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叔父さんに話を

 競売が終了した。最後の最後で値段を一気に上げた客が本日の最高額となる。

 一億二千万、これがどれほどの事であるのか?会場がソレに一斉に静かになり、そしてそこから一拍の間を開けて歓声が一気に上がった事でその凄まじさを感じる。


 即決だったのだ。ニュースでやっていた光景を見た事があるが、美術品の競売などで値が決定すると「カンカン」と良く響く木槌で専用の台を叩くアレ。

 その音が会場中にしっかりと行き届いて競売の全ての終了が告げられた。


 その際にアラビアーヌが驚いた様子で「叔父様・・・」と溢していたのが俺の耳に入っている。

 どうやら最後の落札者が王家の身内であったらしいのだ。


 コレは接触しておくべきだろうと判断して店主に話を付けておいた。その落札者との面会の希望を。


 店主はアラビアーヌの事を知っている。そしてその最後の落札者が誰なのかも察していた様子。流石王宮御用達と言った所だ。

 一言静かに「了解しました」とだけ返されて俺たちは控室の方に案内される。

 ここで暫く待っていてくれとの事ではあったのだが、そこに会場スタッフが現れて店主に耳打ちをする。


 俺はソレに耳を傾けた。俺の聴力は魔力で強化させる事が出来るのでソレを盗み聞ぎ、と言っては外聞が悪いが、聞いてみたのだ。


「お客様の中に商品を今直ぐに持ち帰りたいとの要望をされる方がいらっしゃいまして。どう致しますか?」


 多分、競売の終わり後に正式な書類を交わして後に商品をお届け、みたいな形にしていたのだろう。

 しかしここで商品を直接受け取りを申し出た者が出たらしい。


 恐らくは危機感でも覚えたんだろう。あの途中で乱入して来た兵士たちの事で。

 今からでも素早く持ち帰り、即座に処理の方に取り掛かりたいとの心理なのだと思う。


 自分が競り落とした商品を王宮に横取りされては堪らない、そう考えてしまうのかもしれない。


 俺からしてみればインベントリにしまって管理しているのでそう言った心配は一切皆無なのだが。

 しかしソレを知らない者からしたら権力に潰されて店主の店が「取り潰し」になってしまうかもと言った不安が拭えないんだろう。


 幾ら王宮御用達と言えども、その看板を取り上げられてしまったら?

 武装した兵士に盗賊の様な真似をされて無理やり商品を奪われて店を取り壊されたら?


 そんな妄想が始まってしまえば「まさか」とは思いつつも、きっとその不安は何時までも心をぶすぶすと焦がし続けるだろう。


 だったら今ここで受け取りを、と思ってしまうのはしょうがない事だ。

 人の心理を慰撫し安寧させられるのはその不安を抱える当人に実際にその目に「安全」を見せた時だけだ。


 追い返したあの兵士はこの競売会場の外に整列させて固めておいてある。

 一列に並ばせて身動き一つ、言葉の一つも発せない様にさせてあった。


 なので確かに落札者に本日その品を渡して帰しても途中でそれを取り上げられると言った事にはならないと思うのだが。

 後日にその落札者の所に兵士が殴り込みを掛けて来たとしても、その責任をこちらは負えない。


 競売で落とした商品が店に無ければ幾らでも言い訳出来るだろうが。

 しかし実物が手元に存在してしまっていては言い逃れも出来なくなる。

 落札物を今直ぐ引き渡して欲しいと言ったその者はそこら辺を考えているのだろうか?焦りは禁物だと言ってやりたい。


 まだバラハムの件が解決しない限りは品を各落札者に引き渡さない方が安全と言っても良いのだが。

 ソレを理解できている者が少なからず居ると言う事である。コレはちょっと面倒だ。


 まあ王宮で起きている事を知っている者は極少数に過ぎない。ここでソレを察しろと言う方が酷な事なのか。


「落札した金額をキッチリと揃えて今直ぐに支払えるのなら、と言っておきなさい。それと、その後に起きる問題には一切こちらは責任を持たないとも契約書を作って念押しして証拠を取っておきなさい。」


