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回収、回収

 家の中に居た者たちは全員が外に出され一纏めに集められていた。

 この捜査の間に証拠隠滅などに動かれない様にする為だ。

 メドンも外に居り、その顔は強制捜査を何とも思っていない様子である。


 それ程の余裕を見せるだけの準備をして来て、そして万が一にもそれが「バレない」と考えている節がありありと分かってしまう。


 家の中を複数のチームになって兵たちは捜索を始める。

 一部屋一部屋丁寧に、隅々まで、僅かな痕跡すら見落とすまいとして人海戦術。

 狭い部屋などは兵たちがぎゅうぎゅうになりつつも部屋の角にまで目を凝らしてその形相は必死である。


「なあ?もうそろそろ良いか?」


「うむ、宜しく頼む。」


 この短いやり取りだけで俺とドロエアーズは意思疎通をする。


「はいはい、皆さん、そこまで。隠し金庫が三つ。隠し部屋が四つあるよ。それと、その他の隠し場所も分かってるから、そこまでしなくて良いよ。それじゃあ今から俺の後に付いて来て貰えるかな?」


 捜査員の数は多くても今の場合はソレは無駄。俺が居るから。

 一応は逃走防止の為に三十名程の兵士は外に出している者たちの警戒に当たらせている。

 しかしその残り全員も必要無いのだ。魔力ソナーで既に俺がこの屋敷全体を既に調べ切っている。


「先ずは隠し金庫から頼んでも良いか?メドンを呼んで来させよう。ヤツの驚く顔が見たい。」


「悪趣味だなドロエアーズ・・・別に良いけど。」


 こうして俺が入った部屋にドロエアーズと兵士五名、文官三名、メドンが到着。


「・・・私を此処に呼んで何をなさろうと?それとも秘密のお話ですかな?」


 まだまだ余裕を崩さないメドン。リーゼントな髪型を弄り整えて「ふふん!」とこちらを嘲る様に鼻を鳴らした。


「メドンよ、お前は真っ当だと、そう言ったな?ならばこの家の中にまさか「隠してある」金は存在せぬな?」


「そうですな。その様な存在を隠さねばならぬような金は一切、我が家には御座いません。しかし何故その様な話をこの部屋でなさるのです?何処をどう見ても、何の問題も無い部屋ですが、ここは?」


「そうか、なら、エンドウ殿。宜しく頼むぞ。ああ、その前に。メドン、その様な「隠された金」が見つかれば、ソレは全て強制徴収である事は、解っているな?」


「ええ、ええ、理解しております。しかし、何処にその様な物があると言うのです?ありもしない物をその様に。私をからかっておいでですかな?・・・それと、この方は一体どなたで?」


 ここで姿を現した俺に気付いたメドンがそんな事を言ってくる。

 なので俺は自己紹介をする事にした。


「ああ、俺は雇われている者で、名は遠藤。この強制捜査の協力要請を受けて今この場に居る。少し前までメキルラーナの用心棒をしていた。」


 コレにメドンは別段動揺と言ったものを表さない。しかし演技染みた感じで少々片眉を上げて。


「ほほう?国に雇われるとは、優秀な方の様だ。見た所、その服は異国の物とお見受けします。ソレはどうすれば手に入るかお教えして頂いても?どちらからいらしたのですかな?」


