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ギリギリと勘

「片道で普通に十日掛かるって聞いたから。それならダンジョンとオーガの件でほとぼりが冷めるには丁度いいかなって。」


 行って帰って来るまでに向こうでの滞在期間を考えに入れれば一ヶ月くらいになると見込んでだ。


「あそこの国は別に見どころ無いわよ?特産品も無いって事も無いけど、パッとしないし。」


 マーミはその国に行くにしても面白くないぞ、と教えてくれる。


「バッツ国は寒さがかなり厳しい土地です。高級な毛皮の産地でもありますけど。あちらの魔物は寒さに耐えるために体毛が凄く発達しているそうですから。」


 どうやらその国は「バッツ」という名らしい。ミッツが魔物の特徴を説明してくれる。


「うーん。マルマルにこのままいても厄介な事は起こらんと思うが、確かに一時的にここを離れておくって言う手もありっちゃアリか?」


 カジウルは俺の意見を考慮し始める。


「もし、副ギルド長のフクレに動きが有れば、機としては今直ぐに動いておいた方が良い。だが、それも微妙だな。ギリギリと言った所か。」


 もし副ギルド長が俺たちの事を何かと目に付けてきているならば水面下で何やら動いていてもおかしくない。

 俺はそもそも目を付けられてしまう事をもう既にしてしまっている。

 バッドモンキーの全身皮の件がヤバい。あれは多分副ギルド長の耳にも、もう入っているはずだ。

 副ギルド長が接触してきたとして、そもそも何がそんなに不安なのかと言えば。


「なあ?その副ギルド長って、貴族かなんかと繋がってたりとかはしたりするのか?そうなるとお貴族様と関わるって言うのは、絶対にメンドクサイ事になりゃしないか?逃げるなら今のうち?かな?」


 俺は懸念を言葉にする。コレに答えたのはラディだ。


「鋭いなエンドウ。確かに副ギルド長は貴族と繋がりはある。でも、俺たちを巻き込んでまでそんな所まで発展させないとは思うんだがな。それでもまあ、念を入れて今はこのマルマルにはいない方が良いか?何か接触があるなら、俺の憶測に過ぎんが、近日には何かありそうだぞ?」


「よし、んじゃちょっくらお出かけと洒落込みますか。今から準備だ。急げ急げ。」


 カジウルがコレに速攻で決定を下した。コレにマーミもミッツも異議を唱えない。

 ソレを不思議に思っているとミッツが説明してくれた。


「ラディのここぞと言う時の勘は当たるんです。今回も当ると思われますから。あ、私が受付でパーティーの遠征の届け出を出してきます。マーミは馬車の手配お願いしていいですか?」