 店主は競売が終わった後は物凄く冷静さを取り戻していた。

 そしてこの問題に対して結構シビアな解決方を示して部下に実行させようとしている。

 今日持って帰りたい奴はその責任を全て背負う覚悟はあるか?と。


 兵士が乱入してきて理不尽、不条理をその口にしたのだ。ソレを会場の者たちは全員がその耳にしている。

 これにしっかりとした危機感を覚えた者は落札した品を「今日」とは言うまい。


 あの「サメ」を出し入れしている所もその目にしている事だ。頭の回転が悪い者で無ければ「契約書だけ交わして預かって貰っておいた方が今は良い」と決断を下すと思われる。


 インベントリはこの会場に集まった客たちにとって、と言うか、店主やらアラビアーヌからも「未知の力」と思われているだろう。

 そうなればその力を利用しようと即座に思いつくのが悪知恵の回る商売人と言う事では無いだろうか?


 やり手の商売人は良いも悪いも、ソレを即座に金に変える方法は無いかと思考を巡らせるものだと俺は勝手に思っている。

 なので今日に落札品を持って帰りたいと言い出した者はまだまだ二流なのかな?とか勝手に失礼な事を俺は思ってしまう。


 こうした対応を終えた後の店主が部屋を出て行き、その後30分くらい経った後に戻って来た。

 そこには本日の最高落札額を叩き出したアラビアーヌの「叔父様」が付いて来ていた。


「テンソウ、ここで私に会わせたい者が居ると言う事だが・・・彼の事なのかね?」


 ソファーに座るマントを羽織り、顔をフードで隠した怪しい人物が部屋に入れば待っていたのだ。

 叔父様とやらがこれに訝し気な表情を浮かべてそう言葉にするのはしょうがない事だ。


「本日の商品は全て彼が「砂狩り」にて得た物でして。ソレを全てこうしてわたくしに信頼して預けてくださいました方で御座いますよ。ドロエアーズ様。」


 店主のこの言葉にドロエアーズと呼ばれた男は睨む様な顔で俺を見て来る。


 しかし直ぐに俺の正面のソファーに座って来て一言。


「何者かね君は?」


 何の探りも入れないド直球な警戒の響きを込めた単刀直入な言葉をぶつけて来た。


「私はエンドウと申します。この国に観光に来た只の一般客で御座いますよ。こちらの貨幣の持ち合わせが無かったもので、知り合った方から情報を聞いて砂漠の生物を獲って来て売れば良いとの事でありましたのでね。こうして伝手を辿ってこちらの店に品を預けたと言った次第でして。」


 俺は自分の正体と訳を話した。これに一切の嘘は無い。全て真実だ。

 説明が足りない部分が大いにあると思うが、納得して貰いたい所だ。


「・・・ふざけている訳では無い様だな。嘘でも無い様だ。」


 未だに俺への警戒は解いていないドロエアーズ。確かにこんな事を言われて「はいそうですか」と直ぐに吞み込める訳でも無いだろう。


「もう一度聞く。お前は、何者だ?」


 さっきよりも圧が高い。その鋭い視線だけで俺を射殺さんばかりである。洗いざらい吐け、そんな気持ちがひしひしと伝わって来る程だ今度の睨み具合は。


「ああ、別に答えは先程と変わりませんが?何を気にしていらっしゃってその様な厳しいお顔をされているのか私にはサッパリです。」


 まだここでアラビアーヌの姿は見せていない。俺が彼女に「まだ味方とは決まっていない」と言っておいたからだ。

 アラビアーヌはこの「叔父様」を味方だと言った認識で居る様だが、ソレはまだ確定じゃ無い。

 裏でニコニコ顔で悪事を働いている者などこの世界だけじゃない、向こうの世界にも存在したのだ。


 ここで直ぐにこのドロエアーズと言う男を信用するのは危険だ。

 これまではずっと「イイ人」だったのが突然に掌を返す、と言った事だってあるかもしれないのだ。

 アラビアーヌの中では頼りになる、或いは自分を助けてくれるだろう人物だと思っているのだろうが。


 この「叔父様」が王宮でバラハムが起こした事を知っていて放置している可能性だってある。

 そんな事をもしもしているのだとすれば、その事にどんな意図が有るのかと言った事も分からないままでは、こちらの正体やら秘密を明かすなんて事は難しい。


(ソレを全て潰してしまえる力を俺は持っているけどね)


