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おんぶに抱っこ、お互い様

 そしてもうその頭目の居場所は判明した。もちろん俺の魔法でである。

 いつもの魔力を周囲へと広範囲に広げるヤツでだ。


「いた。ここから先に大分行った場所に三十人、たむろしている。道を外れた陰に隠れてるな。」


 そう言いながら俺は野盗たちの死体を地に埋める。もちろん魔力で地面を底なし沼にする方法でだ。

 ずぶずぶと埋まっていく野盗たちを見て御者が声にならない恐怖の悲鳴を上げている。

 俺は怖がらせ過ぎて御免と心の中で思いながら馬車へと戻る。


「反則よね、エンドウの魔法って。私たちの出番って、そもそも無かったし。」


「良いじゃねーか。エンドウは俺たちの心強い味方なんだぜ?不満に思う所なんて無いだろう?マーミは何が言いたいんだ?」


 カジウルがマーミの言葉に注意をする。

 こういった小言が重なり続ければ何処かで亀裂を生む元になりかねない。

 きっとその事を危惧してカジウルはマーミへ注意したのだろう。リーダーとしてそこら辺はしっかり見ている。


「確かに私がエンドウをこのパーティーに誘ったんだけどさ、余りにも私が思ってた変化と違うから。それがどうにも受け入れられないのよ。」


 どうにもマーミが考えていた新人が入る事によるパーティーの変化具合が思っていたのとは大分ズレができていると言う。


「エンドウの力を中心にしてさ、私たちはソレの補助を狙ってたのよ。でも、蓋を開けたらさあこれだもの。私たちはエンドウのおかげで強くなれた。けれど、そんな私たちの力なんて必要無い位エンドウは・・・凄まじいでしょ?」


「あー、あー、マーミの言いたい事は分かった。でも言い方ってものがあるだろ?もう今この時にそう言った感情は捨てておけよ。エンドウが悪い訳じゃ無いだろ?」


 ラディもマーミに一言そう告げる。ミッツもどうやら一言物申したいそうで。


「マーミ、そんな風に思ったのなら自分の力を上げたらいいのです。強くなってエンドウ様がマーミの腕前を頼る程になれば問題解決です!」


 四人の中でミッツの考え方だけぶっ飛んでいた。

 これには苦笑いしつつもカジウルが同意する。


「俺たちゃもっと強くなれる。そうだろ?エンドウの事だって気にしない位に強くなりゃいいんだ。これからだ、これから。今は精々エンドウにおんぶに抱っこで甘やかせてもらえばいいんだよ。何せパーティーの仲間なんだからよ。」


「俺は保護者じゃないぞ?とりあえず強くなってくれるのは良いんだけどさ。抱っこにおんぶは遠慮させてくれ。むしろ冒険者として初心者な俺が皆におんぶに抱っこでお願いする所だよ。」


 こうして和やかな雰囲気は俺たちだけで、御者は冷や汗をかきながら馬車を出発させる。

 御者を怖がらせたまま俺たちは「このまま進んでくれ」と指示を出したのだ。

 御者は俺の見せた魔法で腰を抜かし、この先に居る野盗の頭目の所にそのまま行って欲しいと言うこちらの指示に緊張で汗が引かないどころか滝の様な汗を出していた。


(あー申し訳ないなぁ。多分この御者は生きた心地がしてないんだろうなきっと)


