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戦争はまだ終わらせていた訳じゃ無かったね

「と言う訳で、女王陛下、お隣さんをやっちまいましょう!」


「・・・あの、エンドウ殿?本気で言っていますか?」


「いやー、それくらいやらないと向こうはまたクソな事をこちらにしてくると思うよ?ならいっその事、今でしょ!」


「ふざけている訳では無いのですか?ノトリー連国を属国に?意味を解って言っていますか?」


「えー?だっていつまでもぐじぐじと不安の種がずっと残り続けるのって嫌でしょ?俺が一度力を見せて脅したのに説明したとおりだよ?なあ?コロシネン?」


「ええ、私もあの国は一度全て白くなるべきだと思います。」


「何ですか・・・白くなるべきって・・・」


 コロシネンが妙な表現を使った事にメリアリネス女王陛下はちょっと引いている。俺もちょっと引いている。なんだよ、白くなるべきって。こえーよ。


 さてここは今、神選民教国、その女王の執務室である。勢いでやって来た。

 これにメリアリネスは俺たちを見て一瞬だけ息を止めた後に長い溜息を吐き出している。


 溜息を吐き出しきったタイミングで俺がやって来た事情をカクカクシカジカして説明し、今のこの会話である。


「我が国は確かに長年ノトリー連国には悩まされてきました。きましたが!だからと言って思い付きで攻め入って属国にしようなどと言った過激な案は一度だって出て来た事はありませんよ?戦争には準備が要ります。その期間も必要です。一朝一夕でできる事では無いのですけど?それに宣戦布告やその理由だって・・・」


「うん?宣戦布告はしないでも良くないか?だって軍は互いに衝突せずに終わったけど、まだ戦争は継続中だろ?終戦協定結んで無いよな?向こうが一方的に攻めて来たから逆襲するって状況だろこっちは?」


「・・・それもそうでしたね。いや、そう言う意味では無いのですが?そう言った場合では無いのですが?」


「過激思想で手柄を得たいとか考えてるアホを焚きつけて即行で準備させたりは?」


「・・・そう言った者たちは攻め入った敵の領地で凌辱、略奪、虐殺を行いかねません。許可は無理ですね。」


「じゃあ穏健派に超特急で準備させて。俺がさっさと各所に送り届けるから。それで一気に占領統治して時短してくれよ。それならいけるだろ?」


「先ほどから無茶を言いっぱなしですね?エンドウ殿、何かイラついていませんか?」


「あー、そうなんだよ。ちょっと向こうさんの最高幹部?馬鹿とクソばっかりみたいでさー?ちょっと救い様が無いっぽいのよ。んでもって権力取り返した後にやってる事が俺に喧嘩売ってるって言ってる様なものでさ。今頃になって来てムカついてきちゃった。」


「それを此処で吐き出さないで欲しいのですけれど?私たちを利用してご自身の感情の発露に利用しようとしないで頂きたいのですけど?」


「えー?でも、ノトリー連国、潰しちゃいたいでしょ?」


「本音を言えば、そうですね。否定はしません。」


「じゃあサクッとやっちまおうよ?」


「管理が非常に困難になるので無理です。その準備も全く無いのに今直ぐとか、土台無理な話ですよ。」


「頭硬いよ。今が機だよ?後の事は後で考えればいい場面じゃないかここは?正直に潰したいって表明したんだからその本心のままに命令を出せば良いんだよ。自分の次の「王」に面倒な種は残しておきたくないでしょ?それが花開いたりさせたくはないでしょ?」


「狂気の囁きですかそれは?聞いていて私の胸が非常に苦しくなってきているんですが?」


 俺との会話を此処で一旦止めるメリアリネス女王陛下は冷めたお茶をグッと飲み干す。その後に俺に向けて一言。


「我が国がノトリー連国へは攻め入らない場合、エンドウ殿はどうするつもりですか?」


「えー?せっかくノトリー連国の内情を良く知ってるコロシネンを連れて来たのになぁ。でも、確かに戦争何てそんな好き好んでやらないでも良いモノだもんな、なるべくなら。無駄に人を死なせる様な事は避けたいよなぁ。今の俺は無責任な事をちょっと言い過ぎたな。すまん。」


