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思うとおりにいかないの、ナンデ?

 まあ、アレだ。やり過ぎたと言うやつだ。俺は知っていたはずだったのだ。こうなる事を。


「収穫が追い付かない状況を俺はこの目で見ていたはずだ。ちゃんと農作業も協力してソレがどれだけ重労働だったかを体験していたはずだ。なのに、これかぁ・・・」


 翌日の朝に畑の様子を見に行けば気持ち悪いくらいに蔦と葉で地面が覆われていた。もちろんこれは植えた種芋から生じた物であろう。

 植えた種芋の数はそこまで多い訳じゃ無かったはずなのに、今俺の目の前は地平線の彼方近くまで緑一面である。

 作付け面積は抑えてあったはずなのに、どうしてかそれを超えて芋は広がった様だ。意味が分らない。


「ちゃんと障壁を作ってここまで、って決めて植えたんだよな俺は?何で?え?何で?」


 何でもクソも無く、目の前に広がる現実は俺の疑問には答えちゃくれない。


「え?コレ全部俺が回収しないとダメじゃんね?ドウシテコウナッタ?」


 思わず遠い目をしてしまった。ちょっと実験してみるか、くらいの気持ちでやってみたらしょっぱなからこれである。この魔改造村の住民たちの苦労が今ここで俺はようやく理解できた。


「うん、とは言えだ。動かねば始まらない。さて、芋の収穫?子供の頃にやった芋堀体験とかくらいしか無いぞ?」


 ジャガイモだったか、サツマイモだったか?その両方か?

 幼稚園やら小学校低学年か。そう言った野外体験学習などで芋堀をすると言うのは経験した者も多いのではないだろうか?

 そんな俺もソレに参加して芋堀をした記憶があるのだが。


「これ全部手作業とかありえないじゃん?・・・農業機械が欲しいなぁ・・・アレ?」


 俺の頭に昔のTV番組の記憶がぼんやりと蘇って来た。しかしここでハッとなる。

 魔法と言う名の全力全開のご都合主義な力を俺は持っているのである。これを使えばこんな広大な面積の芋回収など一瞬で終わるでは無いか、と。


「あー、芋の問題はまあそれで解決で良いとして。・・・こっちをどうするかだなぁ・・・」


 問題は芋だけでは無かった。メルフェだ。埋めた実の場所は覚えている。だって昨日に作業したばかりだ。忘れる訳が無い。

 だけどもそこには巨木が生えているでは無いか。大人が両腕を左右に目一杯広げて大体四人必要、と言った幹の太さ、円周である。流石に「それは無い」と口に出して言いたかったが。


「芋がこれだからなぁ。メルフェの方も急成長って事なのか?あれか?ト◯ロか?」


 しかし木には実は生っておらず、どうにも収穫はまだ無理であるようで。


「まあそう都合良くはいかないよな。これが普通だ。いや、普通じゃねーわ。ダメだ。普通がドンドンと俺を置いて遠くに行っちゃう、行かないでー。」


 豊臣秀吉の一夜城でもあるまいに、実から一晩でこれ程の大木に成長する訳が無いのだ。普通では無いのだ。

 一人ボケツッコミも虚しい。そしてそんな事をしている暇など無い。


「これ、放っておくと何処までも芋が侵食してかねーか?とっとと回収しないとヤバい?」


 俺がそう思った瞬間に足元の蔦がもぞもぞと動いた。そして。


「ぎょ!?早回しした映像を見てるみたいだ!気持ち悪っ!?」


 にゅるにゅると蔦の一部から葉がドンドンと成長して生えてくる光景をこの目で直に見てしまった。


「うお!?そこら中で同じ事が起きてるじゃん!?やっべ!やっべ!やっべ!」


 俺は慌てて魔法を使う。一気に地面の中にそれを浸透させて芋を地中から地上へ飛び出る様に一斉に土を操作した。


「自分でやった事とは言え、物凄い気持ち悪い光景・・・」


 土がモコモコと波打ったかと思うと1m程の高さまで地面から飛び上がる物体。それは成長し大きくなった芋が一斉に飛び出してくる光景である。自分でやった事であるが、これに俺、ドン引きである。


「コレを全部インベントリに回収してコロシネンの所に持って行けば良いんだけど、良いんだけど・・・なんだかなぁ・・・納得いかねぇ。」


 此処までの量を一度で収穫するつもりは無かった。と言うか、そもそも最初はしっかりと地中の中にまで障壁を張って特定の面積外にまで氾濫しない様にと対処はしてあったはずなのだ。

