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これでダメならどうしよう?

 そうして誰も外に居ない夜。俺は再び戻って来た。そして立つのは井戸を作る予定の位置。

 そこに大量の掘削に使う道具と土を運ぶための手押し車も十台。井戸補強用の木材と井戸の周辺に立てる建築物用の木材も大量に置いておく。釘とハンマーも一緒に置いておく。

 レンガもこれでもかと大量に積んで置き、それらの接着用の泥濘を山と盛っておいた。これだけだと使い道を分かって貰え無いかと思って一つサンプルを作ってそこに一緒に置いておく。

 ついでにこの周辺を作業能率を考えて凸凹な地面も平らに魔法で仕上げて働きやすい環境に変えておく。


「・・・あ。ここまでやっちゃったら寧ろ魔法で井戸掘るのと余り変わらないんじゃ?いや、支援だ、コレは只の支援であって、掘るのは住人があくまでも頑張るんだ。そう、そうなのだ。」


 俺は妙な理屈で自分を納得させる。余りにも手厚過ぎる支援は「代わりにさっさと井戸掘ってくれ!」と言った文句に変わるかもしれないのだが、それを無視した。

 この後は他にも何か入用になる物は無いかと少々の間考えてソレをどんどんと追加で置いていく。


「よし、この辺で良いか。と言うか、過剰か・・・」


 気付いたら井戸予定地の周辺が埋まってしまった。俺の出した物資や資材で。これは減らす調整をした方が良いかと思ったのだが、片づけたりそれらを丁度良い量に調整するのに頭を使うので面倒だから止める。

 後は何があろうとも住民たちで頑張って貰いたい。俺がやるのはここまでだ。

 と言うか、ここまでお膳立てして物凄くイージーな状態で井戸掘りを失敗するとかは寧ろ逆に考えられない。

 これでダメでした、何て言われては救い様が無いとすら言える。


 俺は自宅に戻って「良い仕事したな」と背伸びをしてからベッドに入って眠った。


 そうしてその後、七日程経過した。俺は支援をした村にまだ一度も再訪していない。何故か?それは。


「コワい。あの時はちょっとやり過ぎたか?位にしか思って無かったけど。一晩寝て冷静になったらアレは駄目だったと気付くよね・・・」


 絶対に俺だとバレる。しかも食糧の芋やら塩の支援も俺だと悟られてしまうだろう。

 だって道具だの資材だのがあの井戸の場所に積み上がっているのを村長が見れば幾ら何でも気づかれるはずだ。

 国の使者として訪れた俺が村の飢餓を救う食糧支援をした者と同一だと。

 相当な馬鹿で無ければ絶対にピンと来るはずである。そうなると再び俺が村に姿を見せたら大騒ぎになるはずだ。


「救世主扱いされるのは真っ平御免だ・・・とは言っても、毎度毎度に正直、俺の方が馬鹿だよな。毎回やり過ぎたって言っておきながら反省しても、ソレをすっかりと忘れたみたいに今回みたいに毎度やらかすんだから・・・」


 人を救っている、そんな自己満足に浮かされていつもやらかしている事を忘れてしまっている様に思う。

 俺の精神は魔法と言う強大な力を使える事に因ってかなりの変質を起している様に感じるのだ。


 先ず、人を助けようと思うと大抵は力ずくでしかもやり過ぎるきらいがある。

 先ず、やってみたいと思い付きで動くとある程度の納得できる所まで行かないとブレーキが掛からない。

 先ず、悪党を見ると人権も人情も地位も名誉も権力も法も罪罰も関係無く潰してしまう傾向に。


 大体この三つが自分の行動の主な中心になっている。


「これ、客観的に見たら手の付けられない只の危険人物だよな・・・しかもこれらを実行する力の源が魔法だっていうんだから余計に質が悪い。」


 この世界で広まっている魔法と言う存在は俺が普段から使っている魔法とはその自由度に根本的な差があり過ぎる。そこも問題だ。

 だがコレを是正する気は俺には全然無い。だって俺がソレをする義務や責任は無いのだから。


「止めよう・・・これを考えだすとキリが無いし。しかも俺は自分の自由が縛られるのは勘弁だ。これからもこのままで生きて行くんだ。うん、最終的には何処か人の来ない場所で隠棲でもするのかな将来は?」


