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強いイメージに引きずられて

 時が経つのは早い。そんなこんなで俺はそうやって二か月近く各町村を回り続けた。時には開拓に否定的な者たちには侯爵家が俺のバックに付いている事をちゃんと水◯黄門の如くに紋所を取り出して見せて脅しにしたりもして。


(まあその証明証が偽物だと主張して来た奴らもいたけどな。そいつらは放置だ。これ以上の世話は焼かない)


 精々後で後悔をすればいいのだそう言った奴は。町や村の代表がその様に俺の事を否定して来たのならば、それはそこに住む住民たち全員の責任でもある。

 俺はそう言った動こうとしない地域には今後の支援を止めていた。

 支援をするのは開拓が安定するまでの話であり、それをヤル気が無い所には無償で与える事などする気は無い。

 最初の頃は何処もかしこも貧困で喘いでいたので食糧支援はしたが、腹を満たした後は怠けると言う選択を取るのは余りにも今後の未来を見れてい無さ過ぎだろう。

 働かざる者食うべからず。そんな単純な話だ。ヤル気があって未来に向けて戦い続ける事を選ぶ勇気ある者を支える事には俺は労力を惜しまないけれど。

 今後も延々と只の怠け者を養ってやる義理や責任を負う気が俺には無い。


「さてと、後はこのまま暫くはずっと様子見だな。既にコロシネンの作った新政府の活動は始まったし。開拓も各地で始まって安定し始めたし。」


 俺はベッドに寝転がりながらこれからの今後の事へと思考を向ける。


「俺はこの世界を観光したかったんだよなぁ。だけど、行った先々で何かしらこうしてやっている様な気がする。いや、やってるな。確実にやってるな?」


 今度はどんな場所に行ってみようか?そんな事に思いを馳せる。

 自分が観光と言えばどんな光景を思い浮かべるか?と言った事を考えるとパッと思いついたのが「砂漠」「ラクダ」「夜月」であった。


「イメージが古いんだよなぁ。月の砂漠を遥々と?シルクロード?オアシス?砂漠の民ってか?遊牧民?」


 考えが浅はかだ。でも、確かにラクダには乗ってみたいなと思った。


「いや、この世界ラクダ存在するか?ラクダみたいな動物?まあ水分を余り必要としない進化を遂げた生物は存在するかもしれんけどね。」


 ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、サンコブラクダ、妙にラクダの事が頭に浮かんできて離れなくなってしまった。いや、コレは水が必要無いのではなく、その背のコブに水分を溜め込んでおける生態と言うのか。

 こうして次の俺の目標が決まる。砂漠だ。だけどもその観光旅行も味わい深いモノとならず、かなりあっさりしたモノになるのだろう。

 何せ俺は魔法が使えてしまうので何か困った事が起こればソレで全て解決して無問題にしてしまえる。

 この世界の住人にしてみればソレは何とズルい事であろうか?だけどもコレはこの世界の住人であっても精進を積めば可能になる事なのだ。

 俺の師、今のマクリールがソレである。俺が色々と介入しての結果ではあるのだが、それでも師匠は俺と近い事はできる様になった。なっている。

 ならばこれが後何十年後になるかは予想はできないが、いつかは魔法使いの者たちが今の俺と同じ事ができる様になればもっとこの世界は充実、便利な世界に変わるのだろう。

 そうなれば砂漠にも気楽に訪れてその砂一面の光景を目にして感嘆の吐息を漏らす様にもなっていくに違いない。


「今はまだこっちの件を気にしていないとな。もう既に収穫できてるトコもあるし。もうそろそろ部分的に減らして行くべきだろうな。あー、そうなると神選民教国の方はどんな話をしに行こうかー。」


 メリアリネスには暫く会いに行ってない。まあ話す話題が無いからソレはしょうがない。こっちの事で忙しくて忘れていた、とも言う。

 だけども、もうそろそろノトリー連国の新政府とその国家方針は説明をしておく方が良いだろうか。いや、ある程度はもう既に送り込んでいるであろうスパイからの情報をメリアリネスは受けているはずだ。

