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なんちゅーか

 青い帯をしていた男の方が勝った。赤いバンダナ?を頭に巻いている方の首にその刃がピタリと添えられている。


「お前の負けだ。先程の侮辱の言葉を謝罪しろ。」


「・・・悪かった。軽率な事を言ってしまった。すまない。」


 そんな言葉を交わしただけで二人の争いは収まった様だった。

 青帯男の方がそのままゆっくりと刃を離す。そして鞘へとその刀をしまった。


 しかし赤バンダナは悔しそうに相手を睨んでいる。まだその刀をしまってはいなかった。


 だけども再び襲い掛かったりはしない。周囲の目の事もあったからだろう。

 その刀の柄を握る力は少々上がって「みしり」と微かな音を立てているだけに留まっている。


(おいおい、どんなお国柄なんだよ?周囲の賭けをしていた奴らも今はぎゃいぎゃい勝った負けたで騒いでるし・・・)


 余程血の気の多い国民性なのだろうか?そういった商人たちの護衛として付いているのだろう屈強な男たちの目が何故か勝った青帯男に向いている。

 その眼差しは警戒、と言うよりも興味を惹かれた、と言った感じの物であるのだ。


(何だろうなぁ?強いと尊敬される系の所なのかね?だけどもさっきの青帯の言っていた言葉から推測するに、プライドは高い系なのかな?)


 矜持を持つ事は良い事だ。ソレを持つ事でむやみやたらと暴れる事が無い。簡単に暴漢に落ちると言った事が無い。


 だけどもそう言ったモノを持つ者はソレを傷つけられた際には先程みたいに刃を本気で交えて相手を殺す事を厭わないと言った傾向も持っている。


(良い所も悪い所も同時にあるけど。持っていないよりも、まあ、持っていた方がマシなモノではあるか)


 何と言うか、まだ確定とは言えないけれども何だか「武侠」と言った感じがお似合いな国である。


(コレで顎髭を長く生やした武人の像でも祀られていたら、それこそ三国志かな?中国?関羽雲長かな?)


 空中から見たこの都市の雰囲気と、そして商人たちの気風に、その護衛だろう鍛えられた体をしている男たちの様子を見てそんな事を思ってしまった。


 まだ都市の中に入ってもいないのにこれである。かなり濃ゆい体験だ。

 中の様子を見ればまた違った感想を持つのかもしれないのだが、それはまだ後に取っておく事にする。


 まだこの国の言語を理解しきれていない。さっきの賭けの喧騒でより一層理解は深まったが、まだもう少しと言った所だ。


 と言った訳で、もう少しだけ様子見をしてみる。しかしその後はこれと言って騒ぎになるイベントなどは起こらずに商人たちの列は少しづつ都市の中へと入って行ってその数を減らして行く。


