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見た目のインパクトは武器

 ここは王弟、ドロエアーズの屋敷の一部屋。客間である。


「私の人生で物語の中に出て来る「魔法使い」に出会える事になろうとは夢にも思わなんだ。」


 ドロエアーズは物凄く上機嫌でそんな事を言う。


「しかもアラビアーヌが「神」などとお主を呼んだそうだな?ふはははは!愉快だ!確かにこの様な真似ができる存在が私たちと同じ人とは思えんだろうな。極限状態であったならば冷静な観察も出来んだろうから余計にな。」


 俺とアラビアーヌが出会った時の話を面白そうに言う。

 そして他には何が出来るのかと俺に質問してくる始末だ。


「後はどんな事が出来たりするんだ?魔法とは目の前にすればこれ程に凄まじい物なのであるなぁ。雨を降らせ、虚ろなる穴に幾らでも物を出し入れできるなどと、便利過ぎる。もっと何が出来るのかを教えてくれぬか?」


「アンタ、はしゃぎ過ぎだろう。明日の準備は、ああ、既にもう済んでるって言ってたな。」


 こうして屋敷に来てからも別段静かなモノだ。こう言った電撃作戦は敵に悟られ無い様に水面下でバレない様に準備されるモノなのだろうが。

 それにしても動きが無さ過ぎる様に感じる。


「なあ?本当に準備は終わってるのか?」


「うむ?既に明日に討ち入りすると言うのは連絡済みだ。各場から王宮前に決められた時間に武装状態で駆けつけて来る様になっている。ふむ、まだ終わっていないと言うのであれば、私の鎧かな?兄に王座を譲る際に私の所有していた武具の全てを一緒に放棄したからなぁ。アレは痛かった。お気に入りの鎧と剣だったのだがね。それと同等の代わりを用意できないで今この状況だ。明日の王宮前での演説は締まら無いモノになってしまうだろうなぁ。恰好が付かん。」


 ドロエアーズのこの言葉に「そんなもんなのか?」と思いつつ俺は茶を啜りながら返す。


「別になんだって良いんじゃ無いか?」


「格の違いって言うものを見せつけないとならんよ。国民は第一に先ず見た目の印象の強さで注目を集めねばな。そこらかだ、言葉を使うのは。そこいらの平民が台上に上がって喋ったとしよう。ソレがどんなに有難い説法でも、誰も彼もがマトモにその言葉に耳を貸さんだろう。しっかりと一目で「只者では無い」と惹き付けねばこちらの話を最初から聞こうとも思わないのが大衆と言うモノだ。うむ、そうなのだ。あの赤で鎧一式が組めれば間違いなく良かったんだがな。武具職人に頼んだ所で間に合うはずも無い。残念だ。アレで作った鎧であれば一発なんだが。」


 確かに見た目のインパクトで相手の気を引いてこちらの話に集中させると言った流れは分かる。

 しかしそこは「王弟」と言う部分を最初に出せばそんなのは関係無くなるのでは?と思ってその点を聞いてみると。


「ソレを誰が信じるか、だな。証拠が無いのだ。その場で証明する術が無い。幾ら言葉を重ねようと疑う余地は残ってしまう。だが大衆というのは妙な部分で正直だ。こんな立派な見た目の鎧を着た人物が偉い人じゃない訳が無い、とか思ってしまうモノなのだよ。そもそも今回はバラハム、王を暗殺などと言った汚い手を使って王位を簒奪しようとしている輩の討伐だ。私だけが武装せず、などと言った恥は掻けない。集まった部下たちが全員武器を手にして、鎧を着て、などと言った空間にその代表たる私が静かにそれらに埋もれてしまう様な武装では情けなさ過ぎるだろう。何処に居ても私が目立つ様にしておかねば恰好が悪い。」


 ここまで言うのだから手は打ってあるのだろうと思って聞いてみれば。


「で、間に合わせは有るのか?」


「・・・無い。」


 遠い目をしてドロエアーズはぽつりと呟く。これに俺は「無いんかい」と思わず突っ込んでしまった。

 自説を延々と口にしていたクセに、準備は既にもう終わっていると言っていたクセに。


「いや、用意はしておいてあるんだ。一応の物は。だけどなぁ、目を引き付ける様なものじゃ無く、地味なのだよ、これが。国民の支持を得やすく、分かり易くする為にも、もっと目立つのが欲しい所だったんだが、今から改修しても納得のいく物は出来上がらないだろうしな。ここは我慢せねばなぁ。」


