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何時もこれくらい話がスムーズに行くとストレスも少なくて済むのだけれども

 俺は椅子に深く座ってテーブルに出された切り分けられたメルフェの実を一かけら口に入れる。

 ソレを見つつも御老人が俺の事をじっと見て来る。そこには妙な緊張感が含まれていた。

 そんな事は知らないとばかりに少女がメルフェの実を見て言う。


「おじいちゃん!私もコレ食べて良い?凄くおいしそう!甘い匂いが凄い!食べたい!」


 御老人は俺が一つソレを食べている事で毒は無いと判断したのか軽く頷いて少女に許可を出した。

 これに少女は「やったぁ!」と満面の笑みを作って大きな一つを口いっぱいに頬張った。

 甘さに驚いたんだろう。これに少女の瞳は目一杯に広がる。その表情が可愛らしく、そして同時に面白い。

 少女は夢中になって口の中にあるソレをずっと咀嚼し続ける。そしてそれを飲み込んだ後の少女の感想は。


「・・・あ、あ、あ、あ、あまぁぁぁぁぁぁぁーい!」


 何処かのお笑いコンビのネタみたいな叫びを上げた。その後はまたもう一つ口に放り込んでまたずっとモグモグしては目を見開きっぱなしである。この少女にとってメルフェの甘さはどれほどの驚きだったのかがこれに読み取れる。


 ここで御老人も一つを口に入れてこのメルフェを味わうと少女と同じ様に驚愕の顔に変わっている。


「コレは凄まじいモノですな。この実一つにどれだけの値段を付ければ良いやら想像もできません。」


「ああ、良いんですよ。遠慮せずに沢山食べて頂いて結構。まだ余る程に持っているんで。それで、説明をして頂けると言う事なのですが。」


「話はオリスから聞いております。その力も。ここでの抵抗は無駄でしょう。説明をすると言いましたが、貴方の事がサッパリと読めません。要求は何ですか?貴方の考えが一向に分からずにこちらも困っていましてね。先にそちらの方を教えて頂けると有難いのですが。」


「ああ、そこら辺は頑なにオリスが聞いてもくれない様な雰囲気だったから話して無かったか。でも俺はそもそもこの町の支配をしているのがラメカって人物だと思ってここに来たんですよ。何であの狼がラメカなんですか?」


「アレは正体を隠す為の方便でしてね。本来のこの町の正当な統治者はこの子なのですよ。なのでコレを狙ってくる馬鹿が居たらソレに引っかかる様にと。ついでにこの子には貴族などと言う重い物を余り背負わせたくは無かったのでかなり甘やかしている所もありましてな。」


「ああ、どこからどう見ても普通の一般市民の少女ですね。どうやら・・・裕福で何の苦労もせずに成長して来ている様ですけど。まあ、どう考えても貴族には見えない。かな?」


 俺と御老人の会話なんて耳に入っていない少女は既におなか一杯にメルフェを詰め込んで呆けた顔で椅子に寄り掛かっている。

 そしてどうにも睡魔がやってきていて船を漕いでいる。散々狼と遊んで運動し、そしてかなり濃い糖分を摂取したのでどうやらお昼寝と言った様子だ。

 御老人は優しく少女を抱き上げると家の奥の部屋に入っていく。恐らくはベッドに少女を寝かせに言ったのだろう。

 そして戻って来た御老人はかなり真剣な目で俺を見つつ話を再開した。


 まあその内容を簡単にまとめれば。


 少女の両親は貴族で、幼い子を残して働き過ぎと病で両方が倒れ亡くなっている。この町の切羽詰まった状況を何とかしようと駆けずり回っていたらしく、それが元で過労死と。

 その後はこの貴族の親戚がこの町の乗っ取りを計画して少女の後見人に入ろうと画策。

 少女の祖父がそこに介入してコレを阻止。寧ろその親戚の貴族の弱みを逆に握って支配下にしたそうで。

 その後に国の中枢から送られて来た代官も懐柔、と言うか、これもこの代官の悪事の証拠をゲットしてやはり支配したそうだ。


「貴族コッワ!アンタ、恐ろしいな。その流れで俺も脅して大人しくさせようって?今こうして下手に出てるのは俺を油断させる為かな?」


「貴方の情報は入っていますよ。コロシネン侯爵の味方に付いて彼を救出、その後の貴族の連合に御一人で対処をしてコレを全て「掃除」したそうで。その様な相手に私の力が及ぶはずも無い。」