 こうして冒険者パーティー「つむじ風」は颯爽とこのマルマルの都市を一時的に離れる事になった。


 そうして今は馬車にゴトゴト揺られている。はっきり言って乗り心地は悪い。

 道の整備がイマイチなのと、あとは馬車にスプリングが無いからだ。

 ケツにはクッションは敷いていないし、縦横の揺れがダイレクトに来る。


「馬車で行かないで降りて直で走った方がいいだろ・・・」


 俺はぼやく。だけどもこの世界で慣れている四人は別に関係無いようで。


「これくらいはまだいい方だ。もっと酷い道はある。」

「そうね、頼んだこの馬車は別に安いのでも無い、高くも無い、普通のよ?」

「きついと思ったら横になれる開きはある。エンドウは横になっていればいいんじゃないか?」

「酔い止めの魔法をかけておけばいいのでは?エンドウ様なら簡単な事では?」


 ミッツがそう簡単な解決法を提示してくる。しかしもうそれを俺は掛けているのだ。


「止まってくれ。もう我慢ならん。改造する。」


 どうして一々馬車で移動しているのかと言えば「普通」をある程度装うためだ。

 四人はもう既に身体能力向上を魔法で使えるようになった。当然馬車に乗るよりかは普通に自分の足で走った、あるいは歩いた方がはるかに速い。

 でも、それをしたら不味いのだ。馬車で十日掛かる道程。コレはどう考えても人が歩いて行く距離では無い。

 おそらく魔法を使ってダッシュすればもっと旅の日数は減るだろう。

 けれどもそれをしたら真っ先に目を付けられる、目立つ。

 なのでこうして馬車を使いバッツと言う名の国へと向かっているのだ。


 止まった馬車から降りる俺。ここはもう大分マルマルから離れた街道。その脇に馬車を寄せる。

 そして街道すぐそばの林に向かい木を一本取ってくる。マルマル一本引っこ抜いて。

 これを四人があちゃーと言った目線を送って来るが、構いはしない。この街道には他の旅人がいないからである。

 バッツ国は毛皮が特産であるらしいのでこの道を通るのは商人が中心だそうだ。

 そして今は「時期」じゃないらしく、他にこの道を通っている者はいない。

 だがこの馬車はレンタルしていて、しかも御者まで付けていたので目撃者はその御者一人。

 ラディが口止と言った形で小金を握らせていた。


 俺はそれに気を向けないで馬車の車輪周りを確認すると取ってきた木に魔力を流してバネを生み出す。

 そして車輪から来る衝撃が連動して繋がってくる場所にそのバネを入れてクッションにした。

 もちろんそれを仕込む時は馬車全体に魔力を込めて構造把握、解体、分解、再構築をして補強を入れる事も忘れない。

 馬車の揺れが許せないテンション高い状態のままに作業を行ったのでその時間は大体十五分ほどで終わる。


「よし、出発進行だ。あ、道の小石も全部見える先まで沈めておくか。んでデコボコも平らに・・・」


 魔力を大盤振る舞いである。あっと言う間に何処までも続く街道を綺麗に整地する。

 ついでに余った木の部分はクッションに。魔力を流して繊維に。その繊維を編み、布へ。中身は葉をコレも魔力で繊維に生成して詰める。

 尻に敷くクッションの完成だ。完璧である。


 そして再び走り出す馬車。快適すぎる程に快適である。

 御者が驚きでボケっとしながら馬車を走らせている。でも、道は整備され、他の旅人やら馬車が正面から来ないので安全だろう。


「エンドウ、お前・・・なんでもない。」


 カジウルは文句が言いたいようだったがソレを言わずに口を閉じる。


「まぁ、ねえ?信じられない程揺れなくなって快適だけどさ・・・」


 マーミは言い淀む。


「エンドウ、もう少し我慢と言うモノが・・・いや、いい。」


 ラディは俺を諫めようとし、やめる。


「エンドウ様は世の中を変えようとしているのですか?」


 ミッツは大袈裟な事を口走る。いや、案外ミッツの言っている事はあながち間違いでは無い。


「もっと世の中が良くなればいいなとは思うけどな。でもそれをアレもこれもと積極的にやっていこうとは思わないかな。気の向いたものだけに一生懸命になるなんて誰にでもある。」


