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狩りに砂漠へ

「さて、どうやって金を稼ごうか?アラビアーヌ、何か良い案ある?手っ取り早くて楽チン、いや、楽チンじゃ無くても良いや。何かしらドカッ!とな?」


 一時間程水を降らせ続けた後は俺たちは雨宿りしていた若者の家を出た。その時には若者に礼の言葉を貰っている。ソレに俺は気にするなと言って後ろ向きで手を振ってそのまま歩き出した。


 その後は道をぶらぶらと行きながらアラビアーヌに金策は無いかと質問したのだ。


「ある事にはありますが・・・危険です。しかし見返りは大きい。砂狩り、と言う砂の大地で生きる生物を狩り、ソレを売る生業です。」


「ほーん?簡単そうだね。そんなのがあったなら最初っからソレにしとけば良かったかな?まあ良いか。この国の現状がどんな感じになっているかは知れたんだし?このままだとオチオチ観光も楽しんでいられ無いって判ったからなぁ。」


 この国の民が苦しんでいる状況で俺だけ観光で楽しんでいられる訳が無い。

 しかしここでこのままの勢いで俺がこの国の情勢にズバッと介入しようとは思えない。


 俺はこの国の文化を堪能したいのだ。せっかく観光に来たのにそれが「救国」にすり替わるとか何の冗談だ?と。

 でもそんな事は幾らかこれまでにもやって来ているので今更感はあるのだ。なあなあで動いて流されて、と言った具合に。


 だけどもここは初志貫徹、このサハールと言う国の見所や特徴などを体験したい。


「じゃあちょっとその砂狩りってのを教えてくれないか?なーに、俺に掛かればちょちょいのチョイだ。サッとやってパッと稼いで行楽費用を稼ごうじゃ無いか。」


 俺のこの軽い言葉にアラビアーヌが眉根を顰めつつもその「砂狩り」と言うモノがどんな仕事であるのかを詳しく教えてくれた。


 そうして再びやってきました砂漠のど真ん中。俺の目の前には巨大なサソリが五体。


「うーん、この!車くらいにデカいサソリって、まあ、アレだよな?コレって魔物なんだよな?ああ、コレを狩って持って行けば金になるって単純だな、やっぱ。」


 既にその五体は息絶えていて動かない。もちろん俺が即座に息の根を止めているから。


 この五体が出てきたのは俺たちが空を飛んで国を出て適当に遠く離れた場所に降り立った直後だった。

 砂の中からドッパーン!と現れていきなり俺たちを囲って来たのだ。まるで「逃がさない」と言わんばかりに。


 俺はこれに「いや、こんな偶然アリかぁ?」と思わずぼやいてしまった。まあここでアラビアーヌは小さい悲鳴を上げてカチンコチンに固まってしまっていたのだが。


 砂狩りをやってみようと思い立って砂漠に来てみればいきなりのこのお出迎えである。どんな確率なの?と言いたい。


 だけども俺は砂漠に狩りをしに来たのであるからして、別にコレは悪い事では無く、即座にこの巨大サソリ五体を即刻殺したのだが。


「ちょっとこれじゃあ堪能したとは言えないなぁ。砂狩りの醍醐味?全く感じられなかったし?」


 この職業、別にギルドとか、或いは組合などと言ったモノがあるのではなく、完全に実力主義の個人、もしくはパーティでやる仕事なのだそうだ。


 こうして砂漠で狩った獲物を市場に出して、或いは商人に直接持って行って交渉すると言う結構大変な仕事である。


 契約なども一応はあるらしい。毎度の事にしっかりと獲物を持ち帰って来る者はその実力と信頼を買って商人の方からその「砂狩り」に声を掛けると言った事も珍しくないそうだ。


「おっと、俺はドバっとお金を稼ぐのが目的でこうして狩りに来たんだから醍醐味は味わった、って言っても良い、のか?」


 この砂狩りは危険と隣り合わせ。砂漠のこうした魔物を自身の命を掛けて狩るのだから。

 その掛けた「命」と言うチップと自身の実力を鑑みてソレに見合った金を得られるのならばソレで良いのだろうが。


「なあ?この砂狩りって毎年結構な死人が出てるんじゃ無いのか?と言うか、絶対に出るよな?」


 こんなものはハイリスク・ハイリターンな仕事である。随分と死人が出ているに違いないのだ。


「・・・おい、大丈夫か?うーん?インベントリに仕舞っちゃうかこのサソリ。そうじゃないと・・・」


 アラビアーヌ、動けない様子。この巨大サソリの威容に硬直して元に戻れなくなっている。

 彼女はこのサソリが俺の手によって既に死んでいる事を分かっていない模様である。


 ギリギリ失神していないだけ褒める場面なのだろう、この砂漠に住む者にしてみれば。


 俺はもうちょっとだけこの巨大サソリ・・・いや、尾が二本あるし、ハサミは四本、その脚には人なんて簡単に刺し殺せそうな鋭い棘があってコレをサソリと言って良いかは分からない。

