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話変わってね?

24日から29日まで特別投稿。一日一本お届け。

 そんな日々が五日続いた。その間の魔法の講義を熱心に聞き、既に実践も始めた料理長。それと五名の料理人。

 彼らは俺が譲渡した魔力を使ってこれでもかと言わんばかりに集中して魔法を扱う練習をしてきた。

 魔力を分け与える際には少々刺激の強い体験をせねばならないのだが、それらを乗り越えて既に今は自前の魔力で魔法を使える様になっている。

 魔力回復薬も俺が製作してその場で提供しているので魔力総量の上がりもかなり早く、大きいモノとなっている。卒業と呼べる日が近い。


「と言うか、全員資質があったんだな。これだけの早さで一通りの事が出来る様になっちゃうって、凄くね?」


「いえいえ、全ては師匠の解りやすい説明のおかげです。世の理、これ程の深淵を知る師匠はまさに賢者様ですな。どんな質問にも丁寧に答えて頂き、その懐の深さにも感謝です。ああ、そうです、つい昨日なのですが、私が自前で魔法学科の教材資料を入手して読んでみたのですが、師匠の講義と比べたらその内容の差が余りにもあり過ぎて思わず笑いましたよ。」


 料理長は空中に火を幾つも生み出しつつ、そのそれぞれの火力調整をしながらに笑う。どう見てもおかしな光景である。魔法の練習風景なハズなのだが、何か奇妙な儀式でもしているのではと思える。


 他の五名の料理人は魔法で生み出した水で皿洗いをしているのだからカオスである。

 空中に浮くその水の中に皿がスイッと入って、ヌルンと出て来たら既にもう綺麗になっているのだ。コレもまたおかしな光景だ。

 そしてその皿洗いの速度は早い。汚れていた何十枚も在ったはずの皿はもう残り少なくなっていて終わりが近い。

 片づけ作業の時間短縮に役に立っている様だ。まあ、ソレは良い事であるのでこれ以上は何も言わずにおくのだが。


「皿洗いだけじゃ無くて調理台やら床の掃除やら何やらのあっちこっちの掃除にも役に立っている様で何よりだよ。」


「おかげさまで自由時間もこうして増えまして。それを料理の研究に思う存分に注ぎ込めるのです。喜ばしい事です。」


 ニッコリ料理長。まだ料理する気かよ?とは突っ込まない。料理長はいわゆるワーカーホリックと言った感じなのだ。いつ何時も料理の事ばかりを考えている人である。

 今は夕食を終えた時間であり、これまでであれば戻って来た食器を洗う時間で一杯一杯であったはずが、既にもうそれらは片づけを終えている状況だ。魔法、便利。

 こうなったら余った時間を何にだって回せる。これを料理長は自らを高める為の時間に使う事に何らの躊躇いも無いのである。


 弟子たち五名の方はと言うと休憩をしている。仕事が終わったのだから自室に戻ってしまっても良いのでは無いのかと疑問にコレを見ていたら、その内の一人が俺に小声で説明してくる。


「料理長の監視です。余りにも熱中が過ぎると徹夜してしまうんで。しかも・・・今は魔法が使えるので暗くなっても自前の魔法で明かりまで点けれてしまいますから止め所を全員で相談したりするんです。」


 一応は料理長の弟子なので研究に付き合う事もするそうだ。しかし誰かしらがその際には最低でも一人ストッパーになって監視役をするのだと言う。

 弟子たちも料理長ほどとは言わずとも、集中するとすぐ時間を忘れるタイプなのだそうだ。なので全員がまだこの調理場に残っているのだそうな。


「あー、俺はそこら辺の事は口出す気は無いけど、程々にね?じゃあまた明日。・・・と言うか、もう俺って必要無くない?自前でもう一通りの事出来ちゃってるよね皆?卒業で良くね?」


「ふむ?そうですかな?ならば力試しをして師匠から合格を得られればと言う形でどうでしょう?」


 料理長からそんな提案をされてしまった。しかし俺はこれに「うん?」と首を傾げる。


「それって何がどうできれば合格なの?えーっと?料理長は前に俺と同じくらいに自由自在に魔法が使える様になりたいって言ってたよな?・・・もう既にできてるっぽいんだが?」


 料理長、体内の魔力総量もかなりの増加をしており、かつ、魔法の扱いもその腕前はもう充分過ぎる程に柔軟だ。

 食材を魔法で空中に浮かせて、魔法で切り刻んで、魔法で煮て、焼いて、蒸して、炒めて、などなど。

 今日の夕食などそのほぼ全てを魔法で調理してしまっていた。もうこれは卒業で良いんじゃないのか?

