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そろそろ落ち着いてきたかな?

 パパッと配達、ササッと退散。俺たちはそうして手早く仕事を熟していく。

 この際に客先には俺のインベントリの事は見られているけれど、別に気にしないでおく。


 使うのは一度であり、しかも瞬間的だ。コレを見ても何をどうしたらそんな事が出来るのかと言った事は分からないだろうから。


「まあ噂話くらいは広まるかもしれないけど。ソレも七十五日って感じかね?」


 都市伝説、そんな事を思っていればお昼になった。これから俺は引き渡しをせねばならないので一旦案内人と別れる事に。


「それじゃあ行ってくる。もしかすると遅くなるかもしれないから、その時にはお店の方に戻っておいてくれるか?」


 案内人は食事処で昼を摂って休憩を取るとの事だった。なので一言俺はここで断ってから砂漠へ移動する。

 移動方法はもちろんワープゲートで一瞬である。一応は建物の陰に入って人に見られ無い様にして。


「・・・こ、こんな事をしてた、只で済むとお、思うなよ・・・」


「お?元気が戻って来てる?でも、ダメだな。引き渡す前にもう一度折っておくか。」


 魔力固めで動けなくさせて放置していたボロンドはどうやら体力も精神も多少は回復していた様だ。

 しかしカンカンと照りつける太陽の光で熱射病になりかけている。


 なのでここでサービスとして冷水を魔法で生み出してそれに浸からせてやった。

 もちろん全身を。そりゃもう足のつま先から頭頂部まで、どっぷりと。


「ごぼがべぎゃばべろぼぼぼごぶぼぼぼ・・・」


 もちろん溺れる。しかし息を止めて我慢すればいいのに何かしらの文句を口にしているのか、口からボコボコと空気を吐き出していて余計に自らで苦しみを上げているのは阿呆なのだろうか?