 コレをもう少しの間だけ観察してみたかったのだが。


 このアラビアーヌの様子で早めにインベントリに収納する事にした。


 だけどもこのインベントリにサソリ五体を入れた事にもアラビアーヌは驚愕している。


 いや、アラビアーヌの視点で言えば即座に異空間に飲み込まれた様にしか見えていないだろうから、俺の使うインベントリを理解している訳じゃ無いだろう。


 それでもその目にした現象は「何だか良く解らない黒い穴にサソリが入った」である。結局は理解の及ばない光景になっているのは間違いなかろう。


「さて、今の奴って高く売れる?それとも屑値しか付かない?他にどんな種類の生物を狩れば良いかね?おーい、聞いてる?」


 ここで俺は強く手を打ち鳴らしてアラビアーヌの意識をこっちに向く様に仕向けた。

 思いのほか大きな音になって「パン!」と気持ちの良い響きになったのだが、これにアラビアーヌは体をまるでコントの様にぴょーんとジャンプさせた。


 その後は俺の方を二度見、三度見、四度見までしてからようやっと生きた心地にでもなったのか盛大な溜息を吐くのだった。


「今のは、何だったのでしょうか?お聞きしても・・・?」


「今のって言うのは何処から何処までの事?そんな事よりもちゃんと質問に答えてくれない?さっきのは高く売れる?」


「・・・競売に掛ければどれほどの値が付くか分からない程の大物です。」


「アレが珍しいの?大きさが珍しいの?」


「どちらも、です・・・」


「ふーん、じゃあ後はコレとは別のをもう一体か二体狩ったら戻ろうか。」


「いえ、あの・・・先程の五体は、何処へ?」


「持ってるから大丈夫。さあ、後はこの砂漠の生き物ってどんなのが居て、どれくらいの値段なのかもう一回おさらいしよう。」


 俺はアラビアーヌにもう一度この「砂狩り」で良く狩られている生物の事を聞く。


 先程のサソリはサハールでは「黒い死神」とか言われているらしい。


 そう、この巨大サソリ、真っ黒だったのだ。いや、さっきの狩った中には一体だけ真っ赤な奴が混じっていたのだが、ソレは今は気にしないで置く事とする。

 どうせ突然変異種とか、或いは希少種とか、もしくは只の別種とかであったりするのは予想が付く。色が違うだけならそこら辺が適当だろう。別に今詳しく知らないでも良い事実だ。