 と言うか、これで卒業と言わずして何を言うのか?もう俺の教える事なんて何も無いだろう。

 料理人五名の方も同じだ。そっちの方も体内魔力は順調に増やしていて既に充分と言える量は持っているはず。

 しかも魔力の操作、魔法の扱いも既に「熟練じゃね?」と言っても差し支えない位に使い熟せている。


「うーん?じゃあ明日が最終日って事で?今日はもう帰るわー。それじゃ、お疲れさん。」


 俺は本日の夕食を料理長に作って貰ってこの場で食べていたのでもう帰って寝るだけである。

 もうワープゲートも見慣れたもので、帰る俺を普通に見送る料理人たち。最初の頃はドン引きしつつ驚きで目を見開いていたのだが慣れるのは早かった。


(彼らはこの後もまだまだ料理の研究?・・・ホント、ご苦労様です)


 新しい物とはこうした探究をし続ける者たちから生まれるのだろう。頭が下がる。

 しかし俺は料理をそれこそ四六時中作り続けていても飽きない、疲れない料理長の鉄人ぶり、超人的体力と精神力が凄いと思う。

 直ぐに心がぐったりしてしまう俺とは違うなぁ、そんな事を考えながら俺は自宅のベッドに寝転がって目を瞑った。


 そうして翌日。午前中はノトリー連国の巡回を。昼には城の調理場にやって来て魔法の授業だ。


「とは言っても卒業試験って話だったよな今日は?・・・で、何で全員が料理作る気満々なの?それと何でメリアリネスがここに?」


「卒業試験にて各自がそれぞれ独自の料理を一品作るのだそうです。その味の審査員をして欲しいと頼まれました。」


「え?メリアリネス、もしかして、暇なの?」


「昼食を兼ねているだけですよ。今は体調も良くなって仕事も再開しています。暇ではありません。」


 何だか話がおかしくなって無いか?そう思った俺だったが、どうせ今日が終われば俺はお役御免である。深くは考えない様にして突っ込むのを止めた。

 いや、ダメだった。突っ込んだ。


「で、試験って何すんの?と言うか、俺がソレを決めるんじゃ無いの?何でここで料理対決みたいな空気全員出してんの?あれ?俺も料理の審査員する感じこのままだと?」


 どれくらい魔法が熟達できているかを俺が見るのでは無かったのか?いや、ある意味コレは確かにそう言う意味とも見る事が出来るだろうが。


「では、調理開始。」


 アーシスがいきなり開始の合図を出してしまった。いや、メリアリネスの秘書だろうからこの場に居るのは当然なのかもしれないが。

 いきなりこの場の司会進行役みたいにアーシスに話を進められても俺が今のこの場の空気をまだ呑み込めていない。


「え?みんな始めっちゃったじゃん。嘘だろ?このまま料理の鉄人する気なの?」


 五人の弟子たちの目が本気なのが俺には「何で?」と疑問でしかない。

 料理長も一緒に料理を作り始めっちゃったし、誰にその点を突っ込めば良いのかサッパリ見失ってしまった。


 しかしそんな俺の事を無視して始まってしまったのだからしょうがない。

 俺はこの場の料理人の全員の魔法の熟達ぶりを確認する為に集中して一人一人を見ていく。


「なあ?寧ろ俺なんかよりも余程使い方が上手いと思うんだけど?なにあれ?めっちゃ凄くない?」


 その中で一つを説明をするならば。


 空中で肉が舞い、薄くスライスされていく。それらがいきなり現れた魔法で発生した炎で炙られて直ぐに熱が通り、皿の上へと綺麗に美しく並べられていく光景に俺は呆気に取られるしか無かった。

