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籠城しよう、そうしよう

 この日の食事はメキルラーナに教わりつつ豆料理を作った。炒め物とスープである。

 シンプルな味付けで豆の味がしっかりと味わえるモノだった。


「あの、こちらの肉は高級食材のアレ、ですよね?御馳走になっても良いのでしょうか?」


 二品だけでは少々寂しかったので俺はあの例の不思議なワーム肉を出してコレを焼いたステーキを提供した。


「あー、うん。この程度じゃ減ったとも言えない位にはまだまだ残ってるから遠慮せずに食べてよ。」


 正直言って、コレを俺は無理にとは言わないまでも、少々早めにできる事なら消費しきりたい。

 ちょっとでも減らせる機会があればこの先も積極的に食事に出していくつもりである。


 そんなこんなでこの日は夕食を食べ終えれば就寝の時間。

 俺の提供された部屋はメキルラーナが言っていた通りに父親の寝室である。

 別にこれに不満は無いので直ぐに俺はベッドに横になってさっさと寝る事にした。


「さてと、明日にでも早速向こうが動いて来るのか。それとも様子見を続けて来るか。」


 既にもうこの店舗全体には俺が魔力を浸透させて保護してあるので夜中に襲撃などが有っても安全である。

 メキルラーナにも俺の魔力は纏わせてあるし万が一などもこれで無いだろう。


 俺は安心して目を瞑ってそのまま眠りについた。


 そうして翌日。気持ちの良い目覚めでその日は始まった、かに思えたが。


「何だかガンガンと叩いてるっぽいけど。防音も備えておいて良かったよ。」


 何やら店を攻撃している輩がいる。俺はソレを店に浸透させてある魔力で感じ取った。


「まあ壊れないからねぇ。ムキになって余計に連打するかもね、そうなったら。」


 この店を壊そうとしている輩が朝早くからご苦労な事をしているのである。近所迷惑だ。

 しかし店には何らの被害も出ていないし、そのぶっ叩いている音も家の中に一切響いて来ない。コレは俺が魔法で防いでいるからである。


 朝、或いは深夜にでもここを襲ってくる奴らが居たとしたらその時にはゆっくりと眠れ無いと思った俺は衝撃も音も一切、家の中に届かない様にしたのだ。


「捕まえて締め上げて吐かせるか?いや、相手がどれだけの事をして来るか手の内が無くなるまで出し切らせるとかさせた方が骨折り損の草臥れ儲け的な?分らせる的な?」


 取り合えず今は相手にする気分じゃ無かったので放置する事に決めた。

 起きて部屋から出て家の食堂、リビング?に俺は顔を出す。すると既にメキルラーナが起きて朝食の準備をしていた。


「おはようございます。朝食を食べた後に今後の事を相談させてください。もしかすると今日にでも強引な手を相手が使ってくる事も考えられますので。早い内にそこら辺の対応の話を詰めていきたいと思うので。」


「うん、もう今来てるね。ガンガン店の入り口を壊そうと斧で叩きつけて来てるよ。」


「・・・あの、そんな音も衝撃も感じませんけど?」


「そりゃ俺ってば用心棒だもの。」


「あの、それ、何の説明にもなっていないのですが?」


「まあ、俺が防いでるよ、って事だけ分かってくれてりゃ良いさ。さて、食べよう。」


 こうして俺は出された食事を食べ始めた。メキルラーナは何やらまだ納得していない様な微妙な顔になっていたが、俺がそれ以上に何も言わないので一緒に食事を始める。


 朝食は葉野菜の千切りサラダ、豆の炒め物、塩豆のスープである。圧倒的地味。マメマメマーメ。

 俺はこれに特に文句は無いのだが、やはりもう一品ガツンとしたものを加えたいと思って聞く。


「ワーム肉、追加で入れる?」


「あの、連日出すおつもりです?」


「いやー、ちょっとこれだけじゃ物足りなくないか?」


「いえ、毎日私はこれでしたので。うーん、豪勢な食事に慣れてしまうと後々が、ちょっと・・・」


「しょうがないか。今日は止めとこう。」


 そんな会話を終えて食事を摂った後は店の入り口に二人で向かう。

 メキルラーナが「確かめたい」と言ったからだ。


「あの、まだ本当に店を壊そうとしている者たちがそこに居るんですか?何も伝わってきませんが。」


 俺の事をこうして用心棒として受け入れているし、妙な力を使うと知っているハズにも関わらずメキルラーナは疑っている模様である。


「こんな事に嘘言ってどうするの?まあ自分の目で見ないと信じられ無いって事はあるかもだけどね。じゃあ家の二階の窓からこっそりと覗いて見る?あ、ちゃんと静かにバレない様にね?」