「・・・ふーん、じゃあ俺がそこは一肌脱ぐかね?」


「・・・うん?」


 一肌脱ぐと言った言葉の意味は通じていなかったが、ドロエアーズは俺のこの一言に反応してこちらを見て来る。


「あの赤いサソリの甲殻を使えば良いんだろ?あれって鎧の素材になるのな。じゃあここじゃ出せないから庭に出すか?余計な人目の付かない場所が良いと思うが。」


「・・・おおおお?やれるのか?お主は武具職人だったか?ならば!ならばお願いしても良いだろうか!?いや、金は払うぞちゃんと!幾らだ?・・・あ、そうか、作るにしても明日に間に合うはずも・・・うん?今の流れだと間に合うと言う事で良いのか?・・・ほ、本当に?」


「態度が崩れ過ぎだろ。まるで子供みたいなはしゃぎ方だな?まあ、良いか。」


 アラビアーヌも一緒にこの部屋に居て優雅にお茶を楽しんでいたのだが、このドロエアーズの喜び方に苦笑いを浮かべるだけだ。

 昔からこんな性格だったのだろう。そりゃ自分の兄に早々に王の座を押し付けるはずだ。


 多分だが、自分のやりたい事に夢中になってしまうのだろうドロエアーズは。

 だからさっさと争いやら派閥などが出来ない様に早めに身を引いたと。


(バラハムの事を考えると、恐らくドロエアーズを担ぎ出そうとする奴も出ていただろうからなぁ)


 この国は別に王は男じゃ無いとダメ、みたいな事は無さそうだ。

 アラビアーヌが王として起ったとしても別に問題と言った事は無い様な話の流れだった。


 もし暗殺などと言う事が起きなかったらアラビアーヌが女王として順調に据えられていたのでは無いだろうか?

 そこにその弟のバラハムがこうして出しゃばって来ていると言う事は、ドロエアーズの時も同じ事が起こっていた可能性は高いと見ても良いはず。


(どこの世界にも権力欲や権威欲、それと地位欲か?これらを満たしたいと願って悪を為す奴らが出て来るもんなんだなぁ)


 権勢を求めて無道を働く悪はどんな所にも湧く。何とも人とは何処まで行っても愚かであると思ってしまう。

 自分も確かに愚昧なのだろうとは思うが、こうした悪を為そうと言った事は一度だって考えた事は無い。

 それこそ、人を殺してまでその地位を奪ってやろう、などと言う事は絶対に。


「王様ってのはそんな事をしてでも奪いたい程の立場なのかね?」


 俺は庭に出て来ている。この屋敷の中庭だ。流石に王弟と言うだけあって敷地は広いし、庭にちょっとした池もある。

 その周囲には狭く小さいながらも芝生が有って、ここが砂漠のど真ん中にある国だと言う事を一瞬だけ忘れさせるような庭だ。

 屋敷もアレだ。アラビアンな建物で、天辺にはあの「玉ねぎ」の形をした屋根?みたいになっていたりして。


(ここまで俺のイメージと重なるとか、妙な気持ちになるなぁ)


 ここは俺の以前生きていた地球では無い。アラビアンなど全く無関係なハズで。

 しかしこうした何とも一致する部分があると不思議としか思えない。


 そんな庭で俺はあの赤い巨大サソリを取り出した。コレを見学するのはアラビアーヌとドロエアーズ。

 それとどうやらドロエアーズが呼び出したのであろう武具職人だろう者が三名。


 何故そう思ったのかと言えば、その手に道具箱、それと何の物かは分からないが大きな一枚革を、追加であの冷感素材の蜥蜴の皮も持ってきていたからである。


「肉は食えるんだったよな?まだ俺の方で預かっておくか?ああ、なら分かった。今回は甲殻だけな。」


 俺は出した赤サソリの甲殻だけを外す。もちろん魔法でだ。

 中身の方は甲殻に魔法で作り出した隙間からにゅるり、と絞り出してインベントリに再びしまう。


 甲殻に俺の魔力を浸透させれば簡単に操作できる。変化させられる。

 なのでドロエアーズの身体にぴったりな鎧を製作する事が可能だ。


 西洋鎧、あの金属でできた全身フルプレート。あんな重そうな鎧でもその者に合った調整をキッチリとされていれば軽快な動きも可能なのだと、何かの雑学本で読んだ覚えがある。


