毎度の事?
配達は完了、無事に俺は売り上げを頂いたのだが。
「カードとは恐れ入った。まあ、確かに現金で貰うのは大変だからしょうがないとしても。俺にはインベントリがあるからそのまま現ナマで貰っても苦労はしなかったんだが。」
コチラを買い物の際にその店に見せると手続きをしてくれるそうだ。店側が。
請求はテンソウの店の方に月一か月二でされるらしい。まんまカード決済である。
「気にせずこれで買い物してくれって言われたけど。ちょっと使ってみない事には感覚が分からんなぁ。」
通りに出ている屋台などの店では使える訳では無く、しっかりと店舗を構えた所で無いとダメだと言われている。
俺は気軽に屋台飯とか、或いは朝市の食材市場などと言った所での買い物などをしてみたいと思っていたのだが。
「コレはコレで良いとしても。別の方法で現金稼ぎたいなぁ。」
幾らかを現金払いで受け取れば良かったのだが、しかし別段今直ぐ欲しいと言った事でも無かったのでのんびりと他に何か面白そうな事を探しながらこの国を見て回ろうと考えなおしている。
取り合えず今は諸々の問題も片付いていて比較的自由だ。
アラビアーヌもドロエアーズも今は忙しいだろうからその仕事の邪魔をしては悪い。
バラハムが変えた法や税などの直しが大分残っているだろうから余り頻繁に顔を見に行くのもダメだろう。
「俺の手はもう貸さなくても後の事はもう大丈夫だろうしな。」
短い期間で色々とあったのだ。その混乱が暫くは続くと思われる。
ソレが落ち着くまでは様子を見に行くと言った事はしないでおく。
この間のワーム肉の件は別換算で。
「取り合えずは今日はまだ見て無い方の通りを行ってみるかなぁ。」
目的も無く今日はふらふらと町を散策している状況だ。
配達は既にあの砂嵐のあった日に全てを終わらせる事が出来ている。
その日から既に二日が過ぎている。配達を終わらせた翌日は一日中部屋でのんびりと競売の売り上げの取り分手続きが終わるのを待っていたのだ。
そうしてその金額が入ったカード?を受け取ってこうして今日は町中へと散歩に繰り出しているのである。
「テンソウにはまた商品を持ち込んでくれないかって契約を迫られたけどなぁ。専属になる気は無いんだよね。」
もう「この国のお金を手に入れる」と言った目的は達成したと言える。
なので専属契約はする気は無いし、その必要も俺には無かった。
だからテンソウからのその求めは断っている。悩まず即座に。
しかしそこで縋りつかれて「せめてうちで世話をさせて貰え無いか」と言った求めをされた。
どうやら俺と「砂狩り」の契約はできずとも、このまま縁が途切れるのは勘弁だと言った考えであるらしかった。
この申し出に別段俺には損は無いと思って了承している。これからもテンソウの店でのこの国での宿泊は決定した。
「多分身近に俺を置いておけばそのうち何かの拍子にまた「砂狩り」で商品を持ってきて貰えるかもしれないとか思ってるんだろうなぁ。」
可能性を手元に残しておく事は非常に重要だ。
この国は非常に巨大で、俺がもしテンソウの所から離れて別の場所へ行ってしまった場合は探すのが面倒だろう。
人も時間も費用も、人探しって言うのは意外にも結構な手間と労力、それと金が掛かるモノである。
それらを必要としない様にしておくのは大事だ。奇貨居くべし、と言った感じだろうか?意味が違うか?使い方が間違っているだろうか?多分似た感じだと思う。
さて、俺はここで何かを忘れているなと思った。
「・・・あーあ。道が狭くなってきたなぁと思ったら、何だ?必ず俺は新しい土地に入ると絡まれる呪いでも掛けられてるのか?」
こうしてふらふらと通りを歩いていれば大抵の土地で起こるアレの事である。
目の前には五人の地元の者であると思われる男が武装して道を塞いでいた。
ターバンを巻いて、顔は布を巻いて隠している。マントで全身を覆ってその見た目の特徴などをすっぽりと隠していた。
「すまないが、そこで止まって貰おう。」
「うん、で、何の用?その雰囲気だと俺が誰だか解ってる感じするけど。」
そう、向こうの五人はずっと警戒をしっぱなし。そして止まれと言われたその距離は6mくらいだ。そこそこ遠い間合いである。
しかし俺にとっては無いも同然だ。この程度離れているからと言って俺の魔法は防げないと思う。
俺の知らない何かしらの手段があるのならば別だが。
「必要な事だけを伝える。返答願いたい。」
「・・・良いよ。で、何?」
これまでとどうにも勝手が違う。今まではこんな絡まれ方はしてこなかった。なのでちょっと戸惑って返答するのに間が開いてしまった。
これに相手がどんな風に思ったかは知らないが単刀直入に、手短に要件を告げて来る。
「我々のオカシラが貴方に会いたがっているのだ。招待に応じて貰いたい。」
なんでそんな事を伝える為だけにこんな人通りが少ない道幅が狭くなっている場所で?と思ってしまう。
その程度の事ならば俺がテンソウの店に居る時にでも求めにくればいい事だし、一々こんな所で待ち構えて伝える事でも無い様に思う。
大きい通りで只単に「貴方に用事がある」と声を掛けてくれればいい話だったのでは無いだろうか?
