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遠慮すんなよ

 戻って来た役人が持っていた袋には「魔金貨」が一枚、白金貨が二十枚入っていた。

 魔金貨が一枚で百万円、白金貨は一枚で十万円相当と計算すると三百万の賞金だと言う事だ。

 そしてもう一つは情報料だろう。金貨が十五枚入っていた。

 後でラディが口にしていたが、この情報量はちょっとだけイロを付けられていると言う。情報の相場などと言うモノは曖昧な基準であろうが、それでもラディの知る知識に当てはめると少々コレは多いらしい。


「この度は犯罪者の討伐、感謝します。これからも何かありましたら役所の方にいらしてください。では本日はありがとうございました。」


 そう丁寧に見送りをされて役所を出る。


「すんなりと報酬が出てきて良かったぜ。対応の悪い所だとすぐに金なんて出さないばかりか疑って来たりする所もあるからな。何処とは言わないが。」


 カジウルが多分言わないと言っているその役所はマルマルの事では無いかと俺は推察したが、あえて答え合わせは求めない。


「ねぇ、コレ。思った以上になっちゃったけど、どうする?かなりの大金じゃない。しかもさ、ほとんど、って言うか、全部エンドウがやったでしょ?エンドウ、どうするつもりなのこの金?」


「え?別に山分けで良いんじゃないか?ここには観光で来たみたいな感じだし俺としては。だから皆それぞれこの金でバッツ国でやりたい事やって自由行動で良くないか?」


 俺はそう言って金を分配するために宿をさっさと取ろうと提案をする。


「エンドウは金の欲とか執着は無いのか?俺たちはお前に与えられてばかりでいるが、それを返してもらうと言った事は考えないのか?」


「ん?んん?ラディはそんな事考えてたのか?・・・って、俺以外全員そう思ってた・・・だと!?」


 ラディのこの発言に残り三人がうんうんと首を縦に振っていたのを目にして俺は驚いた。


「あのさ、俺としては確かに金は欲しいけどね。だからって言って独り占めにしようと言った考えは無いんだよ。それに与えてばかり、とか言った考えもこれっぽっちも無い。回収なんてもってのほか。俺は一応このパーティーのメンバーなんだよな?だったらそう言うのやめようよ。」


「エンドウ様、それは無理な話というか、何と言いますか。私たちは感謝しているんです。こうして強くなれたのはエンドウ様のお力が有ってこそ。ならばその恩を感じて当たり前なのです。その上でこうして金銭の事まで皆で山分けなどと。エンドウ様お一人の力で得たようなお金ですから。遠慮してしまうのは仕方が無いです。」


 ミッツはそう力説する。俺がそんな風に思わなくてもいいよ、と諭そうとしたところで自分たちはどうしたって恩として受け止めるのだと。


「じゃあ、こうしよう。カジウルがあの時回収係として動いて手伝ってくれた。ラディもだ。んで、万が一にも怪我人が出た場合の保険としてミッツが待機。マーミは周囲の警戒をしていた。コレでどうよ?理由が無くちゃ受け取れないとか言うんだったらコレで解決。と、こんな言い訳じゃ苦しいかな?」


 俺は冗談めいた口調でそうみんなに伝える。恩に感じる部分は俺から何と言おうが本人の問題事なのでどうしようもない。

 なのでせめて金だけは何とか受け取らせようと思って無茶苦茶な言い訳を口にする。


「おう!俺は受け取るぜ!エンドーが受け取れって言うんだからここは素直に貰っとけお前らもな!ほれ、エンドーだってそう言いながら苦笑いしてんじゃねーか。俺たちが受け取らねーで居たらエンドウがもっと心地悪くなっちまうだろうに?こういう時はなゴチャゴチャ言わねーでスパッと貰っといた方が気持ちがいいもんだ!」