「それはあの魔力薬の事か?」


 ラディが短くそう訊ねてくる。


「そうだな。あれは不味過ぎる。一口飲んでヤベぇって思ったな。師匠と一緒に改良しようぜ!って気分が高まって実験し始めたのが始まりかな?」


「あの、エンドウ様の師匠とはどなたなのでしょうか?有名な方なのですか?エンドウ様の師というのであればその方も賢者ですよね?」


 ミッツがそう俺に問いかける。


「あれ?まだ話してなかったっけ?俺の師匠はマクリールって名だよ。ん?言って無かった?」


 俺の中で師匠の名前をこの四人に教えていたかどうかの記憶が曖昧だ。


「あー、有名だな、そりゃ。」

「元宮廷魔術師様ね・・・」

「どういった経緯なんだ?」

「確か気難しい方で弟子は取っていないと・・・」


 有名人だと話が早くて助かるが、そこには憶測や誤解も入り込みやすいと言うのが四人の反応で良く分かる。

 説明をするかしないかを考えていると休憩を取るために馬車が止まる。

 御者は馬を休ませるためにいったん止めたのだ。コレに俺たちは文句は言わない。


「ん~、背伸びしとけよお前ら。突然ポックリ死んだ例が有るからな。何故かは知らんがこうして身体を定期的にほぐせって言い伝わってる。やっとけよ。」


 カジウルがどうやらエコノミー症候群の事を話している。そうでなくともずっと馬車の中で座りっぱなしはきついので身体をほぐすためのラジオ体操第一をしておく。

 コレに乗っかってミッツが俺の真似をして追従した動きをして見せる。


「何やってんのよあんた。ミッツ、アンタもよ。何その動き?」


 マーミは両手を組んでグッと頭上に伸ばす程度しかしていないので俺たちのこの行動を理解できない目で見てきている。


「エンドウ様の動きをマネしているんです。この動きはなかなかきっちりやると気持ちがいいですよ?身体の一部だけじゃ無くて全身がグッと軽くなりますねやった後は。」


 どうやらミッツはこの体操を気に入ったようだ。

 コレにラディは興味を示したようで次は俺も一緒にやるから教えてくれと頼んできた。

 ソレを俺は了承すると馬の方に近づく。御者はバッツ国まで長旅の契約はしていて、その支払いと馬の餌代、水代も出している。

 馬の世話も御者の仕事だ。そこに俺が近づいてきたのだから御者は驚きを見せた。

 いきなり木を一本丸々引っこ抜いた本人が近づいてくるのだからさあその恐怖は計り知れないと言うモノだ。


「ななな、何かごよ、御用でしょうか?この通り馬の方の世話はお気になさらずにお休みになられていて結構でございますよ?」


「何、ちょっと馬の按摩をね。」


 俺は馬の側面に立って軽くその腹に手を当てる。馬は流石に人に慣れていて俺がその程度の事をしても動じない。

 しかし次には馬はその場で暴れはしなかったが嘶いた。

 これには御者が驚いて馬から一歩下がる。いきなり馬がなんの兆候も見せずに暴れると思ったのだろう。

 そうなれば危険だ。無理して馬を落ち着かせようとして失敗すればこちらが怪我を受けかねない。


 そもそも俺が今している事は魔力を流して馬に異常な部分が起きていないか確かめているのだ。

 魔力スキャナーと言えばいいだろうか?馬の内部まで浸透させて病気やケガ、筋肉の炎症なども細かい所までチェックをしている。


「内臓関係は正常か。んで、骨、にも影響無し。筋肉はちょっと最初の頃のデコボコ道で無理をしたのかな?筋肉痛?これくらいで?まあ、治しておくか。ちょっと関節のズレが出てる?馬車を引く時の癖かな?コレもズレを修正しておけばいいか。ん、良し。もういいぞ頑張ったな。あ、それじゃあ御者さん後宜しく。」


