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何をどうしたらそんな風に思うんだ?

 内部構造もちゃんと調べた。調べる事が出来た、無事に。爆発したりもしなかったし、光ったり、変形したり、その他に妙な反応を起こす様な事も無い。

 しかしまだやってみたい事はある。調査は終了した訳じゃ無い。なので次の実験をしようと思って言ったら聖女に止められた。


「エンドウ様、何をしていたのかの説明を求めます。これは貴重な物ですので、何をどの様にして、何が分かったのかを教えてください。そうでなければこれ以上の事はさせられません。」


 どうやら俺の雰囲気を読み取って聖女は一段落ついたと判断して声を掛けて来た様だ。

 この求めを俺は拒否する気は無かったので説明をする。


「うーん?魔力を直接操ってコレに浸透させてどんな構造してるか調べてた。とは言えども、俺はその道の専門家じゃ無いし、その手の知識なんて物も無いから、分かった事なんてのは、まあ、薄い魔力程度じゃコレは何の反応も起動もしないって事くらいだね。」


「・・・何をおっしゃっているのか理解しかねるのですけれども?」


 聖女に真顔でそう言われてしまった。しかしこれ以上どうしたら説明が解り易くなるか俺には分らない。


「これって魔力に反応する装置なんだよな?俺の魔力でも起動するのか?他の別の誰かの魔力でも反応はするのか?これが動く条件は分っていたりする?」


「まだ研究がそこまで進んでいない状況です。なので分からないとしか今は言えません。」


 困ったものだ。貴重だから余り雑に扱えない。貴重だから乱暴な実験はできない。貴重だから検証をしようにも慎重になる。

 何事にも貴重が付いて回って研究が先に進んでいない、と言うか、先に進められてはいないのだろう。と言うか、そもそも進める気が無いんじゃないかと思ってしまう。

 古代文字とやらはまだ全貌の解明に至ってはいないと言っていた。だからまだこの装置の役割は推測の域を出てはいないと言う話だったか。


「説明したし、これに多めに魔力を流し込んでみても良いだろ?確か特定の魔力に反応する、とか言う予想だったんだよな?じゃあその特定、ってのは本当かどうかの検証をしておきたいな。俺以外の魔術師を呼んでこれに魔力をぶち込んでみた反応も見てみたいんだけど。」


「許可しかねますね。もっと慎重に事を運んで頂きたいのですが?」


 さっきから聖女はこの装置の事を心配し過ぎてダメを連発だ。こうなったらもうこれ以上を調べる事をする気が起きない。


「じゃあもうどうしようもないな。皇帝は俺に今回の問題を全部丸投げして来たけど。最初の調査で盛大に躓いてるみたいなもんだ、こうなっちゃうと。ダメダメ言う気持ちは分らんでも無いけど。本気で今回の事を解決する気、ある?」


「それはもちろんありますが。もう少し何とかならないのですか?」


「・・・何か俺の事、盛大に勘違いしてない?」


「賢者なのですよね?まあついでに言うと私は貴方を魔王ではないかと疑っていたりもしていますが。」


「それこそ俺は自分の事を一度もそんな風に思った事も無いし、自分で自分を説明するのに一度もその言葉を使った事すら無いが?」


 俺と聖女のやり取りはここで沈黙。俺への聖女の評価がどの様になっているのか不安が募るばかりだ。

 ここで聖女は口を開いて質問してくる。


「どんなに難解で規模の大きな出来事さえ即座に解決して来たのでは?」


「誰がそんな事吹き込んだ?・・・あ、ミッツが話を盛大に盛ったのか。って言うか、そんなの疑いもせずに信じるなよ。と言うか、魔王として疑ってるって言ってたのに、そんな相手を教会にホイホイと案内するばかりか、こんな内部にまで平気で連れて来るとか何考えてるか分からな過ぎて逆に怖すぎなんだが?」


