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考えるだけ無駄だからやめる

 そうやって数日に一度、配給を行う日々が続いた。これに町の住民の反応はと言うと。


「なんだよ、その聖人様やら豊穣の神とか言った呼び方は・・・」


 各所でそんな感じの呼び名が出て来ていた。これに俺は勘弁して欲しいと思って魔法で透明になって姿を見られない様にして食糧を配っている。

 中には最初の三日間で俺の姿を見ていた者たちも居ただろうが、そこまではもうしょうがない。

 崇め奉られるのは断固拒否したいのでこれからは絶対に姿を見せるつもりは無い。俺は新興宗教の教祖などになるつもりは無いのだ。


「とは言え、このままだと・・・誰かしら頭のオカシイ奴が宗教興しそうだよなぁ・・・」


 ソレを想像してちょっと薄ら寒くなったのだが、そんな物が出来たとしても俺はそれに責任を持つ気は無い。

 コロシネンにはそう言った宗教を取り締まる様に言っておくべきだろうか?などと思考がずれていく。


「おっと、まあ良いや。さて、貧困層の住民たちの血色も良くなり始めてるし。村の方では周囲の土地の開墾をし始めた所も二か所出て来たし。もうそろそろ小まめに様子を見に来る程度で大丈夫か?」


 とは言え、一体具体的にいつ今の配給を止めれば良いかは分からないし、決めれない。

 コロシネンの所にはまだ顔を出していないのでそこら辺の事を話し合っておいても良い頃かもしれないとぼんやりと思う。


「まぁ、とは言えだ。まだもう暫くは続けるか。頻度は落として様子見しながらかな?」


 余りにも与え続ける期間が長いとソレを「当たり前」と思い込み始めるのが人と言う存在の愚かさだ。

 そう言った思い込みをしてしまった後にソレが止まると文句や不満を前面に出してきたりする。

 与えられて当然、などと狂った事を言い始める勘違い者も出始める可能性すらある。

 当然などと言ってその元になる根拠など無いのに自らがまるで世界の中心と信じ込む奴が出て来る。

 手に負えない、そんな状況になったら俺はどの様に対処をすれば適切なのか?思いつかない。


「・・・まあ、量も少しづつ少なくしていくか?・・・まさかそれが元で住民たち同士で争いが始まったりしないだろうな?」


 もっと最悪な想像をしてしまってちょっと自分に引いた。けど、そんな可能性が潜んでいるのは否定できない。


「・・・俺個人で雑に何の計画性も無くばら撒いちゃってるからイカンのだよなぁ。コロシネンに早くしろって催促するか?でもゆっくりやって良いって言っちゃったしなぁ?」


 俺はここでハッとなった。何でこんな事で俺が悩まなくちゃいけないのか?と。

 確かに最後まで、とは言わずとも面倒は見ると宣言はした。しかしこんな下らない事で悩んでストレスを抱える事が不毛である。


「うん、これまで通りにばら撒きゃ良いや。後の事は全て任せた、コロシネン。ガンバレ!」


 そうは言っても多少の話し合いはしておかねばならないだろう。それを考えて一度コロシネンの所に顔を出す事にした。すると。


「エンドウ様、以前に庭に出して頂いた食糧がまだ捌き切れておりません。そちらの方にも労力を割いております。法の専門家にも多大な協力をして貰い、整備の方は進んでいるのですが、まだまだ完成は遠い見込みです。」


「うーん?それならもう先に開拓事業を進めた方が良いな。飯を食うのに困らないって宣伝で貧困層を集めて一部だけで良いから働かせちゃって行けば良いんじゃないか?物凄く小さな土地からで良い。出来上がった畑の所有権を開墾した奴らに与えて、そこでできた収穫物に税を数年は掛けない、って事にすればきっと人なんて幾らでも集まると思う。・・・あー、コレは只の俺の思い付きだから、それを実行するのに何か問題が起こったらコロシネンが対処を考えてくれ。丸投げでスマンな。」


「エンドウ様の仰せのままに。」


 コロシネンは深く一礼してから仕事に戻った。この執務室にはコロシネン以外に秘書が三名程居て、やはり書類仕事と格闘している。

 コロシネンの息子も一緒にここで仕事を熟しているのだが。その息子が俺に向けて来る視線には鋭い棘が含まれている。まるで俺を親の仇でも見るかの様に睨んできていた。


(何か言いたそうだなー?でも、俺からは声を掛けないけどね)