 おそらく御者がこうして俺たちの指示に従って馬車を出してくれたのは、偏に先程の野盗たちをあっさりと倒したのをその目で見ているからだ。

 おそらくは苦戦でもしていたらきっと馬車を引き返してしまい、こちらの先に進むと言う意思は受け付けなかったように思える。

 命は大事だ。一番簡単な守る方法は「逃げる事」だろう。

 きっと今も御者の心の中では逃げたいと言う気持ちで一杯であろう。

 でも俺たちの強さを見てしまっているから「きっと大丈夫」という部分ができてしまった。

 だから心と体が噛み合わずに汗が大量に出ると言う症状に陥っているのだ。


 こうして野盗頭目の居る場所に馬車は刻一刻と近づいて行く。


 で、さあその場所に到着してみれば道を外れた草むらに隠れている野盗たち。

 遠くから来る俺たちの馬車に気付いて姿を隠した模様。でも、どうやらこちらを舐めているのが分かる。

 ニヤニヤしている顔が馬車の中からでも見えてしまっているのだ。

 奴らは相当自分たちに自信があるのだろう。獲物を見下す事をこうして易々するだけの経験を。


「おうおう、そこの馬車止まりな。お前ら、ここに来る前に二十人程の集団と遭遇しなかったか?」


 一人の男が馬車の前に出てきてそう御者に問いかける。

 その男は馬に乗っていてそもそも堂々と道の真ん中に居てこちらの進路を最初から塞いでいた。

 その他の部下だろう野盗たちは草むらに隠れているのだが、本気で隠れようとしていない。

 姿が簡単に見えてしまっているのだ。この様子は油断では無く、こちらをからかうためにそんなつまらないマネをしているのだ。

 さあ、野盗ですよ、襲われちゃうよ、慌てた姿を見せてくれ、そんな悪意がちらついている。


「へ、へい。先程そのような方たちに道を塞がれましたが、それが何か?」


 御者はしらばっくれるように、しかし、事実を述べる。

 仕方が無いだろう。だってそいつらはもう命無く、地に埋められてしまったのだ。残らず全員。

 だから「遭遇した、しかし物も金も取られなかった」である。

 この目の前の野盗は言外に「そいつらに襲われなかったか?」と問うているのだ。

 なのでこの様な反応をする御者を「どう言う事だ?」といぶかしんでいる。


「そいつらはどうした?」


 短い質問である。コレには野党が御者へ「何でお前はそんなに落ち着いているんだ?」という疑問も含んでいる。

 しかしこの質問に御者は答える事ができない。「「えっと、その、アノ・・・」と言葉にならない。

 コレに我慢がならなかったのは隠れていた野盗たち。隠す気も無かったその姿を一斉に見せて御者を脅すかのように剣を一斉に引き抜く。


「頭、やっちまいましょうよ。先攻した奴らはきっとどっかでサボってやがんだ。だったらこいつらは俺たちで山分けしましょうや。」

「そうっすよ。あいつ等には分け前をやらないで俺たちだけで稼いじまいましょう。」

「こんな時期外れの街道に馬車が走ってるとは思わなかったですからね。儲けもんですよ!」


 この野盗たちもゲラゲラと全員が下品な笑いと悪意を口から吐く。

 そしてどうやらこの馬に乗った男こそ、この「火凍」のボスであったようだ。


「そうだな、面倒だ。このくらいの人数なら全員殺しちまえばいいだろう。始末も簡単に終わらせられる。ん?女が乗ってやがるな。おい、女だけは犯して楽しんだ後に売るぞ。今日は久しぶりのお楽しみだ!」


