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豆は気に入ったから

 ボコボコと俺は今殴られている、なんて事は無い。

 と言うか、一発俺の顔面目掛けて拳を振るってきた男の方がその手を痛めてしまって蹲っている。


「あーあ、それ、体重掛けて全力で殴ってるだろ。手首ヤバいんじゃ無いか?ソレ?あと指の骨の方も最悪折れて無いか?」


「テメエ一体何しやがった!?」


 別に俺は何もしていないだけだ。している事と言えば、自分の身体を魔力で覆っているだけ。一応は拳が迫って来た部分の魔力は厚めにしたりはしたが。

 思い切り殴って来た男からしたらそんな事など知りもしない訳で。しかし俺の顔面にまでその拳は届いていない。

 そんな届いていない拳が空中で見えない魔力の壁を殴ってしまうという事態になっているだけだ。


 いきなり人を遠慮無く害そうとしてくる輩に対して思いやってやる気にはならないので俺としては別に何も思う所はこれに無い。


「残りのお二人さんも、まだやるかい?」


「舐めやがって!死ねや!」


 一人が腰に着けていたナイフを抜いて俺へと振り抜いて来た。


「まあ、無傷なんだけども。」


「・・・げぇ?何だこいつは!?ば、バケモンかよ!?有り得るはずがねえこんなの!?」


「何なんだ!?斬れて無い!?」


 俺が斬られて深手を負ったと、そんな風に思ってニヤ付いたナイフ男は直ぐにピンピンしている俺を見てその顔色を変える。残りの一人も驚いて声を上げていた。


「クソがぁ!」


 自棄になったのか?あり得ないと思ったのか?ナイフ男は二回、三回とナイフを振るい、突き刺して来ようとしたが、無駄だ。

 その程度の事で纏っている魔力が突破されていたら今頃俺はここには存在できていない。


「いい加減にしてくれ。格の違いって分からん?ホント、何でこう言う奴らって何処にでも居るのかね?」


 そんな事を言っている間にナイフ男は止まっていた。荒い息を上げて。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ、な、なんで死な無い!?くそ!逃げるぞ!」


 やっと退散する気になったみたいだが、俺はコレを逃がす気は無い。

 散々人を殺そうとしてきた、しかも他人の命など気にも留めない位に何度もその刃物を全力で振るってきているのだこの男は。


 そんな危険人物をこのまま見逃すなんてあり得ない。こんな相手を放っておいたらその内に何処かでまたその凶刃を振るって簡単に誰かを傷つける、或いはさっくりと殺すだろう。


 この男は殺人と言うモノに慣れている。そう言った仕事をして来た者であるのだろう。


「取り合えず、そうだな。衛兵に突き出して牢屋にぶち込んで貰って。んで、罪状は、この場合どうなるのかね?」


 この男たち、この分だとこれまで結構な数の罪を重ねて来ていると見える。

 ならば多分この国での刑法に照らし合わせても死刑は免れないと思われるが。


「そこら辺は俺がどうのこうのと言う所じゃ無いな。引き渡したらそこでお仕舞い、忘れるに限るな。」


 こんな奴らの事を一々覚えている脳の容量が勿体無い、そう感じた俺は振り向いた。


「えー、お嬢さん、一応聞いておくけど、大丈夫だった?」


「・・・え?あの、ハイ・・・あ、貴方は?」


「通りすがりの正義の味方、何て言えたら良いんだけどねぇ?身勝手にも見て見ぬふりしたら後で俺がモヤモヤしそうだったから、ソレが嫌でこっちの都合で助けに入ってるんだよねぇ。」


 こういうのを偽善と言う。そんな俺の言葉に娘さんは困惑顔である。


「ああ、何処の誰かを聞いたのに返事がコレじゃあ何て言ったら良いか分からんよなぁ。すまないね。それじゃあ家は何処?送り届けるよ。俺は遠藤。君は?」


「あ、その、私はメキルラーナと申します。危ない所を助けて頂いて・・・と言うか、その、その男たちは、何で先程から・・・」


 俺は逃げようとしていた三名の男を魔力固めで動けなくさせている。

 ソレを見てメキルラーナが先程からオドオドしているのだ。

 まるっきり微動だにしない、声も上げない男たちを見てまた襲って来ないかと不安になっているのだろう。


「あー、こいつらを先に犯罪者として衛兵の所?に連行したいんだけど?」


「あ、ハイ・・・わ、分かりました。こ、こちらデス・・・」


 銀の長い髪に焼けた浅黒い肌。目の色は青。メキルラーナはそんな美人な十代に見えた。

 助かってホッとした様な、しかし俺の得体の知れなさにビビッているような、そんな態度になっている。


(いきなり出て来て助けてくれたって言ってもなぁ。俺、こんな見た目だしなぁ)