 そう言った余裕があるから今俺はこの様にして目の前の重圧を受け流す事が出来ているのだ。


「ふむ、先ずはこちらから多少は胸を開けて見せなければ喋る気も起らんか。私の圧をあっさりと流すか。只者では無い事がこれで証明されている様なものだ。」


 コチラが惚けると向こうが勝手にこちらを只者じゃ無い扱いをしてきた。まあそこら辺は予想範囲内である。

 こうして相手が話の主導権を握らない様にして物事を先に進めていかないとアレもコレもと勝手に決めつけられてしまう。

 そうなると誤解も生じるし、ソレを修正するのが面倒な手間になる。


「ならば先に私の推測から言わせて貰おうか。さっきのお主の言葉が嘘でない事は理解した。ならば、本当にお主は偶々この機にこの国に訪れた観光客なのだろうな。だがな?ここ近日に奇妙な現象が起こっておるのだ。ソレを今こうして私の目の前に突然現れたお主に結び付けない訳が無かろう?」


「何の事ですか?」


「雨」


「はぁ~。そうですか。まあ良いでしょう。それで、続きは?」


「そしてこの競売だな。出て来た品々はこの国での最高記録を三段も四段も飛び越えた様な物ばかりだ。そしてそれらを砂狩りで獲って来たなどと。コレも嘘と言った訳では無さそうだ。どの様な方法を取ったのかは分からん。しかし、その様な事を出来る力を持つ存在をどうしてあの「雨」と繋がりが無いと考えられようか?」


 勘が良いというんだろうこれが。どうやら俺の事を見定める気であるらしいこの「叔父様」は。


「で、その上でどうしますか?」


「どうもこうも無い。お主の力を雇いたい。テンソウ、この部屋の人払いはされているか?」


 ここで話の流れが変わったな、俺はそう思った。これは大胆過ぎる発言だ。

 このドロエアーズが俺を只単に雇うだけなら人払い何て別にしないでも良いハズだ。


 雇った後の事、その仕事内容が外に漏れたら不味いから人払いを求める訳で。


 しかもかなりの警戒をしておきながら俺の事を敵か味方かも不明なのに雇うだなどと言ってくる。豪胆にも程があると思う。

 余りにもこちらに踏み込んでくる一歩が大きいし、しかも「雇う」と言う勝手な向こうの都合が絡んでいる辺りでこのドロエアーズが権力を持つ存在なんだと改めて認識した。


 コチラの都合など御構い無しと言った感じでズケズケとこちらを巻き込もうとする姿勢は自らの行動に自信があるからだろう。

 その自信の根底にあるのは自らが王族だと言った背景なのだろうと推察する。


 店主が部屋から出て行く。これからドロエアーズが話す内容を聞いてはいけないと思っての事だろう。

 そしてついでに人払いも同時に行う為だと思われた。そして部屋のドアが完全に閉まった所でドロエアーズが口を開いた。


 因みに、このドロエアーズ、護衛を連れずに一人でこの場にやって来ている。

 見た目は細マッチョといった具合の様に見えるのだが、こうしてこの場に単独でやって来る程には自分の腕前に自信があるのだろう。


 ちょっとやそっとの事では自分を傷つける事は出来ない、そんな自信が全身から溢れ出ている様に感じる。


 その顔は無精髭、とまでは行かず整えられていて、しかしぱっと見で「無骨」と言う印象を持たせる顔だ。

 それだけで歳がそこそこ高い感じに受け取ってしまうが、しかしよく観察すれば全体的に張りを感じさせる肌をしていて印象がひっくり返る。まだ若い、と。

 髪は金、と言うよりも黄色?と言った感じで、ソレをオールバックにしている。


「・・・ふぅ~。雇う内容を説明せねば受けるも断るも判断が出来ぬだろう。しかしこれは私にとっては大きな賭けだな。さて、バラハムを討つ。お主の力が有ればもう少し楽が出来そうだ。」


「・・・爆弾発言だなぁ。しかも「賭け」と来たかぁ。俺の実力をその目で見ていないんだから、もしかしたら期待外れ、もしくは詐欺、とか疑ったりしないのか?しかも俺が断った場合の事も、ああ、その顔だと覚悟は決まってんのね。俺が敵からの間者だったらどうするつもりだったのか・・・聞きたいような聞きたく無い様な・・・」