「カジウル、お前なー。ただ単にこの金でたらふく酒が飲みてーだけだろ!」

「あんたねー!こういう時は遠慮するのが普通でしょうが!」


 ラディとマーミのツッコミが入る。カジウルのその返しと言ったら。


「おう!エンドー!酒冷やしてくんね?」


 だった。それに俺は「後で教えてやるから自分で冷やせ」と返す。


「お!その手があったか!早速宿に着いたらやり方教えてくれ!」


 こうして即座にカジウルがコレに喜ぶものだからラディもミッツも呆れ顔になる。

 だがカジウルと同調するのはミッツだ。


「私にも教えてください!あの冷やしたお酒は美味しかったです!ぜひとも!」


 このミッツの発言に呆れ顔から鳩が豆鉄砲を食ったような顔にラディもマーミも変わるのだった。


 こうして宿の部屋を取る。三部屋だ。マーミとミッツ、カジウルとラディ、俺の三部屋。

 俺だけ一人部屋で取ったのはワープゲートで森の家に行ったり来たりするのに一々街中の物陰に隠れて市内でもいいようにするため。

 取り合えず今日は宿の店員に美味い食事処と酒は何処へ行けばいいか聞いてそのお勧めの場所へと皆で向かう。

 こうしてこの日は存分に酒を飲み、美味い飯を食って一日が過ぎた。


 その日の夜。俺は宿の部屋からワープゲートを通って森の家へと帰ってきていた。


「師匠、居ます?あ、ちょっといいですか?話があるんですよ。聞きたい事あるんでいいっすか?」


「何だ?私が教えられる事なら何でも遠慮なく言ってくれ。エンドウからは教えられてばかりだからな私の方が。」


 テーブルについてお茶を出してくれる師匠。

 俺は一口その茶を飲んで一つ息を吐いてから質問をした。


「何でシーカク国は強者を取り込もうとしているんです?しかも半ば無理矢理な方法も取るって噂じゃないですか。冒険者ランクがAになろうものなら直ぐに勧誘に来るらしいようで。」


「・・・あぁ、その事か。私も昔その件で少々揉めたな。嫌気がさしたのもその辺に関する所があったりするな。」


 どうやら師匠の苦い部分をダイレクトに刺激してしまったようだ。

 しかし今更止める事はできないだろう。取り合えず師匠が説明をしてくれるまでジッと待つ。


「そうだな。どこら辺からにするか。先ず、シーカク国は他の国から囲まれている土地柄になる。小さな弱小国で合っているだろう。しかし、この土地を戦争で得ようと思うと旨味がそこまで無いからこそ、どの国も動かないと言った感じだろうか。」


「虚しい理由でなんかちょっと憐れだなあ。あ、チャチャ入れてスイマセン。で、その続きは?」


 一口茶を啜って師匠は続ける。


「だけどな、王、並びにその側近たちは今の代になって戦力の増強を考え始めて実行しだした。小心者だったのだどいつもこいつもな。そこに身に余る野望を抱える馬鹿な貴族が入り込んだりしてな。」


「それって要するに、国を囲んでいるその他国のどこかがいきなり戦争を仕掛けてくるか分からない、って事で、怯えてそんな愚かな真似を?」


「確かに愚かではある。数は揃えられなくとも質で勝負、といきたいのだろう。大昔であるまいに。一騎当千は確かに大いなる張りぼてにはなる。ただソレだけにしかならん。攻められれば四方八方から軍勢が押し寄せてきてすり潰されるのがオチだ。だが、そのすり潰されるまでの時間を引き延ばしする為なのだ。」


「それって籠城戦って事ですか?あえて守るべき範囲を極力狭めて防衛に特化して、戦争を長引かせて相手に多くの戦争費用を引き出して「割に合わない」ってのを?」


「そうやって停戦に持ち込む戦略にしようと浅はかな事を提案した奴がいてな。それを王は決定を出した。なまじソレがシーカク国には当てはめやすい地理だったのだからもう何も言えん。そんな戦略はそもそも使う時は戦争が起きた際の事だ。本来なら戦争が起きないように外交に力を入れるべきなのにもかかわらず、ソレだけしか王には目に入らなかったばかりか、周りの貴族、役人、側近まで小者、小心者ばかりでな。私が一人そう言って回っても誰も私の話になど耳を貸さない。」


 師匠はお茶をまた一口啜ると苦い顔に変わる。


「両方すればいいのだ。外交に専念し、かつ、その間に長い年月をかけて少しづつそうした強者を取り入れて。だがそんな悠長な事は言っていられないと主張する声だけがデカイ奴がいてな。そいつの扇動で貴族は乗り気になって自分の所の戦力を確保しようとし始める馬鹿が増えた。そんな奴らが増えればどうなる?勘違いした貴族が「自分は強い」と勘違いして戦争をしたとしても勝てるなどと嘯く輩が出る。」


