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誰もしないからこそ誰かがやらねば

 ギルドに到着する。しかしその中に入ってみれば閑散としている。やはりシーズンで無いからなのか。


「案内ありがとな。じゃあ、もう行っていいぞ?あ、あいつらは放って置けば三日も経たずに動けるようになってるから。死なない程度に面倒見るだけで後は放置で構わん。まあお前が何をしようがビクともしない様に魔力を込めておいてあるしどうしようかしても、どうにもできないだろうけど。」


 こうして案内を務めた男はそれを聞いて顔を青くさせつつギルドを出る。

 ソレを見送って俺は「さあ、仕事何か無いかな?」と、どうやら依頼が張ってあるボードへと向かいソレを眺める。


「うーん。いい感じの依頼は別に無いか。雑用ばっかりだな。何々?生活用水の詰まりの掃除?畑の手伝いに、街道の掃除業務?・・・飼い猫の捜索・・・ここは冒険者ギルドじゃ無いのか?市役所かよ。」


 シーズンで無いのならしょうがないのだろう。きっと寒さが厳しくなり始めた頃にきっともじゃもじゃの魔物の毛皮狙いで依頼が殺到するに違いない。

 でも諦められなかったのでとりあえずカウンターでムニャムニャと眠りこける受付嬢に声を掛けた。


「スイマセン。金周りのいい依頼ってこの時期存在しないんですか?」


 この言葉に突然「仕事」を振られてびくりと跳ね起きた受付嬢はまるでロボットの様に背筋を伸ばして答える。


「は、はひ!この時期は確かに毛皮のシーズンでは無いのでお金が多く得られる依頼が出る事は極々稀です!ですけど時々畑を荒らす害獣として狩って欲しいと言う依頼が偶に入ったりするくらいです。」


 そう答えてくれた受付嬢の目はつぶったままである。面白い事に寝ぼけながらもこうしてキッチリと仕事をこなしていると言う所だ。非常にコレは珍しい特技と言えよう。笑えるが。


「じゃあその害獣駆除の依頼は今入ってきてたりはしませんか?」


 この言葉でようやっと目ボケ眼を擦りながら俺を見る受付嬢。


「ふあぁ?あ、見た所貴方はこの国での冒険者では無いようにお見受けしますけど、どうして今のこの様な時期で無い時にこちらに?」


 どうやら見かけない顔であるからして警戒されたようだ。

 不審者とまでは行かないが、どうやら余所の冒険者がこの土地に来て依頼を受ける事はどうやら歓迎されていないらしい。

 それもそうかもしれないと納得する。地元の人間に金が回らずに、余所者に持って行かれるのは納得いか無いのだろう。


「観光です。ついでにこちらの依頼状況を知りたかったのと、後はこの国でのお小遣い稼ぎですかね。」


「冒険者証を確認させて頂いてもよろしいですか?・・・はい、確認させて頂きました。Eランクの方ですね。・・・えーっと?うーん?貴方に依頼が出せる様な仕事はあちらのボードに張っている物しか無いですね。」


 カードを受け取った受付嬢はソレを読み取り機の様な物にかざして俺のランクを見るとそう悩んだ。

 俺はまだカードの更新をしていない。むしろマルマルでの手続きの準備が整っていない以上はまだ俺はランクの低いままだ。


「あれらの張ってある依頼は熟す冒険者は・・・当然いないんでしょうね。」


「今は時機じゃないからこんな風に冒険者の人たちも全く来ないですしね。寒くなってきた頃にはランクの低い方たちが身体を動かし慣らすために受けてくれたりする方もいますけど。」


「で、参考までにどのような駆除依頼が出ているかお聞きしてもいいですか?」


 俺は情報を引き出すために受付嬢にそんな質問を飛ばす。


「えーとですね。先ずは・・・Cランク依頼の森の中のビッグブスを狩って欲しいと言うモノですね。どうやら餌が今期は少なくなっているのか、もしくはビッグブスが多く繁殖し過ぎたのか、珍しくも無い事なんですけど獰猛になってるらしくて。それと畑の作物を食べてしまうビグバドと言う害鳥が今季は多く飛来してきているみたいで困っている農家さんが居ます。」


「何でその依頼は受ける人がいないのですか?お話を聞いていると実入りは良さそうな感じですけど。」


 ビッグブスは売れるし、そのビグバドと言うのも詳しく聞けばそこそこの値でギルドが買い取っていると言う。

 ビグバドは羽は飾り、もしくは矢羽根に使われ、その肉は食料としても美味いらしい。


「内臓の一部に焼いて食べるとコリコリとした食感の部位があるんですけど、それを食べるとお酒が進んで進んで・・・は!私は今一体何を!?」


(ん?もしかしなくとも砂肝か?)