 そう言えばこの聖女、ミッツと手紙のやり取りをしていたという話だった。

 恐らくはミッツが話を馬鹿みたいに盛ったのを手紙に書いてるんだろう。そしてそれを聖女が読んでいる。


「俺の事を何だと思ってるんだよ、一体・・・」


 これまでにどの様な事案をミッツは手紙に書いて来たと言うのか?そして聖女はそれを鵜呑みにしていると。

 ここで俺の心にドッと疲れが押し寄せてきたのでこれに休憩を挟もうと聖女に提案した。


 これにあっさりと「そうですね」と返事をされて別室に案内される。もうこの聖女が本当に何を考えてるのか読めない。


「では、話を整理していきましょう。まず、貴方は自身を魔王では無いと言っていますが。」


 俺は出されたお茶を溜息と共に呑み込んで回答する。


「俺は魔王じゃ無い。寧ろ聞きたいんだけど、何で逆に俺が魔王だなんて思う所があったんだよ?そもそも、もう一度聞こうか。魔王って、何を以ってしてそう呼ばれるの?それは人の形をしてるの?動物の形?それとも不定形生物?もしくは概念存在?それが何かも分からないんじゃ何をどうしようも無いんじゃないの?確定した情報も確立した調査方法も無いのに勝手に聖女と言う個人が思った疑惑だけで魔王呼ばわりされてる俺の心情は全く考慮されてないよね?迷惑この上無いんだけど?」


「貴方にその自覚が無いだけでは?」


「言い掛かりでしかないよな、それ。俺の事を舐めてるとしか思えないんだけど?」


「そうでもありませんよ?ミッツから手紙を貰ってやり取りをしていくうちに貴方と言う存在に疑問が湧きまして。いろいろとこれまでに調査をしていました。貴方の出身を調べようとしても情報が全く出てきませんし。何時、何処で、どの様にして現れたのか?突然に降って湧いたかの様です。分かっているのはクスイと言うマルマルの商人と深い関係にあると言う事。そして魔力回復薬の味の改良、そして販売生産、流通に拡散、これらで王国に莫大な富を持っていると言う事。そのクスイと出会う以前の貴方の足跡が全く掴め無い点も見逃せません。」