 女王陛下は俺が質問の答えを返さなかった事にもう一度訊ねてくる。静かに重い声で。


「・・・どうする、おつもりですか?」


「んー?取り合えずもう一度俺が向こうで暴れて、そんでもってまだ言う事聞かない、聞く耳持たなかったら・・・やっちゃうね。」


 ここで俺の返答にまた会話が止まる。この執務室には因みに俺と、コロシネンと、女王陛下と、アーシスと、その他には秘書か、或いは役員だろう男が四名控えていた。

 俺とメリアリネスの会話に一切割り込んでこなかった辺り、ちゃんと俺の事を「分かっている」のだろう。

 きっとあの決闘事件で起こった事をしっかりと認識できているのだ。下手に口を出そうとして殺されては堪らない、そんな風に思っていそうである。


「統治はどうなさるおつもりですか?エンドウ殿が国主に?」


「え?いや、そんなクソ面倒な事、俺はする気無いよ?」


「・・・崩壊するがままに任せると?」


「は?何でそうなるの?コロシネンにまた任せるつもりだけど?要らないんでしょ?コロシネン。だったら連れて帰るし。今度は温い事せずに徹底的に潰す。邪魔する奴が出てくれば俺が即片づけるから今度は大丈夫だろ。」


 俺が喋っている途中、徹底的に潰す、の部分で壁際に控えて静かにしていた四名の男たちが「ひッ」と短く悲鳴を上げていた。

 俺は別に彼らに向かって言った訳では無いのだが、どうにも過剰に恐れられている様子は何だか納得いかない。


 ここで女王陛下、何を思ったのかこう言ってきた。


「支援は必要ですか?」


「うん?要らないね。もし助けて貰いたくなったらまたこうしてお邪魔しに来るよ。それじゃあ戻るわ。」


 俺が断った事で若干女王陛下は眉根を顰めた。しかし俺はソレを気にせずにワープゲートを出して再びノトリー連国へ。もちろんコロシネンもこれに連れて行く。


「よし、それじゃあコロシネン、行こうか。」


「はい、どの様な事であろうともこのコロシネン、エンドウ様のご命令とあらば例え火の中でも、水の中にでさえ、御供致します。」


「・・・気合入ってるね、うん、まあ、良いけども。」


 向かうのは先ず最高幹部のあの剥げ爺の所だ。あいつが確か一番偉い立場だったはずだ。

 こうしてあっという間にその爺の屋敷へと移動した俺たちは早速警備の兵士に囲まれた。


「貴様ら何者だ!一体どこから現れやがった!」


 ここは広い広い、無駄に広い庭のど真ん中である。即座に俺たちは全方位から槍やら剣を向けられている。


「あー、お前らに質問だ。この国が抱えている根本的な問題、食糧不足の件について、何か思う所は無いか?」


「あぁ?何を言ってやがる?食えずに餓死する奴らは勝手に死ねよ。俺たちは何も困らねえよ。今日も今日とてこんな暇な警備の仕事にたんまりと金を貰ってるからな。しかもどうにも今日はそんな暇な時間を潰してくれそうな面白そうな獲物が自ら飛び込んで来たじゃねーか。楽しめそうだぜ。長く遊べる様にちまちま削ってせいぜい長持ちさせねぇとな?」


 最初に俺たちに対して何者だと怒鳴って来た男とは違う奴が俺の質問に答えて来た。

 その答えにこの場に居るすべての奴らがニヤニヤとした顔を浮かべている。


「おいおい、マジかよ。品性のかけらも感じない様な輩を屋敷の警備に付けてるのか?正規の兵士とかじゃ無く?私兵?まともじゃ無いな?」


 こんなの只の頭のおかしい犯罪者集団にしか見えない。


「お前たちは駄目だ。生かしておいても良い事無さそうだ。」


 俺はそのまま堂々と歩いて屋敷の中へと入る。もちろん警備の奴らは魔力固めで動けなくさせている。

 屋敷の中へと入ればそのまま魔力ソナーで剥げ爺の居場所を特定、そちらへ向かう。

 その部屋の中へと扉を蹴り開いて入ってみれば昼間から酒を飲んでソファーにふんぞり返っている剥げ爺が居た。


「な!?なんだ貴様らは!・・・はっ!?お、お前は!」


「黙れこのクソ野郎。お前何て害悪でしか無いじゃないか。国の天辺で偉そうにするだけで自分の事しか考えてねぇ。政治も、経済も、国全体の幸福の事もなんも分かってねぇ。一度も国会議員に何てなった事の無い俺でもなあ、今のてめえのその姿を見ただけでどれ程のクソかは分るぞコラ!」