 それなのにそれが何の役にも何故か立たずに今この収穫量である。訳が分からない。


「見た目はサツマイモなんだよなぁ。煮てよし?焼いてよし?蒸してよし?まあ、調理の仕方は向こうに任せりゃ良いか。俺はもう知らん。」


 この芋、一つの大きさがラグビーボール程もある。俺が村長から譲ってもらった種芋はグーにした両手を連結させたくらいの大きさだったはずなのに。育ち過ぎである。


「少しづつ他の作物を色々と作っていく予定だったんだけどなぁ。」


 バリエーションが無くてはノトリー連国の国家事業に参加する労働者も食事に飽きるだろう。毎日芋、いもイモ、のオンパレードであれば仕事へのモチベーションが下がる一方になってしまいそうだ。

 ソレを危惧して少しづつ芋だけじゃ無くて他にも野菜を、と思っていたのだが、もうこうなったらどうしようもない。


「まあ小出しにしていけば良いだけだろうしな。一度で収穫物全部渡さないでも調整して引き渡せば良いだけか。よし、じゃあ次は何を植えるかね?と言うか、その前に蔦と葉を一つ残らず処理しないとダメじゃね?」


 芋は土中から回収したのだが、地上に最初から出ている蔦と葉も何とか片づけねばならない。


「え?どうしろっての?・・・これもやっぱ魔法でやらなきゃ手が付けられないよなぁ。あからさまに人力じゃ無理案件。」


 この畑の責任者は俺一人である。そして仕事するのも俺だけである。

 魔法が使え無かったらこの異常な光景の事後処理など無理、不可能案件である。


「っておい!?芋はもう回収したはずなのに何で蔦が今も伸び続けてんだよ!?」


 太陽の光がサンサンと降り注いでいる。それを目一杯に葉が吸収してどうやら光合成でもしているのか、蔦の成長速度が上がり始めている。


「うおおおおお!?全部インベントリに!インベントリに!」


 俺は蔦に魔力を流して操ってインベントリの中にそのまま流し込む。

 それは麺を途中で切らずに啜り続けるかの如しな光景だった。波打つ蔦は空中のインベントリ、その穴にずっと、ずーっと吸い込まれ続ける。


 それらが全て片付くまでにざっと軽く30分を超えていた。そして俺は作業終了後にまたしても再び「ドウシテコウナッタ?」とぼやくのだった。

 インベントリにはどれだけの長さの蔦が入っただろうか?あれを利用して何かロープか何か、或いは編んで籠などが作れないかどうかを思案した。

 けれども俺はソレを後回しにする。今はこの収穫した芋の処理である。


「そのまま持って行けば良いんだろうけど。調理器具・・・鍋か、フライパンか。ああ、切る為に包丁とかも無いとダメか?煮てスープにするにも味付けが欲しいだろうし、塩は最低限必須で、えーと?後は何が必要だ?」


 炊き出しをするにしても必要な物、それを俺は一つ一つ考える。そしてそのイメージは豚汁に。


「いや、味噌ってあったか?豚肉どうすんだ?いや、そうか、ビッグブスを出せば良いか。と言うか、狩りに行って肉の方も色々と揃えておいた方が?・・・あれ?何で俺は一々そんな所にまで気を利かせなきゃならんのだ?でもなぁ?」


 コレは俺が何処まで世話を、首を突っ込むかの話になる。

 丸投げにするにしても余りにも無責任に放置はどうかと思ってしまう。


「いや、全力で一度放置しちゃって今こうなってるんだから、コレは今回ある程度までは俺が面倒見なきゃダメだろうなぁ。」


 放置して様子を一度も見ずにいたから今のこの現状である。何処までも俺はアフターフォローが下手糞だ。


「・・・俺がそもそも食材を一人で集めないでも良い訳で。誰かにこの辺は頼んでも良いはず・・・お?ならちょっとマルマルに戻るかぁ。」


 その前に芋をコロシネンに引き渡してからで良いだろう。俺はワープゲートを出して一度ノトリー連国に向かう。

 ワープゲートを繋げた場所はコロシネンの屋敷の庭だ。魔力ソナーで何処にコロシネンが居るかを探る。


「お?屋敷の執務室か。息子も一緒に書類仕事してるみたいだな。うーん?邪魔しちゃ悪いか?ここに芋を積んでおけば分かるか?・・・いや、放置は駄目だと今さっき思い直したばかりなんだ。何処に出せば良いかはちゃんと聞かんとなぁ。」