 俺の来ているスーツに目を付けたんだろう。そんな事を言ってニッコリと笑顔で「商売」をして来るメドン。


「その話は後にしましょうか。今は「隠し金庫」を暴きましょう。」


 俺の返しにメドンが顔を歪める。そして少々の怒りを俺に対して向けて来る。


「そんな物は無いと言っておりますが?何処にそんな物が?」


「壁が。」


 俺が一言そう返しただけでメドンの顔が増々歪んだ。俺はここで追撃をする。


「床が。」


 ここでメドンは目を大きく見開いた。もう一丁追撃をしておく。


「天井が。」


 メドンはここで息を詰まらせる。そんなメドンの百面相を見たドロエアーズが。


「いや、良いモノを見せて貰った。エンドウ殿、では早速暴いて貰えるか?出て来たモノは全て徴収する。」


「ま!待て!何をしようと!」


 ここでメドンが兵士たちに抑え込まれる。俺は先ず手始めに邪魔なテーブルや椅子を廊下に出して貰える様に文官たちに御願いした。

 そして壁をインベントリに「入れる」。そう、入れたのだ。

 壁は壁でも大きな一枚板。その板が取り払われた所には綺麗に「敷き詰められた」金貨がぎっしり。

 これ、壁、と言うか、板を壁に見せかけてその裏に金貨を隠してあるのだ。

 四隅にこの隠蔽用の板が倒れて来ない様にしっかりとストッパーも仕掛けられていた。


 勘違いさせる為だ。何の変哲も無い壁として、何も無いと錯覚させる為の。


「おお、この様な隠し方があったか。隠し金庫などと言うモノだからな。てっきり厳重な金属の箱が隠されていてその中に入っているモノだとすっかり思っていた。」


 ドロエアーズが感心したと言いたげな風でそんな事を言う。続けて。


「おや?確か床、そして天井も同じ様になっているのか?」


「まあそう言う事だね。じゃあ今度は床だ。」


 俺はドロエアーズに部屋の外に出て貰ってからインベントリにこれまた「床板」を放り込む。

 するとそこには同じく綺麗に敷き詰められた金貨が並んでいる。


「うおおおおおおお!ヤメロおおおおお!」


 ここで押さえつけられていたメドンが叫んだ。こんなはずがあって堪るか、そんな内心がそこにはぎっしりと含まれている。


「続けて天井、と言いたい所だけど、コレはちょっと待ってくれ。」


 天井は天井で少々特殊。その板の裏に金貨を綺麗にハメる枠があり、このままインベントリに仕舞うと金貨も一緒に取りこむ事になる。

 部屋の中の物を全て綺麗に外に出したら俺は魔法でその「隠し金庫」を落とす。

 ゆっくりと落ちて来る天井。ソレが床に辿りつけば見えるのはキッチリと枠に入って固定されている並べられた金貨。


「ぬぐぐぐぐぐうぅぅぅぅ!?」


 既に言葉にならないメドンの叫び。そう、この部屋が先ず一つ目の「隠し金庫」である。

 後これが二つあるのだ。相当な額になる。この部屋だけでも相当広いのだ。残りの二つはその1.2倍近い広さ。


「メドンよ。コレはどう言う事だ?これ程までに隠さねばならぬ金とは一体どの様にして稼いだ物だ?それは、真っ当な商売か?さて、それではエンドウ殿、次を頼む。お前たち、これらを全て回収せよ。他の班の者たちも呼んで早急に事を為せ。」


「ま!?まさか!?そんなのは有り得ない!」


 どうやらメドンはドロエアーズが口にした「次」と言う言葉で既に別の場所がバレていると理解したらしい。

 それでも有り得ないと、そう信じたい様で「バカな」を連呼している。


「メドン、お前にも付き合って貰うぞ、全てな。」


「す、全て?・・・な、何がどうなっている!?」


 この困惑は無視されてメドンは縄で縛られてしまった。そのまま俺たちが次に向かう部屋まで同行させられる。御愁傷様である。

 結局は残りの「隠し金庫」も同様の形である。ソレを暴いて隠してあった金は全て没収だ。


 これには流石にメドンも気力をごっそりと奪われたらしい。

 もう言葉も出ないと言った感じでぐったりとしている。

 だがここで終わりはしない。隠し部屋四つが残っている。そこには多くの書類が収められているのだ。


「じゃあ次で。」


「全て・・・全て知っているのか?まさか、そんなのは有り得るはずが無い。どうしたらそんな事が出来ると言うのだ。ここに侵入者が現れた事など一度だって無いはずだ・・・私以外にコレを知り得る事の出来る者は限られていたはず・・・裏切り者が居たのか・・・?いや、考えられない、ソレは有り得ない・・・」