 その肉へとどんな味か想像も付かない紫色のソースが掛けられる。そのソースもうねうねと材料が空中で魔法によって混ぜられ作られているのだ。


「あー。これはあれか。演出として客の目を楽しませる調理ってやつか。俺もパーティでやったんだったな。」


 俺は塩釜焼でやったが、彼らは別の料理でソレを再現しているのだ。


「と言うか、全員合格だろ、こんなの。俺の言える事なんて一つも無い程に完璧じゃない?これ?」


 ほぼ技術的な事なんて俺は教えられてはいないと思う。

 けれども普段から料理を作り続けている彼らは既に要領と言うモノが解っているのだろう、料理に関しての事ならば。だからこれ程に上達が早い、と。


 で、ずらっとテーブルに並べられた料理の数々。そのどれもが全て「魔法」で調理されたものである。


「いや、どれを食べても美味いんだが?って言うか別にコレ勝ち負けとかの話じゃ無かったよな?試験に合格か、不合格かの話だったよな?何?審査員て?」


 俺は各料理を食しているのだが、食レポなんて勘弁して欲しい。どれも美味しかったのだから。

 と言うか、魔法の卒業試験が何でこんな事になっているのか?


「・・・まあこの料理の中でもやっぱり一段上の味なのが料理長の作ったコレだね。」


 ソレはオムレツ。単純なハズのこの料理であるのにも関わらず、出て来たものの中で何故か一番の評価を付けるならコレだと言えてしまう。

 他の弟子たち五名の料理は煮たり、焼いたり、炒めたり、蒸したりと言った感じで調理法も食材もどうやらこだわっての料理だったのだが。

 しかしながらやはり貫禄をここで見せつけたのは長年の研鑽を積んできている料理長だった。


「うーんと、まあ、魔法の腕前って事で言えば全員漏れなく合格だよ。と言うか、俺よりもよっぽど上手なんだが?」


 立場が無い。俺の。だって既に全員がもうとっくに魔力操作をマスターしていて食材を自由自在にしているのだから。

 空中に食材を浮かせたままでの調理がこのままだと彼らのスタンダードになりそうである。

 そして各自の料理の火の通り具合もどれも絶妙であったので恐らくはもう魔力ソナーみたいな事もできる様になっていると思われる。


「後はじゃあ各自が独自に研鑽を積んで行ってください。どうもお疲れさまでした。これにて俺の魔法講習は終了とさせて頂きます。」


 こうしてこの後は各人が作った料理の品評会が始まった。俺は既にここでの役目はもう無いので早々に立ち去らせてもらう事に。


「師匠、エンドウ師匠。ありがとうございました。師匠のおかげでまた一段と深く料理の道に進む事が出来る様になりました。感謝してもし切れぬ程です。」


 料理長からの大げさな感謝の言葉を貰って俺はワープゲートで自宅へと戻った。


 そうして翌日。別段これと言って特別にやる事などは無い。本日もノトリー連国の巡回だ。

 食糧自給率を上げると言う国の方針は既に地方まで行き届いている。

 そんな御触れであたふたして出遅れたのは俺が早々に見放した村やら町である。

 俺はそんな地域への支援をもうしていないのでそう言った所は今になって必死に畑仕事に従事している。


 別の地域の早い段階で食糧生産に踏み込んで動いていた働き者たちは既にもう収穫を得て喜びを得ている場所が多い。

 これにもうそろそろ見回りも終わりにしようと俺は思い立つ。ソレを一度相談しにコロシネンの所に向かう。

 で、コロシネンが言うには「エンドウ様の御心のままに」だけ。

 国の運営は軌道に乗り始めたのかと言った質問に対しては「息子が頑張っています」との事。

 俺の力は既にもう必要は無いか?と聞けば「エンドウ様のお手を煩わせてしまう様な事案はありませぬ」と言われてしまった。

 ならばもう俺はここノトリー連国にいつまでも居なくても良いだろうと言う事でコロシネンに別れを告げる。


「俺はまた自由にやるつもりだ。また気が向いたら様子を見に来るつもりだけど。それじゃあな。」


「エンドウ様のお戻りをいつまでもお待ちしております。」


 そう深い一礼をされてコロシネンと分かれた。俺はそのまま自宅へと戻って一息ついた。


「はぁ~。さてと、何かと色々とあったけど、取り合えず一通りはこれで終わった事だし。今度は砂漠、だな。」


 コチラの世界の砂漠とはどんなモノだろうか?砂漠と言ったらオアシス?石油?砂のバラ?乾燥した風と照り付ける太陽?気温の思い切り下がった寒い夜空に浮かぶ月?

