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最後まで見守る俺は只の観客みたいなもの

「下らんな。」


 ドロエアーズがそうぽつりと溢す。


「死ねぇ!」


 剣を振ったのは「ならず者」の男の方が先だった。だけども斬られたのはその男の方である。

 見事に肩口からわき腹に掛けて深く剣で斬り裂かれている。


「おいおい、これ、斬れるのか!?飾りとしてだと思ってたのだが?それにしても切れ味良過ぎるな。どうしたらあの甲殻でこれ程の名剣になるのだ?」


 ドロエアーズがどうにも俺の作った剣を「飾り」或いは「鈍器」の様な物として思っていたらしい。

 しかし俺はどうせコレを使って戦闘になれば斬れなきゃ意味が無いと思ってかなり拘って形成してある。


「いや、コレも国宝だな。そう思えば安い買い物と思えるぞ?競り落として良かった!」


 明るく元気に、そして呑気で無邪気に、ドロエアーズはそう言って上機嫌になる。

 どうやら相当に気に入った模様。でも今はそんな場面じゃ無い。


(うわぁ、剣の達人だ。後の先って言うのか?動いたの明らかに後だろ?)


 ドロエアーズはどうやら物凄く強いらしい。その後もこちらに攻めて来る「ならず者」たちをスパスパと斬って捨てる。

 しかも剣の斬れ味にニッコニコだ。


 さてドロエアーズだけでは無い、ここで動き出しているのは。数名の兵士はアラビアーヌの守護、その他の者たちは行く手を塞ぐ邪魔者を容赦無く処理である。


(俺の出番なんて無いでしょこれ?強いじゃん)


 ドロエアーズの兵士たちに一切の怪我人が出ない。それ程に強い。俺が手助けする場面など無く敵の殲滅をしてしまった。


「こやつら、どうにも私たちを只々舐めていただけらしいな。最初のニヤ付き顔は自信過剰の表れでしか無かったか。罠か何かを張っているのかと思えば、そうでも無かった様だし?ふむ?誰にどの様な言葉で誑かされていたのか。或いはそれ程の魅力的な金額を提示されていたか?」


 弱過ぎる、ドロエアーズはそう言いたいらしい。ついでに罠も疑っていた様だ。

 だけども戦いの素人でしかない俺が見ていた感想で言えば、「ならず者」たちが弱かったのではなく、ドロエアーズたちが強過ぎる。


 別にフォローする気は決して無いのだが。「ならず者」たちが弱かった訳じゃ無いと思うのだ。

 そう、ソレは連携力が足りなかったと言うだけなのだと思う。

 良く訓練された者たちと、そうで無い者たち、そう言った印象である。


「もしくはバラハムの時間稼ぎか。それとも他に何かをまだ企んでいるのか?只の逃げ出す為の囮であるか?まあどうであろうと構わんか。全て踏み潰す。」


 相手が何を画策していようとも関係無いとばかりにドロエアーズは王宮内をずんずん進む。


 さて、門から内に入ればそこは大きな回廊。コレを真っすぐに、ひたすらに前に進むだけ。

 多分このまま行けば玉座の間があるんだろう。そこを先ずは占拠する流れなのだと思う。


(俺はこう言った事に何の経験も何も無いからなぁ。役に立てない)


 作戦?軍略?革命?格式?取り合えずこう言った時の「作法」と言ったモノの知識は俺には無い。


 さて、ドロエアーズの集めた兵たちは強い。俺の出番はそう無さそうであるが。

 一応はこのまま姿を見せずに付いて行くべきなのだろう。


(何かが起きてからじゃ遅いからな。万が一ってのを考えておくべきか)


 俺は全て終わらせられる力を持っている。しかし今回の事は裏でヒッソリと静かにサポートするだけと俺は決めてあった。

 だから余りにも危険な場面にでもならなければ手出しはしないつもりである。

 これの主役はドロエアーズとアラビアーヌだ。俺が前に出ない方が良い。


(俺はあくまでも観光がしたいんだよ。こんな事に関わり合うつもりでやって来たんじゃぁ無い)


 こうして回廊をかなり進んでようやっと大きな大きな両開き扉が現れた。コレを大きな盾を持つ兵二名がドロエアーズの前に出て開く。


 盾を構えた兵士がそのまま部屋の中へと入るのだが、これと言った攻撃がやって来ない。静かだった。

 そしてソレがどうしてなのかの報告がさっきの盾持ち兵から為される。


「玉座の間には誰も居ない模様です!」


「王の証だけを持って逃げたな?あの馬鹿め。手間を取らせる。」


(いや、俺は居ないの知ってたけどね?それと、バラハムとその護衛、太鼓持ちの貴族ども?そいつら一緒にどうやら隠し部屋に居るみたいだよ?)