 政治家に何てなった事は一度足りとて無い。だから、世の中の事を語る何て事に対して偉そうな事を言える訳じゃ無いだろう。

 だけども、俺はこのノトリー連国全体をざっくりとこの目で実際に見て来た。そしてこの国に今何が一番大事なのか、何が必要かをこいつよりも良く理解できている。

 しかしこのクソ爺ときたら以前の国会議事堂みたいな建物を再建させようとしてやがるのだ。

 この国の舵取りをしている立場である癖に国全体の事なんて何も解っちゃいない。何も見てない。

 いや、寧ろこいつは自分の目の前の、自分の見たい事、自分の欲望や権力を維持、増やす事にしか興味が無いんだろう。


「流石にその余裕ぶっこいた姿にイラっとさせられたわー。ホント、おま、苦しんで死ねよ、マジで。と言うか、もうそれで良いよな?」


「何を勝手な事を!であえであえ!この狼藉者を今直ぐ殺せ!誰か!誰かおらんのか!直ぐにこの場に駆けつけてこんか!私の命令が聞こえておらんのか!」


 叫んでも誰も来ない。それもそうだ。俺の事を知っている者、その力を知っている輩は既にこの屋敷から逃げているだろう。

 俺がこの屋敷にこのクソ爺を軟禁した際に居たメイドや執事には充分過ぎる程に俺の力を示してある。

 この屋敷に残っているのは庭で俺たちを囲って来た様な、俺の事など一切知ら無い中身がクソな奴らばかりである。


「おい、干乾びるって、どれほど苦しいか、経験させてやるよ。そんでもって、助けてやらん。」


 俺はここでコロシネンに待つ様に言って目の前の爺の首を掴んで一度気絶させる。


「俺はちょっとこいつを捨てて来る。何だってこんな奴らが国の一番上にのさばってたんだよ今まで。ホント、何処までも根っこまで腐ってたんだな。」


 そのまま気を失っている爺を抱えて部屋の窓から外に出る。そのまま空を飛んでいく。


「さて、久しぶりに全力でソナーを広げて・・・よし、こっちか。一気に行くか。」


 俺はとある土地を見つけるとそちらに向かって飛行する。トロトロ向かうのは時間の無駄だ。

 この爺をそこに捨てたらまたワープゲートで即座にノトリー連国へ戻るつもりなのだ。

 その後は他の残りの幹部、議員どもを同じ場所にポイポイとワープゲートで捨てるだけである。


「かなり遠いけどこのままいけば30分くらいか?まだもう少しかかるか。」


 そうして飛行し続けて到着したそこは見渡す限りの黄金。砂、砂、砂である。そう、砂漠だ。

 そのど真ん中辺り、全く砂の地形以外が見えないそんな場所に爺をドサリと無造作に捨てる。

 それでも目覚め無い爺に俺は気付けに魔法で水を作り出して顔にパシャリとぶつける。

 爺の顔を濡らした水はあっという間に乾燥した空気に吸い込まれて乾いていく。滴り落ちた水滴はまるで消えたかの様に砂の中へ浸透していく。


「・・・うう、うっ?ここは、何処じゃぁ・・・」


 ランランに輝く太陽の光ががそこら中で砂にキラキラ反射して眩しい。爺は目がまだそれに慣れていないので目を細めて周囲を観察しようとする。

 俺はそこでワープゲートで無言でノトリー連国へ戻る。この爺を気遣うつもりは俺には無い。一言も掛ける言葉など無い。


 そうしてコロシネンの待つ部屋に戻って来た俺は次に片づける奴らの始末をどう付けようか考える。

 外で固めたままにしてある五十名近い悪漢どもである。


「さっきの砂漠に捨てても良いし、海にドボンで海の魔物の餌でも良いし。さて、どうするかな?」


 こいつらはどうにも人を殺すのに躊躇いと言うのが無い者たちなんだろう。

 俺に向かって吐いたセリフはソレを察するに余りある中身だった。

 ならばそれ相応の「死に方」と言ったものを与えてやるのが良いだろうか?


