表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
230/327

リベンジしますか?【はい・いいえ】

 足柄山の金太郎は大きな熊を相撲で打倒して屈服させて家来としたそうな。


「ほいしょお!」


 俺も今それに倣ってアオ熊と相撲っぽい事をして対決している。


「よしこい!納得行くまで幾らでも掛かって来て良いぞ!そら!どっこいしょぉ!」


 俺とアオ熊とのぶつかり稽古はかれこれ30分は続いている。かなりのタフネスであるアオ熊。

 ぶちかまし、張り手、はたき込み、打ち払い、足払い、両手での挟み込みなどなど。

 結構多彩に俺に攻め込むのだが、まあそれらは一向に俺を傷つける事は出来ていない。

 その一撃を食らう度に俺は手心を加えた反撃をアオ熊にお見舞いしてやっている。


 魔力固めは使っていない。魔力での身体強化状態だけで相手をしていた。

 アオ熊の腕を掴んで引き倒し、腰を掴み上げて横倒し、足を払って大外刈り、勢いを利用しての一本背負いなども決めている。

 仕舞いにはちょっとだけ調子に乗ってタワーブリッジもどきも決めたりした。


 これだけの時間を戦っていても降参をしてこないアオ熊はどうにもプライドが高かったらしい。

 ずっと反撃を食らってもなお、全力を尽くして俺を打ちのめそうと言う気迫が続いていた。

 しかしそれもどうやら底が見えてくる。目に見えてアオ熊の動きが鈍くなったのだ。

 決着の時は近い、と言うか、俺は何処までもアオ熊の事を受け止めるつもりでいるので、終わりは俺が決める訳じゃ無い。アオ熊が決める。


 そしてどうやらその時はやってきた。アオ熊が全身の力を抜いたのだ。しかし何故か戦う意思がそこにはまだ俺には残っている様に見えた。

 それはどうやら当たっていた。アオ熊は俺の目の前に立ちその両腕を大きく、ゆっくりと振り上げる。

 その手はしっかりと重なりあって一つの塊となっていた。どうやら最後の力を振り絞った全力の一撃を俺の脳天に落とすつもりらしかった。


 アオ熊は気合を入れる叫びも、絶対に倒すといった怒りの咆哮も無い。只静かに、自らの全てを掛けた一撃をお見舞いする、そんな覚悟を全身に込めていた。


「でも悲しいかな。それでも俺には通じないんだよなぁ。すまんな。」


 振り下ろされたそれは見事に俺の頭を直撃している。けれども俺が体に纏う魔力に防がれて何らの痛みも衝撃もこの身に通さない。

 これがもし不意打ちされていたものであったならば、少しは違った。驚き、そして多少の衝撃くらいは感じる事だろう。

 けれどもこうして食らうまでにこれ程に長い時間を貰えれば覚悟と準備が整ってしまう。痛くも痒くも無い。受けた圧で杭打ちの様に地面に沈むと言った事にもならない。


「よし!最後はいっちょ派手にやるぞ!覚悟は良いか?」


 多分アオ熊自身もこの最後の一撃が俺に通用するとは思っても無かったのだろう。その表情には変化が出ていない。

 何だかその顔は「やっぱりか」と言った諦めの感情が滲んでいる様に俺には見えた。

 そこで俺はアオ熊の胴体を目一杯に両腕を広げて抱え込みに行った。そしてそのままの勢いのままにアオ熊を頭上に持ち上げる。

 それを放り上げた。まるでバレーボールのトスでも上げるかの様に。天高く。

 恐らくは10m程は飛んだと思う。飛ぶというか、上昇させたというか。

 まあそれは直ぐに落下してくる訳で。アオ熊が幾らタフだからと言ってこの高さから落下したら怪我は免れないだろう。

 だから俺がそれを受け止める。優しく、衝撃を発生させない様に。魔法で。


「さあ、どうだ?俺の頼みを聞いてくれる気になったか?」


 キャッチしたアオ熊をそっと地面に下ろす。するとドスンとそのまま大の字になってアオ熊が「煮るなり焼くなり」と言った感じに無防備な姿を俺に晒した。

 どうやら俺の事をしっかりと理解してくれた模様だ。