 俺はまだこちらの世界の砂漠と言うモノを全く知らない。と言うか、日本に居た時にだって砂漠なんて行った経験など一度だってありはしない。会社でずっと働いていて海外に何て行った事すらも無い。

 日本と言う国ですら全国回った事も無いのだ。世界なんて広過ぎる所では無い。ましてや砂漠だ。TVで特集番組で取り上げられている映像くらいしか目にした覚えは無い。


 今頃はあの砂漠に捨てたノトリー連国の腐った議員たちは干乾びてミイラにでもなっただろうか?


 取り合えず出発は明日にする事にして俺は今日一日残りの時間をのんびりと家で過ごす事にした。


 そうして迎えた翌朝はあいにくの雨だった。出かけようと思った日にこれである。なかなかに幸先は良くない。

 とは言え俺にはそこまで雨の影響と言うのは大きくない。何せ魔法で一切濡れない様にできるのだ。しかも手ぶらで。雨でも晴れでもそう言った点では関係無しである。

 朝食を食べ終われば外に出て魔法で空中に。そのまま上空へ。雨雲を超えて。


「うーん、爽快な眺めだよなぁ。じゃあ行きますかねぇ。」


 ワープゲートを使わずに俺は飛行して砂漠へと向かう。これは別に只の気まぐれだ。深い意味なんて無い。

 本日の天気が雨だった事なんて頭の片隅に追いやって俺は気分良く空の散歩を楽しんで飛び続ける。

 そうしていれば見えて来た。砂漠の入り口?それとも砂漠の果てと言うのか?

 砂、砂、砂のイメージのあの砂漠。改めて自分がそこに立っていると思ったらふと思った事があった。


「ふーん?まさかこっちの世界でも砂漠化が深刻な問題、とか言わないよな?・・・あれ?何か不安になって来たぞ?」


 その様な研究をしている組織や人物なんて居そうにも無い、と思い至ってしまった。

 調べる人が居なければそんな事実があっても誰にも知られる事など無いのだ。

 そんな事であればもしこちらの世界でもこの目の前の砂漠がその面積を年々広げていたとしても誰も問題になど上げやしない。


 もしかしたらこの目の前の全てを俺がまた魔法で何とかしなくちゃいけなくなるのか?と考えてしまった。


「・・・いやいや、それは流石に、それは流石に、無いだろ?無いよな?」


 俺はこの件を一旦は頭の端っこに押し込んでこの一面砂の大地を歩いてみる事にしたのだった。


 照り付ける太陽、その日差しは強い。しかし魔法と言うモノが俺にある以上はその様なこちらを焼き殺さんばかりの光は敵にはならない。魔法で日光を屈折させて俺に直接当たらない様に反射させているから。

 周囲の砂が上げる熱気、乾燥した空気も俺を害する事は不可能だったりする。俺の周囲に空気の層を作ってそれらの影響を受けない様にしているから。


「・・・いや、本当に特に何も本当に無いな?行っても行っても砂しか無い。夜になればもう少し風情ってのが感じられるのかね?あ、砂竜巻・・・」


 遠目に風の渦が見える。砂を巻き上げているのでその姿がはっきりと判る。大きさもかなりのモノだ。

 アメリカなどでの竜巻の被害映像などがニュースで流れているのを目にしているが、こうして自分の目で生で見るのはこれが初めてだ。竜巻をこの目にするのに砂漠で、などとこれっぽっちも思った事など無かった。

 以前の自分、仕事を只坦々と熟していた日々の自分では経験できなかった事である。まあ当たり前か。いきなり自分の人生で竜巻被害を受ける様な状況など誰も望まないはず。

 まあそれでも自然現象にしょっちゅう襲われていた日本である。地震などは日常茶飯事などと口にしてしまう国民だ。台風だって夏には何度も本土上陸してくるので風雨被害は年に一度は必ず起きてると言っても過言じゃ無い。豪雨による浸水、土砂崩れ、行方不明者に家屋倒壊など。

 冬には北方面は積雪被害で交通マヒやら道路の凍結など当たり前。春も秋も火災などの人的被害が毎日流れていた様に思う。


 今の俺も「あの竜巻がこっちに来なければ別にどうでも良いな?」位に思っているので目の前の光景が他人事なのだ。

 サラリーマン時代に大きな出来事など何事も無く過ごし、自ら率先して何かを成し遂げようとした覚えの無い自分に目の前の竜巻に何か思えと言われても何も無い。砂漠に観光などと軽い気持ちでここにやってきているくらいである。そこら辺を求めるのは今更だった。

