表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
240/327

寄生はイカンのよ

 そうして各町村に顔を出しては開拓事業の話をしていく。農地開発をするもしないもその町村での判断に任せるつもりだ。

 まあ積極的に動いてくれた所には俺の積極的な支援が盛り沢山である。

 そうで無い所は「勝手にしやがれ」と言った感じで農具だけ置いていくだけにしている。


「まさかこの程度の短い期間で堕落した所が複数出た事が驚きだよ・・・」


 何度か芋と塩を置いて行っただけで何で住民はそれに依存してしまったのか?理由が俺にはサッパリだ。

 確かに大量に、それこそ数週間分は有ろうかと思える程の量を一度で提供し、それを複数回はしたが。それでも「普通そうはならんやろ」とツッコミたいくらいに怠惰で言い訳を建て並べて動かない町村が多い印象だった。


「その内に明暗がはっきりと分かれるんだろうな。妬み嫉み恨みなんかを口に出して暴動起こしたりしてこないかね?それを潰すのも、やっぱ俺がやらんとイカんのか?」


 近隣同士の村や町で格差を目にした住民が自分の怠けっぷりを棚に上げてそうした他者を羨んだ末に逆恨みをして暴れると言った事が起きそうな予感がする。


「人ってのは何処までも愚かだって、良く聞く言葉だよなぁ。他人から暴力で物を奪ったり、無理やり脅して支配したり?・・・今のこの国ってまさにソレがあっちこっちで起きてもおかしくない状況になってんのか?・・・俺のせいか、これは。」


 貴族たちは俺がそもそもぶっ潰しちゃった事を思い出す。それを今必死にコロシネンが落ち着かせようとしているのだった。

 群雄割拠、下剋上、成り上がり、実効支配。もしかしたらノトリー連国は戦国時代を迎えるのか?


「まあそれは俺がやらせないけどさー。有り得ないって話でも無いのかぁ・・・」


 この国をとある漫画の世紀末な世の中にはする気は無いので俺も暴れる奴らが出ればその都度潰すつもりでいる。

 だがそれを俺一人でやろうとすると何処までも面倒なので早い所コロシネンには内政に力を入れて平和な国の実現を達成して貰いたい所だ。


「とは言っても時間が掛かるよなぁ。それこそ国の決定が遠い地方の町村に届くまでにもっともっと時間は余計に掛かる訳だし?」


 その間に地方豪族みたいな感じで独立しちゃう所が出ないとも限らない。

 まあそこが血で血を洗うみたいな争いを他に対してけしかけたりしないで平和に治めてくれるのならそこまで問題は大きくはならないだろうが。


「絶対に一つくらいは暴力で他から奪う集団が出来上がるよな。各地が安定すればするほど、その内にチンピラどもが慣れ合って集まって、ってな感じで。」


 何処にでも暴力を売りにしてデカい顔をしようとする者は出るだろう。そう言った奴らが互いに縄張り争いだと言っている内はまだ可愛い方だ。

 だがこれがチームやらパーティやら提携やら合併やらなどの集団になってその数が纏まる様になってくると、そいつらが数の暴力と言うモノを使ってより一層に周囲を威圧し始める。