 話をしに行くのは別に焦る事でも無いのでまだまだ後回しでも良いだろうが、けれどもあんまりにも長く放置するのもダメかもなと思い直す。

 まあコロシネンがこの件は直接に神選民教国へ使者を派遣して説明責任を果たすかもしれないが。


 メリアリネスはノトリー連国にも、この「魔改造村」にも手は出さないとは言っていたが、他の野心が高い貴族たちはもうそろそろ俺の見せた恐怖が薄れて来て馬鹿な事を考え始めそうな期間は過ぎたと思う。

 喉元過ぎれば熱さを忘れる、と言った具合か。そちらの抑え込みなどをどう考えているのかをメリアリネスには聞いておきたい。


 女王と言う立場からの命令は貴族たちを抑え込む効果をちゃんとまだ出せているのか?

 言う事を聞かずに勝手をし始めた奴らなどが居れば国の戦力で罰する権力の維持は出来ているのか?

 出来ていないのならばそこに俺の助けは必要なのか?必要であってもソレはまだ投入は早いと言われるのか?


「まあ勝手にこの村に手を出して来たら俺がその時は徹底的に潰すけどなー。その時にはメリアリネスの許可なんて取ら無いし。」


 俺は将来的にはこの「魔改造村」を両国の架け橋にするつもりでいる。

 今は俺の支配下みたいな事になっているが、いずれは代表を誰かに決めて政治を任せるつもりだ。

 俺が何時までもここにのさばっていてれば住民に自立心が生まれない。

 そして俺はここまでやっておきながらこの魔改造村を最後まで面倒見る気が無かった。無責任である。

 所詮は俺の偽善な心と気まぐれで出来上がった村である。戦争やら略奪に晒されたりしなければそれで良いとさえ思っていたりもする。

 穏便に、誰にも迷惑が掛からず、どちらかの国に吸収される、と言ったくらいであれば俺はソレを見守るつもりだ。統治なんて言った面倒な事は政治家様に任せてしまえばいい。

 まあその政治家ってのが余程の悪党で無ければの話だが。


 こうして俺はこの後のノトリー連国の状況をまだ暫くは静観する事に決めて昼寝を始めた。


 そこから一週間は農業がしっかりと軌道に乗った町村に支援を今後少しづつ様子を見つつ減らして行く事を代表たちに伝えていく日々となった。

 既に俺がそう言った町村で徐々に崇め奉られ始めていた時期なので丁度良い。

 俺は早め早めに神様扱いされる事を避ける為に住民たちの前に姿を出さない様にしている。

 一応は侯爵家の使者としての立場で会っているはずなのだが、俺と接触した者たちからだけは「ありがたや」などと拝まれているので少々厄介だった。


 妙な宗教が起きる前に切り上げ時期を前倒しにしないとな、などと考えつつ俺は今あの「カレーの村」に居る。


「ほーう?これが例のアレの元になる植物の種かい?かなりの量と、これまた種類を貰っちまってるが、良いのかい?」


「婆さんに預けるから管理は任せた。ここで開拓した畑でどんな育て方をすれば生育させられるのかは実験してみないと分からんしな。そこらへんの研究ってのも村総出で頑張ってみてくれ。俺は植物学者じゃ無いんでな。残念だけど教えてやれる様な知識は持って無いんだ。」


 渡した様々な種類の種から先ずは発芽させなければならない段階からである。

 これらのこの世界独特なスパイス植物は俺の魔力が浸透した土から生えて来ている。しかも極超短時間で。全く植えた覚えも無いのに。

 そんな摩訶不思議なご登場なスパイスたちなので、そこら辺の生育記録なども無く、ここでの農業でこれらを収穫まで持って行くのは全くのゼロからのスタートである。

 相当な苦労が見込まれるが、一応はそれらの実験が上手く行かなかったとしても俺の手持ちの量はそれこそ「何をする気だ?」と言われてもおかしくない程にインベントリには入っている。

 これらの種が無くなってしまってもその内に俺がまたここに寄った時に補充する事は可能だ。

 そこら辺の説明を一通り追加でしてから俺はこの村への支援を打ち切る事も告げた。


「アンタは村を救ってくれた恩人だ。だから、何も聞かない。聞いて欲しくなさそうだしね。こんなジジババばかりの死にそうな村だったのを此処まで活気付けてくれたんだ。それ以上を望むのは欲深だ。何時かまた来とくれ。その時にはアンタが食わせてくれた例のアレも再現しておくさね。」


