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さて、話は先に進められるのか?

 コレードの部屋はその見た目とは違って小ざっぱりと片付いていた。

 自分の身には無頓着だが、部屋の潔癖さには神経質と言う感じなのだろうか?

 まあそこら辺は俺の気にする所では無い。俺が今知りたのは古代文字の事である。


「それで、コレを見て貰いたいんだけど。どれくらいまで読める?」


「ほぁ~・・・これをどちらで?」


「いや、出所は聞かないで欲しいかな?後で煩く言う奴がいるんでね。秘密、と言う事で。」


 俺のはぐらかしに「わかりました」と言って古代文字に顔を向けるコレード。


 古代文字は俺が作り出した紙にプリントして出した。これをじっと黙ってコレードは睨めっこ中である。


「できれば解明できている確実な文字の解説もして貰えると助かるね。」


「あ、そうですか?なら少々待って貰えます?」


 コレードは本棚から一冊のノートを取り出して俺に差し出してきた。

 俺はそれを受け取って中身を読ませてもらう。すると。


「はー、なるほどな。全然読み解けてる文字は少ないのか。でもしょうがないっぽいな。研究の為に得られた資料がそもそもに少ないんだな。」


 それはこれまでコレードが長年かけて調べて来たものの集大成と言えるものであった。

 一文字一文字の解説がついていて「解り易さ」を重視して書かれた研究結果だ。


「私の研究はなかなか予算が下りませんで。そのせいで参考資料となるそういった古代遺跡からの発掘品や古代文字関連の手配がなかなかできずじまいなのです。なので、古代文字に関して興味のある方がいらして、しかも研究者を求めていると聞かされて、その、浮かれたと申しますか、はい。」


 皇帝が古代遺跡関連の事はやって来なかったと言っていた事を思い出す。ああ、なるほどな、と。


「それにしてもこちらの古代文字の文章は興味深いです!この文字などは「魔」そしてそれに連続して「王」と言った文字が。これは単純に読み解けば「魔王」と言う存在を表していますが・・・」


 出て来た、魔王が。どうやらコレードもそういった見解であるらしい。教会と一緒。


「・・・ん?単純に読み解けば?それってどういう意味?」


 変な部分に引っ掛かった。なんだその言い回しは?である。


「ああ、ちょっと誤解させてしまいますねこの言い方は。その前後の文字がまだちょっと解明できていないので他にも解釈の違う捉え方がありそうだ、ってだけです。すいません、何かおかしな事を言っちゃって。」


「いや、それは物凄く重要なのでは?」


 読み解き方一つで意味ががらりと変わる何てのは最も重要視しなければいけない部分だろう。


「判る範囲だけで良いから一文字ずつ解釈付きでこの紙に翻訳を書き記してくれない?」


「わかりました。・・・と言うか、この紙いきなり何処から取り出したんですか?物凄く綺麗で整っていて真っ白なんですけど?」


 俺はそのコレードの質問を「いいからいいから」と言って受け流して早速翻訳した文章を書いてもらう。


「うーん?コレは・・・こっちの意味かな?あ、いや、それだと前後の意味が繋がらないからこっち・・・あ、だけどこの先の意味がそれだと意味不明になるからこの点でこっちの解釈に変わって、そこから・・・」


 集中し始めたコレードを邪魔しない様にと俺は一歩下がった所でその様子を見守った。

 そうして見ているとどうやら解明できていない部分は幾つかの予測パターンを付けて解説を書いてくれた。

 俺はそれを渡されてようやっと古代文字で書かれたこの文章の内容をお目に掛かる事が出来た。


「そっかー、こんな感じなのかー。大気中の魔力濃度がウンタラカンタラって神選民教国で観測がどうのこうの言ってたのも少し関連あるんだな。」


 どうやら一定の魔力に反応するあの装置は確かに「警報装置」としての役目はあったらしい。

 恐らくは神選民教国にある装置と原理は同じか、或いは近い物なのだろう。


 さて提示されたサンプルの文章の中には「魔を従える者が現れる時、世は力に覆い尽くされる」と言った感じのパターンがある。

 この場合は最初に言っていた単純に読み解いたと言った場合の「王」が何処にも出てこないのだが、しかしどうやらそれもソレで間違ってはいないのだそうで。


「長年研究してきて、一つの文字に複数の意味が込められていたりする、そんな見解のモノもあるんです。なのでこうして読み解き方が少々変わったり、意味の捉え方に差が出る様な感じになったりする事は結構ありまして。」