「頭がすこぶる悪い・・・何だろうかこの酔いもさめる様な寒い話は・・・」


「ん?エンドウ、酒を飲んでいたのか?全く気付かなかった。お前はそれで酔っていたのか?」


 素面とあまり変わらない顔色な俺に、酒を飲んでいた事が師匠は今まで気付かなかった様子。


「あ、また話の腰を折っちゃってスイマセン。で、そんな奴らが増えてウンザリして辞めたんですか?宮廷魔術師?」


「・・・ああ、そうしたらな。ある日に玉座の間まで私は呼び出された。しかも多数の側近やら貴族たちがいる所に呼び出された。馬鹿な話だ。私に隣国の国境地帯への派遣を言い渡すものだったんだソレは。私が周囲に対して外交で和平を繋ぎつつ、有事の際のための戦力としての強者への勧誘を長い目で計画するべきだと言っていたのが気にくわない貴族が王を唆したらしかった。私の言葉をしっかりと受け止めてくれる者は高い地位にいる者たちにも数名いた。数が少なすぎた。その高官たちに相談もせずに王は私の派遣を決定してしまったのだ。」


「うんざりするほど愚か者の集まりだなぁ。で、もしかして、それがきっかけで?」


「その時に啖呵を切ったよ。そんなに戦争がしたいのですか?とな。そしてソレに無礼者だと騒いだ貴族が居た事で私はそれに乗っかった。無礼の詫びは私が宮廷魔術師を止める事で収めて頂きたい、とな。その時にはその場をすぐに退散してそのまま辞表を出して城を出たよ。あの辞表を王が受け入れたのかどうかも確認していない。そんな私も愚かな貴族と変わらないのかもな。こんなやり方は間違っていたのかもしれないが、それでも後悔は無い。少々虚しさはあるがな。」