 引き籠って生活する。世の中を見て回る事に飽きたらそんな生活をするのだろうか?しかしそれは何時になるかなんて想像はできない。

 なので今は井戸の件だ。一度様子見をしに行かねばならないとは思っているのだが。


「止めよう。次の村か、或いは町に行こう。・・・これ何時終わるかな?」


 こんな調子でノトリー連国の全土を回る予定なのだ。このペースで行くと全て回るのに一年近くは掛かるだろうか?いや、俺が全てを終わらせなければいけない何て事は無いのでほどほどで良いのだろう。

 既に俺の力など必要としない町や村も有った様に思う。なのでその地への支援は後回しで良いだろう。不公平と言われようが関係ない。


 そんな事を考えてから俺は朝食を摂った後に別の村に向かった。

 速い所コロシネンには国の方を動かして貰って俺の代わりに主導して欲しいのだが。無理は言えない。


「と、やって来たのは町なんだけどな。首都から一番遠い町、と言っても、ここは宿場町みたいなもんだよな。流通で成り立ってるから畑を作らせるとか、井戸とかって言った話で解決、はちょっと違うか?」


 宿場町と言うのは街道を行く旅人が落とす金で経済が主に回っているもののはずだ。

 そこで俺が「農作業で自給自足!」と訴えて、はて、この町の住人はそれに素直に従ってくれるだろうか?

 客商売でずっとやって来た人たちだ。いきなり農業で自力で賄え、となっても、もしかしたらプライドが許さない何て言って拒絶されるかもしれない。あくまでも自分たちは商売人だ、と言って。


「でも、そんな事も言ってられない事態に追い込まれてるんだし。四の五の言ってられないだろうから協力してくれるか?・・・いや、そもそも、この町、既にゴーストタウンに成り掛けてるじゃん・・・」


 この宿場町、住民が皆無、と言っても良いくらいに人が少ない。

 それもそうだ。このノトリー連国はそもそも俺がその存在を知った時点で既に「死にかけ」と言っても良い程の内情だった。旅などをする余裕のある人達がいるはずも無かった。

 この町に寄って金を落とす者が居ないばかりか、行商が訪れる事もかなり以前から無くなっていたんだろう。

 そうなればこの町にそのまま住んでいてもジリジリと真綿で首を締める様に死んでいくだけになってしまう。

 その様な未来を予想して町から出て他の地で生きて行こうと出ていく者が多く居たんだろう。住人にはお年寄りが多数を占めていた。若い者たちから次々に住み慣れた町を出て行ったのだろう。

 何処もかしこも空き家でボロボロ、長年誰も住んでいないのが一目で分る有様なメインストリートが視界に入る。


「ここは住人たちだけの力で立て直せそうも無いな。とは言って見捨てるって選択肢は無いんだけど。さて、解決策はどうしようか?」


 このまま放置しておけばこの町は遠からず本当に無人になる。それは完全な町の「死」である。そうなる前に活気を取り戻す、とまでは言わないが、ある程度はここに住み続けられるくらいには変えておかねばならないだろう。