 コレにポカンとして動かない御者。それを無視して俺は四人の側に戻る。


「おい、エンドウ。お前何をしてた?」

「吐きなさい、怒らないからオネエサン、ね?」

「エンドウ、あまり迂闊な事はするなよ・・・俺たちは今なんでここに居るのか分かっててやってるのか?」

「エンドウ様の為される事は世の中に大きな影響を残すでしょう。馬に触っていたようですが、魔力を流していたんですか?」


 俺のやっていた事をよく見ているミッツの発言に三人がギョとする。

 その後は俺の事をコワイ顔して睨んでくる三人。ミッツだけはキラキラした目で俺を見てくる。

 もうミッツは何か危ない宗教にでもハマっている人みたいになっていて引く。しかもその対象が俺であるからもっと引く。


「馬の調子を整えてたんだよ。別に馬に魔力操作ができるようにさせてたわけじゃないし、魔力付与もしてないって。ただ馬の疲れを取ってやってただけだって。」


 この説明にジト目を止めないマーミ。カジウルは顔に手をやって呆れたとジェスチャー。

 ラディは天を仰ぐ。ミッツはそもそも斜め上の事を言い出した。


「エンドウ様のやった事を馬を扱う者に伝授すればもっと馬車業界や、そもそも騎士団の騎馬にも応用できませんか?馬に魔力を流してその身体の調子を見ていたんですよねエンドウ様は?ならばそれを世に残す事は出来ないでしょうか?」


 随分と鋭い観察眼のミッツ。そして突拍子も無い事を言い始める。

 あちゃーである。コレはおそらくミッツの中の賢者像が暴走しているのだろう。

 コレは俺以外の誰かが釘を刺して欲しい案件だ。しかしこの場では俺がソレをしておかねばならない。


「ミッツ、俺は言ったと思うけど、自分のいいと思う事しか動く気は無いし、それに自分が目立つのは絶対に嫌だ。ミッツは俺のそう言った思いを無視してまで自分の案を押し通そうとする者なのか?自分の価値観を押し付ける者なのか?」


「あ、も、申し訳ありませんでした。以後気を付けます・・・」


 落ち込ませようと思っていったわけではないがミッツは俯いてしまった。

 ミッツはこうして俺の注意を素直に受け止めてくれるからまだいい。

 しかし人の話を聞かないで自分のやる事が絶対あっていると思い込んでいる人物が俺に迫ってきたらと思うとげんなりしてしまった。

 そう言った人物が近づいて来ないとは絶対に言いきれないのだから。未来の事は誰も分からない。


(信用のおける人物だけを集められる訳でなし。どうしてもそこら辺はなるようにしかならんよな)


