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広めよう、楽しもう

 あれから時が経ち、また一週間。その間、ずっとラーナは俺に対して「しょうぎ」の対戦を要請し続けて来ていた。

 用心棒と言えども別段これと言って何もする事が無かった俺はこれに対応はしていたが。


「ラーナ、外に出ようか。気分転換をしようよ。と言うか、好い加減引き籠り続けていて俺の精神の方がヤバいよ・・・」


「そうですか。ならば今日は食料の買い出しをしに行くのが良いですね。」


 こんなに引き籠りになってしまったのは店が安全だと分かっているからである。

 俺がそもそもこの店に魔法で防御を施してしまっているからいけないのだ。


 連日ここにはならず者がやって来ているのだが、一向にこの店を壊す事が出来ないでいるのである。

 その手には巨大なハンマー、斧、剣、槍、棍棒などなど。


 様々な凶器を持ってそのならず者たちは店の壁を攻撃するのだが。


「ちくしょおおおおお!何でなんだよおおおお!壊れろって言ってんだろうがぁぁぁ!」


 泣き言を言いながら、と言うか、連日同じ者たちが店前にやって来ては実際に泣きつつ攻撃を繰り返して諦めずに頑張っているのだ。毎日。


 そう、今日も今、たった今、その者たちはガッキンガッキンと壊せない壁に向かってその武器を振るっている。

 俺はこれに男たちに対して憐れむ気持ちになるが、魔法は解除しない。


(ラーナにそれは止めて欲しいって言われてるからなぁ)


 この男たちに同情は無用だろう。金を貰い悪事を働く者たちである。慈悲を与えるなどする必要は無いのだ。

 こんな奴らに店を傷付けられるのはラーナにしてみれば業腹なのだろう。

 一応は被害が出れば奴らを衛兵たちに捕まえて貰う事も出来ると言ってみはしたが、ラーナの反応はイマイチだった。


 そんな俺たちは魔法で姿を消してワープゲートで家の外にお出かけである。

 食料品市場にやってきたらそこで魔法を解除だ。そして買い物はラーナに任せて俺は周囲の警戒である。


 警戒とは言っても俺には魔力ソナーがあるので危険なんて直ぐに感じ取れる。

 かなり本気で俺は「用心棒」をこの時にはしているのでどんな危険も側には近づけさせる気は無い。


(あの建物の陰にこっちを探っている奴が居るなぁ。どうしようかなぁ。捕まえて吐かせるか?)


 そんな事を考えては直ぐに頭の中からソレを消す。

 以前にその事をラーナに伝えた時に止められたからだ。

 曰く。


「こちらに直接的な被害を出そうと襲って来ていないのなら放っておいても良いと思います。」


 との事だったからだ。

 コチラを見張る奴らはそこら中に居たのだが、そいつらがラーナへと危害を加えようとする動きはこれまで一切無かったので俺もこれには同意して何もそうした監視者に対してアクションを起こさずにいる状況である。


 買い物が終われば物陰に隠れてワープゲートで直ぐに店舗の中へ。

 今ではもうラーナは魔法で姿を見せない様にする事にも、このワープゲートにも慣れた。

 スムーズに終わった買い物は大体30分くらいだ。別にそこまで贅沢な品を買い求めに行った訳でも無い。

 しかしこの国での食料品の買い出し時間の平均がこれで早いのか遅いのかは知らない俺にはこれが適当であるのかの判断は付かない。


(ラーナが早く「しょうぎ」をやりたくて最小限、最速で買い物を済ませている可能性も否定できない)


 それ程にラーナは今、夢中で「しょうぎ」に向き合っているのである。

 この状況を俺は早い所、何とか脱出したいと考えている。

 だってその夢中なラーナの対戦相手は今、俺しか居ないのだ。


 連日毎日ずっと、俺はラーナと対戦させられている。好い加減に開放されたい。


 だから俺はここで口を滑らせてしまった。


「ラーナ、これをこの国に広めよう。そうすればラーナと対戦してくれる人がもっと増えるよ。俺とずっとやるのは打ち手の癖とか把握しちゃってて慣れて来てるんじゃ無いか?コレが広まって時間が経てばラーナと良い勝負、或いは勝つ実力を持つ人物も出て来るかもよ?驚きの一手を指す棋士が出て来るんじゃないかなー?色んな人とやってみたいと思わない?」