「・・・おっと、何だろうか?魔王だ何だとつい先日に言われたりしてたから思考がそっち寄りになっちまってるのか?」


 どうやら考え方が危険な方に傾いている。確かに俺は今どちらかと言うと不機嫌な方ではあるが。

 それにしても少々、普段よりも過激な方に偏っている様に感じる。まあ、悪は滅びれば良いと言った基本は俺の中にあるので過剰とまでは言わないのだが。


「よし、あいつら連れて次に行こう。」


 俺は深く考えるのを止めて次に向かう事にした。しかも魔力固めで動けなくさせてある者たちを全員連れて。


 そしてそのまま残りの、数は四人だったか?その内の一人の屋敷に到着。


「じゃあ・・・突撃だぁ!」


 俺がそう号令を出す。まあこれは雰囲気作りだ。屋敷を守る為の門は既に俺がデカい音を立てて吹き飛ばしてある。

 これで驚いた警備の者たちが急ぎ駆け付けた時には武器を構えて敷地内へとなだれ込む悪漢どもである。まあそれは俺が操ってそうさせているのだが。


 そんな事になれば俺の操る奴らと、この屋敷の警備の者たちは衝突し合う訳で。


「てめえ何処のもんだゴラァ!」

「暇でしょうがなかったんだ!ブチ殺してやるから相手しろやぁ!」

「侵入者、排除する。さて、直ぐ死ぬなよ?良い悲鳴を上げて楽しませろ。」

「ひひゃひゃ!切り刻めるぞぉ!こんなに一杯!楽しいなぁ!」

「ふーん?こいつら別の所に雇われてた奴らだな?なんだ?裏切ったのか?なら遠慮しないで殺しても良いんだよなぁ?なら、楽しもうぜェ!死ぬのはお前らだけどなぁ!」

「殺した数だけ報酬が上がるんだよ。お前らは俺の金になりやがれ!」

「長ーく長ーく、なるべく長ーく、絶望を味合わせてやるからよぉ・・・大人しく俺に殺されてくれェェ・・・」


 乱戦、混戦、大合戦。一度突っ込ませて少々の時間を暴れさせればもう俺が魔力固めを解除しても止まらない、止められない。こいつらは勝手に殺し合う。

 そして予想通りにこちらの屋敷で雇われている輩もロクでも無い奴らばかり。


「うん、互いにクソ野郎同士、殺し合ってくれたまへよ。」


 俺が突撃させた奴らは殺されないために戦う。屋敷の警備の奴らがボーナス狙いで入って来た侵入者の命を狙うから。

 誤解を解こうと説得しようと声を上げる者は居ない。もちろん俺が施していた魔力固めは既に解除してあるが。


「クソが!てめえら!マジで殺しに来てんじゃねえぞ!」


「お前の事は以前から気に入らなかったんだよ!死ね!いっぺん死ね!いや、何度でも死にやがれ!寧ろ俺が百回でも千回でも殺してやる!」


 どうやら確執やら因縁を持つ者同士も居たりするようだ。そんなやり取りが聞こえて来る。他にも。


「へっへっへっ・・・お前の持ってる武器が前から欲しかったんだよなぁ。それ、中々の業物だろ?お前が死ねば・・・俺のもんにしても、良いよなぁ!」


「てめえにこいつは勿体ねえっての!人の物を欲しがる前に自分で金貯めて買えや!この貧乏人が!気持ち悪いんだよ!」


 相手の持つ物に執着してソレを奪おうとする者も居たり。


「貴様はウチの敵対組織の構成員だったな?一度その顔を見た覚えがある。ふむ、我が組織の将来の為にもここは事故として貴様を消しておくか。」


「・・・俺様の事を舐めてやがるな?てめえみたいな三下に殺される俺様じゃねぇ!」


 どうにも裏社会で幅を利かせる組織同士の抗争なども絡んでいる様子。


「何ともカオス・・・」


 俺はソレを観戦する。もちろん誰にも俺の姿は見えていない。魔法で消してあるから。

 突撃させた者の中には自分の安全を一時確保できた奴がいたのだが、そいつはきょろきょろと首を振って誰かを探していた様子。

 それはたぶん俺の事を探していたのだと思う。しかしその時間は短かった。当然そこへ手の空いた奴がそいつに新たに襲い掛かったから。


「いやー、ロクでも無い奴らの辿る末路としてはまだ上等な方なんじゃないの?」


 逃げる奴は居なかった。誰一人。どれだけ自分の腕前に自信を持っていたと言うのか?