 そうしている内にようやっとその最後の一人が都市内に入った所で俺は覚悟を決めた。


「よし!俺も中へと入ってみるか。今回は変な事に巻き込まれずに純粋に観光を楽しめると良いんだけどな。」


 俺はそもそも別に訪れる各場所でトラブルに巻き込まれたい訳では無いのだ。

 アレもコレもと好き勝手やろうとしていると、大体向こうから俺の所に寄ってくると言った事になっている。


 今回もやはりソレからは逃れられ無いのだろうか?などと思いながらもその考えを頭の中から追い出しておく。

 純粋に旅を楽しむ為には最初はその様な思考は不要だ。巻き込まれたり、見て見ぬふりが出来ないと思った時に溜息を吐けば良いのである。


 そうして俺は魔法での光学迷彩で姿を消したままで門を通る。当然の事、俺の事に門番は一切気づけていない。


 そうしてこの中華風?の都市の中へと入ってみれば、俺が空から見た光景とそう遠く離れていない景観が出迎える。


 しかし何処もかしこも真っ赤な色に塗られた家、柱は「間違った中華」みたいなイメージである。


「おー。何だかラーメンの器に描かれてる模様とかが建物やら家屋に装飾としてかな?描かれてるなぁ。」


 渦巻?何だか四角いカクカクしたくるくるとしているアレ。あの模様の正式名称は何だろうか?分からない。

 そう言ったモノだけでは無く、壁には鳳凰?龍?が絡み合った複雑な絵が描かれている派手な建物なども目について何だか視界が騒がしかったりもする。


 しかしこれぞ観光だ。俺は田舎者宜しくきょろきょろとそこら中を見回して歩く。


「うん、中華、って感じがするなぁ。でも、俺のこのイメージも間違ってると言えば、間違ってるのかね?」


 古代中国の町の中の景色の事なんて俺の記憶の中には無い。

 せいぜいがそう言った中華製作のドラマや映画の中の映像のイメージだけだ。


 そしてそこかしこに灯篭?提灯?お祭り飾り?みたいな装飾やら何やらがあって目に入って来る情報が騒々しい。


「活気はある。何処もかしこも栄えてる、って感じで満ちてるけど。やっぱ、あるわな。」


 大きな通りを俺は誰にも注目される事無く歩いている。魔法の力は偉大だ。

 そうしてゆっくりと余裕を持って歩けているから直ぐに気づける。


 そうした賑わっている大通りの脇道に一歩踏み込めば、そこはやっぱりスラム、或いは貧民街と言った空気感が漂っていた。


 俺の脳内にはここで予感が走る。やはりここでも俺は偽善を為すのかな?と。

 そう言った事にならない様に、大通りから外れてそう言った道に行かない様に俺は歩く。強く意識して。


 大抵がそう言った道に入り込むとガラの悪い男たちに絡まれる事を確信しているから。


 そうした奴らを軽くあしらうと、あれよあれよとそいつら関係で他の別件に巻き込まれるか、見逃せない事情を目の当たりにしてしまってそれに首を突っ込んで行くのだ。


 そうした展開は大概が悪党の絡みであったりするのでそいつらの事をその後に潰す流れになる。

 これまでにこのパターンで潰して来た組織は幾つあっただろうか?


「だからって言って・・・こうした大通りでの騒ぎに遭遇するのとか、勘弁して欲しい所なんだけどな?」


 悪党面したニヤニヤ顔の男が五人、可愛い娘さんを囲んで何やらナンパをしている所に遭遇してしまった。


 その娘さんは男たちに対して怯えた表情で体を縮こませていた。


「俺たちに酒を注いでくれるだけで良いって言ってやってるじゃねーか。さっさと俺たちと行こうぜ?」


「や、やめてください・・・勘弁してください・・・」


 壁際に追い詰められてその娘さんは逃げ出す事も出来そうに無い。

 ソレを助けずに遠巻きに「触らぬ神に祟り無し」だとか「君子危うきに近寄らず」と言った態度で見て見ぬふりをして通り過ぎていく通行人たち。


 俺はコレに「ああ、俺が助けないとイケないのね」と思って構えたのだが。


「おい、お前ら。好い加減にしろよ?でないと、俺が貴様らをぶちのめす。」


「あぁ?何だぁ?てめえは?」


 ここに割って入る男が現れたのだ。ソレはこの都市に入る前に見た男。あの騒ぎを繰り広げていた青帯男である。


「お前らの様な奴がこの都市に跋扈するから「義侠落ちたる」と言われてこの都の評判が落ちてんだ。心を入れ替える気が無いと言うのであれば、その人生に俺が幕を引いてやる。今のお前らは害悪にしかならん。」


「ああん!なんだとこの青瓢箪が!」


 凄んだ顔と鋭い目つきで青帯男を睨むゴロツキ共だったが。


「ガン飛ばして威嚇してくる様な事をしてくるのか。くだらんな。俺が気に入らなかったら言葉も発っさずに剣を抜いて斬り掛かってくればいい。そうやって先ずは相手をビビらせよう、脅して引かせようとする、そう言う所が三流以下の屑の証拠だ。」