 俺の言葉にラーナが目を見開いて呆気にとられた顔になる。

 まるで「そんな事思いもしなかった」と言った感じで。


「そうだな。時間制限とか、食事休憩とか、翌日にまで勝負が長引きそうな時の中断する際の決め事とか。そう言ったモノをしっかりと整備したりした方が良いね、その時は。」


 記憶のあやふやなそう言った部分のルールを俺は思い出しながら今この時を逃げたい一心でラーナに提案をする。


「ラーナの様子を見るに、こう言った娯楽ってのがこの国には無いみたいだし?いっその事、大会とか開いたりとかね?」


「・・・いえ、私にはその様な力も無ければ伝手もありませんし。新しい何かを広めるにしても一介の小娘が出来る様な事では無いと思います。」


 ラーナはしかしここで一気に冷静になって「無理」と突き付けて来た。でも、そこは俺が居るのだ。


「あー、それなら俺の知り合いに頼んでやって貰えば良いかな。テンソウなら多分この話に食いつくと思うんだよねぇ。それにしっかりと女王様にもそこら辺話を付ける事も出来るから。公式大会とか盛り上がるんじゃないかな?」


「・・・あの?今何と?」


「え?何の事?」


「今、王様に話を、と仰っていましたけど?はぁ、冗談、ですよね。」


「・・・いや、冗談では無いけど?」


 ここで少々の間、沈黙が場を支配する。


 俺はこの時点で別についうっかり、と言った感じで話したりはしていない。

 しっかりと今の現状を終わらせたいと思っての発言である。

 この引き籠り状態を脱する為にはメドン商会の件を解決する他無い。

 ならばもう国に介入をして貰ってさっさと問題を綺麗サッパリと片づけなければ。


 でもラーナからすれば俺が女王と知り合い、しかも「話を付ける」事の出来る者だとは知る由も無かった訳で。


「いえいえ、そんな、まさか?冗談、です、よね?」


「大丈夫だ。問題無い。ラーナの事もちゃんと紹介するよその時は。「しょうぎ」の説明をする時に実践してる所を見て貰った方が理解がし易いだろうし?」


「いえいえいえいえいえ!?止めましょう!広めるのは止めましょう!」


 俺が本気なのだとラーナはやっとこの時に悟った様子。だがもう遅い。


「いや、やるね。この国に広めよう!「しょうぎ」を!やってやろうぜ!ラーナはその頂点、初代優勝者になろうか!」


「勝手に決めないでくれませんか!?」


 俺はもうこの時には変なテンションになっていて覚悟が決まってしまっていた。


 ====  ===  ====


「と言う訳で、テンソウ、この話、良いと思うか?」


「ふふふふ・・・エンドウ様は本当に、本当に、本当うううううううに!素晴らしい方ですなぁ!これ以上無いくらいに!」


 テンション爆上げ中のテンソウである。

 俺は今「しょうぎ」に関してのアレコレを先ずはテンソウに相談しに来ていた。


 ラーナには家で「詰将棋」の問題を色々と考えてソレを作って貰っている。

 これにラーナは「面白そうですね」と直ぐに食いついて他の事など直ぐに目に入らなくなった。


 その隙に俺はこうしてテンソウの所に来てこの「しょうぎ」を広める話を持ち込んだのだ。


「当然国が後ろで最初はしっかりと管理してさ。その後は自由に、って流れで行きたい訳よ。そこで国の許可をテンソウの店で得て、特別な紋様を将棋盤と駒の一部に彫り込んで正式な「しょうぎ」として販売する訳だ。正規品ってやつだな。材料やら素材、形なんかはコレを参考にしてこの国での採取できる物で作ればいい。後は許可だけど。」


