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何で俺がそんな事せにゃならんのだ?

 永遠に同じ事を繰り返させられ、そして何の効果も成果もあげられず全てをリセットされる地獄があると聞いた事がある。

 確かヨーロッパ?キリスト教の地獄だったか、悪魔が管理しているだったか?

 何処までも不毛、許されざる罪、その罪業をずっと責め続けられる地獄。


「ちょっと多めに魔力を込めておいたからなぁ。昼夜休まずにずっと穴掘りの動きをさせ続けて、はて、何日持つかね?」


 これにて一件落着、と言って良い状況なのかどうかは微妙だが。

 もうメドン商会の事もラーナの事も気にしないで良くなった。


「さて、これからどうしようかなぁ。また新しい土地にでも行ってみるのも良いんだけど。」


 この国をしっかりと全て観光できた訳では無い。まだまだ色々と見どころ等はあるんだろう。

 しかし当初の目的は達成した。いや、達成していなくとも別にもう砂漠はこれにてお腹いっぱいである。


 どうしても見ておきたい観光名所、と言ったものが有る訳でも無いので、別に俺はこのままこの国を去ってしまっても良い。


 だけども「しょうぎ」の件だけはちょっとだけこの先、その行く末が気になっていた。


 この砂漠の国の新たな「娯楽」となる代物だ。その広がり方や、どれだけ一般に浸透するかと言った部分をちょっとだけ観察して見ておきたい。


「これと言って深い考えでも無いけれど。気まぐれだな、いわゆる。」


 俺の中にある常識はこの世界での非常識である。

 この砂漠の国でその「将棋」と言う非常識はどの様に受け入れられるだろうか?と言った部分を見届けたい。


 下らないモノとして一部の人々にしか受け入れられないのか?

 或いは頭の回転が速い者だけが楽しめる物として広がるだろうか?

 はたまた誰しもが遠慮せずに楽しく対戦できる遊戯として子供も老人も、男も女も関係無しに国民全員が知る遊びになるか。


「スノーレジャーの思い付きで出したアイスホッケーは王国の騎士団の冬場の訓練鍛錬も含んだスポーツ娯楽みたいになっちゃったからなぁ。・・・あれ、今どうなってるんだろ?」


 以前の「やらかし」と言えるか、どうか?その時の事を少々思い出す。


 自分の中で「ちょっと思ってたのと違う」みたいな結果になる事も良くあった。

 なのでこの度のこの「しょうぎ」はそう言った道を辿ったりしないで欲しいなと思いながらテンソウの所に戻った。

 できれば誰もが笑顔でワイワイ集まって楽しめる物になって欲しいと願いながら。


 ===  ====  ===


 それから三か月経った。あっという間である。

 此処までの期間をこの国で過ごすとは思っていなかった。


「と言うか、広まるの超速過ぎるし、既に知らない人はいない、って言える位に流行ってるの、コワイ。」


 もちろんソレは「しょうぎ」の事である。

 あれからテンソウとドロエアーズには「子供用」の簡易版と言うか、省略版と言うか。

 そう言った「入門用」を作ってみるのはどうかと言った話を持ち込んだりしている。


 それは、まあ、速攻でテンソウが計画を立てて即座に実行していたりするのだが。


「いや、ソレにしたって・・・なぁ?ドンダケ飢えてたんだよ?」


 そうは言ってもこの様に厳しい気候の下で暮らしている人々なのだから、その生活に余裕も潤いも無かったんだろう。

 毎日を「生きる」事に使っていて、余力が出ればそこは全力で休む、そう言った事も理解はできる。


 だからだろう。その休む部分にこの「しょうぎ」が入り込んだ。

 楽しく休む、頭を使うにしても「遊び」に使う。そう言った部分が大いにこの国の民には受け入れられてしまったと言う訳だ。


 ドロエアーズが推奨し、テンソウが国の認可を得て正式に売り出す。

 そんな話題が有ればそこに直ぐに娯楽に飢えていた国民は食い付く訳で。


 テンソウも大々的に売り出す為に莫大な宣伝費を出して初期投資をしたと言う事らしい。

 その甲斐あって「しょうぎ」は爆発的に広がったと。


「それにしても国の隅々にまで漏らさず連日宣伝するってのは、幾ら掛けたんだよテンソウ?」


 お金の使い方と言うのが大胆過ぎる。テンソウの商売の仕方が意味不明である。

 そこまでやったらテンソウの所で売る国の正式認可を受けた「しょうぎセット」の売り上げでの黒字はおろか、補填して差し引きゼロにすら持っていけれないのでは?と心配はしたのだが。