「それだけ元気ならもっともっとイケるよな?もうちょっと限界超えてみようか?」


 その水の中でまるで洗濯機にでもかけた洗い物の如くに捻り、回転させ、上下逆さまにしたりと錐揉みさせてやる。


「さて、まだ元気かな?・・・うん、黙ったな。意識はちゃんとあるみたいだけど、喋る気力は無いね。それじゃあ行こうか。」


 水の中から引き上げてみればぐったりとしていて項垂れるボロンド。この分であればたっぷりと水も飲みこんでお腹タプタプである事だろう。


 この後の引き渡しの時に余計な体力などが残っていると喚き散らして煩そうだし、勝手な事を言ってぎゃあぎゃあと暴れられても面倒だ。

 なのでこの程度にしておくのが良いだろう。余り精神を削り過ぎると喋る事すらできなくなるだろうから。


「この後は尋問タイムだからなぁ。喋れなくなるのも問題だしな。」


 俺はワープゲートを出してそこにポイッとボロンドを放り込んだ。手っ取り早く。俺もその後を追って移動する。

 ワープゲートが繋がっているのは王宮前の広場だ。そこで約束していた引き渡しに立ち会わないとならない。

 ボロンドがこんなにもボロボロになっている事を聞かれたら説明しないとダメだろうから。


 すると移動先には既に兵士が居た。どうにもワープゲートを見られていた模様。

 だけども相手の兵士に別段動揺と言ったモノは起きていない。


「えーっと?こいつを引き渡すのはあんた等にで良いのか?」


「はっ!エンドウ様ですね?こちらをご確認して頂いても宜しいでしょうか?」


 そこで俺が確認の為に声を掛けたらどうにも一枚の書類を渡される。羊皮紙である。

 そこには兵士が十五人が居た。どうにも厳戒態勢での移送をするっぽい。ボロンド、特別待遇である。


 俺はソレを受け取ってざっと書かれている文字を目に入れる。しかしこの国の文字をまだしっかりと勉強してない俺はコレが読めない。


 なので渡されたソレをポイッと兵士に返却する。


「俺この国の人間じゃ無いから文字分からんわ。何て書かれてるか教えて貰って良い?」


 多分長時間ずっとこの書かれている文字を見ていれば勝手に俺の魔力で強化されている脳味噌様が解読してくれてサラサラと読める様にはなると思うのだが。

 そんな事をする気にならなかったし、その時間の確保も今この空気の中でする事じゃ無い。


「・・・は?いえ、そうでしたか。ならば要点だけ。」


 どうやらこの兵士は良く教育されているらしい。俺のこんな返しに直ぐに気を取り直して対応してくれる。


 そうしてその兵士は幾つかのざっくりとした説明をしてくれた。


 俺が被害者である事を国が認める事。

 脅迫して来たボロンドを捕縛し、引き渡すのが俺である事を認める事。

 犯罪者の取り締まりの協力に対して褒賞を与える事。

 俺の身分と安全を国が保証する事。


 と言った具合だ。もうちょっと細かい事も書かれているそうだが、大体はそんな感じなのだそうだ。


 そしてその書類の下端に俺の名前を書いてくれと言う事だった。兵士に墨と筆を渡される。ソレで書けと言う事である。

 そこで「遠藤」と漢字で自らの名前を書いてみた。


(暫く書か無いと自分の名前の漢字も忘れそうになるなぁ)


 そんな事を思いながら俺はサインをして書類を返す。コレを受け取った兵士は「お疲れ様でございました」と言ってボロンドを厳重に縄で縛って連行していった。


「うーん?これで終わりかぁ。呆気無いもんだな。別にド派手でドラマティックを求めてる訳じゃ無いから良いか。」


 この後にボロンドは尋問を受けるのだろう。屋敷の方には強制捜査が入るのでは無いだろうか?

 しかしそこら辺の事にまで俺は首を突っ込む気にならなかったのでここでボロンドとはお別れである。


 こうして俺は配達の続きの為に案内人が昼食を摂る為に入った食堂にさっさと移動した。


 引き渡しでの時間はそこまで長く無かったのでまだ案内人は食事の途中だった。


「あー、別に食べててくれて良いよ。急かしたりしないから。あ、俺も同じ物食べて良いか?・・・うん、そう言えば俺はまだこの国のお金持って無いんだった。」


 笑い話である。俺は今、無一文である。新しい場所、国に入ると何時もコレだ。

 競売品での売り上げが合計でどれ位になったのかすら俺は把握していない。

 俺の取り分がどの程度になっているのかテンソウに聞くのがちょっとコワい。


 案内人は皿一杯の煮豆?と大き目のお肉が入ったスープを食べていた。何肉なのかは分からないが、ワーム肉では無い事だけは確かだ。


 俺の知識はこちらの世界では大抵は非常識とかになるから余り役に立たないが、豆も肉もどちらもタンパク質で炭水化物はどうするんだ?と考えてしまった。


 この考えが下らないというのは理解している。しかしやはり時々「栄養バランス」がふとした拍子に頭によぎる事もある。


「コレは野菜と米も欲しい所だね。いや、インベントリの中にまだ残ってる分が有ったか?自分で飯つくるかなぁ。」


 ドウでも良い事であるが、この時の俺の脳内は回鍋肉が思い浮かんでいた。


 この考えを俺は頭を振って消し飛ばす。郷に入っては郷に従えだ。俺はこの国に観光に来たのだからこの国の食事を堪能しなければ勿体無いのである。


 なので俺は案内人に金を借りる形で同じ食事を食べさせて貰う事にした。

 金は後々で返すとしっかりと俺は伝えたのだが、これに案内人の方が「要らない」と言う。


 何故と聞いてみれば俺に関して使われる金額は経費で落ちるそうで。


「そうなのか。なら遠慮無く頂きます。」


 目の前には丁度食事が運ばれて来たのでコレを素直に俺は食べ始めた。で、驚く。


「うおッ?このマメ、ピリ辛じゃん。ビールが欲しくなる味だなぁ。味付けは只の塩味だけど。噛めば噛む程に素朴だけどしっかりとした強いマメ本来の味が口内に広がって来るなぁ。美味い美味い。」


 ちょっと大きめの木で出来たスプーンで多めに煮豆を口に入れた俺はソレをずっと噛み締め続ける。

 コレをビールで無くても良いから炭酸系のスッキリとした飲み物で一気に流し込みたい。


 そんな欲望の代わりにスープを口内に入れればソレはハーブ系。

 お肉の出汁が良く出ているのだが、その臭い消しなのか香草の匂いが強い。

 でも不味く無い。スープはちょっと不思議な味がするモノの、煮豆との相性が何故か悪く無い。


 こうして俺はこの国の独特な料理を堪能させて貰った。

 この店が一般的なのか、はたまた中級か、高級かは知らないが。


「そうだよ、こういうので良いんだよ、観光ってのはさ。」


 その土地での「当たり前」を経験するのが醍醐味だ。

 そうした刺激が楽しいのであり、感動するのである。

 知らない事を知る、経験を積む、貴重で得難い体験、それが旅の本質だ。


(まあそんな偉そうな事を言える程に旅行なんてしたこなかったけどなぁ、社員時代は)


