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妙にヤル気になる

 さて従魔はどうしようとここで考える。闘技場に出場するときっと俺に注目が集まるはずだ。

 そうするとまたクロを連れて行くときっと客は「またか」と思われてしまうだろう。

 確か皇帝からはクロともう一匹新しい従魔を連れて来て欲しいと言われていた。

 俺が別に観客に慮らなければならない理由は無いのだが。まあここはそれなら見ている者たちを驚かせる魔物を連れていきたい。


「巨狼は多分説得したら出てくれると思うんだけど、それはちょっと違うんだよなぁ俺の中で。」


 しかしそんな事を言っても俺は魔物の種類に詳しく無い、どころかそもそもこの世界の基本的な部分を全く知らない。

 なのでこうした事に一人で悩む事自体が無駄なのだ。


「こういう時は人に聞くのが手っ取り早いけど、自分で見つける旅に出ても良いよな。さて、海、山、川?草原?樹海?後はどう言った場所に行って無いだろうか?そこで見つけた魔物を従魔にするのがいいかなぁ?」


 空中戦ができる飛行型?ダイナミックに突撃をかます地上型?トリッキーに三次元戦闘が出来そうな素早く器用なタイプが良いだろうか?

 それとも相手を翻弄する特殊な行動を取る魔物とかもアリだな、などと考える。

 しかしそこは漠然としたイメージしか湧かない俺はまだまだこの世界の知識が不足している。


「ダンジョンの中に生息してる魔物とかでも大丈夫だよな?何処かで都合の良いそんなダンジョン無いかな?」


 ダンジョンのボスなどを従魔にすると言った事もできるのならばやってみても良いかもしれないと考える。


「人型タイプって従魔にできたりするのか?と言うか、闘技場はソレを認めたりはするのかな?ルール未だに詳しく読んだ事無かったな。どうしよ?ホントどうしよ?」


 その内に俺は脳内でとある有名な大人気ゲームを思い出す。そしてそのゲームの代表的なとあるモンスターを思い描いた。


「そうだな、電気鼠とかどうだろうか?クロはネコ科?だし、そこの逆を行って鼠とか?」


 猫と言えば鼠、鼠と言えば猫、そんなイメージをこの世界の人々がするかどうかは分からない。

 けれども俺の中で方針が決まった。鼠系の魔物を従魔にするつもりでここは考えておく。

 他に面白そうな魔物がいたらソレを捕獲して見れば良いだけだ。


「よし、それじゃあ手当たり次第に地域を変えて色んな魔物を探し回ってみるか。」


 俺は妙なヤル気が出て来てしまった。その勢いで帝国から遠く離れた遥か地平線に聳え見える雪山が視界に入ったのでそこに先ずは向かってみる事にした。


 そうして30分も飛行していれば到着してしまう。


「まあ急ぐ程の事でも無いのに何で俺はこんなにハッチャケてるのかね?今頃になって冷静になってきた。」


 その目的の山の頂上に降り立ってからやっと気持ちが落ち着いてきてそんな感想が漏れてくる。しかし。


「いやー、凄い景色だな。絶景かな、絶景かな、ってか?苦労も何もしないでこんないい景色を見られて、冷たいけど、澄んだ美味い空気を吸って、うん、何だか罰当たりな気がしてくるね。」