「テンソウはニコニコするだけでそこら辺の考えとか教えてくれなかったからなぁ。」


 俺にはもう関係の無い話、と言ってしまえばソレで終わりだ。

 確かにもう俺の手から完全にこの「しょうぎ」は離れてしまったと言えるのだが。

 そうであっても気になる事は気になるのだ。


「もう後一週間したら第一回の公式大会だぞ?やる事えげつなく無い?」


 既に「棋譜」の取り方や「定跡」も研究されていてやる事の何もかもが早過ぎた。

 その中心に居るのがラーナとドロエアーズ。それとテンソウである。


 王宮でラーナと休憩中に対戦していた職員たちもコレに参加しており、俺としては「ちゃんと自身の仕事をやれよ!」とツッコミたい所だったが。

 しかしこの職員ども、既にそう言ったノルマ的な仕事は全部速攻で終わらせてからこの「研究会」に参加していると聞いた。


「もうそこまで行くと「狂気」じゃねーかと疑うレベルだよ・・・」


 何処へ行くのか?何処まで行くのか?そんな中でホッとする、ただ一つだけ言える事と言えば。


「奇抜なこの国独自の突拍子も無いルールなんかが作られなかった事だな。」


 俺の知っている「将棋」に収まっているのだ。いや、言ってみれば当たり前な事のハズなのだが。

 だって俺はそもそも別に外れた事を教えていた訳じゃ無い。

 覚えている事はしっかりと全てラーナには伝えたし、ドロエアーズにも後に色々と「将棋」の説明をしておいてあった。


 なので妙な奇抜なルールなどが制定されたりはしないだろうと思っていたが。


「ホッとしてるよ、マジでそこは。こんなの統一されておらずに「ローカル・ルール」とか作り出されちゃったりとかしてたらカオスだったもんなぁ。」


 全国共通、だからこそ、同じ条件、同じ立場で対等に戦う事が出来ると言うモノである。


「で、何で俺が特別解説員なんてしなきゃならねーんだよ?」


 俺の今悩んでいる所はそこだった。


 以前にアラビアーヌから教えて貰った一番最初の観光場所、塔の上で俺はそんなボヤキを溢していた。

 別に俺はこの塔へと入った訳では無く、空を飛んでその遥か上空でこの国を見下ろしている状況である。


「しかも国全体で予選会もして選りすぐりの棋士たちが集まって本戦も何日も掛けて戦うつもりなんだろ?・・・付き合ってられんわ。でもなぁ・・・」


 これ程に国中に広まった「しょうぎ」である。この予選大会も、本戦大会も、既に話題に上がら無い日は無いと言える位である。

 国民たちの口からは老若男女問わずその話で持ち切りだ。


 本戦は王宮内で行われる事になっており、本戦出場ともなればその者は一生の栄誉と言える事態になっている事も拍車を掛けている。

 それこそ王の前での対戦になると言う事で、観覧試合?みたいな状態になるらしい。


「そんな緊張天元突破で試合なんかやって実力が本当に出せるのかね?」


 一般市民からこの「しょうぎ」の棋士が出て来たとしよう。

 そんな者がこの先ずっと縁が無いと思っていた王宮に入る事となり。

 そして王様の目の前でそこで試合をしろと言う事になれば余りの緊張に気絶する者でも出るんじゃ無いかと。


 けれども既にコレは決定路線である。この「しょうぎ」にて、栄誉も名声も金も手に入れられるとなれば必死になる国民も出て来るのでは無いかと思われる。


 いわゆる「プロ」だ。そう言った部分も見越してのこうした大々的な宣伝と告知、国が主導しての派手なイベントなのだろう。


 そして国は国でも、各地域ごとに分かれた東だか、西やら、北、南などの各種の細かく分かれた地方大会なども開催されるのでは無いかとまで考えてしまう。


 有力な権力者がそうやって名誉の為に自身で雇ったそうした「プロ」を抱えて互いに代表として勝負させ合うと言った事も、その内にやる様になるのではないだろうかと行き過ぎた考えにまで及び始める。