「何だ、すっごい情報通だな。それ程までに情報を素早く手広く集められるとか。どれだけの金と権力とコネがあるんだよ。」


「昔は少々暴れていた時期もありましてな。その後に落ち着いた後は息子夫婦に爵位を渡してのんびりと生活していれば、この様な事になっておりましてね。重かった腰を一気に伸ばしましてな。老骨にはキツイながらもあの子の笑顔の為ならばと。」


「うん、事情は分かった。別に俺が割り込んだりしないでもこの町の統治は安泰だったって事が分かったわ。余計だったなこりゃ。」


「・・・どういう事です?」


「もう知ってるんじゃ無いのか?国の方針ってのを。」


「ええ、そうですな。確かに既に情報は耳にしております。」


「俺がやろうとしたのはその手助けでな。先に各地に行って農地広げようぜ、働こうぜ、飢餓を無くそうぜ、って促してるんだよ。それで、援助も先行して俺がやってるって訳だ。実際に既に国の発表の前に自主的に動き出して開拓作業し始めてたトコも多いよ。まあ俺の提供した農具と食糧ありきで動き出してるってのはあるんだけどな。そこで、この町でも先行して動き出して貰う為に統治者に話を付けに来ただけなんだ。」


「・・・それで、この町にはどの様な手助けをして頂けるので?」


「驚く程に決断が早いね。まあ俺もやる事は変えないつもりなんだ。村でも町でも同じ様な支援でいく。食料と農具を提供するから周辺の土地を畑に変えて食糧生産地にしてくれ。飢える者が今後出ない位に。」


「この町に以前に大量の食糧が出回ったのは貴方のやった事だったのですな。」


「信じるのが早くない?普通はここで疑う所だよ?」


「貴方の信じられ無い力の話は既にオリスから聞かされていましたからな。その様な事も出来てもおかしくは無いのでしょう。」


「あんた大物だな。まあそう言う事だ。今後はあんたを通していけば俺が楽できそうだな。農具も食糧もあんたに渡せば上手くやって言ってくれるか?この町の住民を総動員して開拓だ。」


「・・・貴方の目的はそれだけなのですか?どう考えても貴方はご自身の利益を考えていない様にしか見えない。そこに何の得が貴方に有るので?」


「うーん?そう言った小難しい事は考えて無いんだよなぁ。しいて言うなれば、俺には余裕があって、この国の状況が見過ごせない程度には偽善者で、思い描いた絵を描き上げる力を持っていたから?」


「・・・貴方は私の事を恐ろしいなどと仰いましたが、寧ろ貴方の方が余程に怖ろしい。」


「えー?何で?まあ良いや。今日の所は農具を置いていける倉庫とかはあるか?食い物も大量に入れておくからそれらを使って人を集めて早め早めに作業に取り掛かって貰いたいんだが、大丈夫か?あ、金は無い。うん、金貸してとか言われても俺はこの国の金を一切持ってないからそっちの事は頼られても困るんだ。そこら辺はそっちで何とかしてくれ。」