 どうやら暇で暇で仕方が無いこの時期に受付をやっているからなのか、会話に飢えていたようだ。

 いつもなら冒険者が人っ子一人来ない時間で気が緩みっぱなしな時に、こうして俺と言う話し相手が現れてついつい口がツルッと滑ってしまったらしい。しかも自覚無しと笑う所満載な受付嬢である。


「あー、えーっと、今のは聞かなかった事に、してほしいです。えっとデスネ!受ける方がいないのは、ひとえに稼ぎが多いんですよ。毛皮の。だから時機じゃない今も十分に仕事をしないでもいられる、だから余計な事はしない。また時期になったら毛皮狩り。それが当たり前なんです。」


 受付嬢は恥ずかしがりながら話題転換を試みる。一応ソレに乗って俺はこれ以上彼女を辱める様な事は止めておく。そもそも彼女の自爆なので俺が突つく所など無いのだが。


「その駆除の依頼って俺が受ける事ができませんか?俺の連れがCランクなのでそいつと一緒に受ければ大丈夫ですかね?」


「えーっと?規定では、大丈夫ですね。受けてくださるんですか?それならありがたいです。ではその方を連れてもう一度ギルドに来ていただいてよろしいですか?手続きの用意をしておきますね。」


 じゃあよろしくと言って俺はカウンターから離れる。そして近場にあった休憩用に用意されているのであろう椅子に座って連絡を試みる。

 そう、魔法で発動するテレパシーである。でも俺の脳内では骨伝導式で携帯電話をイメージしているのだが。


『もしもし、ラディか?ちょっと俺の用時に付き合ってくれないか?すぐに終わる』

『ぬおッ!・・・ふー、コレは・・・エンドウ、か?頭の中に直接声がする』

『あぁ、すまんな驚かせて。用件だけ伝えるからこの話は後で。冒険者ギルドに来てくれ。害獣駆除の依頼が受けたいんだけどCランクからなんだ』

『それの、ああ、保証人にでもなれってか。・・・分かった。すぐにそちらに行く。丁度ブラブラしていて近場に居るからちょっと待ってろ』


 こうして俺はギルドの中で待つ。それを見て受付嬢は「?」を脳内に浮かべているのが丸わかりな顔をこちらに向けている。

 しかしそれも五分ほどで終わる。いや、終わるのだが、受付嬢は今度も違う表情ではあるがやはり「?」を頭の中一杯に浮かべている事が分かる。

 ラディがギルドに入ってきたからだ。短い間に二人の冒険者。しかも連れを呼ぶと言った俺の後に入ってきたのだから混乱しつつも「まさか?!」の顔の受付嬢である。

 で次に俺がラディに「すまないな」と声を掛けている所を見て「嘘でしょ!?」と驚きの顔になる。

 百面相とはよく言ったモノだ。受付嬢の顔は短い間でコロコロと変わる。


「え?あの?は?貴方そこから一歩も動いて無いでしょ?え、偶然?」


「すまないが駆除の依頼を受けたい。二つあるのか?じゃあその両方を。」


 ラディがすぐに俺から離れてそう依頼を受けようと受付に来るものだから受付嬢は「な、なん・・・だと?」と声に出して驚愕している。その表情も険しい。

 俺がラディにすまないと一言だけしかかけていない事で、事情はいつ説明していた?と受付嬢は増々混乱の深みに嵌っているのだ。

 しかしお仕事をする事はおろそかにしないのか、眉間に皺を寄せた難しい顔をしたままに業務をこなす。


「で、では、こちらの依頼書の方に場所が書いてありますのでソレに従って目的地へ向かってください・・・」


 納得できない、みたいな感じで受付嬢は未だに険しい表情を元に戻さない。いや、戻せないと言った方がより正確だろうか?