 俺は既に魔力ソナーでここの全ては把握してしまっていた。だけどもソレを俺はドロエアーズには伝えていない。

 最後までドロエアーズたちだけの力で「自分たちでやり遂げた」と言った感じにしないと、俺の事をまたアラビアーヌが「神」とか言ってきそうだし。


 ドロエアーズも俺に対して何と言ってくるか分からない。

 どうにも彼は「物語」が好きな様だし、もしかしたら俺の事をそれらの中の登場人物などになぞらえたりとかして呼んで来る事も考えられる。


 そうするとつくづく面倒臭い。もうそう言った呼ばれ方をされるのは一々否定するのも労力を取られるから。


 ここで俺は事を早く終わらせるために何かヒントを出した方が良いかと思ったのだが。


「あの馬鹿と、バカを担ぎ上げた者たちの事だ。何処かに隠れたか、或いは既に隠し通路に逃げ込んで逃走を図ったか。そのどちらかだろう。」


 もう既に予想はしてあったらしい。ドロエアーズは直ぐに兵士たちに自らの知る「隠し部屋」を教えてそこへと向かわせている。


「アラビアーヌ、玉座に座っておけ。お前は何もせずにそこに座って堂々としているだけで良い。私が全てを片づける。お前が王となったら後見人になって協力はするからな。心配をしないでも良い。」


「よろしくお願いしますアズ叔父様。」


 そう言って一礼してからアラビアーヌはこの部屋にある唯一の椅子、金ぴかに輝く黄金のソレに座った。

 護衛が十名この場に残ってドロエアーズはこの部屋を出て行った。ソレはもちろんバラハムを見つけに行く為だ。

 ここに残って指揮を取るのでは無く、自ら出向いてバラハムを捕縛、あるいはその場で斬り捨る心算なのかもしれない。


(俺はどっちに付いていれば良いかね?うーん?まあアラビアーヌの方には俺の魔力を充分に纏わせておけば良いだろうから、ドロエアーズの方に付いて行くか)


 玉座に座ったままで居るだけならば別に俺がここに残っていなくても良いだろう。

 アラビアーヌへと奇襲を仕掛けられたとしても、俺の魔力を纏わせておけば傷一つ負わないだろうから。


 と言う事で俺はドロエアーズの後ろに付いて行く。もちろん俺の姿は見せないままだ。


 ここで俺は考える。早い所この問題を解決するなら俺がドロエアーズに何処の部屋にバラハムが居るかを教えた方が良いと。


(この廊下の一番奥まで言った先、左折、右手側二番目の大部屋)