 未だにその名前を知らない俺。だけどもそれを知らなくても今が回っているのだから必要は無いのである。


「コロシネン、仕事で人が足りないってんなら、民間から優秀なヤツを雇って働かせちゃえ。もしくは死んだ貴族の家の執事とかメイドなんかを無理やり雇ったりしてな。こういうのは手あたり次第に有能な者に高い給金出してヤル気を引き出してこき使うのがいい。」


 俺のこの無責任なアドバイスに反応したのは一人の秘書の男。俺を驚いた目で見てから一瞬硬直、その後は直ぐに部屋から出て行ってしまう。


(当てがあったんだろうなぁ。これで仕事の能率が上がれば良いんだけど)


 これが君臨すれども統治せず、と言う事なのだろうか?違う様な、ある意味あっている様な。

 俺は今このノトリー連国に確かに君臨していると言った形になるのだろう。

 しかし政治などは全く俺には分からないので、それをできる奴に文字通り「全て」任せている状態である。

 こうしていきなり現れて余計で無責任な思い付きを聞かせるのは、もはやパワハラと言っても過言ではないのかもしれない。


「なあコロシネン、この首都から遠い村とかは先に俺が主導して開拓事業始めさせちゃっておいても良いか?と言うか、既に独自に動き始めている町村もあったりするんだけど、大丈夫か?」


「・・・エンドウ様、私に許可などを求めずとも、ご自由に、その御心のままに動いてくださいませ。その結果の全て受け入れる覚悟は、とうに完了しております。」


「おい、発言内容が行き過ぎてるだろうソレは。お前の中の俺はどう言う風になってんだよ?」


 何だろうか?もうコロシネンの中でどうにも俺と言う存在が妙な事になっている様な気がする。と言うか、確実になっている。

 俺はこれを修正するべきかどうかちょっとだけ迷ったが、放っておく事にした。もうどうせ治らないんだろうな、と思い直して。


 そう言う訳で俺は首都から一番遠い村から開拓を始める事に。早速俺はワープゲートで移動してその目的の村に到着。


「まあだからって言って、いきなり現れた妙な男の言う事をこの村の住民が素直に聞くのか、って話になるんだけどな。」


 しかし俺は既に一つの村を魔改造して豊穣の地に変えた実績がある。きっと大丈夫だろう、そんな楽観的な薄い自信はある。

 取り合えず最初に話し合いをするのならばこの村の代表である村長とだろう。一番上に話が通れば後はスムーズに行くはずだ。


「俺がちゃんとここにも食糧を配っているから村の住民の腹具合は満たされてるはずだから、空腹でのイラつきやらギスギスした空気は無くなってるだろ。こっちの話をいきなり突っぱねて拒絶されるとかは無いと思いたい。」


 今、俺は村の入り口に立っている。そのまま散歩でもするかの様に村の中へと入って行ったのだが。


「・・・活気がちっとも無い。家の中には人が居る気配はする。だけど外には誰も出て来ていない?何で?おい、まだ昼も過ぎて無い時間だぞ?仕事はどうしたんだよ?」


 少しでも食糧の確保をする為に畑仕事をしていても良いはずだ。俺が芋の配給をしていたってそこら辺をしなくなると言うのは考え難かったのだが。

 俺は雰囲気がどうにも妙だなと思いつつも、村の中央を真っすぐ正面に行った場所に建つ一際大きな家を訪ねてみた。と言うか、この家が恐らく村長が住んでいると見てドアをノックしてみたのだが。