 痛い目を見たく無かったら大人しく言う事を聞け、と言った理不尽な押し付けで場を支配し始めて手が付けられ無くなっていくだろう。


「村はまだ大丈夫そうだった。けど、問題は町の方かなぁ?その町に以前からあるマフィアみたいな組織が大きく動き始めると厄介かもなぁ。」


 一生懸命変わろうとして働いている人たちがいる。そんな人たちから暴力で脅して美味いトコだけを掠め取っていく様な輩が寄生する。そんな事は俺が許さない。


「気合入れなおして観察をもうちょっとマメにやっていくか。早期発見、未然防止、ってやつかな?」


 俺が回った場所を小まめにパトロールしていく事を決めてこの日は自宅に戻ってゆっくりする。


 そうして翌日の朝に俺が関わった町村の様子を一つ一つ様子見をしに行ったら早速見つかった。


「・・・俺が置いてった農具を馬鹿が独り占めしてやがるじゃねーか。堪らんなぁ。」


 やはり現れた自分の利益しか考えない奴。そいつは小さい村の若い男で、どうやら俺が村「に」与えた農具を全て搔き集めて自宅に仕舞い込んだみたいだ。

 そいつの家の前にどうやらその事での抗議の住民が集まっていて何やらぎゃあぎゃあと喚いて口喧嘩までしていた。


 こういう時に穏便に、かつ、バカをやらかした奴には痛い目を見させるにはどうするか?それは。


「追加で農具を俺が魔法で大量に作ってばら撒く事だよな。」


 俺は姿を魔法で見せないままにその集団の側に立つ。そして一気にドバっとその視界に様々な農具を放出してやった。

 幾らでも作ってやるし、この程度は朝飯前だ。この村の住民たちに充分に行き渡る量を出したので問題はこれで解決したはずだ。

 それらを手に畑仕事に取り掛かってくれる、その時に俺はそう思っていた。


「・・・なんでそれらを必死になってどいつもこいつも搔き集めようと動いてるんだよ?何で?いや、何で?」


 まるで高速道路に紙幣が飛び散ったニュースの画像の様な光景を見てしまった俺はアホ臭くなった。

 俺は当然畑仕事の為に魔法で作って与えているのだ農具を。独り占めした奴に道具を返せと迫っていると思っていた。

 だけどもここの住民たちは何故かこれらを手元に得て、それを売って金に換えようという魂胆らしかったのだ。それに気づくのが遅かった。農具を出すのを早まった。

 少しでも多く売り飛ばして金を得たい。そんな心理、そんな薄汚れた姿に、流石に俺もこれには。


「見捨てて良いよな?俺はもうこの村には支援はしないぞ・・・」


 ここの村の以前はやはり荒野と言って良い様な乾いて堅い大地だった。

 だけども今はそれも真逆、緑一面ふかふか柔らかくなった土となり、畑を作るのに過不足は無いと思える地に変わっている。俺が変えたのだ。そんな事は家から出てちょっと外を見れば一目瞭然なのだが。

 そんな変わった土地を耕そうとする者が出ないと言うのは幾ら何でもあんまりだと思う。俺にだって限度がある。

 これまでずっと食糧問題に悩んでいたはずなのに、これ程の環境の変化を目の前にしても自身を変えようとしない、この村の貧困を覆そうとしない、これからの未来を見据えて畑作りを始めようとしない者ばかりの村など、これから世話なんてしてやろうと思わない。ちゃんと俺は村長に国策の事を説明してあったはずなのにこれである。

 目の前にある小銭に変えられそうな物を必死に懐に搔き集める醜い姿は俺を冷めさせるのに充分過ぎた。

 確かにこの先も生きて行くのに金になる物は必要となってくるだろう。だけども、今は俺が支援した食糧があるのだ。死にはしない。

 今の状態で生活資金と言うのは最低限で事足りる。そう言った状態のはずだ。

 ならばここで優先すべきは何か?本当に金か?いや、そうでは無いと俺は思うのだ。


(ここにはもう二度と寄らなくて良いな。さて、次の村を観察しに行くか)


 ノトリー連国、結構あっちこっちに小さな村が存在していてその数が意外に多い。

 見て回る時間がその事で結構掛かる。全てを一日で全て確認するのは流石にシンドイのでローテーションを作って連日各所を回っていこうとしたのだが。


「その初っ端でアレだもんな。いきなり俺の精神をゴソッと削ってきやがって・・・」


 とは言っても覚悟はしていたので心底、とまではいかなかっただけ良しとする。

 そうして俺はその日に見て回る予定の他の村を全部見て回り終えた。そしてその結果はと言うと、最初に寄った村以外はちゃんと大地と格闘、畑作りに専念していた。

 俺が伝えた国の方針を正確に受け取った所はしっかりと未来を見据えて動いていた。


「・・・何だろうか?この逆「掴みはオッケー!」と言われている様な気分は?」


 いきなり最低な類の結果を目の前にした事で他の村の状況がより良く見えている様な気分にさせられる。

 まあそれは只の俺の気分的な物でしかないのだろうが。それでもちょっと納得したくない。


「どんな確率だったんだよ?パトロールするのを決めて、初日の初手だぞ?全部の村に食糧支援はしていたし、数も多かったから何処の村から様子を見て行こうかな?って思って選んだのは今日に見て回ろうと予定で入れていた七つの小村の内の一つだぞ?心の準備的にあんまりだぞ?」