 コレードはそう説明をしてくれた。書かれていたパターンは四つ程。その一つには帝国教会の解釈したであろうパターンもある。

 しかしその中で「ああ、これだな」と言うのが、魔を従える者「従魔師」で、世は力に覆い尽くされる、と言うのが以前にドラゴンが俺の事を言っていた例のアレだな、と。

 そして聖女様は俺の事を魔王だと疑う根拠に強力な魔物を簡単に捕獲したり従わせたりしている事を指摘していた。

 なるほどなと思った。確かに古代文字を解読するとそんな感じになっているのだから疑いもするのか。


(古代の人ってのは俺の事を予言していたって事?いやいや、それは流石にあり得ないでしょ)


 俺の事を別にピンポイントで予見していた訳じゃ無いだろう。

 そういった存在が何時か何処かで現れる、と言った予見をしていただけで。


(そしてその呼ばれても居ないのにこの世界にジャジャジャじゃーん!って現れちゃったのが俺って事で)


 何の偶然か、必然か。俺はこうしてこの世界で生きて行く事になって色々あって、今の「コレ」なのだ。

 そんなのを誰が一体予想できると言うのか?一歩間違えば今の俺にはなっていない。

 それこそこんな警告を残した古代人だってこんな俺の事をその当時に予見できていたりなんてしないだろう。


「いや、そもそもこれって警告?そういや、なんだっけ?混沌だか破壊だか再生だか混乱だか?聖女様が言ってたか?」


 そうして魔王が存在する限り世の中がそれでテンヤワンヤし続けるから討滅しなくちゃいけないとか言っていたっけ。解読してそう書かれていたとか何とかだったか?


 ここで俺はコレードに意見を求めてみた。


「なあ?コレを解読してみてどんな感想持った?教えてくれない?」


「うーん?そうですねぇ・・・そもそも具体的な指示が何も無いですね。そんな危険な存在が現れると言うのであればそれに関連した情報が欲しい所です。それこそ詳細なのが。これにはそういった本当に必要であろう事は全く書かれていません。なので「役立たず」って印象です。」


「えらく辛い評価だね。でも言わんとしてる事は分るなぁ。」


 コレードの言った事は正しいと思わざるを得ない。解読したパターンを全部個別で読んでみても、四つの内容をまとめて意味を解釈しようにも「あれ?それで、どうしろと?」と言った感想なのである俺も。


「調査結果・・・このままラーキルに提出するかぁ。」


 魔力を感知する装置は誰の魔力でも一定量を籠めれば光って反応した。この事実は俺の事を魔王と決めつけられないだろう。聖女様はこの結果を聞いても納得し無さそうだが。

 こちらの古代文字の方も「それで?これ以上どないせいっちゅうんじゃ?」と言った結果である。

 じゃあそうなると後はどうするかと言えば。


「皇帝様は俺に対して「世界中旅してそれらしいの探しまわって来て」と頼んでくるんだろうなぁ最終的に。」


 最後は足で稼いで、と言われる想像が容易い。


「うん、だが断る。」


 そんな怠い事頼まれてもやりたくない。俺はここでコレードにお礼を言って皇帝の元に向かった。調査結果の最終報告だ。


「・・・おーい、俺はもうこれ以上頼まれても何もする気無いぞ。教会とも関わりたく無い。聖女様が俺の事を魔王だって言って決めつけて来るからな。近寄りたくも無い。」


 俺は皇帝を見つけて早速古代文字の解読文章を提出。その後は即座にこの件から降りる、手を引く事を先に言っておいた。


「依頼料はずむからもうちょっとだけお願いできないか?・・・あ、ダメかい?ならしょうがないな。事が起きてからでは遅いのかもしれないが、起きたと分からなければ手が出し様も無い事案だしなぁ。教会にはこちらで言い訳を作って何とか落ち着く様に説得するとしようか。お疲れさん。ありがとう。」