 この頭目の言葉に「おっしゃぁー!」と喜びの声を上げる。全員が。要するに全員が外道である。

 これを確認した俺は奴らの脚を凍らせる。ダンジョンでビッグブスにしたように。

 がちがちに厚さ10cmを超える氷で奴らの足から太腿までを。


「冷え!ツメテエ!何だこりゃぁ!?」

「お!おい!あ、脚が動かねえ!どうなてやがんだ!?」

「く!くそ!つ!ぬ!抜けねぇ!壊せねえ!」


 魔力を氷の中に流して強度を上げているので剣で幾ら叩いてもその氷は割れる事は無い。

 馬に乗っている頭領以外は全員コレで身動きを取れなくさせている。


「さあ、取り合えずどう料理する?胸糞悪くなるセリフを聞かされたから俺、機嫌が悪いんだ。」


 こうして連続で「女、犯す、売り飛ばす」などと言った悪意を目の当たりにして怒りが相当溜まったようだ。

 相手に容赦してやる気持ちが全く以て浮かんでこない。


「どうなってやがる!?いきなりこんな天気で氷だと!?ふざけるな!」


 と叫びつつもどうやら不利と一瞬で悟って逃げ出そうと馬首を返して逃げ出そうとする頭目。

 自分の命だけが大事なのだろう。部下を助けようとする姿勢も見せずに真っ先に逃げ出そうとするその姿はいっその事、清々しい。清々しい程のクズである。


「逃がさないけどな。あ、馬は戦利品として得ときたい。となると頭目だけ落とすには?」


 まだ頭目は馬首を切り返しているその途中である。馬車から降りた俺はその頭目へ目掛け、魔法を打ち出す。

 腕を真っ直ぐに伸ばし、人差し指を頭目の背中に向け標準を合わせ。


「バキューン!」と口で言葉にする。コレのイメージは魔力が物理的威力を出すほどに固まった、小石程の大きさで射出されるところである。

 そう、拳銃だ。それは見事に再現された。発射された弾丸は肩を打ち抜いて頭目を落馬させる。


「うぐあ!」と言った叫びと共に地面へと叩きつけられた頭目は、どうやら馬から落ちる事は予想外であったようで受け身を取り損ねて打ち所が悪かったのか呻いている。

 馬は走り出す事無くその場に留まり立ち止まる。成功だ。この時点でカジウルとラディが既に馬車から降りていて身動き取れない野盗たちの「処理」をこなしていた。


「うううう・・・クソ。た、助けてくれ!どうか命だけは!そうだ金だ!幾ら払えば見逃してくれる?」


 頭目は殺されていく部下たちを見て命乞いをし始める。

 そこで俺は一応聞いてみた。いくら払える?と。


「た、助けてくれるなら俺の持つ金を全部払ってもいい!今はここには持ち合わせていないが、隠れ家に行けばまだかなりの額が残ってる!ソレを全部やるから見逃してくれ!」


「ふーん、そうか。その金はどれだけの悪事で稼いだ金だ?どれだけの数の犯罪をして貯めた金だ?どれだけの悲しみと怒りと苦しみと嘆きと死を金に換えてきた?被害者の数はどれだけに上るんだ?」


 赦す筈が無い。最初から。それを理解したのか頭目の顔は血の気が引いて青くなっていく。

 俺の顔はと言えばちょっと怒りでほんのり赤くなっていた事だろう。


「お前の命乞いは全く響かない。分かるか?お前の今までしてきた事が逆にそもそも自分の命を救う機会、その「今」を壊しているんだ。お前の正体はもう自分で言葉にしただろう?全員殺せ?女は犯して売る?どこまで世の中に必要のないクズなんだ?お前が生きているだけで世の中の損失が増えるだけだ。お前はだから今死ぬんだ。殺処分だよ。」


 このセリフを言い終えた時には既に他の部下たちは全員があの世に行っていた。


「片付けたぞ。荷物も全部回収してある。バッツ国に行ったらこいつを国に提出して報奨金を貰おうぜ。」


「後はそいつだけだ。頭目の死体だけは持って行こうか。ん?ああ、生きていなくていい。この場で殺すのが後先考えなくてイイだろ。生かしておいてもこいつは処刑を免れない。連れて行くにしても生かしておく必要も無いからな。」