 そもそも内戦とも呼べない戦争が昨日終わったばかりである。終戦処理とこれからの国の方針を出して布告して、労働者を集めて働かせて食べさせて管理して、と。


「頭痛くなりそうだし、時間が掛かるやつだよなコレ。主だった貴族たちは俺がヤっちゃったし・・・」


 そうした貴族の当主がいきなり一気に死亡している状況である。引継ぎなどの手続きやら通知やら地固めやら何やらの諸々が落ち着かなければ開拓開墾の国家事業は始められないだろう。

 余りにも指揮をする立場の者たちが一斉に、一度で死に過ぎた。


「だけどあれはしょうがない事だったよなぁ・・・って言っちゃうのは俺が全くこの国の将来の事なんて考えて無いからだよなぁ。力を振るうだけ振るって後は無責任に周りの人たちに丸投げって、只の暴君だ。そりゃ魔王って言われるわ。」


 いや、魔王と言えども「王」が付くのだから統治は最低限しなけりゃならないだろう。暴れまわって、ただそれだけでは王などと呼ぶには烏滸がましい。

 突然現れて暴れて、そして気まぐれにいずこかへと去っていく、などと言うそんな物は台風や地震などの自然災害と同じだ。

 ソレを人が成しているのであるならば、それは只の迷惑千万な行為なだけである。しかも誰も止められないのは最大級に質の悪い行いだ。


「反省するべきなんだろうけど、今回の事って、全部が全部、俺が悪いのか?それは・・・違うんじゃなかろうか?」


 だけども結果こうなっているのは大半が俺のせいである。自己弁護しようと言葉を続けようとしてもそれ以上に口が開かなかった。


「止めよう。コロシネンに今の状況を聞いておくかぁ。」


 俺は屋敷の中へと入る。誰にも止められる事も無く。警備の兵も俺の事を視界に入れているのだが、どうやら怖がられている様子であった。

 止めようなどとは微塵も思わなかったのだろう。俺を見て「ビシッ」と固まって微動にもしていなかった。


「俺の事を知ってるんだな。ああ、そうだな。俺がアレをやったと知ってる奴らからしたら俺は恐怖の対象、絶対不可侵の大魔王ってか?」


 俺はこれに「面倒が無ければソレで良いか」と気にしない事にした。


「おーい、コロシネン。今状況はどうだ?」


 俺はコロシネンの居た部屋に入るなりそう質問した。これに仕事を一時中断して床に膝をついてコロシネンが許しを請う様に、祈る様に答える。


「・・・エンドウ様に命じられた改革を行うには国が落ち着くまでは手が付けられないと言った現状です。申し訳ありません。」


「あー、まあ、良いよ。慌てなくて。しっかり事が上手く行く様に下準備を念入りにやっておいてくれ。で、早速だけど、芋が、ね?大量でさっさと開放したいんだけどさ。どうすりゃ良い?」


「うん?芋、で御座いますか?・・・では、屋敷の庭に出しておいていただければこちらで住民に配給を致しますので。」


「ここだけじゃ無くて他の町や村も飢えてるトコあるよな?そっちにも勝手にばら撒いておいても良いか?」


「エンドウ様の御心のままに。」


 一応はコロシネンの許可を貰っておく。後で「聞いて無いよ~」と言われ無い様にしておくためだ。


「じゃあ俺はちょくちょく顔出しに来るから、始められる様になったら言ってくれ。それじゃ。」


 俺は部屋を出ようとした。しかし呼び止められた。誰に?それはコロシネンの息子だった。名前は、まだ知らん。


「お待ちを!貴方はこの国をどうしようと考えているのか!お聞かせ願いたい!」


 この息子の行動、質問にコロシネンが止めようと動くのだが。俺はソレを制した。


「良いよコロシネン。別にこんな事で機嫌なんて悪くならないって。あー、それじゃあその質問に答えようか。うん、ぶっちゃけ、何も考えてねーな。」


 俺のこの返しに「は?」と理解不能と言った感じの顔を向けられた。


「すまん、俺は政治ってモノを良く知らん。だからコロシネンに丸投げした。だけど方針だけは指示してるけどな。あ、別に協力しない訳じゃ無いぞ?ちゃんと欲しい物があれば言ってくれりゃ取ってくるし。必要な事があればそれを俺が熟すぞ?」