 割とすんなりと皇帝は引き下がった。最後の手段で皇帝からの「命令」と言った形を取って俺に頼む事は出来ただろう。それもしてこない。

 まあそんな風に命令などと言って言う事を聞かせようとして来ても、ソレをはっきりと俺は断っただろうけれども。


「それじゃあ俺はもう行くよ。魔王なんて物が本当に現れたりして無い事を祈っておく。」


 俺はそう言ってワープゲートで魔改造村の家へ移動。家の中に入ってベッドに寝転がって大きく溜息を吐き出す。


「はぁ~。妙に変な事に次々と絡まされるな。なんだろ、コレ?」


 別に俺は普段から特別突拍子も無い事をいつもしている自覚はある。

 だけどもいきなりこうして連続して魔王と言われる謂れは無い様に思うのだが。

 神選民教国で一回目、帝国の教会の聖女様からで二回目、である。


「・・・あ?二度ある事は、三度ある?このまま、また魔王に関する事が俺の所に持ち込まれるのか?」


 とは言ってもそんなのは俺の妄想だ。あるかもしれないし、無いかもしれない。

 有ったらあったでそれが何時になるかも分からないのであれば気にするだけ無駄な事だし、無いなら無いで今こうして気にするだけ無駄である。


「無駄ムダむだぁ・・・ああ、でも予感はするんだよなぁ。」


 予感がするからと言って、しかしそれがもしかしたら只の思い過ごしだって事も有り得る。

 でもこれまでの辿って来た今までを振り返るとどうにも胸騒ぎはする。


「いや、まさか、そんな?・・・うーん?ノトリー連国が俺の事をそんな風に言ってる可能性高そう・・・」


 あの国ではちょっと暴れてしまったのでもしかするとそのせいで脅しが過ぎていて陰口で魔王と俺の事を呼んでいる可能性がある。

 けれどもそんな程度であれば俺が気にする事でも無い。寧ろ俺を魔王呼ばわりするのであればそれを利用してその様に振舞えば良いだろうその時は。


「そう言えば土地の開墾は進んでるのか?ずっと確認しに行ってないけど、一度見に行っておくか?」


 もし俺が言っておいた事を進めていない様だったらもう一度脅せば良いだろう。それこそ今度は本気で「魔王」を演じてド派手に爆発の一つでも見せやれば良いだろうか。

 そんな事を思い付きはしたが、別に今すぐに動き出そうとはしない。

 そこまで俺はノトリー連国に対して特別な思い入れは無い。なのでもう今日の所はのんびりと家の中で過ごす事にした。


 その後、一週間、俺は毎日ダラダラと過ごした。飯を食い、昼寝をし、日向ぼっこを楽しみ、村の様子を見て回る散歩で軽い運動。何ら生産性の無い無為に過ぎていく日々である。