 今の自分が魔法を使える事であの様な危険な現象を目の前にしても危機感と言ったモノが足りていない様に感じる。俺の魔法でチョちょいのチョイで対処が可能だと思っているので「珍しいもの見た」くらいにしか感じていない。

 いや、この砂漠では四六時中あんなものが発生していてその内の一つを俺は見ただけなのかもしれないが。


 精神的にもこの世界での自分の姿が若くなっている事に引きずられて何事も深く考えずに楽観的に過ごしている今である。俺の今の動じない姿は他人からしたら「異常」に見えるんだろうなと客観的な視点はまだあるのだが、ソレが別段俺に何かしらの大きな影響を与えていると言った事も無い。

 俺の見た目がスーツ姿で、この世界で目立つ事にも慣れて来た、と言うか気にしなくなっている。

 竜巻が目の前にあろうが、大きな力を得てしまった今の自分には脅威では無いのが動揺が俺に起きない理由だろう。きっと魔法何て力を今持っていなかったらきっと竜巻がこっちに来ない様に祈るか、もしくは引き返して離れようと行動を起こしていたに違いない。


「で、何でこっちに近づいて来てんだよ。アレに目でも付いてるって?冗談は止してくれないかね?」


 こっちに来てもどうとでもできる、とは思っていても、実際にどうにでもできても、だ。

 その大迫力な自然現象が迫って来る光景は結構な圧力を感じる。できればこっちに来ないで貰いたい。

 魔法で軌道を逸らすか?と思っていたらその竜巻に追われている人物を発見してしまった。

 その竜巻の威容に目を取られて砂だらけの大地の方に意識を向けていなかったのがソレを見つけるのに遅れた理由だ。


「助けるのが人の道ってやつなのかね?と言うか、こんな何も無い砂漠を一人で?どう言った事情なんだよ・・・まあ良いか。話は助けた後で。」


 必死に逃げているその人物に竜巻は迫っているのだが、しかしその人物の走る速度の方が早く、しかも竜巻はどうやら不規則にふらふらと動いているおかげでまだ接触まではしていなかった。