 俺はドロエアーズだけにこの情報を教えた。本人だけに聞こえる様に。


 これにドロエアーズがピクリと一瞬止まる。だがこれを俺だと察して直ぐに歩みを再開した。

 そして教えた通りの場所へと一直線に早足で向かう。


 その部屋の前に到着したドロエアーズは一呼吸開けてから扉をゆっくりと開いて中へと入る。ドロエアーズに付いて来た護衛四名もその後に続く。


 そして部屋の中央でドロエアーズは床を二度強く踏みつけた。


 すると壁に掛けられていた飾り織物の一部が出っ張って来る。

 どうやら隠し部屋に入る為の仕掛けを起動したらしい。


 その出っ張りを押し込んで元に戻すドロエアーズ。すると床の一部が「ガコッ」と開いた。


「行くぞ。二名は先行、真ん中に私が、一名は後方、残り一名はこの場で待機。」


 万が一などあると面倒なので俺もこれに付いて行く。最後尾だ。


 隠し部屋へと繋がっている地下へと続く階段。そこに一歩一歩慎重に進んでいく一行。

 内部はしっかりと作られており、狭いと言った印象は無い。

 大人三人が並んで進む事が出来る道幅だ。階段を下り切った先の通路は天井も高く、圧迫感などは無い。

 等間隔で灯っている壁に固定されているランプの光は淡いが充分に視界を確保できている。


 その通路を10m程も進めば扉が。その扉を先行していた二名が勢い良く蹴り開ける。


「バラハム!貴様を殺さねばならん私の気持ちが解かるか!この馬鹿者が!」


「くッ!?何故こうも早く見つかったのだ!?一体アイツらは何をやっている!高い金を払って雇ってやったと言うのに!クソが!」


 小デブな体系の、頭にサークレットを付けているこの人物が恐らくはバラハムなのだろう。

 しかもどうやらあの「ならず者」たちはやはり時間稼ぎ用だったみたいである。


 この隠し部屋にはバラハム以外にも三名の大臣?っぽいオッサンが。それと恐らくは護衛の為の近衛兵だと思わしき武装した者が五名居る。合計で九名。


 この隠し部屋、広いのだ。簡単に言えば学校の教室くらい?イメージ的に。

 天井高さもそれくらいあるのでここで戦闘になっても立ち回りはそこそこ出来るだろう。


(と言うか、王様の住むお城やら王宮ってのは必ずこういう隠し部屋とか言うのを作らないといけないモンなのかね?)


 俺がそんな下らない事を考えているとドロエアーズは淡々と言葉を続ける。


「お前たちも覚悟しておけ。この様な事を許すはずも無い。相応の破滅を与えてやる。」


 近衛兵の後ろに縮こまっている三名のオッサンに対してもドロエアーズはそう宣言した。


「ふん!ここで貴様を殺せば済む事だ!やれ!アラビアーヌの方はもう今頃死んでいるはずだ!こいつを片づければ全て解決だ!うはははは!」


「なに?アラビアーヌが危ないか。だが、今から引き返す事はできん。ここでお前を逃がす訳にはいかん。生きて捕縛をしておきたかったが、ソレをする余裕は無くなってしまったな。全力でこの場は片づける。死ね、バラハム。お前には王族としての誇りも矜持も持たせずに死体だけを晒す。慈悲は無い。自らの愚かさを恨めよ?」


 ドロエアーズが剣を抜くと同時に相手の方の近衛兵も剣を抜いた。


(アラビアーヌは多分無事だけどな。俺がちゃんと魔力を纏わせて防御してるし?あの守りを抜いて致命傷を与えられたら正直に言って普通に感心して諦めもつくよ)


 この事実を知っているのはこの場で俺だけ。心配しているドロエアーズに教えてやっても良かったが、間に合わなかった。


 戦闘が始まってしまったのだ。こちらは四名、向こうは五名。一人余裕のあるバラハム側が有利だ。


(まあやらせはしないけど)


 バラハム側の兵は流石に雑魚とは違う。ドロエアーズたちと互角に斬り合っていて、決着が即座に付かない。


「早く奴を殺さぬか!おい!お前!何故加勢しに行かないんだ!」


(そりゃもちろん俺が操ってるからに決まってるんだけどね)


 バラハム側の余った一人を俺が魔力固めで動けなくさせているのだ。そんな状態では当然加勢したくても出来ないだろう。

 ここでこいつに動かれてはドロエアーズ側が負けるのが確定してしまう。

 俺はそんな光景を目にする為に付いて来た訳じゃ無い。だからここで手を出したのだ。


 そうしている内に情勢は崩れた。ドロエアーズが気合一閃、相手に突きをお見舞いして倒す事に成功した。

 もうこうなると拮抗は出来ず、あれよあれよとバラハム側の兵は斬り捨てられていく。


 最後に俺が拘束していた兵にも一撃が迫る。俺はその攻撃が当たる瞬間に魔力固めを解除。見事にその兵は剣を躱し切れずにザックリと斬られて床に倒れ伏す。


 これに小さく悲鳴を上げるバラハムと以下三名。


 ハゲ、ガリガリ、出っ歯のどうにもバラハムの太鼓持ち?に見える大臣三名は怯えてその顔が真っ青に変わっている。


 逆にバラハムは怒りで真っ赤になったり、追い詰められた事で青くなったりと目まぐるしく変わっている。


「おかしい!おかしい!おかしい!どうしてこうなる!全ての流れは我に有ったはずだ!何処で間違った!?何が悪かったのだ!?有り得ないはずだ!こんな事!」


(ソレは俺が聞きたいよ。何で俺は観光だと思って向かう先々でこうも高確率で面倒な問題とご対面してるんだよ?)