 乱闘は次第に落ち着いて行ってその数は二十人程になり、誰もがひと息吐いた。

 どうやら警備側の方の生き残りである様だ。これが突撃させた方の生き残りであったなら俺の事を罵る言葉の一つも出すだろうから。


 そいつらを俺は魔力固めで拘束する。


「さて、それじゃあ次は屋敷の中だな。あのクソ眼鏡、どんな態度で居るかね?」


 砂漠に置き去りにした爺は部屋の中でソファーに座ってふんぞり返って酒を飲んでいた。

 さてではでは、こいつはどんな風にしているだろうか?


「で、何でお前も同じなんだよ?は?ふざけてんの?マジで何なの?」


「だ!誰だ!・・・き、貴様は!?」


「似た反応なのも気に食わねぇ・・・まあ、良いや。お前も同じ刑に処す。覚悟しろ、このボケナス眼鏡が。」


 あれだけの事が起きていたのにこの眼鏡野郎は別段何ともないと言った様子でずっとこの部屋で高級酒を堪能していた様だ。これには何処までも俺には理解不能である。

 しかもそのテーブルにはおつまみなのか、綺麗に切られ皿に盛りつけられている果実が。


「逃げるでも無く、慌てていたりもせず、余裕ぶっこいて酒飲んでるってどういった神経してんだかな?」


 俺は眼鏡を殴る。見事に俺のその一撃は顎にクリーンヒット。吹き飛ぶ眼鏡。


「それじゃあお前も御招待だ。っと、貧弱かよ、たったの一発で気絶?まあ面倒が無くていいか。」


 俺はワープゲートでまた砂漠へ。そこにはまだ先程に捨てた爺が居た。

 しかし俺は丁度その後ろに出て来ていたのでまだ爺に気付かれてはいない。

 なので俺はここで自分の姿だけを魔法で消す。そしてクソ眼鏡だけを放り投げた。


 ずさり、そんな砂が擦れる音が静かな砂漠に響くが、その音は直ぐ消失する。

 周辺の砂がどうやら音を吸収する構造にでもなっているのか、かなりの静けさをこの砂漠は抱えている。


 爺はこの音でびくりと肩を大きく跳ね上げた後に振り返ってその音源を見た。


「な!?どうなっておるコレは!?気を失っておるのか?おい、目を覚ませ!これはどうなっておる!?今我々がどうしてこの様な場所に!説明せよ!おい!目を覚まさぬか!」


 此処まで来ても、どうあっても傲慢。この爺は何処までも救えないらしい。

 俺はそのままその二人を置いてさっさとワープゲートで元の場所に戻る。残りがまだまだいるからだ。今日中に全部大体の所までは終わらせたい。


 と言う事で次のターゲットの元へ。そして先程にやった事を此処でもまた同じ様に繰り返してみた。

 そう、生き残りの二十名の悪漢を操作して次のターゲットの屋敷の警備にまた突撃させてみたのだ。


 そしたら呆れた。全く似た様な展開になったからだ。本当に、この雇われている者たちはロクな者が居ない。

 罵り合い、殺し合い、その顔には喜色を浮かべている者まで居た。本当に救えない者たちの集まりだ。


「正直言って、ここまでくると本当に感心するな?まさか残りの奴らの屋敷の警備も真っ当なヤツって一人も居ないのか?」


 そしてここでもまた再び驚かされたのが先ほどのクソ眼鏡の時の光景と同じ。爺の時と同じ。


「な!?何者だ貴様!・・・ま、まさかお前はあの時の!?」


「マジで何なの?」


 余りにもそっくり過ぎて寧ろこちらが驚かされる。まさか同じ様な場面をこうも繰り返すとは思っても見なかった。ちょっとだけ眩暈に襲われそうになる。


「俺ってそれぞれ別の奴らの所にカチコミしてるんだよな?だったら何で同じ反応で、同じ態度で、同じく酒飲んでふんぞり返ってんの?」


 まさか同じ場所、場面をループしているんじゃないかと少し不安にさせられた。


「もういいや。お前も砂漠の旅に行ってらっしゃいだよ。仲良くしろよ?」


 そいつを魔力固めで窒息させて気を失わせた後に同じ様にワープゲートで砂漠に移動、ポイ捨てしてサッと戻る。


「さて、次だ、次。気を取り直していこう。」


 こうして俺は次々にターゲットの幹部たちを潰して回った。それこそ同じ手を使って全員を始末、砂漠送りだ。


「・・・まあこいつで最後なんだけどさ。何で全員が本当に示し合わせたかの様に?」


 警備の奴らはやはりクソばっか。その場その場で生き残りを拘束して次の屋敷に突入させるとあら不思議。勝手に殺し合うのだ。で、部屋に突撃するとやはり幹部の野郎は酒を飲んでノンビリしている場面で。