 俺はインベントリからまんま「将棋」を取り出す。ラーナの所には1セット置いてある。

 コレはテンソウに与えるサンプルだ。2セット目である。


 3セット目も当然用意してあったりする。ソレはアラビアーヌとドロエアーズに贈与する分である。


「伝手があるから大丈夫、と言うか、テンソウなら別に俺がそこまで手はずを整えなくても自力で出来るか?」


「いえいえ、エンドウ様がして頂いた方が確実でしょう。それこそ直接女王陛下と御面会できる立場のお方ですからな!何せ、救国の英雄様であらせられる訳ですから!」


「え?何その呼び方?いつの間にそんな?と言うか、どういう扱いになってんのこの国で俺って?」


 妙な呼び名が付けられてしまった。しかもそれをテンソウの口から嬉々とした大きな声で聞かされるとか嫌なのだが。


「今もあのメドン商会に何もさせず、水面下で潰す準備を整えておらっしゃるのでしょう?いやー、かないませんなぁ!」


「何処まで知ってんのテンソウ?と言うか、あの、って付ける程にメドン商会って力を持ってるのか?」


「おや?何も知らないので?ああ、いや、そうですなぁ。この国に来たばかりと言う話でした。まだまだこの国の観光を楽しんでおられる途中でしたな。それならばメドン商会と知らずに敵対行動を?ソレもソレで凄まじい事ですが。」


「え?何その言い方?・・・コワー・・・」


 何がどうなっているのか?メドン商会の影響力は強力だと言うのは何となく分かってはいたが。

 このテンソウの言い方は何だか不安にさせられる。


 それとは別で既にもうテンソウが何もかも知っているのが恐ろしい。

 幾ら情報は「金」だと言えどもだ。この分であるとメドン商会とテンソウの店は今の状況では潰し合うと言った間柄でも無さそうなのに今回の件をトコトン調べている様子。


「って言うか、食料品市場で俺たちを監視してたのってテンソウの所で雇った奴らだったのか?」


 俺たちは見張られていた、追跡されていた。だから今この時にそいつらはメドン商会の手の者では無く、テンソウの出した調査員だったのかと思い至ったのだが。


「それだけでは無いですな。国の諜報員も混ざっていたかと。」


「・・・おい、それって既に俺が巻き込まれてる問題をアラビアーヌもドロエアーズもとっくに知ってるって事か?」


「おや?お気づきになられていなかったので?アレだけ派手な話がそこら中で広まったのはてっきりエンドウ様の誘導だと思っていました。」


「なあ?俺の事を無用に勘違いして高評価付けるのは止めようぜ?そんな御大層に頭の回転が速い策士じゃ無いんだよ俺は正直に言ってさ。」


 ガンガンと武器を叩きつけても壊れない壁。この噂が広がって王宮にも届いていたんだろう。

 連日毎日ならず者たちが欠かさず日課の様にやっていた事で目撃者が多く増えてしまったのだ。


 そんな妙な話を聞いたアラビアーヌとドロエアーズが俺の事を捜索する為に諜報員を派遣したのかもしれない。

 そう、俺は何処に行ってくるとか、何処に今居るとか、そう言った事は一切その二人には教えていなかった。

 なのでそんな俺の居場所を探る為にもこの「壊れない壁」と言う流れて来た奇妙な噂話の調査を開始したと。俺の仕業だと確信しての事であろう。


「はぁ~。じゃあ事情説明はしなくて済みそうだな。俺なんかよりもよっぽど事の流れを知っていそうだ。」


 国の調査機関を舐めてはいけない。と言うか、俺はずっとラーナの「しょうぎ」相手で引き籠りであったので調べるなどと言った暇も時間も確保はできなかったのだが。

 今回の全容をちょっと位は知っておきたいと思ってはいるので、調査員が書いた報告書を読ませて貰いたいくらいである。


「じゃあテンソウ、今から王宮に行ってアラビアーヌに面会したいと思うんだけど。」


「いえいえ、いきなりですかな?いや、確かにエンドウ様であるならば他の予定をずらしてでも時間を作ってお会いしてくださるとは思いますが。」


「あー、そっかぁ。忙しいよな、王様ってのは。いきなりは無しかね?いや、でも振り返ってみれば俺って毎度の事にお偉いさんの所に顔出す時はいきなり事前告知無しだったよなぁ。」


 自分のやって来た事を思い返してみればアポ無し突撃しかやっていない。


 なので今回くらいはテンソウにそこら辺の所を任せてのんびりと事を待つのも良いかと思ったのだが。


「いや、早いとこラーナの相手から抜け出したい。すまないけどテンソウ、一緒に来て貰うぞ。」


「突然ですな?ならば先触れを出しますので少々のお時間を頂きたく。このままで突撃は無しにして頂きたく。王宮に出向くのならばそれなりの格好と言うモノが御座いまして、えぇ。」