「おい、エンドウ、行こう。お前ならさっさと片付けられるだろ?得た金で酒を奢ってくれりゃいい。すぐに向かおう。」


 こうして俺とラディは冒険者ギルドを出て依頼をこなしに向かうのだった。


 とその道すがらラディの方から問い詰め案件が。


「で、なんだあれは。何がどうなったらあんな事ができる?話してくれるんだろ?」


 目的の場所までの暇潰し、といった感じでも無い。真剣な顔で俺へと詰め寄るラディ。


「まあ落ち着いて。わかっていると思うけど、魔力で、魔法でやったんだよ。えー、何だろうな?一定の周波で魔力を飛ばすんだ。特定の、こちらの指定した人物へ。んでソレを受けた人物はその周波の魔力に共鳴する。するとえーと、その周波で骨がな、振動して俺の声の振動と同じ振動を再現してお前の頭の中、と言うか耳の鼓膜に作用して聞こえると言った具合に。」


「お前が何を言っているか分からんと言う事だけが分かった。その理解をできるだけの知識が俺に無い事もな。・・・ふぅぅぅぅぅ・・・はぁぁぁぁぁぁぁ~。」


 もの凄い深い深呼吸を深刻な顔でされて思わず俺は苦い顔になる。


「お前が今後何をしようと驚かない、何て覚悟をしていたはずなんだがな。もういい。お前は想像の遥か上を行く。驚かない方がおかしいんだ。もうコレでわかった。分かった。」


 ラディは一人で納得してテクテクと今回の害獣駆除の依頼場所へと足を向けて俺を置いて歩いて行ってしまう。

 その後を追いかけて俺はもう何も言わなくなってしまったラディに「やり過ぎた、すまん」と声を掛けるしかできない。


 こうして到着した畑は街から大分離れた広大な土地であった。

 ビッグブスはどうやらもっと畑の奥。俺たちが先ず到着した場所からもっと先に展開された奥地の畑であるらしかった。

 ソレは到着して真っ先に見つけたそこで働いている人からの情報だった。


「この畑の責任者はその奥の畑の側にいます。ビッグブスを警戒するために。現れたら真っ先に私たちに緊急避難を出すためにそこで見張り役をなさっておいでです。」


 そう教えられてそこに向かえば頑丈に作られたであろう柵の前に立っている男が一人。

 その男に声を掛けて話してみればその責任者であると言う。


「この畑の遥か先にかなり広い森があるのですが、そこからここまでビッグブスが出てきています。ここに餌が在ると嗅ぎつけ、そしてソレに味を占めた個体が六体。最初は一体だけでしたが、それを我々が獲り逃してしまいました。一体だけならここの働き手を集めれば仕留める事もできたはずですが、その最初の一手が失敗に終わってしまい後に続々と数が増えて今に至ります。」


 説明を終えると大きく溜息を吐いた責任者。それは安堵だったように見えた。

 それはおそらく合っている。このバッツ国付きの冒険者は今の時期は金稼ぎに動かないので、こうして増えたビッグブス退治に足を運んでくれないからだ。

 こうして俺たちが来た事によってこの件が解決できると、そう言った思いでの溜息なのだろう。


「事情は分かりました。では、その害獣はいつ頃現れると言った周期は在りますか?」


 タイミングが合わないと狩るに狩れない。俺たちがその森とやらに行って適当に見つけたビッグブスを狩ったとしてもこの畑に襲撃を掛けている個体とは違うと意味が無いからだ。


「おそらくではありますが、今日、もう暫くすると現れるかと。最初に出て来た時からもう前回で六度目、今回来れば七度目になります。どの時も時間的には今位だったかと。」


「ではここで待たせて頂きます。こちら以外では害獣の被害は出ていませんか?周囲の違う方面の畑にまで被害が広がっていると少し厄介ですので。」


「それは大丈夫だと思います。今までもここ以外の被害は出ていません。森から一直線にここまで来るとここが一番最初に入って来る事になる畑ですので。」


 この説明で俺たちは「分かりました」と言ってこの場に留まった。

 暫くすると、まあ都合のいい事にビッグブスが八頭現れた。聞いていた数より二頭多くなっている。


「まさか!あいつら同族を誘って引き連れてきてる?!六頭でも既にマズイぎりぎりだと思っていたのに!」


 責任者はそう言ってズリズリと恐怖で柵の側から後ずさっていく。そんな責任者を横に見て俺はビッグブスに対して一言。


「あーダンジョンに居たのよりも一回り小さい?」


「おい、そもそもダンジョンに居たビッグブスは言わせてもらえば大物も大物だったからなどれもこれも?それと比べるんじゃない。そもそもこの迫って来ているのも充分な大物だからな?」