「コレは妄想、って事も言え無いな。実現するんじゃなかろうか?」


 この国の先行きに関しては俺には責任など無い。けれどもこれ程に斜め上に「しょうぎ」を広めてる事を鑑みれば多少の心配はすると言うモノだ。


「そもそも特別解説員って、何すりゃイイねん・・・」


 問題はそこだ。そこしか無いと言える。そんな仕事などこれまでした事なんて無い。

 そもそもそれってどういう事すりゃいいの?である。仕事内容が全く掴めない。


「取り合えずN◯Kの将棋放送でやってる人のマネでもすりゃ良いのか?」


 ほんのり失礼な事を思いながら俺はその日になるのを待った。


 ===  ===  ===


「いや、マジでこれ程の規模になるとは思って無かったんだが?・・・本気か?」


 王宮前の広場は国民に開放されていた。そこではお祭り騒ぎ、大賑わい。

 と言うか、普通にどんちゃん騒ぎで屋台もあるし、何故か巨大な解説ボード?みたいな物も設置されていた。

 そこには一つ一つ貼り付けできる様にした駒も取り付けられていて「凝り過ぎ・・・」と俺は思わず漏らしていた。


 流石に俺はコレにドン引きして「何だよコレは・・・」と驚愕した。どうやらこのボードで出場選手の打ち筋を解説していくと言う事らしいのだ。


 本戦は既に前日に一戦していたのだ。今日はその内容の棋譜を読み上げつつ、その一手一手に解説を入れつつこの場を盛り上げようと言った形で準備されたものであるらしい。


 そして俺はここでは「特別解説員」であるからして、コメントを求められると言う形になっている。


「ふざけんなよ・・・どうにかできなかったのか?ホントに?気合入り過ぎでしょ、コレは流石に。」


 これから始まる事に対して俺は今直ぐにラーナにこの役を変わって欲しいと強く願うが。


「では、お願いしまーす!」


 と言うスタッフからの声で無情にも逃げられない事を悟るのだった。


(安請負は怪我の元、なんて言うんだったか?今の俺にピッタリ・・・)


 ドロエアーズから俺は「しょうぎ」の解説をお願いされていた。

 ソレを「まあ、別にいいけど」と軽い気持ちで受けてしまったのが運の尽きだ。


(てっきりこの大会の選手たちの試合のを個室でドロエアーズに個人的にするって思ってたのにな)


 言質を取られたとはこの事である。俺が「思っていたのと違う」のはこちらが確認不足だったのが原因だ。

 こんな事になると分かっていたら受けていなかったのにと今さらに思う。


 そうして解説は始まった。俺はこの広場前、その解説用ボードの前に並ぶ「しょうぎ」に熱心な者たちの視線に晒されている。


 しかし俺はこれらの視線を一切無視してボードの駒の動きを追う。


 俺の隣に立つこのイベントのサポート進行役が一手ずつキッチリと間を開けて駒の動き、棋譜を読み上げて行く。


「さて、ここで特別解説員のエンドウさん。この手は如何だったでしょうか?」


「えー。そうですね。ここの戦車がこのままだと動きにくくて足止めをされてますからね。隙間を開けて一気に敵陣に踏み込もうと考えての一手だったと思います、この時点では。けれどもこの十五手目前の手番で既にもうこの一手が相手に読まれていた流れだった事は痛い所ですね。露骨過ぎました。先を読まれた展開を想像して打った一手では無く、自分の動きたい様に動いた、と言った形ですね。相手がこの一手で動きにくくなる、そんな風な打ち筋では無く、やりたい様にやる、そう言った強引な手を使ってしまっているのがこの選手の敗因になっていたのだと思います。」


 俺は専門家では無い。だから結構曖昧?曖昧と言っても良いのかどうかすら怪しい感じで俺の感想を述べる。


「では、負けた選手が何処の辺りから打ち筋を変えていればこの展開にならなかったと思いますか?」


 進行役のスタッフがそんな事まで俺に聞いて来る。勘弁して欲しい。


「まあ・・・ここ、ですね。相手の一手までに余裕が有ったこの時、でしょうか?こちらの槍兵を一歩前に出していればこの後の展開にも幅を生み出す事が出来てまだまだ読み合いを続ける事も出来たかと。」