 この国では見かけない服を着た、何処の誰かも分からない相手にピンチを助けて貰うとか。一生に一度は「無い」と言い切れる。

 理解しようとしても直ぐには無理だろうし、結局はその場の流れに身を任せるしかないと言った感じになるのは当然だろう。


 衛兵詰め所のある場所を知っている様でメキルラーナの足取りはしっかりとしているが、頻繁にチラチラと俺の方を見て来て警戒をしている。


 コレはしょうがないだろう。俺の後ろには先程に彼女を襲おうとしていた男三名が動きを揃えてついて来ているのだから。

 マッチポンプを疑われていたりしてもおかしくない。


 だがそんな時間もそこまで長くは掛からなかった。目的地に到着したからだ。


「じゃあメキルラーナとか言ったっけ?君が事情を説明してくれるか?こいつらは俺が抑えてあるからしっかり伝えてくれ。」


「あ、あの、ありがとうございます・・・」


 こうして俺とメキルラーナは建物内に入る。そこは俺の知る市役所みたいな内装だった。

 その入って真正面のカウンターで書類整理をしている職員にメキルラーナは話しかけている。


 俺はソレを眺めつつ男たちを壁際に寄せてその傍で待っていたのだが、話が終わったようでメキルラーナの話を聞いていた職員が俺の方に目を向けて来ていた。


 そしてその職員は目を「え?」と言った感じに見開いて驚いた顔に変わっている。


(襲われました。そいつらを動けなくさせて連行してきました。なんて言ってもこんな状態では普通は信じないからなぁ)


 しかも動けなくさせていると言っても縄で縛ったりせずにそのままの状態である。

 これには「どう言う事だよ」と誰もがツッコミを入れる所だ。


 俺はここでインベントリの中から縄の類を探して取り出し、今さらに男たちの手首をそれで縛って「捕縛してあります」と言った感じに見える様にしておいた。


「あのう、貴方がこいつらを?その、言っては何ですけども、信じられませんねぇ・・・」


「信じるか信じ無いかは関係無くないか?彼女が被害者で、こいつらは犯罪者、それだけ分かってりゃこいつらの引き取りと罪状調査をそっちでやって解決してくれりゃ良いんだ。俺の信用何てこの件には関係無いだろ?」


 俺に近づいて来たここで働いている職員と見られる男が俺を訝し気に、疑いの目で見て来る。

 ソレを俺は突っぱねてこいつらを早く引き取れと伝えたが。


「はいはい、ソレはそうですね。こいつらはこっちでも指名手配していた凶悪犯三人組ですからねぇ。ソレをこうして連れて来てくれたのなら何も言う事無し・・・何て言うと思います?一体貴方は何処の誰なのかをお聞きしておかない事にはこっちも事情聴取と言う仕事がありましてね?」


「面倒だなぁ。そんな事に付き合う気はこっちには無いんだけど?」


「そうするとこちらも証人としての人物が居ないって事で調査も滞る訳でして。お付き合いして貰っても?」


「任意?」


「そうですね。」


「じゃあ拒否。」


「こいつらを牢に繋いでもその場合は釈放などと言った事も、万が一に有り得てしまうので貴方の証言を取りたいのですけども?」


「・・・こいつらの罪状は最大でどれ位?指名手配していて凶悪だって言うのなら、死刑?それとも無期懲役?」


「ええ、ええ、そうですね。これまでに判明している罪状を重ねると死罪が妥当と言った所ですけれども、ソレが何か?」


「じゃあ良いや。俺がやっておく。」


「は?」


「こんなやり取りになるとは思っていなかった。待って無けりゃ良かったな。こいつら放置してさっさと行っちゃえば良かった。」


「何を言っているんですか?」


 俺とのこの会話に職員が眉根を顰めて睨んでくる。

 こっちからしてみればこんな嫌な言い方してくる職員に絡まれる様な形で任意での事情聴取を迫られるとは思ってもいなかった。


「じゃあお仕事ご苦労様でした。あ、メキルラーナはこのままここで事情聴取を受けて保護でも警護でも申請して守って貰うとイイよ。コイツらの始末は俺が付けとくし、今後にこいつらと君がもう二度と会う事も無いだろうから。」