「随分と結構な前から俺の事をそこまで調べてたのか・・・良い気分にはなれないな。で、だから?」


「そう言った正体を幾ら調べても見えてこない事も疑う一因です。」


 もうこうして無駄に魔王と決め付けられたかの様に言われ続けるのが面倒臭いので俺はここで言い切った。


「じゃあ分かった。俺が魔王だ。で、どうする?」


「・・・どうしようもできないですね。開き直られてしまったらお終いです。我々教会にも、この帝国にも、貴方に対抗できる人物は存在しません。」


「ホント、話がなんも進まねーな?ええ?おい。何でずっと俺の事を魔王だ何だと言って来てたんだよ?無意味だな。」


 俺は呆れてお茶をズズズと啜って一口飲む。装置を調べるためにアレコレしたいと言えば却下。

 魔王と疑ってくるから、じゃあもしそうだったらどうすると問えばその答えは「どうしようもできない」である。話にならない。

 幾ら俺を魔王だと疑ってもだ。その対処方法を考えていないのであれば全く意味が無い。

 確か教会の言う所によれば「魔王は討滅すべし」との事である。ならば今俺を魔王と疑うならばこれを倒す為の準備をするべきだ。

 だけども教会はその様な動きをしてはいない。それどころかこの帝国の教会の頂点の聖女がこの始末である。

 魔王と疑う相手を教会に呼び込んで、魔王に反応すると言う装置をその魔王に調べさせようとしている滑稽極まり無い状況を作っている。本当に何がしたいのか分からない。

 これが俺を倒す為の準備の時間稼ぎだと言うのであれば、それなら理解できる。しかしだからと言って俺はやられてやるつもりは毛頭無い。

 これに聖女は俺が魔王だったら「どうしようもない」などと言った答えを口にしている。下らなさ過ぎて笑いも出ない。


 古代文字の解析が済んでいないと言う事なので、もうこうなると発見された古代の警告文の解釈間違いを指摘したい所だ。


「もういいや。問題解決の為に強引にやらせて貰うから。」


「何をなさるつもりなのですか?余り乱暴な真似は容認できないのですが・・・」


「ここまできといてそれを口に出すの?」


「何分聖女と言う立場もありますので。」


 俺はこれに「ご苦労様」と返して残りの冷めたお茶を飲み干して椅子を立ち上がる。そして直ぐに装置と板の部屋へと戻る。


 どうせ魔王とこのまま疑われ続けるくらいならいっその事それらしい振る舞いと態度を取ればいい。

 教会には俺に対抗できる存在は居ないと今先程聞いたのだ。ならば俺が勝手な事をしたとしてもこの場にそれを止められる者は居ない。


「ちょ!何を!」


 俺は問題の装置と板をインベントリにポイッと放り込んだ。


「色んな知り合いにこれらを見せて何か分からないか話を聞いてくる。」


 一言そう聖女に告げて俺はワープゲートを出してこの部屋から移動した。


 そうしてやって来たのは絶海の孤島、レストの居るダンジョン城である。

 もしかしたらあの装置の事をレストが知っているかと思ってだ。知らないなら無いで他の知り合いの所に行って色々と意見を聞かせて貰うつもりである。


 しかし城の中にどうにもレストの気配が無い事に気づく。そこで俺はそのままスタスタと歩いて城の外に出たのだが。


「・・・変わったな、ここ。城の周りがほぼ全部、畑になってんじゃん。」


「おお?エンドウか。久しぶりだな。その様子だと元気にやっていた様だ。一つ食べるか?」


 レストは収穫をしていた。みずみずしさがMaxと言っても良い様なつやつやなトマトらしき実を俺に向けて差し出してきた。

 これを俺は受け取って早速齧ってみる。


「・・・美味いな。」


「品種改良をしたんだ。結構な手間と労力が掛かってる。」


「あれ?俺の渡したモノの中にこんなのの種ってあったっけ?」


「うん?いろいろとあったはずだが、もう忘れたな?おっと、向こうの畑に植えている種類はこの島に生えていたモノを育て改良したものでな。アレも美味いんだ。茹で、焼き、採れたては生で齧っても甘い。」


 レストの見た方向の畑に生えているのは何とも言えない代物だった。木に見える位に太い茎、その高さも低い。しかしそれには枝が複数に伸びていてその一つ一つに実がなっていた。

 それはバナナの様に曲がっていて、しかし表面が粒粒。黄色。

 どう見ても物凄く曲がった形のトウモロコシにしか見えない。髭も、表皮みたいになって包んでいる葉も無く、最初からその身が丸出しで生っている。

 それを見た俺は呆気に取られて間抜けな事を吐き出してしまう。


「あれを加工したらトウモロコシ粉にできるのだろうか?」


 この世界の植物、野菜の常識を俺は知らない。なので変な部分に意識が飛んでしまった。

 しかし直ぐに正気に戻ってここに来た目的を俺は述べる。


「ああ、いや、今日来たのはレストの様子を見に来たって所じゃ無くてな。ちょっと見て貰いたい物があるんだ。それと実験に付き合ってくれると助かる。」


 俺の頼みにレストは「お安い御用だ」と返してくれる。こうして俺とレストは一旦城に戻る。


 そこで俺が出したものをレストに見せた。警告文が彫られているという物質不明の板と魔力を感知すると言う道具。

 これらの帝国の教会での見解をレストに説明した。そしてこれに意見が無いか遠慮無く言ってくれと頼む。


「うん、分からないな。ダンジョンは幾つも入って攻略をしてきたが、古代遺跡の探査や研究などはやって無かったからな。この道具は魔力を観測するって?まあその手の装置は私の生きた時代にもあったしな。しかし、特定の、と言ったモノは無かったはずだな。」


 神選民教国にも確か空気中に含まれる魔力の濃度を測るとか何とかの観測装置があるとか言っていた様な。


 ここでレストが危ない実験では無いかの確認を取ってくる。


「これに魔力を流してみて反応を見ようと言う事なのか?ふむ、危険は無いか?」


「じゃあ俺が先にやってみる。レストは離れていてくれ。一応は障壁も張っておいて何かしらあった時の保険にしておこう。」


 俺は自分と、そしてその周りにこれでもかと言わんばかりに魔力を込めたバリアを張った。

 この装置がいきなり爆発したりしても被害が出ない様にと。

 取り出したテーブルの上に乗せた装置に対して手を触れず、魔力だけを繋げてそこから魔力を流し込んでみた。


「・・・光ったな。これで俺以外の魔力を扱える奴に同じ事させて同じ反応が出なかったら俺が魔王確定か?」


 いきなりこの様な結果が出てしまった事に俺は微妙な気持ちにさせられた。

 しかし続いてレストに同じくやって貰った所、同じ様に光った。これに俺は唸る。


「やっぱ何かしらあるのか?無いのか?さっぱりだな。ああ、ありがとうレスト。他の知り合いの所にも行って同じ事をやって貰うつもりなんだ。今日の所はこれでお暇するよ。」