 執務室だろう部屋にやって来た。俺はそこで壁の装置を魔力を通して無理やり動かす。

 ゴリゴリと壁の一部がずれて行く。そこには小部屋が。


 唖然とした顔でコレを見るメドン。どうやら酷いショックを受けた様で目の焦点が合っていない。


「ほほう、コレは裏商売の帳簿か?これらを全て運び出して精査しろ。急がなくとも良い。確実な調査結果が出たら報告を上げるんだ。」


 ドロエアーズがそう言って部下たちを呼んでその隠し小部屋にあった物を一つ残らず持って行く。


「あとこの机の引き出しにカラクリがあってな。この書類を入れる引き出しの・・・ここの下が開くんだよね。面白いよなぁ、この机。特注なんだろうなあ。」


 俺は机の引き出しをパパッと開けてその中身を出してドロエアーズに渡す。ソレは一枚の書類。


「御禁制の薬にまで手を出していたのか。馬鹿な奴だ・・・」


 この内容を読んだドロエアーズが冷たい眼差しをメドンへと向ける。

 その視線を受けない様にと顔を逸らしているメドン。額に冷や汗がドバドバである。


 そこからは残りの隠し小部屋を全て暴いてそこにある裏帳簿などを全て回収。

 その他にも机に有ったギミックと似た感じで隠されていたアレコレを俺がドロエアーズに教える。


 テーブル、椅子、調理場の使われていない竈の中など、細かく色々と分散して隠し書類はしまわれていた。

 一纏めにせずにあったソレは十一にも及ぶ。そこまでする必要があったのか?とちょっと疑問に思える数である。


 これらを全て詳らかにされたメドンは既に途中で心の方が先に死んでしまっている。

 虚ろな目で無表情。何もかもが自らの手の内から零れ落ちて行く事にその精神が耐えられなかった模様である。


 メドン商会はコレで終わりだろう。外へと出されていたこの屋敷で働いていた者たちもこれから連行されて事情聴取を受けて罪の有る無しを選別される事となる。


 こうして屋敷内での捜索は一先ず終了。外に出た。

 ここで俺はドロエアーズに一言。


「いやー、まだ終わって無いんだよねぇ。まだ一個、大き目のが残ってる。コレは「隠し財産」って言って良いのかね?」


「何だ?勿体ぶらずに言ってくれ。と言うか、隠し財産?」


「この屋敷の入り口から門までの間の長い道、その中間の地下に埋められてるんだよね。」


「なんだって?」


 残りの捜査は他の兵や文官たちがこの後は滞り無く進める事になっている。

 俺がやらねばならない仕事の最後はコレだ。


「地面に魔力を通してっと。ほらほら、浮かんできた。」


 まるでそれは地面から生えて来るかの様な光景。金のインゴット、ソレが浮上してくる。

 これは隠し金庫とは言えない。文字通り地面に埋められていたのだから。言ってみれば埋蔵金か?


 大き目な「コタツ」くらいだろうか?金の延べ棒がきっちりと綺麗に整った状態で積まれている。


「しょんなばかな・・・」


 メドンはもうそれ以上の言葉も出せないみたいで涎すら拭う気力も無い。垂れ流しっぱなし。一気に老け込んだ顔に変わっていた。

 多分「これだけは見つけられはしない」とか思っていたんだろうなと。


「さて、俺の仕事はコレで終わりだ。他に何かやって欲しい事はある?」


「いやはや、自分でエンドウ殿に協力を求めておいて何なのだが、コレは、酷いな。」


 苦笑いで金塊を見つめるドロエアーズ。いきなり目の前に大量の金塊が出て来たのだから驚かない訳が無い。

 そしてそもそもこんな展開になるとは思いもしなかったと。


「コレを運べる用意などしていないのだが?エンドウ殿、頼んでも良いか?あ、すまない。数を把握してから御願いする。おーい!手の空いている者はコレの計算をしてくれー。」


 この後は数えられた金塊を俺がインベントリにしまってメドン商会への強制捜査は終わりとなった。


 その後は王宮に戻って一息入れる。別に俺は今自分の頼まれていた仕事は全て終わったのでここに戻って来なくても良かったのだが。

 用心棒の役も既に解除されて自由の身ではあるし、王宮には用は無い。


 しかし取り合えずラーナには全部終わった事を教えておく必要があるだろうと思ってこうして一言告げる為にこちらにやってきたが。


「・・・集中し過ぎていて俺が戻って来た事すら気づいていないな。」


 ここ最近の何時ものラーナである。王宮勤めの職員たちと「しょうぎ」に夢中。

 そう思って見ていれば招集が掛けられる。メドン商会から証拠類が回収された事に因ってその処理の為に即員たちが呼ばれたのだ。

 一気に仕事に戻っていく職員たちを残念に思っているのだろう眼差しで見送るラーナ。


「終わったか?ならこっちも義理でお知らせだ。メドン商会はもう無いも同然だ。ラーナはこれから安心していい。」


「・・・はい、ありがとうございました。」


「で、店はどうするんだ?」


「その件に関しては既にもう諦めが付いています。ウチの店がもうこれだけの期間仕入れが止まっていましたから。契約農場はもう別の店との契約を済ませてますよ。店は畳みます。」