 いきなりは無いだろう、と思っていたらかなりの衝撃な結末である。これには俺もゲンナリ。


「気を強く持って、明日は町の方を見てくかぁ。・・・何か嫌な予感がするなぁ・・・」


 そんな事を思いながら家に戻って本日の振り返りをしてみた。改めて考えてみればそこまで手応えが悪かった訳じゃ無いと思いなおす。

 初っ端で嫌な気分にさせられた事で印象が最悪の方にいきなり大きく偏ったせいで何だかもやもやとしたモノが俺の中に残っただけ。気分の問題。

 実際には全体からして見ても国の開拓事業はしっかりと広められたと思える。

 これでコロシネンが正式な通達を各町村に送ればゴタゴタなどはそこまで起きないだろう。


「これで後は反乱やら農民一揆みたいな事が起きなければ良いけれどなぁ。」


 懸念はある。けれどもそればかりを気にしてもいられない。けれどもそれを警戒しなければならないと言う事で各町村を見回りすると言う事を俺はしているのだから気を揉む事ばかりだ。

 町となれば古くからそこを牛耳る裏組織などが存在しているかもしれない。

 そうした組織が国から独立とか言って私兵を集めて実力支配、実効支配などで問題を増やしてくるかもしれないのだ。扇動して人々を操り組織の力を高める、何て事をしていたらと思うとそれの対処が面倒そうだ。


「その内に国盗りゲームみたいな状況になるのか?戦国時代になったりするのか?」


 下剋上?そこら中で小競り合い?食の問題は攻め込んだ先の土地から奪えば良いと考えている?


「そうはならんで欲しいなぁ。でも、一つくらいは最低でも出て来そうだよなぁ。」


 こうして俺はこの日は少し早めに夕食を摂って即座に寝た。今日のモヤモヤを早く忘れる為に。

 そうして翌日に俺は朝食をゆっくりと摂ってから休憩時間を充分に取って出発した。

 取り合えず首都から一番近い町から様子を見に行く事にして。そして早速ゲンナリさせられた。


「おう、お前は何処のモンだ?この町を支配するラメカ様を知らねえとは言わせねぇぞ?」


「・・・誰やねん。ここを統治する貴族?それとも代官?」


「はぁ?あんなゴマ擦ってる役立たず野郎どもとラメカ様一緒にするんじゃねーぞゴラァ!見せしめに痛い目見たいんか?あぁ?一辺死んどくか?」


 既にもうこの町を実効支配している実力者が存在していた。しかもどうやらこの分だとかなりの昔から貴族がそいつに頭が上がら無い程の大きな力まで持っていそうだ。


「前回に来た時には町中はこんなじゃ無かったんだけどな。いや、俺が全くそこら辺を気にも留めて無かっただけか。」


「おい!良い度胸してやがるじゃねーか?こっちの事は無視か?なら無理にでも気にさせてやるよ!おらぁ!」


 いきなりそいつは剣を抜いて俺に斬りかかって来た。その一撃は見事に俺に当たりはしたが、がきん、と言う金属音と共に弾かれている。もちろん俺には傷一つ無い。


「うげぇ!?一体どうなってやガンだぁ!?て、てめ、テメエ・・・何モンなんだ・・・」


 俺はその男の事など気にしないで魔力ソナーで既にこの町の様子を全域把握している。


「なあ、そのカメラ?か、か、か、ラメ?ラメカだっけか?そいつの所に案内して貰え無いか?話があるんだ。」


「て、テメエの様な正体不明の気持ち悪い奴をラメカ様の元になど行かせるかよ!」


 また男は懲りずに俺に剣を振りかぶって来る。今度は先程の脅しの軽い一撃では無く、大上段の構えで全力で俺を斬るつもりらしい。


「おらぁ!・・・は・・・へ?」


 今度はしっかりと腰を入れて剣を振り切った男はその結果に呆け驚いている。

 俺が全く持って何処も、1mmも切れていないから。服すら掠り傷一つ付いていない。


「ば、バケモン・・・」


「うーん、そう言われるのは若干傷つくんだけど、今は良いや。穏便に話し合いで事を収めたいからさ、もう一度お願いするけど。ラメカって奴の所に案内してくれ。」


「だ、誰がテメエの様なバケモンを・・・」


「うん、じゃあ良いや。他の奴に頼むか自力で見つけるから。」


 俺がその場を去ろうとしたら引き止められた。


「いや!いやいやいやいやいや!マテ待て待て!コラ!待てや!待ちやがれ!待ちやがれって言ってんだろうが!ちょ!?本気で止まれ!止まれって!おいいいいいい!?止まってくれ!止まってくださいお願いします!ちょ!何て馬鹿力してやがる!?」