「反対意見を表明しても一考すらされない事に、自分の身分を捨てての主張ですか。で、それは全く効果が無かったと。」


 大きな溜息を吐いて師匠は顔をあげる。その表情は苦笑いだった。


「私も愚者だったのだろう。手回しや味方を増やす努力をしなかったからこそだな。今では王城内は小人の巣窟だ。」


 こうして聞きたかったことを聞き終えて俺は宿の部屋へと戻るその前に師匠に報告しておく。


「あ、師匠。今俺バッツ国に居ますんで、どうします魔力の件は?」


 この言葉に師匠は「いきなりすぎるだろ」と呆れた表情になる。


「明日の朝にクスイの所に行こう。魔力薬の販売の進み具合をクスイから聞いておきたい。」


 こうして俺はまた明日の朝に森の家に師匠を迎えに来る事になった。が。


「エンドウ、お前一々宿など取らないで良かっただろ。しかも戻る理由が宿のベッドを一度体験してみたいから、なんて理由。どうかしているぞ?」


 とワープゲートを通る前に師匠にそうツッコまれた。


 で翌朝。俺は確かに無駄な事をしたなと思った。

 宿のベッドは俺が作ったあの森の家のベッドよりも寝心地があまり良くなかったのだ。

 俺は一通り朝の準備を済ませて部屋をチェックアウトした。

 朝食は森の家で取るつもりだし、今日からおのおので自由行動と昨日のうちに話は決まっていた。


 そして宿を出てその裏道へと入ってみると見事に建物の死角ができていて誰にも見られない場所があった。


「こんな所に都合よくイイ感じの場所があったんなら宿を取らなくても良かったじゃん。虚しい・・・」


 その小さな虚しさを忘れようとワープゲートを出してさっさと森の家へと移動する。

 で、既に早起きの師匠が朝食を作っている最中だった。

 簡単な目玉焼きと焼いたパンにごろっとぶ厚い肉の塊が入っている野菜スープ。


「エンドウか。丁度今食事が出来上がった所だ。食べたらクスイの所に行こう。」


 こうして朝食を摂り終えて一息つくと早速クスイの家へとワープゲートを開いて移動である。


「クスイ、居るか?魔力薬の件の進み具合を聞きたい。」


 師匠はそう言いながらドアをノックする。そうするとミルが出迎えに出てくれた。


「ハイどちら様~?・・・ん?あの、えっと、本当にどちら様?あれ?エンドウさん?・・・どう言う事ですか?」


「あ、すまん。事情は中に入ってする。取り合えずクスイは?事業の件で進捗を聞いておきたいんだ。」


 俺はすぐに師匠の事を話さずに先にクスイの件を終わらせた方が良いと思ってそう訊ねる。

 彼女は確か若返った師匠をまだ見ていないかったハズ。なので混乱を少しでも避けようと思った。


「あ、じゃあお茶を出しますね。どうぞ中に。」


 こうして待つ事、五分。


「はい、申し訳ありませんな。待たせてしまいましたか?では、進捗でしたな。」


 こうして無駄話に入らずにクスイは魔力薬の話を始める。


 既に工場は確保。少々小さめの屋敷を買い取って内装を完全に作り変えたそうだ。

 そしてそこで働く従業員も魔法使いを十名雇っていると言う。

 販売はこちらの店でする。売り子も最初の売り始めは三名ほどを専用に雇って対応教育は済ませていると言う。

 後はやってみて不具合が起きる所を修正していくのみだそうで。


「いくら何でも早すぎる・・・で、本格的に開始するのは?四日後?うわー、突然だわ~。って言うか俺が何も確認してないで全部クスイに放り投げてたのだけれども・・・」


「エンドウ様?早すぎると言われましても、私からすれば貴方様から渡された資金の金額の方が信じられない額なのですが?あれだけあればこれだけの事を為すのにそこまでの時間など掛からないのが普通ですが?」


 コレに師匠がジト目で俺を見る。一体いくら渡してんだよ、と。


「それにしてもマクリール殿、以前に若返っている姿で会いましたが、その姿は昔に大型の魔物がこの都市に現れた際に派遣された時の貴方の年齢でしょう?確か魔力の出力が全盛期、周囲の国にもこれほどの魔力持ちはいないと称された時の。」


「クスイ、その話は止めてくれ。それは誇張して宣伝として国がそうやって情報を意図的に流していたんだ。私はそこまで驕った事を考えてはいない。」


 このクスイと師匠の会話を聞いていたミルが「え!?ええええ!?」と目を丸くして師匠を見つめて硬直してしまう。

 しまったと思った時にはもう遅い。もう少し驚愕が少なくなるように丁寧に説明しようと思っていたのに後の祭り。

 暫くミルはそのまま理解が追い付かずに暫くの間硬直し続けてしまった。

 しょうがないのでソレを放置して話を続ける俺も俺だが。


「じゃあ師匠はその工場が安定操業できるようになるまでは現場監督としてその雇った魔法使いの指導をお願いしてもいいですかね?もうその十人は作り方を読んで理解はしているの?」


「ハイ、既に。その情報は外部に流さない事を契約書で交わしてあります。漏洩はしないでしょう。完全にとは言えないかもしれませんが。」


「うん、わかった。それでいいと思う。じゃあ冷蔵庫作ってその中に入れて保存しておこうか。ちょっとごめんよ。」


 そう言って俺は森の家に戻り一旦冷蔵庫をインベントリにしまってまたクスイの家に戻って来る。

 そして冷蔵庫を取り出して何処に置いておくかをクスイに聞いた。


「師匠はクスイの家に泊まってそのまま明日からでも雇った魔法使いの指導に。それとこの冷蔵庫の氷の分も担当で。で、冷蔵庫何処に置けばいい?」


「おっと、エンドウ様・・・こちらでお願いします・・・で、何ですかなこの箱は?」


 こうして少しドタバタしながらもクスイと師匠と俺で魔力薬の準備の話をいろいろ詰めた話をするのだった。

 ちなみにその間もミルは自分を取り戻す事ができずにポカーンとして立っているだけが精一杯のようだった。


 そんな話あいが終わりバッツ国に戻って来た俺。


「さて、自由行動と言ってもどうするかな。街中ブラブラするだけにするか?もしくは・・・まあ、金を稼ぐのもいいな。」


 クスイとの話し合いでもう昼頃になってしまった。あの後はミルを正気に無理矢理戻して店を任せて師匠はクスイに案内されて魔力薬製作工場へと行く事になった。

 ソレを見送った俺は「金がもっと必要だな」と感じてバッツ国で金稼ぎすると言う選択肢を思い浮かべた。

 魔力薬用のガドンの実の仕入れ、それを安定させるための専用農場など。

 そこでの働き手の確保に、その給料。流通などの基本的な部分と、果てしなくやる事がどんどん増える。

 しかしそれを苦にせずにクスイは「もう既に手は打ってあります」などと涼しい顔で言うのだからその器が恐ろしい。

 余りにもクスイの手腕のスピードが速すぎてビビる。いつ休憩を取っているのか?働き過ぎで倒れないかと心配してそう言ったが「まだまだあの頃に比べたら・・・」と遠い目をされたのでそれ以上追及しないでおいたのだけれども。