「さて、それじゃあコレ、前払いね。頼みを聞いて貰った後はもう一品御馳走するよ。ほらほら、コレを食って元気出してくれ。」


 俺はここに来るまでの間にゲットしたビッグブスを取り出してアオ熊に差し出す。

 するとこれにアオ熊が何故か俺とそのビッグブスを交互に見てくる。

 これに俺にはアオ熊が何を思っているのかが分からないのだが、とりあえずまた後日迎えに来る事を伝えて今日の所はこの場を去った。


 そうして予定当日がやってくる。俺は闘技場の控室に早めに入っていた。案内してくれたのはメールンである。


「お久しぶりですエンドウ様。本日の出場の従魔はこれまでに見た事が無いモノであるとお聞きしてあるのですが、えーっと、まだこちらには?」


「ああ、これから連れてくるからちょっと待ってくれ。一応は遅刻とかしない様にと早めに顔を出しただけなんだ。」


「これから魔物を捕獲して従えてくる、とか言う事では無いんですよね?」


「ああ、もう話は通ってる。じゃあ今から行ってくる。時間はまだ余裕あるよね?」


「はい。まだ一時間程の余裕はあります。行ってらっしゃいませ。・・・話は通っている?え?それはどう言う事ですか?」


 俺はメールンの疑問には答えずにワープゲートを出してアオ熊の居る森へと移動する。

 そして直ぐに魔力ソナーでアオ熊の位置を確認したらそこへと空を飛んで直行だ。


「よう。今日はよろしくな。あ、コレ先にちょっとだけ後払いの御馳走を味見させてやるよ。」


 俺は小さな壺を一つ取り出す。それをアオ熊の前に差し出す。

 アオ熊は俺が来た事には驚かなかったが、差し出された壺には「何だこれ?」と言った反応を見せた。

 俺は壺の蓋を取ってやる。するとアオ熊が恭しく両手で器用に小さな壺を受け取った。


「熊にはこれが欠かせないでしょ。まあ気に入るかどうかは分らんが。これがダメなら何か他のを・・・あ?」


「がおおおおおおおおん!」


 アオ熊はどうやらハチミツを気に入ったらしい。いや、蜂蜜じゃ無かった。

 俺が魔法で花の蜜を集めた物なので、まあ、普通に「花蜜」だ。

 結構集めるのに苦労した。何せ一つの花から微かにしか採取できなかったから。相当な数の花から採取していたりする。

 この為にあっちもこっちもと花を探し回りまくった。


「と言うか、異世界でも花に蜜は有ったんだな。向こうの世界の常識はこっちじゃ通じ無い事もある訳で。」


 元居た世界の「理」とこちらの世界の「理」は違って当然なのだそもそもが。

 しかし俺はどうしてもこっちの「理」を向こうと同じ様に考えて行動してしまう部分が多い。

 そうして本来なら向こうでは当たり前の事で、こちらの世界では実質不可能と言われてしまう事を魔法で解決してしまうと言った流れに毎度の事なっている。


「おい、話を聞いてくれるか?おい・・・おーい?」


 無心でアオ熊は小壺の中に舌を捻じ込んでペロペロと蜜を舐め取って味わっていて俺の声が聞こえていない様子。


「それ、今日一日俺の言う事をちゃんと聞いてくれたらもっと一杯くれてやるぞ?」


 俺がそう言うとアオ熊はピクリと止まる。今までずっと小壺の中の蜜に夢中だったのに。

 そして次には壊れたゼンマイ仕掛けの玩具みたいに小刻みに首を震わせながらこちらにゆっくりと顔を向けてきた。


「それじゃあ行こうか。ここの中を通って。」


 アオ熊は今自らが味わった花蜜を今日一日俺の言う事を聞くだけでもっと楽しめるのだと理解していた。

 なのですんなりと俺の言った通りにワープゲートを通っていく。


「ここで暫く大人しくしててくれ。暴れたりすんなよ?あ、メールン。こいつが今回の出場させる従魔ね。控室にはバレない様に誰も入らせないでね。会場でお披露目で観客を驚かせるから。おい、お前、彼女の事を傷つけたり襲ったりするんじゃないぞ?そんな事をしたら・・・わかってるよな?じゃあ俺クロを迎えに行ってくるんでもうちょと留守にします。」