「・・・良いでしょう。分かりました。案内します。こちらへ。」


「いやー、話が早くて助かるよ。それと小悪党とかじゃなくて良かった良かった。久しぶりに「まとも」なやり取りができた感あるなぁ。」


 俺のこの感想に御老人は非常に困った様な、迷惑とでも言いたい様な、そんな妙な表情を少しの間浮かべていた。

 そうして案内された少し大きめの家一軒程の大きさの倉庫にダバーッと農具を。

 ソレで約半分が埋まった後にその残りスペースに俺の専用農場で収穫した作物をダバーッとこれでもかと。

 コレを見た御老人の口元がヒクヒクと痙攣していたのだが、俺はこれを見なかった事にする。


 一仕事終えた俺はそのままその場でワープゲートを出して自宅に帰った。


「いやー、こうして毎度の事に話の通じる相手とやり取りできるとストレス感じなくていいんだけどなぁ。」


 俺はそんな呑気な事を口にしつつ家の中でゆっくりとお茶の時間を取った。その後は早めの昼食を摂って昼寝をした。


 二時間程の昼寝の後は首都に比較的近い別の町へと様子を見に行った。

 俺がこうしてあっちこっちの面倒を見る事など本当ならしなくても良いモノなのだろうが。

 一応はコロシネンの方での政治中枢の復旧が終わるまではこの程度なら俺がやっておくべきだろう。

 ソレをしなかったが為に暴動が起きました、とか、治安崩壊が起きました、とか。そんなのが発生したらソレは俺が気分悪くなる。

 このノトリー連国が変わろうとしている途中なのだから、そんな厄介事を起されては困るのだ。

 ソレを抑止する為にも俺の見回り作業はもう少しだけ続けなくてはならない。


「・・・で、ここの町はどうなってんだよ?大きな屋敷の前に人の群れ?この町の統治を担っている貴族の屋敷か。で、何が問題なんだ?」


 今にも町の住人が屋敷の敷地内へと押し入ろうとしている。ここで俺は来ていきなりの状況に溜息を吐いてから魔法を行使した。

 もう少しで、と言った所で暴動を俺は鎮圧した。いや、只動けなくさせただけだ。魔力固めで。


「あー、ちょいと良いかい?話を聞かせちゃくれないか?何でそんなに怒ってるんだ?」


 取り合えずこの場に集まっていた五十名近い者たちには全員動けなくなって貰っている。

 そんな状態で俺がいきなりこの集団の背後に現れてそんな事を質問しているのだ。誰だって混乱して言葉を失うだろう。

 だけどもそんな静かになってしまった中でどうやらこの集団のリーダーらしい者がいち早く復帰した。そして怒りと共に叫ぶ。


「だ、誰だあんたは!?と言うか助けろ!何故だか分からねーがいきなり動けなくなっちまった。手を貸せ!」


 俺はこれに無言を貫いた。そもそもこうした理性を失いかけている者たちはこちらが何を言った所で聞く耳を最初から持っていない。

 自分たちの意見だけを押し通せればソレで良いと考えて集まっている。ここで魔力固めを解除すればそのまま屋敷に押し入ろうとするだろう。

 なので俺がここで説得の言葉を口にして「冷静になれ」と諭してもこれに反発をして返って頭をまた沸騰させるだけだ。感情で動いていると言った方が良いだろうか。

 こう言った時には静かで不気味な時間を長く与える事でかなりの落ち着きを取り戻す。

 だから俺は魔力固めを解かないし、このリーダーとみられる者の要求に返答もしない。


「あー、もう一回繰り返して質問をするけど。ちょいと良いかい?話を聞かせちゃくれないか?何でそんなに怒ってるんだ?」


「おい!何がどうなってるんだ!?う、動けないって言ってるだろ!助けろ!」


 魔力固めで全身を拘束してはいるが、こうして喋る事はできる様にしてある。しかし俺の方に顔を向ける動きが出来ない。

 先程から動けないから助けろと言っているこの男は背後に立つ俺の方を向く事ができないのだ。


 俺はここで沈黙を選ぶ。そしてそこで一言ぼそりと、誰にも聞こえなくても構わないとばかりに小声でこんな言葉を呟いて。


「誰も俺の知りたい事を教えちゃくれないのか・・・なら、このままずっと動けないままで居ればいいよ。」


 コレは只の脅しだ。別にこのまま永遠に固めたままで居させる事は無い。コレはこの集団をコントロールする為に口に出した言葉である。

 この呟きを聞き取った者に「このままずっと動けない?」と言った僅かな不安を与えて思考を怒りから逸らす為の誘導だ。

 ここで勘の良い者なら動けない理由が俺のやった事であると早くもこれで察するだろう。

 けれどもそれに証拠が無いので心理的に「まさか、あり得ない」と思考がそこでも怒りから逸れる。


 小声で呟いた事も計算の上であるのだ。恐怖は伝わる。俺の側に居た者はこの呟きがしっかりと聞こえていたに違いない。