 幾ら気を付けていそう言った人物を遠ざけていたとしても、突然何かしらのハプニングで接触するか分からない。

 こうして御者の「出発します」との一言で再び馬車に乗り込む。

 旅の日程上、スケジュール通りに、時間通りに馬車を走らせないと目的地に期日通りに到着しない。

 なので俺たちは馬車に乗り込む時もスムーズだ。


「エンドウが馬車を改造して無かったらもうちょっと乗るのを躊躇っていたでしょうけどね。」


 マーミは正直なところを吐き出す。結局マーミも改造前の馬車はもう今は考えられないと言った所であるようだった。

 こうして予定通りに一日目の野営場所に到着する。そこは街道を利用する商人たちが整地した野営用の広場だ。

 街道横に広く開拓されたスペースができているのだ。テントを張れるように、贅沢に火を使って料理もできるようにと結構な広さが取られている。

 地面もデコボコをなるべく取り除いて小石なども無い。綺麗サッパリとして丁寧な管理が行き届いている事が窺えた。


 でも、俺の目から見るとまだまだだったので魔力を地面に流す。

 すると一気に僅かなデコボコや小石すら消えて真っ平に広場は変わる。

 さあ大抵長めの旅は食料を多めに持ってくる。そして保存に適さない食料から消費していくのだ。

 でも、俺のインベントリはソレを解消する。そこで取り出すのはエコーキーの肉。いつものやつだ。


 エコーキーの肉はほぼテルモのお店に提供するためにクスイに預けている。

 その分で試しで屋台を出して手応えを見て店の開店の規模を考えるとクスイは確か言っていた。

 でも俺は少数を個人的に食べる分を残しておいてあったのでソレをここで提供する事に決めた。


「あ、御者さんの分もありますから、どうぞ遠慮なく食べてください。」


 御者はどうやら予定よりも馬の走る調子が良くて、それこそこの広場に着く時間が早まっている事に未だに首をかしげていた。

 それでも俺がエコーキーの肉を提供すると聞いた時の顔は少々歪んでいた。おそらく彼もこの肉を食べた事が有り不味いと知っているのだろう。

 遠慮しようとして口を開きかけている御者を遮ってカジウルの声が響く。


「エンドウ、酒は在るか?酒で流し込んで食いたい!それと冷やしてくれ!」


 どうやらあのレストランでの事が忘れられないらしい。でもカジウルの期待には応えられなかった。


「酒は買ってない。残念だったな。水で我慢しろ。」


 俺は調理台を取り出して料理をし始める。これには目の前で起きている現実に追い付けていない御者は固まったままになってしまった。

 こうして調理は進む。で、できたスープといつものエコーキー香草焼きだ。熱々である。それを皆で食した。

 美味い美味いと言って食う俺たちに負けて御者も肉を口にしていたが、その瞬間には驚きの顔のままで肉を貪り食うと言う器用な事をしながら完食したのが印象深かった。


 こうして後は寝るだけになる。

 当然魔力で「拠点」を作り上げて見張りをしなくて済むようにしようと思った。

 自分たちの寝る場所の確保だ。当然俺は森の家みたいにコテージを出現させようと思ったのだがその時にマーミに先に釘を刺された。


「あんたまたドが付く派手な事やらかそうと考えてるでしょ?」


 俺はその言葉を受けて控えめにすることにしたのだが、作り出した「拠点」にも「納得がいかない」とマーミに怒られた。

 魔法で三メートル程の壁を出現させてソレで隙間無く周囲を囲んだのだ。外敵が入ってこない様に。

 これでもまだ派手だと言われたが俺にはどうすればマーミが納得するのか分からなかったので「あ、はい」としか言えなかった。


 他の三人は「しょうがない」と言った感じで寝袋に入って睡眠に入ってしまった。

 結局マーミも諦めたのか寝る事にしたようで、コレで残るは御者だけとなったと思ったら、御者は気絶をして早々に自分の目にした現実からリタイアしていた。


「俺もさっさと寝よ。」


 こうしてバッツ国への旅の一日目が平和に終わった。


 そしてもう四日目。ここまで道程は順調で何の問題も起きていない。

 バッツ国へ着いたら先ず何をするのかの相談。魔物を狩って得た金は向こうで派手に使って遊ぼうとか。

 商人の真似事でもして高級な毛皮を仕入れてマルマルで売ってみるか?とか。

 雑談は途切れず時間が過ぎた。それもこれも俺がバッツ国とマルマルの都市の違いを教えてくれと頼んだからなのだ。

 四人はソレを俺に説明するために色々とバッツ国の事を思い出して話してくれた。

 俺以外は全員バッツ国に赴いた事が何度かあるそうで、御者も馬車を操作しつつも会話に参加して退屈をしないで済む程度には盛り上がった。


 こうして五日目の朝も何事も無く、このまま順調にいくだろうと思われた昼過ぎ。

 そいつらは馬車の進行を塞ぐように現れた。二十人の、要するに野盗である。

 コレに御者は怯え始めた。


「ひえ!時機じゃないってのに!野盗と出くわすとは運が無い!金だけで済まされればいいが・・・」


 どうやら毛皮の時期になると商隊がこの街道を頻繁に行き来するのだが、そう言ったタイミングで現れるはずの野党が時季外れのこの時に出て来たと言う。


「へっ!通行料を払いな?そうすれば命だけは見逃してやる。一人金貨五枚だ。・・・ん?何だ?乗ってるのはこれっぽっちか。おや?女じゃねーか。ご無沙汰だったからな。犯してから売っぱらうか。そこそこの値は付くだろ。よく見りゃ美人顔か。化粧でもすりゃもっと化けるか?高い値で売れるだろ。コレは儲けたぜ!」