「私はその様な事を聞いている訳では無い!」


 コロシネンの息子はどう考えて、何を俺に伝えたいのかイマイチ分からない。


「うーん?何て言えば良いんだ?どう考えてもこの国の以前の政治ってのは金と権力で腐った奴らがのさばっていただろ?だからそれを俺は見てられなかったんだよ。だから、まあ、勢いでこうなったんだ。俺にはそれができる力があったからな。だからって俺は正義を為したとは思っていないぞ?寧ろ暴力ってもので無理やり片づけたって自覚がある。一つの国を潰すのにそんな理不尽な事は無いと思ってるぞちゃんと。」


「だから!私はその様な事を聞きたいのでは無く!」


「えー?じゃあ何?まあ、良いや。国ってさ?人がいなけりゃそう呼べない訳だ。国民が一人も居ない土地を国だとか宣うのは滑稽だろ?で、その基礎になってる国民を豊かに暮らさせるのが国家元首の役目なハズでな?それが成せない輩がただ権力があるからって国民から搾取や略奪をしている様な政治ってのは話が違う訳だ。だからそれを俺がぶっ壊した。次世代に政治が交代するまで待っていたらその間もずっと国民に苦しみを与え続けるって事だからな。そんな時間は無駄な訳で。」


「貴方の考え方は分りました。ええ、解りました。理解しましたよ!だから、今後のこの国をどの様にしていくか!そのお考えを知りたいと言っているのであって!」


「いや、だから、何も考えて無いって。しいて言うなれば国民全員がちゃんと毎日食うに困らないってのを目指すって感じ?」


「・・・本当に、何も考えて、いない?」


「いや、だから言ったじゃん最初にそう。あ、何?お隣のあれ?神選民教国の動向が気に掛かるって事を言いたいの?それに国としてどの様な対処をするのかを聞きたかった訳?」


 コロシネンの息子は呆気に取られた顔の次は物凄く眉根を顰めた顔になる。


「そこは安心していいぞ?何せ向こうにはちゃんと話をしてあるし?」


 続けて言った俺の言葉がどうやら理解不能であるらしい。コロシネンの息子は「はぁ!?」と感情を乗せてまるで訳の分からないモノでも見る様な目で俺を睨んでくる。


「戦争は起きない。だから、コロシネンは焦らずに仕事をしてくれ。別に俺は急いでやれとは言わないからさ。国を纏めるのに時間が掛かっても、その間にも俺が食糧配給はしておくさ。その代わりにちゃんとあの私利私欲に塗れた貴族たちみたいなのが再び湧かない様な法律を作って施行してくれ。それじゃあ庭に芋出しておく。」


 俺はこうして部屋を出る。その際にコロシネンへと「アレは一体なんなのですか!」とか「どうなっているんですか!?」とか息子が詰め寄る声が聞こえて来ていたが気にしない。


 そうして庭に出た俺は早速芋を放流する。インベントリを中空にセッティング、そこからまるでバケツをひっくり返した様に芋が一気にドバドバと山盛りになっていく。それが止まらない。止めない。

 回収した芋の量がそもそも異常な量であるのでこの庭を満遍無く山盛りで埋め尽くしても芋はまだインベントリ内に残る。


「まあ残りは周辺の町や村にでもババッと置いてくれば良いか。」


 俺はそんな風に気楽に考えてワープゲートで以前に行った事のある町村を回った。

 そうして昼を過ぎたくらいで全てを配り終えた。ついでに魔法で土から農作業具を作り出し各町村にばら撒いておいた。強度はしっかりとある物を作っておいたので直ぐに壊れたりはしないと思う。


