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全て毟り取る

 色々とやった。窒息、激痛、落下の恐怖、三半規管をぐちゃぐちゃ、上下左右にシェイク。

 その途中途中に熱湯、冷水も挟んで熱したり冷やしたりも忘れずに。


「こ、殺してくれ・・・いっその事殺してくれぇぇ・・・」


「うん?うるさいな?黙らせておこう。ほらほら、まだまだ拷問を受けた者たちの気持ちはこの程度じゃ無いぞー?だって、十何人?やって来たんだろ?まだまだ足りないって。」


 成金が何やら戯言を抜かしている様だったがソレを黙らせる。

 これまで自身が行ってきた報いをその身に刻み付ける良い機会だろう。

 コイツが直接に拷問に関わっていようが、いまいが、命令を出す立場であったのならば責任はあるだろう。

 実際に拷問を実行していた者たちにも本来なら同じ苦痛を味合わせてやっても良いのだろうが。

 そいつら全員を探して、捕まえて、などと言った事は面倒なので今はこの成金だけで終わらせておく。


 関わった、或いはこの成金の部下などの細々とした奴らを捌くのは公権に任せれば良い。


 さて、俺以外に誰がこの様な事を出来ると言うのか?俺を殺そうとしたんだからこれ位の事で音を上げないで欲しい。

 この成金に因果応報を与えるのは俺くらいしかできない事だろう。

 司法に委ねた所で報復とはならない。裁判などではこいつは反省もしないだろうこの分では。


 この成金に分からせるには、純粋な力で暴力を徹底的に振るってトラウマを刻んだ上で全てを、それこそケツの毛一本も無くなるまで毟り取るくらいじゃ無いとダメだろう。

 そう、俺はこいつを殺す気は無いのだ。


「・・・まぁ、その、何だ。飽きてきたな。まだ夜明けまで相当時間あるけど、正直楽しく無いんだよなぁ。人を弄って愉悦に浸る趣味は無いんだよね。」


 問題は俺の方に有った。もう今は俺が思いつく限りの拷問を与えているが、そのネタも無くなってきたのだ。新たなアイデアは浮かんでこない。

 なのでここまでやってきた拷問を既にもう三周はやっているのだが、まだまだ朝は来ない。


「もっと本来ならじっくりと時間を掛けてやるのも何だろうなこう言うのは。けどさー?俺ってそんな事に時間を使う暇なんて無いのよ?あ、違うな、使う気は無いってだけか。拷問が趣味って訳でも無いんでね。」


