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此処は何?

 そこは何と言えば良いだろうか?総合施設?ショッピングモール?との表現は少々おかしいと思うのだが、何だか作りはそんな感じだ。

 俺が勝手にそう思って見てしまっているだけで、ここが実際にどういった施設なのかは分からない。


 どうやら何かしらの取引をしているコーナーが見えたと思えば、別の場所では掲示板らしい所から何かのメモ用紙をはがしてカウンターらしき所に向かっていく数名の男たちも見える。


 そんな所から端に離れた場所では何やら飲み屋的な雰囲気がある一区画が有ってそこでは料理と酒が提供されているっぽかった。


 俺はきょろきょろと周囲を見渡して「ザ・田舎者丸出し」と言った様相で中を歩き続けた。

 ファロンは何も言わずにここが何処なのかの説明もしてくれない。


「おい、なんだお前は?見慣れない格好だな?何者だ?」


 その身の丈190は有ろうかと言える大男が俺の前に立ちはだかった。

 何時の間にか側に居たはずのファロンの姿は何処にも見え無くなっている。


 俺の行く手を塞ぐその大男はガタイが良い。筋肉はゴリマッチョで横幅もしっかり。

 その腰には大きな剣、背中には槍、手には大斧を持ち、ソレを肩に担いでいてさも「強者です」オーラを放っていた。

 髪無しのつるっとした頭は剥げている、と言うより剃っていると言った感じだった。

 顔も厳つく、傷もあちこちに付いていて正しく歴戦の名が相応しいと言った様相である。


「ここはお前の様なひょろっちい野郎が来る場所じゃねえぞ?怪我をしたく無かったらさっさと出て行きな。」


 その男は別に酔っぱらっていると言った様子が無い。俺に掛けて来たその言葉は寧ろ考え様によっては「絡まれた」のではなく「心配されている」とも取れる。


「ああ、御心配無く。知人に勧められてこちらに来たので。その知人はどうやら俺の事を揶揄うつもりか、様子見がしたいらしくって今さっきまでそこに居たんですけど、姿を消しちゃって。すみませんが、ここってどう言う場所なのか貴方の口からお聞きしても?」