 そんな金属よりも頑強で軽いのだ。このサソリの甲殻は。

 なのでその点を踏まえてしっかりと作り込めばまるで着ていないかの様、とは言い過ぎだろうが、ソレに近いと表現できる良い物を作れるのでは?と。


「・・・おおお、凄いな。これは、言葉にできぬ。」


 ドロエアーズが俺のやっている事に驚いている。

 既にもう俺は甲殻を変形させてドロエアーズの身体に沿わせて調整し始めている。


 こう言った事は確かに時間を掛けてじっくりとするモノだろうが。

 俺の魔力で楽に形成させる事が出来るのだからそんな時間はゼロに出来る。


「それで、どう言った形にする?内側はもう大丈夫そうだろ?だったら外側、見た目は?この国での鎧と同じ見た目で良いのか?」


 俺の言葉に驚いているのはドロエアーズだけじゃ無い。武具職人は俺のやっている事をあんぐりと大きく口を開けて間抜けな顔で見ている。

 アラビアーヌだけが苦笑いを浮かべて冷静である。


「・・・は!?う、うむ、そうだな。こうなったらエンドウ、お主の考える物でやってみようでは無いか。見た目は大事だ。誰もが見た事も無い様な素晴らしい物であれば、それこそ何も文句を付ける部分など無いぞ?既にこのままでも動きに何らの支障も出ていない事で寧ろ逆に恐ろしく感じる程だ。」


「ならド派手に行くか。とは言え、俺の考える装飾何てイラストレーターが考える物と比べたら地味なモンになるだろうけどな。あ、インナーは冷感素材を入れるから多少の余裕は入れておかないとダメか?ちょっと隙間を入れて緩める?」


「そうだな、もう後、爪程の厚さの隙間は作れるか?・・・むお?即座に調整が出来るのは便利過ぎるな・・・」


 俺は注文通りに隙間を作ってその後は全体バランスを考えた外装のデザインを考えてあーでも無い、こうでも無いと唸りながら制作を続けた。


 そうして時間は三十分も経つ頃に、何処からどう見ても「ゲームやアニメ」で出てきそうな複雑ド派手で豪勢なデザインの見た目の全身フルプレートの西洋鎧が爆誕してしまった。


 全体は真っ赤、だけどもそこには武具職人が一部持ち込んでいた装飾用の金属を組み込んで部分部分にアクセントを入れるなどして一色だけ、と言った形にはならない様にした。


 マントも作って肩の部分に留められる様にしてあって、その真っ白なマントが真っ赤な鎧とのコントラストで目に眩しい。

 このマントのはもともとが灰色だった布を使っている。だけどもソレを俺は魔法で漂泊して真っ白にした。

 コチラのマントは別に何らの効果も無い只の布だ。日差しを直接鎧に受けない様にする為の只の日除けに過ぎない。


 この完成した鎧を着て池に移る自分を見てドロエアーズが絶賛の言葉を紡ぐ。


「コレは国宝だな。この様な物はこの世に二つも無かろうて。・・・おお、コレを着て私は明日、起つのだな。心の底から震えがくるな。」


 武者震いと言った具合にその身を引き締め直したドロエアーズ。

 それが終わると武具職人たちへと向けて謝罪の言葉を口にした。


「済まなかったなお前たち。出番が無い事は悔しかっただろう。私もこれ程の事になろうとは思っても見なかったのでな。ちゃんと代金は支払う。・・・だが、ここで見た事は一切の口外を禁ずる。意味は、詳しく言わんでも分かっている様子だな、その分だと。」