 いつの間にそんな事が?と思って聞いてみれば。


「市場に出た際に出店に並んでいた商品を観察してました。店の人にも話を少しづつ聞いていたし、実際に契約していた人と偶然会ってその点に関しての話も少々しました。」


「俺が気づいて無かっただけかぁ。そう言った所には全く気を向けて無かった。」


 俺は外に出かける際には周囲の警戒を主にしていてラーナが誰とどの様な会話をしているとかまでは気にしていなかった。

 なので何時の間にかそんな状態になっていたとは露知らず。俺も間抜けなモノである。賢者って何だろうか?俺の様な間抜けを賢者とは言わないだろう。


(今度俺をそんな風に言う奴が居たら全力で拒否したいなぁ・・・)


「では、スイマセンがこちらの相手をして貰えませんか?中途半端に終わってしまって終わらせたいんです。」


「いや、人のやってる勝負を途中から入り込むのは如何なモノじゃね?」


「そうですか?皆さん途中から「俺に交代しろ」とか「良い手が浮かんだ」とか言って入れ代わり立ち代わりしていたりしますが?」


「あー、そう言う所、緩い感じ?俺としてはそう言うのは無しにして一対一の真剣勝負が基本だと思ってるんだけどねぇ。」


 どうやら皆でワイワイやっていた事に因ってこの場だけでは「しょうぎ」は緩い空気でやってもオッケー、みたいな事が浸透してしまっていたらしい。

 俺としてはそう言った部分はマジになってやるモノだと何となく思っていたのでモヤモヤした気分になる。


 けれどもこの国での新しい文化となる「しょうぎ」に俺が多く口出しするべきでは無いんだろう。俺が齎したものであるとしても。

 この国独自に発展したルールが制定されるかもしれない。そこら辺に俺が加わるのは気が引ける。と言うか、ぶっちゃけ面倒臭い。


(そう言ったモノは日本じゃ無いんだし?勝手に決めて貰ってですね?)


 これから自由な発想でこの「しょうぎ」が広まるのだ。俺の思いもよらない事がきっと起こるだろう。

 ソレを抑えつけたり抹消などする気は俺には無い。そうやって試行錯誤してこの国の独自の「しょうぎ」が広まれば良いと考える。


「ああ、その為には子供にも遊びやすい物が有った方が良いんだろうか?ちょっとテンソウにそこら辺話してみるか。」


 勝負が途中の「しょうぎ」に俺は手を出さずにおく。コレにはラーナが「むーん・・・」とちょっと不満そうではあるが我慢して貰う。


「・・・あれ?ラーナ、ちょっと聞いても?店を閉めるんだよな?だったら収入はどうするんだ?別の所で働く当てはあるのか?」


「ああ、その事ですか?それなら心配は要りません。安心してください。」


 安心しろと言われても分からない。いや、そこまで言われたら俺にはもう何も言える事は無いのだが。

 取り合えずそれでも俺は突っ込んで聞いてみる。


「何処かに既に就職は決まってる?何処に?」


「はい、そうですね。ドロエアーズ様に雇って貰う事になりました。」


「・・・うん?何でそうなった?」


 訳が分からない。何でドロエアーズがラーナを?としか思えず俺の脳内はチンプンカンプンだ。

 なので精いっぱいに頭を働かせて俺は考えを纏めてみる。そして。


「・・・え?もしかして、お抱えの「しょうぎ」の?」


「そう言う事になると思いますね。」


 そう、ラーナをドロエアーズが「プロ」として雇うと言う形を取ったんだろう。コレには俺、びっくりである。


(マジかよ・・・手が早く無い?)