 いつかこの宿場町に旅人がやって来ても良い様に、以前に住んでいた者たちが帰って来ても良い様に。


「先ずはまだここに住んでる人たちの心のケアが必要か。でも、俺カウンセリング何てできないぞ?まあ、炊き出しでもして先ずはひもじい思いの解消からか。」


 俺はこの町の中央通りの丁度ど真ん中で料理を始める。別に誰が通る訳でも無い。誰も人が居ないのだ。迷惑になるでも無し。

 とは言っても事前に俺はこの町にも芋は配っていた。塩も置いて行っている。俺がいちいち今炊き出しをする必要は無いかもしれないのだが。

 しかしそれとこれとは別だ。空腹が満たされただけでは人の精神は最低限保たれるだけで、心の豊かさと言う面ではまだまだである。

 様々な味と香りを楽しんで食事をしてこそ、未来に希望の持てる心を復活させられると言うモノだ。

 この町の住人は俺が魔力ソナーで軽く調べてみただけでも誰もが絶望のオーラでも放っているかの様に顔色が暗い。

 それは自分たちに未来が無いと、只このまま死ぬまでの時間が延々と続くのだと、そう言った考えに囚われている様に見える。

 コレを打破するには外側から何かをぶち込んでやる必要がある。自分自身の力で内部からその様な状態を打ち破るのは困難を極めるだろうから、外部からの刺激が必要である。


 そしてできたのは。


「カレーだ・・・マジでか・・・」


 俺は作り出してしまったのだ。この世界でカレーを。


 以前にあの専用畑で放置しておくと植えた覚えの無い植物が生えて来てビビったという事があったのだが。

 その見知らぬ収穫物をある程度調べておいたのだ。香りは?味は?何処が食用で、乾燥させた方が良いのか?そのまま生か?火を通して?煮て、焼いて?炒めて?などなど。

 井戸の件で七日は家に居たのでそれらの調査をしていた所、俺の知る「スパイス」に近い物があると判明したのだ。十種類程度がそれであった。

 そう、俺の知らない、植えた覚えの無い、勝手に生えて来た植物は全部で二十種類以上にも及んでいる。その内の半分がこれである。

 俺の知っている見た目に全く似ていないのに、そうした「スパイス」が見つかった事は正直言って「おかしいだろ・・・」とかなりの眩暈を起した事をよく覚えている。

 気候や土壌、その他にもそうした植物は生育する環境と言うのがあるはずなのだ。与える栄養、水やりの頻度、周辺温度の管理など。

 だけどもそれらをすっ飛ばして「そんなの関係ねぇ!」と言わんばかりに生育できてしまうのが魔力農業である。恐ろし過ぎる。

 と言うか、本当に何でこんなのがいきなり生えて来たのか本当に謎だ。と言うか、それを通り越して恐怖すら感じる。


「とは言え、そしてできてしまった飯テロの最上位に食い込む日本人のソウルフードと言っても過言じゃ無い物が異世界で爆誕・・・」


 どうせならここで試しに作ってみようと思ってやってしまったのだが、先程味見してみただけでも「ああ、カレーだ・・・」と呟いてしまう程に再現度が高かった。

 これに米が有る。もう駄目だった。こうなったらカレーライスである。ナンではダメだ。こだわりである。


 どうせここの絶望している住人たちには過剰刺激の方が都合が良いだろう。これを食べて元気を取り戻して欲しい所である。


 さて、匂いと言うのはそれこそ何処からともなく漂うモノだ。俺が調理を始めて直ぐにこのカレー様の何とも言えぬ食欲を湧き起こす香りはこの町に静かに、そして確実に広範囲に広まっていた。

 これに何だ何だと匂いの元を見つけんが為に家の中からお年寄りの方々が出るわ出るわである。


「おめえさん・・・一体何をしておるんじゃぁ・・・」


 俺の周囲には人の輪が出来ている。この町に残っていた住民全員がここに集まっている状態だ。

 そんな中から一人の老婆が近づいて来て俺に一言そんな質問を飛ばしてきた。多分この町の長老、代表といった所なんだろう。


「飯を作ってる。見て・・・あぁ、分からないよな?あんたらが見た事も無い料理だろうし?」


「・・・目的は、何じゃ?既に死んでおる様なこんな辺鄙なトコにある町に来て何を企んでおる?」


「あれ?いきなり俺の事を悪だくみしてる奴と決めつけた様な言い方?そりゃちょっと性急過ぎるんじゃないか?俺は、まあ、そうだな。確かに企んでるかもしれんけどな。」


 婆さんはジッと俺を睨み続けて来ているのだが、俺はソレを無視して大鍋で煮込んでいるカレーが焦げない様にとオタマでかき回し続ける。


「具を沢山入れて作ったからなぁ。火がちゃんと通って無いと嫌なんだ。だからまだもう少し待っていてくれるか?出来上がったと思ったらちゃんと食べさせてやるからさ。あ、各自食器を用意してくれよ?食いたい奴はな。」


 どうにもこのカレーの匂いに負けてだろうか?数名が家に戻っていくのが見えた。

 だが他の者たちはどうしようかと迷うそぶりをし続けて一向に動かずに居るのが多い。


「おめえさん、話が通じんのか?一体何がしたいんじゃ?食事を配るのは良いが、それをしてどんな得がおめえさんにあるんじゃ?」


「こいつを食った奴にだけ、俺の言う事を聞いて貰うのさ。別に食わない、言う事を聞く気など無いと言うのであれば別に家に引き籠ってジッとしていれば良いんじゃないか?強制じゃ無いからさ。」