 この二人の言葉に言葉を無くしたのか頭目は「ぅあ・・あ、あ」と息を詰まらせる。


「死体にすればインベントリに入るだろうけど。・・・入れたくない。どうするかな?ん~?氷漬けにして引きずって行けばいいか。」


 俺は魔法で撃ち抜かれた肩の痛みと、これから殺される恐怖で未だに立ち上がれていない頭目の全身を一気に凍らせた。


 コレを見ていたマーミは「エグイ・・・」と眉を顰めて呟く。

 ミッツはその隣で「悪人の末路はソンなモノですよ」とマーミに告げていた。


「さて、どうしようか?この死体はこのままこいつが乗っていた馬に引かせるとして、誰が馬に乗る?」


 俺はそう聞いてみる。もちろん俺は乗馬などした事が無い。だから俺以外で乗馬ができる者に任せるしかない。

 ラディが自分のカバンからロープを取り出す。そして氷を器用に括って馬車の後ろに繋げた。


「おい、御者。この馬車は二頭引きでも、確かいける仕様だったな?馬具の予備は?ああ、やってくれ。」


 どうやら馬に乗らなくともこの馬車は二頭引きに変えられるようで御者は馬車の中から予備の馬具を取り出してソレを慣れた手つきで繋げていく。


 こうして何の問題も無く野盗退治は終わった。死体はそのまま魔力を地面に流して同じように地中深くに埋める。

 奴らの荷物は全て回収してあるし、こうして頭目の死体も確保した。

 犯罪者が一掃されて健やかな気持ちになってまた出発だ。

 しかしこの中で未だ心穏やかでない者が一人だけいる。そう、御者である。


 二度も野盗に襲われて、そして呆気なく何の被害も出ないで全て終わった事が未だに消化不良なのだろう。

 そんな真似をした俺と言う存在が恐ろしいのか馬車を走らせるときにこちらをチラリと見てブルリと震えたのが見える。

 額に噴き出る汗が止まっていないようで、俺は仕方なくその汗を取り除くために魔法をかける事にした。

 それと一緒に緊張をほぐすために副交感神経が働くようにとリラックスするイメージを乗せた魔力を御者に飛ばす。


 すると前方を注意している御者の上がっていた肩が、緊張が多少ほどけたのか凄く分かりやすく落ちた。

 何故いきなりそんな風に力が抜けたのか自分で自分が分からないと言った感じで御者は首を右に左にと傾けている。


「今、御者に魔法かけたでしょ。エンドウさ、あんまりそう言う事を簡単にしちゃ駄目でしょ・・・でもまあ、もう遅いか。派手な事しちゃった後だものね。もう諦めよう・・・」


 どうやらマーミは自重しろと言いたかったようだ。誰にでもそのようにホイホイ魔法をかける様な真似は止せと。

 しかし御者はどうやらそれ以上のインパクトをその目で先に見てしまっているので、それどころでは無いのだからマーミの注意も既に遅い。

 野盗たちがあっと言う間に全滅。頭目もこうして始末して引き渡すと言うのだから。それを目の前にして一部始終を見ていた御者はこの今日の出来事をきっと話してしまうに違いない。

 酒を飲んで、あるいは自慢話と言って、もしくはもの凄い体験をしてしまったと驚きで。


 俺たちは今マルマルの都市からバッツ国へとどうして旅をしているのかと言えば、目立ってしまったからほとぼりが冷めるまで逃げる事を目的としていたのだ。

 それなのにこうしてこんな所で目立ってしまう事をしてしまって「あちゃー」である。


 しかもこの「火凍」を根絶した事を報告しないといけない。そうすれば余計目立つ。

 いや、報告する義務は無いのかもしれないのだが、安全になった事をいち早く知らせるためにはしないといけない。

 ソレに討伐報酬を貰ってバッツ国でパーッとやろうとカジウルがノリノリになっているのを止めるつもりも無い。


「見逃せなかったからな。しょうがないだろ?こっちに野盗が現れたのが悪い。運の尽きってのだろうさ、奴らの方のな。もし、俺たちが以前の「力」しか持っていなかったら、エンドウと一緒にここまで来ていなかったら。引き返していただろうな。そして奴らはそのままのうのうと生きて被害を出し続けていた。そうだろ?」


 ラディは溜息をついていたマーミにそう言って慰める。

 ミッツがコレに付け加える。


「そうですよマーミ。私たちは正しい事をしたんですよ。世の中に顔向けできない事をした訳では無いんです。胸を張ってはどうですか?」


 エッヘン、とでも言いたげにミッツが胸を前に張り出してそうマーミに言う。


「分かったわよ。確かに言う通りだわ。けど、どうしても納得いかない部分もあるってのをあんたたちも分かっときなさいよね。ったくもう。私の人生設計狂いっぱなしになってくわ。」


 マーミは俺をこのパーティーに誘った時点でその点で「終わっていた」感が否めない。

 あの時誘われた時点でどういった未来のビジョンをマーミが持っていたのかなんて俺に知る由も無かったのだから。

 そもそもそのマーミの人生設計を聞かされた訳でも無いし、知らされた訳でも無かったので、もう手遅れなタイミングでソレを話始められてもどうしようもないと言いたい。


 こうしてその後の残りの旅の日程は何の問題も無く順調で、とうとうバッツ国へと到着した。


 国へ入るには審査がある。当然国を守る外壁から中の城下町に入るための門の前はそう言ったモノたちの列がズラリ、と思っていたがすんなりと入る事ができた。

 ソレは偏に「時機じゃないから」だ。毛皮のシーズンはもう少し寒くなり始めてから。

 バッツ国はその時期では未だ無い。本来その時になればここは商売人の列でごった返して入場するのに二時間待ちはざらだと言う。

 その列が無いので俺たちはすぐに門をくぐる事ができたのだ。


 そして御者はそのまま馬車のターミナルであろうチョットした広場にまで進み止まる。


「ご、ごごご、ご利用ありがとうございました。またのご利用を、ををを、お待ちしています・・・」


 どうやら俺のアノ時に掛けたリラックスする魔法は一時的にしか効果が無いようだ。

 ソレは流石に仕方が無いと思っても御者が俺を見て緊張でドモってしまうと言うのはちょっと悲しかった。

 ソレは恐怖からの緊張なのか、強者に対して失礼をしてしまわないようにという緊張からなのか?