 男が俺の腕を掴んで来て無理に引きずり引き留め様としてきたが、俺はソレを無視してそのまま進んだ。

 当然俺は普段から魔力をこの身体に纏わせて強化しているのでそいつは俺の振る腕に翻弄されて振り回されている。力負けしている思いっきり。

 必死に男も掴んだ腕を離さずに俺を止め様と頑張っているのだが、それも無駄になっている。俺はその程度では止まらないから。


 まあそんな状態だ。そうしていると目立つ。まるでコントの様な光景に道に出ていた者たちの視線はこれに釘付け。

 で、そうなれば他の場所に移動した際にはラメカとやらの他の部下がこの情報を受けてコレを見つける訳で。


「ボグ!一体お前は何をやっている!」


「ああ!オリスさん!こいつを止めてくだ、おわっ!?」


 俺が急激に止まったのでボグと言われていた男は体勢を崩してずっこけそうになっている。

 そしてボグがオリスと呼んだその男は俺の前に立ち塞がった。


 ボグは見た目としてはヤンチャ坊主?ヤンキー?みたいな見た目であるのだが。

 オリスと言う奴は大男だ。ゴリマッチョのガテン系爽やか顔である。


「お前は見ない顔だな?・・・ボグ、説明をしろ。二秒以内に頭ぁ切り替えろ。だからテメェは愚図だって周りから言われんだ。さっさと言え!」


「は!はい!スイマセンシタ!説明します!」


 それから語られるボグの説明をオリスが聞いている間の俺は一切動かない。


(このオリスって奴はどうやら部隊長クラス?この下っ端丸出しのボグって奴よりかは話が通りそうだ)


 俺はそんな打算によってこの状況に何も手を出さずに大人しく待っているのだ。

 そうして短いながらも俺の事を何度もバケモノと説明するボグに呆れつつも俺はオリスの反応を待つ。


「・・・分かった。ボグ、もういいぞ。持ち場に戻れ。・・・聞こえなかったか?ならそのボケた顔面に一発俺直々に気合を入れてやろうか?」


「はっ!申し訳ありません!直ちに戻ります!」


 そう言われて来た道を戻っていくボグはちらちらと何度もこちらを振り返りつつも去っていった。


「で、お前さん、ラメカ様に会って話がしたいって?ならば身分を示す物は持っているか?」


「・・・あー、そう言った物は無いな。そいつは必要か?」


「何処の誰かも分からんのでは話にならんだろうが。不審者をそう簡単に会わせられる訳が無い。」


「しょうがないか。なら、まあ、そう言ったモノを持っていた方が今は都合が良いだろうから貰ってくるか。暫くはここで待っていてくれないか?あ、いや、忙しいなら別に良いんだ。何処に居ても別段構わない。あんたの事は覚えた。こっちから今度はそちらに伺わせて貰うから。」


 オリスは俺のこの言葉に訝し気な目をしつつも返答をしてくる。


「それはお前が自身の身分を証明する物を今から得て来るという意味か?なら先に言っておいてやる。低い身分のどこぞの木っ端貴族の認証程度では会わせられん。せめて爵位は最低でも伯爵以上の保証人を立てた物を用意しろ。そうで無けりゃ門前払いだ。俺にすらもう二度と会う事すらないと思え。」


「おーおー、厳しいこって。それじゃあ行ってくるかな。」


 今回は力づくでじゃ無く、ちゃんと話し合いをしての解決を目指すつもりだ。コロシネンに言って俺の保証人にでもなって貰えれば一発だろう。

 そうしたらラメカとやらと話をしてみてこの「開拓事業」の指導、扇動、先導、誘導をして欲しいと要望するつもりである。どうやら貴族や代官は話にならないらしいから。


 さてこの町の規模である。結構大きいのでこうした所では最初っから幅を利かせていた権力者や、統治者に頼んだ方が楽だし早いし、何より俺一人でアレコレやらなくて良くなるのが良い。

 農具と食糧をバンバカ出していくだけで他人任せにしてしまえればこれ程に楽になる事は無い。

 この町を占めている存在が「裏」でも「表」でも今回はどちらであろうとも利用するつもりである。


(馬鹿な考えをしていたりしなけりゃ潰さずにそのままこの町の統治を任せても良いだろうしな)