「この国で一番高いお茶と菓子を出してくれるなら良いよ?」
俺はこれに応じた。目の前にしている男たちからは警戒の雰囲気は感じるが、敵対してきている、悪意があると言った感じはしてこなかったから。
ここで一人が他の男たちに目配せした。それに二人がこの場を離脱。
多分俺の「茶と菓子出せ」と言った事を伝えに行ったのだろう。
「では、案内する。付いて来てくれ。」
こうして俺はこの男たちの案内に付いて行く事にした。何処に行くのかも見当は付かないし、どんな相手が俺を待ち受けているのかも予想できない。
そして到着したのは一見の何の変哲も無い家。そこに入ってくれと言われた。
ここに案内した男がその家の扉を開けるのでそのまま素直に俺は中へと入る。
その後は静かに扉を締められてしまったが、別に部屋の内部にはこれと言って潜んで居る者は居たりはしない。
その代わりに正面にどっしりと椅子に座ってこちらを見つめて来ている女性が一人。
「貴方が姫を、いえ、今は女王陛下ね。助けてくださったエンドウ様で良いのよね?うーん?想像していた顔とはちょっと違ったわ。まあ、そこは別に良いのよ。さあ、座ってくださる?要望の物は揃えさせて貰ったわ。ゆっくり話をしたいと思っていたからこの後、急な用事とかがなければお付き合いして貰えるかしら?」
赤くウェーブが掛かった腰まである長い髪。ちょっと釣り目気味で勝気な印象を受ける目。
浅黒い焼けた肌が薄っすらと透け見える真っ白なワンピースを着ていて何ともインパクトが強い人物だった。
因みに美人。二十台中盤と言った感じに俺には見えた若いその「オカシラ」とやらはこちらへと向ける視線を逸らさずに言う。
「余り警戒はしないで欲しいの。今日はお礼を言いたかっただけでね?ウチの者たちがアラビアーヌ様を追っていたのに見失って行方不明となってしまったと聞いていたのだけど。後々になって貴方が助けたと報告がね。それで今日は貴方に実際に会ってこうして組織の長としてお礼がしたかっただけなのよ。今は貴方が落ち着いてこの国を楽しむ時間が出来ていると判断してこうして招かせて貰ったの。」
「アラビアーヌを助けようとしていたって事?うーん?あんたらの組織ってのはアラビアーヌの味方だって事で良いのか?それは、随分とまあ。」
「ああ、言いたい事は分かるわ。ウチの者たちは、そうね、私としても優秀だと思っていたのだけれど。今回の件は相当に邪魔が、ね?ソレで不覚にもアラビアーヌ様を危険な目に晒してしまった上に見失うって言う非情に面子が立た無い問題に発展してしまったの。」
どうやらムランドだったか?軍部に相当に手を焼かされて護衛がやられてしまった事を気にしている模様。
(結果オーライ、って言うにはちょっと所じゃ無く重く受け止めなきゃいけない事だよなぁ組織として考えれば。本来の守るって事が完遂できなかったばかりか、その後の捜索にも良い所を出せなかったとなるとなぁ)
その末に俺とアラビアーヌが出会う事になってこうした結末を迎えたのだから何とも言えない部分がある。
それでも何かしらのケジメ的な物は付けておかないとダメで。
と言うか、こんな招き方をすると言う事は「暗部」なんかを担う組織だったりするのだろうか?