 俺のこの言葉でこの大男は「なんだこいつ・・・」と言った表情で見て来る。

 しかしどうやら親切にも俺の求めに応じてくれるらしく「付いて来い」と言って開いているテーブルとイスのある飲み屋スペースの方に歩いていった。


 それに俺は素直にその後ろを歩いて行く。教えてくれるというのであれば付いて行かない理由が無かった。


 そのまま席について大男から先ず質問された。知り合いとは誰だ?と。

 コレに別段俺ははぐらかす理由も無ければ嘘を付く意味も無い。なので素直に「ファロン」とだけ答える。すると。


「・・・ああ、あの変人かよ寄りにも因って。クソッ!声を掛けたのは失敗だったか?」


「あの、何で失敗なんです?ちょっと意味不明なんですがソレは。」


 どうやら本気で俺の事を心配しての声掛けだったらしい大男。俺の答えた者の名を良く知っている様子。


 俺を心配して声を掛けたのは「怪しい見た事の無い人物」に対しての警戒も存分に含んでいる「自分たちの安全の心配」もあったのだろうが。


「お前の世話を擦り付けたんだよファロンは。俺にな。ったく、面倒だぜ。」


「・・・えぇ?なら別に良いですよ?ここが何処かなんて、俺一人でもここの職員?の人たちに色々聞けば良いだけですから。」


 面倒だと言うのであれば直ぐに席を立てば良い話だ。俺の事など放っておいて。所詮は今先程顔を合わせたばかりの赤の他人同士である。


 だけどもこの大男は以前にファロンに借りが出来ていて今ソレを返すチャンスなのだと言う。


「以前に一度ちょっくら危ない場面で助けられた事があってな。お前の最初の面倒を見るだけでそれがチャラになるんだったら安いんだよ。」


「まあそちらがソレで良いならこっちも別に構わないですけどね。不利益にはならないし?」


 ちょっとしたモヤモヤが残るが、その程度なら問題は小さい。その内に忘れてしまうだろう小ささだその程度。


 こうしてこの大男の名を聞かせてもらうと「ダグロン」と。その彼に俺は事情を説明した。


「・・・今日来たばかりのお前が?ここの金を持って無いから観光もできないから一気に稼げる仕事が無いか聞いたらここに連れて来られた?おい、俺は頭がいてーぞ?」


「最初の短い内だけではあるかもしれないけれど、宜しく、ダグロン。それで、一度か二度でガッポリと稼げる仕事って、なんだ?」


 ダグロンが注文した飲み物がテーブルにこのタイミングで運ばれて来た。

 俺は何も頼んでいない、頼めない。ここの国の貨幣をまだ一銭も稼げていないから。

 そんな俺に向けて給仕のお嬢さんがジト目で一瞥してきた後にサッとその場を離れて行った。

 アオザイ?みたいな服を着ていたので俺はその珍しさにその後姿を視線で追っていたが。


「・・・お前はどれだけやれるんだ?」


 目の前のその大きなコップの中に注がれた物は酒だろう。ソレを早速一気飲みしてからダグロンは俺を睨んで来た。


「うーん?何と説明したら良いかね?どれだけやれるって言われてもなぁ。ファロンやダグロンよりも強いよ?」


「はっ!馬鹿をぬかすな!お前さんが俺よりも強い?・・・いや、人は見掛けに因らねーんだったな。だったら俺と一仕事して貰おうか。」


 この建物の中にそこかしこに居る者たち全員が「戦う者」の雰囲気を出していた。

 アレだ、少林寺拳法?何かの映画で見た気がするが、その武闘服?みたいな物の上から心臓を守る皮鎧的な物を身につけている者ばかりだ。


 槍、盾、剣、或いは二節棍?三節棍?みたいな武器を持っている者たちも見えた。

 腰には投げナイフ?棒手裏剣?その中間の様な刃物がセットされているベルトを締めている者も居た。

 弓を担いでいる狩猟スタイルな者も見かけらる。


「・・・一応聞くけど、ここって何の施設なの?」


「本当に何も知らされずにここに連行されたってのかよ。まあ、いい。ここは魔獣を専門で狩る者たちの集まる場所だ。ソレの素材を、ホレ、向こうで商売人共が交渉してるだろ?まあ個人でやるのは相当に面倒だからな。そう言った買い取りやら売り払いを代行して貰う事も出来る。」


「思った通りの施設なんだな。予想の範囲を超えなかった。ちょっと安心。」


 どうにもこうった施設、システムは何処の国にでも存在すると言う事にホッとする部分があった。いわゆる冒険者、傭兵の類の施設なのだろう。

 コレなら俺もここの国で金を稼ぐ事が楽チンである。


「何処もこうした所は一緒なんだなぁ。変な感じだな。」


「何をぶつくさ言ってる?さっさと登録しに行くぞ。俺が後ろ盾になってやる。」


「後ろ盾?推薦、とかじゃ無く?」


「そうだ。お前みたいな見た目じゃなぁ?俺の様な奴が後ろに立っていてやらねーと有象無象が寄って集って来るぞ?」


「別にそうなっても自分であしらうけどね?でも、面倒は無い方が楽だし、せっかくだからなって貰った方が良いのかな?」


「そうしとけ。」


 ダグロンは物凄く良い奴だった。その後は俺の登録を済ませるのだが、スムーズに終わった。

 どうやらダグロンは相当にここでは有名人らしい。そのダグロンが一言「何も言わずに登録だ」と言えば受付の職員が「分かりました」の一言で片付いてしまったのだから。

 そして簡素な木の板を一枚俺は受け取って登録完了と相成った。


「さて、仕事は簡単だ。魔獣を見つけて狩る。此処に持ってくる。ここで売るか、直接商人に持ち込んで交渉して売るか。もちろん、ここに売るのは手数料やらあって俺たちに入る金は少々目減りするが、買い取りの値段も安定しているし、一々値段交渉なんかして商人に売れなかった、無駄な時間を使った、なんて事は無くなる。手間と労力と時間を使ってでも金を手にしたい、と言う奴らは直接話を付けに、ホレ、向こうの場所に専用の交渉場があるからそっちに行くんだ。だけどもこれは熟練者の腕の立つ奴らじゃ無いと上手くはいかんな。持ち込んだ素材の状態がよっぽど良くなけりゃ話にならんからな。」