 煽る煽る青帯男。胆力が無い、根性が無い、肝が据わって無い、そう言った意味を含んだセリフでゴロツキ共を小馬鹿にした。


「言いやがったなこいつがぁ!お前ら!囲め!女の前だからって格好つけやがって!その綺麗な顔をぐちゃぐちゃにして後悔させてやる!」


 そう、この青帯男、イケメンである。コレには絡まれていた娘さんも頬を赤らめているくらいに。


「・・・この雰囲気、誰かに似てるんだよなぁ。誰だ?」


 俺はこの青帯男に何処かで見た様な感覚を覚えたのだが、そこまでだった。その誰かを思い浮かべる前にゴロツキ共が動いたのだ。俺はそちらに注目してしまって思考が飛んだ。


 五人で青帯男を囲む。周囲の通行人はコレにがやがやと遠巻きに騒ぎを眺め始めた。止めようと入る者は居ない。

 そうしてまるで即席の丸い会場が出来上がってしまった。もう乱闘騒ぎ、刃傷沙汰は避けられない空気が蔓延する。


「早く衛兵来ないの?こいつら死ぬよ?」


 俺は心配になった。完全に青帯男の纏う空気が変わったからだ。

 恐らくこのままではこのゴロツキ五人は自らの血溜まりの中で息絶える事になるだろう。


 一人で五人を相手にする。そんな事は自信が無ければしないし、できるはずも無い。

 この青帯男はこのゴロツキ共を全員纏めて殺す事の出来る実力を持っているのだ。


 そして遅かった。青帯男が手を上げて「ちょいちょい」と男たちを挑発したのだ。

 掛かって来い、ジェスチャーだけでゴロツキ共をまた小馬鹿にした。


 コレに頭に昇っていた血が沸騰したらしい一人がイケメンに斬り掛かった。


 青帯男はその斬り掛かられた刀を「ぱしり」と小さく手を叩いたような音をさせつつゴロツキから何時の間にか奪い取る。

 一瞬の早業であり、多分この場でその動きが見えていた者の数はそう多く無いと思われる。


 だってその刀を奪われたゴロツキ自身が「は?」と言った間抜けな顔を晒していたからだ。


「まだやるのならば受けて立つ。だが、今下手に動けばお前はその目を失う事になるが、どうする?まあ、上手く立ち回ろうとも、その時は命を貰う事になるだろうな。」


 その刀はゴロツキの目の前にピタリと迫っていた。コレに息を呑んでジッと固まるゴロツキ。


 しかしソレを助けようと仲間の男が二名、青帯男に斬り掛かった。

 ソレをまるで踊るかのような滑らかな動きで躱してしまう青帯男。


(白く長い髪、赤い目、美しい顔立ち?・・・おい、まさか)


 始めこの青帯男を見た時には全く何も感じなかった。

 ソレは多分いきなり争い合う二名として認識してしまっており、周囲の商人たちの賭けやら熱気やらでそちらに意識が向いていなかったからだ。


 しかしここで改めてこの青帯男を観察したら共通する部分の多い存在を脳内に浮かべてしまった。


 そして青帯男は刀を躱したついでと言った感じで、しかしその動きもやはり美しく、襲って来た二名に対してその胴に回し蹴りを入れている。


 その隙を突いて背後から残り二名が斬り掛かっていたのだが。


 そこで二回、金属同士がぶつかり合う音が響く。それは青帯男がその斬り掛かられた刀を弾いた音だった。

 その所作もまた美しく思わず見とれてしまうくらいの代物で。


 コレを遠目で見ていた通行人たちはその動きに目を奪われて呼吸すら忘れている者もチラホラ存在している様子だった。


 そう、今この場を今支配しているのはこの青帯男である事は間違いない。


 しかしそこで何故かその青帯男の視線がホンの僅か、一瞬だけ俺に向けられた。


(おおう・・・バレテーラ。あの様子だと完全に俺の事は見えて無いみたいだけど。気配だけは察したか?)


 青帯男は俺の事にどうやら気づいたらしかった。しかし視線を向けて来たのはその一度だけでコチラに再び目を向けて来る事はその後は無かった。


 まあ目の前の問題を先に片づける気になってこちらの事を一旦保留にしたのだと思うのだが。


「心を入れ替える気になったか?そうで無ければもう一度言っておいてやる。害悪にしかならんのであればこの場で、斬る。死にたい奴から掛かって来い。」


 青帯男は一応はこのゴロツキ共に猶予を与えていたらしい。

 直ぐに殺さなかったのはそう言った慈悲からなのだろうが。


 俺の経験からしてこういった奴らが改心などするはずが無いと知っている。


「お前ら!全員で掛かるぞ!」


 駄目でした。やっぱりこういった奴らは何かと引き際を弁えない。


(おいおい、青帯男の纏う空気が変わったのが分からないのか?お前ら、殺されるぞ全員)