 会社勤めの頃の事を思い出してちょっとテンションが下がる。

 でもその程度で丁度良かった。まだまだ仕事が残っている。


 こうして昼を摂り終えた俺たちは配達を再開した。


 こうして色々な場所を回る。市場を通った際にはこの国の独特の雰囲気や出店で売られている物を見て楽しみながら歩く。


 落札者の所に到着したらもう慣れたモノだ。書類の確認と受け渡しの処理手続きが終われば俺がインベントリから品をポンと出してさっさと退散。

 パターン化してきているので楽なモノだ。ここまで一度も引き止められたり質問されたりと言った事も無い。

 いや、そう言った事をさせる間を取らせずに店を後にしているのもあるだろうが。


 そうして今日の分の配達が終了だ。まだもう一回分くらいが残っている。

 恐らくは明日で配り終える事になるだろう。そうしたら俺はテンソウから売り上げを受け取る事になる。


「うーん?ドロエアーズの分は俺がこのまま預かってるけど、何時引き渡せば良いかなぁ。」


 あの鎧と剣を作った残りは俺のインベントリに入ったまま。

 今はドロエアーズも忙しい状況であろうから、このまま暫くは俺が持っていても良いのだが。


 ソレが何時落ち着くかの目途は俺には分からない。なのでまた今度にドロエアーズにはそこら辺の事を聞いておかねばならないだろう。


 とは言え、今直ぐにと言った事でも無いので俺はその間にこの国を堪能しようと考える。


 だがそういう時に限って上手くは行かないのだ。これまでの俺の経験がソレを証明している。


 ====  ====  ====


 そうして翌日、空は灰色、曇り空。その雲も非常に分厚そうだ。


 昨日まではあんなにカンカン照りな太陽が今日は朝から見え無いのである。

 何処までも果ての無い薄暗い空は今日の一日中この様な天気のままであるらしい。


「この様な日は気を付けねばならんのです。言ってしまえば嵐、ですな。余り高い率ではありませんが、非常に大きな砂嵐が発生する事がありまして。ソレが国に接近する恐れが。まあそんな事は非常に低い確率ではあるのですが、それでも以前に何度かはソレが襲来してかなりの被害が出まして。本日の配達はお休みとしましょう。万が一がありますからな。」


 テンソウはそう説明をして仕事は今日一日臨時休業すると言った。

 聞けばこんな日は何処も店を閉めている所が多く、人も外に出歩かないとの事。


「・・・コレは来るね。うん、何となく分かるよ。何だろうな?このタイミングの悪さ。自然現象だろうからしょうがないのかもしれんけども。」


 低い確率、などと言われても俺はソレを受け入れられない。その砂嵐とやらはきっとここにやって来るんじゃ無いかと思えた。

 この世界であっちに行ったり、こっちに行ったりと、色んな場所を見て回ったが、経験上こういったタイミングで起きた事は大抵現実になっている。


「そう言えばアラビアーヌに会った時ってその砂嵐に追われてたんだよなぁ。ついこの間の事なのに何故か懐かしく思うのは何だろうな?」


 あの時は曇り空では無く晴れていた覚えがある。今の状況とは全く違うのだが。


(取り合えずは警戒だな。上空で待機かな?魔力ソナーと目視でダブルチェックで監視をしておくか)