「で、手にした金で即座に隣の飯店で浪費するんですね?ワカリマス。」


「そう言う奴らは大抵が将来を見て無い馬鹿共ばかりだよ。いつ死ぬかも分からん仕事とは言え、そう刹那的に生きて、気が付けば、さあ、生き延びちまいました、金はありません、どうしましょ?ってなるのがオチなんだ。金を残して死ぬのは御免だと言ってもなぁ?その都度手に入れた金をその場で使い切ってどんちゃん騒ぎで今を生きてもよ?ソレでじゃあもし、生きて生き足掻いて、その先に手元に金が無くちゃ、惨めな老後しか残らねえんだ。」


「何事も程々にって事なんでしょうね。それこそ生きるも死ぬも自分次第な商売なら、自分の世話は自分でって事でしょうし。お説教してもそうした人たちは聞く耳ってのをそもそもが最初っから持っていないのでは?」


「良く解ってんじゃねーか。あいつらは馬鹿ばっかりだ。そう言うバカからお前さんが絡まれたら、俺の名を出せば奴らも引いて行く。これ位でファロンの奴からの借りを返せるなら安いってなもんよ。」


 俺たちはそんな会話をしながら施設を出て行く。そうして外に出てから俺は尋ねた。


「で、この後の予定は?」


「もちろん俺たちで魔獣を狩りに行くんだよ。金稼ぎたいんだろ?俺が手取足取り教えてやる。まあこの最初の一回こっきりだけだがな。」


「そりゃ有難い。この国の流儀ってのをここで教えて貰えるなら、後々で面倒事に巻き込まれ難くなりそう。」


 あくまでも「難くなりそう」と言う感想なのは、俺がコレまでに「巻き込まれない」なんて事が一度も無かったからである。


「それじゃあついて来い。俺の狩場に特別に連れて行ってやるよ。」


「遠慮無くお世話になります。」


 こうして俺はダグロンの後に素直について行く事にした。


 そうして着いたのは馬車乗り場。その一つにダグロンは近づいて行って御者に一声かけた。


「おう、何時ものトコに向かってくれ。」


「ハイヨ旦那。毎度どうも。・・・おや?今日はお一人じゃ無いんで?」


「こいつの分も俺が払う。ほらよ。何も聞くな。ファロン絡みだ。」


「ああ、あの方の。じゃあ別段気にしない様にしていましょうか。」


 二人だけで何かと納得してしまっている。俺は会話には入れない。

 だけどもダグロンに「乗れ」と言われてしまってその「幌馬車」へと入る。


 コレを引くのは二頭の馬だ。そう、ここでやっと「普通」に見える馬と出会えた。


 と思ったら。


(皮膚と思ったら表面が鱗じゃね?あれ?普通の馬どこ~?)