「さて、俺も負けてらんないな。金、金、金ッと!クスイの負担が減るように、資金の件で少しの不安も掛けない様に頑張んないとな!」


 この時の俺はもうとっくにそんな心配の次元を超えた額をクスイに渡してある事を知らない。

 あの賭けをした金額で充分なくらいの資金だったのだが、俺はあの時にどれくらい「勝ち」になったのか正確に数えていなかったのが原因だ。


「ギルドに行ってちょっくら仕事を見てみようかな。」


 こうして俺はまるで都会に上京してきた田舎者の如くに辺りをキョロキョロしながら歩くのだった。


 そんな風にしていれば地元のヤンキーが黙ってはいないと言うモノだ。


「おい、お前田舎もんか?なら俺たちが街を案内してやんよ。そうだな。こっちにこいや。」


 いかにもそう言う輩ですと言った感じの顔した三人組が俺にちょっかいを出してくる。


「あ、そう言うの要らないんで、取り合えず冒険者ギルドに行きたいんですけど、どっちに行けばいいですか?」


「あぁ?てめえ俺たちの言う事がきけねえってのか?ああん?」


 こちらの事などお構いなしと言いたげに三人組は俺の顔を睨んでドスの聞いた声で俺を恫喝しようとしてくる。

 お決まりの文句なのだろう。都合など考えないでこれさえ言っておけば相手はビビるとでも考えているのだろうか?

 何故初めて会った他人の言う事をいきなり聞かねばならない義理があるというのか。


 脅かして相手を自分の思い通りにコントロールしようとしてくる三人組のその姿を冷静に見ていると滑稽で思わず笑いが出てしまった。

 これも自分が安全だと確信を持っているからなのだろうか。


「プフッ!顔が面白い・・・言ってる事の道理が通ってない・・・一人を寄って集って脅そうとするその小者感・・・あぁ、アンタらは弱者なんだな。自分よりも弱いと思われる奴しかこうして相手できない。しかも人数も自分たちが優位じゃないといけないのも哀れだな。」


 この言葉がどれだけこの三人組の心に突き刺さったのかは俺には分からない。

 彼らが顔を真っ赤にしたところを見るにおそらくだが全部が当てはまっていたのかなと思う。「図星」だったんだろう。

 俺は面白がって思わず吹き出してしまったが、その三人組の赤い顔と怒りの表情を見てまた冷静になり「お可哀そうに」といった感想が出てきてしまった。


「てめえ言わせておけばペラペラと・・・死ねよボケが!」


 その内の一人がナイフを取り出して切りつけてきたのだが、それも口にしている「死ね」と言った言葉とはかけ離れて立ち止まって動かない俺の腕を切りつけて来た。

 俺はそのままナイフを見ても動じずに抵抗を見せずに微動だにしていなかったのだから、首や、もしくはナイフを鳩尾に向けて刺そうとすればいいはずだ。死ねというのだったら。


 なので急所を狙っていないその時点でちょっと痛い目に合わせてやろうと言う魂胆だと言うのが分かる。

 死ねと言っておいてこの場で本当に相手を殺してしまえば殺人だ。こんな人が大勢いる道のど真ん中で白昼堂々と人殺しなど起こればあっと言う間に目撃者多数だ。

 そうなれば逃げられないだろう。この場からすぐに立ち去ってもその後は衛兵に追われる状況に陥る。

 捕まれば凶悪犯、通り魔などといって裁きを受ける事になるであろう。


 ならばそうならないためには?致命傷にならない部分を傷つければいい。馬鹿にされた事への報復と考えると過剰だがこいつらはチンピラだ。それ位で丁度いいと考えているのだろう。

