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配達

 その後は呆気無いものだった。バラハムの首は何のドラマも無くすっぱりと斬り落とされた。


 ザックリとそこまでの説明をするならば。


 アラビアーヌとドロエアーズがバラハムの罪を読み上げる。


 ソレを否定もせずにバラハムが「王の遺骸」と「証」のありかを盾にして自分を解放するように喚く。


 この態度でバラハムが王を暗殺した事がバレバレで自白した様なモノ。


 そこに俺が教えた通りに発見されたであろうモノが運び込まれる。広場に丁重に「王の遺骸」と「証」が一緒にこの場に揃う。


 ソレを見たバラハムが意地汚く、醜く、しつこく、粘着して自らを助けろとその二つを持って来た兵士に叫んだ。

 バラハムからしたら自分しか場所を知らない二つを持って来た者たちは自分の味方だとでも思ったんだろう。勘違いも甚だしいとはこの事では無いだろうか?


 これによって正式な「継承の儀」とやらをドロエアーズがすると宣言。


 アラビアーヌが「王の遺骸」の前で祈りを捧げる。そこにドロエアーズが持った「証」をアラビアーヌへと手渡す。

 恐らくこれは簡易、簡略化したものだと思われる。


 ここでバラハムの首は落とされた。


 既に問答は無用、清算は全て終わり。これにて一件落着と言った空気になった。


(俺にはまだ配達の仕事が残ってるからな。もうこの場に居なくても大丈夫そうか?)


 もうここは心配しなくても良いだろう。この後の事は俺が居る意味が無さそうだ。


 正式にアラビアーヌが王になったっぽいので、後の政治な話は俺の分野では無い。

 一応アラビアーヌに張ってあるバリアは解除をせずにそのままにしておく事にして俺は店の方に戻った


「ただいまー。店長、終わったよ。」


「・・・随分とまあお早い終わりで御座いましたな?ならば本日の残り時間は配達をお願いしても宜しいので?」


 やはりこう言った物は熱が冷めやらぬ内に片づけてしまうのが一番だと言う事なのだろう。

 テンソウは俺に配達の事で早速仕事をして欲しいと要請して来た。


 余りにも大き過ぎる物品なので店の方でのソレの運搬ではその時間も、労力も、準備にも、相当に金が掛かってしまうだろう。


 その必要経費も気にならないくらいにすっ飛ぶような売り上げになっているけれども。

 それでも使わなくても良い金ならカットしたいのは誰だって同じだと思うのだ。


 と言う訳で、俺には案内役の男が一人付いて各落札者の個人宅、或いは店舗へと向かう事に。


 広い国だ。一日で全部回り切れる訳じゃ無い。数日、もしくは数週間に渡ってこの国のあっちこっちを回る事になるだろう。


(まあそれで観光になるかな?目的は達成できる感じ?)


 地図と落札者のリストを持ってそれを参照に案内人が通りを歩く。俺はそれに付いて行くのみ。

 今の俺は運び屋、只の運搬役、荷馬車と一緒。何も言わずに只黙って案内人の後ろに付く。


 ただ視界は周囲に向けている。傍から見たら「おのぼりさん」にしか見え無いだろう。

 今の俺は首を左右に振ってこの国の街中の風景を眺めて「ほへ~」と間抜け面を晒しているに違いない。


 無意識に色んな部分に意識が行ってそちらに目を向けているので下手をすれば、と言うか、普通の人ならば案内人とはぐれるレベルである。


 だけども俺にはそんな心配は無い。魔力ソナーで案内人の事はずっと補足している。

 もしここで俺が迷子になっても相手の位置が判るので直ぐに合流は可能だ。

 そもそも案内人と離れ離れになる事も無い。魔法の便利には何時も助けられている。感謝してもしきれない。


 こうして好き勝手やっても何とかなるのは魔法のおかげ。いや、本当に頭が上がらない。


(で、ここが一件目ね。やっぱ高額で競り落とすんだ。大店であるのは当たり前って感じだな)


 ここまで俺を連れて来た案内人がこの店の店員と話をし始める。商品を持って来たから店主を連れて来てくれと言っている。


(まあ信用され無いよな、そんな言い方じゃ)