 どうやら魔物であった模様。しかもよく見たら結構凶悪アレンジされた顔で。


 目が血走って赤く、盛大に鋭い牙が生えていて「メッチャ肉食です!」と主張する口。

 蹄にはどうにも鋭い棘があり、その尻尾はまるで短い鞭の様に力強くしなっている。


 この様な如何にも「暴れん坊」どころか人など簡単に殺しそうな生物に馬車を曳かせるなど、一体誰が最初にチャレンジしたのだろうか?恐れ入る。


 行きますよ、その御者の言葉で出発となったのだが。


「揺れが半端無い!どう言う運転してるの!?」


「舌噛むぞ、黙ってろ。こいつは超特急用の特殊馬車だ。目的地そばまで直行だ。それまで少し我慢しろ。直ぐに到着する。」


 ダグロンのいつも使用している狩場とやらはコレで行くとあっと言う間なのだと言うが。


「最悪だな!道路舗装もまともじゃ無い!デコボコ!出てる速度も半端無いな!馬車の衝撃吸収機構なんか一切無いのかよ!」


 道の小さな凹みや石ころに車輪が掠っただけで車体が飛んだり跳ねたりの大騒ぎだ。

 ソレをフォローする機構など組み込まれていない馬車だから内部では激しいアトラクション、と評するのも生温いくらいのシッチャカメッチャカである。


 そんな状況でも慣れているのか動じないダグロン。腕組をして座り込み堂々としている。


 いきなり走り出してこの揺れだったので俺は咄嗟に魔法を使う事を忘れていた。余りにもガックンガックンと激し過ぎて意識を落ち着ける暇も無かった。


 暫くしてから漸く落ち着いて流石に俺は「いい加減にしてくれ」と言って魔法を使ってしまおうとしたが。

 しかしその言葉が最終的に出る前に目的地に到着したと言って馬車が止まる。


「この湖の奥にそびえる山の中腹にソイツは居る。行くぞ。」


 ダグロンはさっさと馬車から出てそんな説明をしてさっさと行ってしまう

 俺もコレに馬車から降りてみれば目の前に美しい景観。キラキラと陽光を受けて輝く水面が視界に入って来た。


 ここで特級馬車に関する文句の一つも言おうと思ってダグロンへと口を開きかけたら先んじて注意を受けてしまった。


「そっちの湖には近づくなよ?家一軒丸呑みしてしまえる程のデカさの魔獣が襲ってくるからな。」


 巨大な湖にはそんなのが住んでいるらしい。これに俺は言おうとした文句では無く、別の事を質問してしまう。


「そいつは狩らないのか?山に登らんでもそいつを売ったら金になるんじゃないのか?」


「止せ止せ。割に合わないんだよ。そいつは酷く凶暴で、陸地に引き上げても何十人と数を揃えても仕留められるかどうかは賭けになるほどなんだ。そんなモノに命なんて使えねぇよ。」


「・・・じゃあだったら・・・いや、止めておくか。」


「あん?何か言ったか?ホレ、さっさと付いて来い。お前の力を見る為に来てるんだぞ?それと遊ぶための金を稼ぐんだろうが。」


 その湖の魔獣とやらを俺が仕留めようと思ったが、思い止まった。

 多分、と言うか、そいつは確実に狩れる。俺の魔法でなら即座にでも。

 しかしソレを売りに出してしまうと多分俺はそこで余計に目立つ事に繋がるはずだ。


 そんな大物を売って金を手に入れても、過剰と言える金額を受け取る事になると思われる。

 そうするとその金目当てに寄ってくる奴らが出て来る事だろう。


 そうなればソレが元であれよあれよと面倒が向こうから俺に寄って来る事になりかねない。


 此処は静かに、ダグロンの世話になっていた方が安心だろう。

 もうあの国では俺の事を目にした者たちが多く居る。そいつらにこれから先で余計に目を付けられるのは止めておきたい。

 ダグロンと、ファロン、この二人はどうやら有名人、とまではいかないモノの、顔が売れているらしいのでこの二人を壁にして俺はこの国で静かにひっそりと観光を楽しむべきだ。


 また何か良からぬ企みを立てている悪党たちと絡む事になるのは真っ平だ。一々そう言った者たちと各国でドタバタ踊るのは流石に鬱陶しい。


 そんな考え事をしつつダグロンの後ろに付いて行く。湖の周りを歩き目的地へと向かう。


 そうやって山の方に入って登り始めるとダグロンが「警戒しろ」とだけ言ってくる。その後は黙って一歩一歩を慎重に進み始めた。

 ダグロンからは緊張感が感じられる。コレに俺は何があるのかと聞きたかったが、それは止めた。


 ドキドキワクワク、なんて言う気は無いのだが、全く何も分からない状態で物事を楽しんでみる、そう言った事をしてみようかと思って魔力ソナーも使わずにダグロンの後ろを付いて行く。