 この国に被害が出るのは勘弁だ。今アラビアーヌとドロエアーズが国を安定させる為に頑張っている最中なのだ。

 災害など不要である。余計な仕事が増える一方になってしまうから。

 この件に関しては俺が対応しても良いだろう。この国を俺はまだまだ観光するつもりであるのに、砂嵐の被害で周囲はそれ所の空気じゃ無いとか堪ったモノでは無い。


 こうしてテンソウの所で出された朝食を頂いて俺はこの国の上空へ。かなり高い位置で俺はぐるっと周囲を見渡す。

 同時に魔力ソナーを一気に広げて砂漠の動向を探った。


「で、見つけたな。しかも、二つ。おいおい、一つじゃ無いのかよ。」


 見つけたソレは国を挟む様な位置に存在した。けれどもまだその距離はかなり遠い。

 このまま近づいて来なければソレで良い。そんな風に思っていたのに何だかちょっと動きが変だと感じた。


「ハッキリ分かるぞ。何だ?この不自然な蛇行の仕方は?」


 真っすぐにこの国に近づいて来ている訳じゃ無い。しかしどうにも油断できない。

 こっちに近づいて来る様子は見えないのに、何だかその二つは動きが妙におかしく感じるのだ。

 しかし俺はここで観察を続けるだけに留めた。余計な手を出してまたおかしな事になっても嫌だったので。


 こうして俺は暫くの時間その二つの「砂嵐」の動向を見守った。

 まだまだこの国から相当に遠い位置にあるので安心して観察を続けられている。


 アラビアーヌと会った時の砂嵐とは明らかに違うと分るソレ。

 どうなっているのかと思ってずっと見ていたのだが、ソナーでもっとしっかりと詳細を捉え様としたら、どうにもその砂嵐の中心に何かが居たのだ。


「・・・何だ?こりゃ?」


 その姿はしっかりと意識していないと嵐の中の砂に紛れ込んでしまって頭の中にその姿がはっきりと浮かんでこない。

 万能でご都合主義の塊であるはずの魔力が、魔法が抵抗を受けている。


 この砂漠では魔力ソナーが通じない、或いは通じにくい魔物が居る様である。

 あの巨大ワームがそうであったが、この嵐の中に潜む魔物もまたそう言った類である様子。


「・・・むむむ?虫系?蜂、かな?いや、ちょっと違うか?いや、ハチだよな?どっちも似た様な、形?」


 俺は魔力ソナーに込める魔力を少し増やしてみた。すると今度はうっすらと脳内に魔力ソナーで捉えた映像が流れ込んでくる。


 翅は六枚、体色は緑と黒の斑模様、体の構造的な物は蜂と変わらないが、その大きさが。


「うーん?6mは超えるか?こんなデカいの何処に居たんだ?」


 こうしてはっきりと判ってくれば一体こいつは何処から現れた?と言いたくなる。

 今日と言う日に二体同時に現れて、しかも双方の距離はこの国を真ん中に挟んでの両側である。


 この砂漠の全容を俺はまだまだ把握しきれていないのだと、これに改めて再認識させられる。


「こっちに来るなよ?・・・でも、来ちゃうんだろうなぁ。」


 ここで俺が考えなければならない事は何か?ソレはこの国にその砂嵐での被害が出ない様にする事である。


 じゃあその方法はと言えば。


「あの気持ちの悪いデカ蜂を倒しちまうのが一番手っ取り早いんだろうけど。あの砂嵐、俺の魔力ソナーの浸透が散らされるんだよなぁ。」


 ここに来て俺の魔法が通じにくい魔物である。やってやれない事も無いが、そんなやり辛い事をせずとも、もう一つの単純な方法を取った方が俺にとっては楽だったりする。


 ソレはこの国を俺の魔力で覆ってしまう事だ。そうすればその砂嵐とデカ蜂がやって来ても被害はゼロに抑えられるだろう。


 ここで俺は結論を出す。この国を俺の魔力で覆ってバリアを張る。

 俺にとってしてみればそんな事は簡単で、労力も少なく、朝飯前であるから。


 このデカ蜂がこの砂漠にて、何かの大きな役割を担っていたりとかしていたら、ソレを駆除してしまうとその後にどんな問題が起きるかもわからない。


「この国の研究者とかは調べていたりしないのかね?ワークマンなら喜んで調査しようとするんじゃないかなぁ。」


 そもそもがこの国の研究者があの砂嵐の中にデカい蜂が居ると分かっていないのかもしれない、と言った点もあるが。


 何にせよそのデカ蜂の情報は俺の中には皆無だ。どんな生態で、何を好み、どういった行動原理をしているのか。

 それらが分からないと手出しを余りする気にならない。