 頭をフルに回して手番を遡っていく。そして俺の魔法で強化した脳味噌で「ここじゃね?」と思った部分で止める。

 そして指定した駒を言った通りに動かしてみるとあら不思議。

 またしても盤上に膠着状態が作り出されて難しいこの先の手の読み合いに。


「なるほど、ありがとうございました。では、長くなりましたが本日の解説はこれまでとさせて頂きます。御集りの皆さんもこの後の展開をそれぞれで思考してみて楽しんでみてはいかがでしょうか?それでは次の解説でお会いしましょう!」


 かなりの時間が掛かってようやっと「一回目」が終了である。ちょっとウンザリだ。


 この後はこのボードはラーナが考えた「詰将棋」のコーナーへと変わる。

 俺はここで一旦お役御免である。しかし明日がある。まだ俺はコレをこの大会が終わるまで続けなければならないのだ。

 ソレを思うとドッと疲れが押し寄せて来る。心に。


 それでもやり遂げようと思ったのはこの大会にラーナが出場しているから。

 取り合えず勝つも負けるもどちらでも良いが、この大会でラーナが何処まで勝ち上がれるのかを見届けるまでは付き合っても良いだろうと思ったのだ。


 と言うか、そもそもこの解説ボード前に集まった国民たちは俺を見て「何者だ?」と言った目線をずっと送って来ていた事が気になった。


「いや、それが普通か。別に俺の事を知ってる人が居ないのが当たり前だよ。」


 事前にアラビアーヌにもドロエアーズにもテンソウにもラーナにも、俺の事は広めるなと言っておいてある。

 しかしもう既に知る人ぞ知る、と言った様な状態になっていたりするが。


「今後に俺はこの場に立ち続けてどんな風に思われるかね?」


 良く解らないけれど、と頭に付けられて「しょうぎ」の解説をするお兄さん?的な感じになるだろうか?


 そんな事を考えながら俺は取り合えず今日の仕事は終わったと言う事でテンソウの店へと戻った。


 そうやって大会の日々は過ぎて最終日。選手たちの対局はトーナメント戦である。

 一日に一局ずつ対戦が行われて、その毎度の解説を俺がやらされている始末。


(いや、確かに請け負ったけれどもさ、この役目を。ソレで最終的に俺を呼ぶ時のそれが、なぁ・・・)


 何時の間にかこの解説役を続けていたら俺への呼び方が「先生」になってしまっていたのだ。


 顔も既に売れてしまって、街の中を歩いていれば知りもしない赤の他人が俺を見て「先生!」と気軽に声を掛けて来る。


(ラーナも調子に乗って先生呼びして来るから嫌なもんだ)


 この大会はラーナが優勝した。今その対戦の棋譜を読み上げつつ解説をしているのである。

 コレが終わって初めて俺の役目は全て終了であり、その次にラーナのお披露目会がされる予定だ。


 これ程の大掛かりで長期間のお祭り騒ぎになるとは思ってもいなかった。たかが「しょうぎ」のはずなのに。


(このバカ騒ぎが終わったら、俺、この国を出るんだ・・・)