 ラディからツッコミを入れられて俺は「あぁ、そうなのか」と納得した。


「で、ラディ、どうする?俺がパッパッとやっちゃっていいのかな?」


 俺は段々と近寄ってくる八頭のビッグブスへと魔力を伸ばす。


「あー、良いんじゃないか?ソレが一番手っ取り早い。」


 この同意を得て俺は地面へと流した魔力を使って土から槍を作り出して八頭のドテッ腹に突き刺してやる。

 全てが同じタイミングで「ドスッ」っと鈍い音をさせて一頭も外さずに串刺しとなった。


「じゃあラディ。血抜きはアレだけじゃ足りないからやって来てくれないか?」


「お前ここからでも一人でどうせ出来るんだろう?一々俺に仕事をさせようと気を回さんでいいぞ?」


「あ、そう?バレてた?ならこのまま一気に苦しませない様にやってしまうか。」


 そのまま地面に流している魔力で今度は鋭い剣を作り出して一刀のもとに全てのビッグブスの首を切り落とした。


「えげつねえなぁ・・・エンドウ、お前もうちょっと考えろよ。ほれ、そもそもビッグブスの数に怯んでた責任者がお前の魔法を見て固まっちまってんじゃねえか。」


 そう言われて横を確認すると「真っ白に燃え尽きちまったよ・・・」と言った感じで大きく口をあんぐりとさせた責任者が。


「元に戻るまでちょっと時間かかりそうだなコリャ。」


 この俺の言葉にラディいからツッコミを入れられる。


「言う事はそんだけかよ・・・やり方が派手過ぎんだよ、全く。お前の作り出した剣で首を切るにしても動脈を切るだけでいいだろう?一発で首を落とすなんて事しないでもよ。」


 次は気を付ける、と言って俺は槍と剣を元に戻す。当然地面から出したのでそのまま土へと還す。


 ビッグブスの死体に近寄って俺は魔法をかける。血抜きをしっかりとさせるためにその死体に魔力を流して中に残っている血を完全に操り外へと排出する。

 そうやってすべての処理を解決したらそれらをインベントリに入れようと思ったが、考え直した。


「なあラディ、このビッグブスの肉はこの農場の皆さんに提供しようと思うんだけど、良いか?」


「・・・んん?いいのか?エンドウが良いなら俺は別に構わないが。俺は何もしていないしな。あ、そうか。ビッグブスならもう既に・・・」


 俺は「そう言う事だ」と言って責任者が正気に戻るのを待つ。

 ダンジョンで狩った物がまだまだインベントリ内に残っている。大量に。なのでこれ以上はビッグブスは要らないと思ったのだ。

 ソレに農場の被害は結構大きくなっていたらしいのでコレで補填してもらおうと考えての事だ。

 俺はこのバッツ国に侵略に来た訳では無い。ここで農場の被害をそのまま放っておいて自分だけ良い思いを独り占め、なんて事は考えない。

 ビッグブスを狩ったのは俺なのでその所有権は当然ながら俺にあるのだが、このままビッグブスを持って行くのは気が引ける。

 何せこの土地のビッグブスなのだから当然この土地で消費された方が良いに決まっている。地産地消だ。

 農場の被害がこのビッグブスで少しでも補填できるならソレがもっとも良い事のはずだ。


 なのでこの事をいつもの調子に戻った責任者に話す。すると大いに驚かれると共に、大いに喜ばれた。恩人だと。

 そして話はまとまり、俺とラディでビッグブスをどうやら倉庫らしい場所に責任者の案内で運び入れる。

 この時にも口をあんぐりと開けて驚かれたりはしたが、それも直ぐに引っ込み責任者は気を引き締め直していた。


「まあ当然ここまでデカイ獲物を片腕に一頭ずつ抱えて軽々と運んでいるんだ。驚くだろ、そりゃ。」


 ラディは運搬を手伝ってくれたのだが、何度も往復するのは面倒だと言って、そうして獲物を運ぶのを手伝ってくれた。

 何せラディは「こんな所でソレは使うな」と俺に釘を刺したから。

 ソレとはインベントリである。ついつい使ってしまいそうになる。便利だから。


(だってこんな大きな物体を八つも運ぶんだぞ?面倒だから一回で全部済ませたいよな。うん)


 農場で働いている人たちの手を借りると言う事もできはしたかもしれないが、まだまだ仕事が残っている状態で途中で村人に仕事を抜けて貰うのはいかがなものかと俺が止めたのだけれども。