 そもそも今そう言った組織を潰すとどうなるか?答えは「どうなるか分からない」だ。

 しかも今は何もかもが未知数の状態、状況である。そして政府がまだしっかりと安定していない状況の中でソレを潰した所で処理をできる存在がいないだろう。


(人に害を為す、悲しみを生み出すなんて言った組織じゃ無けりゃ大目に見る所だな)


 俺一人で国の全土の面倒を見ると言うのは流石にやりたく無いと考え始めていた所だ。体力も魔力も減りはしないだろうが、精神力が減る。


(もしラメカって奴がまともなヤツだったらそのまま爵位でも与えたりすれば上手く行ったりしないかね?)


 只今ノトリー連国は優秀で善良な者を募集中、と言うやつだ。国の統治に必要、それこそ幾らでも。出自は問わ無いってくらいに。


「あー、この間に提案した優秀な奴は手あたり次第にスカウトして扱き使えって言ったけど。上手く行ったのかなぁ?」


 俺はそんな事を考えながらオリスと居た場所から離れた家の裏路地まで歩いて来ていた。そしてそこでワープゲートを出してコロシネンの所に向かった。


 そうして執務室。コロシネンが居ない。


「あれ?何処?」


「・・・いきなり来て今度はどんな無茶を言いに来たのですか?」


 対応してくれたのはコロシネンの息子である。その言葉には棘がバッチバチに含まれている。


「うん、別にそんな御大層な事をお願いしに来た訳じゃないからそんなトゲトゲするなよ。で、コロシネンが居ないけど、何で?」


「父上は今、職員への説明会に出ております。貴方が言った事を実行して新しく雇った者たちが大量にいますからね。全員に一辺にこれまでの経緯と今後の方針、現状の詳細を説明している所ですよ。で、用は何です?私が対応できる事なら父上ではなくとも私がやっておきます。」


 どうやらタイミングが微妙な時に来てしまった様だ。今後の統治安定がこれで早まる事を願いながらコロシネン息子に頼み事を聞いて貰うとする。


「身分証を作ってくれないか?俺のやつ。しっかりと侯爵家の保証?後ろ盾がコロシネン侯爵家だってわかるやつが入ったのを。」


「・・・いきなりなん何ですかその頼みは・・・不気味過ぎる。」


「は?何で不気味って言われなきゃいけないのが分らんのだが?作ってくれるのか?ダメなのか?どっちなんだ?」


「貴方程の力があれば身分証?保証?それこそ後ろ盾?そんなモノなど無くとも全てドウとでもなるでしょう?なのに何でその様な物が必要だと?」


「お前、何も分かって無いな。と言うか、経験が足りて無いだけか?まあでも言いたい事は分るけどさ。それを不気味って表現した言葉の選び方がおかしいよお前は。取り合えず人を動かすにもその場その場で必要になる「力」ってのは色々とあってな。俺みたいな「実力行使」して解決できそうならソレで良いんだけどさ。そうじゃ無い場面ってので色々と有効な「力」ってのがあるんだよ。今回は話し合いと説得で必要そうなんだよ。暴力で脅しても変わるのは表面上だけで、心の奥底は変えられないって解るだろ?今のお前がそうなんだから。全部壊してハイ終わりってんなら、それで良いけどさ。再構築とか最初っから作り直しとかするってなると、じゃあ最初からあったモノを利用して作り直す方が良かったりする事もあるんだよ。」


 俺のこの言葉にコロシネン息子から「お前呼ばわりしないで頂きたい」とクレームを入れられた。

 なのでこれに何と呼べば良いのか聞き返した所「デリトルだ」と一拍置いてから名乗られた。

 その後はデリトルに一つ大きな溜息を付かれた。


「はぁ~・・・明日の朝にまた来て下さい。その時までには用意しておきます。」


「おう、分かった。それじゃあまた。」


 俺はワープゲートでまた町の方に戻った。何故自宅にでは無く町の方に戻ったのかと言うと。


「やあ。さっきぶり。やっぱり目立つよね、その大男っぷりは。見つけるのが楽だったよ。」


 ここはこの町の、物凄く入り組んだ裏路地の奥の奥、その中にある酒場である。

 店内は薄暗くされていて良い雰囲気のバーみたいな感じだ。そんな店の奥に「秘密の小部屋」があるのだが。


「・・・テメェ。どうやってここを嗅ぎ付けた?しかもここに入って来ただと?・・・見張りはどうした?」


 此処まで入り込むのに奥の部屋までの通路に数人の見張りが立ってはいたが、それ「も」俺が魔力固めで動けなくさせておいてある。


「ああ、素通りさせてくれたよ。そんな事はどうだって良いじゃ無いか。あ、別に怪我させたりはしていないから安心してくれ。さて、これで俺がどういう者だか多少は理解してくれたか?」


