無い始末をつけてやるぜ?どうだ?雇わねーか?」


「雇う。」


「即答かよ。まあこっちは楽して稼げるから良いけどな。」


 ダグロンが居てくれれば観光も楽しめる、絡まれない、この国の事情も教えて貰えそうだ。

 良い事尽くめで悪い部分なんて何処にも無い。雇わない訳が無い。


「案内人なんて仕事まで請け負ってるとは思って無かったなぁ。」


「はっ!お前さんを放っておいたらここで何をされるか分かったもんじゃねーと思っただけさ。」


「ファロンにも言ったんだけど、俺はこの国に観光に来ただけで何か大事を企んで入って来た訳じゃ無いんだけど?」


「派手に術を町中でぶっ放されちゃ困るって言ってんだ。そもそも政府中央が術者を囲ってやがる。お前もバレたらしょっ引かれて術の研究に専念させられるぞ?」


「えー・・・何ソレ?さっき売った魔獣から何か察せられてその政府に連絡されるとか無い?」


「ソレは無い。俺でも調子の良い時やら運が良い時は額に一撃で仕留められる時もあるからな。ソレが今回は二回連続で、ってなコッタ。それにケンフュはそんな報告をする奴じゃねーしな。」


 そのケンフュと言う人物が誰を指しているのか分からない。そんな顔をしていたのを読み取られたのかダグロンが追加で説明をくれる。


「ケンフュってのは受付の対応してた女だ。アイツはここの最高責任者だぜ?」


「・・・え?は?何言ってんの?マジで?」


 驚かされた。あの冷たい印象のまるで作り物の様な美しい受付嬢がこの場の最高責任者とか、普通は一見では絶対に分からないだろう。


 そしてその顔を俺が脳内でもう一度キッチリと思い出した時、ハッと気づいた。


「え?まさか?ファロンと何か関係がある人物だったりする?」


「・・・お前、何で気づいた?」


 俺の突然の言葉にダグロンは非情に驚いている。しかし俺がその理由を口にすると。


「いや、何と言うか、共通点が多い、から?」


「ソレでそこまで一気に考えを飛躍できるものか?まあ、良いか。言っちまっても。ケンフュはアイツの妹だ。」


 コレを聞いて俺は「何て?」と脳内だけで盛大に驚いた。思考が一瞬止まる程には驚かされている。


「イモウト?・・・いや、信じられ無いんだけど?」


 裏の事情を知っている俺としてはあの「ドラゴン」に妹とかあるのか?と理由の分からない混乱に陥る。

 確かに見た目の浮世離れした美しい見た目、そして雰囲気、銀髪などで関係者かと思ったが。

 しかしそこから「イモウト」などと言った部分にぶっ飛んで行くとは思っていなかった。


「あ、そうなると俺は監視される対象?」


「何を言ってんだおめぇ?」


 ファロンが既に妹のケンフュに俺の事を連絡していた場合、既に彼女にはファロンが「ドラゴン」である事を俺が見抜いた事を教えているはず。

 そうなると俺がその内にケンフュも同じ「ドラゴン」だと言う事にもいずれ気づく、と思われるはず。


「割符をダグロンじゃ無く俺の方に渡して来たのもその為なのかぁ・・・」


「おい、これからは俺を呼ぶ時はロンは要らん。ダグって呼べ。」


「・・・今度は何の話?」


 本気で分からない。ダグロン、ファロンと、確かに名前にロンが二人とも付いているが、それは偶々だと思っていたのだが。


「ロンって言うのはこの国じゃ敬意や畏敬を込めて付けてるみてーなもんなんだ。親しい間柄じゃ付けて言わねえのがほとんどだ。俺がロンを付けたりする時は周りに人の耳がある時にくらいしか使わん。アイツを、ファロの野郎の事を敬ってやがる奴らで頭のイッちまってるのも少なからず居てな。そいつらに俺が奴を呼び捨てしている事が耳に入ると突っかかって来るんだよ。面倒クセェ。」


 ロンを付けたり付けなかったりはそう言った事の為と言う。

 そうなるとダグもファロも俺への自己紹介で自分の名前に「ロン」を付けて名乗ったのは何故なのか?