 それと、普通ならあのサソリは大きさ的にはもっと小さいらしい。

 狩った五体はどれも軽自動車くらいであったが、普通はその半分以下と言った大きさである様だ。


 そんな半分な大きさでも充分に危険な生物で、しかしその肉も甲殻も使い道が様々にあるそうだ。

 実力をしっかりと持つ者が数人がかりで狩るのが通常であり、これが群れになるともっと大掛かりな人数での狩りになる程だと言う。


 そして怪我人が出るのは当たり前に覚悟して、運が悪ければ死人が出る。重傷の可能性は「大」である。


 後は「砂騙し」と言う、どうやら周囲の風景に紛れ込む「カニ」が居るそうだ。

 そいつは自身の全身を特殊な粘着物を分泌してそれに砂を塗して周囲の景色に同化するそうで。

 サソリは地中に潜っていたけれども、こいつはそうやって「紛れ込む」と言った生態であるらしい。


「で、まあ直ぐに俺には分かっちゃうんだけどね。これ、さっきのサソリと同じ位にデカいな?コレも珍しいのか?」


 俺の魔力ソナーなら簡単に発見できてしまうカニ。本来であればコレを見つけるのはかなり経験を積んだ者でないと難しいそうだ。

 だけどもその一体を俺は簡単に見つけてサクッとシメてインベントリへポイである。


 コイツを見つけられずにそのカニの攻撃範囲に不用意に侵入してしまうとそのハサミで脚を挟まれて余裕で骨折させらると言う。

 そう言った咄嗟の時に素早くカニの目を攻撃できた場合、そのハサミは直ぐに外れるらしいので、このカニを狙うのはベテランの者が中心らしい。


「何故立て続けにこうも・・・」


 どうやらこのカニの大きさも通常のモノと比べたら規格外の様だ。アラビアーヌの驚きが言葉にふんだんに含まれている。

 聞けばやっぱりこの軽自動車並みにデカいカニも、本来だったらその半分以下の大きさが普通になるそうで。

 このカニの肉も甲殻も使い道は多様に在って常に市場では求められているそうな。


 さらにはこの砂の「海」には鮫が居る。そう、サメだ。ジョーズだ。

 だけどもそのジョーズ、砂の中を泳が無い。と言うか、砂の上を泳ぐ。いや、ズリズリと体を高速で揺らして前進して迫って来る。その速度は50km近い。


 その全身が白寄りの灰色と言えば良いのだろうか?皮膚の表面はかなりのザラザラでこの勢いで体当たりされたりすれば掠っただけでも相当な被害を生みそうな感じだ。


 皮膚に掠ればそこが紅葉おろしにされそう。凶悪である。


「いや、しかもその大きさが大型トラック並みとか?異常過ぎだろ・・・」


 呆れてモノが言えない。こんな恐ろしい生物を毎度の事「砂狩り」は狩っているのかとアラビアーヌに聞けば、返ってくる答えが無い。


 気絶していた。俺の目の前で魔力固めによって拘束されている巨大ジョーズの迫力と恐怖でどうやら失神してしまった模様。


 時速50km程の速度で迫って来ているサメをいきなり俺が目の前まで来た所で魔力固めで止めたのだ。

 このまま轢かれる、そうアラビアーヌは思ったに違いない。そしてソレに耐えられずに失神したと。


「もしかして今の所、出会ってきた魔物が全部何故かデカい?このサメも、もしかしてもっと本来は小さいモノだったりするのか?」


 アラビアーヌが意識を取り戻さないとそこら辺の話を聞けない。俺はここで休憩を取る事にした。


「それこそ、この砂漠の生態系ってどうなってんだろ?頂点みたいな生物はいるのかね?ソレも狩りの対象なのか?」


 詳しい事は後でアラビアーヌに聞くとして、一端また前回にも作ったコンクリートハウスを砂漠の砂で建ててアラビアーヌを中に運ぶ。

 そのまま彼女を寝かせて俺はお茶を飲んで一旦落ち着く事にした。


 そうして起きたアラビアーヌは大体30分くらいは寝ていただろうか。相当なショックを受けた影響だろう。目が覚めるまでが結構長かったなと思う。

 まだ恐怖を引きずっているのか、目を開けたにも関わらず視線は彷徨い、一つ所に暫く留まっていなかった。


 なので早めに正気に戻してやる為にも俺は声を掛ける。


「起きて座ってお茶でも飲んでくれ。話が聞きたい。なあ?もしかして、デカい?」


 単刀直入に聞く。そもそもがこれまでに狩った獲物が全部が何故かデカ過ぎなのだ。遭遇率が高過ぎるのを不審に思って俺は質問する。


 この大きさを普段から「砂狩り」と言う輩たちが日常的に狩っているのだとしたら、ソレはどんだけ?ってな感じの実力である。

 魔力で身体強化を出来る者たちがこのサハールで「砂狩り」をやっているのだろうか?


 だからそこら辺の事情をちゃんとアラビアーヌに聞いておこうと思ったのだ。


「・・・普通じゃありません。何故こうも巨大になっているこれらと立て続けに遭遇するんです?逆にこちらが聞きたいくらいなのですが・・・」


 どうやら俺たちが遭遇しているモノは全部巨大であるそうだ。普通じゃ無いと言われる。

 気絶する前の事をそこで思い出したのかアラビアーヌが大きくブルリと震え上がって体を硬直させた。


「うーん、多分コレを市場に出したら目立つよな?どうしよっか?このまま売ったら王家に絶対に目を付けられるよなぁ。それにまだこの砂漠で狩れる獲物って何がある?どうせだったらキッチリ全種遭遇してみたいんだけどな。」


 ここまでで狩った獲物を売りに出したらその巨大さで話題になって王の耳にも入る事になるだろう。

 そうすると目を付けられて俺たちの事をアレコレと探って来るに違いない。それは面倒だ。アラビアーヌの事もあるし、そんな展開になったら観光が楽しく無くなってしまいそうだ。