 俺は凶悪犯三人を連れて建物を出る。後ろから「おい!ちょっと待て!」と言われているが、ソレを無視して歩き続けて建物の陰の方に入っていく。

 そこでワープゲートを出してそのまま悪党三名を通してそのまま俺も続けて移動した。


「俺は必殺仕事人でもなんでも無いんだけどなぁ。行く先々でこんな風に毎度「悪党狩り」をやってるのはどうしてだろうか?あ、金貰って無いし、依頼も受けて無いから仕事してるって訳じゃ無いな。ボランティア?こんな世界で悪の華を枯らす赤い正義の味方ってか?」


 ここは砂漠のど真ん中。そこに三人の男が直立不動で並んでいる光景はシュールと言える。


「聞きたいんだけど、何で彼女を襲っていたんだ?取り合えずちょっと気になったから今更だけど聞いておきたいんだけど。」


 魔力固めを一人だけ解除、首から上を自由にできる様にしてやって質問を飛ばしてみたのだが。


「な!何なんだお前は!?どうして砂漠に俺たちは居る!?さっきまで町の中!」


「毎回同じリアクションをどうも有難う。」


 ワープゲートを初めて体験した者たちは大抵が同じ言葉を口にする。

 だからそこはもう俺は諦めていたりする部分だ。俺だって何も知らないでこの様な体験をしてしまえば同じ態度になるだろうから。


「まだ飯を食ってないからさ。お腹空いてるから早めに終わらせたいのよ。それで、どうして彼女を襲っていたの?」


「ち!畜生!何だってんだお前は!?俺たちをどうするつもりだ!?お、俺たちを解放しろ!今なら許してや・・・」


「じゃあ次の方。同じ質問をするから良く聞いて、冷静に答えてね?何で彼女を襲っていたの?」


 冷静にもなれず、そして自らの今の状況も現状も理解できていなかった男の首を俺は魔力固めを操作して圧し折った。

 何時までもこんな態度の男へ対応し続けるのが面倒だったから。気を使って落ち着くまで喋らせるなんて時間の無駄をしてやる気など無い。


 そして次に残っている二名の内の片方に俺は同じ質問を飛ばす。そいつは俺にナイフで斬り掛かって来た男だ。

 因みに顔が百八十度回って背中側に向いている今死んだ奴は俺の事を真っ先に殴って来た男である。


「助けてくれ!こ、殺さないでくれ!しゃ!喋る!喋るから待って!待ってくれ!」


「俺はさ、人殺しの趣味は無いんだけど、だからと言って俺を殺そうと遠慮無く刃物を振るって来た相手に対して許す心なんて持たないんだよね。」


「・・・く!っくっそがああああああ!」


 俺がちょっとだけ遠回しに「遠慮無く殺させて貰うよ」と言ってしまったのでそいつは今度は怒りを込めて叫び始めてしまった。


「おい、うるさいなぁ。質問には答えてくれないって事?なら、死刑だって言っていたんだから俺がお前をやっても良いよな?俺は襲われてる訳だし?報復として同じ事をお前にやってやるから、それで生きていたらそのまま見逃してやるよ。」


 俺はその男の持っていたナイフを魔法で操って再現をした。


 先ず思い切り斬り掛かる。その後は全力で二撃、三撃と突きを。


「ごふうッ・・・」


「魔法で操って殺害したけど、気分悪いな、やっぱ。直接の俺の手に刃物が人体に刺さる手応えってのは感じてないけどさー。嫌なモンだな、ホント。」


 二名の男の死体が砂漠に横たわる。俺は死刑執行人でも何でも無いのだが、こっちは襲われている立場だし、仕返しで相手がして来た事をやり返しても別にこいつらに文句を言われる筋合いは無い。