「いい加減刺激が無さ過ぎて精神が死にそうだ。出かけるか。」


 俺は心に潤いが欲しくなって何処か知らない土地へと観光しに行く気になった。

 とは言え本当に何も知らない土地に向かうと言った事はせずに先ずノトリー連国の様子を見に行ってみる気に。


「思いついたその時に動かないと。後でさあ行くか、ってなった場合に気分が落ちてるかもしれないしな。」


 思い立ったが吉日。いや、俺はそもそもこれまでそんな風に思いついた事を即座に実行してきている。今この時だけでは無い。

 しかも大抵動いた後は何かしら大事になったりもしているのでそれを「吉」と呼んで良いのかどうかは疑問だ。


 そうして出かけてみれば別段思い入れも思い出も無いノトリー連国に到着だ。ワープゲートで一瞬である。感慨も何も無い。

 そうしてノトリー連国の首都?を上空から観察してみればあっちこっちで忙しそうに人々が仕事をしている。しかもかなりの数が動いている様に感じた。


「ちゃんと俺の言いつけ守ってるって事なのかね?他の町や村の方も見てみるか?」


 そう思った俺は各地に飛行して向かう。元は茶色の大地ばかりだったが俺がソレを緑に変えた事で何だか空気も埃っぽさが無くなっている様に感じた。

 そしていくつかの村や町を上空から見渡してみたが、余り以前見た時と変わっていない様子に感じた。


「どうしてだ?御触れがまだ行き届いていないだけか?それにしちゃ遅過ぎるだろそんなの。アレからどれくらい経ってると思ってるんだよ。」


 国の政策が全ての町村に行き届き、そしてそれを実行するにしても時間が掛かる事は承知の上だ。

 しかしどうしてもコレはそれとは違う。人の動く気配が感じられないのだ。


「じゃあ首都でのあれは何だったんだ?まさかまた戦争を起そうと準備してたとか言うんじゃないだろうな?」


 忙しなく動き働く住民に一言聞いておくべきだった。何でそんなに慌ただしくしてるんですか?と。


「コレはもう一回説教か?それとも、一回痛い目見せるか?」


 とは言えまだ確定では無い。もしかしたら予想外の問題が浮上して準備が先に進められていないと言った事も有り得るかもしれないのだ。

 しかしここで以前に脅した時のはまだあれじゃ生温かったのか?とふと思ってしまう。もっとド派手に山の一つでも吹き飛ぶ威力を見せつけて恐怖の底に落としてしまえば良かったか?

 人は必死になればどんな問題でもどういった形でアレ解決できるものだ。その手段に、結果に、何も文句を付けないのであれば、と言った前提はあるが。

 俺の脅しよりもその問題の方が恐ろしくて解決できないと言うのであるならば、もう一度俺が出向いて恐怖を再度その心身に刻み付けねばならないかもしれない。

 俺の言いつけを死ぬ気で守るつもりが無いのならもう一度ノトリー連国で暴れて見せるだけである。


「いやいや、それこそ、そりゃ魔王の仕業で御座いますよ、ってなもんだ。思考がおかしくなってるわ。魔王だ何だと帝国でアレコレあったせいか?」


 俺はここでイラっとした感情を抑え込むために深呼吸を一つして考え方を変える。


 とは言えノトリー連国の上層部を以前に「説得」した際にやった事も充分過ぎる程に「魔王の所業」だと言えるモノだっただろう相手にしてみたら。

 しかしそんな事があったとしてもまだ俺の事を舐めている輩が大半を占めていたらどうか?

 そんな事になっていれば国土の開拓、開墾、開発などは遅々として進みやしないだろう。


「もう一回行くしか無いな。その時にまだ甘い考えや馬鹿な事を企んでいたりしたら完全に潰して・・・いやいや、俺は別にノトリー連国の崩壊をさせたい訳じゃ無いんだ。ヤル気にさせる様に仕向けないとダメな訳で。・・・面倒クサッ!」