 メキルラーナがこの俺の勧めで二階へと上がっていく。この家は二階建てで一回は店舗スペースがほとんど、二階が住居と分けられている。

 ちなみに食事は一回のリビング?である。多分客が来た時の商談用と言った部屋も兼ねているのだろうが。


 そうして二分、或いは三分?くらいしてメキルラーナが蒼い顔して下りて来た。


「本当に居ますね・・・しかも相当大きな斧で入り口の扉を壊そうと思い切り叩いてました。だ、大丈夫なんですか?」


「そこ疑っちゃうかぁ。見ての通り、感じての通りだよ。壊れないから安心して。じゃあこの先の事を相談しようか。」


 こうして今後の動きを話し合ったのだが。


「外に出るのが恐ろしいです。もしあんな奴らにまた狙われでもしたら・・・」


「その点は俺が守りを固めてるから命は取られる事は無いだろうけどね。でも襲われたりすればソレが精神的外傷になっちゃうかもしれないって考えれば、まあ外出は控えたいか。」


「でも、店を壊されそうになっている事は通報しに行かないと・・・」


「あの職員がまた担当して来るんであれば行っても無駄じゃ無いか?もしかしたら最悪な事もあるかもよ?」


「あの、不安になる様な事を言わないで頂けると・・・最悪って、なんですか?」


「賄賂を渡されていてメキルラーナの訴えを聞くふりだけして対応しない様にと頼まれてるとか?」


「えぇ・・・?」


 俺のこの言葉にメキルラーナは思い切り顔を顰める。俺の事を信用するよりも、国の公権力、武力を信用していた模様。


 だけど俺にとってはこんな賄賂、汚職などと言った事はこの世界では幾らでもされているだろうといった思いがある。


(だって司法も警察も整備されていた世界でも、その手のニュースは幾らだって報道されてたからな。そうじゃないこっちの世界ならなおさら、って感じだろうよ)


「外出はできない事も無いけど、どうする?俺にはその手段があるけど。」


「外の奴らに見つからない様にこの店を出る方法?分かりません・・・こんな状態でどうやって?」


「店を出る方法だけじゃ無くて、発見されない方法もあるんだけど。両方使えば奴らにバレずに外に幾らでも出たい放題。信じられ無い?」


「はい、ええ、まあ、そうですね。でも、貴方の言っている事は本当なのでしょうけど・・・」


 どうやらまだ俺の事は心の底から信じ切れていない様子。メキルラーナは疑り深い性格をしているのだろうか?

 とは言え、こんな状況、環境になっているのだから他人が信用できないと言った気持ちになってしまうのはしょうがない事だろう。

 少しづつ信用、信頼をして貰える様に俺はゆっくりと説明を続ける。


「このまま店に籠城するのなら、実際の通り、安心して貰って良いよ。そんじょそこらの物理攻撃じゃ絶対にこの店は壊され無いし。俺が守っている間はあいつらが幾ら手を出してきた所で傷一つ付かないからね。」


「どうやってそんな事ができるんです?未だに信じられ無いです。」


「魔法だよ。俺は魔法使いなんだ。だから、魔法でチョチョイノチョイ、ってね。」


 魔法を連呼して強調する。これにメキルラーナは「え?あの魔法?」と不思議そうな顔で硬直した。


 あの、とはどんな事を思い浮かべているのだろうか?この国での「魔法」と言う立ち位置やイメージがどんな物であるのかをイマイチ分かっていない俺はここでコレをスルーする。


「そうそう、その魔法だよ。何でも出来ちゃうよ?外にも出放題、姿を見られない様に隠すのもお手の物。このまま外出して遠くに行っても、店に掛けている魔法は解けないし、壊される心配も無いよ?メキルラーナに危害を加えようと襲って来た輩の凶刃も防いで命を守る。簡単簡単。どうする?」