「そうか。今度来た時には採れたて野菜で私の手料理を御馳走しよう。」


 レストのこの言葉に俺は「楽しみにしておく」と返してワープゲートで移動した。


 今度来たのはワークマンの研究室だ。しかしその部屋にはワークマンは居なかった。


(うーん、いきなりアポも取らずに来たんだからこうなる事は当然あるよな。待っていれば来るか?いや、先に師匠の所に顔出すか)


 ワークマンは色々と研究をしているだろうから古代文字とやらの事もある程度は知っていると思ったのだ。

 そして警告文の件を見て貰って何か気になる点などが無いかを聞いてみようと思ったのだが。

 そう毎度の事に都合が合うはずが無かった。これまでが運が良す過ぎだったと言える。

 毎度用事があるたびに様々な人に会いに行っているが、こうして面会できなかった事の方が少ない、と言うか、皆無だった様な。


「ワークマンは仕事が忙しいとかあるだろうし、緊急って訳でも無いから後にするか。師匠の方はどうだろ?うーん、まあ師匠は別に忙しいって事は無さそうか。多分会えるだろ。」


 気楽に俺はまたワープゲートを出して今度は師匠の居るあの町へ。

 今は雪の降る時期じゃ無いのでスノーレジャーはしない。と言うか、今回の用事はそれじゃ無いので真っすぐに寄り道しないで師匠の元へ。


「師匠、お久しぶりです。・・・まだソレで遊んでるんですか?てか、ラディに押されてるじゃないですか。」


 俺は以前に宿泊した宿に入って直ぐにマクリール師匠を見つけた。何をしているのかと思ったらテーブルでチェスでラディと対戦している。しかも負けそう。


「よう、久しぶりだ。何時ぶりだ?お前と顔を合わせるのは。しかも突然どうした?」


 俺の声に振り返って返事をしてくれたのはラディの方だった。師匠は盤面と睨めっこでムスッとした表情をしている。


「いやー、ちょっと師匠に見て貰いたい物と、実験に付き合って欲しくてさ。あ、そうだ、ラディにもちょと手伝って貰っても?」


「おう、構わないぜ。今日は調子良く勝てそうだから機嫌が良いのさ。その話に協力してやるよ。」


 師匠はどうやら逆転の目を狙って深く思考している様で俺の方を全く見てこない。挨拶一つこちらに発しない。

 俺はこの勝敗の行方など知ったこっちゃ無いので暫く待つ事にした。自前で椅子を出してそれに座って俺も盤面をサッと見てみる。


(確かチェスには「決まった形」があるって何かで読んだ様な?何百もある決まった手筋を「覚える」のが強くなる最短とか何とか?)


 うろ覚えだ。はっきりとそこら辺記憶に無いので改めて言葉で説明しようとするとしどろもどろで説明不足になってしまう。

 将棋の様に取った駒を再び使う事が出来ないチェスは勝利するまでの完全なるパターンがあるとか何時か読んだ雑誌に書いてあった様な。

 相手の駒の動きに合わせて自らの動かす駒も決まっていて、その都度のパターン分岐を記憶する。完全な記憶ゲームだった?

 白と黒があって、さて、先手は白だったか。盤上遊戯はそもそもが先手有利とか何とか?

 その手筋を完璧に熟した方が勝つ遊戯じゃ無かったか。その定跡が確か終盤戦になって駒が少なくなっていればそのパターンをコンピューターに記憶させてあったりとか何とか?

 初心者がCPUと対戦したりすると殆ど勝てないとか何とか?