 これは奇跡と言うべきか?俺の助けが間に合ったのだ。俺はその人物の前に急いで空を飛んで急行したのでその登場に驚いた人物が足を止めてしまった。


「な!?何者!?」


 俺への警戒の一言に何だか高貴な空気がある。これに俺は「え?まさか?」と。

 しかしそれは後で良い。既に目の前に迫った竜巻だ問題は。まあそれでも俺とその人物の周囲に魔力でバリアを張れば良いだけなので慌てずに行動するが。


「たまたま見かけたから助けたけど。礼は要らないから安心してくれ。」


 バリアに竜巻の巻き上げた砂が思いっきり当たってパチパチとずっとなり続けているのがうるさくて俺は竜巻事態を吹き飛ばしてしまう事にした。

 どうせ誰にも迷惑は掛から無いだろうと思って。このままだと会話もしにくい。

 バリアの外側に竜巻の逆回転の風を発生させてぶつける。まあ俺が魔力をそのままぶつけて竜巻自体を無かった事にさせても良かったが。

 こういった時に何かと遊びを見出してしまう部分は結構余計だ。すんなりと魔力、魔法に頼って力づくで消してしまえば良い物を、と自分でも考えてしまうが。

 心の余裕と言うモノは必要だと思い直してすました顔で俺は目の前の人物に問う。


「大丈夫だった?色々と聞きたい事があるんだけど、まあ、うん、その顔だとそっちも俺の事を色々と聞きたいらしいからね。もう少し落ち着いてから話でもしようか。」


 今目の前で起きた事態が全く呑み込めてい無さそうな、俺の助けた人物は警戒心Maxで懐に手を入れている。どうやら護身用のナイフでもそこに入っているんだろう。

 俺の言葉に対しても何らのリアクションも返事も無くジッと俺を見つめ続けているその目には決意が見える。何としてでも生き延びる、と。

 ギラギラとしたその目は俺を射殺さんばかりに鋭いのだが、俺が次にした行動に口をぽかんと間抜けに開いていた。


「じゃあ中にどうぞ。走って喉も乾いてるだろうし飲み物も用意しよう。お疲れの様子だし、ちょっと休憩していきなよ。」


 周囲には材料は大量にある。俺は魔力を砂に浸透させて操って一瞬で目の前にコンクリートハウスを作り上げた。

 その中は俺の魔法で空調管理。涼しい室内温度と適度に湿度を保って過ごしやすい空間に整えてある。

 出会っていきなり俺の力を見せつけてしまった様な形になるが、別に俺は気にしなかった。

 どう考えても事情持ちであるこの人物は。しかもそれがどうやら死と隣り合わせと言った様子。

 こうした相手を助けたクセに後は放置とかする様な冷たい精神をしていない俺は。

 そこで人情と、ちょっとした好奇心、それと情報収集の為にハウスの中へと入る様にその人物に促した。

 しかしやはり警戒心の方がまだ高かったのでスンナリと俺の言う事など聞くはずが無い。

 なので俺はこの手にとある物を出した。それは透明なガラスジョッキにキンキンに冷えて氷まで入った「水」だ。


「御馳走するから入ってきなよ。俺は別にあんたを害そうと言う気は全く無いんだ。・・・ああ、言葉通じない?あれ?でもその顔は通じてるよね?ノトリーと神選民教国と同じ言語体系って事か?この砂漠に住んでる人たちも基礎言語同じ?まあそっちの方が都合が良いけど。」


 不思議に思ってその点を追及してみたのだが、この人物は眉根を余計に顰めて俺を余計に警戒するだけ。

 だけどもその視線は正直でずっと俺の手にある水を見つめてしまっている。生存本能が「水」を優先している証拠だ。後それから欲求。

 そしてソレは陥落した様だ。その人物は何時でも俺を撃退できる様にとナイフを取り出してこちらにその刃先を向けている。

 しかしゆっくりとだが俺の作ったハウスの中へとその一歩を踏み出した。


 中へと入ってくれたその人に俺は水のなみなみと入ったジョッキを差しだして手に持たせる。

 するとその人は一気にそれを飲み干した。余程喉が渇いていたんだろうと思われる。


(まあこんなカラカラな砂漠を一人で彷徨っていたっポイし、当たり前だよな)


 俺はテーブルと椅子を出してくつろぐ。もちろん相手の為の椅子も出してある。自分だけ座るなどと意地の悪い事はしない。

 相手に「疲れたでしょう?」と言って座る様に勧める。これに相手もジロジロと俺を見つつもゆっくりと椅子に腰を下ろした。しかしナイフの刃先はずっとこちらに向けたままを忘れない。


「いや、ここまで来たんだからそこまでの警戒心は多少は下がらない?俺ってそんなに怪しい?・・・あ、いや、充分以上に怪しかった。うーん?初対面には絶対に怪しまれるか、不思議がられるかの二択みたいな服だもんな、この世界じゃスーツは。」


 俺には着慣れた服もこちらでは物珍しい代物である。警戒しない訳が無い。

 しかも相手はどうにも命を狙われての逃避行なんだろうなと簡単に察しがついてしまうくらいの警戒心の高さだ。俺への油断は即座に命とりになると思っての事だし俺から譲歩していかねばならない場面だろうここは。


「さて、自己紹介もまだだったな。俺は遠藤。君の名は?」


 向こうはジト目でコチラをずっと見つめて来ているが、別に俺はソレに恐れなど抱かない。

 どうやら俺の態度に何らの動きも見て取れない事で相手も観念したのか自らの名を口にする。


「・・・アラビアーヌ・・・」


 小さい声ではあったがちゃんと俺の耳にソレはしっかりと届いた。


「うん、アラビアーヌね。それじゃあ俺の事情から話した方がそっちも緊張感が解れるかな?そうだなぁ。簡単に言うと、俺はここに観光に来た。もし君がこの砂だらけの土地に詳しいのならば俺を案内してくれると助かるね。もちろんソレに関して報酬も出す。どうだろうか?ああ、それと君の事情とやらも聞かせてくれたら力になれると思うから、説明をしてくれたらちゃんと話を聞くよ?話したくないって事ならしょうがないから無理にとは言わないし、俺の頼みを聞く気も無いと言うのであっても、別にそれでもいい。取り合えずその気が無いにしてもここで充分に休んでいくと良いよ。女性一人でこんな砂の大地を進み続けるのは自殺行為だと思うけど。それでも行かなきゃならないって言うのであれば餞別も渡そうか。水に食糧もたっぷり持ってるしな。」


 俺のこの言葉にアラビアーヌは何とも言い難いと言った感じの表情に変わるのだった。

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