 この俺の言葉にメキルラーナは首を左右に幾度も傾けて頭の上にハテナマークをポンポン浮かべて「まだ理解が追い付けていません」なリアクションになっていた。


 そんな時間はそう長く続かなかった。メキルラーナは覚悟を決めた様に頷いて言う。


「友人数名に私の無事と現状の説明をしに行きたいです。あ、手紙でも良いのですが・・・直接話をしたいと考えます。あの、どうでしょうか?」


「うん、良いよ。じゃあ行こうか。」


 その程度の事ならお安い御用であり、朝飯前だ。いや、朝食はもう食べてしまった後だが今は。


 ワープゲートを出して俺はそこを通って見せる。そしてまたすぐに戻る。

 この突然の俺の行動にメキルラーナの目はギョッと見開いていた。


「こ、コレも魔法・・・ですか?」


「この先はテンソウの店の裏手通りに続いていて人の通りは無いから大丈夫だ。一応は姿を見られない様にもしておこうか。」


 俺はサッと魔法で光学迷彩を掛ける。互いの姿は何故か認識できるのだから魔力、魔法とは不思議パワーである。


「あの、本当にこんな事で?何も変わっていない様に思いますけど?」


「じゃあハイコレ。マントでも羽織って顔も隠して。これで良い?」


 インベントリから取り出したマントを渡して俺は納得してないメキルラーナにワープゲートを通る様に促す。


「あの、本当に大丈夫なんですか?これ・・・失礼ですが、如何にも邪悪な輝きしてますけど・・・」


 確かにそんな見た目をしていると言われてもおかしくない代物だ。

 しょっちゅう使っているので俺は別に何も気にしていなかったそこら辺は。


「じゃあこれでどう?」


 魔力を少々多めにワープゲートに注げばそこは人気の無い通りが見える。

 これに再び驚きのリアクションをメキルラーナは取るが、そんな時間が勿体無い。


 と言うか、何時までも通るのをその様にして一々止まっていたら話が先に進まないので俺はその背中を半ば無理やり押してワープゲートを通らせる。


 あの、その、とか抵抗を口だけではされていたが、俺の魔力固めからの身体操作からは逃げられない。

 メキルラーナを保護するために俺の魔力はもう纏わせている。


 俺が背中を押す力に耐えきれずに前に進む、と言った動きをメキルラーナにはさせているので「操作」されていると言った事は悟られては居ないと思う。


 物凄く違和感は感じているかもしれないけれど、ソレも背を押されて妙に体へと力が入っているから、などと言った勘違いに変わっているだろう。


 自分の身体を勝手に操られる事に良い思いをする者など居やしないはずだ。

 だから俺はその点を悟らせないようさっさとワープゲートを通らせた。


「で、ここからの道順は分かる?あ、そう?なら行こうか。」


 ワープゲートで瞬間移動、まあ普通は信じられ無い事である。

 例に漏れずメキルラーナも唖然とした表情になっていてその場に立ち尽くしている。

 そんな状態で俺の質問にはゆっくりと首を縦に振っているのが何だか滑稽だった。


 こうしてメキルラーナの友人の所に向かう事になったが、数名と言う話なので具体的に何人の所を訪ねるのかは俺には分からない。

 迷い無く、しかし警戒心を最大にして周囲を伺いつつゆっくりと歩くメキルラーナは怯えた様子である。


「いや、だからさ、姿は見られたりしないし、俺が用心棒として付いてるから大丈夫だってば。」


「いえ、それだけではちょっと・・・」


「え?ここまで来てまだ俺って信用されてないの?幾ら何でもちょっと衝撃・・・」


 メキルラーナは非常に現実主義者なのだろうか?自分で見た、聞いた、体験した事しか信じないと言った感じなのだろうか?