 俺がそんな事を言ったらアラビアーヌはギョッとした目でコチラを見た。


 多分「命が幾らあっても足りない」と言いたいんだろう。そういった目はこれまで色々な出会ってきた人物たちのを見て来ているので彼女の心情が魔法を使わずとも読めてしまう。


 勘弁して欲しい、とアラビアーヌは言いたいのだ。


 だけど俺はせっかくだしこの砂漠のポピュラーな魔物と遭遇してみたい。


「別に今死んでいないだろ?命の安全は俺が保証するよ。だってアラビアーヌは俺の観光案内人だろう?ソレを死なせる様な真似はしないさ。気絶したの、覚えてる?でも、今生きてるでしょ?あのデカいサメは俺が狩って確保したから安心しなよ。」


「・・・あ、安心?あんしん・・・アンシン・・・安心って・・・?」


 アラビアーヌはどうやらまだ精神が安定させられていないらしい。俺の言葉が耳に入っていてもその意味までは脳内に浸透していない模様。


「それじゃあ休憩もここら辺で終わりにしてもうちょっと砂漠を行こうか。あと、遭遇していないのってどんな生物が居るの?」


 俺はそんな質問をしつつ休憩用に作ったハウスを出る。その後ろにアラビアーヌは大きな溜息を吐きながらついて来る。


「それで、まだ出会って無いのはどうしたら会える?特定の場所に行く?特殊な行動を取る?誘き寄せる?見つけ出すのにコツは?あと何種類くらいが「砂狩り」の獲物として人気だったりするのかな?」


 アラビアーヌの反応の悪さに俺は問い詰め気味で質問をする。それに返って来た答えは三種類。


 先ずは「月を転がす者」と言う、いわばフンコロガシだ。虫系である。


 ごく偶にこいつが転がしていた「玉」が大人の大きさくらいまでデカくなってソレが坂道を転がって被害が出たりするそうな。

 この砂漠は地形が風で大きく変わる事もしょっちゅうで、そう言った時に突然このフンコロガシの玉が高くなっている砂丘から出来がった坂道に入って下へ下へと流れ転がりドンドンと大きくなってソレに轢かれる者が以前に存在したのだそうで。


 肉も甲殻も売れないそうなのだが、討伐対象とされているらしい。その場合はその証明として触覚を剝ぎ取って国の管轄している役所に持って行くと金に換えてくれるそうだ。


 以前には2m程まで大きくなった玉が発見された事もあり、そう言った物はもしかしたら不慮の事故の元になるかもしれないとして危険生物にこのフンコロガシは指定されたらしい。


 次に「踊る陽炎」。こいつは蜥蜴だそうだ。


 カニの様に体に砂を塗す様な事はせず、どうやら魔法で姿を消すらしい。

 しかしどうにもその姿を隠す魔法は完璧では無いらしく、良く目を凝らすとその形に陽炎が浮かんでいるのを発見できるそうだ。


 だけどもこの広大な砂漠でそんな曖昧なコレを発見するには熟練の経験と勘などが必要で、しかもその為には相当な集中力を要するらしい。

 確かにこの炎天下の中でその様にして見つけ辛い相手を発見しようとすれば相当な労力を必要とするだろう。


 しかしこの蜥蜴の皮は需要が高いらしい。どうにもこの皮を加工して出来る服が「冷感素材」なのだそうだ。これに俺はびっくりさせられた。こんな世界で、しかも砂漠で「冷感素材」である。


 だけどもこの蜥蜴はそうやって只でさえ見つけるのが難しいのに、しかも危機を感じると即座に逃げるのだそうで。獲れる数は非常に少なく、市場に出れば高価格と。レアなのだそうだ。


 なので金持ちか王族かくらいしかこの恩恵を得られていないとの事である。


 最後に「飲み込む者」だ。これ、詳しく話を聞けば巨大なミミズ。しかしその肉は絶品であるらしく、高級食材だと言うのだ。


 俺はこれに余り良い印象は無いのだが、一応は御当地ゲテ物食材としてちょっと位は食べておきたいと考えた。せっかくの観光だ。チャレンジはしてみたい。

 調理された後の肉ならばその元の姿を想像しなければ、何とか食べれそうだ。


 と言う事で、その三種をある程度の数を狩った後にサハールに戻ってその後の素材の売却に関する金策を考えようと言う事になった。


 俺がこうして「砂狩り」をしたとしても買手がいなきゃ意味が無い。この国の貨幣をゲットする為にこれらを金に換えなければならないのだ。


 しかしいきなり現れた新参の俺から誰がそれを買い上げてくれるだろうか?このサハールに俺はそこら辺の伝手は無い。

 幾ら良い物を揃えていても、突然のポッと出の見慣れない者が売る素材を誰も信用、信頼はしないだろう。


 いきなり市場にこれらを出せもしない。大き過ぎて。それと、もし出したとしても只の騒ぎになるだけで衛兵が駆けつけてきて俺たちを補導しようとしてくるのではなかろうか?