 目には目を、歯には歯をの精神で悪人に対しては接していく所存である。


 そして残りは一人。


「素直に答えてくれるのかね、こいつは。無駄に終わりそうだし、良いかな?でもなぁ?」


 メキルラーナに直接事情を聴いた方が早いと思ったが、今頃はあの嫌な言い方する職員に聴取をされている頃のはずだ。

 再びあそこには戻る気が俺には無いのでここで同じ質問を最後の一人にする事にした。


「ままっままままっまま!」


「ま?」


「待って!言うから!ああ、あの女の店が目的だったんだ!」


 店が目的だと言うので何となくピンときた。地上げ屋か何かだろう。

 嫌がらせをしてその店を手放させる様に仕向ける。或いはその店の所持権利を持つ人物を「消し」て店を手に入れようと言った所か。


 そしてソレの実行役にこいつらを使った奴が居ると言う事である。


「何の店、なのかはまあ知らなくても良いか。もう関係する事も無いだろうし。」


 俺はこのままメキルラーナとは会う事は無いだろうと思っている。

 このまま俺の方から彼女に会いに行く事をしなければ二度と顔を合わせる事も無いだろう。

 メキルラーナは今頃は被害届けでも出して身の安全の確保をしようと動いているはずだ。

 俺が手出しをしなくてもこの先は公権力が彼女を守るはずである。


「た!助けてくれ!金なら幾らでも払う!払うから!」


「・・・んー?じゃあ一応は聞こうか?お前は自分の命に値段を幾ら付けるんだ?」


 命乞いをされて、しかもそれに金を払うと言ってきたので俺はこれに構ってやる事にして聞くだけ聞いてみたのだが。


「ご!五百万でどうだ!?今アジトに行けば支払える金はそれだけある!そ、それで俺を助けてくれ!」


「あ、ごめん、俺さ、この国のお金の価値知らんのやわ。あー残念。その五百万ってのがどれだけの事が出来るとか?具体的な想像が出来ないわー。・・・それとさ、命って言うのはね?値段が付けられないモノだ、何て言うけどさぁ?それって「死んだ命はお金では生き返らせられ無い」って意味で、幾ら金を積んでも値段が付けられないって訳よ。生きている内はさ、今みたいにお前が言った様に「自分の価値をお金で換算」とかして値段は付ける事はできるんだけどな?じゃあ今の付いた、付けた値段は妥当か?お前の命ってのにはそれだけの値段の価値があるのか?」


「な、何を言って・・・」


「いやさー?今ここで死なない為に、今払える最高額をお前は今示した訳だ、自分で。それで自らの命を俺から買い取ろうとした。生殺与奪の権利って事だな。だけどさ?俺からしてみれば、お前にそんな価値は見い出せ無い訳よ。生かしておく理由が見当たらないってやつかな?その程度の金額で売ってやろうとは思えない訳だ。」


「おい、待ってくれ!じゃあ倍だ!一千万出す!だから!」


「いや、あのさ?お前は今まで殺して来た人数は?言ってみ?え?十五人は超えてる?フーン、結構殺して来てるね。それで、生きていたらそのお前の利用価値って、何?人を殺す事が今まで仕事でしたって言うなら、お前、要らないんだよ。俺にも必要無いし、この国にも必要無い。だって、凶悪犯なんだろ、お前ら。んでもって、罪に会わせた罰を与えるって事で、死刑は免れないとか何とか言われてたじゃん?で、じゃあ、そんな存在の命がそんな五百万やら一千万支払って「生かしておいてやる」「罪を無かった事にしてやる」とは、ならんだろうに。お前ってさ?人の恨みって言うの、解かる?お前らに殺された者たち、その遺族たちが求める事って何だと思う?」


「に!二千万でどうだ!?金は絶対に揃えて見せる!支払う!殺さないでくれ!」


「安いな。死んだら終わりなのに、たったそれだけしか払え無いのか?」


「た、助けてくれるんだったらこの先ずっとアンタの奴隷でも構わない!し!死にたくないんだ!」


「お前らに殺されて来た人たちがその実、どんな人たちだったかは知らない。けれどさ、その人たちもさ、多分死にたくなかっただろうよ。それこそ、命が助かるなら幾ら支払っても良いと、お前らの奴隷になってでも助かりたいと思った人もいたかもしれないな。だけど、だけどさぁ?」


 俺はここで言葉を止めた。そして一つ溜息を吐いてから告げる。


「そう言う命乞いをして来た人たちを、お前らは嬉々として殺して来たんだろ?メキルラーナに対して吐いていた暴言でそこら辺の事が分かっちゃう訳よ。それでさ、お前ら、そもそもが金で許される域をもうとっくに超えてんだよ。」