 とは言え、確かに俺が魔法を使って姿を他所から見られない様にしてあると説明した所で、ソレを実感できる体験をしていなければ確かにこの様な態度になる物なんだろう普通に。


 まだここの通りは人が居ないのでその点が確かめ様が無い。もう少しこの状況は続く。

 大通りにこの道は繋がってはいるが、そこに着くにはもうちょっとだけ距離があるのだ。


 しかしここまでの怯え様はちょっとどうかと思う。最初に襲われそうになっていた所を助けたのは俺なのだ。

 しっかりとソレを恩に感じてくれているはずのメキルラーナは今の時点でまだ俺の実力と言ったモノを疑っていると言う事であるこれでは。


 さて、ここでメキルラーナはその大通りへと向かわない。より幅が細くなっている脇道へとその歩みを向けていた。


(人気の無い道をなるべく通って誰かに見られたりしない様に気を使ってるのか。俺の説明を全く信用して無いって事なんだよなぁ)


 別にコレはしょうが無い事ではあると思うが、しかしこれはこれで度胸が無さ過ぎると言った感想にもなる。

 自らの安全を確保するのに幾らでも警戒をするのは確かに悪い事では無いが。

 俺を用心棒として受け入れてこうして同行しているのだから多少大胆な行動と言うのを採っても良いと思うのだが。


(慎重過ぎるだろ。何時になったらその友人の所に着くかこれじゃあ分からないよ)


 一番の問題はメキルラーナが店を狙って来ている奴の目星を俺に教えようと考えていない事だ。

 関係無い、とか言っていたのにこうして俺を用心棒として受け入れる事は許容している。

 矛盾している部分、していない部分が彼女の中に複雑に絡んでいる結果なのだろうが。


(幾つか候補に挙がる名前を教えてくれても良いだろうにな)


 それさえ分かれば俺がさっさと行ってドカンと一発ぶちかましてソレで終わりだ。


(いや、物騒な思考になり過ぎだ。俺がそこまでしちゃダメなんだろうな、今回の件は。あくまでもメキルラーナは自分の決意と決心で店を守りたいんだろう)


 人には時に張らねばならぬ意地と言うのがある。まあそれが今メキルラーナの中にあるのかどうかは俺には分からないが。

 取り合えず俺はここまで来たのだから成り行きに任せて見る事にする。


(流れに身を任せていればその内にテンソウが何とかしてくれるかもしれないし)


 などと考えながら細い道を進んで行けば少し広めの通りに繋がっていた。


 そこは既に人で溢れていて、どうやらこれから仕事に向かう者、遅い朝食を屋台飯で済ませている者、昼の献立でも悩んでいるのか買い物をする女性、体中に何やら職人道具?をそこら中に身に着けている男性などなど。


 そんな通りに出る手前でメキルラーナは立ち止まってしまっていた。

 これはなるべくなら自分たちを目撃されたくは無いと考えての事だろうと予想できる。


「ハイハイ、それじゃあ行くよ。大丈夫だって。人って言うのはさ、別に通りを歩く他人たちをそこまで真剣に観察して歩いてるもんじゃ無いから普通は。以前の自分が道を歩いてる時の事とか思い出してみ?別に道行く人々の全員の顔何て気にして歩いてたりしないだろ?」