 これで動けない理由が俺のやった事であると悟るだろう。そして慌てる。慌てたその雰囲気はそいつの側に居た者に伝播する。

 何がどうしたか分からないけれど隣の奴が慌てている事実で自身の身に起きている現象により一層の恐怖を覚え始める。

 怒りと恐怖が同時にあり、それは時間と共に怒りが減って恐怖が増大していく。

 余り長く怒りとは持続できない感情だと言われている。だから色んな方法でその怒りが収まる様にする事で冷静さを引き出せるようになると言った具合だ。

 それと拘束から逃れようとする者たちはこれにエネルギーを使ってしまい怒りに投入する体力を著しく減らす事だろう。そうすれば大人しくなり易い。


 ここで一番起きて欲しく無いのは一人一人各自が勝手な事を言い始めて収拾が出来なくなる事だ。

 まあそれも俺が魔力固めを使えば一発で拘束をして黙らせる事はできるが。それが起きる前にこうして大人しくさせた方が不要な精神的疲労を受けずに済む、俺が。


「で、この集団の代表は誰なんだ?どうしてここに集まってるの?」


 暫くしてから再びした俺の質問に答えようとしてくれるものが出なかった。

 さっき喚いていたリーダーらしき男が答えてくれるかと思っていたのだが、眉根を顰めてずっと機嫌の悪そうな顔になっているだけで口を開く様子は無い。


(何がどうなってんだか。まあ良いか。先に向こうに話を聞いてみるか)


 俺は集団を置いて屋敷の方に顔を向けた。ここの屋敷の主人、恐らくは貴族でこの町の統治をしている者に先に話を聞いてみようと考えた。

 だけどもそんな俺の様子を察したのか、突然不機嫌な声音で理由を述べた。


「開拓の許可を出さないのが悪いんだ!俺たちはそれに対して断固抗議する!法が何だ!何が貴族だ!俺たちの生活を、その未来を奪う奴は必要無いんだ!追い出せ!俺たちを蔑ろにする貴族を許すな!」


 革命が起きる直前だったらしい。何でこうも七面倒臭い事が起きているのだろうか?

 そして何で御都合主義とばかりにそんなタイミングで俺がここに来てしまったのか?

 コレを解決するのは当然、俺になる訳で。


「はぁ~、ちょっと話を聞きに中に入るかぁ。どうしてこんな事になっちゃってるのかね?この町は。」


 片方の事情は分かった。だけども、もう片方もここは聞いておくべきだ。

 一方の言い分だけを取り上げてもソレはもしかしたら只の盲目に陥っている状態なだけなのかもしれないから。

 真実を知らず、裏の事情なども知らず、只自身の不満をぶちまけて過激な活動になってしまっているだけ、と言った事もあるかもしれないのだ。


 こうして俺は屋敷の中に勝手に入る。どうにも使用人らしき者たちがそんな俺を止めようと立ち塞がって来たりしたが。

 そこは天下の紋所、貰った侯爵家の証明証を示したら「!?」と驚いて道を開けてくれる。

 そしてそこで一人のメイドさんにビビられながらも何の用かを聞かれたのでこれに答える。


「あー、この町を治めてる奴に会いたいんだけど。そいつどこ?案内して。」


 この求めに質問をしてきたメイドさんが案内を務めてくれたのでそれに付いて行った。

 辿り着いた部屋にメイドさんはノックをして「こ、侯爵家の使者様がお見えになっております・・・」と扉越しに中の者に問う。

 そこで返ってきた言葉は「入って来て頂いてくれ」との事だった。


(お?どうやら話が通じそうな相手だな?良かった良かった)


 俺はちょっとホッとしながら開けられたドアを通った。


「初めまして。私は代官としてこの町を統治するよう派遣されたマードルと申します。」


 俺が部屋の中に入ればその様な挨拶が先ず飛んできた。俺はこれに。


「遠藤だ。よろしく。それで、早速話を聞きたいんだけど、質問良いか?」


 俺のこの無遠慮で単刀直入な態度にいかにも「インテリ眼鏡」と言った感じで気取った態度の代官マードルは思わずと言った感じで一瞬眉根を顰めた。


「その前に証明証を・・・失礼、確認致しました。本物の様ですねどうやら。で、何をお聞きになりたいので?」


 どうやら俺の事を偽物として疑っていた様だ。けれども俺がここで侯爵家の証明証を出したらソレを見たマードルは直ぐに確認ができたと言って質問の内容を求めて来る。


「あー、そうだな。全部、って言ったら漠然とし過ぎか。順を追っていこう。首都からの連絡は何処まで来てる?あんたは首都で起きた出来事を何処まで把握できているんだ?」


「・・・侯爵家が首脳陣を武力で制圧。しかしその後に脱出した首脳陣が逆襲、コロシネン候は幽閉。しかし侯爵がそこで救助されて再び挙兵、敵対貴族を全て平らげて新たな政府を発足。」