 次の瞬間には男は空高く飛んだ。大体一気に三百メートルくらい。

 晴れ渡る大空、その透き通る青の中へと一瞬ですっ飛んで豆粒の様に小さくなる。そんな視認できる距離も一瞬で超えて行ってしまったが。


「あー、見上げれば太陽が眩しいねえ今日も。落ちて来るのは何分後かな?」


 この様な砂漠の柔らかい砂地であろとも、この様に高高度からの落下、墜落をしては男の命は無いだろう。

 俺が与えるのはパラシュート無しのスカイダイビング、これがこの男の人生への最後の土産だ。


 これでもし、何らかの要因で男の命が助かったりしたならば、その奇跡に免じて命だけは見逃してやるつもりである。


「まあ無理だろうけどね。」


 そうして暫く待っていればその光景がやって来る。


 それなりの重さの物が落下したのだ。その場所からは砂が「どーん」と舞い上がる程の威力。

 グシャリ、そんな擬音が妥当だろうか?見るも無残な姿に変わった男は既に息は無い。死亡している。


「死体は砂漠の魔物が片づけてくれるとして、まあこのまま放置で良いだろ。」


 俺は物言わぬ死体と化した男たちから身包みを剥いでいく。


「現金が丁度欲しかったんだよ。服も売れば中古で二束三文で売れるかね?金属類も雑貨屋とか金物を扱ってる店に持って行けば売れるか?」


 こうして俺はこの三人の事を頭の中からポイッと忘れてワープゲートで町の中へと戻る。


「この金で目星をつけてた屋台の料理を幾つか食うかね。テンソウの所に戻らないで良くなったな。」


 俺は屋台通りの方へと戻って早速減っていた腹を満たす事にした。

 そこで買い食いをしながらまたぶらぶらと通りを歩く。

 屋台で働いている人たちからは珍しい物を見るかの様な目で見られていたが。

 それでも金を払えば品を売ってくれているので俺からは何も言う事は無い。


「あんちゃん何処から来なすったんで?この国じゃ見ない服着てるからよ。此処とは全く違う国からかい?」


「ああ、そうだな。物凄く遠い国から観光にフラフラっとやって来たんだ。おっちゃんのこの飯を食うのにどっか落ち着ける場所、景色の良い場所とかオススメはあるかい?」


 一軒の屋台の出していた匂いに釣られて寄ったその店ではそんな会話を楽しむ。

 寄った屋台では店番が一言も喋ってくれずに不審者でも見るかの様な目を俺に向けて来る所もあったが。


 この店は気さくで好奇心のあるオッサンがやっていた様でカラカラと笑いながらおすすめスポットを教えてくれた。


 この屋台通りから少し遠い場所に広場があると教えられてそちらに俺は足を向ける。

 その際にはオッサンに「ビックリするぜ?」と良い顔しながら言われていた。

 それがオッサンにはどれほどに自信があったのかは知らないが、俺はちょっと期待しつつ教わった方向に歩く。


 オッサンの屋台で買ったのはイカのゲソ焼きみたいな、何の食材か全く予想できないモノである。

 ソレを二本買っておいたのでその一本を齧りながらその教えられた場所を目指した。


 そうしていれば見えて来たのは子供たちが集まりおしゃべりを楽しんでいる光景。


「公園、かねぇ?緑が生えてるって凄いな。」


 砂漠のど真ん中にある国、その中に茂る緑。結構な大きさの木も何十本も存在し、それが若葉をしっかりと伸ばしてカンカンな日光をその身に一身に受けている。

 どうやら熱や暑さに強い品種な木々である様子。ソレがかなりの範囲に亘り生えていた。


「コレは想像を超えるなぁ。固定観念だったわ。凄いね、こりゃ。」


 それらによって日陰が出来ている場所も多い。そこで休むお年寄りの姿もチラホラ。


「砂漠って言えば、そう言えばサボテンを見かけ無いなぁ。そう言うイメージを持っていたんだけど。」


 この場所にだけは芝生が在ってその上に寝転がりうたた寝をしている者たちも居た。


「ここだけ別世界に見えるなぁ。砂漠の国の中に緑の公園?凄いなぁ。どんな経緯でこんな事になってんだろ?」


 地質学者でも、天候学者でも、植物学者でも無いのでそこら辺の興味はそこまで強くは起きなかったが。

 それでもこの国が出来てからの歴史は長いだろうから、この公園もまたそれと同じ位に存在して来たのだろうと思うと凄いとしか感想が出て来ない。


「でも、ここがこの国の中心、とかじゃ無いみたいだしな。不思議。」


 こう言った場所ならば国の偉い奴が独占をするのでは無いのだろうか?