 この国でこの蜂の情報は一切聞いた事が無い。ならばここは守り一択。


「あ、蜂って感じだし?何処かに巣が?ハチ蜜?あるかね?そんなの?・・・あの緑と黒の斑で?蜂の蜜?余り食欲が湧かないかな。」


 そんな下らない事を考えていたら変化が現れた。

 蛇行していたその砂嵐が真っすぐな動きを見せ始めたのだ。しかも同時に、二つがシンクロした様に。

 どちらもかなり離れた位置であったのにもかかわらず。


 俺には分から無い何かが二つのデカ蜂の間に起きたのだろう。こういう不思議があるからこの世界はコワい。


「その丁度、合流地点が完全にこの国ですね、アリガトウゴザイマス。はぁ~、やっぱり何てこったいになったじゃねーか。」


 この砂嵐はデカ蜂が発生させている事がこれで確定だろう。

 そしてもう一つ確定なのがこの国にその二つの砂嵐が向かって来ていると言う事。

 完全に直撃コースで、しかもその二つがその速度的に見てそのまま接近すればこの国のど真ん中で合体する感じである。


「うん、バリア張っておいて正解だな。この国には入らせねーからよ。」


 凄まじいと言える速度を出して接近する砂嵐。そしてソレは俺の目視でも確認できる様になる。それが地平線に見えて来たのだ。


「おい、待てよ?あの砂嵐に魔力ソナーが散らされてたんだったら。そもそもがあの嵐は魔力を散らす効果があるって事じゃ無いのか?・・・もしかして、結構気張ってバリア張っておかないとマズイ?」


 俺はちょっとヤバめである可能性に思い至って国を覆うバリアにかなり真剣に魔力を送り込み続けた。


 そうこうしている内に砂嵐は接近を大分している。

 多分高い建物、物御台などからはその砂嵐が僅かに見えて来ている事だろう。


「・・・うん、騒ぎになっている所があるな。王宮ではちょっとドタ付いてる感じあるね。」


 俺は魔力ソナーを広げているのでこの広い国の隅々まで感知している。

 なので砂嵐の接近の報告で慌ただしく動いている部署やら人々が居るのが分かった。


 避難が出来そうなスピードでは無い。砂嵐の近づいて来る速度が尋常では無いくらいに速まった。

 下手に家から外に出てこの国から避難しようと動いてもこのタイミングではもう砂嵐に巻き込まれるだろうこの分では。


 多分国民にこの砂嵐の接近の事が広まるのは無理そうだ。その時間も無いだろう。


「よし来い!」


 俺は気合を入れた。この砂嵐は普通の自然現象のモノでは無く、魔物の蜂が発生させている。

 その威力は魔力、魔法を弾く様なので、もしかしたらこれまで無敵だと思っていた俺の魔力バリアが破壊される可能性もある。

 万が一を考えて緊張と共にバリアへと注ぎ込む魔力の量を上げた。


 そしてソレはぶつかった。


「うむん?むむむむ~?耐えられない事も無いな?と言うか、力技みたいなモノだけど。」


 物凄い勢いでバリバリと砂嵐が俺の張ったバリアを削る。

 しかしその消し飛ばされている部分へ常時魔力を流し込んで破壊され無い様にしたので結構耐えられている。

 と言うか、最悪のパターンなどを思い描いていたのでこの結果に俺は「うん、ビビり過ぎた」と言った感想だ。


 別にこのまま一時間以上砂嵐にぶつかられ続けても耐えられる。と言うか、俺の魔力は尽きそうも無い。


「とは言っても二つ分がぶつかって来てるからなぁ。神経は使うな。後でぐったりしそうだ。」


 そう、一つだけでは無いのだ。二つの砂嵐が同時にこの国を襲ってきているのである。

 だけどもこれに俺は別に影響をそこまで感じなかった。しかしこの後にどうなるのか全く先が読めないのでその点に精神的に疲れを感じる。


 俺が居なければ未曽有の危機と言える程の事であっただろう二つの巨大砂嵐の直撃。ソレがこうして防げているのは国民にとって信じられ無い幸運とか、奇跡と言った事になるのだろう。


 そんなバリアの中は無風であるが、その一歩外へと出れば踏ん張っていても尻もちをしてしまう程に強力な風が渦巻いている。しかも砂混じりで。


 と言うか、普通にその砂嵐の中へと身を投入したらきっと体中を切り刻まれるのでは無いだろうか?

 それだけの鋭さを持つ程の風が発生しているのだ。小さな粒の砂が凶器になるレベルとか恐ろし過ぎる。


 そんな二つが合体したら?その威力は上がるのでは無いだろうか?