 ここの村長の婆さんはどうやら俺の事を疑っているが、これ以上に踏み込む事はしないと言ってくれた。

 どうやら俺の侯爵家からの使者と言った部分を半分信じて、半分疑っていると言う所か。

 ここにはこれまでの期間に何度か訪れていた。そこで最初に証明証を見せた時の婆さんの反応は結構な驚き様であったので「本物」と察していた様だが。

 それでも俺への態度も言葉遣いも変わらずに肝の太い婆さんだった。なかなかの傑物だと言えると思う。

 今もこうしてインベントリから直接にスパイス植物の種の入った袋を幾つも取り出す所を見せていたのだが、婆さんから引き出せた驚愕の表情の時間は一瞬だった。その代わりと言っては何だが盛大な溜息を思い切り吐かれたが。


 その後に俺は置き土産に婆さんにメルフェの実をプレゼントした。甘くておいしいよ、の言葉を別れのあいさつにして俺は出て行く。


「さて、次は何処が良いか・・・あと残ってる町村の数って、まだまだ多いよなぁ。取り合えず、大きな所から段々と終わらせていくか。」


 お次はあの狼と少女の居る家にワープゲートで移動する。話をするのはあの御老人だ。

 名前を未だに聞いちゃいないのだが、別に俺はそこら辺を気にしていないし、コミュニケーションは取れているのでまあ良いかと軽い感じでこれまで来ていた。

 これ迄に何度も顔を合わせて話し合いはしたし、そこでした話の内容は今後の町のざっくりとした動きを説明して貰った程度でしか無いのだが。


「俺がこの間コロシネンに頼んで正式な書類と証明書を発行して貰ったからな。それを渡しておかないと。」


 多分これらを渡せばきっと複雑な顔をするに違いない。だけどもいつまでも俺がコレを持っていても意味は無いのでさっさと御老人の所にお邪魔しに行く。


 そして家のドアをノックすれば出て来るのは。


「わー!お兄さんだ!ねえ!アレは今日も持ってきてくれたの?私あれ大好き!」


 無邪気な笑顔で俺を出迎える少女だった。まあメルフェの実が目的な笑顔ではあるのだが。

 俺がこの少女に餌付けした感じになってしまっているのはもうしょうがないだろう。それだけ衝撃的な美味しさの果物だったから。

 俺はメルフェの実を懐から取り出したかの様に見せかけてインベントリから一つ取り出す。それを少女に渡した。

 少女は嬉しそうにソレを受け取って「ありがとう!」と礼の言葉を言うと同時に家の中を走り出した。

 そこで御老人がやって来て俺へと頭を一度下げてから質問をしてきた。


「おや、今日はどうなされましたか?何か緊急の御用事ですかな?」


「いや、そう言う訳でも無いんだけどさ。はいこれ。」


 俺は封をされた二枚の羊皮紙を渡す。するとそれを眉根を顰めて受け取る御老人。


「コレは、一体何ですかな?内容は・・・?」


「読んでくれたら分かるよ。早速開けてその目で確かめてくれ。」


 コレはコロシネン、と言うか、発足した新政権からの任命状だ。この町の統治の件について小難しい事がびっしりと書かれているはずである。


「孫が・・・後見人を私が・・・ソレを正式に認める書状ですか。」


 羊皮紙を二枚とも開封して目を通した御老人は目を見開いて驚きの表情に変わった。

 そんなタイミングで俺はこれに付け加える。


「何時までも甘やかしてばかりいないで、これからはしっかりと教育していかないといけなくなるが、どうする?」


「・・・どうするとは?」


 この任命を受けると言うのならば少女は今後遊んで過ごしてはいられない。この町を統治する立場に将来なる者として、その責任を果たす為に必要な勉学をして行かねばならなくなる。


「これ、拒否したければできるんだよ。その場合はあんたが推薦する者をこの町の統治者として認める事になってる。拒否せずに受けると言うのならば資金的な面でも人材的な面でも優遇措置を付ける事になってる。」