 人と言うのは自らの楽しいと思った事になら幾らでも時間を費やす事の出来る存在である。

 逆に興味の惹かれ無い対象には心底関わろうとしないものだ。


「ホント、どうすっかな?俺がやり始めた事だし、最後までしっかりと我慢して面倒見るかぁ。しゃーないな。」


 とは言えこのままずっと拷問している光景を眺めているのも気分が悪いし、精神的にも疲労が。


「・・・よし、全自動に出来ないかな・・・お?イケる?じゃあ俺はちょっとだけ寝ようかな。」


 こんな砂漠のど真ん中で俺は空に浮かんでそのまま仮眠を取る事にした。

 蒼く暗い空と、その中で輝く月を眺めてそのまま眠るなど、何とロマンチックな事か。


「まあだけど、その横ではもうぐったりして反応が薄い成金が忙しなく拷問を受け続けているけど・・・」


 風情も何も無い。これだけで何もかもが台無し。ローテーションで様々な拷問を受け続ける成金は既に瀕死状態。

 時折神経に直接激痛を与える拷問に入ると成金から「おぎゃ!?」と悲鳴が上がるのだが、ソレを無視して俺は目を瞑って眠る。


 そうして気づけば朝日が出始めてその光が俺の瞼に突き刺さる。それが刺激になって目が覚める。


「・・・あう?朝か?あー、そっかー。かなりキッチリと寝ちゃったな。うーん!ちゃんとベッドで寝るのが良いね、うん。何か寝た気がしない。」


 魔法で何でも出来てしまう俺が今回やった寝方はどうにもスッキリとした目覚めにはならなかった。

 まあコレはもしかすると今も側で拷問されてぐちゃぐちゃになっている成金が居るからかもしれないが。


「意識は・・・あるみたいだな。うんうん、時折入る激痛がしっかりと効果を発揮していたんだな。よしよし。」


 眠りを妨げる事も一種の拷問である。眠りたいのに眠れ無い、などと言うのはかなり辛い事であるからして。


「おーい、返事は出来るか?」


「・・・し、死なせてくれ・・・もう、嫌だ・・・嫌だぁぁぁぁぁ・・・」


「壊れちゃったかな?でも、知らん。俺の事を殺そうとしてきたんだからこれ位の事はされて当然だろ?反撃されないとでも思っていたのか?やられたらやり返す、やられそうだったらその前にぶっ潰す。俺の方がより上の理不尽、不条理だっただけの事だろ?力を持っている奴は、力持たない者たちに何しても良いと思っていたのか?やり返されないと、本気でそう思っていた?やり返されても返り討ちに簡単にできると?」


 俺のこのセリフに何処かしら図星な部分でもあったのか、成金は黙ってしまった。


「世の中を舐めていたのはどっちだろうな?いや、これまでずっとアンタに逆らう奴らは殆どいなかったんだろうし、そう言った反抗してくる奴らは力で排除して来たんだろうさ。だから自分以上の力を持つ存在なんて片手指折り数える程度、そんな風に考えていたんだろうな。実際にもそうだったんだろう。けど、世界の残酷さってのは突然何処からともなく目の前に現れて、絶望を押し付けて来るんだよ。しかも抗う事も出来ないんだ、そう言った場合はな。事前準備なんて出来ている状態で万全体勢で受け止めるなんてできやしないから「絶望」なんだから。」


 俺のこの言葉を呆然と聞く成金の顔は自身の色んな体液でぐちゃぐちゃである。


「さて、帰ろうか。でも、まだ俺はお前を許したりはしない。」


 許さない、その一言で成金の顔が再び絶望に歪んだ。


「まだ暫くここに置いておく。逃がしはしない。ん?何をする気かって?お前を付き出すんだよ。犯罪者としてな。そのお話を偉い人にして来るって事。待っている間にどんな末路を自分が辿る事になるか、想像しておくと良い。より絶望に染まれるよ?じゃ。」


 俺はワープゲートで王宮に向かう。ドロエアーズに今回のコレを説明しに行く為に。


 そうして移動してみれば王宮内は忙しない。


(まあアラビアーヌが王様になったし、そこら辺の編成やら人事の関係やらでやる事多いだろうからなぁ)


 もしかすると成金の処分を頼んでみても後回しにされるかもしれないこの分だと。

 もしくは忙し過ぎて話すら聞く時間が確保でき無いとかもありそうである。


 姿を魔法で消したままで王宮内を歩く俺。向かう先は執務室と思われるドロエアーズとアラビアーヌの二人が居る部屋だ。

 魔力ソナーで調べた結果、その部屋には人が引っ切り無しに入ったり出たりが繰り返されている。


「この書類は経済省と財務省に。こっちは軍部に回して欲しい。税務関連は全てに最優先で。水税は直ぐに対応したはずだな?混乱を招かぬ様に対応する者を増員せよ。」


 アラビアーヌが机の上の書類を一枚一枚確認しながらハンコを押している。

 そしてソレを次々にやって来る文官たちだろう者へと渡していく。


 焦ってもいない、急いでもいない。確実に一つ一つ処理をしている。


(まだ朝っぱらなのにこんな時間から仕事?いや、しょうがない事か)


 昨日に王位を継いだアラビアーヌであるが、しかし継いだばかりだからと言って王様のやらねばならぬ仕事は待ってはくれないのだ。

 着実に、そして少しづつ、仕事を片づけていれば落ち着く時がいつかやって来るはずで。


(ソレが何時になるやらは分からんのだろうが。うーん?休憩してるのかちゃんと?アラビアーヌ、顔が疲れてるぞ?)