「女王陛下は許可したの?友人が取られるとか思って反対とかは?」


「その様な事は一切ありませんでしたが?アラビアーヌ女王陛下も「しょうぎ」は打てますが、ここはこの「しょうぎ」をこの国に広める事を強く推奨するドロエアーズ様が私を雇うと言う形の方が良いだろうと言う事ですんなりと決まりましたね。」


「あ、そう言う感じっすか、そうっすか・・・」


 こうなるともう俺からは何も言う事は無い。それならば「子供向け」の縮小版、或いは簡易版の件をテンソウに話を持って行く前にドロエアーズに一度言っておく方が良いかもしれない位か。


 もう俺がここで何もする事は無いと言う事だけは分かった。

 取り合えず今日の宿はテンソウの店で良いだろう。既に俺はラーナの用心棒では無いので戻っても何らの問題も無い。


「ああ、ちょっと心配な部分があるからそれだけ片づけてからにした方が良いか。」


 ラーナの店を多分まだあの雇われ者たちがガンガンと壁を壊そうと頑張っている事だろう。

 そこを解決してからでないとスッキリとこの件は終わりにはできない。


「じゃあ行きますかね。」


 俺はその一言だけ言って王宮から出る。ラーナには「これからもしょうぎを楽しんでくれ」と告げて。


 そうしてやって来たのはラーナの店の前。今日も張り切って「どうして・・・」と死んだ魚の目をした男どもがガッキンガッキンと壁を壊そうとしている。

 今日は全員がどこぞの鉱夫かと思わせる格好で、壊せもしない壁に向かって揃った動きでつるはしを振るう。


 そこに俺は声を掛けた。


「おーい、お前さんたち、休憩にしないか?ほら、冷たい飲み物も用意したぞ?」


 俺はサッとテーブルを用意してそこに氷入りのなみなみと注がれた水を並べる。


 この声掛けにはまるで生気の無い顔をこちらに向けられた。

 そして「何だ?お前は?」と覇気の無い声で問い掛けられる。


「ああ、俺はこの店の用心棒をしていた者だ。」


 俺は正直に、そして勘違いをさせる様な言い方で答えてやった。

 今はもう俺はラーナに雇われている訳では無いし、店を守る義務も生じていない。


 していた、過去形ではあるが、どうにも疲れが見える男たちにはそこは全く気付かなかったみたいで。


「おうおうおう!てめーを血祭りに上げりゃあ、やっとマトモな報告ができるぜ!」

「こんなしんどいクソみてーな仕事なんてやってられっかよ!」

「何時までも壊れねーこんな気持ちワリー壁を毎日毎日!クソが!やっと終わりにできるぜ!」

「どんだけ長い期間こんな事をやらされるのかと思っていたけどよ。はっ!鬱憤ばらしには丁度良いぜ。」


 金で悪を為す者たちの口にする言葉の中身はどんな地域でも共通なのだな、と。変な部分に感心する。


(あー、俺って新しい場所に観光に出向くと必ずと言って良い程に同じパターンで悪党の屋敷を暴いたり、ゴロツキどもや悪漢どもを成敗してたり、腐敗した国にメスを入れたりしてるなぁ。これで何度目だ?)


 何処に行っても変わり映え無い。本当に困ったモノだ。

 行く場所の環境や文化や状況や事情は変われども、やっている事の内容が似通っている様な気がする。と言うか、水戸黄門だコレでは。


 世界を旅して、興味のある国や町へと寄って、そこで見つけた悪を俺が勝手に裁いている。

 助さんや隠さん、八兵衛もいないし風車の弥七も当然連れてはいない。お色気担当ユミカオルも居ない。


 しかし俺には魔力も魔法も有ってソレが代わりになっている。

 全てがこれ一つで万事解決!などと深夜の通販番組の謳い文句の様な状態だ。


(そりゃ悪党を見たら見て見ぬふりが出来なくなる訳だよなぁ)


 どうにかできる力を持っていて、そして偽善であっても善を為す位は善良だ。悪を放置したりすれば後ろめたい気分になる心を持っているのだ。

 ふらふらと曖昧で、安っぽい正義感ではあるが、ソレを遠慮なしにぶつけられる悪党を見付けたりしたら「やってやろうじゃないの」と悪ノリしてしまうのはしょうがないのかもしれない。