 本来だったならこの景色は険しい道のりを、山を登って来て苦労の末に視界に入れるはずなのだろうが。

 ソレを俺はこんなにも簡単に見る事が出来てしまう、何だかソレが後ろめたい気分にさせられた。


「本来の目的を忘れるなって感じだけど。まあ、ここの周囲には生物の「せ」の字も見当たらないけどね。」


 高山、しかも頂上である。そんな厳しい環境で生きる生物は本来なら珍しい。

 いない事も無いのだろうが、この山の山頂にはそんな生物はいないみたいだった。


「さて、ここから少しづつ下山しながら魔物を探すのか・・・魔力ソナーで良いだろ。」


 一々手間を掛ける必要は無い。この目と脚で捜す、などと言う事をせずともこうして魔法と言う便利過ぎて依存度MAXな手が取れるのだ。使わない手は無い。


 そして早速反応があったその場所に見に行ってみればそこに居たのは。


「・・・羊だな。しかも、超鋭利な角が前方に向けて伸びてる超攻撃的な羊だな。」


 ソレはもこもこフワフワに見えてその実、頭部に凶悪とも言える角が生えた危険な生物である。

 まるで闘牛。俺のイメージにあるくるっと巻かれたあの羊の角なんかでは無い。


「あれが刺さったら土手っ腹に見事な穴が開くね、うん。」


 いきなりヤベエのを見てしまったなと思ってしまう。この羊、切り立った崖をヒョイヒョイと移動するのでその機動力は高い。

 軽快なステップで相手を翻弄してその角で「グサーッ!」と言った光景が目に浮かんでくる様だ。


「コレは候補に入れておいて他のも探したい所だな。リューに世間知らず、何て言えた立場じゃ無いな、俺も。」


 そんな事を考えながらもう一度魔力ソナーを使って他も探してみた。しかしその他にはコレと言って面白そうな生物は見つからなかった。

 小さな蜥蜴、美しい高山植物、昆虫も少々、後は翼を広げると凄く美しいカラフルな柄の小鳥と言った感じである。


「良し、次に行って見よう。」


 こうしてここでは羊を捕まえたりせずに別の土地に向かう事とした。

 とは言え、何処に行けばそう言った俺のお眼鏡に叶う魔物が居るかが分からない。

 しかしそれでも良いのだ。偶にはこうした当ての無い旅もまた良いモノだ。


「うん、ワープゲートで戻れちゃう俺が気取ってんじゃねーって感じだな。」


 スッと冷静になって今度は目に入った森の方へ飛ぶ。この山の麓である。かなり広大な森だった。


「これなら何処かに面白そうな魔物が居るんじゃないか?」


 と言ってる側から目の前に巨大なクマが現れた。毛並みは何故か青い。それこそ「ザ・青!」と言っても良い様な真っ青である。


「え?」


 クマと言えば茶色か黒か、そんな固定観念があった俺はここで目の前の存在を受け止めきれ無くて硬直してしまった。

 そんな俺に構う事など無いクマは既にその鋭い爪を持つ手を大きく振り上げていた。そしてソレは即座に振り下ろされた。


「いやー、びっくりした。何?流石のファンタジー?見事な青だな、うん、驚かされるわ、これは。」


 その青クマの一撃を食らった所で俺には何の痛痒にもならないのだが、これに俺はちょっとイラっとした。

 クマは殴ったその腕が止まったにも関わらず未だに力を入れて俺を押し切ろうとしていたのだ。

 俺はその腕に向けてパッと蠅でも払うかの様な軽い動作で手をぶつける。


 音としては「ドゴン」と言った感じだろうか。クマは腕を勢い良く大きく弾かれて体勢を崩す。

 若干そのクマの目に驚きが混じっている様に見えたのだが気にしないでおく。


「よし、コイツも候補にしよう。こんなに真っ青なクマって闘技場に出ていないよな?相当に大きいし、観客が見たらアッと驚くだろきっと。」


 俺はここで警戒心を上げてこちらの様子を窺い始めたクマを無視して魔力ソナーを広げる。


「お次はどんなのに出会えるのかね?ん~、こっちの奴に先ずは接触してみるか。」


 クマを無視して俺は空に浮かび上がる。それを呆気に取られた様子でクマは俺を見上げ続けていた。


 次にこの森で接触した魔物は何とウサギだ。しかし俺はまたしても青クマと同様のリアクションで硬直してしまい、魔物の一撃を食らっている。


「・・・真っ赤っか。角あるし、その角の形状が何かおかしくありませんかね?と言うか、前も後ろも足の爪鋭すぎない?殺意高過ぎない?」


 結果はまあ、掠り傷一つ負っていないのだが。ソレでも一瞬の交錯でこの真っ赤ウサギから五連撃を食らっている。

 左右の前足で二連、後ろ足左右で二連、その額の角?角で良いのだろうか?額のそれはまるで日本刀に見える見事な波紋である。ソレで合わせて五連である。


「これ普通の人が不慮の遭遇しただけで死ぬ確定?クマの時もそうだったけど。今のスピードは俺みたいにバリアを四六時中張れてる人じゃ無いと即死だよな?」


 見事にこの真っ赤ウサギ、急所を狙って来ていたのだ。頸動脈がある部分をこのウサギ、把握している。


「返り血で真っ赤なのかと思ったんだけど、地毛じゃん。どうなったらこんな見事な赤な毛が生えて来るの?と言うか、こう言う特殊種族?それとも特殊個体?種族だと全体がこんな真っ赤な毛のウサギで、個体だとか言ったらコイツがあれだ、アルビノみたいな感じで突然変異とかで生まれて来た?」