「お前はこの国の常識を知らんだろ?どう見ても余所者だからな。言っただろ?敬意や畏敬をロンに込める、だからお前が俺やらファロを何も付けずに名を呼べば、ソレを聞いたアホ共がお前に対してイチャモン付けて来る。何でひょろひょろなテメエみたいな奴が「ロン」付けで呼ばないんだ、ってな。そこら辺を考慮してだ。面倒は避ける。だけどお前を侮ると痛い目を見るってもう分かったからな。俺は呼び捨てにされても許すぜ。俺はお前を対等だと認めた。寧ろ、お前さんが俺よりも、ファロの野郎よりも強いと自分を評してるのも納得いったぜ。術者は理不尽な強さを持ってるからなぁ。」


「それって強いだけで尊敬されるって事?基準が単純過ぎない?」


 どうやらこの国は単純にその身に着けた「強さ」で人の価値の上下が決まる様で。


「おいおい、ちょっと間違ってるな。強いは強いでも、腕っぷしだけって訳でもねぇんだ。その道で一本筋の通った力量を示せば敬意の対象だぜ?」


「ああ、職人とか商人もしっかりとそう言った対象になるって事ね。」


「・・・妙な部分で理解が早い所が不気味だぞお前?そういや名前何て言うんだ?聞いて無かったな?」


「遠藤。宜しく、ダグ。」


「おうよ!」


 それにしてもファロンの下の名が「ファロ」であるのが妙な感じだ。

 ロンを外したら「ファ」になるのでは?とか下らない事を考えるが、ソレを口には出さずにおいた。


 俺とダグはここで握手する。するとそこに人影が入って来る。


「ダグ、この後少し時間は有りますか?それと、そちらの「エンドウ」と言いましたか。貴方も一緒に付いて来て下さい。」


「・・・おい、エンドウ、お前いつの間に何やらかしやがったんだ?」


 ダグが俺に向けて「困った奴だな」みたいな目を向けて来ているが、全力で否定したい。

 俺は何もやって無い。いや、やった、いや、やって無い。やっぱりやって無い。


「ダグとずっと一緒に居たじゃん。俺何もしてないじゃん・・・」


 ここで俺はダグに向けて「ふざけんなよコラ」と言った視線を返した。しかしこれにダグが怯む事は無い。


「返答は?」


 ここで冷たい声音が入り込む。たった短いその一言で全ての流れを自らに吸い込むケンフュ。


 ダグはそれに対して「わーったよ」とぶっきらぼうに。俺は小さな溜息で返答とした。


 そうして案内されたのは本格中華料理店の、その特別個室の様な部屋。

 その部屋の中央の円テーブルには良い香りのするお茶が用意されている。


 俺とダグは素直に椅子に座ってその茶を飲む。

 そこで俺の正面の位置に座ったケンフュが冷たい眼差しで質問してくる。


「問います。貴方は何をしにこの国に来たのですか?」


 ケンフュのこの単刀直入な話の斬り込み方には俺もドン引きだ。もうちょっと徐々に距離を詰めて来て欲しいと思ってしまう。


「何で疑いの目で見て来るのすぐ。俺は別に悪巧みの為にこの国に来た訳じゃ無いんだってば。只の観光。俺はこの世界の色んな場所を見て回りたいだけなの。解って?」


「兄が貴方の監視を私に頼んできました。珍しい事です。何があったのかを教えてはくれませんでしたが、貴方を相当に警戒しています。何をしたのですか?」


「そっちの聞きたい事だけバンバカと質問ばかりだなぁ。俺がソレに答えなきゃいけない義務は無いと思うんだけど?」


「話して頂けないのであれば力づくでも喋って貰いますが?」


 冷たさに追加で低い声音が加わる。コレに隣に座るダグが眉根を顰めてケンフュを見ている。

 どうやら威圧が含まれているらしいようだが、俺にはそんなモノは通じない。


「ケンフュ、って言うんだよね?お兄さんのファロは俺と即座に敵対する道は選ばずにここに連れて来て様子を見る事にした。けど、君は嫌がる俺に対して無理強いしようとしてる。コレは俺の機嫌なんて関係無く、嫌われても構わない、敵と見做されても構わない、と言った覚悟と捉えて良いのかな?お兄さんの頼みを無下に蹴っ飛ばす行為だと思うけど、そこら辺はどう思ってるの?」