 ビッグブスをこのまま放置しておくのもダメだろうと言う事で、しょうがないと言った感じでラディも渋々、俺にインベントリを使わせないために運搬をしてくれた。

 運ぶのはサービスだからと申し出たら責任者はピシッと頭を下げて礼の言葉を畏まって言ってきた。

 ソレに俺は気にしないでくれと声を掛けるくらいしかできなかった。


 こうしてこの農場での仕事は終わった。成功した事を書類にサインしてもらいその場を後にしようとして呼び止められたりもした。

 御馳走を作りますのでおもてなしさせて欲しいと。だけど俺はこれを断った。何故なら。


「もう一件被害の出ている所に向かわねばいけないので失礼します。これ以上はそこの被害も出ない様に早めに行っておきたいので。」


 この言葉で責任者は「そうでしたか」と言って俺たちの姿が見えなくなるまでずっと見送ってくれた。


「で、どうする?走るか?ここからちょっと遠いぞ。その場所は。」


 ラディはどうやらもう既に場所を把握しているらしい。なので俺はその提案に乗る。


「このまま外を突っ切るのか?なら人目も無いし一気に行っちゃおうか。」


 そうしてラディの案内でその目的地へと素早く辿り着いたのだが。


「な、なんじゃこりゃ・・・?」


 そこには鷲?鷹?の様な鳥が三十羽は居る。それだけに俺は驚いたわけでは無く。


「何だ?エンドウは驚いているのか?もしかしてビグバドを見るのも初めてか。・・・本当にお前は何者なんだか。」


 呆れてそう言い俺を見るラディ。だって仕方が無い。白と黒のマーブル模様な鳥なのだ。

 この世界の生物に俺はちょいちょい驚かされてきている。慣れようと思っていてもソレはなかなかできないでいた。


「ホントに奇妙な模様だな。まさか鳴き声は「モ~ゥ」とか言わないよな?」


 コレを聞いていたラディは「エンドウは本当に何を言っているんだ?」と小声でまたしても呆れた目で俺を見る。


 すると俺とラディ見つけたらしい一羽が盛大な鳴き声を発する。「ぎゅわわわわわ」だ。


「すっげえ不協和音!うわっ鳥肌立った!」


 物陰に隠れていたのに見つかってしまったのはマヌケだろう。

 だけどラディがそうでは無いと言う。


「奴らは警戒心が強いんだ。ここで隠れてたってその内見つかったさ。僅かな異音や臭い、もしくは気配に敏感なんだ。だからこいつらをやる時は一気に奇襲をかけるのが本来なんだがな。」


 一斉に飛び立つビグバド。遥か上空に三十羽が飛び立ち辺りはバサバサと翼を羽ばたかせる音があちこちで響く。


「で、どうする?こいつらは一斉に目的の敵に集中して攻撃を仕掛けてくるぞ?しかもその急降下はかなりの速度だ。エンドウ、気を付けろよ。」


 ラディの忠告からまだまだ時間の猶予はあるみたいだ。ビグバドは上空で旋回してこちらを窺うかのように円を描いてずっとソレをクルクル飛び続けている。

 襲撃の速度はかなりのものだそうだからそこだけを注意しておけばいいだろう。

 なので俺はどうしたらビグバドを綺麗な形で「仕留められるか?」を考えた。


 ビグバドの飛んでくるスピードは速い。狙い撃つのは至難の業かもしれない。

 どれだけの速度でツッコんでくるのか体験した事が無いので一発で成功するとは思えない。


「ああ、それなら逆に相手が俺に突っ込んできてくれるなら、そのままソレを利用してしまえばいいのか。」


 俺は迎撃態勢を整える。その時には上空のビグバドは旋回を止めており、その隊列は一直線になっていた。

 そう、奴らは既に急降下をしてこちらに体当たりをする体勢になっているのだ。

 ビグバドの嘴はかなり鋭かった。ならばそれをあの数全てを全身に受けるようなことがあれば身体中が穴だらけにされること間違いなしだ。普通の人間なら。


(こんな速度だとおそらくは急旋回して回避、何て芸当は難しいはずだ。だけど避けられて地面に激突、何てマヌケはしないはず。動物とは言えそんな自爆まがいの攻撃はしてこないだろ?)