 俺のこの返答に婆さんは眉を顰めて妙なモノでも見るかの様な目つきになる。

 そして俺を輪になって囲っている住人たちはこれに「えぇ・・・?」と困惑の表情だ。未だに俺との距離は遠い。大体7mくらい?結構遠めである。

 俺が一体本当に何がしたいのかが分からないからだろう。好奇心と匂いにつられて料理を食べてみたいが、しかし何を言われるかが分からないので「どうしよう」と増々悩んでいる。

 悩んでいないのは真っ先に自分の食器を家から持って戻って来た者たちだけだ。俺の言葉はちゃんと聞いていた様だが。

 その者たちは全員爺さんで、アホ面下げて今にも口からよだれを垂らさんがばかりの顔である。


 強い香りと言うのは人の本能を刺激するものだ。それは次第に沈んだ意識も引っ張り上げて気持ちを変える切っ掛けにもなる。

 俺の周りに集まって来た時点で住民たちの意識はちゃんと釣り上げて浮上させる事は成功していると言える。

 後はこれを揺さぶってより一層はっきりと意識を覚醒させていく流れである。

 まあ皿を持ってきた爺さんたちは既にもうそこら辺は要らない程になっているが。


「無理を聞いて貰おうって訳じゃ無い。飯一杯を食わせた程度で頼める事なんてタカが知れてるだろ?別に遠慮するって言うならこちらから無理強い何てしないさ。食いたく無きゃ食わないで良いよ。無理やり勧めたりはしない。」


 これに陥落した者たちから徐々に家に帰っていく。そして器をその手にしてこの場に戻って来た。

 ソレは徐々に増えて行って大体三分の二がその手に器を持っている。


「どうせこのまま何の刺激も無く静かに死んでいくつもりだったなら、ここで思い切って俺の作った飯の味でも死に土産にどうだ?美味いぜ?自信作。」


 ここでまたゾロゾロと器をその手にする者が増えた。そうして時間が経てばやがて俺に話しかけて来た婆さんを残すのみとなる。他の全員がまだかまだかと俺の合図を待っていた。


「おめえさんは悪の化身か、誑かしの神か何かなんか?もうワシにはどうにもできん・・・」


 婆さんはとうとう諦めてしまった。直接的に町や人に暴力を振るっている訳でも無いので俺の行動を止められなかったんだろう。

 料理を配る行為なのだ。別段この行為に何らの危険性は無い。それがここの住人の初めて見る料理であろうと。

 だから俺を追い出すと言った事も迷ったのだろう。料理を止めさせて強制的に町から出て行く様に言えなかった。

 そして諦めもあったのかもしれない。どうせこの町と一緒に死んでいくのならと、最後にこんな妙な事になった話を土産にあの世に行く事を受け入れようとしたのか。


「よし、できたからハイハイ、並んで並んで。一列に順番になぁ。横入りとかは駄目だぞー?」


 俺は具に火がしっかりと通ったと判断したと同時に料理を配る事を告げた。


 その後、配り終えた住民からゆっくりとだが、しかし確実にカレーを食べ始めていく。

 そこで一口入れて間を置いてから辛い辛いと口走る者続出。しかしそこで食べるのを止める者が居ない。

 カレーライスはそうして次々に住民たちに行き渡り、その胃の中へと収まっていく。

 作った量は多いのだが、お代わりはさせない。俺が後でゆっくりと食うのだ。気が向いた時にも食べる為に鍋ごとインベントリにしまう。


 こうして30分後。全員が食事を終えた。いや、俺に話しかけて来た婆さんだけはカレーライスを食っていない。


「婆さんは良かったのか?食べなくて。」


「毒が入っておったら生き残りが一人も居なくなってしまうじゃろうが。」


 婆さんが毒などと言った物だから食べた者の大半がギョッとした顔になる。

 ソレを見て婆さんがくつくつと笑う。どうやら嫌味と冗談を込めて毒などと言ったらしい。


「お前たちは何で疑いも無くいきなり現れた妙な男の作った料理を食えるんだい?どいつもこいつも馬鹿面下げて辛いと言う癖に全員食べきってるじゃないか。そんなに美味かったのかい?じゃあ今死んでも良い土産話が死後の世界に持って行けるねぇ。」