 何だか面白くなってきてしまう。さっきのクマも見事な真っ青だったのだ。もしかしたらこの森に居る魔物で戦隊モノの様に五色を揃えられるのでは?などとくだらない事を考えてしまった。

 山に居た羊は白い毛だったのでソレを含めれば三色見つかった事になる。残りは2。


 この森は結構広大だ。開発やら開墾、開拓が進んでいないのだろう。ならば後二色、探すしかない。


 そしてその後に魔力ソナーで手当たり次第に引っ掛かった魔物を見に行ったのだが、特にコレと言ったカラフルな魔物は見つけられず仕舞いだった。


「うむぅ・・・難しいかぁ。そう簡単には見つからない、と言うか、存在しないか。色としては黄色とか緑?後はブラックにピンク?あ、ブラックはもう居るな。銀とか金でもオッケーだな。紫とかもあれば捻りがあって良いんだけど。」


 しかし見つからないのであればこの森はもう用は無い。別の地で他の魔物を探しに行った方が良いかもしれない。


「五色戦隊、とか拘るのがいけないんだな。最初に目標に掲げた電気鼠を見つけたいな。うん、そうしよう。」


 寄り道、脇道は一度入り込むと時々戻れなくなったりするものだ。ここは一度初心に返るべきである。

 当初に考えていた方針を思い出して俺はこの森から脱出した。何時までも此処に残っているとカラフル魔物を何時までも探してしまいそうだったから。


 空を飛び上空から遠方へと視線を向ける。その視界には大きな湖が入って来た。


「水場にはきっと色んな動物も魔物も近寄って来るよな?なら何か珍しい珍獣でも居る可能性があるか?」


 水は生物には必要な要素の一つ。それを求めて何か面白そうな生物が水を飲みに来ているかもしれない。

 そう考えて俺はその湖に向かう。姿は魔法光学迷彩だ。透明になって気付かれない様にと準備して到着する。


「・・・居ないなぁ。そういきなり遭遇したりはしないか。自然界の動物を撮影するカメラマンとかはそれこそ長いと一週間も二週間も同じ場所に留まるって言うしな。」


 そう易々と本来であればそんな珍しい生物に出会う訳が無い。考えを改めるべきだろう。

 山では羊、森ではクマにウサギと、何とも特徴的な魔物と連続で出会っているのでちょっと感覚がおかしくなっていた様である。


「ちょっと釣りをしてみるか?いや、どうせならこんな異常に透明な水何だし、ちょっと水底探索を楽しんでみても良いなぁ。きっと幻想的な光景が見れるだろきっと。」


 俺が今存在している世界がそもそも「ファンタジーだろ」なのだが、そこに誰もツッコミを入れてくる者はいないのだ。このまま湖の中へとゴーである。


 その中で見た景色はそれこそ何処までも透き通った薄水色の輝く世界。水面から入り込んで来る光がそこら中でひらひらと、キラキラと揺らめいて美しいと言う言葉が陳腐になってしまう様な、そんな世界だった。

 唖然としてしまい中々前へと進まない足。ここで立ち止まってこのまま過ぎる時間に身をゆだねてしまうのも良かったが、それでも一歩一歩と確実に足を上げて湖の中心に向かって歩く。


「言葉も出ないって言うのは今みたいな時の事なんだろうな。・・・と言うか、確か鉱物成分?が多過ぎる水ってこうして透明度が上がるんだっけ?うろ覚えな知識だな。水生生物がそう言う水質だと生きれないんだったか?・・・魚も見かけないし、小さな水生昆虫も、見当たらないな?」