 いや、補導しようとしてくるだけなら、まだ良い。マシだ。ソレが犯罪者扱いで捕縛やら、その流れで俺の狩った獲物を没収して来ようとする腐った奴らがいたとしたら?


 その時は問答無用で俺は暴れる心算である。もうそんな末端まで腐った対応をしてくる様になっている国ならいっその事でまっさらにしてしまってから観光を楽しんだ方が良いだろう。


 さて、そんな話をアラビアーヌにしつつ俺は行き先も決めずに適当に歩き続けた。


 別に「絶対に狩ってやる」とか「見つけてみせる」とか、変な気負いはしていないので気楽に進む。風の向くまま、気の向くままだ。


 一応は安全の為にも魔力ソナーで周囲の警戒はしながら歩いている。けれどもその範囲は広く取っていない。せいぜいが30m程の半径までで抑えてある。


 本気でやればこの砂漠の面積全てを覆えてしまうだろうが、そんな事をしたって観光を楽しめないだけだ。

 俺は今のこの「砂狩り」もこのサハールの職業体験みたいな気分で行っているのであるからして。


 だったら魔力ソナーを使うな、とツッコまれそうではあるが、一応はアラビアーヌも同行しているので安全の確保の一つとしても発動させ続けているのだ。


「・・・お?見つけた。」


 暫く歩き続けていたらやっとここで一体見つけた。魔力ソナーでだが。そいつは砂丘の陰に居て休息を取っている。「踊る陽炎」と言う蜥蜴の魔物である。


「アラビアーヌ、見えるか?あそこの高くなってる砂山の、ほら、日差しが陰になってる所。あそこに居るぞ。」


 俺はそう言って教えてみる。そこには揺らぐ透明な何かが見えるのだ。


 しかしそこにいきなり乱入してくるのは巨大な玉。ゴロゴロと勢いを増してその「踊る陽炎」に玉が突っ込んで行く。


 フンコロガシ「月を転がす者」だ。その迫る玉に追い出される様に日陰から急いで逃げていく「踊る陽炎」。ここで陽炎の方は俺の中で陽炎蜥蜴と呼ぶ事とする。


 玉転がしの方はもうそのままフンコロガシで良いだろう。どうせあの巨大な玉もその糞を転がして砂を重ね大きくしていった物と俺は予想する。でも。


「魔物だからなぁ。俺の知ってる生物と似た姿だからって、それと全く同じ生態か?って言うと、そうじゃないんだろうなぁ。」


 玉に追われて遠くへと逃げようと走る陽炎蜥蜴をのんびりと眺める俺。


 蜥蜴は逃げる途中で魔法を解いたのか、解けてしまったのかは分からないのだが、その姿を俺は肉眼で確認できた。灰色の皮膚をしているイモリ?ヤモリ?そんな感じだ。


 その蜥蜴を追うフンコロガシは玉を後ろ脚で「蹴り」飛ばして勢いをつけてその蜥蜴をどうにも轢き仕留めようとしているっぽく見えた。


 蜥蜴を的確に追い詰めているフンコロガシの感知能力はどうなっているのだろうか?

 後ろ向きで玉を蹴っているのだからその目には蜥蜴を視界に入れていないはずなのに。玉の大きさが邪魔で普通に蜥蜴の姿が隠れているはずなのに。


「ここではフンコロガシの方が強いんか・・・変な感じだなぁ。」


 俺の中の常識では計り知れない異世界の砂漠の生態系ピラミッド。

 まあ蜥蜴の方の大きさは精々がスクーターくらいであって。フンコロガシはと言うと。


「何でこっちの方がはるかに大きいんだ?いや、異世界だからしょうがないな?・・・それで納得しても良い物だろうか?」


 そのフンコロガシ、やはり軽自動車並みに大きい。俺の頭の中の縮尺が混乱している。


 そんな目の前で繰り広げられていた蜥蜴とフンコロガシの鬼ごっこな光景は全て消し飛んだ。


「・・・は?」


 俺は久々に心底驚かされた。何せ家の一軒や二軒は簡単に飲み込んでしまえる程の大きな大きな、巨大な口を開けた真っ白な芋虫?蛭?ミミズ?