 でも、そうはならない。


「さあ、じゃあ行きましょうか。こっちでいいんですか?ではでは。」


 魔力を地面に流してこの三人組を俺の魔力で包む。そう、あのモヒカンの時とは違い固定はしない。

 しないが、自由に動かす。そう、魔力で相手を自由に操っている。

 固定もできるなら自由に動かす事もできる。三人の足を通りの外れの小路の方に誘導して1・2・1・2とまるで玩具の兵隊でも行進させるように歩かせる。


「どうなってんだよコレ!?身体が勝手に動く!なんだ!なんなんだ!」

「ひえ!?ちくしょ!違うだろ!何で俺の脚は勝手に歩いてやがんだ!?」

「・・・マジでヤベぇマジでヤベぇマジでヤベぇ・・・」


 こうして俺はこの三人を路地裏にあった丁度良さげな小さい広場に移動させた。


「さて、お三方。どうして自分の身体が勝手に動くと思いますか?」


 俺はこいつらへ問題を出してやる。答えがちゃんと言えたら解放してやろうと。


「テメエがやったのか!クソ!もとに戻しやがれ!」


 どうやら三人の中心である男が代表して俺にそう盾付いてくる。


「自分の置かれている立場が分かっていないのかここまで来ても・・・ドンダケつまらないプライドなのよソレ?」


「はあ?何言ってやがんだ?俺たちが本気でテメエを殺す前にこれを解きやがれ!」

「そうだぞ?次にテメエを見つけ次第にボコボコにしてやんよ!」


 もう一人が勢いに乗ってそう恫喝してくるが全く怖くない。

 最後の残った一人だけが冷静になっているのか冷や汗が止まらずに顔を青褪めさせている。


「さて。もう一度ここで聞いていいかい?ここから冒険者ギルドはどう行けばいい?案内してくれる人だけ解放するよ。で、どうする?」


 俺はこいつらにもう一度だけそう訊ねた。すると一人黙っていた男だけが俺の提案に乗ってきた。


「お、俺が案内をする!だからこれを解いてくれ!俺はまだ死にたくない!」


 コレに噛みついたのは残った二人だ。


「テメエ裏切るのかボケ!今度その面合わせた時は覚悟しとけ!」

「何だとこの野郎!お前一人だけ情けねえ事ぬかすな!」


 何故この二人は何処までも分かっていないのか?未だに自分の意思で自由に身体を動かす事ができていないのに。

 そしてこういう輩は徹底的に「潰し」ておかないと後でまた絡んで来て面倒なのでここで徹底的にやる事にする。

 モヒカンの時みたいに中途半端な事はしない。


「あ?!う、動ける・・・よ、良かったぁ~。」


 俺の道案内をしてくれると言った男だけを動けるようにする。

 そして残りの二人はその場で直立不動のままにして放置だ。


「じゃあ行こうか。さあさあ、立って。」


 動けるようになった途端にプレッシャーが無くなった事で、両膝を地面についてしまっていた男に手を差し伸べて立ち上がらせようとする俺。

 コレに「ひいい!?」と慄かれる始末。俺はそこまで相手の恐怖を引き出す事はしていないはずなのだが、どうにも俺を見る男はブルリと震えている。


 俺の手を取らずに自力で飛び上がるように立ち上がった男はカチコチな不自然な歩き方になりながらも案内をしようと必死になる。


「こ、こ、こ、こちらです!ついてきてくだ、くだ、くだ、くださいぃぃぃぃぃぃぃ。」


 そのまま案内に着いて行って入ってきた道を逆にまた戻る。

 その背後では身動ぎ一つ取れないであろう男二人が喚いている。


「おいてくんじゃねーよ!ふざけんな!」

「ちょい待てテメー!いや、チョ、オイ本気で置いてくんじゃねーよボケカス!」


 何もかも手遅れな男たちのその言葉に俺は振り向く事は無い。彼らを拘束している魔力は大体三日ほどしか効果が持続しない程度にしてある。

 あそこで精々自分の行いを反省させるには充分な時間に思う。それでもその時間が過ぎても俺の前にまた現れてふざけた事を言う様ならもう一度同じ目にあって貰うか、そもそも徹底的に心が潰れる体験をしてもらうつもりだ。


「あれでこりごりだと思ってくれたらいいんだけどな。・・・あそこ人通りが全く無さそうだったから他の通行人にアレコレされる事は無いと思うけど。でもそうなればなったらでそれもまた自分の行いの結果だと思ってもらおうか。」


 助けを呼ぼうにもあの場所は声が響きにくい。三日飲まず食わずだとかなり命が危なくなるぎりぎりだとは思うが、簡単に人を害そうとして来た輩にはそれ位キツイ御仕置は必要だろうと考える。

 そこまで考えてこの件にこれ以上思考を割くのを止める。


「そうなだな。ギルドでいい稼ぎが一つあったら儲けもの、とだけ思っておこう。」


 初めての土地での冒険者ギルドにどんな仕事の依頼が出ているのかは全く知らない。

 チンピラ共の事はスッキリと忘れてどんな仕事があるのかを俺は期待する事にした。

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