「メドン商会は潰れたぞ?今さっきな。お前らはもうこの店に関わらなくても良い様になった。ソレを教えに来てやったんだがな?」


「あ?」「んん?」「は?」「お?」


 俺の口からメドン商会と出た事で男たちは一瞬止まる。そして。


「ぎゃはははは!」


 笑った。コレに俺が不思議に思った事が顔に出ていたのか、男の一人が説明をして来る。


「あのメドン商会が潰れただぁ?可笑しな事を言う奴だ!盛大に笑わせて貰ったぜ!」


「いや、本当なんだがな?」


「俺たちは確かに。ああ、そうだ。今更隠す事もねーな。メドン商会に雇われてこの店をぶっ壊せと言われてるがな。あそこが潰れる何て事はあるはずがねぇんだよ!」


「ソレは思い込みだろ?」


「見た所、この国のモンじゃねーだろ、お前。その服装からして何処の御坊ちゃまだ?ああん?南か?北か?どうにしろ、ここ最近に来たばかりだろ、お前。そんな奴が何を分かるって言うんだ?大商会であるメドン商会が潰れるとかどう言った冗談だってんだよ!」


 そう言って俺が用意していたテーブルの上のコップを勢いよく掴んでグイッと飲み干した説明男。

 それに続けて他の三名も同じように水をグイッと一息に飲み干した。


「ぷはぁ!うめー!氷も入ってる何て、なんて贅沢なんだよ!こいつの礼にテメーは半殺しで済ませてやるからありがたく思えよ!本当は長く時間を掛けて弄り殺すつもりだったが、気が変わった。」


「勝手な事を言うなぁ・・・」


 この男たちの態度に俺は呆れる。何処までも俺の存在を下に見て、しかもどんな言葉も耳を貸さない。

 典型的な身勝手、自分勝手なゴロツキ。他に迷惑を掛ける事に一切躊躇しないタイプ。

 この調子であれば金を積めば簡単に人殺しだってやる輩であろう。


(そうやって決めつけるのもどうかと思うけど。こいつら俺の事を最初っから殺す気だったみたいだし?水を飲んだらソレが半殺しになるだけって、どうかと思うぞ?その脳味噌)


 半殺しに気が変わったと言うのならば、その行為中にまた気が変わって「殺す」となるかもしれない。

 こいつらの言う事は当てにならない。そもそも信用と言うモノが無い。


「良いのかソレで?本当に?今なら見逃してやっても良いと、俺は思ってるんだが?」


「何を言ってやがる?頭おかしいのかテメー?いや、おかしいな。メドン商会が潰れたなんて言って俺たちを謀ろうとして来やがったくらいだ。逃がさねーぞ?そのふざけた態度、俺たちを舐めてるのと同じだからな。たっぷりとその身に刻んでから解放してやる。今度から俺たちの影を見ただけで腰抜かして小便漏らす様に恐怖を刻んでやるからよ。」


「いや、マジで本当にお前ら屑だな?何でこう言う奴らと関わる事になるんだ毎度・・・」


 俺は盛大な溜息を吐く。何度もこう言った者たちと似た様なやり取りをしてきているから。デジャヴ、である。


 この態度にキレた一人がその手に持つ「つるはし」を振りかぶっていきなり俺を攻撃してくるが。


「さて、ワープゲートで砂漠のど真ん中にご招待だ。拒否は認めません。強制です。じゃあ行こうか。此処じゃご近所に迷惑だからな。」


 今この場の周囲にはこいつらを怖がって誰も居なかった。なので見られていないのでワープゲートを出しても大丈夫である。


 魔力を纏わせて体を操って無理やり男たちをワープゲートへと通らせる。

 そして出た先は砂漠のど真ん中。周りを見渡しても砂一面である。


「こんな場所に連れて来て何をさせようって?ああ、別に何も考えて無かったけど?うーん、それじゃあ穴でも掘って貰おうかな?永遠に。ソレが相応しいんじゃないかな今のあんた等には。」


 男たちは俺の拘束から抜け出す事が出来ない。この国には魔法も魔力も「おとぎ話」の中の物だと言った認識であるからして。


 身体を操られている事に僅かな心当たりすら、頭の中に浮かびもしないだろう。


 それでも、魔法の存在を認知している国にこいつらが居たとしても、そもそもがこの程度の者たちが魔法を扱えるようになるとは思えないのだが。


「さて、四人仲良くここでずっと不毛な穴掘りをしているとイイよ。じゃ、さよならだ。」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大きな力(大金を稼げる能力もアリ)を持つゆえに弱者の手助けを押し売り的に余裕を持って行えるシーンが他者の小説には無い魅力だと思います。 [気になる点] 結局、メドン商会の悪徳商売人メドンが…
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