 疲労が溜まっている状態での仕事の能率は著しく下がる。

 もしこれが昨日からずっとなのであればアラビアーヌを一旦休ませるべきだ。働かせ過ぎであるこれでは。


「ドロエアーズ、アラビアーヌに休息を取らせてやれ。ついこの間まで砂漠を追われていたんだぞ?しかもこの分だとロクに食事も摂って無いだろ。」


 俺はここで姿を現してそうドロエアーズに言う。

 ドロエアーズも同じく書類と格闘していて、その顔はやはり疲労が溜まっている様に見えた。目の下にクマが出来ている。

 もしかするとドロエアーズは寝ていないかもしれないこの分だと。


「・・・ああ、英雄殿か。そうだな。かなり気張り過ぎた。女王陛下、食事を摂って睡眠を取りましょう。しっかりと体を休めなければ倒れます。」


 ドロエアーズは嫌に素直だ。確かに「救国の英雄」みたいに言われている俺が「休めよ」と言えばしょうがなくでも休憩を入れるだろうと思っていたのは確かだが。


「いや、しかしまだこちらの書類の対応を終わらせて・・・」


「ダメです。その手の物を下ろしてください。どうせ今この仕事の山に「切りの良い」と言うのは有り得ませんからな。幾ら陛下がその一枚を今終わらせても直ぐに何か変わる訳でもありません。陛下のお体の健康の方が余程大事です。意識を切り替えてください。」


 アラビアーヌが「切りの良い所」で終わらせたいと訴えるが、ソレをドロエアーズはバッサリ。

 このお叱りにアラビアーヌは一瞬硬直、その後に言われた通りに手に持っていた書類を机の上に戻した。


「で、ちょっと報告があるんだけど良いかね?食事をしながらの気分転換みたいな軽い気持ちで聞いて貰いたいんだけど。」


 俺がここで聞いて欲しい事があると言っておく。もちろんソレの内容はあの成金の処分に関しての事である。


「あ、そう言えばテンソウに何もまだ連絡の一つも入れて無かった。まあ、良いか。いや、良く無かった。この話が終わったら顔出しに行かないと。」


「・・・一体なんなのですか?エンドウ様、昨日はあの後どちらに行っておられたので?」


「うん、まあその話をこれからするからさ。あ、食事しながらでも良い?俺まだ朝食摂って無かった。あ。食材の提供をしたいんだけど、良いかね?あの食用だって言ってた例のアレ。俺まだ調理されたもの食べた事無いや。あ、余りにも巨大なのは食材に不向きだったりとかする?」