 出て来たのは全く持ってヤル気の無さそうな老人だった。


「・・・どなたかね?この様な辺境に。上等な服を着ていなさるな?御貴族様ですかな?」


「ああ、別に貴族って訳じゃ無いんだが、どう説明したもんかな?まあ名前だけは一応自己紹介しておくけど。俺は遠藤。話があってやって来た。」


 この返しに対応した爺さんは訝しむ表情へと即座に変わる。

 まあ確かに怪しさ満点だ。いきなり見も知らぬ、服装も珍しいそんな男が訪ねてきたら詐欺師に間違われてもおかしく無いなと俺も思う。

 だが怪しまれたままでは話が先に進められない。なのでゆっくり説明したいと告げると爺さんはしぶしぶと言った感じで家の中へと俺を入れた。


 そこで俺は国がこれからやろうとしている事業の話をする。各町村での周辺地の開拓計画があると。それを聞いた爺さんは。


「ほほう、その様な話が立ち上がっていたのですか。ですが、それはこの村では無駄なのでは?」


「・・・は?無駄?」


 俺は何を以ってしてこの爺さんが無駄などと口にしたのかがサッパリ分からなかった。なのでそれは何故かと聞いてみれば。


「いやいや、ここ最近になってこの村に大量の芋がもたらされていましてな。定期的にソレがいつの間にやら村の中央の広場にあるものですから村民たちはこれで飢餓に苦しむ事も無くなったと喜んでおりますよ。」


「・・・なんでソレが無駄?何処にも繋がりが見つからないんだが?」


「ですから、こうして食糧の心配が今後無くなったのであれば土地の開墾などをせずとも。」


「・・・なんでソレがずっといつまでも無限に続くと思ってるんだ?次が来るとは誰も保証していないだろ?そうして暫くは食の悩みが無くなっている間にその他の問題を解決するために動くべき場面じゃないのか今は?」


「・・・その様な時になったら考えれば宜しい事かと思いますが。」


「終わってんな、アンタ。どうしてそこまで怠惰になれるんだ?良く考えろよ。その時ってのは、じゃあ、いつなんだ?」


「何時と申されましてもねぇ?」


「話にならないんだが?俺がここにやって来た目的はその土地の開発、開墾、開拓を村の住民たちに先行させてやらせる為なんだけど?」


「・・・貴方にどの様な権限が有ってその様な事を我々に?」


「あー、そうか。確かにな。俺は別にあんた等に言う事を聞かせられる様な権限も立場も無かったな。命令だ、って言ってもこの村の住民たちがそれに従う義務は無いか。」


 この村の者たちは長年の苦しみで精神が疲弊してどこかがおかしくなってしまったのかもしれない。

 俺がこれ程に言ってみてもこの爺さんはどうにも納得しもしない。道理というのを見れていない。


「分かった。じゃあ俺はこの村には必要無いって事で良いんだな?なら一応は道具だけは提供して行く。後はアンタの言った「その時」とやらが来たら頑張ってくれ。」


 俺はそう言って席を立つ。家からそのまま出て行く。その際には爺さんは小さく溜息を吐くだけで玄関までの見送りもしない。座ったまま。

 爺さんにとって俺は客でも何でもなかったのだろう。胡散臭い怪しい男と。ならば見送りもしないのは別に理解できる。


 さて、俺はこれからこの村に芋を配らないつもりだ。いきなり「与えられる事が当たり前」と言った心理にそれこそ村が丸ごと落っこちた何て思いもしなかった。

 だからもうここには二度と来ない。しかし一応は農作業具は多めに魔法で作って残していくつもりだ。

 ソレでこの村での責任を俺は果たした事として、こことは別の村に今度は移動する。


 その村では仕事をしている住民が大勢いた。血色も悪く無く、一生懸命に汗水垂らして大地を耕していた。


「ここは自立して独自に既に動き始めてたんだな。さっきの村とは大違いなんだが。何がきっかけなのかねぇ?」


 ここでの俺の仕事は別段多そうでは無い。しかし取り合えず村長に話を聞いてみる事にして住民に一言声を掛けてみた。


「すまない、村長と話がしたいんだが、何処に居るのか教えてくれないか?」


「おーん?お前さん誰だい?見ない顔だね。村長なら、ほら、向こうで大地を耕している爺様がソレだよ。俺たちは無理すんなって言ってるんだけどなぁ。どうにも最近は村にいつの間にか山盛りになっていた芋を食ったら、ほら、あの通り、以前とは別人になっちまったのかってくらいに元気になってよぉ?その変わり様が心配で皆は無理すんなって言ってるんだがなぁ逆に。」