「私はこの武侠組合の総責任者です。貴方はその組合に名を連ねました。ならば私の質問に対し、それに応える義務が貴方にはあります。それでも答えませんか?」


「拒否する。そんな義務が発生するなんて知ったこっちゃ無いね。それで俺が気に入らないのであれば除名でも、永久凍結でも、立ち入り禁止でも何でもすれば良いと思うよ?その場合は持ち込んだ魔獣のお金はダグが全額受け取る事になるのかな?それとも素材は全て返却される?」


 俺がキッパリと拒否の速答だったのでコレにはケンフュも少々驚いたのか一瞬だけ眉根を顰めた。


「・・・ダグ、どう言う事ですか?」


「どういう事も何も、俺は何も知らねーよ。事情なんてそれこそファロの奴に直接ケンフュが聞けば良いだろうが。コイツとは今日知り合ったばかりだぞ?しかも言っただろ?ファロに押し付けられた側だ、俺もな。」


「兄はここに余り寄り付きません。探すと行方を直ぐに眩ませます。聞きたくても次に姿を見せるのは何時になるか分かりません。」


 何やら妙な話の流れになりそうだったのだが、ここで不意に俺は思った事を口にだした。


「嫌われてるのかな?」


「その様な事はあり得ない!」


 突然にかなり強めにテーブルを平手て叩いて立ち上がるケンフュ。その顔は俺を睨んでいる。

 どうにも俺はケンフュの地雷を踏みぬいてしまった様子。


「良いでしょう。先ほども言いましたが、貴方が教える気が無いと言うのであれば、力づくで喋りたくなるようにして差し上げます。」


「イヤですけど?」


「・・・」


 怒りの感情が籠もった冷ややかな顔。ケンフュのソレを俺は速答でこれまた返す。

 そうすると勢いがコレに殺されたケンフュは一瞬黙る。その隙に俺は追加で言葉を続ける。


「別に登録解除はできない訳じゃ無いんだよなダグ?だったら今この場、この瞬間で俺の意思は登録解除って事で。手続きして貰えます?そうしたら責任者様の我儘に付き合わなくても良いよな?ダグ?」


「あー、まー、そうだな。此処の関係者じゃ無くなるって事で、回避できるな。」


「そんな事を私が許すとでも?」


 どうやら責任者様が俺の訴えを許してはくれないそうだ。何処までも面倒である。


「許すも許さないも、知らんけど?じゃあもう二度とここには俺の方から自主的に立ち入らない、って事で。もう用が無いんで、お暇しても良いよな?」


「貴方に用が無くとも私の方はまだ話があります。退出は認めません。」


「何処までも面倒な分からず屋だなぁ。」


「・・・私の事を相当に舐めていますね?」


「うん。」


 この時ダグが即座に椅子から立ち上がって壁際に寄った。


 次の瞬間には俺の顔面へと飛び蹴りが。

 しかもまるで仮面なライダーの綺麗な必殺の飛び蹴りな美しいフォームのソレだ。


「・・・びっくりした。いや、マジで。」


 ケンフュの蹴りは俺に当たってはいない。俺の纏う魔力の膜が受け止めている。何らの痛痒も俺には届かせていない。


 コレに後方宙返りで綺麗にテーブルの上に着地するケンフュは何やら構えを取って俺への警戒をし始めた。


「貴方は本当に何者なの?」


「こりゃたまげたぜ。ケンフュの蹴りを受け止めたのか?・・・いや、何だ?違うな?妙な感じだぜ・・・」


 ケンフュもダグも驚いている。まあ俺も驚いている。

 いきなり飛び蹴りして来る系美女である。そんなジャンルを誰が好むと言うのか?