(俺の全く興味の無い話だったからぼんやりとしか覚えて無いや。完全に間違ってるか、勘違いが混ざってそうだこの認識は)


 ここで師匠が駒を一つ動かしてラディの「キング」をチェックしに掛かった。

 コレをラディが守備を固める為に駒を一つ動かしてそれを回避している。

 しかしそれで盤上が僅かに動く。その隙間を縫ってまた師匠が今度は別の駒で連続でチェックをしていく。

 ラディはこれに眉根を顰める。優勢だと見えたラディの駒の布陣がこれで割れてしまったのだ。

 師匠の「キング」を追い詰めていたはずのラディの駒の集中戦力はまた次、また次と師匠の手番になるとドンドンと打たれるチェックにバラバラにされて行っている。

 これにお返しにとラディもチェックを狙って駒を動かそうとするけれども、既に今の時点で師匠の方が一手早い動きをするのでラディは防戦に徹してキングを狙われるのを回避するばかりにされてしまっていた。


(ラディが粘るからまだまだ決着には時間が掛かりそうか。もしかしたらこのまま引き分けに持ち込まれるのかな?まあ、外に散歩にでも出るか)


 試合の行き先に興味が今は無い俺はこの町の様子を見に散歩に出る事にした。

 どれくらい変わったかをせっかく来たのでこの目で見てみようと言う事だ。


 町は発展途上、と言った様子でまだまだ大きく成りそうな雰囲気を感じる。好景気と言うものだろうか?

 チラホラと前には見かけなかった人々が俺の視界に入ってきている。


(この町に帰って来た出稼ぎの人かな?それともここを出て行った人が戻って来たりとか?)


 そういった者たちは直ぐに判る。何せ俺の事を見て物珍しいと言わんばかりの視線をこちらに向けて来るからだ。

 俺がこの町を魔改造?していた時の事を知っている住人は俺を見て会釈をしてきているのである。


 そんな散歩を続けていると既に時間は30分を軽く超えた。

 なので俺は流石にもうチェスの決着は付いているだろうと思って宿に戻る。

 そこには最初見た時とは逆の光景。師匠は安堵の表情で、ラディはムスッとした顔になっていた。


「決着付いた?なら師匠、話があるんですけど。」


「ああ、エンドウか。久しぶりだな。良いぞ、で、どんな事案を持ち込んだんだ?また厄介事か?」


 ここでやっと師匠が俺が来ていた事に気づいてくれる。しかしその返事の無い様に一言俺は物申す。


「俺ってそんなに信用無いんですか?別に俺って毎度の事そんな問題になりそうな事持ち込んでたりしていないですよね?」


 どうやら師匠は俺の持ち込む案件は何もかもが大抵面倒事だとの認識の様だ。解せぬ。

 しかし問題の物を師匠に見せなければこの場は話が進まない。

 反論したい所を堪えて俺は板と装置を取り出して師匠の前に出す。


 チェスをしていたテーブルの上にそれを置くためにラディを退かす。

 ラディはこの時「何処で手を間違えた・・・?」と、どうやら師匠との対戦の振り返りをずっとしているようだ。どうやら負けたのだろう。


 そんなラディを放っておいて俺は師匠に今回の事をざっくりと説明した。これに師匠の反応はと言うと。


「古代遺跡からの発掘品か。それで魔王の存在とその警告?ふむ、ではこれに魔力を流すのか?」


 師匠はパパッと俺の説明を理解して直ぐに装置の方に手をかざす。

 するとやはりその装置は師匠の魔力に反応したのだろう。俺とレストがやった時と同様の光を出した。


「あー、これでどうやら確定したっぽい?別にこの装置って特殊な魔力を感知する訳じゃ無かったと。」


 この結果に俺は早くも結論を出した。帝国の教会研究者の見解とやらはこれで否定されてしまう訳だ。

 じゃあ板に刻まれた警告文は一体何を書かれているのかと言う流れになる。

 お次はこの古代文字を良く知る存在に当てを付けてその人の所に聞きに行くと言った流れになるだろうか。


「師匠は古代文字に関しての知見は?」


「研究対象外だったな。自らを高める事にしか興味が無かったからな。うむ、今そう言われて考えてみれば古代にも魔法はあったはずだ。ソレと現代の体系を比べると言った事も面白そうな研究対象だな。」