正規の組織ならばこんな目立たない場所に俺を連れて来るなどしないだろう。
「そこら辺の話は別に良いよ。ソレで、俺にお礼を先ずはしておく事は絶対にしないとダメだと?」
「ええ、そうね。この国を救って頂いた英雄様にはお望みの物を差し上げたいと思っているわ。そこら辺の話もさせて頂くわ。その後で組織の見直しね。今回の件に関しては放っておけない問題。ウチの組織の存在意義に関わるモノだから。それに関して貴方に話を伺いたい部分も色々とあるの。」
「経緯を話せって?うんまぁ、別に良いけどねそれくらいは。とは言っても、そちらが理解できない話も出て来るよ?」
アラビアーヌとの出会いから説明して欲しいと言う事なんだろう。そうすると空を飛んだり、ワープゲートの事だったり、インベントリの事やら姿を隠せる事も話さねばならないのだろうか?
まあそこまで馬鹿正直に全部暴露しないでも良いのだろうが。
「そこら辺の情報も集めてはあるから、実際にソレを見せて貰えたらと思うのだけれど。もちろん、嫌であるならば無理強いはしないし、見せて貰えるなら報酬も出すわ。」
インベントリの事やらワープゲートの事を話して、そして実際に見せても良いモノか?
そこで俺はちょっとだけ悩んだが、別にソレがどうでも良い事だったと思い直す。
向こうは情報を集めてあると言ったのだ。それならここで見せても見せなくても別段そこまで大差は無いかと思ってしまった。
見せない様に、バレない様にと隠すよりも大っぴらにしてしまった方が楽な時もある。
「うん、じゃあこの部屋を覗いている奴らはどっかにやってくれる?えーっと、お名前は?貴女にだけ話をしましょう。あんまりその他大勢に見せようとも思わないからね。」
「・・・そうね。解ったわ。」
ここで「オカシラ」が指をパチリと鳴らした。
すると俺の魔力ソナーに引っ掛かっていたこの部屋を覗いていた者たちが引いて行く。
しかし離れて行かない者が一人だけ。
「貴女を心配している様で引か無い奴が一人いるよ?」
ソレを俺は答えると「オカシラ」は溜息を吐きながら言う。どうやら心当たりが在る様子。
ここで「オカシラ」はしっかりと、そしてちょっと低めにその者に注意をする。
「マユル、私の指示が聞こえ無かったのかしら?」
ここでその引かなかった者が家の中に入って来る。堂々と扉から。
「ガネト様は我々にとって命に換えてもお守りするべきお方です。」
「はぁ~・・・私の命令は絶対だと、そう教えたわよね?」
ここで静寂が訪れる。マユルと言う名のその者は黙ってオカシラ「ガネト」をずっと睨む様に見つめ続けている。
「話が先に進みそうにないんだけどこのままだと。またの機会にする?」
「いえ、少々お待ちになって頂いても?・・・有難うございます。」
ガネトはマユルを連れて外に出て行ってしまった。
そのマユルは女性である事しか分からない。顔に覆面をしていて見せなかったから。声だけでしか人物像を判断できなかったが、相当に心配性、と言った感じだろうか?