 武具職人たちは真剣な顔つきでドロエアーズを見ている。いや、その着ている鎧に目を奪われていると言った方が良いかもしれない。


「さて、これ程の鎧に相応しい剣を見繕わねばならぬか。問題が一つ解決しても、新たな問題が、なあ?」


 ちらっとドロエアーズがこちらを見て来た。武器も作ってくれとの要求がそこにはありありと込められている。


「まあ、しょうがないだろ。コレもこの赤いので作っても良いか?と言うか、デカいから素材が余りまくってるけどな。ほほイのホイっと。」


 武器までこの際だ。真っ赤で良いだろう。出来上がった鎧とのバランスを考えてコレもデザインを「ゲームやアニメ」みたいな形に整えてドロエアーズに渡す。

 ソレに合わせた鞘も作って鎧に細工も付ける。鞘を腰にセットできる様にだ。


「おおお!これはなんとも!いやー、エンドウが居てくれて助かった。これ程の凄まじい物を作ってくれたのだ。今後お主には頭が上がらんな。」


 兜を被ったままでそんな事を言ってくるドロエアーズ。兜を取る気配が無い。

 着脱が簡単にし易い様に、コレを作っている途中で武具職人に相談しながら工夫して鎧を作ってあるので兜くらいは一人でも外せるのだが。

 どうにも心底気に入ったらしい。早速できた剣を抜いて素振りし始めた。そして言う。


「ふはははは!なんだこれは!?動き易いにも程があると言うモノだ!腕も脚も何らの違和感も無いぞ!ふははっはは!ふあっははははは!ふあはははははははは!胴の捻りにも支障が何処にも出ないとは!魔法とはこれ程までに何でもできてしまうモノなのだな!うははははは!素晴らしい!素晴らしいぞ!」


 プレゼントを貰って直ぐにそれで遊び始める子供だ。嬉し過ぎてはしゃぎ続ける子供だ。

 ドロエアーズはその後に10分近くは動き続けていた。

 一応はその間もずっと武具職人たちは帰らずにこの場に留まっていた。


 何かしらの調整を施す事もあるかもと言った考えであっての事だったと思う。だってこの場に呼ばれたのはその為だったはずだから。

 しかしドロエアーズは本当に不満の一つも無かったんだろう。あらゆる動きをしていても、そこで何らの意見も言わずに「なんだこれは!?」とか「どんな動きにも違和感が出んな!?」と嬉しそうに言うだけで武具職人の出番が無かった。