そうして家へと帰館してみれば。


「・・・で?俺は、今日の朝に、回収は、済ませて、あったよな?」


 取り残しはあったかもしれない。いわゆる屑芋、などと言われる生育が悪いやら、病気に掛かって変色している様な、そんな芋だ。


「それらが生き残って、今こんな状況になってるのか?おい、コレは流石に・・・」


 また一面緑に変わっている専用畑。俺はぞっとした。まさか土中の魔力の含有量が落ち着くまでは朝昼晩とこれが続くのか?と。


「そんな事よりも今度はしっかりとそういうのも回収して処分・・・で、木の方もやっぱこれかぁ・・・」


 俺は出かける前にメルフェの木の周囲を魔力の壁で囲っていた。土の中までちゃんと。木がこれ以上に急成長をして巨大に成らない様にと。


「何でデカく成ってんのお前?マジで仕事して魔法さん。あんたご都合主義の塊だったはずでしょうが・・・」


 俺の認識が間違っていたのだろうか?魔力の壁はしっかりと残っているのに木はソレを突き抜けて成長していた。


「あれか?物理的な壁にしておかないとダメなのか?土を固めた壁で、それから魔力をしっかりと抜いたものにしないとダメな感じ?・・・あ、でも何だかそれでもソレを超えてぶち壊して成長してるのが想像ついちゃうなぁ・・・」


 魔力が植物に対して生命力の強化をしているのか。どういった作用をしてこれ程の現象になっているのか?

 俺は研究者じゃないのでそれ以上に追究しようとは思わないのだが。


「うん、深く考えないで今はまた収穫作業をだな・・・あれ?もしかして魔法で回収したらソレで土中の魔力含有量って減らないままじゃ・・・」


 前にドラゴンがその様な事を言っていた様な気がする。


「人力でコレを全てやれと?・・・いや、魔力を地面に浸透させる事が出来たのならソレを逆にすれば魔力を吸い上げて吸収して無くす事もできるんじゃないのか?・・・芋を回収したらやってみるか。」


 ドラゴンが自然に消えるまでは無理とか何とか言っていたと思うのだが、俺はやってみる事にした。

 早速俺は芋を回収。その蔦と葉もインベントリにバンバカ回収した。その後は実験を行ってみる。


「・・・難し!?でも、やってやれない事は無いな。今回は一番端っこの分を吸収してこの面積をなるべく小さくしていくか。」


 放出するのは簡単だったが、それを回収するのはかなりの難度だった。

 一度土中に馴染ませた魔力に、俺の魔力をまた浸透させて混合してから吸い上げると言った感じで魔力の操作をするのだが。

 これが物凄く重たい。まるでかなりの太さの重量がある綱を引いている感覚だ。


「前にドラゴンが俺の中の魔力が世界に流れ出ていてナンチャラカンチャラとか説明していたな?それが原因で大気中の魔力量が増えたとか観測されて魔王呼ばわりされるきっかけになったんだけど。元は俺の魔力って話のはずなのに吸い上げようとするとこんなに違うのか?」


 魔力が漏れ出て世界に蔓延しているのは俺は無意識である。しかしそれを「じゃあ吸い取ります」と言った事になるとこんなにも重労働になるのはどんな理論やら原理が働いているのか俺には全くサッパリである。