 深い森の中を進み、時に険しい斜面を登る。そうやって進む事、大体30分。

 相当登って来たのだが、斜面がずっと続いていた場所が途切れて平地に入った。


「よし、ここだ。良く見とけ。誘き出しは俺がやってやるが、その後に出て来た魔獣はお前がやれ。」


 その平地はかなり広い。そして何も無い。ダグロンが誘き出す、などと言っているので確実にそこには何かしらが居るはずなのだが。


 魔力ソナーを使っていない俺には何が何だかサッパリ見えない。

 そこは草が生い茂っていて何かが隠れ潜んで居そうなのは解るのだが。


 いきなりその草の中へと入って行ったダグロンは剣をおもむろに抜き放ち、その手に持つ斧と軽くぶつけあって「ガキン」と言った音を響かせた。すると。


「よし!食いついたぞ。お前の方に誘導するから、さあ、お手並み拝見と行こうか。」


 そう言ってニヤリと笑うダグロンは俺の方へと走って戻ってくる。

 そんなダグロンのその背後に現れたのは大型犬並みにデカい「カエル」だった。それも二匹。しかも見事な真っ黒。

 その目だけが金色に輝いていて不気味さを醸し出していた。


 まあそんなモノに今更驚く俺では無い。そのカエル二匹の眉間に対して手指を拳銃の形に構えて向けて「バキューン」と。


 二体のカエルはそこで呆気無くバタンキューである。どうやら普通の動物の例に漏れず、目と目の間、その内部に「脳」でもあったんだろう。

 それこそ一瞬で終わった黒カエル狩りは様子見も無く、お手並みなどと言う様な動きも無く、静かに即座に終わってしまう。


「・・・お、おおう、なんてこった?今、お前は何をやったんだ?こりゃぁ・・・仙術か?それとも妖術か?どちらにしろ、こうも結果を目の当たりにしちまうとなぁ。」


 こりゃ参ったお手上げだ、と言った感じでダグロンが両手を上げてさも「降参」とばかりに諦め顔になる。


「お前の言った言葉は嘘じゃねえ、って事だな。だが、まあ、この程度でファロンよりも強いって言うなら、まだ足りねーぞ?俺よか強いってのは、まあ、認めるぜ。」


「あー、そうだね。ファロンが「本気」になったら分からないかな?」


 ファロンはそもそもが「ドラゴン」と同類であるからして、その「真の姿」となって俺とやりあっていればもしかすると俺も負ける可能性もある。


 とは言え、ここではダグロンに認められるだけで良いのだ。

 そしてこの黒カエルが一匹幾らに換算できるのかが今は大事なのである。


「コレを持って行けば幾らになる?ダグロンは何時も何匹狩って持ち帰ってるんだ?」


「まあ精々が二匹までだな。今日は一気に稼げちまったが。普段の俺だったら一匹狙うのに慎重に進めて一時間は掛かるな。釣り上げて、ここから別の場所に誘導して連れて行って、そんでもって、狩る、だな。」


「ふーん。じゃあこの黒いのはダグロンが独占って事で良いのか?一応聞くけど、一回の狩りで最大でどれ位の数までなら大丈夫だ?狩り過ぎて数を減らして全滅、とかは?」


 俺のこの質問の意図が分からないんだろう。ダグロンは非常に常識的で無難な回答を返して来た。


「おいおい、俺とお前しか居ないんだぞここには今。だったら最大で四匹までだろ?いや、そうなると持ち帰る苦労がデケェし、馬車に乗せて帰るにも四匹は重過ぎだ。こいつらは意外と重い。二匹と半じゃ無いと馬車に乗せられる容量としては限界だ。三匹は、ちょっと無理だな。山の斜面もあって危険だ。ましてやお前はこの山を慣れて無いだろう?持って下るのは危ねぇぞ?」


 ここで俺はインベントリにこの黒カエルを仕舞うかどうか迷った。そして決断する。


(ここはこの二体でこのまま帰還にするか。こういう場面でやり過ぎていつも後で「やっちゃたなぁ」って後悔してるし?)


 俺はそう思ってヒョイヒョイと仕留めたその黒カエルを掴んで持ち上げて言う。


「よし、じゃあ帰ろう。こいつらを売った金で今日は飯食って宿取って寝る!・・・で、幾らになるのコレ?」


 ダグロンはどうにも一人での狩りを此処でしている様子。

 そしてその稼ぎはそこそこだと俺は読む。余裕のある暮らしをできる位にはこの黒カエル、売却額は相当な物なんだろう。


 何せダグロンは三つも武器を持つ。それらを買い揃えられる程度には金を稼いできたと言う証拠だ。

 その年月は長い、そう言った人物にこうして案内して貰ているのだからその信用はあると判断して良いモノだ。


「お前は本当に何者なんだ?そいつ一体でどれだけの重さがあると思っている?見た目などよりも相当に重いんだ、ソレは。それを二体も軽々と持ち上げて見せた。俺の場合は狩った場で解体して小分けにして陰に隠して何度も往復して運搬してるんだぞ?」