 何処にも商品と見られるモノが見えないのだからしょうがない。これでは店員が俺たちを詐欺などと思っても仕方が無いと思う。


 それでもこの店員がこちらを店から追い出そうとしないのは、きっと俺たちがテンソウの店からの派遣された者たちだと認識したからだろう。

 案内人の胸元にはスイカーくらいの大きさの木の板が。どうにもこれはテンソウの店の「証明証」であるみたいだ。

 紐を通されて首から吊るされている。店員はソレを見て判断したものと思われた。


 その後はこの店の店主、落札者である当人が来て契約書類を出して確認を取っている。

 俺もソレをしっかりと聞いてこれから間違えない様にインベントリからその品を取り出さねばならない。


 何処に出せば良いかをしっかりと確認後に俺はサラッとインベントリから商品を取り出してさっさと店を出る。

 この時には既に案内人と落札者との引き渡しのやり取りは完全に終わっている事を確認しているので何時までも店内に残っていたりはしない。


 この事で追究をされ無い様にと商品を出したら即座に店を出る。声を掛けられたりしない為に店をさっさと出るのだ。


 そのままで居たら「一体これはどう言う仕掛けだ?」と聞かれるのは分かり切っている。

 ソレに対応するのは面倒だ。答える義理も無い。


 まあ巨大な品をいきなり何も無い空間から取り出された所を見れば誰だって驚きで硬直して俺の事などその間は気に留められなくなるだろう。


 さて、案内人の動きも俺と同様である。「今後とも御贔屓に」と一言だけ告げて相手が驚愕している間に「契約完了」と言った感じで直ぐに店を出る。


「さて、次に行きましょう。引き止められると面倒ですから。」


 案内人は既に俺のインベントリの事を知っている。そう言って次の目的地へと早足で歩き始める。


 彼が驚かないのはオークションの時に俺の隣で進行のサポートをする為にアレコレと働いていたからだ。


 そのオークションの時には彼も呆けた顔して結構長い時間フリーズしていたが、今はもう別段そう言ったリアクションを取る事も無い。

 慣れるとは凄い事である。もしくは悟りの境地か。或いは考える、気にする事を止めたのか。


 取り合えず俺にとっては好都合。その案内人の後を俺は追って歩く。


 そうやって店を回る事、五件。何処も大きな店構えでこの国で商売を成功させた店ばかりに感じた。


(商売敵、とか言ったギスギスした感じは無いっぽかったな。扱ってる商品が被っていなかったりするのか?それとも組合なんかがあったりして争わない様にしてるとか?)


 そこら辺の事情は俺が深く知らなくても良い部分だ。今の俺は自分の役割を熟せば良いだけである。


 これらの配達が終われば俺にはこの国のお金が手に入るのだ。

 そうしたらその金でこの国の観光をより楽しめば良い話である。


(大金、って言える額、なんだけどなぁ。お金の事に動じなくなっている俺が居る・・・)


 最初っからこの世界のお金の事に無頓着、無関心な所があった事も要因だが。

 それでも数字の大きさに少しくらい慄いても良いはず。いや、オークションでの落札価格を舞台袖で聞いていた俺は多少はその額に戦慄を感じていたはずだったのだが。


(今更何をって感じだよなぁソレも。別にこの世界、この国のお金に未練は無いし?うーん?使いきれるかなぁ・・・)


 俺がこの稼いだ金を使わず溜め込み続けるのは問題だ。結構深刻と言えなくも無い、洒落にならない額である。

 吸い上げるだけ吸い上げて溜め込んで、ソレを放出せねば停滞や淀み、歪みなどが起きて市場の混乱を招きかねない。


(はてさて、何にコレを使うべきか。興味を引きそうな物あるかなぁ)