 取り合えずそんな重労働であっても俺は当初の予定していた畑の面積になるまで魔力の回収を行った。

 メルフェの木の方もこれ以上の大木になるのは勘弁だと言った感じだったのでその周囲の土の方の魔力も吸い取っておく。


「だって1.5倍になってるんだぞ?このまま行ったらこの木は何の木?ってなっちゃうだろ。実が生って無いのは魔力で急成長させた弊害なのかね?」


 植物学者じゃ無いのでそこら辺も難しく考えない。考えたくない。俺は別にこの世界の謎を解き明かそうと思ってる訳じゃ無いから。


 取り合えずこの場所は魔改造村からかなり離れた場所に作ったので迷惑は掛から無い、と思う。

 そんな事を考えて俺はちょっと遅めの昼の食事を摂って昼寝をする事に決めた。各所を回って精神的に疲れていたのだ。

 コロシネンに全部丸投げしたからと言って、首都から離れた町村に直ぐに国の方針が浸透する訳でも無い。

 それらがしっかりと施行されるまでの間は俺がそう言った地方のフォローをするべきだ。俺が今回の事の大本なのだ。そこら辺の責任は取らねば座りが悪い。


「あれ?今回も俺、飛び回って、気遣いして、疲れて、これまでとやってる事が変わらない?」


 気付いたその事を俺は無理やり忘れるかの様に目を瞑って何も考えない様にした。


 そんな日が三日も続く。芋回収、各町村にばら撒き、ついでに塩もオマケで付けてやったりもした。

 コレを俺は一人でやっている。魔改造村の住人の力を借りていない。


 以前にやった商売まがいの行いで金を得て、そこから様々な物を町から買って村に仕入れている。今足りなくなった、消費してしまって無い、と言った物は一応は無い。

 なので今回の事は俺一人で熟している。今やっている事は俺の独断と偏見と身勝手でやっている事だ。魔改造村の住民たちに手伝って貰う事の程でも無い。


「まあしかし、町の権力者が芋と塩をならず者を雇って独り占めしようとしたのは頂けなかったから思わず潰しちゃったけどさー。」


 俺は適当に町や村の中心となる広場に色々な物資をドカッと山盛りにして「ご自由にお持ち帰りください」状態にしていた。

 まあこんな雑な方法を取っていればコレに欲深な人間が反応しない訳が無く。

 これに二日目には既に武装した奴らがコレを残らず回収して独占しようと動いてきていたのだ。

 俺としては町の住人全てに行き渡るくらいの量を置いて行っていると思っていたが、そう言った奴らが現れたら貧しい者たちにまで食糧が行き渡らなくなる。

 なので、潰した。そう言った奴らは俺が処分した。処分と言っても殺した訳じゃ無い。気絶して貰っている。

 一か所だけに置いて行くからそうなるのだと直ぐに気づいてその後は町全体の各通り、あらゆる場所に芋と塩をジャンジャンと設置していった。

 一番面倒だったのは塩だ。海に行って塩を回収、一々ソレを入れる壺も魔法で作り上げてそれに詰める。途中で「俺は何やってんだろ・・・」と精神的にやられてしまいそうになりもした。


「町も村も食糧に費やす金が浮けば食と住に回しやすくなるだろ。そうしたら多少は経済も回し易いってもんだ。それに労力が直近の食糧確保なんてものに煩わされなくて済めば周辺の土地への開拓事業も各町村で独自に始める所も出て来るかもしれないし?」


 まあ日本人の自分の感性だと「貯金」何て事もちらっと脳内に浮かんだが、この世界ではどうかは知らない。

 俺ができる事はコロシネンのフォローだ。いや、今やっている事が本当に助けになっているかどうかの所を俺は全く分っていない。こんな方法で大丈夫か?と言った感じである。結構テキトーだ。雑である。食うに困らなければ大丈夫だろうと言った楽観的な考えでやっている。

 もしかしたら今のこの俺の行動に各町村の住民が依存をして働かなくなったら、それこそこの国の破滅を俺が一歩前へ進めている様なものだ。堕落はいけない、堕落は。


「しかしなぁ・・・採れ過ぎてちょっと・・・」


 芋だけじゃ無く今は畑に他の野菜や果実を植えている。本当に採れ過ぎて俺はこれに若干白目気味だ。

 作付け面積をしっかりと今度は小さくしておいてあるのに、何故か収穫量が芋よりも増えている様に感じる。


「そりゃ一日で二回も三回も収穫できる様に成長するとか、異常過ぎるだろ・・・」


 目の前で実がいきなり膨らんだかと思ったら異常な程の大きさに「ぼん!」とデカくなるのだ。本当にソレを目にした時には「げっ!?」と口から漏れ出していた思わず。

 それらの収穫を魔法で一気に熟してインベントリに突っ込む、と言った作業を一日で何度も繰り返すのだ。魔力も体力もそこまで消費はしないが、精神がガリガリと削れていく感覚を俺は覚えていた。


「日の最後に地中の魔力を完全に抜き取ってから終わらせないと翌日になって俺の植えた覚えが無い野菜が生えてたり実が生ってたりするからビビるんだよ・・・」


 この一日の最後の仕事が俺には一番の重労働であったりする。多少は作業に慣れて来たし、感覚の程も充分に習熟したので時間的にはそこまで長くかからなくなり、苦労は無くなってきてはいるのだが。


「重いんだよなぁ、ホント。だけどほっとけないしなぁ。と言うか、何だよ、毎日農作業しなくても良いじゃないか。採れる量が量だけに二日か、三日に一度で良いじゃないか・・・今気づいた・・・」


 三日目の終わりにそんな事に気付いても、もう遅い。これまでの二日間は一体何だったのかと。


「うん、独占しようと動いた奴らが出るってのが分かっただけ良しとするか。」


 無理やり俺はその点に納得を見出して夕食を取ってその後は直ぐに寝るのだった。

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