 確かに俺はそう言った場に合った格好と言ったモノをこれまで気にしちゃいなかった。

 スーツの一張羅で着たままである。もうこの格好に慣れてしまっているので貫き通すつもりだ。

 今更この世界の、そして各国での「正式な装い」などと言うモノをする気にはなれない。


 そうしてテンソウの店で待つ事、約一時間。王宮からどうやら迎えの馬車が派遣された様で。


「エンドウ様は随分と尊敬をされている様ですな。こちらの馬車は王宮でも最上位の賓客の送り迎えに使われるモノですねぇ。」


 超ド派手。金ぴかで装飾も複雑。超眩しい。


「目が痛い・・・どうしてこうなるんだよ?まあ、金掛かってるな、ってのは一目で分るけど。」


 俺とテンソウはその馬車に乗り込む。そのまま王宮へゴーである。


 その王宮までの道のりは人払いがされて、しかも道も掃き清められて小石一つ見逃されずに綺麗に均されていた。


「そこまでする必要が何処にあった?過剰過ぎる・・・」


「エンドウ様と言う存在はそれだけの対応を王族がする相手と言う事ですな。」


 馬車の中は広い。そして外観とは打って変わって地味、と言うか、落ち着いた内装だった。

 俺の向かいに座るテンソウはその着ている服がこの馬車の外装にも負けるとも劣らない様なド派手な装飾を付けたモノである。


「いやー、コレを着るのは二度目で御座いますよ。綻びなどやほつれが無いかどうかしっかりと調べました。長く着ていなかったのでダメになっていたらどうしようかと思ったくらいです。なっはっはっは!」


 テンソウはご機嫌だ。新しい商売、そして金の匂いでテンションが上がっているんだろう。

 国がバックに付いて「しょうぎ」を広めようと言うのだ。そしてその最初のその販売をテンソウが初期段階では独占するのである。


 テンソウはそもそもここで「交渉不成立」になる、と言った事は全く考えていない様子。

 まあアラビアーヌもドロエアーズも断らないとは俺も思ってはいるが。


 そうして王宮に到着。俺たちは馬車を下りたのだが。


「出迎えが・・・過剰に過ぎる・・・」


 儀仗兵と言ったモノなのだろうか?左右に整列した鎧姿の者たちが一斉に、一糸乱れぬ動きで剣を掲げてから下ろす。


「何を勘違いした?俺は只ちょっとした交渉に来ただけだよな?・・・テンソウ、何て言う風に伝えさせたんだ?」


「・・・いえ、私もここまでの事になるとは思っていませんでした、ハイ・・・」


 テンソウも全くこれは予想していなかった様で上がっていたテンションも下がり気味。


「ごく普通に「エンドウ様が女王陛下にお話があるそうです」とだけ伝えさせただけなのですが・・・」


 とは言えこの場でずっと居続けても話が先に進まない。なので目の前にやって来た案内役の者に従って俺たちは王宮へと入る。


 そうして真っすぐ真っすぐ、長い廊下を進んで到着したのは玉座の間。

 中へと入ればアラビアーヌが立ったままにて俺を出迎える。


「エンドウ様、先ずはお礼を言わせてくださいまし。貴方と出会えていなかったら、私は今この場には居なかったでしょう。本当にありがとうございます。貴方は命の恩人、だけで無く、この国を救ってくれた大英雄です。どの様な御返しをすれば良いかも思いつかない程の大恩。どんな事でも構いません。何か欲しい物は御座いませんか?我が国の全てを以てしてソレを叶える所存にて御座います。」