 その懸念は直ぐに現実になった。引き合う様に砂嵐が一気に接近していく。


「ちょっとキツくなったな。あー、でも、少しづつここから離れてる?」


 どうやら砂嵐は融合した後に少しづつ方向転換し始めた。


「あの蜂はここが目的地とかでは無かった?合流する事自体が目的?今回の事は、たまたま?」


 接近して来た時とは逆に物凄いゆっくりな速度で離れて行く砂嵐。

 今回の件はどうにもこの砂嵐を発生させている蜂の魔物の生態的行動である模様。


「滅茶苦茶迷惑だな・・・あれ?でもこういった場合、大抵はそう言った自然を全く考慮しないで勝手にここに国を築いた昔の人たちが悪いとか言ったパターンじゃ無いか?」


 人は人の都合でモノを見るし、好き放題する。自らの見えている範囲だけで物事を判断しがちであり、それ以外を認めたりする事をしなかったりもする。


「人の視点で見た都合の悪い事を「迷惑」って言ってるんだよなぁ。向こうの蜂にしてみれば別にこの国の事情も住む人たちの事も、気に留める事も無い存在だろうしなぁ。」


 自然は人に厳しい。そして退かない、媚びない、顧みない。忖度しない絶対に。

 そしてこの砂嵐を発生させている魔物の蜂もまたそうなのだ。


「まあ今回は俺が居たから良かったモノの、もし、もう一度同じ様な事あったらこの国って壊滅的打撃を受けるんじゃないのか?・・・そこまで俺が考えるこっちゃ無い事か。こんな事って毎度の事ある訳じゃ無いって事らしいし?」


 過去にあった砂嵐被害がどの程度のものであるのかを俺は知らない。

 ソレと今回を比べて見る事にも意味は無いだろう。もう過ぎた事だ。


 そうして暫く待っていれば砂嵐はこの国を去っていく。戻ってくると言った気配は無い。


「ふぅ~。一時はどうなるかとか思ったけど。何とか無事だな。最悪は俺の魔力バリアが一息で壊されて嵐がこの国を蹂躙するって事だったけど。そこまでの心配は要らなかったなぁ。」


 安心して見送っていればその砂嵐、突然に忽然と消えた。


「は?」


 これには俺も驚きだ。そしてその中に居たはずの魔物の蜂が何処にも見えない。


「え?居ないとかマジか?最初からいなかった、なんて事は絶対に無いぞ?俺はしっかり確認してるぞ?」


 驚きで少しだけ動揺したが、ここで俺は魔力ソナーを広げた。形はドーム状。

 すると上空で引っ掛かった。遥か彼方に問題の蜂が二匹、まるで螺旋を描く様にして絡み合う様にして舞い上がって行っていた。


「・・・縄張り争いなのか、はたまた、求愛ダンスなのか分からんなぁ。うん?もしかして、分蜂とか言った事もアリなのか?」


 国の危機は去った。しかし残るのは魔物の蜂のこの行動の謎である。


 そして俺はその事を考えるのを止めた。知ろうとは思えなかったし、知った所でどうしようも無いと気付いたから。


「今日の残りは配達の続きだな。もうちょっとで終わりだし。今日中にやっちまった方が良いだろ。」


 既に今はもうこの国の周辺に先程の様な砂嵐は存在していない。

 そればかりか朝からどんよりとしていた空が今ではカンカンの日照り具合である。


 こうなったらもう嵐を怖がって引き籠っている必要など無いだろう。

 時間がある程度経てば通りに人があふれ始めるに違いない。


「さて、テンソウの所に戻るか。うーん?何か聞かれるかな?それとも疑問を呑み込んで質問をして来たりはしないか?」


 明らかに今の砂嵐から被害を防いだ光景はおかしい。

 家の中に籠っていた国民たちの中には窓から外を見て周囲の様子を覗いていた者も居ただろう。


 そうすると空を見上げた際にそれがどの様な光景としてその目に映っていただろうか?

 とある境から外は大荒れの砂嵐、しかしその中は無風の静けさ広がる状態なのだ。


「コレも噂が広がったりするかなぁ。ドロエアーズも多分物見兵からの報告でソレを知るだろうし。・・・また会った時には「英雄殿」とか言われるのか?勘弁してくれよ。」


 俺はそんな器では無い。少しウンザリしながら俺はテンソウの店に戻った。

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