「どうすりゃ良いかなダグ?こんなに手が早いとは思っても見なかった。どう落とし前付ければ良いのコレ?」


「・・・知らん。もう俺には何かが言える状況じゃねえよ。」


 俺はダグにこの後どうすれば良いのかと聞きたかったが、しかしコレの返答は「無理」と言った内容。


 コレにどうしたモノかと悩む暇も無く今度はテーブルが俺に向かって飛んできた。


 ケンフュがテーブルから降りてソレをこちらに蹴り上げて来たからだ。


「・・・ダグ、助けてくれない?どうやら本気で向こうはヤル気みたいなんだけど・・・」


「もうこうなると俺でも止められねーよ。寧ろ、何とかしてくれとこっちが頼みたいくらいだぜ。」


 敵意満々で俺を睨むケンフュは次に椅子を掴んでソレを俺に向けて叩きつけて来た。


 因みにテーブルは普通に受け止めてそのまま部屋の端に寄せた。高そうだったから壊れるといけないと思って。貧乏人思考である。


 次に俺に迫るその椅子も掴む訳で。無抵抗でぶっ叩かれる趣味など俺は持ち合わせていない。


 俺が椅子を受け止めるとケンフュの方は直ぐにソレを手放して次の動きに移っていた。流れる様な連携である。


 そうして放たれたのは見事に美しいフォームの後ろ回し蹴りである。未だ座っている俺の胸にその足が吸い込まれる様にして迫るが。


「無駄だけどね。もうそろそろ反撃した方が良いのか?まだ沸騰した頭の熱を冷ます為にもう少しだけ受け止めた方が良いのか?」


 俺の纏う魔力の膜でその蹴りの全ての衝撃を吸収してしまう。そのおかげで俺は無傷。

 本当に魔力様様である。感謝してもしきれない。コレが無かったら俺はこの世界でここまで生きて来れなかった事だろう。


 さて、コレにはまた再び俺から距離を取るケンフュ。一撃が駄目なら連撃で、とでも言わんばかりに今度は踏み込んで来て拳の連打。


 コレに無抵抗で女性に殴られ続ける性癖は俺には無い。なので飛んでくるその拳撃を全て俺は見極めて受け流していく。


 目に魔力を久々に集中して「見る」事を強化し、その伝達と処理の強化に頭にも多めに魔力をしっかりとめぐる様にする。

 するとケンフュの連打はスローモーションに。俺の脳の処理能力が魔力での強化によってその様に感じさせるのだ。


 未だに椅子に座ったままの俺の動ける範囲はそこまで広く無いが、コレに因って俺の見えている視界のケンフュの動きは物凄く遅く、その全てを弾く事に苦労は無い。


 まるで滅茶苦茶難易度の低い「リズムゲーム」みたいな事になっており、ちょっと途中で楽しくなっている。


 そんな俺の態度がどうやらケンフュには気に入らなかったらしく、また距離を取る。


「何で笑っているの?私が弱い事がそこまで面白い?」


 そこでケンフュが口にしたそんな言葉の中には少々の悔しさが滲んでいる。


「いや、面白かったのはそこじゃない。あ、侮辱されたと勘違いした?なら謝っとく。で、少しは冷静になれたのか?まだ続けるなら反撃するよ?いい加減に。」


 俺は流石にもう良いだろうと思ってそんなセリフをケンフュに言い放った。コレには。


「・・・良いわ。最低でも貴方がどれ程の力を持っているのか、ソレで解かる。けれど、私を甘く見ないで欲しいわね。全力で来なさい。」


「・・・はぁ~、やだなぁ。全力なんてこんな事で出すもんじゃ無いんだよなぁ。」


 俺は自分の事が解らない、いや、分かる。


 俺が全力を出すと言う事が、この世界にどんな影響を出すか全く予想が付かない、と言う事が。


 だからケンフュからの挑発を俺は真面目に受け取らない。


「じゃあ先ずはこれ位で。」

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