何せ組織の長の命令を聞かずに勝手な行動に出る位は問題児みたいであるからして。
そして十秒ほどしてから戻って来るガネト。
「・・・失礼致しました。改めまして、遅くなりましたが私の名はガネトと申します。以後お見知りおきを。」
俺は出されていた茶と菓子を堪能しつつ待っていたが、入って来たガネトがこのタイミングで名乗るので「遅すぎないか?」とか思いながらもソレを口に出さずに答える。
「うーん?どうせその名前って通称って感じで本名でも無いんだろ?裏でこっそり動く組織で本名とか使うのは憚られるだろうし?まあソレは別に良いか。それに今後の御付き合いがあるかどうかも分からんし?」
俺はちょっと牽制するつもりでそんな事を言っておいた。
そもそも俺は気ままにこの国を観光したいのにこう言った組織に目を付けられて監視とかされたくはない。
だからちょっと突き放す位のつもりできつい感じで回答して行こうかと思ったのだ。
先程のマユルとか言ったか?あんなのに付き纏われるとかされるのは最悪だ。だから。
「さっきの娘に逆恨みされたり背後を取られたり四六時中睨まれたりとかされたくは無いんだが?」
「・・・その点はこちらが責任を持って対処します。では、報酬は何か欲しいと思う物は無いでしょうか?もしくは求める事など。出来る限り応じさせて頂きますわ。」
ここで俺は改めて考えてしまった。今俺の欲しいモノとは一体何だろうかと。
で、そんな物は直ぐに思いついた。だから簡潔に言ってしまう。
「うん、現金。」
「・・・はい?」
俺は何となく納得いかない。何でガネトはここで「予想外」と言った反応をするのか?
「小銭が欲しいね。今俺ってさ、ほら、そっちも俺の事を調べてたんだから知ってると思うけど。コレがあるのは良いんだけどさー?俺は通りの屋台飯とか、売ってる商材やら食材とかを買ったりしたい訳よ。そこでコレ、使え無くてさー。やっぱり現金ニコニコ払いが好きだなぁ俺は。」
「・・・は、はぁ。」
今度は呆れらた。解せぬ。俺はテンソウから受け取った例のカードを出して見せただけだ。
何がどう認識がすれ違っているのか?ちょっとそこら辺が分からないけれども続けて俺は言う。
「むむむ?今後この国にどれだけの期間滞在するか分からないから、そうだなぁ。この国の一般の人たちの平均給料三か月分?って感じくらいが良いかな?それなら充分だと思う。」
「・・・はい、いえ、あの、ソレで本当に宜しいので?」
「え?何がいけないのコレ?」
俺は逆に聞き返してしまう。報酬をくれると言うから遠慮なく貰っておこうと思ったから答えたのに。
「えっと、もっとお求めになられても宜しいのですが?寧ろソレだとこちらの心情として少な過ぎると思ってしまい。」
「求める金額が少ないって言いたいの?えー?でもなぁ?俺は別に成り行きだったからなぁ全部。それでお礼と称してお金貰ってるって、ちょっとねぇ?まあくれるって言うから貰うとか言っても、そこは遠慮する部分もあるって言うか。」
俺のこの言葉にガネトは「言っている意味がちょっと呑み込めない」と言った顔に変わっていた。
しかしソレも直ぐに引っ込めてこう言う。
「お求めならば地位も名誉もこちらでご用意ができます。権力も権威もです。」
「え?要らない。」
「え?」
俺は悩む事も無く即答したがこれにガネトは一瞬固まった。そして何故かここで「え?断るんですか?」みたいな顔になった。
これにはガネトが俺の事をどう思っているのかが全く分からない。
「では、えー、その。アラビアーヌ様と出会った所からのお話からこれまでの経緯の点の話に移っても?これに関しても報酬を別途お支払いさせて頂きます。」
余りここでグダグダし続けてもしょうも無いと判断したのか、ガネトは結構強引に次の話へと展開した。
「まあ良いけどね。俺もちょっとこの国での事を振り返る感じで思い出しながら話そうか。」
こうして俺はこの国での思い出語りをした。
これにそこそこの時間が掛かり、話を終えた頃には一時間程が経過していただろうか。
別段急いで語った訳でも無い。詳しく事細かに喋った訳でも無い。
しかし話の流れを外さぬように、抜けが無い様にと思ってしっかりと丁寧に時系列を追って説明はした。
「うんじゃあ最後にこれね。後コレね。」
俺はインベントリからヌッとあの「赤い甲殻」の余りを取り出して見せた。
これにガネトが一瞬ビクッとする。どうやら相当驚いた様である。
ソレを俺は直ぐにしまった。見せて欲しいとの要望はこれで叶えたと言えるだろう。
次はワープゲートだ。こればかりは見るよりも体験して貰う方が良いと思った、のだが。
「いえ、見せて頂けただけで結構です。」
即座に断られてしまった。しかし俺はここで「ナンデ?」とは聞かない。
最初に「見せて欲しい」とだけ頼まれている。経験してみたい、などとは言っていなかったから。
「それじゃあ報酬はいつ貰えるの?今直ぐ?それとも明日?」
「明日の朝一番にお店の方にお持ちさせて頂きます。本日はありがとうございました。」
ガネトがそう言って頭を下げて来た。どうやらもうお終いで良いらしい。
(何だか終始微妙に噛み合わなかった感があるなぁ。まあ良いか。でも、気になる部分も、あるよねぇ)
そんな事を思いつつも俺は家を出る。外の様子は別に変っていない。
この家の周囲を此処に俺を連れて来た五人が警備の為に監視しているくらいである。
(とまあ、ここで姿を消してですね。魔力ソナーと聞き耳を立てて盗聴といきますかね)
この家に入る前に一応は警戒の為に自身に張っている魔力の膜を強化してあった。
そしてこの中に入って俺は先ず違和感を覚えている。
(俺に対してどんな事を仕掛けて来ていたんだかね?ソレが分かるかな?)