「じゃあ師匠、この文字に関しては誰か理解の深そうな当てって無いですか?」


「・・・そうだな、デンガルが確か、かなり昔に研究をしていた記憶はあるが。」


「えー、そうですか。あんまりあの爺さんに会いに行きたくないなぁ。なんだろ?魔法マニア?なんか熱量があり過ぎて対応するとこっちが疲れるって言うか、何て言うか。」


 デンガルは王国の宮廷魔術師で、以前に魔法の手解きを受けたいだか、何だか言われて魔力ソナーのコツか何かを教えているが。

 その時の前のめり様と言うか、踏み込み具合がちょっと尋常じゃ無かったと記憶にある。


「うーん、じゃあそっちにコレを聞きに行ってきます。こういうのはキリの良さと勢いで解決しないと何時までもダラダラと長引かせちゃいそうだからなぁ。」


 俺はラディと師匠に別れを告げてワープゲートでマルマルに先ず移動した。

 どうせ王国に行くのなら久しぶりに会いに行こうと思う人たちもいる。

 クスイにミライギルド長に、サンネルの所にもそう言えば暫く顔を出していない。

 構想焼きの店、テルモにも。と考えたら二号店の方のクレーヌとサレンに会いに行けば良かったと今さらに思い出す。


 暫くそうして思い出していれば気づく。そこそこに知り合いが多い。

 これまでにあっちこっちと飛び回っていると思っていたが、王国に帝国に、マルマルにサンサン、バッツ国とそこまでの多くの国に行っている訳じゃ無い。

 そう言えばバッツ国には美味い料理を出してくれるゴズとその奥さんが開いている店もある。またその内に顔を出しに行きたい。


(こう考えると別段何十もの国々を渡り歩いた訳じゃ無いのに結構知り合いが増えたなぁ。とは言っても、この世界の普通の一般人には想像もできない位に世界を旅していると言っても過言じゃ無いんだろうけど)


 交通手段の関係上、幾ら行商を生業としている者であっても俺程の行動範囲で商売をしている者はいないだろう。

 それに俺は海を越えてお隣の大陸と言える神選民教国にまで辿り着いている。こんなのはこの世界の常識に当て嵌めたら有り得ない事であろう。


(余計な事を考え過ぎて寄り道になり過ぎてもダメだな。クスイの所に行って挨拶して、それから、あー、自分の口座の中がどれくらい減ったかくらいは確認しておくかな?)


 以前に色々と散財した。そして継続して俺の口座の残高を減らす為に金を無担保、無利子で貸すと言った事もクスイに頼んでいたはず。

 所謂、投資である。事業を立ち上げたい人たちに資金面での援助や、経営が傾いている店などにテコ入れなど。

 様々な事に俺の口座の金を使ってばら撒いてくれと金貸し業をクスイに立ち上げて貰っていた、いるはず。


(いや、流石に減ってるだろ。増えてないよな?だって貸した金が回収できなかったとしても、それが詐欺などでなけりゃ無理に取り立てたりしないでくれと言っておいた・・・おいたよな?)


 あの時はやはり相変わらず何も考えずにクスイに丸投げしていたので記憶が曖昧だ。

 たとえ成功の見通しの低い計画を持ち込んだ者が居たとしても金を貸してやる様言っておいたはず。何処までも記憶が曖昧。

 それこそ深い部分までクスイと話し合い、相談した記憶自体がそもそも無い。ヤバい。


 それこそ放っておくと無限に口座に入っている数字が増え続けてしまうからと言う事で、世の中のお金を俺が溜め込んで放出しないでいると社会の崩壊にも繋がると思って制限は無しでバンバンとお金を減らすつもりで思いついた事である。


 何だか嫌な予感がしたのだが、ここは確かめてみるべきだと思ってデンガルの所に行くのは少々止めて先にクスイの所に顔を出す。


「あー、久しぶりクスイ。ちょうど会えて良かった。ちょっと話を聞きたいんだ。いい?」


「お久しぶりですなエンドウ様。こちらへどうぞ、どうぞ。今お茶を出しましょう。」


 クスイの店の裏口から入ればそこでは静かにお茶を飲んでいたクスイが居たので早速俺は本題に入った。


「俺の口座の中って、今どうなってる?ちょっと確認に来たんだよね。もちろん、減ってるよな?」


「・・・何故そう思うので?」


「・・・え?いやいや、減るでしょ?だって、無利子無担保で金貸し業をしたんだから、減る事はあっても、増えないでしょう?」


「・・・エンドウ様、帝国からの問い合わせがバンバンでバリバリに来ております。これは、どういう事ですかな?」


 怖い笑顔で俺はクスイにそう指摘されてしまった。

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