 まるで名探偵の漫画の主人公みたいだ。俺が悪いのだろうか?そんな錯覚さえ覚えてしまいそうである。

 毎度タイミングばっちりなのはどうしてだろうか?


(因果律?運命力?ビビデバビデブー?もうね、諦めた方が良いのかな?)


 この先も俺が何処か新天地へと向かうと、やはり今回の事の様に何かとトラブルの方が俺にまた接触してくるのだろうか?

 ソレを思ってみてもしょうがない、虚しくなるだけなので目の前の断罪劇場に注意を向ける。


 その前に。


「ドロエアーズ、アラビアーヌには俺がアレだ、防衛策を施してあるから心配すんな。多分無事だ。コイツを生け捕りにしたかったんだろ?別に焦らなくても良いぞ?」


 俺はここでやっと姿を露わにする。もうここまで来たら騒動も終盤だ。俺が出る幕はもう無いだろうし、いい加減姿を見せてしまっても構わないだろう。


「き!?キサマ誰だ!?何処から現れた!?」


「・・・いたのかずっと。てっきりアラビアーヌの方に居るものだとばかり思っていたのだが・・・」


 チラリと一瞬だけドロエアーズが最後に斬った兵に視線を向けた。どうやら俺がやったのだと察した様だ。

 戦闘中にドロエアーズは疑問に思ってたんだろう。何でこちらへと攻撃を仕掛けずにこの兵は黙って突っ立っていたのかを。

 その「答え」を俺にどうやら見出した様子だ。感が良い。正解である。


 ここでいきなりバラハムが笑い出した。


「くッくッくッく・・・くはッはッは!はぁーッはッはッは!我を殺すのか!?ならば王の証はどうする?隠し場所は我しか知らんのだ!拷問をされても吐きはせんぞ!絶対にな!精々探し回り這いつくばれば良い!」


 どうにもその「王の証」を盾にしてバラハムは自分の立ち位置の有利性を主張し始めた。


「何処までも意地汚い真似をする。何処だ?隠し場所を素直に言えば苦しまずに死なせてやる。」


「耳が遠くなったか叔父上殿?我は言ったぞ?拷問を受けても吐かんとな!」


 ここでドロエアーズは苦い顔をする。王の証とやらは相当に重要な物なのだと言うのがその表情で分かる。

 なのでここで俺は助け船を出した。


「俺が探そうか?」


 この短い一言にこの場の誰もが疑いを目を向けて来る。

 しかし一番早く元に戻ったのはドロエアーズだ。


「何とかして貰えるのならば、よろしくお願いしたい。頼む。」


「あいよ、で、その「王の証」ってのはどんな形をしたモノなんだ?詳細が分かれば分かる程に探すのが楽になるんだけど。」


「うむ、ならばここでは何だ。場所を変えよう。アラビアーヌも心配だ。」


「ハッタリだ!何処のどいつが探した所で我以外が見つけるなどと言う事は不可能だ!」


 バラハムがそう言って喚くけれども俺もドロエアーズもコレを冷静に流す。


 ドロエアーズはここで兵たちにこの逆賊四名の捕縛を命じた。

 手錠などは無いので縄でそいつらの手首を強く縛って連結して逃げられ無い様にして連行していく。

 途中でバラハムは抵抗を見せてぎゃあぎゃあと叫び出したので猿轡まで嵌められていた。


 玉座の間に戻る途中の通路にて、この罪人四名とはお別れだ。

 こいつらを牢に入れる為に連行していた兵士は別の通路の方へと進む道を変えた。


 俺とドロエアーズはアラビアーヌの居る玉座の間に向かう。

 そして中へと入ってみれば床に倒れ伏す五名の不審者。どうやらアラビアーヌに仕向けられた刺客は返り討ちにされた様だ。


「おかえりなさいませお二人とも。バラハムはどうなりましたか?」


「うむ、無事に捕縛を成功させた。今は牢に入れられている所だろう。お前の方はどうだったのだ?無事であるのはこうして一目で分るのだが・・・」


 ドロエアーズはアラビアーヌを心配してそう言うのだが、目は倒れている刺客たちに向かっている。どういう流れでこうなったのかを知りたいと言った感じだ。


「彼らは突然現れました。私の命を狙って来たのです。付いてくれていた護衛では対応しきれずにその凶刃が私に迫り・・・刺さらなかったのです。ええ、私のこの身には一切の傷はありません。コレは、エンドウ様が?」