「いや、本当に、寧ろここまでくると感心するしか無いよ。あー、とりあえずこれで一番上は全部片付いたか。それじゃあ次は他の議員やら貴族たちだな。全員きっと汚職で真っ黒なんだろうよ。」


 ここまでもう何も良い所無し。最高幹部たちの逆襲に手を貸した参加者たちはどうせこの国の行く末に何て気にも留めずに、自らの利権にしか興味の無い者たちばかりだろうどうせ。

 ならばそいつらはこの国には要らない。


「コロシネン、もう一人一人の所に行って処分するのは面倒だから、一気に内戦で片づけよう。」


「では息子の居る場所に向かうのが宜しいかと。この国を粛清するにも代表者を作っておいた方が後々に便利です。」


 コロシネンのこの案に俺は「で、そこ何処?」と返したら。


「愚息の軟禁されている場所にご案内致します。」


 どうやら既にコロシネンは自分の息子の居場所を知っていた様だ。恐らくは拘束されていた間にでも教わっていたんだろう。

 これには教えても別にどうしようもできないと判断されてコロシネンの心を折る為の情報の一つとして利用されたのだろう。

 こうして俺はコロシネンの案内でそこへと向かう。そうしてやって来たのは豪華な一軒家。そう、屋敷とは言えないが、かなり大きな家で、小さいながらも庭付きである。


「まあ当然ながら逃げ出せない様にと見張りは置くよな?と言うか、利用するのに軟禁しておくって、どうなの?」


 駒として使うと言うのなら閉じ込めておかずに色々と仕事を押し付けて馬車馬の如く働かせたりを想像していたのだが。


「・・・あー、飾りとしてだけ生かされていて、決済や利権や兵権なんかは既に取り上げられているのか。」


 侯爵の代理を派遣してそれらの金も兵も権利も奪う。その代官が好き勝手にやる、そんな形になっているのかもしれない。

 もしかしたら救いに来るのが遅かったらこのままコロシネンの息子は殺されていた可能性も否定できない。


「それじゃあ行こうか。どんな奴なんだ?そのお前の息子ってさ。あ、今は爵位を次いで正式な侯爵様なんだよな?」


 もう既にこの家の全ては俺の手中に収まっている。魔力固めで。

 なのでこれ以上は俺の込めた魔力以上の力を発揮できる者以外はその動きを制限されて全く動けない。

 まあ動けた奴が居たらまたそこに追加で魔力を込めて固めてやるが。


「中は別段質素なんだな。まあそんな飾り立てても無駄だと判断されてるのは当たり前か。所詮はここに閉じ込めてあるのは無力な一人の人間って事なんだもんな。」


 とは言えだ。この家の警備に当たっている奴らはやはりロクでも無い輩たちであるようで。

 そこら中に空の酒瓶やカピカピに乾いた放っておかれ続けたつまみの余りなどが散乱していて汚い。絶妙に、汚い。そして臭い。


 どうやらコロシネンの息子は二階の一室に押し込められている様で俺はそちらに向かう。

 階段を上がって真っすぐの廊下、その一番奥の部屋にコロシネンの息子は居る。


「さーて、ご対面と行こうか。・・・うーん、十五・六?の子供だな。」


 ベッドに腰かけて俯いたままに微動だにしない少年一人。それと、その部屋の奥にメイドさん?


「コロシネン、取り合えずこの後の事をお前の口から聞いておこうと思うんだが、説明頼む。」


 俺は魔力固めを解かない。何故なら、この身動きを封じているコロシネンの息子を自由にしてしまうと何がどうなっているのかと言った点を質問攻めしてきそうだから。

 貴方は誰だ、どうしてここに、私に何の用だ、今状況はどうなっている、どうやってここまで来れた、などなど。

 そんなのに一々対応するのは面倒臭過ぎるのである。


 コロシネンも息子の無事を恐らくは喜んでいるのだろう。その顔は少々の安堵を浮かべているが、衝動的に息子に近寄ると言った行動は取らない。

 俺の要求で逆に体を硬直させてこれからの説明を始めるのだった。

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