 それを背にして俺たちは早速先ずは「火凍」の討伐を報告しに行くことにした。

 そうして道を歩きながら周囲を観察する。時期では無いからなのかそこまでの活気が見られなかったのは仕方が無い。

 毛皮だけが確かな産業なのだろう。しかし、別に畑が無い訳では無いはずだ。どこかしらに牧畜や農業をしている土地は在るはず。

 そんな人の営みを頭に思い浮かべつつ、どうやら役所の位置が分かっているようである四人の後ろを付いて行く俺。


「そう言えばバッツ国で仕事をした時は結構昔だったな。その時は大量発生した魔物の討伐の応援だったか?」


「そうね。確か三年前?四年?だったかしら。あの時はホント、もこもこに突撃されるのがどんなに恐ろしい事なのかなんて知らなかったものね。」


「油断、では無くて舐めてたと言うか何と言うか。あの時はバッツ国の事を何も知らない者達が囮役をやらされたな。あれは悪意だろ。やんなっちまうぜホント。」


「でも、あの魔物の事を全く知らないのであれば仕方が無いですよ。甘く見た者が余計な邪魔になるって事はあの時に私たちも仕方が無かったと反省しましたしね。」


 四人は俺の知らない魔物の話をし始めるので置いてけ堀である。もこもこ、という響きで羊型の魔物だろうか?


 でもその話は役所に着いたらしく終わりを告げる。


「どうする?全員で行くか?ここでしっかりと書類を作って貰えばギルドの方でもソレを提出すれば評価が上がるぞ?俺たちはそもそもCランクだからオーガの件でランクが上がってBになるのは確定だが。」


 俺の場合はダンジョンクリアでEからDに確か上がっている。そしてオーガの件でさらにもう一段上がってCに上がるはずだ。

 早い所俺もランクをバンバン上げて金周りのいい仕事を受けられるようにしておきたいので全員で行こうと提案する。

 するとマーミはこれに賛成しつつも懸念を口に出す。


「そうね。ランクは上がって悪いモノでは無いし。まあでもマルマルでAランクになるのはねぇ。」


 その懸念にラディが追加を入れる。


「そうだな。おそらく「火凍」の壊滅はランクが上がる要素としちゃ結構なものになるだろう。評価は高く見積もられるはずだ。」


 でも心配はいらないのでは?とミッツは安心させるように説明する。


「私たちがBに上がってから出せばいいでしょう。Aに上がる際の評価はかなり積み重ねなければ到達しないですし。書類を今すぐに提出しなくとも手元に持っておくだけでいいでしょうから。機を見て提出でいいと思います。」


 全員でと言う事に決まって俺たちは役所の扉を開いて中に入った。

 もちろん氷漬けの「火凍」のボスを引きずってだ。ロープで括ったソレを街中を引っ張りながら歩いていたので目立つ目立つ。

 そもそも死体をそのまま引きずるのもそうだが、氷塊を引きずって、しかもその氷の中に人が埋まっているのだから目立たない訳が無い。

 入国審査で注目されて尋問を受けた事は仕方が無い。その時には「火凍」の印を一緒に見せて「やっつけたんですよ」と説明した時のあの門衛の表情は誰が見ても「信じられない!」と驚いている事が察せられる顔だった。

 そしてその役所の中でも同じリアクションを取られた。

 門衛の所で死体を引き取ってもらって手続きしてしまえれば簡単な話だったのだが、その手続きは想定されておらずに街中の役所へと直接行ってくれと言われて面倒だと思ったが。