 此処まで来る間に見ていた景色に俺の興味を引いた物が無かったかを後で思い出す事を決めて次の落札者の所に向かった。


 最終的に日が落ちかける時間まで歩き続けて結構な数の配達を終わらせた。

 もう暗くなるので今日の所はここでお終い、と言う案内人の言葉で店に帰館である。

 だが戻るにも相当に距離がある。このまま真っすぐに歩いて帰ってもかなりの時間が掛かり、夜に、真っ暗になってしまう。


 ここで俺は「まあいいか」といつもの悪い癖を発揮する。ワープゲートを使って帰ってしまっても良いじゃない、と。


 この案内人の彼が俺の事をどう思っているかは知らない。


 けれどもインベントリを見て、もう慣れたと言った感じであるからして、ワープゲートを見せても良いだろうと言った判断だ。


 俺は案内人に声を掛けて付いて来るようにと路地の角、通りには人も少なくなって見られる事も無さそうな死角へと移動する。


 何をするのか?と言った感じで俺を見る案内人は次の瞬間に「何者!?」と警戒の声を上げる。


 俺はこれにびっくりして「は?え?」と間抜けな顔を晒してしまった。


 そもそも今の俺は帰る事になって気を緩めていたので魔力ソナーを引っ込めていた。

 だからこいつらが近づいて来ていた事に気付けなかった。間抜けもマヌケである。


 そこに現れたのは口元を布で隠した、曲刀をその手に持つ男たち六人。

 強盗、しかも雰囲気がどうにも手慣れた感じ。これで俺は直ぐに察した。


「・・・もしかして、襲撃?俺たちが競売品の運搬役だと知っていて?」


 オークションの話は別に秘密だった訳じゃ無いから多くの者たちにその情報は拡散していただろう。

 だからこうして俺たちを狙って商品を強奪しようとしてくる悪党が現れたのは別におかしな事でも無いんだろう。


 だけどもその出て来たタイミングが何とも中途半端に思えてしまった。

 いや、襲うのならば今の時間帯は丁度良いと言えなくも無いのだが。

 これから夜に、暗闇になるのだ。襲って品を奪って逃走するのにこれから訪れる闇夜は強盗たちに都合が良い。


「そっちの奴には用は無い。殺されたく無ければさっさと去れ。見逃してやる。」


 強盗がそう言った相手は案内人の方だった。


「そっちの男、奇妙な服を着ているお前だ。お前は俺たちに付いて来て貰う。殺しはしないが、痛い目を見たく無ければ大人しく付いて来い。」


 逆に俺にはそんな事を告げられた。

 だけどまあそんな事を言われて「ハイソウシマス」と言うはずが無く。


「だが断る。」


「・・・ちッ!面倒だ。指の一本でも斬り落とせ。そうすりゃ反抗的な態度は損をするだけだと思い知るだろ。」


 どうやら俺が目的の襲撃であるらしい。誘拐目的と言う事である。

 しかもちょっと位は損壊させても良いらしい。残酷、冷酷、俺に言う事を聞かせる為なら手段は問わないと言った感じである。


「指の一本ねぇ?なぁ?お前らの雇い主は誰だ?俺を攫えって指示を出したのは何処のどいつって?」


「ソレを知りたくば大人しく付いてくれば良い話だ。こちらの命令に従え。抵抗は無駄だ。」


 俺一人に対し武器を持っている六人である。数で言っても、武装と言う点でも、向こうが圧倒的有利、寧ろ俺の不利は覆らないと言いたげに強盗改め、誘拐犯は言う。


「なるほど。じゃあ彼の命の保証をしてくれ。目撃者は殺すみたいな事はしないって約束してくれないか?」


 まだこの場から離れていない案内人の彼の事を心配して俺はその事を相手に約束させようとしたのだが。


「最初から言っている。そいつに用は無い。殺す意味も無い。行け。それともこの場で殺されたいか?」


「良いのか?店に戻ればこの事をテンソウに報告する事になるだろ?」


「そんな事は俺たちには関係無い。した所で何が奴に出来ると言う?さあ、来い。問答は終わりだ。」


 六人がその曲刀の切っ先を俺だけに向けてジリジリと囲って来ていた。

 本当に俺にしか用が無いと言うのがソレで分かったので俺は大人しくしておく。


 この間に案内人は走って逃げだした。それを別に気にしない誘拐犯たち。


「うん、なら大人しく連れ去られてあげようか。俺に用があるって言うのがどんな相手か見てみよう。」


 俺はこうして日が完全に落ちて夜となった道を連行されていくのだった。


 到着した場所はなんて事は無い。大きな大きな屋敷だった。

 別に俺はソレに驚いたりしない。こんな真似をして来る相手がどこぞの誰かも分からぬ貧乏人だとは有り得ない事だろうから。


(金持ってる奴のやる事は分からん。一体何がしたくて俺を攫うんだろうなぁ)


 俺は刃物を向けられて脅され、ここまで連れて来られた「てい」である。

 本気を出せば襲撃者など指一本触れずに撃退できるのが俺ではあるが。


 今は相手の言う事を聞いてその流れに乗る茶番を敢えてしている。

 向こうの思惑?要求?が俺の思うモノ、考える事と違ったりしないかを確かめに来た様な感じである。


(どうせ俺の持つ物品を掠め取ろうとしての事なんだろうけど。でもこれ、捕まるよな?普通に?そこら辺が何考えてるのかサッパリなんだよなぁ)


 こんな事件を起こして国に捕まらない訳が無いと思うのだ。

 恐らくはこの件はテンソウにも知らされた事だろう。

 そうなれば多分テンソウが国に訴えを出して捜査がされるはず。


(ああ、何日掛かって解決になるかは分からんな。その間に俺は絞れるだけ絞られた後に「死人に口無し」?されちゃうって事なのかね?)