 俺が何でそんな事に一々気を使わなくてはならないのか?上層部にヤル気が無いのなら無いで俺がそれを一々面倒を見なくても放っておけば良いだろう。

 まだ戦争で神選民教国を奪う動きを見せていなければこれ以上の余計な手出しはしなくても良い。寧ろ、手を出すとか正直言って怠い。


「でも、確かめる事だけはしておかないとなぁ。」


 ノトリー連国が今どの様な動きをしているのかの確認くらいはしておいた方が良いだろう。

 こうなっている責任は俺にあるのだ。取り合えずもう一回戦争しようとしていないかだけを確認すればいい。

 俺は前回に徹底的に破壊したあの国会議事堂みたいな建物のあった場所にワープゲートで移動した。


 で、そこで見た物とは「造りかけ」の大きな大きな建物の基礎、土台だった。


「何してんだこれは?まさかアレを再建する気か?おい、コロシネンだったよな?アイツ、何してんねん。」


 俺は即座に以前にこの国の頭に据えた貴族のコロシネンの屋敷に向かう。

 そこで見た物はその屋敷のそこいらじゅうに張られた警戒網である。

 まるで誰も入らせない、誰も屋敷からは逃げ出させない、と言った様子が窺える過剰な警備だった。


「おいおい、まさか?はぁ~・・・殺されて無いだろうな?」


 俺はそのまま屋敷に入り込む。もちろん魔法で俺の姿は透明にして誰にも見られない様にして。

 そして屋敷に入った後に魔力ソナーでコロシネンのいる場所を探してみた。すると。


「ふーん?軟禁状態?コレは、寝室か?」


 家の中の警備もかなりの数である。そこら中に槍持つ兵士が巡回を行っていて隙が無い。

 まあそれでも透明になっている俺に気付けている者は一人もいなかったが。


「まあ部屋の前にも番は立つよな。どうやら相当に警戒されてる様じゃないか、コロシネンは。」


 その扉の前に立つ兵士二名を魔力固めで動けなくさせた俺はそこで堂々と姿を現して勢い良く扉を開ける。


「よお、コロシネン。話を聞かせて貰おうか?」


「ひッ!?ひえええええぇぇぇぇ!?」


「・・・お前、随分とやつれたな?」


 まだこの国で起きた事が何だか知らない俺はそのコロシネンの痩せ具合に少々の憐れみを持った。

 どう言った事情かは分からない。けれどもまるで骸骨にでもなったかの様なそのコロシネンの姿に流石の俺も少々気の毒に思ってしまう。


「・・・え、エンドウ様?・・・ううぉぉぉぉぉ・・・」


「え?何でいきなりガチ泣きし始めてるの?ドン引きなんですけど・・・」


 コロシネンは最初、部屋に入って来たのが俺だと認識できていなかった様だ。

 そして俺だと分かった途端にボロボロと涙を流し始めた。これには俺もビックリである。


 コロシネンが落ち着いて泣き止まないと話もできないので俺は落ち着くまで待つ事に。

 そうして大体3分くらいしてからコロシネンはぽつぽつと事情を説明し始めた。その内容は。


 あの俺が居なくなった一週間後にどうやら屋敷に閉じ込めていた五名の最高幹部たちが脱出。

 打ち出した計画にコロシネンへ反抗的な態度を取っていた貴族をボコボコにして従わせていたが、そいつらはこれに合流して攻めて来たらしい。

 コロシネンだけは自分の抱える兵たちを使って抵抗を試みたのだが、それ以外の役職役員たちは無抵抗で内戦の形にもならなかったそうで。

 これに呆気無くコロシネンは捕縛されてここに閉じ込められて長い間の尋問を食らって憔悴しきってしまったそうな。俺の事に関する情報を搾り取ろうと言った事だったらしい。

 そうなってしまった事でコロシネンは自らの息子にその侯爵の地位を引き継がせて、と言うか、最高幹部たちが乗っ取り返しをした後に自らの手駒を増やす事を目的にコロシネンを人質にしてその息子を脅して傀儡にすると言った手段を取ったそうだ。

 そしてその息子はこの屋敷では無く別の場所に移動させられているらしい。


「それで、以前に俺が消滅させたあの建物を再建させる事を最優先させている、って事か。俺が言った国の食糧問題どうにかしろよ、っていうのは、お前の口から向こうに伝わってるんだよな?」


「はい、そうです。私は懇願しました。私の事はどう扱っても良いが、エンドウ様のおっしゃられた食糧問題解決の為の開墾開拓は実行して欲しい、と。直ぐにでもそちらを最優先で取り掛かって欲しい、と。」


 どうやらコロシネンは人が変わった様だ。これはそれ程の経験を俺がさせたと言う事になるんだろう。

 そして肝心のコロシネンの言葉は届かず、例の建物、国会議事堂みたいなのを再建する為に人員も資材もバカスカ投入していると。

 でも食糧問題は解決してないのでその働いている者たちへの配給は全く行き届いていない現状だそうで。

 しかもその配給も裏でちょろまかしている屑な貴族がやはり発生している様だ。


「よし、ならもうこれは一回この国潰そうか。そうだな、もうこうなったら神選民教国に支配を委託するのも良いかもな。ああ、属国とか言うんだったか、その場合?」


 俺のこの発言にコロシネンは物凄く悲しそうな顔はしたのだが、反対だと言う意見は口にしなかった。

 多分もう愛想が尽きたのか、或いは諦めと言ったモノなんだろう。そこには「どうしようもない」と言った悟りの意思がチラリと窺える。

 国が根本から変えられている、しかも、自らの力を超えた所で、目の前で、と言った部分に悲しみを感じている様にも見えた。

 そこで俺は問いかける。もうここでコロシネンにできる事はもう無いだろうと。


「コロシネン、お前、解放されたいか?」


「・・・貴方様のお力は既に充分過ぎる程に体験しております。抵抗は何をした所で無駄で御座いましょう。御身の思うが儘に事を成されるが宜しいかと。私めの事は御気になさらずともエンドウ様の御心のままに。」」


「以前のお前と違ってかしこまり過ぎた態度が妙にムズムズする。まあいっか。先ずはちゃんと食べて体を元に戻せよ。そんなガリガリじゃあ何処にも連れていけないじゃないか。」