 どうやら正真正銘のクズの集まりであったようだ。

 遠慮無くブチのめしてもいいかなと思ったが、相手の言い分を少しくらいは聞いておくべきかと一言忠告してやった。


「お前たち、命が惜しいならこの場から去れ。もし襲ってきた場合、お前たち全員死ぬ事になる。そんな中で運良く生き延びる事があったとしても衛兵に突き出して牢獄行きだ。さあ、逃げたいものは今から十数えるうちに立ち去るがいい。」


 俺は馬車から降りてそう野盗たちに向かって口上を述べる。

 でも奴らは一切動かない。かわりに黙ってニヤニヤしてこちらを見ているだけだ。

 そして俺が十数え終えると奴らはゆっくりと近づこうとしてきた。

 どうやら野盗たちはこちらを一斉に襲う為のタイミングを計るために待っていたようだ。

 そのタイミングは俺の数える十。その間に馬車は完全包囲された。

 何を俺が言おうと、最初からこいつらは俺たちを逃がす気は無かったと言う事だ。


 だが、思うように野盗たちは前に足が出ない事に気が付いた。

 そう、俺が奴らの脚を一気に地面に沈めたからだ。奴らが前に出ようとした瞬間に魔力を地面に通して野盗たちの足元だけを泥沼化し一気に沈め、次には魔力を流すのを止める、のではなく、コンクリートの様に固めたのだ。その埋まっている脚の部分を。


「何だこりゃ!クッソ!脚が抜けねえぞ!一体どうなってやがる!くそ!?」

「おい!くそ!ぬ、ぬぬ、抜けねぇ!ちくしょう!」

「ふぐー!ぬぐー!おりゃあああ!くそおおおおお!抜けねぇええええ!」


 馬車の周囲からは汚い声が響いている。で、馬車の中からは。


「あーあ、こいつらホント、哀れだな。エンドウに喧嘩売るとはな。」

「で、どうする?殺していいのかしら?この時期にここで野盗が出るとか変よね?」

「何か裏があるとは思うが、別に気にしない方が良いんじゃないか?」

「でも、このままここに放置ですか?殺してしまわずに生かしたままバッツ国へと引き渡した方が良いように思うのですが。」


 と四人がこの野盗の件を相談している。

 俺としてはこのままこいつらをバッツ国に差し出すなら、この場で殺害して魔法カバンの中に収容して到着したらポイっとバッツ国の衛兵に渡しちゃえばいいのではないかと思っているが。


「ちょっと予定が遅れるかもしれないけど、こいつら尋問しておくか?どうする?」


 ここで俺は馬車の中の四人に聞いてみる。引っ掛かる事が有るならどうせならこの場ですぐに確かめてみればいい。


「そうだな。ちょっとだけやってみるか。」


 期待はしないで、そう付け加えてカジウルは馬車から降りてくる。

 ちなみに御者はと言うと野盗に馬車を囲まれた時の恐怖の表情のまま両手を「バンザイ」にして固まって動かないでいた。

 どうやら俺が野盗全員の動きを封じたのが未だに信じられなくて、思考停止を起こしてしまってフリーズしているようである。


「さて、お前ら、何でこの時季外れにこんな場所で野盗をしてやがる?しかも女を捕らえて犯して売ろうなんてのはよ、ここらで野盗を生業としてきた今までのとは違う奴らだなお前ら。」