 これ程に美しい水であってもそのまま飲んでしまうと腹を壊して下痢をするだろう。

 人の身体で吸収できない成分が多量に入っている水はそのまま異物として判断されて免疫機構が働いてソレを体外に排出しようとする動きを身体はするのだ。

 これ程の透明度の水が俺のうろ覚えの知識のそのままであるならばこの水は飲む事が出来ない。幾らこれ程綺麗であっても飲めないというのは罠みたいに感じが。


 さてそれに関係するのだが、そうなるとこの湖の水を求めて生物がここにやって来ると言うのは可能性が低いかもしれない。

 特殊な生物でない限りは同じくこの水は飲用に向かないだろうから。


「今日はここで休憩かな。夜の湖も見たいし、このまま暫く時間をここで潰すかぁ。」


 こうして今日の従魔探しをここで一旦終わりにする事にした。

 そのまま水中で過ごす事しばし。この美しい景色に見とれていたら時間はあっという間に過ぎて夕方に。

 それに合わせて水の中も青から色が様々に変わっていく様を眺めていた。

 次第に夜の帳が下りて世界は闇に支配され真っ暗に。そこでやっと俺は湖の中から上がる。


「・・・あぁ、心が洗われる様だ。これはまた来よう。ドラゴンはこの光景を見た事はあるかな?なければ自慢してやろう。それから連れてきてやろう。うん、リューにも見せてやろうか。そうしようその時は。」


 湖の中央に出たのだが、これまた湖上も美しい。鏡面、湖の表層は風が無く揺れておらず、夜空をそのまま映しこんだ光景である。

 上も下も輝く星空となって挟まれている状態となっている。まるで宇宙の真ん中に居るかの様な錯覚を起しそうである程にそれは自分の身の矮小さを突き付けられる光景だ。

 その錯覚を奪い去る様に一陣の風が吹いて湖面を揺らすと一瞬でこれまた違う美しい光景を見せてくれる。

 天の星を受けてゆらゆらと揺れる光の波が一面に広がる。


 そうしてまた昼間とは違う夜の湖の顔を堪能しながら俺は湖畔に魔法で即席ベッドを作り出し、そこで美しい光景をいつまでも眺めながら夜を過ごした。


 翌朝、日の出前に目が覚める。睡眠時間は少々短かったのだが、眠気はそこまでじゃ無かった。


「寧ろこの光景を見れば目が無理やり覚めるってもんだよなぁ。」


 朝日で黄金に光る湖面。薄闇から徐々に日の光で別の美しさを見せつけてくる湖。


「こんなのを一日の始まりに見ると何だか妙に「今日は良い日になるんじゃないかな?」とか思わされるよなぁ。」


 御利益などが有る訳でも無いはずだ。しかしこの様な景色を目に入れてから動き始めるのと、そうでないのとではモチベーションと言ったモノが大幅に変わるだろう。

 ましてや俺は昨日にも湖の中での絶景と言える光景を目にしていたりする。それで余計に相乗効果が起きている様に思える。


 そうして俺はこの美しい湖畔にて朝食を終えてから出発をする。

 見つけたいのは電撃を操るネズミだ。とは言ってもこの世界にその様な魔物が居るかどうかすら俺にはわかっていない。

 あくまでも見つかったら面白いな、と言う感じの只の方針みたいなものである。

 昨日はあのカラフルな魔物を見つけているので別のド派手な色をした奴を見つけてみたいと言った所もある。


「まあそんなのがそうポコポコと見つけられてりゃ世話無いわなぁ。あんまりそういうのは気にしないで行こう。」


 こうして今日も従魔探しを再開である。期待をし過ぎるのは余り良い事じゃない。

 見つかれば望外、見つからない可能性の方が高い、位に思っておくのが良いだろうこう言った事は。


 そうしてお次は大草原に目を向ける。もちろん飛行して上空に飛び上がっている状態で見えた景色である。

 そこにはどんな魔物が住んでいたりするかと考えるとちょっと楽しく思えてきた。

 まだまだ俺の知らない事はこの世には沢山ある。それを思うと年甲斐もなくちょっとワクワクしてくる。


「俺にもまだそんな少年心が残ってるのは嬉しい事だな。まるで昆虫採集を楽しむ子供みたいだ。とは言え、あんまりにも好き勝手はできないけどな。」


 俺は別にこの世界の生態系を破壊したい訳では無い。その場所に住む魔物を従魔として連れて行くにしても多少の周辺環境の調査をしてからでないとダメだろう。

 こんな考え方をするのはおそらくこの世界で俺くらいのモノだろうが。


 そうした考えをしながら大草原の端に到着だ。そこで早速魔力ソナーを広げてみれば。


「・・・中型か?それか小型の魔物が中心って言えばいいのかな。そこまでの巨体を持つ様な魔物は引っかからない、と。まあ小型も小型で特殊な攻撃法を持つのとかが居ればそれを連れて行くのも面白いよな。先ずはこの目で直接見てからだな。」