 ここで俺は部屋の中で食事の用意を始める。先ずはコロシネンの身体の事を考えて柔らかく野菜を煮込んだスープが良いだろう。

 俺が呑気に料理をいきなり始めたものだからこれにコロシネンはポカンとした顔して固まってしまった。


「お前も貧しい、食い物が喉を通らない苦しみってのを知っただろ?それと、どんな形であれ食べたくても食べれない苦しみを味わったはずだ。腹が減っていても食べられない。なら、今は貧困に苦しむ民の事を少しは理解できたんじゃないのか?状況も現状も、地位も名誉も関係無い。そう言った食べ物をすら得られない人々の事を今後に気にする事ができる様になっていたら、お前はやっとここで人を食わせると言う事はどう言う事かって事が、貴族って言う立場がどんなものであったのか、曲りなりにも解ったって事だ。」


 コロシネンはかなりの長い期間食事を口にできていなかったのだろう。その姿は余りにも痛々しい。

 俺が出来上がったスープを差し出したら唖然とした顔で俺の顔を見つめて来る。


「こいつはお前が馬鹿にした民が汗水流して働いて得た野菜だぞ?塩もきっちり効いていて、野菜の甘みもたっぷりだぜ。一口飲んでみろよ。以前にお前が糞味噌言ってた国民ってのがどれだけ大切なモノか、それで良く解るだろうよ。」


 黙ってコロシネンはテーブルに置かれたスープに視線を落とす。そしてソレを見つめた。

 やつれたコロシネンの顔がそれに映る。どうやらその映った自分の顔をじっくりと見つめている様だった。


 やがて時間は掛かったがそれを一口飲み込んだコロシネン。すると思いっきり泣き啜り始めた。

 俺もこのリアクションにはびっくり。これまでの間にコロシネンには何が起きていたのか?想像がつかない。

 そのまま泣きながら鼻を啜りつつスープを飲み干した後は柔らかくなった野菜をゆっくりと一つ一つコロシネンは食べていく。

 そうして食べ終わったコロシネンは次には「うあぁぁぁぁ!」と思い切り喚いて泣き叫んだ。


(おいおい・・・本気で何があったんだよ・・・と言うか、聞きたく無いから聞かないけど・・・これだけ泣く程って、どんな事があったらこんな反応になるの?・・・心情の変化があり過ぎだろ・・・)


 心底ドン引き。以前と比べて本当に「別人」になっているコロシネンに俺は訳が分からなかったが、黙っている事にした。

 こんな場面でどう慰めろと?と言うか、慰めの言葉を掛ける様な場面なのか?茶化す場面では無い、と言う事だけは何とか分かる。

 もうこれは時間の経過で治まるのを待つしかないと判断して俺はずっと沈黙を守った。


 そしてそれが治まった後のコロシネンがおかしい。


「死ねと言われるらな喜んでこの命、捧げます。目障りと言われればもう二度と貴方様の目の前に姿を現さない事を誓います。何なりと命じてください。身命を賭して実行、絶対死守致します。」


 俺は一瞬目の前の人物が誰か理解不能になった。両膝を床に付いて手を組み、うつむいて、まるで神にでも祈りを捧げるかの様なポーズでそんな言葉を吐き出すコロシネン。


「・・・あー、分かった。分からないけど、分かった。うん、じゃあコロシネン。お前はこれから神選民教国に連れて行く。そこで色々と知っている事を軍事関連の部署に教えてやれ。そうだな、先ずは女王に会わせるから。」


 ノトリー連国を一度潰すと言う考えは取り下げない。いや、ここでコロシネンに「考え直して欲しい」と願われていたら一考していたかもしれないのだが。

 こうも救いの無い事をあの最高幹部たちがやらかしているのだから、こうなってしまっては俺のあの時に見せた力は何ら意味の無いモノだったと言わざるを得ないだろう。


(いや、寧ろまだ俺の事を舐める事ができる精神を持っていた事に逆に称賛を送るべきなのか?)


 あれだけ俺に逆らうと酷いと言うのを実際に目にさせたのに結果がこれだ。流石にこれには俺も少々自信を無くす。

 人の心を変えるには単純に暴力だけではダメなのだな、と言った事が学べた事をしみじみと心に刻む場面だろうか寧ろここは。


 こうして俺はコロシネンを連れて神選民教国へとワープゲートで移動した。

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