 そう言ったアラビアーヌが深く頭を下げて来た。その下げている時間はかなり長い。

 そして顔を上げれば覚悟を秘めた真っすぐな目を俺に向けて来ている。


「おい、何でそうなるんだよ・・・こんな大袈裟な事しやがってさぁ。まあ、良いか。取り合えず今日ここに来た用事には好都合だしな。」


 そんな事を言った俺にドロエアーズがアラビアーヌの横に立って言う。


「何だ何だ?取り立てに来たのでは無いのか?我が国での地位も名誉も金も権威も権力だって思いのままだぞ?ソレが、用事とは、なんだ?」


 この玉座の間にはずらりと壁際にこの国の臣下たちが並んでいた。

 しかしこの俺たちのやり取りに誰も口出しをしてこない。

 俺の態度に対しても「無礼者」と止めに入る者すらいない模様。


 国王がどこぞの正体不明の男に対して玉座から下りたままの状態で出迎え、あまつさえ頭を下げたのだ。

 誰かしらがこの王の対応に対して何かしらのリアクションがあっても良さそうなのに。


 事前に協議して何かしらを決めていた様子にしか見えない。だって臣下の誰もがビシッと直立でこの流れを見ているだけだから。

 文官も武官も揃っている。それらが誰一人として動かない。


 テンソウはここに来て空気になっていた。笑顔は絶やさないが、一言も喋らずに微動だにしない。俺の背後に大きく三歩程離れた位置で硬直していた。


「取り合えずこんな仰々しいのは終わりにして、ゆっくり落ち着いて話聞いてくれね?そんな大層な用事じゃ無いんだよ。ほら、テンソウも息が詰まって苦しそうだし?」


 俺はここでピクピクと頬を僅かに痙攣させ始めたテンソウを話題に出して場の空気を変える。


 取り合えず堅苦しい状況から脱する為に俺とテンソウ、アラビアーヌとドロエアーズは別室にて話をする事になった。


「で、いきなりあんな出迎えをして来たのは何でだ?」


 俺はしっかりとここで先程の茶番事を質問した。

 しかしこれには別段何かしらの含みが有った訳では無いらしく。


「言葉のままです。この国は救われました。エンドウ様に。ですのでそれに見合った恩返しを致したく思い、あの様に。」


「まあ新しく据えた部下たちが英雄殿を侮らぬ様にと言った部分もあるのだがな。少々脅し過ぎた所はある。」


 アラビアーヌは言った通りだと、ドロエアーズは俺との関係をしっかりと臣下たちに見せる為だと言う。


「今度からああいうのは無しにしてくれ。一々あんな風にするとさっさと話ができないからさ。それで、今日来たのはこっちのテンソウと話し合って来た中身を聞いて貰いたくてな。国が率先してコレを娯楽として広めてくれないか?」


 俺は例のセットを取り出して駒を並べていく。

 コレは何だと言った目でドロエアーズがじっくりと観察してくる。


「承りました。この程度の事でエンドウ様に恩返しが出来たなどとは思いませんので、もっと何かあればその都度おっしゃっていただければ何でも叶えます。」


「アラビアーヌ、早い早い。ちゃんと説明聞いてからな?中身を確かめて無いのに俺の頼みってだけで何でも「やります」は無しでな?」


 まだ駒を並べている途中で実際に対戦している所も見せていなければルール説明もしていない。

 それなのにアラビアーヌは「どんな要求でも受け入れる」とばかりに返事が早い。


「コレは中々面白そうじゃ無いか。ふむ、ふむ?ふむ・・・うん、イケるイケる。」


「おい、ドロエアーズ、何でお前はお前で勝手に納得してんだよ・・・何もまだ俺言って無いよ?」


 どうにもドロエアーズは駒に書かれた絵でおおよそを予想できたらしい。

 先走って脳内でシミュレーションでもしているのかフムフム言いながら頷いている。


「お前らちゃんとテンソウと俺の説明聞こうな?しっかりコレの遊び方は教えるから、教えるから・・・おい、ドロエアーズちょっと待てって。」


 駒を一つ摘まんでしげしげと裏表の確認をするドロエアーズ。ソレを俺は落ち着けと言って宥める。


 駒を並べ終えた後で俺はアラビアーヌとドロエアーズに説明をして魔法を掛ける事に。


 ソレを終えた後はワープゲートで一度ラーナの元へ。

 そして少々強引にこちらの部屋へと連行する。


「何ですかエンドウさん。・・・ちょ!?ここ何処ですか!?え?ここで対戦しろって言うんです?えっと、それはまた何で?はい?テンソウ・・・さん?え?この方がですか?試しにやっている所を見て貰うって・・・いきなりソレは・・・私さっきまで詰め問題を作っていた最中ですよ?はい?ソレも後で披露して貰う?あの、ホント、なんなんです?」