 悪党の考える事だろう流れはこんな感じだろうか?俺の身柄をこうして確保して拷問に掛けるに安全な場所へと連れて行く。

 そこでじっくりと国が介入してくるかもしれないギリギリまで時間を掛けて俺から今回のオークションの品の残りを巻き上げる、と。


 こっちの世界には監視カメラも無ければ科学捜査も無い。

 国が調査を行ったとしても俺が誘拐された事は分かっても、ソレが何処に連れて行かれたかは調べるのに相当な時間が掛かるだろう。


(で、屋敷の中に入ったけど、俺はこれから何処のどちら様と対面させられるんだろうねぇ?)


 相当大きな屋敷だった。けれどもドロエアーズの屋敷程では無い。

 これまで配達で回って来た商人たちの店や個人宅と比べて一回りか一回り半大きい、広い敷地と言った感じである。


 コレを踏まえて考えればここの屋敷の主人は相当に大きな店を持つ金持ちの商売人。

 そんな相手が俺をお求めと言う事であると推測が立つ。


 そうして連れられて入った部屋の中央にその人物は居た。


「こやつがそうなのか?全く、この私が手に入れるはずだった物をあいつが横からかっさらって言ったと聞かされた時は怒りでどうにかなりそうだったが。まあ、良い。おい、お前、出せ。」


 意味が分らない。いや、分かる。分かるが、分かりたく無いと言うのが正直な感想だ。


 俺の目の前には全身に金のアクセサリー?

 サークレットに、首輪?ネックレス?それと腕輪に、指輪は当然の事全ての指に。

 服は金のボタンで留められていて、ズボンは黄金のベルトで締められている。

 金のサンダルを履いて、足輪?も装着していて服の装飾も金糸で縫われている。


 その重量は如何程になるのか?普段から何かのトレーニングをしているのか?と問いたくなる位の全身、キンキンキンである。


 しかもぽっちゃり体形。テーブルの上には贅を凝らした食事が並べられていてソレをムシャムシャと食べているでは無いか。

 しかもふんぞり返ってソファに座り、美女を何人も侍らせてそれらに自らの世話をさせている。


 何と返したら良いか言葉に詰まってしまった思わず。


(うん、アイスクリームは無いみたいだな、なんて)


 子供向け教育チャンネルで流れていたのだったか?おとぎ話の王子様がアイスクリーム何て食べれ無いだろう、と言った歌があった事を思い出す。


(いや、歌詞が違ったか?どんな内容だったっけ?・・・いや、今はそんな事に現実逃避を求めている場合じゃ無かった。いや、今の目の前の状況も別段どうでも良いな?)


「おい、お前、この私が命令しているんだぞ?さっさと出さんか愚図が。」


 全身金ぴかぽっちゃりデブが不機嫌そうにそう言ってきたが、何を勘違いしているのかこいつは。


 しかしここでこの部屋に一緒に入って来た俺を連行して来た男の一人が剣を抜いてこちらの首へとソレを当てて来た。脅しである。

 早く命令通りにブツを出せと、死にたく無ければさっさと行動しろと。


 出さなければお前の命は無いぞと、こうして凶器をチラ付かせてこちらの恐怖を引き出して従わせる様にしてきているのだ。

 でも関係無い。無駄である。俺にこの程度が脅しになると分かっていないからしょうがないのだが。


「あー、競売でアンタが何を競り落としたか知らんのだから出し様が無いな。ソレに、ちゃんと競売終りに契約書類は交わしたか?確認が取れなきゃ何も出せないぜ?」


 ここで盛大に舌打ちを一つされた。


「ちッ!おい!本当にこいつが競売品を持っているのか?恰好は見た事も無ければ、その態度も気に食わんぞ?持っていると言うのであればさっさと吐き出させろ。」


 まあ相手からしたら俺のスーツ姿は確かに見た事無い格好だろう。

 一応俺はマントを羽織って着ているスーツが外から見えない様にと隠していたりはしたのだが。

 それでもチラチラと見える部分もあったかもしれない。そこらか察せられて見た事無い恰好などと評価されているっぽい。


(態度が気に食わないって・・・お前がそもそも何様だっていうんだよ?)