 王宮の中心にこの緑を配置して国を作って行く、そんな風に考えてしまう。

 この国の創立者はそもそもこの緑をどの様な理由でここに据えているのだろうか?


 そもそもが、最初からここに在った緑なのか?或いは植林して出来た人工的な場なのかを俺は知らない。


(アレ?そもそも俺は最初この国を魔力ソナーを使って調べたはずだし・・・こんな場所は感知していないっぽいよ?)


 この場所は何やらヤバい場所っぽいと感じながらも木々の間をゆっくりと歩く。


「知らないけれど、コレがもし人の手で、何て事を言うのであればソレはソレでその苦労と労力は凄いと思うし。もし天然もので出来上がった場であるとか言うのであれば「自然ってスゲー」ってなるけどさ。」


 俺は一人でぶつぶつとそんな独り言を漏らしながら木々の陰に入ってボケッとしつつ二本目のゲソ?ゲソ焼きを齧る。

 ここが砂漠の国だとは思えないそんな環境に俺の心身はリラックスしていく。


「ふあぁ~・・・昼寝しよ。どっかにイイ感じの木は・・・これにするか。」


 ヤバい場所そうだと思いながらも森林浴をしていれば精神が落ち着いてくる。


 俺は回りの人たちと同じ様にこの空間で昼寝をする事に決めて目を瞑った。


 そうして目が覚めればそこそこの時間が過ぎている。日は斜めから射し込んで来ていて少々寝過ぎたかなと言った感想が浮かんで来る。


 俺が寝ていたのはこの公園の外縁部に近い場所だ。ならばその中心の方も見てみたいと思って散歩の続きを再開する。


「ふああ~ああ・・・ッ!良く寝た。さてと。まだ暗くなるには時間があるからここの散策はしていくか。」


 俺はドンドンとこの公園の奥へと入っていく。そもそもこの場所、結構な広さであった。


 そして見つけた。何で俺はこれに真っ先に気付かなかった?と。


「ナンデこんな巨大な穴がここに?最初にこの国で魔力ソナーを広げて調べた時には分からなかったぞ?」


 ソレは囲いがされていて中へは入れない様にしてあったが、直径で10mはあろうかと言った大穴だ。


 中を覗けば真っ暗闇。そしてどうにも感じた事のある違和感。


「ここ、ダンジョンか。主が居るよな?この分だと。・・・そっとしておくのが良いか。」


 これまでこの国では何らの問題が起きてはいないからこそ、ここにこうして大穴が存在し続けているのだろう。

 そうで無ければとっくに何かしらの対策はされているはず。

 この穴から魔物が溢れ出て来た、なんて事がこれまでにあったなら、こんな無防備な状態にはしていないはずだし。


「主がここ一体の空間まで影響を及ぼしているから、ここだけ緑が広がっているのか?」


 地上にまでその支配力と言うか、何と言うか、そんな物が漏れ出ている影響なのかは何故かもう一度魔力ソナーで調べようとしても分からなかった。

 どうやら相当に強力な主がこのダンジョンを支配しているっぽかった。


「触らぬ神に祟り無し、ってな。これ以上は止めておくか。ドラゴンみたいなのに出て来られてもどうしたら良いか分からんしなぁ。私の眠りを妨げるのは一体誰だ?的な?」


 余計な手出しは厳禁だろう。興味本位で中へと入り込むのも絶対にしない方が良いと思った俺はその穴を大きく回り込む様にして反対側へと向かう。


 ここに来た側の反対の方へとそのまま行ってみる為だ。


 そうして歩き続けて森林浴を楽しんでいれば見えて来たのは来た方向の逆側外縁部。

 公園を出て何処か大通りが無いかを左右をきょろきょろしてみれば本日二度目の顔。


「あ?メキルラーナ?って事は、そこ、君の店?」


「え?エンドウ、様?あの後何処に行ってらっしゃったので・・・いえ、はい、ここは豆問屋、父が亡くなって私が継いだ店です。」

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