 そんな存在が地中から一気に飛び出して蜥蜴も玉もフンコロガシも全て纏めてその口の中にパクリである。


「え、嘘だろ?あれが飲み込む者って奴なのか?地上に出て来てる部分の見える長さだけでも10mは超えてるぞ?」


 俺は戦慄した。もし蜥蜴とフンコロガシがドタバタ鬼ごっこをしていなければ、あの気持ち悪い「飲み込む者」とやらは俺たちをターゲットにして来ていたかもしれないと思ったのだ。


 この「飲み込む者」は俺の魔力ソナーに反応が無かった。何か居る、そう思った瞬間には既に蜥蜴とフンコロガシは飲み込まれていた。それ程の速度だった。


 この魔力ソナーを掻い潜って来た存在に俺はビビる。そして思った。


「こいつはここで確実に仕留めないとダメだ。ヤバい。オチオチ砂狩り砂漠観光ツアーもできやしないぞコレじゃあ。」


 俺はその巨大ミミズ?ミミズと言って良いのだろうか?取り合えず全力で魔力固めを掛けて身動きさせれられなくしておいた所に俺は容赦しないファイアーボールを一発その口内に向けて撃ち込んだ。


 その後は大爆発、巨大ミミズの地上に出ていた分は全て吹き飛んだ。

 視認できたその10mは全て消え去り、その爆裂したミミズの肉はこの砂の大地に木っ端微塵に散らばる。


「・・・残りの地中に埋もれている長さがざっと15mはあるなぁ。多分死んだからしっかりと解る様になったんだろうけど。どうやって俺の魔力ソナーを回避していたんだろうか?」


 かなり距離の離れた位置に居た俺たちには被害は無い。いや、あった。アラビアーヌがまた気絶している。

 しかもファイアーボールの衝撃波を受け後ろに倒れている。しかもお笑いコントみたいな直立不動状態で。


「・・・もういい加減に慣れないのか?いや、無理か。アラビアーヌの常識から随分とかけ離れてるんだろうなぁ。ショックをその分大きく受けてるのかね?うーん?ミミズはインベントリに収納して。それじゃあ後は蜥蜴とフンコロガシ・・・いや、蜥蜴だけで良いか。市場ではコロガシの方は売れ無いんだもんな。あーあ、さっきの蜥蜴は惜しかったな。ミミズが出て来なけりゃ俺がゲット出来てたんだがなぁ。」


 取り合えずは残り蜥蜴を狩れればここは良しとする事にした。

 後はこの巨大ミミズの肉が食べられるそうだが。今はチャレンジしない事とする。


「某ハンバーガーチェーン店の商品にミミズが使われている、何てくだらないデマがあったっけ遥か昔に。・・・ここは異世界だからこんな魔物の肉でも美味しく頂けるのだろうか?アラビアーヌが嘘を言っている、って事でも無いんだろうから高級肉なんだろうけども・・・」


 ソレを確かめるにしても自分での調理は遠慮しておく。やるならサンプルを一口でもちゃんとしたお店で食べてからだ。そうじゃないと失敗が怖い。

 特殊な調理法を使わないと美味しくならない、とかだったら今の俺が料理したとしてもどうやった所で美味しくは仕上がらないだろう。


「とはいえ、これだけの大きさだから捌き切れないかも?小売りに出来るか?いや、これだけの大きさに育ったミミズの肉は食えるのか?」


 大きくなればなる程に食用に適さなくなっていく、などと言ったパターンも考える。

 しかしここでそんな事を俺が悩んでも無駄でしかない。

 ここはまたアラビアーヌが気絶から復帰して話を聞けるまでは答えを知る事は出来ない。


「うん、待っている時間が惜しいからこのままアラビアーヌは俺の魔法で連行していくとして。蜥蜴を探すかぁ。」


 俺は魔法でアラビアーヌをそのまま浮かせて俺の後ろに自動で付いて来るように操作する。

 取り合えず「冷感素材」となる陽炎蜥蜴を再び発見する為に俺はここで魔力ソナーの広げる範囲を増やすのだった。

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