 教えてくれた事に一言お礼を言って俺はその爺さんに近づいて話しかけた。


「あんたがここの村長だって聞いた。俺は遠藤と言う。ちょっと話がしたいんだが、良いだろうか?」


「どなたかね?見た感じ御貴族様かい?いや、しかしそんな服はこれまで一度も見た事が無いねぇ?都で今流行りの服なのかい?」


 村長はどうやら話を聞いてくれる様だ。作業で曲がっていた背筋を伸ばすと姿勢良く直立する。見た感じの年齢が90に行きそうな皺くちゃな顔であるのに確かに元気そうである。


「この村は今どうやら村周辺の開拓をしているみたいだが、それは何時頃から始めたんだ?」


「おお?ここ最近だなぁ。貧しいこの村に誰だか知らんが、芋やら野菜やら塩までくださった方がいてのぉ。それまでは住民全員が動けずにいた。それこそ腹が減り過ぎて畑仕事何て満足にできねえくらいだな。痩せた土地で幾ら必死に働いても得られる量は僅かでな。皆それでやる気を失っておった。やってもしょうがないとな。だけどもそれ食って体力取り戻した奴らが畑に行ったら村の周りの様子が変わってると言って騒ぎになっての。今ならもしかしたらと、皆が自然と動き出したんじゃぁ。」


 どうやら生きる気力を取り戻し、そこに大地の変化を目の当たりにして希望を見出した様である。


「一応は知らせておくけど、国は国家事業で土地開発をやるって事になってる。俺はソレを先ぶれとして知らせて先行してソレを指導する為にやって来たんだ。だけどもどうやらこの村は大丈夫そうだな。とは言っても、何か必要な物とか、やって欲しい事とか、深刻な問題とかは無いか?何でも良い。幾ら小さな愚痴みたいな事でも良いからあったら教えてくれないか?」


 俺のこの言葉に村長は少々の驚きを見せる。しかしその後は直ぐに真剣に悩み始めた。


「あんたは御国の使者様だったんか。なら歓待せにゃならんなぁ。まあ、だけども見ての通り、何にも無い村でなぁ。しかし、要求が無いか、ですかな?うーむ?」


 ここは家が建ち集まる中心では無く、その外側の何も無い場所。そこをどうやら先ず試しに畑を作ろうとしている状況である。

 村長は首を左右に向けて何かあったかと周りを見渡す。


「おお、井戸が欲しいですな。ここが成功したら少しづつソレを広げていこうと話が纏まっておりましてな。村の真ん中にある共同の井戸では少々距離があって水やりが大変ですな。それと、私の持っている道具を見て貰えば一目でお判りでしょう。ボロボロでいつ壊れてもおかしくない物を使っておりますな。新しい物に変える金も無く、材料も無ければ作る事の出来る職人も居ませんでな。修理なども騙し騙し素人がやっている様な状況でして。商人もこんな辺鄙な村にまで一々足を運んでは貰えんので。」


 村長はどうやら俺が使者だと勘違いをしていて言葉遣いが少々だが丁寧な感じになっている。

 俺はそこを別段気にしない。今大事なのは井戸と道具だ。


「道具は出す。けど、井戸は何処に作ればいい?そもそも、井戸を掘るにしても地下の水源の位置は分るか?その井戸を作った場合に今使用している井戸の水位が下がったり、水が枯渇するなどの心配は?」


「道具の手配だけでもうれしいですが。井戸の件も国が?ならば数日ほどお時間を頂けますかな?井戸の位置はその間に探っておきますので。井戸掘りの働き手も集めにゃなりませんなそうすると。いや、しかし重労働ですからな。交代制でも良いかもしれません。」


 井戸を掘る何てのはかなり大きな工事となるだろうここの村の規模では。なのでしっかりと村長は井戸に関しては調査をすると言う。

 俺はこれに了解の意を口にして先ずは道具を作って引き渡す事にした。

 とは言っても魔法で土から作り出すのでソレを見られ無い様にと一度俺はこの村から出ていく。ワープゲートを使わないで。


「・・・よし、ここなら良いか?」


 誰も居ない場所まで来た。結構遠い距離を。なので見られている事は無いだろう。

 ここで俺は色々と作り出す。ここで荷車もインベントリ内にあった木材で魔法を使ってパパッとできあがりである。

 桶に柄杓、鍬に鋤、カマやナイフなどをバンバカ荷車に乗せていく。山盛りに。

 こうして俺はその荷車を引いてまた村に戻った。これに村長からは非常に驚かれた。短時間でどんだけの道具を持ってきたのかと。何処にそれだけの量があったのかと。


 後は井戸の位置決定だけ。それは数日後にまた村に俺がやって来た時に話を聞く事となった。


(俺が魔法一発で井戸を作っちゃえば簡単なんだけどな。だけど、やっぱちゃんと住人がしっかりと働いた上で出来上がったって実感を作ってあげないとさ?愛着ってのが湧かないだろうからな。喜びなんて物も小さくなっちゃうだろうし?)