 などと内心思いながら解説が終了。俺は舞台袖に引っ込む。

 司会進行役の男が俺の居なくなった後に優勝者の紹介に切り替える。


 圧倒的な力の差を見せつけたラーナが優勝と言う事でこの場は俺に変わってラーナが立つ。


 優勝者のコメントが会場に響いているのだが、俺の耳にはそんなものは入って来ない。


「あー疲れたわー。何で俺がこんな事せにゃならんかったのか?ドロエアーズでも良くね?」


 この大会にはドロエアーズは出場していない。大会の役員側である。

 この第一回大会を大成功に収めるべく、裏方として頑張っていたのだ。


「優勝賞金もかなりの高額だからなぁ。これからこの国では「しょうぎ」がヤバいくらいに火が付くんだろうな。」


 俺はこの国で稼いだお金をそれこそ全くと言って良い程に使えていない。

 いや、過剰に稼ぎ過ぎたと言うだけの事か。


 俺がこの国でお金を使う所なんてそこまで多くない。

 別にここで新たな商売をする気であった訳で無し。新しい事業を起ち上げる訳で無し。


「豆は気に入ったから購入したけど。まだ大量にインベントリの中にあるしな。ソレが終わる頃には飽きてるだろうからして。」


 大きな金額を使ったと言えば、ラーナの店から購入した豆くらい。

 単純ではあるが調理、料理もラーナから習ったのでこの先の食事のバリエーションも少し増えたと言える。


「この後は何処に行こうか?魔改造村に一回帰って一度ゆっくりと晴耕雨読の日々、ってのも良いんだけどな。」


 考え事をしながら会場を去る。何時までも残っていると絶対に絡まれるから。

 多分ドロエアーズ、もしくはアラビアーヌから呼び出されるだろう。

 その内容も多分「大会成功の件」とか言った所から食事会へ、と言った流れになると思われる。


「それでもって今後もこの国で宜しくやって行ってくれって感じの事を求められるんだろうさ。」


 アラビアーヌもドロエアーズも俺の事を英雄扱いしてくる。

 この国に何時までも滞在してくれないかと、そう言った事を求めて来るのは目に見えている。


 もうこの国は充分に堪能した。もう良いだろう。


「よし、ここから南に行ってみるか。別れの挨拶とかしようものなら引き止められそうだからな。面倒だ。」


 次の目的地のイメージも決めずに俺は空へと飛ぶ。


「また気が向いたら遊びに来るよ、さらば、サハール。」


 分かれの挨拶を口にして俺は流れと勢いのままにこの国を去った。


 ===   ====  ===


「とは言え、この砂漠広いからなぁ。結構な距離を飛んでるけど。まだ境界線も見えないなぁ。」


 俺は行った事のある場所にしかワープゲートを繋げられない。

 なので先ずは現地へとこうして到着せねばならないのだが。


「うーん、真っすぐに進んでるつもりでもちょっと横に逸れていたりするか?脳内に距離と方向が解る地図でも展開しつつ飛んでれば良かったなぁ。」


 そんな事を考えつつも地平の彼方にうっすらと緑が見えて来た。境目にようやっと到着した様子。

 その先へとまだまだずっと先に飛行して行けば大分久しぶりに感じる草原と木々が徐々にこの目に入ってきた。


 けれどもこの程度ではまだまだ町はおろか、村も存在していない。もっともっと砂漠から離れた場所じゃ無ければ人の住居も発見出来無さそうだった。


 何も決めずに只テキトウな方向に飛び続けていたので現在地が何処らへんなのかが全く分かっていない。


 けれども何も決めずに飛行し続けて俺の頭の中はサッパリとした気分になっていた。

 頭空っぽ、思考せずに只こうして空を飛び続けるだけの事がこれ程にリフレッシュ効果があったとは知らなかった。


「いやー、何も無い景色でこれ程に心洗われるとはなぁー。ぼーっとしつつ移り変わりゆく景色を見ているだけでこんなにもスッキリできるなんてな。」


 そんな風にして真っすぐにそのまま行けば地平線に大きな連峰が見えて来た。


「・・・お?中々に大きな都市があるっぽいなぁ。うん、ここに寄ってみるか。面白そうだな。」


 白い山、青い空、そこに来て全体的に真っ赤な中華風の建造物。


「今度は砂漠から九龍城?いやいや、どうなってるんだろうなぁ、この世界の文化分布って?」


 そんな事を疑問に思った所で俺の脳内にその答えは無い。

 俺の観光の次の場所は決まりだ。この横浜中華街がもっとド派手になったような、韓国のネオン街みたいな、そんな都市に滞在だ。


「で、やっぱり最初はここの都市の周辺を探索してしっかりと外側ってのを見て回りたいよな。」


 いきなり都市の中に降り立つ、と言った事も確かに楽しい事は楽しい。

 右を向いても、左を向いても、何処もかしこもお初にお目に掛かるのだから視界に入るアレもコレもと目移りしてしまうのは確実で、ソレが楽しいと言えば楽しいだろう。


 だけどもここは一度落ち着いてこの都市を守る外壁から堪能していく事にする。


「いやー、万里の長城的な?何かイメージ的にそんな感じの都市壁だなぁ。内部へと入る為の関門も、中国歴史映画?」


 巨大な鉄の門。迫力が抜群だ。この都市に商売をしにやって来たのだろう者たちが列を作ってそこへ並んで順番待ちをしている。

 荷車を引いている者も居たりして、その上には何やら動物か、或いは魔物だろう存在の毛皮が畳まれて積まれていた。


「ふーん。着てる服のデザインも、何だか「中華」って感じだなぁ。」


 何だか中国やら韓国やらタイやらバンコクやら台湾やら何やら?デザインが様々で特に「コレ!」と言った感じに統一はされていないのだが。そこは何故か全体の感じが「中華」で統一されてる感が出ていてヘンテコな感じだ。