 脅している相手が何処の誰なのかと言った調査もこれでは碌にしていないと言う事が知れる。

 むこうの成金ぽっちゃりデブ男は俺への警戒心何て欠片も持っていないらしい。


 そして吐き出させろと言う命令は俺に刃を向けている男に対してのものだろう。


「なあ?アイツって誰の事を言ったんだ?自分が得るはずだったと言うのであれば、それ以上の金額を意地でも提示すれば良かっただろう?相手を恨む前にその上回る金額を示せなかった自らの経済力不足を嘆くべき事じゃ無いか?こうして強盗?只の犯罪者に成り下がって矜持ってモノが無いのか?正面から立ち向かわなかった、立ち向かえなかった時点でアンタには何も得る資格は無いんじゃねーの?」


 この俺の反論に顔真っ赤で立ち上がって唾を吐き出しながら叫ぶ成金デブ。


「この私を愚弄するかこの最底辺のゴミムシがぁ!こいつを殺せ!殺してしまえ!いや!私を愚弄した分をしっかりと後悔するくらいの拷問を与えてから微塵切りにして砂漠にまき散らしてやる!」


 俺はこの国の司法を知らない。強盗、誘拐と、こいつが今宣言した俺にしようとした行為は合算するとどれ程の罪と罰になるのだろうか?


 これらの事を俺が今からドロエアーズに報告しに言った場合は国がこの件を対処してくれると思うのだが。


 まあ証拠が無いと言われて対応してくれない、なんて事は起きないと思う。


 何せ俺はこの国の「英雄様」とか「救世主」扱いされているから、ドロエアーズとアラビアーヌに。

 そんな相手の御願いを無下に断ると言った事も無いだろう。


 なのでそう言った丸投げも良いかと思ったのだが、気に食わない。


(どうしてこうも俺は行く先々で水戸黄門な出会いをしてしまうのか?)


 何処に行ってもこうした理不尽、不条理、悪逆非道、そんな相手と遭遇するなんてどう考えてもおかしいのだ。

 そう言った運命の星の元に生まれて来た覚えは無いし、正義の使者ヅラして何でもカンでも「俺が裁く」とか言うつもりも俺には無いのに。


「お前そう言ってこれまで何人の人を殺して来たんだ?」


 別にこの質問に深い意味は無い。けれども自然とそんな事が口から洩れただけ。

 余りにも自然に相手の口から「殺せ」「拷問」「微塵切り」などと出て来たモノだから慣れているのかと感じたのだが。


 この俺の言葉に向こうはこう答えて来た。


「はっ!何を今さら!怖気づいたから許してくれとでも言うつもりか!許さん!許すはずが無い!お前の様な奴はこれまでに十人以上屠っておるわ!私に刃向かう輩は!私の命令に従わ無い輩は!死ねばよいのだ!寧ろ死ぬべきだ!自ら死ね!私に逆らった事を後悔しながら自ら命を散らせ!私の手を煩わせるな、このクソめが!」