「しっかりと把握できてるじゃん。で、アンタは代官って事だけど、新政府からここに送り出された口かい?それとも、もっと以前からここで勤めていた感じ?」


「私は新政府からの派遣でこの町の管理、調整を任されています。」


「なら知ってるだろ?方針ってのは。」


「勝手に住人たちに町の外周に畑を作られては混乱が増します。管理や整理もできなければ税金も取れなくなります。規制は必要です。」


 話が早い。マードルはどうやら俺が言いたい事、聞きたい事を分かった様だ。ここで追加でまだまだ問題があると言ってきた。


「法の整備や計算をできる職員の数も足りていない所にこの様な暴挙を許す事はできかねる。」


 確かにそう言った部分は大事ではあるのだが、これに俺は告げる。


「ああ、そこらへんの決め事はもうそろそろ正式に纏まったモノが回って来るだろうさ。けれどもその前に先に開拓はやらせちゃっておいても良いんだよ。後からでもやれば良い様な書類仕事や計算は準備だけしておくだけでいいさ。大事なのは動く事だ。ヤル気が高い時に始める事だ。今ここに集まって来てる奴らには許可を出して、ある程度こちらの監視が届く範囲を指示して耕させればいい。そう堅く難しく考えないでやらせてやってくれ。」


「貴方は一体何様なのですか?ここを預かり、差配する権利は私にあります。使者だと言う事でこちらが大人しく話を聞いていれば次は何かと口出しですか?」


 少々イラついた感じでマードルは俺に言い放ってきた。どうやら俺に横から口を出されたのが気に入らないらしい。


「この町の統治を任されたのは私なのです。他人からとやかく言われる筋合いは無いですね。」


「いやー、すまんが、とやかく言える立場なんだよねぇ、俺。まあでも、いっか。あんたの言い分は分った。なら勝手にやるから良いよ。」


「貴方は何を言っているのです?勝手な真似をされては困りますので、何かあれば即座に衛兵に捕縛させますよ?」


「ああ、大丈夫。そこの屋敷の外に集まってる住民に土地の一部を開拓させるだけだから。」


「何を馬鹿な事を。そんな事ができるはずが無い。外に居る者たちは今や代官の私を処刑しようと集まっている暴力集団ですよ?何処からとも無くいきなり現れた正体不明の貴方の言う事など聞くはずは無いでしょう。」


「まあそうだろうけどね。でも無理やりやらせるから良いんだよ。」


「・・・理解に苦しみますね。何をしようというのです?」


 訳が分からないと言うマードルを無視して俺は屋敷を出て行った。もうこれ以上の話し合いはしても無駄そうだったから。

 そして戻って来て集団の前に立つ俺。まだこいつらの魔力固めは解いていないので、身動きできないそんな状態の前に現れた俺を誰もが目だけで「誰だこいつ?」と訴えて来る。


「では皆さん、移動しましょうか。ソレ、イッチニ、イッチニ!目的地までこのまま行きますよー。」


 俺はこの集団を操って行進させて町の外に連れ出した。

 町の防衛の為の塀を守る兵士には侯爵家の証明証を出して大人しくさせる。

 そしてそのままある程度の離れた場所にて俺は農具を人数分出すとそれらをこの者たち全員に握らせた。

 もちろん全て俺が操作している。綺麗に整列させたその抗議集団にはこのまま大地を耕して貰う。それこそマスゲームの様に。

 俺に体を操られて作業をさせられる者たちは今どんな気持ちであろうか?口を開かせない様に固めてあるので悲鳴の一つも聞こえない。

 何かとぎゃあぎゃあと喚かれると煩いので黙らせる形で口は閉じさせている。


「では、よーい、スタート!」


 俺の掛け声と共に一斉に僅かなズレの一つも無く動き出す全員が。

 異様な光景、異様な雰囲気、異様な、異様な、異様な。

 多分コレを見た何も知らない者であればこの光景に恐怖を見出すのではないだろうか?