 俺のこの言葉に再び驚く御老人。どうやら拒否権があるとは思ってもいなかった様子。

 しかも拒否した場合に自身が推薦する者を代わりとできるとまで聞いて話が呑み込めないと言いたげである。


「どうしてそこまで?」


 待遇が良過ぎだと言いたいらしい。金も人も足りなきゃ出すと新政府が言っているのだ。これには流石におかしいと警戒心が湧くのも無理は無い。


「まあ俺がそうしてやってくれって頼んだからだな。小さい子供に無理させてまでやらせるこっちゃ無いからな。押し付けられて本人がそれを嫌々勉強、何てのは一番本人に悪影響だろ?やる気も出ないはずだ。この件は急いで返事をしなくて良い。そこらへんも加味してある。だから慌ててここで決めなくて良い。後でゆっくりとそこら辺の話を二人でするといいさ。」


 ヤル気があるならばそれはソレ、頑張れば良いだけの話だ。しかしあんな無邪気な少女がそこら辺を理解していてやると言うはずが無い。

 それに今話しているのは小難しい内容で少女の耳に入っていても聞き流されて意味を受け止められてはいないだろう。


「私、やるわ!」


 そんな事を思った時に響き渡ったのは少女の覚悟の籠ったその一言だった。


「父様母様はこの町を良くしようと頑張っていたんだもの。私はソレを継ぐわ。これまでずっと甘えて来たけど、もう大丈夫。おじいちゃん、ううん、御爺様。これから私、頑張るわ。だけど時々は遊ぶ時間も作って欲しいの。そうじゃ無いと気が張り過ぎ続けて倒れちゃうわ。」


 そこには無垢な少女では無く、貴族の責務を背負ってしっかりと立つ淑女が立っている。茶目っ気も添えて。

 これを見て御老人はグッと拳を握り込んだ。そして一つ大きく息を吸うとこれに応える。


「ああ、分かった。私の可愛い孫よ。これからはしっかりと二人で歩んで行こう。この町を良くしたいと思うのはお前だけでは無い。私だってそうだ。将来ここを治めるのはお前なのだ。ならばその未来がより良いモノになる様に、この老骨を粉となるまで働かせようじゃ無いか。」


 覚悟の決まった顔を向き合わせた後は抱き合う二人。取り合えずもう俺はここには必要無さそうだ。


「あ!ちゃんと私が頑張ったらご褒美を頂戴!あの甘ーい果物が欲しいの!エンドウさん!お願い!」


 ちゃっかりしている。どうやら今後もここには顔を時々出しに来ないといけない様だ。

 ここで俺はちょっとした宿題を出しておく事にした。これは別に只の思い付きで実現させられるかどうかは分からない。


「ああ、それならお嬢さんが大きくなって俺の今住んでる村との交渉ができる様になったら仕入れる様にすると良いよ。そうしたら俺の事を気にせずに将来はこのメルフェの実を好きなだけ食べる事ができる。それまでの間は時々こうして様子見をしに来てあげよう。頑張っていればちゃんとメルフェの実を思う存分その時は御馳走してあげるよ。」


 俺はあの魔改造村にずっと住み続けるつもりは無い。なのでいつかは今拠点としてる家を誰か村の住民に譲って、そしてその傍に植えたメルフェの木の管理も任せる事になるだろう。

 そうしたらソレを商売にしてメルフェの実を流通させても良い。管理する者の自由にさせる事にするつもりである。


 これに少女の目がキラリと輝いた様に見えた。そしてその口から「メルフェって言うのね・・・ふふふ」と漏れている事から相当にあの甘さが脳内を支配している模様。

 将来的にはあの魔改造村がこの少女の支配、管理下に置かれる可能性を思う。


(まあ誰がどの様にしようと、それが悪い結果にならなけりゃそれで良いさ)