「アウト~。何でこんな奴らばっかりと俺は出会う訳?」


 後でドロエアーズから、或いはテンソウから何かお説教でも食らうかもしれないと思ったが、俺はこの目の前の存在を許す気にはなれなかった。


「ボッ◯ュートになります。」


 俺のワープゲートが成金デブの足元に広がる。

 スッっとそのまま落とし穴に落ちたかの様に、と言うか、実際に穴に落ちたと言えるが、成金デブはこの場から消えた。


 一瞬の出来事に奴に侍っていた女性たちは「え?」と誰もが呆けた顔になっている。

 脅しの為に俺の首に刃を添えてきていた男も目を見開いている。


「さて、俺も行くかね。」


 俺も自分の足元にワープゲートを開いて先程の成金デブを送った場所に移動する。


「砂漠の夜は氷点下にもなるんだったか?寒いよな。じゃあ水に濡れたらどうなるんだろうな?凍え死ぬかな?」


 そう、ここは砂漠の真っただ中。しかも既に夜となって気温も急激に下がり始めた時間帯。


「おごごごぼぼぼぼぼ!?こ!ここは何処だ!?一体どうしてこんな場所に!?どう言う事だ!さっきまで私は屋敷に居たでは無いか!?」


 寒さで震えながらも成金デブが憤っている。未だに相手の名前を知らないのでそのまま俺の中でこいつの呼び名は成金とする。


「さて、この国で死罪ってどれくらいの罪を重ねるとなるんだ?今回は俺相手に誘拐、脅迫、恫喝?物は奪われて無いし、強盗未遂?ソレにこれまで何人も殺したって言う自白があるし、俺が止めを刺しても変わらんよな?と言うか裁判の手間が省けて良いのでは?・・・あ、ダメか。罪を白日の下に晒してその上で正当な理由で資産を全部巻き上げないとこいつには罰にもならないし、国の利益にならないな。ウーン?どうした物かね?」


「お!お前は何を言っている!?そうか!お前の仕業かコレは!どの様な手を使ったかは知らんが私を屋敷に帰せ!許して欲しいのなら今の内だぞ!早く屋敷に私を戻さんか!」


「いや、何でこうも馬鹿な悪党の口にするセリフってのは毎度の事にこんな内容ばっかなんだよ・・・」


 何とかならないモノかと俺は思ってしまう。こんな相手とずっと会話は無理だし、説得も無駄で、時間の浪費にしかならない。

 自分が世界の中心だと心底疑わず、そして今の自らの立場の理解もしようとしない、頭の片隅にその考えも過ぎらない馬鹿の相手は疲れるだけだ。


「まあ頭を冷やしてくださいよ。」


 俺は成金の頭の上に魔法で水の玉を作り出す。ソレをバシャリと破裂させてシャワーとして成金に浴びせる。もちろん冷水である。


「ほぎゃあああああああ!?ツメタイツメタイツメタイツメタイ!?ふごごごっごおごご!?」


 黙らせるには効果があり過ぎた。今度はそれで成金はガチガチと寒さで凍えて奥歯がぶつかり合う音がうるさくなってしまった。


「あー、じゃあ今度は熱湯で。」


「うぎゃああああ!?アツアツ熱々熱々ぅぅぅぅぅぅう!?・・・寒い寒い寒い寒い寒い!ぶっごごごごっごお!?」


 熱湯なので当然そんなのを被れば皮膚が火傷する。しかし適度にこの砂漠の夜の空気は冷えていてその温度は適度に下がって火傷にまでは至らない。


 だけどもソレを被った成金は熱いと大げさに騒ぐ。体が冷えていてソレとお湯の温度差のギャップで熱湯と錯覚してしまっている。


 で、またしても体に掛かった水分はこの砂漠の気温で一気に急降下する訳で。再び寒さに晒される成金の出来上がりである。


 風が吹いてくれば全身ずぶ濡れの成金は急激にその体の体温を奪われる。

 その寒さのせいで既に今は言葉も紡げない程に震えあがっている。


 そこにまた俺は熱湯をぶっかける。この成金が寒さで凍え過ぎて万が一にも凍死などせぬように。でも暖め過ぎたりはしない。

 コレをずっと繰り返し続ける。それこそ容赦無く。


「俺に拷問してその挙句に微塵切りにして砂漠にポイするんだったか?さて、そんな事を口にしたからには反撃、逆襲される覚悟はあったはずだよな?んん?無かったのか?じゃあ今ソレを理解しようか?殺す覚悟を持つ者は、その相手から殺される覚悟も同時に持たなきゃいけないよ?」


 そんな事を俺は成金に優しく言って教えてやったのだが、向こうは首を縦にも横にも振る余裕すら持ち合わせなかった様で震え続けているばかりだ。


「それとね?理不尽や不条理、権力やお金、それらを遥かに上回る力が世の中にはあるんだ。その事を今ここで体にキッチリと、いや、魂の奥底にまで刻んで帰って貰おうか?ああ、そうそう、これまでお前が殺して来た者たちの無念も一緒にこの機会に考えてみる事をお勧めするよ。拷問を受けるって事がどれだけの苦しみなのか、その身にキッチリと受けると良い。」


 熱する、冷やすだけじゃ無い。俺はここで思いつく限りの拷問とやらをこの成金に体験させてやる事にした。

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