 ドロエアーズとアラビアーヌだけじゃ無い。この場に居る兵たちも俺を見て来ている。

 ジッと見て来るので何か言わないとずっとこのままなのかと思って俺は一言。


「まあそうだな。俺の身体は一つだけだし、どっちかに付いていると片方の守りが無くなっちゃうだろ?だから離れている間に何かあっても良い様にと思って仕掛けておいた。」


「そうでしたか。最初は私も驚きましたけど、刺客たちの驚きの方がどうやら大きかった様で。その者らがそれで硬直して隙が出来た際に護衛が倒してくれました。」


 どうやら一瞬で事は終わった様だ。刺客たちもさぞや驚いた事だろう。必殺だと思った一撃が何らの痛痒もその相手に与えられ無かったのだから。

 その驚きが治まるまでの間に斬り倒されたと言うのなら、その時間は相当に長かったはずだ。

 もしくは有り得ないと思ってもう一度殺害を試みようとして動いた所を討たれたのか。


 どうにしろ今アラビアーヌが無事であるのだからそこら辺の事を考える意味は無いのだが。


「よし、ではエンドウよ、王の証を探して貰えるか?見た目は掌に乗る程度の大きさでな。四角いのだ。黄金で出来ていて、我が国の国章が・・・なあ?どうやって探す気だ?」


 説明している途中でドロエアーズが「ふと気が付いた」みたいな感じで疑問を呈してくる。

 そんな事は隠し部屋に居たその時に思いついていても良いハズであるのだが。


「いや、だってだな?出来ると言われてあの時は「ああ、出来るのか」とその場の流れで・・・」


 どうやら勢いだけで俺にあの時は頼んで来たらしい。ドロエアーズは変な部分が抜けている。


 ここでついでとばかりにドロエアーズが頼み事をして来る。


「ソレは置いておいて、スマンが兄の、王の遺骸も探しては貰え無いか?暗殺された事実を広めぬ為に何処かに隠されていると思うのだ。放置は出来ん。国葬もせねばならん。日が経っているので腐敗が進んでいる可能性が高い。一刻も早く回収がしたい。」


 これは深刻な問題である。防腐処理をかなり念入りにやっておかねばこの様な気温の国である。直ぐに死体は腐り始めるだろう。

 ここで考えるべきはその様な対応をバラハムがやっていたかどうかである。


 あの様子じゃそんな指示は出していないだろう。気の利いた配下がいたら、もしかしたらそう言った処置をしているかもしれない、と言った所か。まあ期待は出来ないと思うがそれは。


「じゃあ二つ纏めて探すかね。・・・あー、なるほど。そう言う感じね。ここの中庭の日陰にある池あるでしょ?かなり大きめで深い。その池の底に布でぐるぐる巻きの死体が沈んでるから、ソレが王様っぽいね。」


 どうやら水に沈めて冷やして腐敗を遅らせていた様だ。それでもちょっとキツイかもしれない。

 とは言えこれ以上は俺の仕事じゃ無いのでそこは余計な事を言わないでおく。


「あー、次は井戸ね。王宮の一番端っこの。そこにどうやら王の証ってのが沈んでるみたいだぞ?」


 魔力ソナーで一発解決。コレを使えば面倒な捜索はしないで済むので便利だ。魔法万歳。


 だけども余りにもあっさりと俺がそんな風に言うモノだから、この場の兵たちはどうやら疑惑半分と言った感じの目で俺を見て来ていた。


 いや、半分所では無く「こいつ誰だ?」的な感じである。

 俺がドロエアーズと一緒にこの場に入って来たから何も今の所言ってこないだけと言った模様。


 ここでドロエアーズが命令を出して直ぐに人員を呼び集めて事に当たる様に言うと護衛たちは直ぐに動き出した。


 とは言え、その伝令として動いた護衛の兵は二人だけ。そうしてこの玉座の間に居た最初の護衛の十名の内の八名はこのままアラビアーヌとドロエアーズを守る為にこの場に残っている。


「追加で三名、事が終了した旨を散っている者たちに連絡しろ。この場は心配するな。さっさと招集を掛けてこい。」


 ドロエアーズは再び命令を出して問題が片付いた事を早急に知らせる人員を出した。

 そうしてここでドロエアーズは俺の方に向かってこう言ってくる。


「エンドウが居てくれて助かったな。お前が居なかったらこれ程までに事を早急には終わらせられんかっただろう。もっと面倒が多く残ったはずだ。感謝するぞ。さて、そうなればお前には褒美を与えなければならんな。」