 混乱、困惑、ラーナは全く意味不明と言わんばかりに俺を睨んでくるが、フカフカのソファに座って「しょうぎ」を前にしたら顔つきがキリリと変わる。


「早い所終わらせましょう。早打ちで良いですか?どうやらテンソウさんはエンドウさんと知り合い見たいですから先程の、いきなり私がこの場に来た事も別段驚いている様では無いみたいですし・・・しょうがないですけど、さっさと始めましょう。」


 少々の自棄を起こしつつもラーナは「しょうぎ」の対戦に積極的だ。夢中になっているだけの事はある。


 こうして俺はラーナとそれから三局対戦を行った。そしてその後はラーナが考えた「詰め問題」をやってみていく。


 これにはテンソウの感想として。


「ほうほう・・・奥が深い盤上遊戯ですなぁ。コレはコレは・・・イケますな。」


 テンソウとしてはどうやら売れ行きは上々と言った脳内試算でも出たのだろう。ニヤッと笑う。


「なかなかに面白い。コレはさっそく私にも遊ばせてくれ。駒の動きはもう覚えた。裏返した後の駒の動きも規則規定も理解した。良し、今度は私と対戦しようか。」


「え?」


 この時には既に俺はアラビアーヌとドロエアーズに掛けていた魔法を解除している。

 もちろん透明になる魔法である。二人が視界に入っていたらラーナが緊張して実力を発揮できないと考えたからだ。

 デモンストレーションは本気を出したラーナとの対戦。コレをしっかりと見て貰う事に越した事は無い。


 まあこれにラーナが気づけなかったのはしょうがないとしても。その後に集中し過ぎていて魔法解除後二人がこの場に現れた事までどうやら気づかなかったのはちょっと行き過ぎだ。。


「・・・?!?!?!」


 言葉が出ずにパクパクと口を開いたり閉じたり。ラーナは今驚きの余りに呼吸が止まりかけている。

 いきなりドロエアーズがラーナの正面のソファに座って駒を並べ始めたから。


 なので俺はそこに無理やり背中を強めに引っ叩いてやった。

 パアン、と良い音がなって痛みと共にラーナが呼吸を開始する。


「げはッ!?・・・はッはッはッ・・・一体何をするんですかエンドウさん!?と、ととととと!」


「ととととと?何?」


「と言うか!この方たちは一体誰ですか!?何だか私などがこんな風に会ってはいけない相手な気がビンビンします!」


「うーん、ラーナ、取り合えずそこは気にせずに一戦やって上げてよ。何も気にせずにさ。」


「ソレは無理と言うモノでは!?」


「ほらほら、もう既に向こうは一手出しちゃったぞ?ラーナが後手だけど、良いのか?」


「!?・・・」


 ラーナは戸惑いながらも駒を取ってパチリと打つ。

 それに即座にドロエアーズが打ち返してくるので、これにラーナも気持ちが切り替わったのか表情が真剣になる。


(こりゃ将棋狂いだな。ラーナは将来これのプロで食っていけるんじゃなかろうか?)


 この国でのプロ棋士などと言うのは果たしてできるのだろうか?

 そうなったらそうなったでソレもソレ、面白そうではあるが。


 この対戦を横でアラビアーヌが眺めつつもテンソウとこの「しょうぎ」の今後を話し合って詰めていた。

 恐らくはもう俺が何もしなくてもその内勝手にこの国に「しょうぎ」が広まる事だろう。


「・・・あ、後でメドン商会の「片づけ」の話もしなきゃいけないけど、まあ、今はしょうがないか。」


 ラーナもドロエアーズも真剣に対戦をしていてそんな話どころじゃ無い。

 この勝負が終わってもこの熱意だと後何戦かしないとドロエアーズも満足し無さそうだ。


「と言うか、時間は大丈夫なのかよ?やっておかなきゃいけない仕事は?放っておいても大丈夫なのか?」


 今日の二人の仕事は今どうなっているのだろうか?

 王宮勤めの臣下たちがそこら辺はフォローに入っていて今日一日くらいは負担を請け負っているのか?どうなのか?


 そこら辺の事情を知らない俺は余り深く考えない様にする事にした。

 今の俺はラーナとの「しょうぎ」の対戦漬けから脱する方が大事だったから。

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