 オリスは座っていた椅子から立ち上がっている。俺が姿を見せた瞬間に。

 修羅場には慣れているんだろう。その手は腰にあるナイフの柄に掛けている。俺の事を危険視して警戒度を最大にまで上げている様子が窺えた。


「・・・何の用だ?身分を保証する物をもう持ってきたのか?」


「いや、それは明日だ。その前にちゃんと俺が言った事が真実だって事を知っておいて欲しくてな。俺が後で伺うって言った時、アンタ信じちゃいなかっただろ?あれから離れて俺の事を保証してくれる奴の所に行って身分証を用意してくれる様に頼んで来たんだけどさ。俺の言葉を信じちゃい無さそうだったアンタに先に俺の事をもっと知っておいて貰った方が後々の話をより進めやすそうだと思ってな。それだけなんだ。」


 この言葉に嘘は無い。だけどもオリスは物凄く疑惑の眼差しで、警戒心で顰めた顔でこちらを睨み続けている。


「別に今ここでやり合う気はこっちには無いから、そんな物騒な物は仕舞って欲しいね。」


 この言葉でオリスが何故かハッとした顔になった。どうやら無意識の内にナイフを抜き放っていたのを気づいていなかったらしい。

 コレはしょうがない。自分自身の身を守る為の自然的行動だと納得できる。オリスはこれまでに訓練も相当に積んで来ているだろうし、修羅場だって幾度も潜り抜けて来ているだろう。そんな凄みを醸し出している。

 この部屋に居るのは俺とオリスだけ。関係者以外は誰も入って来ないと油断していた所に俺の登場だ。身の危険を感じるのは向こうにとってはどうしようもない。

 オリスはこの部屋に誰も入って来ないと思って安心して酒を飲んでいたはずなのだ。

 そこにいきなりあり得るはずが無いと思っていた俺の侵入を許したのだから驚天動地だろうその心の内は。


「一杯奢れ何て言わないから。直ぐに俺もこの後は家に帰るつもりだし。今は改めての挨拶だけだよ。ああ、そう言えば名乗っていなかった。俺は遠藤って言うんだ。よろしく。じゃあまた明日。」


 俺は部屋を出ていく。ここで思う。


(店の店員も客も全部組織の構成員なんだろうな。後でオリスに事情聴取されるだろうけど、勘弁な)


 多分俺が店から去ってしばらくした後はオリスがこの店の「見張り」全員に説明を求めるだろう。

 何で怪しい奴をそのまま店の奥まで通したのか、どうしてそんな事をここに居る全員が許したのか。

 この店にまで迷い込んでくる一般人は皆無だと判断して油断はしていても、店の中に入って来た奴が一度も見た事が無い者であれば誰かしら一人くらい引き止めると言った話になるはずの所を全員が見事にスルーである。

 だがオリスはきっと「見張り」の全員が口を揃えて同じ証言をする事に驚くだろう。


(訳も分からず体が動かずに金縛りになるって、当人からしたら結構なホラー案件だよね。それが店に居た者たち全員となったら、この世界だと心霊現象じゃなく「魔法」だと疑うんだろうけどな)


 この店にまで来た事が無い奴は案内が無ければ普通は辿り着けない位に複雑な道順だ。

 そこで一つの篩に掛けられていると言って良いだろう。オリスが「二度と会う事は無い」と言ったのはそう言った部分も入っているのだと今なら解る。

 そして店内に入ってみればそこには八名程の見張り兼、客が居るのだ。そこでまた検問の様な感じになって、そのまた奥に行こうとすれば見張りが追加で立っているのだから厳重過ぎると言っても良い警戒だろう。


「まあ「裏」何だし?それくらいはするモノなのかね?警戒してもし足りない、って今回の事で思い直されてたらどうしよ?今のままでも充分過ぎる程に警戒は厳重だと思うんだけどなぁ。」


 そんな下らない事を思いながら俺はワープゲートで自宅に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