 ドロエアーズのその顔には表情と言うモノが無かった。真剣、と言った空気も無ければ睨むと言った感じも無い。

 独特の雰囲気、覚悟の決まった無心の境地だ。こう言った人間は「怖ろしい」のだ。次に何をしてくるのかサッパリ読めない。


「はぁ~、事情、説明してくれます?腹の内をしっかりとここでブッチャケてくれたら、こっちも全部お見せしますよ。」


 ここで俺はこの人物が何を考えているのかを引き出そうと思って口調を軽い感じに変えた。

 そして向こうが胸襟を開くのであればこっちにも開く準備があると言う事を伝える。


「ふむ、ならばもうあのバカも近々国民に発令するだろうからな。言ってしまっても良いか。バラハムが兄、国王を暗殺した。仇討ちだ。兄の方が国を安定させられるだろうと思って私は身を引いて隠居をしていたのだ。ソレがどうだ?こんな結末になろうとは思っていなかった。おっと、私の事を教えていなかったな。行ってみれば王弟だ。兄が殺されてしまった以上は次の椅子に座るのは私となるだろう。が、奴は、バラハムはこの私に国王殺しの罪を被せて攻め滅ぼそうと画策している。そして自らが正当な王だとしてこの国に君臨するつもりだ。邪魔者は全て消すなどと言った安直な考えが透けて見える。」


「どれだけ諜報が杜撰なの?もしくは練度低い?バレバレじゃん・・・」


 王弟だと言う事実に驚いていない俺にドロエアーズが「ふむ、驚かんか」と感心していた。

 寧ろバラハムの情報管理の間抜けさに呆れている所を見て「なるほどな」などと妙な納得を勝手にしていたりする。


 そもそもがだ。バラハムの当初考えていた冤罪を被せる相手、アラビアーヌが駄目だったから、今度は叔父を、などと言うのは安易過ぎるのでは?考え無しだろうか?


 しかもアッサリと今度はその叔父にその情報が筒抜けである。これには逆に「罠か?」とか思ってしまうくらいにバラハム、情報がスッパ抜かれ過ぎである。


「おん?そうなると何でこんなトコで大金消費しちゃってんの?私設軍隊の方に回すべきじゃない?」


 自分の身を守る事とバラハムを討ち取る為に事に金を使えよ、と俺は突っ込んだ。


「なに、この程度の金なら微々たるモノだ。それこそあの見事な赤を今買わないで何とする?もう二度とアレを手に入れる機会が訪れないかもと思えば奮発する場面だっただろう?」


「呆れた。どういう思考してんだか。仇討ちするんじゃ無いのかよ。」


「奴は討つ。しかし、それとこれとは別だ。まあ絶対に負ける気がしないからこそだ。これ程に子供じみた真似をする馬鹿だ。打倒すのは簡単なのだ。そこにお主の力が入ってくれればもっと時間は短くできるだろう?味方となってくれれば被害も最小で済むと思うが?どうだ?雇われる気になってはくれたか?」


「俺の事を随分とまあ評価してるけど、何でまた?ソレと事情をぶちまけ過ぎじゃねーの?それにまだ一つ、聞きたいな。で、椅子をその尻で温める気は、あるの?」


 このドロエアーズがどうしてここまで俺を信用しているのかがサッパリだ。どう言った計算でこれ程に俺を高評価しているのか?


 さて、ドロエアーズはそもそもが兄に王の座を譲ったと言うのだ。それこそ玉座への野心は無いハズ。

 しかしだ。ここまでの会話でドロエアーズがどう言った性格しているのかはホンの少しだけ理解した。

 だからこんな質問をしたのだ。王位に就くのは乗り気じゃないんだろ?と。


「そこを聞くのか・・・正直に言って、私は王などやりたくないのだがな。ツケが回って来たと言って良いだろう。兄が上手く国を安定させていると、少々気を緩めていた所でこの様な事になっている。私がもっとしっかりとしていれば兄を死なせる事も無かったのだがな。ソレに、アラビアーヌも行方不明だ。ああ、第一王女の事だ。これは不覚だった。もっと素早く私が動いていれば守ってやれたのだがな。まさかと思って初動が遅れた。捜索はさせているのだが未だ見つけられてはおらん。こうなるともう時間も無い。私がやらねばならん。コレは誰にも肩代わりさせる事が出来ないのでな。あの馬鹿がここまでのモノと読めなかった私の節穴の目を抉り取って兄に謝罪としたいくらいだ。」