「ぐぁ!」


 俺はアオ熊にそう言いつけて直ぐにまたワープゲートで移動する。今度はクロを連れてくるのだ。

 クロはもう何度も何度もこうしてあっちこっちに俺が連れまわしていたりするので慣れたものである。

 そう時間は掛けずにクロを連れて俺は控室に戻ってくる。


「よし、それじゃあ時間までもうちょっとあるし、ゆっくりとしていてくれ。・・・あれ?どうしたメールン?」


「・・・あの、生きた心地がしなかったのですが?」


「え?ほんのちょっとの時間だったでしょ?そこまで?」


 メールンぶるぶる震えてちょっと涙目。そこまでか?と俺は思ってしまったのだが、これが普通の一般人の反応だろう。失念していた。

 メールンがそこまでアオ熊を怖かったのなら控室の外、入り口前で待っていてくれれば良かったのだが。

 ここで俺は言い訳じみてはいたがアオ熊の事を説明しておいた。ちゃんとこいつは俺の言う事を聞くし、言葉も理解できていると。

 これにどうにも疑いの目で俺を見るメールンだが、クロも同様なのだからそこまで信用しないというのはどういう事なの?と、こちらが逆に思ってしまう。


 しかしそんな時間はあっという間に過ぎて出番がやってくる。


「では、行ってらっしゃいませ。」


 そうメールンに見送られて俺はアオ熊とクロを連れて控室を出た。

 俺たちが選手入場の花道に現れれば観客が一斉に声を上げる。と思ったら何故か静かだ。

 どうして?と疑問に思ったらどうやらアオ熊に全視線が集中している様だった。


「声も出せない程に驚く事なんだろうか?まあそこまで別に気にする事でも無いけど。」


 どうやら観客たちを驚かせるというサプライズ的なものは成功した様だが、ここまで静かになるとは思っていなかった。これには逆にこちらがちょっと驚きである。


 俺は舞台に上がる。そう言えばと思って隣のアオ熊を見たらどうにも困惑している様子。


「ああ、すまん。何をやらせるのか教えて無かったな。この上で戦って貰いたいんだ。その場合は手心を加えて相手の魔物を怪我させたり殺したりしない様に配慮してくれるか?」


 この求めにアオ熊の返しはと言うと、どうにも面倒そうな動きでどっしりとその場に座ってしまう。


「言う事聞いてくれないの?じゃあ報酬減らそうかな?」


 俺がそう言った途端にアオ熊は跳ね上がるかの様に勢い良く「ピン!」と立ち上がって大きく叫ぶ。


「ごあああああああああああ!」


 その際は両腕を目一杯に高く上げに上げての威嚇ポーズだ。この迫力はクロに負けていない。

 アオ熊の気合が会場中に充分に響き渡る。ここで観客の中には耳をふさいで表情を恐怖で歪める者もチラホラ。


 ここで今日の相手が花道を通って舞台に現れる。それは懐かしい相手。


「嫌になるわね。手持ちの従魔の強さを二段階も上げて、その黒いのを封じ込める事ができるだろう作戦も立てて来たのだけど。ホント、何それ?ふざけんじゃないわよ、って叫びたいわ。」


 それはカーリスだった。どうやらこの度の相手は俺にリベンジを狙っていた模様。彼女は俺がここで一番最初に戦った従魔師である。


「あんたが居ない間にこっちは時間をたっぷりと掛けて用意をしたっていうのに。何よ、その従魔は・・・」


「あ、コレ?今回こっきりの為だけに見つけて来た魔物だね。恨むのであれば皇帝を恨んでね?だって目新しい魔物を出場させてくれって言ったのは皇帝だし?」


「・・・それでこうして実際に連れて来る事自体が大概だって理解して欲しいわね。」


 そんな事を言われても、である。俺は皇帝の求めに応じてこうしてクロ以外の魔物を連れて来ただけである。


「えー?じゃあ戦うの止める?俺は別に構わないんだけど。」


「・・・止めるなんてできるハズ無いじゃない。分かってて言ってるの?だったら呆れるしかないわ。」


「別に俺の不戦勝でも良いよ?」


「それこそあり得ないわね。」


 俺とカーリスのやり取りが終わったとみなされたのか、会場にはアナウンスが入る。


「さあ皆さんお待ちかね!あの伝説となったエンドウが新たな従魔を連れて来たぞ!そんな今回の特別戦の挑戦者はカーリスだ!これは因縁の対決!見事カーリスは伝説を打ち破ることができるのか!それともまたしても無残に敗れてしまうのか?どんな戦いになるかこれは目が離せない!」