 仕方が無いのでこうして素直に来てみれば役所に在中している衛兵が俺たちを取り囲む。

 まあ数も警備のための兵なので三人と少ない数なのではあるが。


「貴様ら止まれ!その氷は何だ!?何処の者だ一体!?」


 驚きと混乱が見て取れるその衛兵の言葉に落ち着いて欲しいとカジウルが答える。


「あー、こいつは「火凍」の頭目だ。俺たちがこいつらをやっつけた。手続きをお願いする。俺たちは冒険者「つむじ風」だ。ギルド証も提出する。どうか冷静になってくれ。」


 コレにやっと衛兵たちは武器を下ろした。それは長槍では無く、室内でも振るえるように短槍だった。

 そしてどうやら「火凍」の件はこの国でも大きな問題と認識しており「こちらへ」と一人の役人が奥の部屋へと案内してくる。

 それに従って俺たちは素直に案内された部屋に入る。広い会議室の様な部屋でそこにあった椅子にそれぞれ思い思いに座って待った。


 そうしてそう長い時間を待たされる事無くこの役所のお偉いさんであろう人が部屋にノックして入ってくる。


「失礼する。君たちがあの「火凍」を討伐したと言う冒険者、で合っているかい?」


 コレにカジウルは事前に袋に集めていた証拠の品をテーブルに置く。


「これが証拠です。火凍の頭目は引き渡したあの氷漬けの人物です。ご確認を。」


 こういった場面、交渉は大体がカジウルが前面に出てやってくれる。流石リーダー。


「確かに。私もここに来る前に引き渡しされた人物を調査して確認が取れた。これらの証拠品も偽物では無いと分かる。」


 役人はテーブルの上に出されたバッジの一つを手に取ってまじまじと観察してからそう言った。

 どうやら火凍頭目の方も顔検分が住んでいて確認が取れているようだった。

 奴らはどうやら既にバッツ国では身動きできない程だったのかもしれない。

 頭目の顔が知れていると言う事は「仕事」をしようにも易々とは動きが取れずに制限されてしまうだろう。

 だからこの国から逃げるためにあの街道に来ていたのかもしれない。時期では無いので道も空いていると踏んでスムーズに逃げ出すために。


「私たちが集めた奴らが持っていた全ての荷はお引渡しします。それと、まだもう一つ情報が在ります。こいつらはどうやら拠点がまだ隠されているようです。その情報は仕留める事を重要だと思い聞きださないで始末してしまいました。どうやらそこにはまだ奴らが得た物が隠されているようです。そちらの捜索は国の方で調査をしてください。」


 俺があの時にもっと情報を引き出そうとしていれば国にこうして面倒を掛けさせる事にならなかったのでは?と思うが、あいつを生かしてその場所に連れて行こうにも奴は逃げ出す隙を見つけようと必死になって面倒な対応をさせられ続けただけかもしれない。

 その事をラディに諭されて俺は今まで魔力ソナーを使わないでいた。

 こうして国に入った後に直ぐにでも魔力を広げてその場所を見つけようと考えたのだが、それを言ったらマーミに止められた。

 そこまでする必要も義理も無い、と。私たちがここに来た目的を考えろ、と。後は国の仕事だと。

 隠し拠点の情報を話せば自分たちのこの件はお終いであると。


(確かに、何でもカンでも俺がやる必要は無いか。しかも、それをしたら、目立つ、かな?)


 コレに俺は納得したのでこれ以上に踏み込むのをとどまった。


「情報感謝する。直ちに捜索隊を出そう。もう暫くここで待機していて貰って構わないかね?賞金と、情報料の算出をしてこよう。少々席を離れさせていただく。」


 どうやらこの「火凍」の件はかなり大きなものであったらしく役人は深刻な表情で立ち上がる。


「もう一つ、あの氷はどのようにして?あれほどの魔法を使いこなせる人物が貴方たちの中に?」


 役人はその点が非常に気になるらしかった。いや、普通に考えればそこに注目するのは当たり前かもしれない。

 何せ街中でソレを引きずっている間の人々の視線は氷塊に全て行っていたと言っても過言では無い位の注目を集めていたから。


「それはお話する事はできません。どうかご容赦を。戦力に関する秘匿事項です。」


「それはすまない。では、もう少々お時間を頂く。もう暫くの間お待ちください。」


 役人はすんなりと引き下がり部屋を退出した。


「かー!お堅い話は肩が凝るぜ。金を貰うためとは言え辛いわ~。」


 カジウルはそうして背伸びをするなり愚痴をこぼした。

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