 面白そうにそう言って婆さんは全員の顔を見渡す。そして「全員の墓を作るのは骨が折れる」まで付け加えた。


「まあ別に毒なんて入れて無いから死なないよ。せっかくだし後で婆さんにも食べさせてやるさ。さて、じゃあ全員頭の中はこれで冷静になれたか?んじゃ、俺の話を聞いてくれ。」


 ここで俺は国の方針を語る。荒れた土地は今や緑に変わっている事。それを耕して食糧生産を全力で取り組んでいく事。

 そして俺はこれを先に伝えに来た使者で、畑を作る事に協力をする旨を告げる。


「コレを食った人たちにはこの計画、事業に参加して貰う。もちろん拒否は無しだ。拒否した奴には飯は食わせないで良いぞ。働かざる者食うべからずだ。ここに残った爺さん婆さん総出、全員で取り掛かって貰う。」


 国の使者だと語ったのはその方が話がしやすいから。嘘も方便である。あながち嘘でも無いし。


「さて、質問の時間だ。何かあるか?」


 ここで一瞬の沈黙。しかし手を挙げる者が現れた。それは最初に器を家に取りに行っていた爺さんの内の一人だ。


「色々とあるんじゃが、道具は?作付けする作物の種類は?この町に残った者たちは殆どジジババばっかりじゃい。もっと若い労働者が欲しい所なんじゃが、そこら辺は派遣されてくるんか?それと、税金はどれぐらい取られる?この町にゃ金なんぞ無いぞ?わかるじゃろ?」


「道具はこちらで用意する。作物は何でも良いぞ?ここの労働力だけで畑は作り上げて貰う。お年寄りに無理をさせる様で済まないが、やり切ってくれ。税金は数年間は徴取しないから思う存分畑を広げりゃその分だけ儲けが出るからガンバレ。その期間が終わって税金の取り始めの最初の頃は徴収額を低くする予定だからジャンジャンと働いて早めに収穫をできる様になればその分の差でウハウハだぞ?」


 俺は結構今いい加減な事を口走っている。畑仕事にヤル気を持って従事して貰う為に。

 説明の内容も雑だったのにこれに早くも目を輝かせ始めた数名が居る。がめつい。


 ここでまだ追加で質問をしてくる爺さんは驚きの言葉を口にする。


「なあ、お前さんの食わせてくれたコレの材料を育てるってのは駄目なんか?」


 この言葉にカレーライスを食べた全員がその爺さんの方に一斉に振り向いた。その目は驚愕に満ちている。


(まあそれだけ衝撃的な味だったって訳だな)


「ああ、別に構わない。けど、それは畑が安定して自分たちの食い扶持を得る事が出来る様になってからだな。育て方も知らんし、土の栄養やら、水やりの回数なんかも、そこらへん全然俺は知らないから試行錯誤になるはずだ。それと、俺はその生育の研究には携わらないからそのつもりでな。なんで、それを最初っから挑戦するなんてのは如何なモノって事だ。俺の食わせた料理を自分で再現して作って今後も食いたいってんなら、先ずは畑仕事を頑張ってくれ。」


 これでヤル気を引き出せるのなら安いモノだ。それ程にこの爺さんがカレーライスを気に入ったというのならば、いつか作り方を教えてやっても良い。


(・・・おいおい、何で半分以上が目を輝かせてんだよ)


 どうやらこの爺さんだけでは無く、半数以上の住民がその目にヤル気を漲らせていた。

 こうして俺は一旦この場から離れて家の陰に入ってそこに農具を山盛りに。

 そして畑を作る場所などの細かい所の指定はせずに自由にこの町の者たちで相談して初めてくれと言ってある。


(・・・土中のゴミや岩なんかがあると畑づくりには苦労するだろうし、そこらへんの邪魔なものは深めに沈めておくか)


 この町のどこら辺に畑を作っていくのかに俺は関与しない。なので町を含めその周辺の土地、土中にあるゴミや岩などを魔力を流して言って地中深くへと動かしておく。

 こうしておけば土を耕した時に道具が壊れたり体を痛めたりなどが減るだろう。

 土中の岩を知らずに農具を土へと叩きつけた瞬間に手ごたえが硬くて手首をやられる、などの防止になる。農具の刃なども欠けたりするのも防げる。


(後はやる気の種をちゃんと渡しておくか。とはいえ、本当にコレを植えても生えて来るかね?)