 煽り文句は会場を沸かせる、と思いきや、何故か観客はずっと静かで不気味だ。

 何でこんな空気なのかが全然分からない俺は困惑。それとは逆に溜息を吐き出して気持ちを入れ替えているのはカーリス。


 俺の困惑が収まる前に開始の合図が響き渡る。意識を直ぐに入れ替えようと思ってカーリスの方の様子を伺ったのだが。


「へぇ?慎重に攻める気なの?まあ良いけど。そっちは二段階上げた、って言ったけど。前のと変わらない様に見えるけど?」


 俺は以前にカーリスと戦った時の事を思い出す。確かウサギとゴリラとカメだった様な気がする。


「以前の種よりもこう見えて強力なのよ?こんな風に・・・ね!」


 そうカーリスが言いながら人差し指を俺に向ける。するとウサギがその姿を消した。

 いや、消えた訳じゃ無い。消えた様に見える程に瞬発力が高いらしい。

 いつの間にかアオ熊のサイドに回り込んでいて飛び蹴りを食らわそうと跳び上がっていた。

 そしてその蹴りは重い音「ズドン」と音をさせながらアオ熊の腕で防がれていた。

 結構アオ熊は反応速度が早い様だ。パワータイプと見えてなかなかに俊敏らしい。


「・・・お?」


 しかしウサギの動きの方が一枚上手であった。その蹴りは受け止められてしまったのに、もう片方の足でウサギはアオ熊のその腕を器用に踏んで再び高く跳び上がったのだ。物凄い器用である。