 そして同時に襲い掛かったゴロツキ五名は五秒で全滅させられていた。


 青帯男のその動きは流麗かつ美麗。この場に漂う血の臭いすらも気にならなくなる位に。


 ゴロツキ共は血溜まりの中で息絶えている。その光景に誰もが悲鳴一つも上げない。静寂がこの場に満ちていた。


 手にしていた剣を地面に軽く放り投げる青帯男。カラカラン、その剣が地面で独特な金属音を鳴らした音だけが耳に残る。


 青帯男は自身の持つ剣を一切抜かずにこの場を終わらせてしまった。

 まるで自分の剣をこのゴロツキ共の血で汚したく無かったと言わんばかりだ。


 そして何も言わずにこの場を去ろうとする青帯男は裏路地の方に足が向かっている。

 余りの呆気無い結末に誰もがこの場で声を上げない。上げられない。一瞬と言える出来事に脳内できっと処理が追い付かないんだろう。

 観戦していた周囲の野次馬たちは青帯男の華麗さに呆気に取られてまだ動き出さない。


 助けられた娘さんすらも礼の言葉を口にする事を忘れたのか唖然としたままだ。


(さて、俺はどうするかね?・・・やっぱコイツは俺の事に気付いてる。無視するのも、まあ、ダメなんだろうな)


 青帯男はワザと裏道の方に向かったのだ。俺に「付いて来い」と無言で伝えているのである。


(俺も聞きたい事があるし、向こうも知りたい事があるんだろうさ。嫌だなぁ。何でこんな事になるのかなぁ)


 この国に入って即座にこの様な展開である。勘弁して欲しい。

 また一波乱だけじゃ無く、二つも三つも何かとトラブルに巻き込まれるのだろう気配がビンビンだ。


 しかしこのままあの青帯男を放っておく訳にも行かないと思って俺はその後を着いて行く事にした。


 そうして付いて行く事、暫し。青帯男は何の変哲も無い家の中へと無造作に入って行った。


(どうする?このまま俺も家の中に入れば良いか?それとも呼ばれるまで待つか?ノックして「御免下さい」とでも言って訪問するか?)


 ヘタに魔力ソナーでこの家の中を探ろうとはしない。相手が相手だけにそこら辺は下手を打って敵と見做されるのは勘弁だった。


「気が進まないんだがな。・・・御免下さい。どなたかいらっしゃいますか?」


「・・・入りなよ。鍵は掛かって無い。」


 この返しに俺は素直に扉を開けて中に入る。もちろん自身に掛けてある魔法は解いて姿を見える様にして。


「へぇ、そんな恰好は見た事無いな。着ている服の生地も相当に良さそうだ。何処かしらの他国の高名な貴族の人かな?」


「色々とツッコミ入れたいんだけどさ。まあ、いいや。誘ったのはそっち、だろ?だけどこっちも聞きたい事が幾つか出来ちゃって、丁度良かったと言えば、それまでなんだけどさ。」


「茶くらい出すさ。そこに座ってくれ。長話になりそうだからな。」


 部屋の中央に円形のテーブルと四つの椅子。俺はそのまま中へと入って勧められたままに椅子に座って待つ。

 青帯男は既に立ち上がって台所に立ち湯を沸かし始めていた。


 俺はここで何から話そうかと少しだけ思案したのだが。先に青帯男が口を開いた。


「まだ沸くまで時間が掛かる。先ずは自己紹介といかないか?そうだな、先に俺から名乗ろうか。俺の名は「ファロン」だ。見てた通りに、あー、なんと説明したら良いかね?うん、言ってみれば「武」で身を立ててる者だ。」