 腹が減っているとしっかりとした答えも捻り出し難くなるものだ。だから食べてから相談するつもりである。


 アラビアーヌは直ぐにソレが何の事か察したみたいだったが。ドロエアーズは何の事だかサッパリ分かっていない。

 説明するよりも出してしまった方が早い。見れば分かる。


 けれどもここでは出さない。調理場にはちゃんとコックが居るだろうし、その者に料理して貰う為に俺たちは執務室を出た。


 向かった先は調理場。そこであの砂漠での巨大ワーム?の一部をインベントリから取り出す。

 何故かアラビアーヌもドロエアーズも一緒である。


 あの姿は余り思い出したくは無いが、コレが食用だと聞いているので一度くらいは食べてみたい怖いもの見たさである。

 王宮での調理担当にならコレを美味しく変えてくれるんじゃ無いかと思ってこうして出した。


 一部分だけにしてみれば別段気持ち悪くは無い。いや、若干キモイか。

 全体像を知ってしまっているせいか、たったこれだけ、ステーキ肉的な大きさであれどもあの気持ち悪い姿を思い出してしまって辛い。


 ソレを調理担当に引き渡せば早速直火焼きし始めたから俺はびっくり。


 ドロエアーズは「うむ、コレが一番良い」とか言い出してうんうんと首を縦に満足そうに振る。


 アラビアーヌは「香ばしさが増します」と説明をしてくれたのだが、それにはイマイチ納得いかない俺。


 で、ソレで出来上がったのはまるでマグロのサク、と言うか、赤身の様な物体。

 最初は真っ白な肉質で「油の塊なのかな?」とか思っちゃいそうな見た目だったのに焼き上がったらこれである。

 何を信じれば良いのか分からない。不思議肉である。


「・・・あ、美味い。」


 だけども勇気をもって一口食べてみれば味は中々だった。

 かつおのたたきの様な感じと言ってしまうと安っぽいか?しかし味の濃さがこちらの方が強いのだ。

 アラビアーヌの言った通りに「香ばしさ」が何故か鼻を抜ける。何処にも焦げ目何て入ってすらいなかったのに。

 直火の方も別に燻製に使う桜チップみたいな物が投入されていた訳でも無い。


「まだかなりの量あるんだけど、おかわりは?」


 直火焼きと言うワイルドな調理法で作られたこのステーキ?カツオのたたき?をペロッと平らげたドロエアーズとアラビアーヌに俺はもう一枚行くか?と聞いた。


 結構な量あったけれども、美味しいモノと言うのはそんなの関係無しに食べれてしまうモノである。

 腹がパンパンになってようやく食い過ぎたと自覚するのが大体の流れと言うモノだ。


 これに二人の反応はと言うと、同時に「水煮で」と言う返答に。

 なので先程と同じ分量をまた出して調理担当に渡したら既に大きな鍋に沸騰したお湯が準備されていた。

 調理担当は既に予想はしていたらしい。二人がリクエストするだろう料理を知り尽くしている様だった。


 そうやって鍋へと大胆にもソレをそのまま投入。他に何も入れないシンプルな調理になった。


 だけどもソレで出されたスープの中には緑色の塊が。

 そう、またしてもこの肉、色が変化してこの様になった。どう言った成分が入っているのか?

 俺にはソレをちょっと食べるのが戸惑われたのだが、ドロエアーズが取り分けられたスープを一気に飲んで「うむ、美味い」と。それから「もう一杯!」でお代わり要求している。


 別段色の変化が見られないスープは透明なまま。俺も勇気を出してそのスープを飲んでみれば。


「物凄く澄んだ、物凄く濃いコンソメスープ?え?マジで?あれがこれに?」


 どうしたらこの様な事になるのか?信じられ無い事ばかりである。

 自分の想像を超えた所に着地したその味に言葉を失う俺。

 横ではニコニコでアラビアーヌがスープを飲んでほっこりしている。


 既に一番の心配事はサッパリと片付いて後は内政に力を入れて国を安定させるだけ、とは言ってもまだまだこれから長くソレも掛かるはず。

 そう言った部分を今は全く以ってして忘れているのか、アラビアーヌの顔はこのスープの味にニッコリである。

 仕事を忘れて飲むこのスープはよっぽどに御馳走なのだろうと俺は納得しておいた。


 俺からしてみればこのワーム肉に関しては不思議な事ばかりであり、スープを飲んだ感想も「何故?」と言った言葉が脳内を埋め尽くす結果である。

 分からない事は知りたいと思うのが人情と言ったモノだろうと思うのだが、俺はこの件に関してはアンタッチャブルにする事にした。


 美味いモノは美味い、ソレで良いのである。余り追及して知りたくも無い事を知ってしまう、そんな大怪我は負いたくは無い。


 さて、スープの中に浮かぶ緑色の物体、煮られたワーム肉の味はと言うと。


「ウインナーっぽいなぁ。見た目はともかく味は、うん、美味しいね・・・」


 何処まで行っても本当に意味不明である。しかしこうして食べてしまったらもう遅い。

 俺は脳内のあの巨大ワームの姿と、今食べた直火焼きとスープとのギャップで暫く頭を抱えた。


 そうして食事会は終了。俺の要件を伝える為にゆっくりとできる客室へと移動になった。


「御馳走様でしたエンドウ様。おかげで活力が湧いてきました。」


 アラビアーヌが礼の言葉を伝えて来るが、俺は正直言って残りのワーム肉の処理をどうしようかと言った問題で頭の中がそれ所じゃ無い。


「ああ、うん、別に良いよ。まだ、その、何だ。アラビアーヌは知ってるだろ?消費しきるに、後何人前あるのかね、あれ。」


「あー、ソウデスネ。私もその点を忘れていました。」


 苦笑いのアラビアーヌ。ここでドロエアーズも俺に礼の言葉を口にして来た。


「私が食べた中でも一番の味だったな。うん、美味かった。ありがとう、英雄殿。疲れていた心も体もこれで癒された感じだ。それで、どんな用事で戻って来たのか教えて貰っても良いかね?」


 本題である。そこを疎かにしてはいけない。今回持ち込んだ問題はワーム肉の事では無いのだ。


「あー、英雄呼びは今後止してくれ。エンドウと呼び捨てでお願いしたいね。それじゃあ説明するけど。昨日のあの後にさー。」


 俺はここでカクカクシカジカとこれまでの事を一切合切吐き出した。


「で、今も砂漠に置き去りにしてある。一応は逃げたりしない様に動けなくさせてあるから大丈夫。そいつをこの国の方で裁くに、手続きをお願いね。俺はこの国の民では無いけど、それでもそいつの自白で何人も殺して来てるってのは吐いてるから無罪は無しで。そいつの屋敷にも強制捜査で兵士を突入させて徹底的に潰して財産全部毟り取ってやって。」