 これに俺は呆気に取られた。そして間抜けな声を上げている。


「お?お?おおお?」


 その行動の狙いは俺であった。そのままウサギは空中で一回転、勢いの付いた踵落とし?を俺にお見舞いしようとしてきていたのだ。


 そして既にこの時点でカーリスはゴリラに指示を出してクロを狙わせていた。俺のカバーにクロを入らせない様にする為の妨害なのだろう。

 このゴリラ、魔法を使えるらしくその見た目の豪快さとは裏腹に繊細な狙撃でクロの動きを上手く誘導しようとしている。


 だけどこの攻防はアオ熊の対応の方が早かった。即座に空中に居たウサギを掴んで思い切りカーリスの方に投げつけていたのだ。


 だけどもウサギはどうやら身体能力が凄く高いらしい。三回転捻りを加えて10点満点の着地を決めてダメージなど一切無い。

 このタイミングでゴリラもクロから引いて即座にカーリスの元に戻っている。


「・・・ねえ、その青いの。反則じゃない?何その動きの速さ。膂力。そっちが二体じゃ無く三体連れてたら今のはこっちがヤバかったわ。」


「いや、その最後の一体、防御壁を魔法で張るんだろ?だったら安全確保してあるって事じゃん。ヤバくはならないんじゃないの?」


「どうだかね。あなたの連れて来る従魔はぶっ飛んでる。もし、もう一体連れて来ていたらそいつ、こっちの防御を貫通してきたんじゃないの?」


「うーん?そこら辺は分らんなぁ。一応出場させる候補は後二体は居たけど。」


「恐ろしいわ・・・その後二体ってどんな魔物なのよ・・・」


 苦い顔でカーリスがちょっと引いた態度を示す。とここでやっと冷えていた観客の方からワッと歓声が上がった。

 どうやら今の攻防で一気にボルテージが上がったらしい。最初に冷えた反応だったのは一体何だったのかと言いたくなる熱が沸いている。


「じゃあ盛り上がってる内にもう一回ぶつかっておく?」


「・・・正直言ってこれ以上やり合いたくは無いってのが感想よ。だけど、そうも言ってられないのが悲しいわ。」


「うん、それじゃあアオ熊、なるべく相手に怪我させない様に、殺しちゃわない様に力加減を考えて戦って。」


 俺はここで従魔同士で殺し合いをさせるつもりなんて毛頭無かった。しかし俺のこの指示に対してアオ熊が「え?面倒なんですけど」と言いたげな顔をこちらに向けて来た。

 それに俺は「え?報酬減らす?」と言い返すとアオ熊は現金なものでこれに「ぐぉぉぉぉ!」と気合を入れなおしている。


 そのままの勢いで今度はアオ熊の方からカーリスの方へと突っ込んでいった。狙いはゴリラである。

 クロはどうにもウサギと戯れるつもりらしくそちらに向かう。俺はこの場から動かずにそれを見物だ。


 ゴリラはクロに対して先程魔法を放っていた。今回もアオ熊に対して魔法を放つ。それは氷の礫、それと炎の球であった。

 だがアオ熊はそのまま突進を止め無い。寧ろその速度を上げた。

 氷の礫は顔に飛んでくるモノだけは腕を軽く振って弾き飛ばし、炎の球は自分から突っ込んでいってそのまま突っ切る。

 炎の球はアオ熊に接触すると爆発したのだが、それを一切気にもしないアオ熊。これにゴリラはアオ熊の接近を許してしまった。


「ごぁぁぁ!」「ウホぉぉぉ!」


 そのままの勢いで両者は互いの手を掴み合って力比べの形になっている。

 ここで少しずつ相手を押し始めたのはアオ熊の方だった。体格としては互いに互角と言った感じではあったのだが、その中身はどうやらアオ熊の方が勝るらしい。


 ゴリラはこれに即座に負けを認めてアオ熊の手から自身の手を素早く外して距離を取る為に後ろに下がろうとした。

 しかしアオ熊はそれに追いついてゴリラの胴体を掴み上げてそのまま頭上にまで持ち上げてしまう。

 そのままアオ熊はゴリラをまるでヘリコプターの羽の如くにグリュングリュンと器用に回してしまう。

 六回転程させた後にそのままアオ熊はゴリラを場外へと思い切り投げ飛ばした。


 ウサギの方はと言うとこの攻防の間、ずっとクロと追いかけっこだ。終始ウサギの方が追われる方で、クロがずっと優勢であった。

 ゴリラが場外に落ちてその振動が舞台上に響いたのを合図にクロはウサギを追うのを止める。

 ここでウサギはカーリスの元に戻ってゼイゼイと荒い息を整えていた。


「・・・ねえ、本当に何なの?その青いのは?魔法の爆発をものともしないって、冗談でしょう?被害を受けた様子なんてこれっぽっちも見えないじゃない。しかも力比べまでして勝って、回して、放り投げて、って。酷過ぎるでしょ・・・今回揃えてるこっちの従魔は以前のよりも強いのよ?何でここまで軽くあしらわれるのか、訳が分からないわ・・・」