 一応は今回のカレーに使ったスパイスの種は全種類残してある。また無くなったら収穫する為の分だ。

 とは言え、別にここでいくらかの数を渡しておいても問題無いくらいの量はある。

 これで爺さんやカレーに目を輝かせていた者たちのヤル気アップになれば良いだろう。


「と言う事で、婆さん、預かっておいてくれ。あ、ちゃんと保管しておかないと、後で無いとか、捨てたとかすると婆さんの命が危ないからな。見ろよ、爺さんたちの顔をさ。」


 俺がカレーに使った植物の種だと説明したら爺さんたちの目がギラついた。

 だがそちらに俺は種を預けずに婆さんに渡した事でこれに目を見開くカレー狂いたち。


「言っておくけど、これ以上はやらないぞ?そもそも俺の言った自給自足が出来て生活が安定してから研究しろよ?それこそ他の植物を植えても芽すら出やしない様な中途半端な畑で実験した所でこれらも生えてや来ないだろ。そんな下らない失敗しても知らんからな?早まる様な奴が居るかも知れ無いから婆さんに俺は預けたんだぞ?」


 この注意に何名かが目を逸らす。やはりアホが居た。これに俺は「馬鹿だなぁ」とは思うが、それを言葉には出さない。


(さて、畑を作り易い様にって事で俺が土の中に魔力をちょろっと浸透させちゃったから最初は作物の出来は良いだろうさ。それで勘違いしないかどうかは、まあ住民たちの心の持ちようだな)


 こうして俺はこの町から去る。その際に婆さんに言われる。


「やはりおめえさんは悪魔だったんじゃなぁ。どいつもこいつも「生きてみよう」と気力を取り戻しちょる。あっという間に全員そんな風にしちまったんだ。詐欺師にしちゃ薄気味悪過ぎるわい。それで?ワシにもアレを食わせてくれるんじゃなかったのかい?」


 そう言えばと思い出して家の陰に隠れてカレーライスを取り出す。そして婆さんに渡してやった。もちろんスプーン付きのサービスである。

 そしてそれを一口食った婆さんの感想は驚いた表情と共に。


「ふほっ!?こんなものを皆に食わせたのかい。こりゃ刺激が強過ぎてあんなになっちまったのも納得じゃわ。」


 その言葉を聞いてから俺はこの町を去った。そうしてまた一旦自宅に戻る。


「まだ俺は味見しただけで食べて無いんだよな。だから、やっぱりここは一人自宅でゆっくりと、静かで、それでいて、豊かに、じっくりと堪能するべきだよな。」


 カレーの香りはある意味テロである。飯テロだ。幸いにも俺の自宅は魔改造村の端の端に位置しているのでこのカレーの匂いは住民たちの生活圏にまでは漂わないだろう。

 誰の迷惑にもならずに俺は家の中でゆっくりと食事である。そして食べた。


「うん、美味い。こっちの何もかも違う世界で作って、しかも初めてなのにこの完成度はある意味コワいな?」


 使っているスパイスの比率を変えれば甘めも辛めも中辛もできそうな感じ。

 しかし俺はそこまでカレーにこだわりを持っている訳じゃ無い。


「その都度作る度に味が変わればソレはソレで面白いよな。まあ今はこれを暫くは堪能だな。」


 料理研究家じゃないので追及はしない。よっぽどやる事が無くなった時にでも暇つぶしにやるかも知れ無いが。

 そうするとそれらの作った試作品でインベントリの中にカレー鍋が大量に、と言った事になって消費が大変になるだろう。それは考え物だ。


「まあスパイスは大量に持っていても別に悪い物では無いし、ちょっとまた作って収穫して確保しておくか。」


 俺はそんな事を呟きつつカレーライスをパクリパクリと食べ続ける。


「ドラゴンが居なくて良かったわー。いたらカレー食い尽くされてたかもな。」


 何時頃帰ってくるか分からない。その時は人化をリューも覚えている事だろう。その姿がどんなモノになるのかサッパリ予想が付かない。


「なる様にしかならないよな。」

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