「おいおい、俺の言った事を信じてるのか?池の底だの、井戸に沈んでるだのって。」


「ははははは、何を言うか。アレもコレもと不思議な力を見させられているのだ。今更この程度の事には驚かんし、お前の言葉は信じるに値すると判断したまでだ。」


 一笑に付されてしまった。こういう所はドロエアーズは器が大きい。

 アラビアーヌもウンウンとこれに首を縦に何度も振っていて何とも言え無い微妙な空気だ。

 だってコレを見ている残った護衛兵たちは「え?何で?」と言った表情で俺に視線を向けて来ているから。


(また姿を消してしまった方が良いかなぁ。そういえば俺の事はこの二人以外に知らないはずだろうしなぁ)


 俺は最初から姿を魔法で消したままで居たので集まっている兵たちに認識されていなかったのだ。

 そうした所にいきなり訳知り顔で居る奇妙な奴が降って湧いてくれば兵たちが怪しむのも分かる。と言うか、当たり前に疑うだろう。


 だけどもドロエアーズとアラビアーヌがそんな俺に対して何らも警戒せずに会話をしているからどう言った態度を取れば良いかが分からないと言った所なんだろう。


(タイミングを見てまた姿を見せない様に消えておくか)


 余り俺が出しゃばり過ぎるのも後々で勘違いをさせる要因になる。

 なので俺はここでまた一瞬の隙を突いてまた姿を消す。


「・・・おあ?エンドウよ、何処へ行った?この場には居るのか?」


(もう俺が居なくても大丈夫そうだけどな。一応はキッチリとアラビアーヌが王様になる所までは見物していくか)


 この後は恐らくは色々と手続きやら、国民への発表準備やら、馬鹿な真似した貴族たちの粛清やら、軍部の掌握などなど。

 俺の出る幕が無いイベントのオンパレードだろう。ならばもうここに居なくても良さそうだ。


 だけどもここでバラハムを支持していた者たちの反撃などが起こって逆転される、などと言った事も有り得るかもしれないので王宮に残る事にする。


(捕まえたバラハムを逃がそうとしてくる輩が混じっていないとも限らないしな)


 とは言え、そんな事は先ず起きないだろうと思っている。

 その根拠は余りにもドロエアーズとバラハムとでは圧倒的に兵の質が違うから。


(いや、待てよ?確かにあのバラハムってのは短絡的で間抜けで阿呆で自信過剰なのかもしれないが、ソレを良い様に操っていた者が居たとして?じゃあそいつも同じ様な阿呆なのか?)


 余りにもバラハム側の情報が筒抜け過ぎると感じていたが。ソレはバラハム側の程度の低さを表しているのかと思っていた。

 だけどもこれがもし「仕掛けられていた事だったら?」と考える。


(この王宮内では抵抗を見せて来たのは二百人程度の「ならず者」だけだった。この王宮で働いている守備兵は何処に?それに・・・)


 余りにもここまですんなりと来れてしまい過ぎている。

 ソレにこれまでの間にバラハムがこの国の軍部の掌握をせずにいたとは考え難い。


 と言うかバラハムが王を暗殺などと言うのは相当に根回しが必要だったはずであり。

 そして自分を殺す可能性の高い武力は先に抑え込んでおく事を真っ先に思いつくのが普通な訳で。


(バラハムはあの通りに頭が悪そうだった。大それた謀略ってのは感じない。そう言った類の事をしていた様な様子も言動も無かった。一緒に居たあの三名も本気でガクブルしてたからあいつ等でも無いな?じゃあ、あいつの部下に他に頭の回転が速い軍師が居る?今はここに居ない?じゃあ何処に?)


 妙な流れになっている、そんな感じを受けて俺はドロエアーズに何とコレを伝えようか迷う。


 杞憂であれば良い。だけども備えておいても損は無い。

 心構えが出来ていれば事がもしも起こった時に決断を早く済ませられる。

 準備をしてあれば初動対応もスムーズにいく。


 そうして俺がドロエアーズに声を掛けようとしたその時に、甲高い笛の音がこの玉座の間に響いて来た。

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