「いや、勝手にそんな落ち込まれても、俺には何も慰めの言葉なんて思いつかないよ?」


 場外に落ちたゴリラがふらふらとしながらもカーリスの側に戻って来た所でまた観客が沸く。

 あの青いのは一体なんだ?やら。熊型の従魔であんな色の奴は話にも聞いたことが無い、など。

 アオ熊の事を話題にしてどうやら思い思いに盛り上がっているようだった。


「仕方が無いわね。これは最後に取っておくつもりだったけど。流石にもうここで出すしかないわ。」


 カーリスがそう言うとここまでずっと動いていなかったカメがゆっくりと前に出て来た。

 そしてその身を青く光らせる。それはどうやら魔力をその身に溜め込んでいる様に見えた。


「行くわよ!」


 そのカーリスの気合を入れた声に反応してカメがどうやら魔法を使う。

 それは青い半透明の壁。それが舞台上に広がっていく。そこには避ける隙間も無い。

 どうやら俺たちを場外に押し出すつもりらしい。前回の様に逃げ場を作らない様にとドーム状にその魔力壁は広がっていた。


「押し競まんじゅう押されて泣くな、か。クロ、アオ熊、押し止めて。」


 迫ってくるその魔力壁は既に舞台上の半分まで来ている。別にこれを防ぐのに俺一人の力で簡単に押し勝てると思う。

 だが今回は一応従魔を使ってこれにぶつかっていくつもりである。


「魔力を付与しないで何処まで二匹で粘るかな?俺の居る所まで押され切るか、それともこのまま押し止めるかな?」


 言ってしまえば従魔なんていなくても俺一人でどんな試合も勝ててしまうだろう。

 しかしここは従魔が主役の闘技場なのだ。俺がそれをしてしまえばその趣旨が余りにも無さ過ぎるだろう。


「さて、どうかな?・・・お?」


 クロはそこそこ踏ん張って押していた。アオ熊はいつの間にやら全身から青い靄を滲み出しながら魔力壁と対峙している。

 これに俺はアオ熊が何をしようとしているのかが分からなかった。俺が押し止めろと言ったのにアオ熊の行動がどうにもその指示とは違うから。


 しかし次の瞬間、アオ熊から滲み出ていた青い靄がその右手に集中し始めたのだ。

 そしてアオ熊がその体を弓の様に反らした。そしてそこから全力の右ストレート。

 それはカメの魔力壁をぶち壊し「ばあん」と大きな破裂音を生み出した。


 砕け散った魔力壁。そのアオ熊が砕いた部分から全体へと罅が広がっていき、最後に静かに全てが粉々に。

 カメはこの衝撃でだろうか?口から泡を吹いて気絶。


「・・・噓でしょ?」


 カーリスは信じられ無いモノを見たと言った感じで硬直している。

 魔力壁を押してその進行を止めようとしていたクロもこれには少々驚きの表情だ。


 クロの方が魔物としての格は高いのだろうと思う。けれどもそのクロでも今のはどうやらかなりの予想外であるみたいだ。アオ熊の方をじっと見つめ続けていた。


「あー、まだやるかい?」


 俺はカーリスにそう声をかける。どうにもコレは奥の手だったんだろうと思うのだ。それがこうも文句も言えない位に木っ端微塵に破られては試合続行は難しいと思われるのだが。


「はぁ~、こんなの最初っから勝てるはず無かったじゃない。何今の?ハイハイ、私の負けよ、負け。もう二度とあんたとは戦わないわ。心がボキッと派手に折れたわ・・・」


 このカーリスのセリフで俺の勝利アナウンスが会場に響いた。これでお終いである。

 ここで俺は舞台を降りて退場だ。クロもアオ熊も俺の後に付いて来て一緒に控室へと戻った。


 ここでメールンが出迎えてくれる。しかしどうにも何やら様子がちょっとおかしかった。


「エンドウ様、お疲れさまでした。えー、っと、それで、ですね。試合の終わった直ぐ後でお疲れであるとは思うのですが、お客様がお見えになられています。こちらの部屋にお通ししますか?」


「は?客?誰?まあいっか。会えば分かるし。じゃあ連れて来て良いよ。・・・何の用事だ?つか、誰だろ?うーん、何か嫌な予感が・・・」


 メールンは部屋から出て行ってどうやらその客を呼びに行った。

 その間に俺はアオ熊とクロをワープゲートで返す。その際にはちゃんとアオ熊には花蜜のたっぷり入った壺を渡しておいた。

 二匹がこうして戻って大体1分後にメールンは戻って来た。そして部屋の扉を開いてその連れて来た客の事を説明する。


「こちら帝国聖教会の、その・・・マシル様です・・・」


 メールンが少しだけオドオドしながら客人の紹介をする。


「かなりお久しぶりですねエンドウ様。今日はお願いに参りました。話を聞いて頂けないでしょうか?」


「予感が当たったかぁー。あー、その話はここでしても良いモノかな?メールンも一緒に居ても大丈夫な?」


「そうですね、別段口止めなども必要ありませんし、無関係の誰かに聞かれても問題は無いと思いますけど。一応は念の為に私の部屋でご説明をさせて頂けるとありがたいですね。」


「・・・分かったよ。どうにも俺は変な事を引き寄せるのか、はたまたそう言った星の元に生まれて来たのかね?」


「そう言えば、あの青い魔物と黒い魔物はどちらに?お見掛けしませんが。あの見事な毛並みに触れさせて貰いたかったのですけれど。」


「あ、試合見てたのか。と言うか、度胸あるな、アンタ。」


 どうにもマシルは肝の座った女性である。もしくは一般的な感覚や恐怖などのネジの数本がぶっ飛んでいるのか、どうなのか?常時シレッとした態度を崩さない。


 とにもかくにも何だか深刻そうな話を持ち込まれたのだと俺は察して俺はこの帝国聖教会の聖女の求めを承諾した。

 こうして俺は控室を出ようとした所のこんなタイミングで今度は皇帝がやって来た。


「やあやあエンドウ!君の勝利に祝いの言葉を言いに来たよ!それとついでにあの青いのを良く見せてくれないかなぁ!・・・おや?これはこれは聖女殿。こんな所で会うとは奇縁だね。貴女も試合を見に来ていたのかな?」


「これはこれは皇帝陛下。ご機嫌麗しゅうございます。この際ですし皇帝陛下にも一緒にお話を聞いて貰った方が手間が省けるのですが、お時間を頂けないでしょうか?」


 ここにきて皇帝までやって来てメールンが完全に固まってしまった。

 俺はこれにさっさとこの場を離れるのがメールンの心労の為にも良いだろうと思って皇帝の私室で話そうと提議した。

 これに聖女も皇帝も反対しなかったのでそのまま俺たちは控室から出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