 ここで俺の会社の知り合いが居たら「井戸なんて人力で、しかも一人で作った経験なんて無い癖に何を上から目線で偉そうに」と突っ込まれる場面である。

 TVの村づくり企画などで井戸掘りの一部始終などを見た覚えがあるのだが。まぁ、汗まみれ、土塗れ、最後の方に水が出て来たりして井戸内を整える工事に入ったらソレはソレで体中びしょ濡れである。


 最終的には井戸を掘る位置が決まったら俺が魔法でパパッとやっちまうのだろうが。いや、それは止めておいた方が良いのだろうか?

 こういうのは最初の最初、位置決めってのが一番重要じゃないかと俺は思っている。

 新しく広げようとする未来の畑の規模を考えて井戸の位置は決めるべきなのだ。

 そのビジョンがあるのは村長の頭の中。俺の頭の中じゃない。だからこの最初の位置決めだけはしっかりと吟味して決めて欲しいと願う所である。


 こうして俺は今日の所は一度魔改造村の自宅に戻る事にした。毎度の事にこういった時に幾つもの仕事案件を抱え込んでは「仕事し過ぎだ」などと後で口にしていたので村を回る時は一つ一つを順に回ってのんびりと問題解決をして行こうと思ったのだ。


「うん?数日後とか曖昧に決めちゃったけど、まあ四日後で良いか?その間は、まあ野菜作りでもしてインベントリに突っ込んでおけば良いだろ。」


 キッチリと決めていない日数の間の時間は配給用の野菜やら穀類を収穫していれば良い話だ。こうして俺はスローライフ?と言って良いのかどうかは非常に怪しいのだが、そんな生活をしてみた。

 ゆっくりと仕事をして、のんびりと飯を食い、ダラダラと昼寝をキメる。良いご身分だ。自由だ。


 そうして今は芋だけでは無く麦?そう、麦みたいな植物も植えて収穫をしていたりする。実を言うとコメも。

 せっかくなので魔改造村で収穫している物は全て試しに植えて収穫していたりする。

 俺は王国やら帝国に行っていろんな種類の植物を隙間時間?を使って探して集めていた。その中にコメも含まれている。


「おお、やっぱコメは最高だ。うん、めっちゃ米、収穫しちゃうもんねー。」


 と言いながら昼食を食っている今日は四日目だ。大地に魔力を含有させて植物を植えると半日未満で収穫できる程に成長してしまう。この世界のコメ、水田要らない。マジでビビる。

 いや、コレは俺が込めた魔力の密度がもしかしたら問題なのではないかとちょっと疑っているのだが。

 そんな事は一気に吹き飛ぶ米の威力である。やはり俺は日本人だ。そんな問題は吹き飛んでしまうくらいに些細な事である。


 そうしてやって来た前回の村。俺は村長に挨拶をして井戸を掘る場所の候補地を案内して貰った。


「掘っても硬い地面に当たってしまえばそれ以上の作業が進められ無くなりますから。いくつか今後の畑の面積の事も考えて候補は三つにしました。しかしこの三つもダメであったら再び調べてみないといけません。」


「どうやって決めたのかの方法を聞いても?」


「おや?ご存じありませんでしたか?ならば。」


 村長は目印の為に木の棒を立てている場所に座り込んで地面に掌を付いた。そこで真剣な表情でジッと手の甲を見つめる。


(俺の知ってるのと全然違うわー。TV番組で井戸掘りしてるのを見た事あるけど。やっぱこちらの世界は向こうの常識と違うよなぁ。当たり前か)


 こちらの世界はファンタジーだ。それを使って地下水源の位置を探るのだろう。


「この様にして魔力を持つ者、この村では私ですな。こうして地面へと手の平を地面に付き水の魔力を大地からどれだけ引き出せるかを調べるのです。」


「うん・・・?」


「一番多く引き出せる場所が候補となりますな。」


 村長は手の平をこちらに向け見せて来る。そこにはびっしりと水滴が付いていた。


(・・・どういう技術なんだ?どんな原理と理論が働いてどういった感覚でそれを行っているんだろうか?)