「いや、何だよ最後のそのセリフ・・・本気度が酷くてドン引きだよ・・・」


 最後の「抉り取って」の部分で激しく後悔しているとばかりに顔を歪ませてたドロエアーズに俺はドン引き。

 始めて顔を合わせる、何処の馬の骨とも分からぬ人物に対して見せて良い顔じゃ無い。


「さあ、私はもう全てを出した。今度はそちらの番だな?」


 ニヤッと笑って俺に視線をぶつけて来るドロエアーズ。逃がさない、と言った気持ちがその笑顔に込められている。

 これに全て解決できる一手を俺は出して見せた。


 まあアラビアーヌに掛けていた光学迷彩の魔法を解いただけなのだが。


「アズ叔父様、ご無沙汰しております。」


「・・・は?アラビアーヌか?今何処から・・・」


 話をするなら俺じゃ無くてこの件の被害者当人から説明して貰った方が良い。この「叔父様」が敵では無い事はもう判明した事だ。

 これで後で「裏切ります」な展開になったらなったでその時はもうしょうがないだろう。俺の目が節穴だったと言う事だその時は。

 まあここまで来たらそうはならないと思うが。


(それにしてもこのドロエアーズって人はあけすけ過ぎじゃ無かろうか?)


 何で初めて会う俺に対してここまで踏み込んだ話をぶっちゃけれるのか?

 どうにも俺の力を高く見積もって雇う気になってた様だが。

 それにしてもその時点で敵か味方かも分かっちゃいない相手にあそこまでの説明をする何て正気の沙汰では無いと思うのだが。


「まあ話が早くて済むのなら、拗れるよりかは余程マシか。」


 俺はモヤッとする部分は早々に吞み込んで目の前で起こっているちょっとした感動の再会シーンを眺める事にした。


 その後はアラビアーヌが自らのこれまでを全部ドロエアーズに説明する。


 もちろん俺の事も「アラビアーヌの視点」での説明が入っている。

 別に俺はこの説明に補足も入れないし、文句も付けない。黙ってアラビアーヌが話すがままにさせていた。


 どうやらこの「叔父様」との再会をし、そして自らの安全とこの先の展望が見えてきたと感じたのだろう。アラビアーヌは安堵している様に見えた。


 少し長くはなったのだがアラビアーヌの説明は終わる。ここでドロエアーズが一言。


「全ては揃ったな。ならば明日にでもバラハムを討ち取る。」


 俺が雇われるかどうかの返事を聞かずに王宮に攻め入ると口にするドロエアーズ。


「おい、急過ぎだろ。何でそうなるんだよ?」


「既に準備は整えてあったのだ。こうしてアラビアーヌも無事だった。そしてお主が居るだろう?ならばもう無駄に時間をダラダラと伸ばしている意味も無い。国民の害にしかならぬあの馬鹿は。ソレを担ぐ腐った者どもも早急に処分だ。こう言った事は早ければ早い程良い。」


「俺は協力するとは一言も言って無いが?」


「アラビアーヌを助けてくれた事にはこの通り礼を言う。ありがとう、既に命は無いモノだと思っていた。生きていてくれた事に心から安心している。」


 俺はドロエアーズに突っ込みを入れてみたが、ここで頭を下げられて礼を言われてしまった。

 なのでもう一度突っ込んでおく。俺はまだ明確に雇われても良いとは言っていない事を強調する為に。


「それって自分が玉座に座らずに済むからか?」


「痛い所を突いてくる。ソレも少々あるが、それ以前に兄の娘だ。これから馬鹿を滅しようと言う所で王族が私一人になってしまうのは問題も大きかったからな。色々な部分で。」


 まあそう言った面倒なゴタゴタやら格式やら儀式やら手続きなどが王族には必要なのだろうから、そう言った面倒事をアラビアーヌが生きている事で丸ッとスルーできる部分が多いんだろう。

 それはそれで確かに助かると言うモノだ。だけどもさっきから俺の雇用問題に言及してこないドロエアーズ。


 なのではっきりと言ってみた。


「俺は雇われる気は無いぞ?」


「だがアラビアーヌの事は助けてくれるのだろう?ここまで来て放っておくのか?」


「何だよ、逆に痛いトコ突いて来るのかよ。まあ、ここまで来たら最後まで面倒見ないとモヤモヤするからなぁ。確かにそうだよ。俺はこの件を此処で「ハイサヨウナラ」なんてする気は無かったさ。」