 俺も自分でやらせておいてちょっと引いている。


 そんな状態が一時間もすれば相当な範囲の大地が畑に変わっている。

 鍬で掘り返された大地は以前の乾いたサラサラな土では無い。今の土はしっとりフカフカである。

 そこで俺は事前に用意した様々な農作物の種を配り、それを植えさせる。

 その後はサーッと軽く俺が魔法で水を生み出して畑へと満遍無く水やりである。


「かなり早く終わらせられたけど。まあこのくらいなら結構な収穫量が出るだろうし、後の事はマードルってのに任せりゃ良いか。いや、不安だからソレは止めておくか。」


 俺はここで魔力固めを解いた。すると一斉に操られていた者たちは同時に腰砕けてぺたりと地面に尻を着く。

 どうやら精神の方が限界を超えていた様である。俺が操っていたので体力の方は全然減っては無いはずだ。

 けれども全員がこの様になったのならば、それはきっと心が耐えられなかったんだろうなと感じる。


「うん、皆さん聞いてください。俺は、はい、こちらを注目。コロシネン侯爵の使いの者です。皆さんの事は侯爵家預かりとさせて頂きます。今日耕したこの土地はマードル代官では無く、貴方たちが御自身で管理をしてください。何か代官からの圧力や嫌がらせや権力を傘に着た横暴がされたら真っ先に侯爵家にご連絡を。直ぐに対処します。皆さんは安心して今後こちらの畑で作物を生産して頂いて結構。今後に法で近々発表があると思いますが、国家の全精力を上げての食糧生産を目指す方針が出ると思います。皆さんはそれに協力してドンドンと作業に邁進してくださいね。」


 身分を証明する例のあれを掲げてそう宣言する。しかしこれが聞こえているのか、いないのか?ポカンとした顔で俺は全員に見られている。


「じゃあ本日はここまでと言う事で。続きは明日にしましょう。お疲れさまでした。解散です。」


 俺がそう言っても誰も動こうとしない。と言うか、俺を見たままでポカン顔のままで固まった状態は解けていない。


「・・・帰れますか?もう一度俺が操って町の中に戻ります?」


 そんな事を俺が口に出せば微動だにしていなかった全員が「ビクッ!」と体を一瞬震わせる。

 目を見開いて驚いている者、顔を歪ませて怯える者、唖然とした顔で再び硬直する者などなど。リアクションは数種類。

 俺に対して良い印象を持った者は一人も居ないと言った感じである。まあ体を操られて畑作業をずっとさせられていたのだからこれに良い印象を持てる様な豪胆な者なんてここには居なさそうだからしょうがない。


「・・・あ、アンタは一体なにもんなんだ?お、俺たちをどうするつもりだ?な、何、がいったい・・・したいんだよ・・・」


 怯えたその言葉は誰から発せられたものかと言うと、屋敷の前で代官への不満をぶちまけていた男だった。

 これに俺はキッチリと答える。


「さっき言っただろ?俺は侯爵家の使者だ。どうするつもりかって言えば、目の前に答えがあるだろ?あんた等自身の手で作った畑だぞ?そんでもって何がしたいかだったか?この国の食糧生産自給率をバッキバキに上げに上げたいんだよ。そしたら俺はそこでやっと解放されるんだ。まあそんな自分を縛っているのも俺自身なんだろうけどな。」


 最後の言葉の意味は当然伝わっていないだろう。これは俺にしか分からない事だ。それ以外の部分の所はどうやら男は吞み込めたらしい。ごくりと一つ唾を飲み込んだ。

 だけども男はそこで見事に耕された広大な土地に視線を向けて「こんなに広いのどうすりゃ良いんだよ・・・」とぼやいていた。

 今ここに居る人数では到底管理しきれない広さにしてしまったかもしれない。けれどもそんなのはどうだって良い今は。


「周囲の人たちも連れて来て一緒に従事させるんだな。だって言ってただろ?開拓させろって。ほら、ここが未来だぞ?ここでできた生産物はお前らの物になる。そうすれば生活が大幅に改善されるはずだ。この目の前の光景にどんな不満があるんだ?文句があるならいくらでも聞くぞ?まあ聞くだけだけどな。屋敷の前のお前らの吐き出していた事が現実になったんだから嬉しいだろう?」


 俺のこの言葉に嬉しいとも、苦笑いとも言えない難しい表情に変わる男だった。

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