 俺は別にあの魔改造村に強い執着を持っている訳では無いのであっさりとしたものだ。

 誰がどの様に将来あの村を支配しようとも、それが圧政でさえなければそれで良いくらいに思っている。


 ここで俺は追加でメルフェの実を三個追加で少女に渡して御老人へと視線を向ける。

 そしてこれまでして来た支援を徐々に減らす説明をしてから家を出た。


「さて、じゃあ次は・・・別に急いで町村を回らなくても良いんだから、そうだな、メリアリネスの所に顔出すか。」


 俺はワープゲートで神選民教国にパパッと移動だ。そして前回は海の幸を手土産に持って行ったけれども、今回はどうしようかと考える。

 確かその時に真珠?の代金の支払いとか手続きとかはどうだったかな?などと思い出しつつ歩く。

 既に移動を終えた俺は勝手知ったる他人の城である。堂々と通路を歩いてメリアリネスの執務室へと向かっている。

 傍若無人だろう他から見ればそんな俺は。そしてここで俺を引き留める者が。


「エンドウ様、ご案内も無しにそう御勝手に歩き回られますと皆が怯えます。どうか私に案内をさせてください。」


 いきなり執務室に現れるとメリアリネスに睨まれるだろうな、などと、いつもは考えない気遣いを俺は今回思いついてこうして遠回りしてお邪魔しようと考えての行動だったのだが。

 ソレはどうやら俺の事を怖がっている者にとっては心底やめて欲しい事であった様だ。


「お?久しぶりアーシス。じゃあスマンがお願いする。」


 俺を止めたのは今は女王秘書であるアーシスであった。そのこちらを見る目には別に畏怖などの感情は無い。淡々とした抑揚の無い冷たい感じである。

 初めあった時は俺に対して敵意を向けて来ていたはずだったが、今ではそう言った様子の欠片も無い。

 メリアリネスが女王になってから変わって行った様に思うが。


「こちらで陛下はお休みになられています。どうか余り突拍子も無い話はなさらぬ様、願います。」


 アーシスから妙な注意を受けてしまった。そして通されたここは執務室では無い。

 部屋の中へと入れば大きなベッドに寝ているメリアリネスが。


「・・・なんかの病気?いや、別段顔色は悪く無さそうだけど。何があった?」


「貴方ですか。まあ一時的な疲労による眩暈と貧血です。いわゆる過労ですね。」


 俺の質問にメリアリネスの口から直接説明がされた時にはお世話の為に居たメイドたちが部屋から全員出て行っている。

 これに気付いた俺は何事なのかと思ったのだが、別に何てことは無い。人払いがされただけだ。


「人に聞かれたく無い話を俺にしたいのか?愚痴くらいなら聞くぞ?いや、本当に病気であったならソレは俺が完全に治してやれるだろうから早めに言えよ?と言うか、今調べるか?できるけど?健康診断しておくか?」


 俺とメリアリネスとアーシスだけがこの部屋に居る。俺は一応の為に魔力ソナーで部屋の中に異変やおかしな部分などが無いかを調べたが、盗聴やら隠れている者が潜んでいたりはしなかった。

 取り合えずメリアリネスは俺に何かしらの誰にも聞かれたくない話があるのあろうと思って魔法でバリアを張って音が外に漏れ無い様にと部屋を覆う。


「お気遣いありがとうございます。ですが、それは無用です。これは「餌」ですから。」


「・・・何となく察する事はソレでできるけど。なんだ、女王陛下を良く思って無い奴らを釣る為の演技って事なのか?」


 ベッドに寝ていたメリアリネスが過労で倒れたと言う割にはそこまで瘦せ細ってはいないので一時的と言いうのは確かなのだろう。

 だけどもアーシスが俺を睨んでいるのが気になってそちらを向いてみれば。


「エンドウ殿、貴方が女王陛下へ負担を持ち込んでいるのを自覚はしておられないのか?」


「え?そこまで?俺なんかやっちゃってました?」


 いや、考えてみれば確かに俺が話を持ち込んだ時には非常に疲れた様子の大きな溜息をメリアリネスに吐かれる事が多かったと思うが。

 それでもそこまで倒れる程の心労を与えたとは俺は思っていなかった。


「何時も何時も頭が痛くなる、胃が重くなる話をどうも有難うございます。こう言えば伝わりましたか?」


 メリアリネスが俺に追撃を入れて来る。しかも辛辣。嫌味を添えて。

 なので俺は今日来た用事を置いて行かずに持って帰ると口にした。


「・・・あー、じゃあ今日は持ち込んだ話題はこのまま持ち帰らせて貰うよ。また今度にしよう。」


「一時的な過労で倒れたのは事実なのですよ。ですが、それも貴方だけが原因と言う訳でも無いのでその話は今しておいていただけると私も後々の処理に心の余裕が持てるので持ち帰りは無しにしてください。」