「・・・ハイ、スイマセンデシタ。」


 俺は失敗している事を悟る。インベントリは使わない、そう判断した矢先にこれである。

 自分の身体を魔力で強化してあるのを忘れていた訳では無かったはずなのに。

 ダグロンが「二匹まで」と言った事で俺はそれを鵜呑みにしてこのまま持ち帰ろうとしてしまったのだ。


 そう、解体などと言った事はすっかりと頭の中に無い。

 大抵の事はインベントリに丸ごと入れて運んでいた俺である。馬鹿も大概にしろと言う話だ。


 普通は大物を得る事が出来れば大人数ならそのまま荷車でも用意してあったなら全員で押して運ぶのだろうが。

 ダグロンは一人狩りである。狩った獲物を運ぶにしたって小物ならそのまま運搬は分かるが。

 中、或いは大なる獲物を狩ったのならば、そのまま丸ごとに持ち運ぶのは困難であるのは目に見えている。


「やっちまったなぁ。まあでも、解体するならもっと別の場所に運んでからやるだろ?だったらこのまま俺が持って行くから、解体はダグロンに頼むわ。」


「はぁ~、けったいな奴の世話を押し付けられちまったもんだぜ。これだけ得体の知れない奴なんて今までの俺の生きて来た中で居なかったぞ?マジで何モンだお前?」


「そこら辺の説明は面倒で長くて信じられない話になるけど、道中聞く?」


「・・・止めておく。そんな厄介なモンに巻き込まれたくは無ェや、これ以上は。」


 こうして俺が丸ごと二体の黒カエルを持ってあの湖の近くまで行く事に。

 道中でダグロンが「こんなに楽な狩りは初めてだぜ」と溢していた。しかもソレはソレは大きな溜息を吐いてだが。

 楽な狩りで運搬もしないで済む、時間もあっという間に終わっていると言うのに、何が気に入らないのかは本人のみぞ知る、である。


(まあこうなっちゃったら解体も俺がやった方が早そうだな。一度ソレを見たら二体目は俺がやるか)


 ダグロンに手本を見せて貰って二体目は俺が、その方が時短になりそうだ。

 既にもう魔法の件はダグロンの前では自重せずとも良いだろう。この黒カエルを仕留めるにあたって使ったのは魔法だから。

 もうお披露目してしまっているのだし魔法の使い手だとバレているのは間違いない。ならもう使い放題で良いだろう。


 そもそもこの国では魔法を「仙術」とか「妖術」などと称しているみたいだが。

 ソレが一般的か、そうで無いかは後に分かるとして。その二つがどの様な差異で呼び名が異なるのかの方が不思議である。


 そうして山を下りて湖そばまでやって来たが、やはりダグロンは湖には軽々しく近寄らない。

 湖から結構な遠い距離で俺に「待っていろ」と言って持って来てある荷物の中から組み立て型の桶を持って湖へと向かう。


 恐らくは湖に住む巨大な魔獣を警戒しての事だろう。素人の俺が一緒になって迂闊な事をすればソレを呼び込んでしまうとの判断なのだろう。


 そうして桶に無事に水を汲んで戻って来たダグロンは直ぐにその手の斧を振りかぶって黒カエルの太もも付け根に向けて振り下ろした。


 余りにも豪快な解体に俺は流石にびっくりした。俺の脳内の「解体」のイメージからかけ離れていたから。


 一撃で綺麗に切れた「脚」はそのまま水桶の中へ。そこでダグロンは切り口をザッと洗って直ぐに引き出す。ソレを縄で括ってすぐ傍の木に吊り始めた。


「随分と雑な解体だけど、値段は下がったりしないのか?」


 俺は疑問が口から出た。コレは俺が解体はもっと丁寧にやるモノだと言った認識があるからだ。

 けれどもコレに返って来た答えはと言うと。


「あん?そう何度も下手糞みたいに切り傷を付けた訳じゃねーからな。一発二発で切れりゃ上手く行った証拠だぜ。俺がこの解体をどれだけやって来たと思ってやがる?まあ、しゃーねーか。お前はどうやら見た目もお坊ちゃんっぽいからな。こんなのはやった事も無さそうだ。」


「いや、まあ、いっか。それならお手並み拝見させて貰うよ。」


 その後は黙って俺はダグロンがやる解体を見物させて貰った。

 脚の次は腕。その次は腹を裂いて中身、その後は皮と肉を切り離しと。


 その動きはスムーズで各作業では道具を使い分けて見事に部位を切り分けて行く。


「おー、流石は熟練者。凄いなぁ。良いモノ見せて貰ったわー。じゃあ二体目は俺がやっても?」


「はは!褒めても何も出ねーぞ?それで、お前が解体するのか?失敗すんのがオチだが、まあ、やってみな。経験は大事だ。俺だって最初の内はドが付く程に下手糞でなぁ。苦労したもんだ。指導してやるからやって見せな。」


「うん、もう終わったから。」


「は?」

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