「武?ああ、武侠って事か?なるほどねー。」


 俺がここでそんな軽い感じで返しをしたのだが、ファロンと名乗った男はコレに唖然とした。


「なんだ?他国の者だと思っていたんだが・・・いや、しかしお前さん、この国、恐らくは初めてだよな?」


「あ?そこら辺は察しちゃうのね。まあそうだな。この国に来たのは初めてだな。観光だよ。俺の名は遠藤、って言うんだ。まあ、宜しく?」


「それにしては堂々とし過ぎだろ。」


「中に入った時には思いっきり田舎者らしくきょろきょろと視線があっちこっちしてたけどな。」


「いや、その上等な物を着といて「田舎者」は流石に無いぞ?」


 俺が自身を田舎者だと称した事に、コレにファロンが何がおかしかったのか僅かに笑った。


 そんなやり取りの内に湯が沸き始める。先ずは茶を一杯、そんな量で水を沸かしていたので自己紹介が終わる頃には直ぐに茶がテーブルに差し出される。


「さて、何から、そしてどちらから質問したら良いかな?」


 ファロンはそう言って俺をじろりと鋭い目つきで見て来る。しかし俺はコレを躱す。


「時間は互いに幾らでもありそうだから、ゆっくりとで良いんじゃ無いか?でもまあ、さっさと俺から言わせて貰おうかな。」


 俺がそんな返しをしたものだからファロンの目がより険しくなる。

 時間がいくらでもある、そこにどうやら引っ掛かった模様。


「ああ、言うんじゃなくて見て貰った方が早いな。ファロン、お前はこいつらと同類だろ?」


 俺は壁へと像を映す。するとファロンが椅子を勢い良く立って俺から一瞬で遠ざかる。


「・・・お前は何者だ?正体が全く掴めん・・・」


「そう警戒するなよ。そっちから俺を誘ったんだろう?まあそれに乗っかった俺もそこはソレ、ってなもんだがな。まどろっこしい事は無しにして本題をさっさと提示した方が話が早いと思ってな。」


 壁に映るのは「ドラゴン」と「リュー」である。一番手っ取り早く事を伝えるには見せた方が早いと思ってこれだ。


 そう、ファロンは人型になっている「ドラゴン」と同類の者だろう。

 その見た目の耽美さは「ドラゴン」が人型を取っている見た目と似ているのだ。纏う空気も何処と無く似ている。

 俺はここでファロンの警戒を解こうと言葉を続けたのだが。


「敵意を持っていないのは解るだろ?そう難しい顔はしないで欲しいんだが?」


「お前は俺を知り、俺はお前を知らない。これだけで警戒心を上げるには充分な理由だと思うが?」


 ファロンが俺に対してガンを飛ばして来ている。その表情は真剣だ。腰に佩いた剣に手を掛けていつでも抜ける様に構えてすらいる。


 言っている事は当然の事なので俺もそこはしょうがない部分だと思った。

 コミュニケーションを取るのならばその順序と言うか、時間と言うか、手順が必要だったなと。


 いきなり一方的に相手の正体を前面に押し出す様な対話は警戒を持たれても仕方が無い。

 別に俺はファロンを相手に上からの立場で話をしようと思ってこの映像を出した訳では無いのだけれども、こうなってはしょうがない。


 ここでファロンが自らが「ドラゴンの同類」だという事を言っているも同然な事に気付く。


「ああ、認めるんだな、同類って。こんな国にひっそりと武侠として暮らしていたとか、想像もしなかったな。奇妙な出会いだよなぁ、ソレを考えると。」


 俺はそんなセリフを軽い感じで吐き出す。コレにファロンが増々警戒レベルを上げた。


「何を目的にこの国に来た?もしそれが悪であるならば、俺の全身全霊をもってしてお前を排除する。」


 勘違いさせてしまう様な事を言った俺が今のは悪い。なので謝罪の説明を俺は続けた。


「いや、すまん。先ず初めに、俺はこの国をどうこうする気は一切無い。最初に言った通りに、俺はこの国に観光に来ただけだ。危害などを加える気なんてこれっぽっちも持って無い。本当だよ。俺はこの国に今さっき来たばかりだ。まだ何もしちゃいないし、何もする気は無い。」


「・・・その言葉を信じろと?」


「信じてくれなくちゃ先に話が進まない、って言うのは止めておこう。そのままで良いから俺の長ーい話を聞いてくれ。警戒させた詫びだ。今度は俺自身の事も最初っから説明するからさ。嘘だと思った時点で俺に攻撃しても良い。その際には抵抗せずに受けるから。それで俺の覚悟を見てくれりゃ良い。」