 この街道で出る野盗と言うのはどうやら金を払えばすんなりと通してくれるらしい。

 しかももっと詳しく聞くとどうやら護衛も支払い次第ではやってくれるそうな。

 ヤクザな商売、と言った感じはするが女子供には手を出さないと言う「何ソレ?」な野盗だそうで。


「てめえ!これをどうにかしやがれ!クソッ!この!オイ!テメエふざけたマネしやがって!」


 生きのいい事である。地面に埋められて身動き取れないと言うのに。自分が圧倒的に不利だというのに。

 寧ろこの状態は「詰み」であろう。彼らに脱出する手段は無いのだから。


「なあエンドウ。こいつの腕を拘束してくねえか?ちょっと調べたい事が有る。」


 カジウルが俺にそう指示を出す。コレに地面に手を付いて力を籠めて身体を浮かせようとしている野盗。

 そんな事をしても地面に埋まった脚は抜けない。

 で、そんな一生懸命に何とか脚を抜こうとしているその手を沈めてそのまま脚と同様に固めてしまう。


 太腿まで地面に埋まり、あまつさえ手まで埋まって身動きが余計に取れなくなった野盗はここでやっと命乞いをし始める。


「た、助けてくれ!金なら払う。この状態をどうにかしてくれ!」


「馬鹿だろお前?最初からそう言って逃げてりゃこんな阿呆な格好で命乞いをしないで済んだんだぞ?もう遅い。お前たちの悪意を既に受けた後だからな。俺が忠告した時のお前らの表情、自分で認識できていたか?」


 俺はそう言ってやる。イヤラしい顔でニヤニヤ汚い歯を見せていたその表情は悪意で満ちていた。

 これから得物をどうやっていたぶろうか?という心が透けて見える様な、そんな虫唾が走る顔だった。


 カジウルはもはや自由の完全に塞がれた野盗の懐をまさぐったり、荷物入れの小さなポシェットをあさる。

 すると何かを見つけたようだった。


「おいおいおい、まさかここまで来てたのかよ。コッチにゃ来ないと踏んでたんだがな。」


 そこにラディが近づいてくる。そしてカジウルが取り出した小さなバッジの様なモノを見て同じような事を口にする。


「こっちの街道にゃ「いつもの」が縄張りを主張しているからな。反対側の方に行くと思ってたんだが。意表を突かれたな。」


 何の事か分からない。そんな俺へと説明をしてくれるカジウル。


「こいつらは指名手配犯だ。しかも大分前から捕まえられずにいた相当な奴らだ。エンドウ、こいつらを生かしといても得は無い。殺していいぞ。」


「あ、その前に証拠を取り出しておいた方が良い。こいつらの荷物はどんなに小さいモノでも回収しておこう。」


 ラディはせっせとこの野盗たちの息の根を止めていく。そうしてから荷物を剥ぎ取っていた。

 ソレに必死になって暴れて抵抗を見せる野盗たちではあったが、次々一方的に殺されてしまう。

 何せ脚が埋まって動けない状態なのだ。魔法で身体能力向上をしないででも楽々に始末を付ける事ができる。


「ほれ、これを見ろ。中心に目の紋様と斜めに入った傷。これはな「火凍」と呼ばれる野盗集団の団員証だ。ここ最近になって出回った情報でな。」


 荷物を回収したラディがどうやらこのバッジの数を数えているが、どうやらちょっと雲行きが怪しい。


「こいつらの中に頭領はいない。マズイな。バレると報復に来られるかもしれん。」


 どうやら全滅させたはいいモノの、この野盗のボスが居ないようだ。

 そうすると野盗のボスは「メンツ」に掛けてこちらを調べて報復をしてくる可能性が出てくるそうで。


「俺たちを只単純に狙ってくるだけならいい。しかし、俺たち以外を犯人として勘違いして襲ったりする事も考えに入れなきゃならんな。」


 見当違いの事を野盗がして赤の他人に被害が出る事は断じて避けたい。

 寧ろ、この野盗の被害がこれ以上出る事はそもそも望まない。


「だったらこいつら根っこから絶やそうか。バッツ国には到着するの遅れるかもしれないけど。放ってはおけないだろ?」


 この俺の提案にいつの間にか馬車から降りてきていたマーミとミッツは賛同してくれた。


「まあ、こうなったらそっちの方が良いわよね。昔の私だったらほっといて一目散にここから離れてたけどさ。」


「私たちは大分強くなっていますから。大丈夫です!野盗たちを根絶やしにして世の中の安全を取り戻しましょう!」


 こうして野盗集団「火凍」退治が始まった。

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