何やら向こうは敵対の意思は無かった模様だが、何かしらを俺に対して仕掛けて来ていたのだ。
ソレが俺には分からなかったのでその正体を探ってみようとイタズラ心が出て来た。
ちょっぴり気持ちを子供に戻して「スパイごっこ」な気分で家の中へと意識を向ける。
中にはまだガネトしか居ないが、時間が経てば部下が集まって俺の事に関してのアレコレを会議でもするんじゃないかと思って待ったのだが。
ここでガネトが独り言をつぶやいているのを感知した。
『ああ、なんだろうねぇ、あの御仁は。全く読め無い。上手く取り込む事が出来れば今後の女王陛下の守りとして最高だったのに。』
どうにも俺を仲間に引き込みたかったらしい。したたかだ。
報酬を餌にして掴みを得ようとしていたっポイ。それを俺がほぼスルーした事を残念がっているのだと思うが。
『はぁ~。しかも効かなかった。どうなってるのかしら?かなり強い物を焚いたのに。高かったのよねぇ、コレ。まあでもこの手の類が通じない相手、って情報になったから無駄では無かったと言いたいけれど、うーん?』
(おい、何を仕掛けて来てたんだよ?コワいよなんだよソレ?)
『私に対して何ら目の色も変わらなかったって言うのがちょっと所じゃ無く悔しいわね。そんなに私は魅力が無かった?これでも自信があったのだけれど。香が効いて無かったとしてもよ?男であればちょっと位は反応しても良いハズでしょうに。そんな空気すら微かにも出していなかった。何者なのかしらね、ホント。』
どうやらハニートラップであった模様。道理でガネトは薄着だった訳だ。
しかもこの分だと無味無臭のお香が焚かれていったっポイ。しかもそれの効果が。
(興奮作用?媚薬効果?どっちにしろロクでも無い事考えてたんかよ・・・)
ガネトは自身の身体を餌にして俺を取り込むつもりだったと。そう言う訳である様だ。
しかし俺には全然通じ無かった事でその失敗の結果をぼやいている、と。
(いや、美人だとは思ったけどなぁ。俺の好みに合って無かっただけって言うか、今俺は別段性欲も情欲もそこまである訳じゃ無いって言うか)
自分でそう思ってしまうのは何だが「枯れてんなぁ」とか感想が。
「うーん?嫁探しの旅にでも出てみるか今度は?なーんてな。」
自分で言っておいて何だか直ぐに無性に虚しくなった。
ここで俺は盛大に一つ溜息を吐いてからその場を去るのだった。
散歩の続きをしようと思って適当にふらふらと歩き続けて適当な建物の陰に入る。
魔法で姿を消していたのをそこで解除してから再び大きな通りへと戻った。
「明日は現金が手に入るし、色んな屋台を回って目ぼしいモノでも無いか先行偵察しておきますかね。」
ここで俺は積極的に屋台へと近づいてその商品を見て回る。
そしてどうやら今居る通りはB級グルメ?的な屋台通りだったらしく、串肉、スープ、野菜炒め?的な物が色々と集中的に出店されていた。
それらを今気の向くままに食べれないのが何だか妙に悲しい。
「明日だな。思う存分食べ歩こう。あの豆は随分と美味かったし、気に入ったからなぁ。アレの料理とか無いもんかな?」
そんな事を思いながら俺は屋台から香って来る匂いで腹を鳴らしながら歩いた。
で、そんな風にしてもうそろそろテンソウの店に戻って飯でも食わせて貰おうかと思っていれば細い路地にふと視線が向く。
そして見えた光景に俺は眉根を顰めるしかなかった。