「・・・はッ!?だったら今のこの姿は余計に目立つのでは?」


「え?今更そこに気付くの?ちょっと今のメキルラーナ冷静じゃ無いぞ?」


 マントを羽織り、顔はフードで隠す。そんな見た目が怪しい者が人の多い通りを歩いていたら目立つ事この上無い、逆に。

 今になってその事に気付くメキルラーナ。どうやら精神が参っている模様。


 しかしこれはしょうがない。父親が亡くなって、自身も襲われかけて、店を今日の朝は襲撃などされている。

 俺が居なければ今ここにメキルラーナは居れなかったかもしれない。そんなプレッシャーが背中に乗っていれば心の平安を保つのは相当に苦労するはずだ。

 ソレを思えば普通に振舞い続ける事が出来る精神状態では居られ無いだろう。


 まあ俺はその普段のメキルラーナがどんな性格であるかを知らないのだが。


「フードだけ外して行けば良いじゃない。ほらほら、友人の元はもうちょっと先か?それとも近いのか?」


 腹を括れ、俺は遠回しにそう言ったつもりだったのだが。


「いえ、もう到着したも同然なのですが・・・この建物です。」


 ソレは俺たちの居る位置、右手側の家。入り口は通り側に面している。


「じゃあだったらここで止まらずに自然に通りに出て扉にノックするだけで良かったんじゃね?」


 今の俺たちの行動は他所から見たら余りにも不自然過ぎて余計に目立つ動きである。

 まあ俺の魔法で姿が見えない様にされているので周囲の人たちからの視線など一切気にしないでも良いのだが。


 そんな事を一切信用していないメキルラーナは警戒が先走ってそんな自然な事でさえ出来なくなっている状態だと言う事である。


「先ずは落ち着け。そのマント、取ろうか。ほら。それじゃあ次だ。いつもの、普段の自分ってのを思い出せ。今そんな時とは全く違う精神、追い詰められていた、って事は察したか?自覚はあるか?今はその「いつもの様に」って感じで友人宅を訪ねに行くだけだぞ?ほら、繰り返して、何時もの様に、何時もの様に、何時もの様に。深呼吸を大きく三回だ。さあ、いっかーい、にかーい、さんかーい・・・」


 メキルラーナを宥める俺。このまま脇道に居続けても意味が無い。メキルラーナがこのまま動けないのならば俺がやるしかない。


「大丈夫です・・・もう落ち着きましたから。」


 そう言ってスッと通りへと出るメキルラーナは自然体だ。そして目的の友人宅の家の扉をノックした。


「はーい、誰ですかー?・・・あれ?居ない?」


「メレルナ、私です。中へと入れてくれますか?大事な話があるんです。」


「え?何これ?声はすれども、姿は見えず・・・?何処に居るの?」


「貴女の目の前・・・え?」


 メキルラーナが背後を振り向いた。そして俺の顔を見る。


「だから言っただろ?姿は他の人には見えて無いって。ほらほら、ここで立ち止まってると不自然だし、無理やり押して中に入っちまえ。」


 俺はそのままメキルラーナごとメレルナと呼ばれた女性を押し込んで家の中へと入り込む。


「え?ちょ!?なになになになに!?・・・あーっ!?」


 自分の身体が何か見えないモノに押されている事に非常に混乱しつつメレルナはなすが儘。


「ど、どどどどど?どういう事?ラーナ?ラーナ?居るの?居ないの?何処?どうなってんのこれー!?」


 俺は開いていた扉を閉める。勝手に動いて閉じた様にしか見えないメレルナは怯えている。まだこの時は俺は魔法を解除していないのだからそうにしか見えないのでしょうがない。