 ファロンの警戒を解く為にと思って俺は自分の身の上話を始めた。相互理解が進まなくてはこの場の状況は好転しない。


 なので相当に長くなりそうな話を余計な部分は大幅カットしつつ、俺は何とか自分の事を語り終えた。

 かなり時間が掛かったが、その成果はしっかりと出てファロンの態度は多少は軟化していた。


「お前の事は良く解った。しかし、お前が嘘を言っていないという保証も無い。」


「分かった。ならその剣で俺の首でも狙って一撃入れて来て良い。ソレを俺は受ける。」


「・・・死ぬ気か?」


「俺は殺されたりする気は無いな。受ける、と言ったまでだ。」


 沈黙が部屋を満たす。俺はここで何の苦労も無いという感じで言葉を続ける。


「さっきの俺の身の上話を証明する為に、各地に一緒にファロンに行って貰って俺の友人知人に探りを入れて貰っても良いぞ?」


「何を言うかと思えば。俺がソレを確信するまでどれだけの年月掛かるというのだ?」


「一瞬だよ。移動には一分も掛からない。」


「バカな事を口走るよりも、もう少し賢い言葉を並べて説得はするものだ。」


 ファロンの警戒心がまた上がってしまった。ならばもうこうなったら言うしかない。


「いや、別にこうして知り合ったからって言ってそれ以上に仲良くなる理由は無かったな。互いに何者なのかをこうして確認し合えたんだからそれ以上に互いに踏み込み合わなくても良いじゃ無いか。もう当初の問題は解決した訳だし。それじゃあお暇しようか。俺はあんたが「リュウ」であるって分かってスッキリしたし。そっちは俺の事を知れて充分だろ?」


「待て、まだ話は終わっちゃいない。」


「最初に確認したかった話は済んでるだろ?後の残りはそっちは俺が悪さをしないかどうかを確認したいだけ。それなら俺に観光案内でもして貰って監視の代わりをしてくれると俺も手間が省けるね。この国の面白い所に案内してくれよ。どうだ?・・・あ、俺は今日ここに来たばかりでこの国のお金ってのは持って無いんだ。何処かで金の稼げる仕事って無いか?短期間でこの国で数日は遊んでいられる分を得たいんだけど。」


 俺のこの言葉でファロンが呆れた顔でコチラを見て来る。俺がコレを本気で言ってると理解したからの様だ。


「お前は一体本当に何者なのだ?俺をからかっているのか?」


「いや、最初に説明ちゃんとしただろう?異世界人だよ、言ってみればな。この世界の事なんてこれっぽっちも知らない田舎者だよ俺は。コレは本当さ。」


 俺はちゃんと説明で「こことは全く次元の違う世界から来た」とバラしている。

 そんな事を言われて「ハイそうなんですね」と納得して貰えるとは最初から思っていない。


 コレを聞いても相手は俺の頭の正気度が正常かどうかを疑ってくると分かっている。

 こうしてファロンも俺のした説明をまともに受け止めていないのだからソコはお察しだ。


「・・・お前が妙な真似をする所を見つけたら即座に首を斬る。」


「ああ、ソレで良いよ。変に俺の事を信用してくる奴よりもよっぽど良いよそっちの方が。逆に信用し過ぎられたりするとこっちが妙に落ち着かないからな。」


 険しい顔のままでファロンがこちらを睨んだままで部屋から出て行こうとする。

 俺はそれに黙って付いて行く。何処に行く気だとは問わない。


 家の前の通りに出た後にファロンはこちらに顔を向けて来て顎で行き先を示して来た。


「ハイハイ、そっちに行けば良いのか?俺の後ろを歩き付いて来て監視をしながらも案内はしてくれるんだな?うん、分かっていたけど、ファロンはお人好しだなぁ。」


「ちッ!」


 俺の確認に対してファロンがめっちゃ大きな舌打ちをして来た。

 だけども俺は別にソレを気にしたりはしない。


 示された通りを真っすぐに俺は進む。何処に向かっているのかは全く分からない。

 けれどもファロンの事を俺は疑わずに歩き続ける。魔法を使って姿は消してはいない。

 向かう先の質問もせずに黙々と会話もせずに進んで行けば細い路地から大きな広場に。


 その正面には如何にもラストエンペラーで出て来た見た目の派手派手な真っ赤なお城?の様な巨大な建物。


 広場になっている所には人が自由に大勢行き交っている。


 そこに異質な服装の俺が現れ入ればそこで徐々に周囲の視線はこちらに集まってくる。

 なんだコイツは、そんな空気で喧騒が凄かったその場は少しづつ言葉が途切れて静けさを作り連鎖を起していく。


 真正面に見える大きな建築物に向かって俺が真っすぐに進むにつれて人々が道を開けていく。


 ざわざわと俺の進んだ後ろで「あ、ファロン」と言った言葉が続く事で俺はファロンがそこそこにこの国で有名人なのだというのを知る。


 こうして俺はその人波をかき分けてその建物内に入った。

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