 ちなみに俺があの成金に対してやった拷問の説明の所で二人は既にドン引きしている。


「・・・ボロンド、やっと潰せる時が来たか。これまでは尻尾を掴ませずに慎重に事を起こしていた様だが。今回は相手が悪かったな・・・」


 どうやら相当に以前から手を焼いていた相手らしい。ドロエアーズが疲れた感じの表情で大きく一つ溜息を吐いた。


「で、何処に突き出せば良い?運ぶのは一瞬で出来るし、そっちの受け入れ態勢が出来次第に直ぐに連行できるけど。」


 牢屋に入れるにもそれなりに準備も必要だろう。時間が掛かるのであれば別にあのまま成金をまた丸一日くらいは砂漠に放置でも構わない。俺は痛くも痒くも無いから。

 あの成金に掛けてやる情けなど欠片も、これっぽっちも持ち合わせていないので。


 ここで答えたのはアラビアーヌだった。


「昼頃までにはこちらで手続きを全て終わらせておきますので、その時間ごろに王宮前広場の方にお願いしても宜しいですか?」


 俺はコレを了承する。まだまだ昼までには時間があるが、別段俺が細かい所まで気にする事でも無い。


 どうやら今処理している書類よりもこの成金、ボロンドと言うヤツを牢屋にぶち込む方が優先度が高いみたいで即座に処断をしてしまいたいみたいである。


 取り合えず引き渡しの約束はできたのでこの問題は国に任せてしまって大丈夫だろう。


 後はワーム肉の処分方法である。余りの大きさにこちらは競売に出さなかったのだ。

 だからこそ今こうしてソレを食す事が出来た訳で。


「なぁ?アラビアーヌ。残りのお肉、どうしたら良いと思う?」


 俺のこの質問にドロエアーズが「何がだ?」と疑問顔。アラビアーヌの方は真面目な顔で悩む。


 ドロエアーズの為に俺は簡単にその大きさの説明をした。


 したらしたでドロエアーズがこれに「そんな・・・」と信じられ無さそうな顔を一瞬してから「うむ、そうか」と納得した。


「味の濃さは大きさに比例していてな。私が食して来た中でこれまでに無い程に、何と言えば良いか?濃度が高かったな、確かに。余りにも大き過ぎると説明されて思ったが、そもそも競売で出てきた品々は全てが全て信じられ無い程の巨大なモノばかりだったのだったそう言えば。」


 このお肉以外は全部放出してあった。なのであの競売に居たドロエアーズはその品々の大きさを実際にその目で見ている。

 ソレがあったから「このお肉まだめっちゃある」と言った俺の説明に最後には納得した様だ。


「あの量が市場にばら撒かれると一気に値段崩壊が起きてしまいますので少しづつ売りに出して貰いたいです。あ、いえ、その様な事になれば幾ら保存を上手くしてあっても売り切れるのに長い期間掛かりますよね・・・そうなったら最後の方は熟成などでは無く腐敗になってしまっていて勿体ない事に・・・」