 しかも挙句の果てにこんなふざけた事を言い始める始末である。


「私は今日一日、これを着たままで居よう!徹底的に慣らしておく!明日は私が先頭で王宮に入るからな。咄嗟の動きも出来る様にと馴染ませておく事は必要だ。」


 これにはこの場に居る全員で「呆れ」を込めた溜息を同時に吐く事になった。


 そうして翌日の早朝、日の光がまだ世の中を照らす少し前にて出発を開始した。

 武装集団の先頭を行くのは昨日に製作した武具を着込んだドロエアーズと、豪奢な衣装を着たアラビアーヌ。

 その後ろを三十名の統一した武装集団が続いている。


 今歩いている道はこの国の中心、王宮へと一直線に繋がっている大通り。

 そこを真っ赤っかに目立つ鎧で歩くのだから滅茶苦茶目立つ。


 既に通りには仕事に向かう住民がコレを目にしていた。大勢、とまでは言わないが、かなりの人数がコレを目にする事だろう。

 何せかなりの距離を行進するのだ。その分だけ人々の目にコレが晒される事になる。


 そんな俺は自分の姿を魔法で見せない様にしてこの行進に付いて行っている。

 ここは俺が主役では無いのだ。ドロエアーズとアラビアーヌが目立たないとならない。


 この行進に対して何だ何だと好奇心と興味に駆られた者が後ろを付いて来ている。

 ソレが結構な数に膨れ上がるのは想定内だ。後でこの野次馬たちから王宮前でやる演説の内容を広めて貰う為にも「一人も居ない」なんて事は無い方が良いのだから。


 まあその点に関しては情報操作の為の人員も確保して動かしてはいるだろうが。

 只々に話を広めるのであればこうして野次馬を使った方が労力も少なくて済む。

 その後に情報操作をする方が楽と言えば楽だろうから。


 こうして王宮に近づいて行けばドンドンと同一の武装をした者たちが王宮前に集まってくる。

 そう言った兵たちの各自がどうやら別々の大通りを通って目立ちながらこの集合場所にやって来た様で、その野次馬の数も信じられ無いくらいに膨れ上がっている。


 そんな野次馬たちは集まった武装集団を遠巻きに眺められる場所に居て、決してそこへと近寄ろうとはしない。


 こうして王宮前の広場には約三百名もの武装した兵士が集まった。

 ここで簡易的な台が一つ運ばれてきてその上にドロエアーズとアラビアーヌが立つ。


 演説が始まる。それが解っているので俺はここでこの場に集まった者たちに、野次馬も含めて、全員に二人の言葉がはっきりと聞こえる様に魔法を使っておく。

 拡声器だ。声を張らずともしっかりと内容が届く様に。


「諸君、良く集まってくれた。」


 その一言を口にしたドロエアーズはそこで言葉を一旦止めた。

 その時の表情には少々の驚きが含まれたが、それも一瞬で元に戻る。


 恐らくはそこまで大きく声を張ってはいないのに広場に思った以上に響いたから驚いたんだろう。

 その後にその驚愕を直ぐに引っ込めたのは俺の事を考えての事だろう。それが魔法だと直ぐに気づいたからだと思われる。


「これから王弟であるこの私、ドロエアーズは逆賊、バラハムを討つ。奴は自らの父、王を暗殺した。その椅子に自らが座り、享楽を極めんとする強欲の為にだ。皆はもう知っているはずだ。税が上がった事をその身に染みて。その金はヤツの贅沢に湯水の様に使われている。その様な事がこの国で許されて良いはずが無いのだ。その税金は皆の生活をより良くする為に集められた資金なのだ。国を安定させ、国民の平和を末永く保つ為の、国民全員に幸福を享受させる為に使われる資金である。」


 野次馬たちがここで事実を知った事に動揺を見せていた。

 多くの者が「そんなバカな」と言っているのだが、中には「そうだったのか」と納得した様な呟きをしている者も出ている。

 恐らくは国王が健在であったならばこの様に税金が大幅に上がると言った事はあり得なかったと思い至ったのでは無いだろうか。

 事実を信じられ無い者はこの国でそんな大事件が起きていたと言う事自体に「信じたくない」と言った気持ちなのかもしれない。


「奴はここに居るアラビアーヌ第一王女にその罪を被せ殺そうと画策した。そして、奴はアラビアーヌを殺害した後も、更に大罪を重ねようと画策していた。この私も殺し、玉座に座る資格のある者が自分だけの状況にしようとすらも企んでいたのだ。悪逆非道、その様な薄汚い、血塗れた、欲望だけしか持たぬ獣以下の存在に国を、国民を率いる資格などあるはずが無い。」


 ドロエアーズはここで演説を一度止めた。そしてアラビアーヌに視線を向ける。

 次はアラビアーヌが演説する番らしい。


「私は優秀な部下によってその暗殺を知り、自らの命の危険を察知して直ぐに王宮から逃げ出しました。しかし弟からの、バラハムからの刺客を受けて幾度も死にかけました。ですが、護衛たちがその命を投げ打ってまで助けてくれたおかげで今、こうして生きて私はここに居ます。その者たちの無念の為にも、逆賊、バラハムを、いえ、ソレに連なる欲深き愚か者ども全てを、ドロエアーズ様のお力を借りて討ち取ります。討ち取った暁には私が王の座に就き、税金をこれまでのモノに戻します。いえ、税が上がり、生活が立ち行かなくなった者たちへの支援も同時に行っていく事を此処に誓います。」


 アラビアーヌは御立ち台の上で膝を付いて祈るポーズを取った。

 その姿は野次馬たちの目にはさぞかし美しく映った事だろう。

 何せその時に丁度日の光がドロエアーズとアラビアーヌに射し込んだからだ。


 姿勢を元に戻したアラビアーヌを見てドロエアーズが再び演説を続ける。


「今ここで私たちの言葉を否定するのであれば、この場に王を、私の兄を連れて来るしかない。さあ、出てこい!バラハム!私の前にすぐさまに兄を、マハールト十一世を、ここへと連れてこい!兄の顔を見間違えるはずも無いぞ!影武者などで誤魔化されはせん!アラビアーヌもこの通り、お前の思惑などに殺されずにここに生きている!貴様に逃げ場はない!観念して死を覚悟すると言うのであれば最後の慈悲だ。自害を待ってやっても良い。だが!抵抗すると言うの出ればこの国の歴史の中で一番の愚者の称号をお前の身体に刻んでくれよう!」


 幾ら国王の死を隠しているとはいえ、死体を操って動かす様な事を出来るはずも無いだろう。

 いや、俺の知らない何かがあって殺したハズの国王を生きた様に見せかける方法があるかもしれないが。


(俺だったら魔法でチョチョイノチョイだろうけど。この国には魔法は無いみたいだからなぁ)


「日の光が王宮の門を照らすまでの時間まで待つ。だが、それ以上の時間稼ぎはさせん!この王宮は完全に包囲した!逃げられると思うな!」


 ドロエアーズが怒りを込めてそう叫んだ。まあ、兄が殺されているのだから当然の怒りだろう。

 兄弟仲が悪かった、とか言った話も聞かないし、コレが演技とかでは無いと言うのは分かる。


(王宮結構広いけど、完全包囲?うーん、嘘?まあしょうが無いか。俺がそこら辺をやっておくかね?)