 この大草原、地下にもどうやら隠れ住む動物、魔物も幾つかの種類が生息している様子である。

 それらもちゃんとこの目で直に見て観察して従魔候補に入れるかどうかを確認しておきたい。


 と言う訳で、先ずは一番近い場所に反応が見られた魔物の所に向かってみた。するとそこには。


「うん、可愛くないな。もの凄く凶悪にした感じのプレイリードッグって、いや、ある意味スゲーな?」


 そこには10匹以上の牙を剥き出しにしてこちらを威嚇する、鋭く長い爪をまるで拳法家かの様に構える小型魔物である。

 それがあっという間に俺を取り囲んだのだ。素早い動きと見事なまでに流れる様な連携である。これにはさすがに俺もびっくりである。


「その生態と行動も可愛くない。なんだよ、今の動きは。」


 包囲してきた中の一匹が俺に飛び掛かってくる。それを合図に上下左右前後から同時、或いは時間差で次々に止まる事無く襲撃をしてくるプレイリードックたち。

 素早いのだ単純にこの魔物。まるでその攻撃密度は嵐の如くである。

 その爪や牙で本来ならば敵を切り刻み、ミンチにしてしまうのだろうが。


「あー、俺には効かないんだよ、悪いね。いきなりこうしてお邪魔して驚かせちゃて。うん、まあ中々だね。候補に入れも良いなぁ。」


 上から目線発言だが、文字通りこの魔物たちよりも俺の方が実力は遥かに上に居るのでこの発言は許して欲しい所である。

 向こう側からしたらいきなり現れた俺の事など迷惑なだけだっただろうが。


「よし、じゃあ今度は別の反応の所を見に行ってみるか。」


 一通りの攻撃を終わらせても全く死んでいない俺に恐れを成して動きを止めたプレイリードックたちにさよならを告げて別の魔物の場所へと向かう。

 魔力ソナーで選別してプレイリードックたちの反応を除去して他の魔物の反応のある場所へと進む。


 そこにはバッファローが居た。いたのだが、角が眉間から「も」生えている。その角の形状は禍々しい。

 ねじれて居るのだ、まるでDNAの螺旋の如くにである。

 命知らずでなければ近づかないだろうという感じのフォルム、その体格はまるでワンボックスカーである。


「巨大だなぁ。野生のウシって肉質どうなんだろうか?筋肉質で噛み応えは硬いのかね?あ、こいつは肉食なのか?草食か?」


 焼肉の事が頭に過ってそんな事を思ってしまう。

 これだけの巨体を維持するのに草だけというのは考えにくいのだが、しかし別段俺が近寄ってもこの魔物、こちらを威嚇してこないどころか俺の事など一切眼中に無さそうなのだ。夢中でハムハムと草をずっと貪っている。


 どうやら群れを作るといった様子も見られないのだが、ここに居るのは五頭である。

 それぞれが、それぞれ、ずっといつまでも草をもしゃもしゃ。時折首を上げて周囲を見回しつつ先ほど胃に収めた草を反芻しているようで口をモゴモゴ。


 そんな時にやっとその内の一頭が俺に気づいた様子を見せたのだが、やはり無視。

 不思議そうに俺に視線は向けてくるのだが、直ぐに興味が失せたと言わんばかりにまた草を食べ始める。


「何だか気が抜けるなぁ。まあ色んな魔物が居るのが当たり前だよな。襲ってこない大人しい魔物ってのも存在するよな。うん、こいつは闘技場で暴れさせようとしても工夫が必要そうだ。」


 この魔物は候補に入れない。どうやら闘争心と言ったモノが一切感じられないから。

 他のを探そうと思って俺は早々にその場を離れた。


 歩いてのんびりと次の反応がある場所に向かおうとその場を20m程離れた所で奇襲を受けた。上空からだ。


「うおっ!?びっくりした・・・何だ?これ・・・」


 俺の頭、その真上からだ。何か硬いものが落下してきて衝突している。

 俺はバリアを常時張っている状態だったのでその衝撃は僅かで無傷だ。

 しかしどうやらぶつかって来た存在はどうやら死亡したらしい。それは鋭い嘴だったのだろうモノを持った鳥の魔物であろうか。


「あー、うん、自慢だったんだろうその嘴が衝突した圧でぺしゃんこだな。それだけの力が発生するほどの速度と威力で突っ込んで来たって事だろうなぁ。」


 ここの大草原、結構恐ろしい魔物が住んでいるのだな、と今さらになって認識した。遅過ぎである。バリアを張っているのでそういった危機、危険意識と言ったモノが俺の中に余り無いのだ。