 どうやらこのワームお肉、熟成などと言った技法があるみたいである。

 ちょっと気になりはするが、俺としては今日ここで食べた調理法だけで心の中は一杯だ。

 無理にアレもコレもと色んな方法を試す気にはならない。

 余りにも不思議反応するこのワームお肉様が、正直言ってコワい。

 なのでストレスにしない様にと俺はここで話を終わりにする事にした。


「ああ、なら俺がずっと持っておくからさ。また顔を合わせた時に欲しかったら言ってくれ。その時は相応の値段で買ってくれれば良いよ。」


 俺のこの言い方にアラビアーヌは何かしらを察したのかそれ以上は何も余計な事は言わなかった。ただ一言「その時にはよろしくお願いします」とだけ。


 ドロエアーズの方は何だか納得した様な、していない様な微妙な顔をしていた。

 インベントリは非常に便利。中に入れた時間がどうにも経過しないという謎仕様と言うのを知らなければこの様な顔になるのも分かるというモノだ。


 こうして話も済んで一度俺はテンソウの所に行く事にした。何せ昨日の案内人が報告を上げているだろうから。

 向こうにしてみれば競売品の全てを俺が持っているのだ。競り落とした客に配っていない品をまだまだ多く抱えている俺が誘拐されてしまっているのだから大騒ぎなハズである。


「ハズじゃ、無い・・・だと?」


「おや、コレはコレはおかえりなさいませ。本日の配達をお願いしても宜しいでしょうか?」


 店に入れば俺の目の前には案内人とテンソウが。そして二人の表情はどちらも極端。


 テンソウは別段何事も無いと言った感じでニコニコ笑顔。商売人の鑑である様に。

 そして何ら変わらず配達の続きを俺に平気な感じで頼んできている。

 俺が脅されて連れて行かれた事などまるで気にも留めていない感じだ。


 しかし昨日に俺が誘拐されたのを目の前で見て、そして逃げ出して報告に戻っているその案内人の方はと言えば、唖然とした間抜け面をして「へ?」と短く口にして固まっていた。


「だから言っただろう?このお方は私たちでは計り知れないお力を持っておるのだよ。お前も競売で見ていたはずだろう?あれらを持ち込んだ方は誰だ?エンドウ様だろう?この程度で何事かなどある者が、あれほどの獲物を取れるはずが無かろうに。お前は自分の身の心配と、エンドウ様への心配とを履き違えているのだ。気が動転していたのは別に責めんが、今の時までその事に気付かなんだは、まだまだ未熟な証拠だぞ?気を引き締め直して今日の分を直ぐにご案内してさっさと配達してきなさい。」


 テンソウは俺の事を分かってい無さそうでいて、しかし解かっていた。まあ一部分的とは言え。


「あー、まあ確かにな。報告されている内容が内容だけに、大事と判断されて騒ぎになってると思ったけど。競売品の全部、俺が獲って来たって分かってるならあの程度で俺がどうのこうのされる事は無いって判断するのに充分な理由と根拠にはなるか。」


「で、一応はエンドウ様のお言葉で安心させて頂きたいのも、また事実で御座いまして。品の方は奪われては?」


「いないよ。」


「ソレはソレは。はい、では本日も宜しくお願い致します。」


 終始ニコニコ笑顔のテンソウだったが、やはり気になる所は気になった様だ。

 俺もこうして無事な事を教えに直ぐに戻って来ていれば良かった。余計な心配をさせてしまった詫びとして例のワームお肉を出してテンソウに与える。


「コレ、心配させちゃったお詫びな。これ食べて気持ちを落ち着かせてまた仕事に励んでくれ。それじゃあ行ってくる。」


「コレはコレは・・・お気遣いありがとうございます。店の者たち皆で食べさせて頂きます。行ってらっしゃいませ。」


 この店にどれ程の数の従業員が居るか俺は知らない。なのでそこそこの量、と言うか、ブロック肉?みたいな大きさで切り出して渡しておいた。

 この程度の量が減ってもまだまだインベントリ内にはその巨大な身が丸ッと入っている。

 ソレを考えると少々の複雑な気分に襲われるが、コレを無視して店を出た。


 また今日も案内人に連れられて競り落とした品の受け渡しに落札者の所を回る事になる。

 なので先に忘れない様にと案内人に俺は一言断わっておく。


「俺ちょっと昼頃に一回用事で抜けるからさ。その間は何処かで休憩してて貰える?余り時間は掛けずに戻って来るからさ。」


「あ、はい、分かりました。店長からは、その、エンドウ様の好きな様に動いて貰っても結構との事を言われておりますので、ハイ。私の事はお気になさらず。」


 まだ俺が戻って来た事を吞み込めていないのか、ちょっと引き攣った笑顔で案内人がそう告げて来る。


「あ、そう?じゃあ今回はちゃんと先にその用事を教えておいて、慌てたりとか動揺したりとかしないで済む感じにしておこうか。昨日の奴らの雇い主を突き出す予定でさ。取り合えずソレの引き取りが昼頃って約束になってるんだよね。」


 これに案内人は「は?マジで?早過ぎません?」と素が漏れていた。昨日の今日で問題がスピード解決している事に信じられ無いと言った顔に変わっていた。

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