「あ、そう?じゃあ、そうだな。話をする前に心安らぐ甘味は如何だろうか?おいしいよ?」


 俺はインベントリからメルフェの実を取り出す。すると瞬く間に部屋の中に甘く良い香りが広がる。

 メルフェの実を半分に割ってソレをメリアリネス、アーシスにそれぞれ渡した。

 実を割った事でより強い甘い香りが部屋に充満する。これにゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだのはメリアリネスだ。

 そのまま齧り付こうとしたメリアリネスを止めたのはアーシス。


「陛下、先ずは私が一口食べて毒見を致しますので、その後で食されてください。」


「え?俺ってそんなに今も信用無いのかよ?俺が女王陛下に毒を盛る利は無いだろ・・・」


 ここ最近で一番ショックがデカい。俺はまだこれ程にアーシスから信用されていなかったと言う事実。

 俺がメリアリネスに毒を盛ってもこれっぽっちもメリット何て無いのに。この犯罪者扱いは酷いと思うのだ。

 だがここで甘味の大勝利。流石メルフェの実サマ様である。

 アーシスが一口そのまま実を齧った瞬間に目をカッ開いて硬直した。


(リアクションがあの少女と同じなんだよなぁ)


 アーシスも所詮は甘い物大好きなのだろう。硬直がゆっくりと次第に解けていくにつれて頬が緩んで目じりも下がる。さっきまで吊り上がっていたのに。咀嚼する回数が増えれば増える程に下がりに下がる。だらしない程だ。

 コレを見たメリアリネスが我慢できないと言った感じで実に齧り付く。するとやはりアーシスと同じリアクションになったのだから俺はこれに笑いを堪えるしかない。


 こうして実を食べる終わる迄二人を待ってから俺は一言。


「癒された?なら話しても良いか?」


 かなり長めに余韻に浸っている二人だったが、これにやっと意識を引き締めて俺の方を向いてくれた。


「ええ、おいしかったです、甘かったです。・・・まだ食べたり無いのですけど、もう一つ頂けませんか?」


「メリアリネス、以前に戻った感あるね。その遠慮の無い感じ。女王業はやっぱお堅くしていないとダメで調子狂うの?」


「ええ、そうですね。大勢の部下の前でこの様な態度は取る事は出来ませんから。気をいつも張り続けていましたよ。・・・はぁ~、覚悟はしっかりと有ったはずなんですが。こうして過労で倒れてしまった事を情けないと感じてしまいます。」


「今は気を思い切り緩めていても良いぞ?俺が障壁を魔法で張ってるから声も絶対漏れ無いからな。誰も入って来れ無い様にもしてあるから気を楽にしろよ。」


「そんな貴方が持って来ていた問題が大抵いつも一番大きかったんですけどね・・・」


「うん、そこは悪かった。でももうちょっとでノトリー連国の方はカタが付いて安定するから、そこの問題は無くなったも同然、ああ、戦争に至る可能性が無くなったってだけで別の問題は出て来るかも知れ無いってだけだけど。」


「だから、それがいけないんですよ、良い加減そう言った話を持ち込むのは止めて欲しいのですけれど。でもこちらもそう言った情報をいち早く頂けるのは心の準備もし易くなるので何とも言えないのがまた・・・」


 メリアリネスに大きな溜息を付かれた。なのでもう二個程メルフェの実を取り出して近くのテーブルに置く。

 これで多少は機嫌が上向きになったメリアリネスは俺に詳しい説明を此処でやっと求めて来た。


「で、詳細を聞きたいのと、おさらいもしておきたいので発端から説明をお願いしても?」


「ああ、分かった。それじゃあどこら辺から話せば良いかね?端折ってた部分も細かくいく?ああ、それなら少々お時間を頂きますが、宜しい?」


 こうして俺は今の状態のノトリー連国になるまでの経緯を最初から説明をし始めた。


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