 ここで恐らくはメキルラーナのあだ名であろう「ラーナ」とメレルナは口にする。


「へえ。今度から俺もソレで呼んで良いか?」


「えっと、その、構いませんが。今はこの状況を何とかして欲しいのですけれども。」


「いやー、だってさ。ラーナは俺の言った事がどうやら信用出来て無かったみたいだし?まだもうちょっとそこら辺をしっかりと実感して貰ってだな?」


「あの、充分に理解しましたので、メレルナが、その、涙目になってますし・・・」


「どういう事なの・・・ラーナ、居るなら出て来てヨ・・・と言うか、もう一人の人、誰?男性だよね?その人も、今、家の中に居るって事なの?」


 怯えさせ過ぎてしまった。俺はそこまで追い詰めようと思っていた訳では無かったのでこれに非常に申し訳なく思う。

 なので魔法を解除した後は謝罪の言葉から挨拶を始める事にした。


「すまない。そこまで驚かせるつもりは無かったんだけど。取り合えずこのラーナの用心棒になった遠藤と言う。宜しく。」


「え!?え・・・えぇ・・・!?」


 いきなりパッとまるでコマ落としかの如くに姿を現した俺たちにメレルナは三度程驚きを連発する。

 最初はビクッとして、次は唖然として、最後はしかめっ面になった。


「メレルナ、事情を説明するから、ゆっくりと話せる時間はある?貴女の言いたい事も、聞きたい事も、私は解ってるから。落ち着いて。」


 メレルナは茶髪のロング、ポニーテール女子である。非常に活発そうで、目じりがキュッと上がっていて非常に気が強そうな印象だ。


「訳が分からないわよ・・・どう言う事なの?何でなの?誰なの?何でいきなり現れたの?声だけして姿が見えなかったのは何?・・・あーもう!」


 ツッコミ所があり過ぎて渋滞している。その気持ちは非常に分かる。分かるが、メレルナにはそこを耐えて欲しい所だ。

 これからラーナがソレを解消してくれる説明を始めるのだから。


 そうして少々の時間を消費して息を整えたメレルナがお茶の準備をすると言って台所に消えた。

 椅子に座って待っている様に言われて俺たちは素直にそれに従う。


 そうしてお茶を持って来たメレルナは眉根を顰めてラーナを睨む。

 これには彼女へと視線だけで「はよ説明」と訴えているのがありありと伝わって来た。


 こうしてラーナが父親が亡くなった所から事情を説明し始めた。


 暫くして最後にラーナがこう言って話を締める。


「そうして偶然に助けて頂いたエンドウさんに用心棒をして頂いてここまでやって来たの。」


 ラーナの話は結構ざっくり、おおざっぱだったが、話の流れはしっかりと捉えていたので別におかしな部分は無い。

 でも鋭いツッコミが入った。メレルナから。


「で、ラーナ。その相手の目星は付いてるんでしょ?誰よ、それ。」


 メレルナは俺の事は一旦横に置いておくつもりである様子。

 真っ先にあの店を狙う犯人の目星をラーナに「吐け」と迫る。


 しかしコレを拒否するラーナ。


「ダメよ。貴女に教えたら自身の身の安全を放り投げて相手の犯罪の証拠を得ようと動くでしょう?余計な事に首を突っ込んで毎回怖い目に遭ってるのに。何で懲りないの?治らないの?その悪い癖。呆れちゃうのをもう通り越してるわ。これまで命が繋がってる事の奇跡が信じられ無いわ・・・」


 どれだけの修羅場を経験して来たというのだろうか?聞きたい様な、聞きたく無い様な、である。


 これにメレルナはお茶を一口飲んでから力強く言う。


「ラーナが危ない目に遭ってるんだから、ソレを助けようと思って行動するのは友人として当然じゃない。」


「当然じゃ無いわよ。貴女が私の為に動いて危ない目に遭って、それで取り返しの付かない事があったら私はどうすれば良いのよ?毎回言ってるじゃない。同じ事を何度言わせるのよ・・・」


 マトモな事を言ってるけれども、その中身は只の無鉄砲。これにはメレルナの性格がはっきりと出ていると言って良いんだろう。


 困った友人、そんな枠なんだろうメレルナは。厄介な性格をしているから今回の事は教えない方が良かったのでは?と思わないでも無いが。


 しかし友人としていつまでも連絡をせずに居て別の方面での心配を掛けるのも嫌だったのだろう。

 しょうがなく話をしに来た、と言った様子のラーナである。

 メレルナがラーナとの連絡途絶を、その心配を肥大化させて勝手に動かない様にと思ってこうして説明をしに来たのだろうが。


(ソレは逆効果じゃ無いのか今回は?説得して大人しくさせる事が可能なのか?)


 好奇心、猫を殺す。そんな言葉があるが、多分メレルナにぴったりな言葉だろうコレは。


 そんな下らない事を考えていたらラーナが俺に向かってこう言ってきた。


「ですので、エンドウさん。この子に分からせてあげてくれませんか?」


「・・・うん?」


「用心棒の強さが分かれば私の身が安全だと思って貰えると思うんです。メレルナに思い知らせてあげてください。」


「何だか言い方変じゃ無いか?彼女が何かしら「やらかした」訳で無し?思い知らせるって、ちょっと使い方変だろ?」


「それくらいしないとこの子、止めるのも構わずに暴走するんです。だから、最初から「必要無い」って強く解らせないと。今回の事もきっと必ず暴走してやらかしますから。」


「おかしい・・・俺は用心棒だけどさ。うん、やっぱどう考えてもおかしいぞ?この展開?」


 俺の役目は悪党どもの魔の手からラーナを守る事である。

 なのに何故、今俺は暴走女子を止める為に利用されそうになっているのか?


 他の説得材料などは無いのかとラーナに問おうと思ったのだが。


 俺の視界には既にメレルナが木剣を手に取ってヤル気満々で立ち上がっていた。

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