 奴らが「回避」のできないポイントまで来たその瞬間を狙ってこちらも魔法を使わねば一網打尽にできない。

 そんな事を考えていれば遥か上空に居た黒い点だったビグバドは既にそのまだらな白黒が確認できる距離に近づいている。


 俺はソレをじっと目を離さずにタイミングを計る。そして「ここだな」の一言を共にその魔法を発動した。

 ソレは只の壁。地面に魔力を流して一瞬で作り出した鉄より硬い土の壁。

 もちろん鉄より硬いと言うのは魔力をそのまま壁に通したままであるからだ。

 バチバチバチぐしゃぐしゃぐしゃ、とそんな感じの音がし続ける。ビグバドたちは急にそんな物が出てくるとは思わずにそのまま壁へと激突し続けたのだ。


「エンドウは相変わらず「えげつない」事を・・・」


 ラディはコレに憐れみの目で被害に遭ったビグバドを見る。

 でもそれもほんの短い時間だ。その後は次々にビグバドを縛って適当な木に吊り下げて血抜きのために首を切る。

 俺もその手伝いのために一体一体をそうして仕事しているラディに手渡す。

 三十羽もいるのでその時間はかなりかかった。そして周囲はビグバドの吊り下げられた血臭のする異様な場所へと変わっていた。


「しょうがないだろうが。ビグバドはすぐにこうして処理しないと肉に血の臭いが染みて不味くなるんだからよ。」


 俺は風を魔法で作り出して血臭を散らす。地面の血だまりも魔力を地面に流して沈めて処理をする。


「本当にエンドウは便利だな。こういうのはもっと処理が面倒だからな。血臭につられて他の肉食獣が近寄ってくる事も多い。ありがとよ。で、もしかして何だが、このビグバドも被害者に提供するつもりなのか?」


「あー、全部は出さないよ。半分で良いんじゃないか?とりあえずもう血抜きは終わった、で良いのか?なら運ぼう。あ、インベントリに今半分しまっておいた方が良い?」


 こうして俺はビグバドを半分だけインベントリに仕舞い、もう半分をラディと分けて肩に担いで歩く。

 ここには俺たち以外は居ない。何せこれだけのビグバドが居たのだからそれもそうだろう。

 畑に出たら危険だと判断して家に引きこもっているだろう依頼主の所に向かう。


 ラディはギルドから受けた依頼の紙を見つつその依頼主の家へとどんどんと向かう。

 どうやらその住所も書かれていたようで何も迷うことなくその家に着いた。


「すまない、ギルドから派遣されたものだ。依頼を達成してきた。確認を願いたい。」


 ラディがそうドアをノックすると中から中年の女性が出て来た。


「あら?貴方たちが?どうも有難うございます。・・・あの、先程達成して来たと聞こえたのですが、本当ですか?依頼を出してからどんどんとビグバドの数が増えて行ってしまって恐ろしくて外にも出れない位で。ギルドへの報告ができていないんです。」


「この道を真っ直ぐ行った場所の畑にビグバドが三十羽いました。合っていますか?」


 ラディが依頼主の対応をしてくれる。だけれども数の多さに驚かれて話が先へと進まない。


「ええ!三十羽も!?た、確かにそこの畑が私たちの畑ですけど・・・あの、貴方たち二人で?」


「えーっと、半分の十五羽分は私たちが貰うので、残りの分は畑の被害の補填として受け取ってください。」


 ここで俺は追及を逃れるためにさっさと渡すつもりでいたビグバドをドアの入り口の中に入れてしまう。


「まあまあ本当に頂けるんですか!?これだけあれば補填どころじゃないですよ!?血抜きもされてるなんて凄いわ!」


「あのー、それでデスネ。こちらに署名をお願いします。私たちは依頼達成の報告に行かねばなりませんので。お早くお願いします。」


 そう俺は早く達成した事を認めてくれと言った感じでサインを迫る。


 ラディが依頼の紙を取り出してペンを出す。羽ペンだ。俺もペンを持っているが出さない。

 この世界でボールペンなんて代物は出すとマズイ。目立つ。取り合えずクスイには使って貰ってはいるが、それだけだ。

 クスイはソレを広めようとは、商品として商売しようとはしていない。

 なのでそこは俺もなにも言わないし、心配はしていない。


 こうして書類にサインして貰って直ぐにおさらばする。もちろん引き留められたからだ。

 ビグバドを使って御馳走を作るから食べて行ってくれと。

 でもそれをキッパリと断ってその場を後にする。凄く残念そうな顔をされるが、それはしょうがない。

 あんまりそう言った持て成しでついつい口が滑って「ボロ」が出るのは避けたいのだから。


「じゃあもうギルドに戻って依頼達成を報告して、報酬貰って・・・うん、飯を食おうか。腹が減ったよ。」


 俺のこの腹減った宣言にラディはフッと鼻で笑って苦笑いの表情になった。

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[一言] ビグバド討伐依頼者に説明する時にビッグブスが三十羽居たと説明してるけどビグバドの間違いですね
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