 どうにも良く解らないがそう言った「民族衣装」的な雰囲気な服を全員が着ている。


 そんな中に俺のこのスーツが混ざったらさぞ目立つだろう。


「まあ魔法で今も姿を消して見られ無い様にしてあるけどね。」


 新しい国に来たと言っても良いのだ。そんな場所でいきなり俺のこのスーツ姿を晒す事は控える。

 まあその内に慣れて行けばそんな最初に考えていた事などすっかり忘れて行動するのだろうが。

 大体そう言ったパターンであるのは毎度の事に自分でも良く解っている。


 だけどもコレは途中で面倒になるのだ。しょうがない。

 こうした新たな場所での人との交流を深めて行けば俺だけが姿を隠すと言った事は面倒になっていく。


「さて、じゃあ最初はこの都市での通用語の勉強からかなぁ。」


 俺は列に並ぶ者たちの側に寄ってその会話に耳を傾ける。

 その際に俺は魔力で「脳」を強化しておくのを忘れない。


 アラビアンから中華に変わっているのだ。当然その言語も変化しているだろうと。一応最初に言葉を覚えておこうと思っての事である。


(うーん?やっぱりいきなりは分かりにくいよなぁ。どの単語が、何を意味指してるのかが解るまでは暫く聞き流していないとなぁ)


 しかし列に並ぶのは主に商売人ばかりだったのが良かった。

 そこら中で検問を受ける間の待ち時間にそれぞれが商売を始めて取引をしているのだ。


 頻繁に躱される会話、と言うか、交渉?が俺の耳に入って来て助かる。

 どの言葉が何を指しているのかなどをそう言った商人たちはジェスチャーなどを交えながら交渉をしていたりするので段々と俺の頭の中に情報が蓄積していく。


「おい!そりゃないだろうが!そっちの!”#$%&’とこっちのコレを含めて&%’¥*+!”#だろ!」


「いやいやニイサン、それは!”#$%&’|*+・<>?ってもんだ。そっちが引くべきだよ?」


(会話の流れとかも大体判って来たなぁ。もう少しすれば問題無くなるかな?)


 と思った時に金属同士がぶつかり合う音がこの場に響いた。


 何かと思ってその音源の方に首を向けたら、視界に入って来たのは武装した男二名。


 そいつらが青竜刀を振り回して打ち合っていたのだ。

 それはまるで武侠映画でも見ているかの様な錯覚を俺に覚えさせたが。


(こわー・・・何アレ?いきなり何こんな所でおっぱじめやがってるんだよ?)


 冷静になって見つめてみればここは検問所の前、都市に入る門の目の前である。

 門兵、衛兵、守備兵に即座に目を付けられて制圧されるだろう。と思っていたのだが。


(え?誰も来ないぞ?注意しに来いよ!?)


 来ない。その間もずっと打ち合いは続いていて、ソレはしかも本気で斬り合っている。


(え?マジかよ?いつの間にか賭けまで始まってるぞ?嘘だろ・・・)


 列に並んでいて、そこら中でさっきまで商売の交渉事をしていた者たちはあっという間にこの男二人の斬り合いに注目していた。

 そして始まるそこらじゅうでの「小さい」賭け事。


(今お前ら互いに商品の値切りバトル繰り広げていたよな?それで何でいきなりそれ程までに直ぐに切り替えられるの?びっくりだよ)


 しかしもうそれ所では無い。他の者たちも同じだ。誰も彼もがこの勝負の行方に熱を発して「そこだ!」「いけそこ!」と叫んでいるのだ。


 この争っている二人がどの様な理由で刀を抜いてまでの戦いになったのか何て誰も気にも留めていない。

 あるのはどちらが勝つか。それだけ。だって二人のどちらが勝つかを誰もが誰も「賭け」を全員がしていたからだ。


 もうこうなるとコレがここの「国民性」なのだと言う事だ。誰もこの二人を止めようとする者が居ない。


(やべえ所に来ちゃった?マジかよ・・・)


 そう俺が思った時にとうとう勝負に決着がついた。

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