「見ちゃったモノはしょうがないけどさー?俺はB級映画の主人公か?」
追いかけられている女性。その後を追うニヤけ顔した男三人。
本当に何でこんな場面ばかりが俺の前に現れるのか?運命を司る神様に問い詰めたい、説教をしてやりたい。
「俺たちがこんなに優しくしてやってるって言うのによぉ?ミーマ、早いトコ観念しちまったらドウなんだよ?なあ?へへへへ、気持ち良くしてやっからよ?な?」
「あの店はお前一人じゃどうしようも無いと解っていても、それでも意地を張ったんだろ?だけどよぉ、無駄なんだよ、無駄。俺らの雇い主が高く買ってやるって言ってくれていたウチが華だったんだぜ?ソレをいつまでもグズグズと頭の悪い女だ。俺たちの手を煩わせてきやがって。まあ今日は楽しませて貰うけどよ、その分な。」
「こんな嫌がらせをするのはよぉ?俺たち本当は心苦しいんだぜ?だけどコレはお前がいけないんだぞ?さっさと手放しちまえば良かったんだ。そうじゃ無いから俺らがこうしてお前を追っかけまわさなきゃならなくなったんだぜ?せいぜい楽しませてくれよなぁ?」
(下らない話聞いちゃった。万が一にも追いかけられてる女性の方が犯罪者で、男たちがソレを捕まえようとしてる可能性を考えたけど)
どう考えても、どう解釈して呑み込もうとしても、男たちのセリフからして展開がB級だ。
安っぽい海外ドラマでもこんな話の筋はもう使っていないのでは無いだろうか?
使い古されているなぁ、と妙な感想が湧いた俺はここで女性に声を掛けた。
「お嬢さん、助けて欲しいですか?」
「え?」
俺はここで見過ごすという選択肢を採れない。だってこのまま放っておけば女性が三人の男たちに乱暴されて無残な姿にされてしまう。
その程度の事は想像できるし、俺は女性を助けられる力を持っている。
なるべくこんな茶番には関わりたくは無いのだが、しかして無視する事の出来る胆力も持ち合わせていなかった。
だからしょうがなく助ける。助けねばならない。後で俺がモヤモヤとした気分にならない為にも。
「おいおい?なんだテメエは?」
「お?何だ何だ?女の前だからってカッコつけて助けに入りに来たのか?腕っぷしに自信があるってか?」
「邪魔だなてめえは。まあ良い余興にはなりそうか?おいミーマ、良く見とけよ?抵抗すればするほど痛い目を見るってのを今から見せてやるからよ。顔がはれ上がって見れたもんじゃ無いくらいになっちまうとな?こっちも萎えるんだわ。犯ってる最中にぶん殴られたくはないだろ?逃げずにそこで大人しくしてろ。次はお前だからな?」
悪人ってのが口にする言葉は何処のどんな場所でも同じなんだな、そんな感想が俺の頭の中には浮かんで来る。
「流石にフィクションの中だけだと思っていた事も、こうして実際にこの耳で何度も聞く機会があると「現実は小説よりも奇なり」とか、どう何だろうなって思っちゃうよな。」
ここで男の方の一人が俺に向けて脅す様にして低い声でツッコミを入れて来る。
「何を意味の分からねー事をほざいてやがる。何処のドイツか知らねーが、自分から痛い目に遭いに来る馬鹿ってのは初めてだぜ。お前の頭の中は物語の中の登場人物だと思ってんのか自分が?女助けて惚れられて巨悪を倒すってか?・・・ぎゃははははは!」
男は俺の事など何も知ら無い癖に勝手な事を言って、勝手にそれに笑っている。
これに他の男二人も時間差でつられて大笑いをしていた。