 この世界の常識を知らない俺はちょっとだけ呆気に取られた。

 しかも多分地方、地域によってそう言った魔法の使い方、感覚、大系とかが違ったりするのでは?

 王国や帝国は同じ大陸に存在した。けれどもこちらは別大陸。その魔法に対する考え方や大系も違っていたりするのではないだろうか?


(そこを今俺がツッコミ入れる必要も無ければ知る必要も無いな。よし、スルーしよう)


 今大事なのはそんな魔法の事を考える事では無く、井戸の候補地は三つと言う所である。


 俺は魔力ソナーでその三か所の地下を調べた。その後で三つの内の第一候補は何処かと村長に聞く。村から一番近い、遠い、その中間で三つある。その返事は真ん中が良いと言う。


「分かった。それじゃあそれに必要な道具や材料などは?」


「いえいえ!先日に持ってきてくださった道具類で事は足りますれば。これ以上は恐縮で。」


 村長に断られてしまった。別に遠慮などせずとも良いと思うのだが。俺はどうやら国の使者だと勘違いされているし、それならそれで必要な物があれば訴えて準備して貰うのは当たり前では無いのだろうか?


(まあこっそりと色々と作った物を夜中に置いておけば良いか)


 土を掘ったならソレを他所に持って行くための手押し車などを用意しておいた方が良いだろう。スコップも大きい物から小さ目な物まで揃えておいた方が作業が捗るだろうか?

 ハンマーや楔、後はロープも長い物を用意しておけば大丈夫だろうか?深く掘った土を地上に上げる為に入れる籠も準備するのを忘れてはならない。

 無事に水が出たら井戸の内部が土の剥き出しな壁なままにはしておけないので補強用の木材なども大量に必要になるはずだ。

 井戸の穴を囲う為のレンガも要り様になるし、雨が入り込まない様に屋根も必要になる。滑車をそれに取り付けるなども。

 その井戸に繋がる水洗い場などを作ったりするならば床を平らにするのにモルタル?コンクリ?もあった方が良い。

 休憩所なども建築するのならば炊事場や収穫物の保存小屋なども考えた方が良いだろうか?


 俺はそれらの材料を一通り思い浮かべて後で置きに来るつもりである。

 過剰と言われても足りないと言われるよりかは幾分かマシだろう。余ったそれは何か他に使える所があればそこに回せば良いのだから。


 さて俺の魔力ソナーで調べた所、ここの地面、地下、土がかなり硬いし重い。

 ついでに水源の地下水が流れる手前にはどうにも岩盤が存在しているのが発覚。

 ソレを俺は村長に伝えずにおく。それは。


(既にその硬度を俺が下げたしな。ピッケルもついでに置いて行けばソレで充分に壊せる程度には柔らかくした)


 今日の午後から人集めを行い取り掛かり始め、そこから交代制で井戸掘りをしていくと言う事らしい。

 そう聞いて随分と動き出し始めが遅いと思ったが、それは俺の偏見だった。

 井戸よりも畑の方に優先度を傾けているのだこの村の住民は。

 確かに井戸があればあったで便利なのだろう。だけどもあくまでも井戸は畑の後、と言った様子であった。

 畑の開拓が優先なのだろう。住民たちが希望を見出したのは畑づくりの方であるのだ。掘っても出るかも分からない重労働の井戸である。優先順位は畑の方が高くなるのは確かだ。

 井戸が必要になると言うのも間違いでは無いのだろうが、畑の方が手応えを感じているんだろう。

 この村の住民はヤル気に満ちている。俺がそこで余りにも魔法を使ってホイホイと簡単に問題を解決してしまうとそのヤル気を折ってしまいかねないかもしれない。


 ここで俺はまた後日様子を見に来ると村長に伝えてその場を去る事にした。

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