 只の脅しか、あるいは俺の知らない所で兵たちを展開させていたのか。

 此処に集まった兵たちの数では完全包囲などと言う所までは絶対に足りないだろう。

 ハッタリだと俺は判断して王宮の周辺を魔力の壁でさっさと囲んでおいた。


 バラハムに逃げられると後が面倒だからだ。なので隠し通路とかも無いかどうかを念入りに調べていたりもする。


(魔法で瞬時に調べられちゃうの、ズルいよなぁ)


 そんな事は言っていられない。本来ならそう言った隠し通路なる物が有れば、それは王家の秘事とかだったりするのだろうが。

 この度はそうも言ってはいられない。俺がソレを知ってしまうのはしょうがないと思って欲しい所である。


 とは言え、その点も俺が喋らなければ良いだけだ。誰にもコレを教えるつもりは無い。


(隠し通路、見つけちゃったんだよなぁ)


 この王宮、ドロエアーズの屋敷の三倍はあろうかと言った広さ。

 正確な敷地面積とかはそこら辺の知識も無い俺には分からないが。


(コレをここに居る三百って数で捜索?無茶だろうに。あー、でもそこは協力者とか、内通者とかは居たりするか普通に)


 王宮で仕事をしている者の全てが全て、バラハムの部下って事も無いだろう。

 今も何も知らずに働いている一般的な雑用係とかも居るはずな訳で。


 ソレを考えるとこの広さの王宮に務めている人数はどれくらいに膨れ上がるのかと言った所か。

 その中にドロエアーズの諜報部員が混じっていたりするだろう。木を隠すには森、と言った感じか。

 潜入捜査官?みたいな感じで王宮内の事情を調べて外に流す仕事をしている者が居たとしてもおかしくない。


 そんな事を考えていたら時間が来てしまった。

 多分この王宮を建てる際に計算されていたのだと思う。

 日の光が見事なまでに王宮の門を照らして美しく輝いていたのだ。


「時間だ。これより逆賊バラハムを討つ!皆!続けェ!」


 既に門を開ける準備は整っていた。勝手に門が開いたのだ。俺の予想は間違っちゃいなかった。内通者だ。

 そうで無ければこれ程にタイミングばっちりで門の方が勝手に開くとか言った現象は起きたりはしないだろう。


 先頭に立つドロエアーズとアラビアーヌがゆっくりと進む。

 その背後には一糸乱れぬ歩みでその後を追う兵士の行進。壮観だ。


 しかしそこに立ち塞がったのはどうにもこちらに敵意満々の兵隊たち。

 いや、兵隊たちと言うにはちょっとその顔がニヤニヤと汚らしい。

 それと武装が一定規格と言った感じでは無くバラバラな印象を受けた。


 それは「ならず者」と言った印象を受ける者たちである。

 その数も二百近いだろうか?ざっと見た感じは数で負けると分っていながらもこちらに挑んでいる、と言った空気は見えない。


「おっと、王宮には誰も入れるなってお達しされてるんでな?無理に入ろうとするんだったら殺されても文句は言うなよ?」


「私が王弟であると、知っての事か?お前などの様な下者に私が王宮に入る事を止められる資格は無いだろう。そこを退かぬのなら、その言葉、そっくりそのまま返す事になるぞ?」


「へへへ、バラハム国王陛下に直接命令されてるんでな。あんたが何処のどいつであろうが、勅命であればその資格ってのが俺にもあるってもんだ。」


「兄が馬鹿に王位を引き継いだなどと言う話は一切聞いておらんな。戴冠式も行ってはおらんだろうに。この私を抜きにして勝手に王と名乗るのか。ソレはこの国の伝統も格式も無視したやり方だ。国民が許さんよ。王と言うのは国民あっての物だ。兄がソレを許すはずも無かろうて。」


「はっ!そんなものは関係無いな!既にこの国に君臨するのはバラハム様って決まってんだ!今更アンタらが出て来る出番は無い!国王が「敵だ」と言えばソレが全てだ。だから、あんたはここで死ぬんだよ!」


 立ち塞がって来たその男はドロエアーズと問答をしていたのだが、その問答に決着をつける前に剣を抜いていきなり斬り掛かってきた。

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