「なら話は早い。私の屋敷に来てくれ。そしてその力の一端でも見せてくれると今後の作戦に組み込みやすいのだがな。」


 ニヤリと笑ってドロエアーズが屋敷へ招待すると言ってきた。

 もうこの流れに乗ってしまっても良いのだろう。店主の所から今度は王弟様の御屋敷で御厄介と言う訳だ。


 さて、こうして話は終わったと言った感じでドロエアーズが手をパンパンと二度叩く。

 すると部屋に店主が入って来た。その表情には驚きが無い。

 店主が最初この部屋に居た時にはアラビアーヌの姿は見えていなかったはずだ。

 だけども今はアラビアーヌはその姿を見せているので、これには「突然部屋に現れた」と言った形に受け取っているはずだ店主は。

 しかしその点を追及して来る事も、何故と言った言葉も無い。


 店主は俺の方に近づいて来て一言こう言ってきた。


「どうやらお一人、現金をお持ちになられた落札者がおりまして、ハイ。」


 俺に手間を掛けさせてしまう事に対してどうやら申し訳ないと言った感じだ。

 それと同じ位に現金を持ち込んで来たその商人に対して呆れたと言った感情が混じっている。


「じゃあ行きますか。別に大した労力でも無いし。パパッと出せるから行こうか。」


「うん?もしやお主があの巨大なのを全て持っているのか?どうやってだ?私に見せてくれないかその方法を。」


 多分「サメ」の時の事を思い出してドロエアーズはそんな事を求めたんだろう。それにしても食いつきが早い。

 店主とのこんなちょっとしたやり取りだけだったのに、そこから「答え」を導き出す速度が尋常じゃない。

 幾ら何でも今先程の会話だけであれば何の事か多少は悩むだろう。いや、たったアレだけの内容では普通は「答え」になど辿り着かないはず。


 だけども既に確信を得ているのか、ドロエアーズの顔には何だか妙なワクワクとした感情が浮かんでいる。


「その現場を見せて貰おうか。なーに、邪魔はせん。非常に興味があるな。あの鮮度をどの様にして保っていたのだ?あの巨大さだぞ?何処に仕舞ってあるのだ?有り得んだろう?その有り得ないを見てみたい。」


「呑気過ぎるだろ・・・明日攻め入るんだよな?緊張感無さ過ぎやしないか?」


「言っただろう?あの馬鹿を潰すのに別にそこまでの心配は要らん。手筈は既に全て整えてある。後は仕上げるだけだ。ならば今は目の前にある好奇心を満たすだけだ。」


「うん、確かにアンタは王には向かないな。」


 俺の最後の言葉に店主もアラビアーヌも苦笑いを浮かべているだけだ。

 王弟と言う立場の人物に何も言え無いんだろう。それと、俺と同じ事を思っているからこそ苦笑いとなる訳で。


 こうして俺は店主に案内されて倉庫にやって来た。そこでどの商品を出せば良いのかの説明を聞いてソレをインベントリから取り出し並べていく。


 店主もアラビアーヌも既にインベントリは見ているので静かなモノだ。しかしドロエアーズは大はしゃぎ。

 この場には俺と、店主と、アラビアーヌと、ドロエアーズしか居ないので遠慮無くインベントリを披露である。


「ぬおお?コレは一体どうなっておる!?何だこの穴は!?しかもこれらは凍っているな!?凄まじいな!フハハ!不思議だ!面白過ぎるだろうコレは!どうやったらこの様な事が出来るのだ?教えてはくれぬか?」


 子供の様にはしゃぐドロエアーズ。しかも俺にインベントリをどうしたら使える様になるのかと質問をしてくる。

 俺はこれに簡潔に答えた。


「魔法だよ。魔力が信じられ無いくらいに保有できる様になれば使い方を教えても良いけど。今アレコレ言った所で理解でき無いだろうし、使えないんだから説明するだけ無駄だな。」


「魔法・・・?子供への寝物語に聞かせる竜退治の話に出て来る?・・・魔法は実在するのか!?ならば竜も実在するのか!?」


「何で妙な流れになってんだよ・・・何だその竜退治の物語って・・・」


 変な部分に反応したドロエアーズ。これに俺は「明日、王宮に討ち入りだよね?」と言ってみたが、ドロエアーズは興奮しっぱなしで周囲の言葉が耳に入っていない様だった。

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