 この大草原はこの様な鳥魔物が上空から一気にこちらの意識外、視覚外からぶっ飛んでくるのである。

 何らの対策もしていない者であればこれで殺されていたはずだ。こんなのもし幾ら命が有ろうともこの大草原に入り込む奴はいないだろう。

 というか、最初に見に行ったプレイリードックも相当危険な魔物では無いだろうか?俺にとっては別段どうとも無かった魔物ではあるのだが。


「そういえばこんなになだらかで大らかな雰囲気の場所なのに何処にも街道らしきモノは上空から視界に入ってこなかったな。」


 恐らくはこの大草原、危険地帯に指定でもされているのだろう。そのせいで開発などはもしかしたら進める事が出来ていないのかもしれない。

 街道を進んでいると突然頭上から鳥の魔物の襲撃、しかもそれはかなりの速度を出しての嘴での突き刺しである。

 明らかに頭をピンポイントで狙ってきたのか、はたまた偶々なのか。

 これは胴を真正面からこの魔物に狙われても一般人なら躱す事も出来ずに腹に風穴を開けられてしまうのでは無かろうか?

 そんな危険な街道など利用する者などでないだろう。そうなるとこの大草原に街道を作る意味が無い。


「それなら安全に通れる屋根付き街道ってどうだろうか?・・・この世界には魔法があってもソレを作るにはどれだけの予算と期限が必要になるか分らんな。そりゃ膨大、って言葉ですら表せないくらいの金が必要になるだろうな。あ、資材も必要か。」


 どんな物を作り上げるかによってその総工費は変わるだろうが、俺のイメージでも、そうなってもまあ兆は下らない金額となるんだろうが。


「皇帝にちょろっと聞いてみるか?・・・いや、余計な事は考えるべきじゃ無いな。俺の考えるこっちゃないや。だって聞いたら俺を頼りにしてくるよな?言い出しっぺなんだから作ってくれないか、とか言われるよ。」


 俺がそこまで帝国にしてやる義理は無かった。義務も責任も無い。


「さて、この魔物は捌いて今日の昼ご飯かな?見た目はハゲワシみたいだけど・・・食える、事は食えるかもしれないけど、臭いとかクセとか無ければ良いんだが。」


 食肉の共通としてどんな動物も筋肉部分と言った所は安定して食せる部分と言えるだろう。

 しかしこの鳥魔物はどうにも俺を殺して食べる気で突撃して来たかどうかは今になってしまったら分からないが、肉食かもしれない。

 肉食タイプの動物の肉などを食べるのには別段抵抗は無いのだが、、もしかしたら独特の臭みなどが有るのでは?などと変な先入観が出てきてしまう。

 余りその点を深く考えない様にする為にインベントリに鳥魔物をポイと放り込む。まだ昼には少し早い。


「・・・ちょっとここいらで一旦冷静になるか。勢いとワクワクで無駄に突っ走っちゃったな、これは。」


 次を探そう、そんな流れではあったのだが、ふとここで突然に気持ちが落ち着く。そして自分のここまでを顧みた。

 多分俺はこのまま放っておいたら何時までも魔物を探し続けただろう。

 候補候補と言いながら何も決めずにあれもこれもと終わり無く色んな魔物を見てみようとして世界中を飛ぼ回っている所がすぐに想像できた。


「これはダメなパターンだな。ちゃんと専門家に聞いてアドバイスを貰わないと何時まで経っても自分だけじゃ決めないわ、これは。」


 そう決めた俺は今度は誰にアドバイスを貰おうか悩む。

 皇帝か、ゲルダか、或いは闘技場の関係者に聞くのが一番良いのか。はたまた情報屋に聞いてみるのが良いだろうか。


「一時的に俺がゲスト出場して従魔闘技場を盛り上げるって話だったはずだよな?なら皇帝が良いのか?いや、サプライズで出場従魔はその時まで発表しない方が面白いよな。じゃあゲルダか、情報屋に相談が一番良いかな?」


 当初の目的の電気鼠の事は横に置いておく。ここで俺はワープゲートを出して一度家に戻る事にした。

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