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お前もうちょっと周囲の事を考えろと怒られた

 予算を少々使わせ過ぎたかと思ったので俺はその代わりとして海の幸のサンプル品を多めに持って翌日に城へ行った。

 メリアリネスにも持って来た海産物を一度確認させておく。


「・・・あの、コレだけのモノをタダで頂けるので?軽く見積もっても相当高額になるのですけれど?」


「いやー、真珠の件では何だか迷惑かけちゃったかな?と思ってお詫びの印に?的な?みたいな?美味しいからコレを食べて元気を出してくれ。女王業、頑張って!」


 励ましも入っている。昨日のメリアリネスの落ち込み様への俺の心配も含まれていた。


「頂けるのなら、まあ、有難く頂戴しておきますけれども。・・・コレを料理長の所へ持って行ってあげて。」


 そうメリアリネスが指示を出すと部屋に控えていたメイドさんがこれらをワゴンに乗せて退出していく。


「・・・これで、全部ですか?他に隠している事は?問題を持ち込んだりは?」


「いや、無いね。と言うか、俺の事をメリアリネスはどんな疑い方してんの?」


 その時だ。こう言った時に妙なタイミングで出て来る。


「みゃー!」


 腹が減ったのであろう「ツチノコ」が空気を読まずに俺の胸ポケットから飛び出してくる。

 おれはソレにサッと魔力の玉を作り出して「ツチノコ」の前に出す。手慣れたものだ。

 ソレをパクッと「ツチノコ」が食べたら即座に俺の胸ポケットにサッと仕舞い込む。

 まるでここ最近は「有袋類」に自分がなった気分にさせられている。この繰り返しをどれ程してきた事か。


「・・・い、ま、の、は、な、ん、で、す、か?」


 額にビキビキと青筋が立っているメリアリネス。何故これほどに怒っているのかを俺は理解できなかった。なので正直に聞いてみた。何で怒ってるの?と。


「今、私は聞きました。隠している事は無いか、問題を持ち込んでいたりはしないか、と。で、イ、マ、ノ、ハ、ナ、ン、デ、ス、カ?」


「え?いや、これ別に隠していた事じゃ無いんだけど?うーん?別に深刻な問題って訳でも無いから話す必要は無いと思うけど?」


「それは!貴方の!基準で!考えたら!ですよね!?不本意ながらも我が国で貴方が何と呼ばれているのかご存じでしょう!?」


 声を荒げるメリアリネス。どうやら自国での俺の印象をこれ以上ひっちゃかめっちゃかにされるのは止めて欲しいと言う求めである様だ。

 そして何にも聞いていないのに後々からこの「ツチノコ」の件で万が一にも問題が起きれば収拾がつかなくなるとでも判断したんだろう。

 だから今説明を求めていると。この場で何もかも吐け、と。

 この場、このタイミングで「ツチノコ」が飛び出していなければこれ程の剣幕にメリアリネスはならなかったのだろう。

 ここは女王陛下の私室である。こんな所でもし他の部下たちが居る目の前で「ツチノコ」が俺の胸ポケットから出て来たのを見られていたらどんな噂がこの城内に流布されるか分かったモノでは無いと。

 俺はどうにもこの城の者たちからすると腫物扱いと言った模様だ。まともに俺とこうして接する事が出来るのはメリアリネスだけと見られていると。


 もしかしたら側近やら部下たちがそもすれば「女王陛下はあの魔王に操られている」とでも密やかに口に出していて革命を画策しているモノが居るかもしれない。

 そうは流石に思いたくはないが、人間って奴は何時、どんな事で狂いが生じるかは分かったモノでは無い。

 だからあまりメリアリネスも俺との接触回数は増やしたくないと考えていた所なのかもしれない。そこにきて「ツチノコ」なんて言う気になるモノを目にして、とうとう爆発してしまった様である。


 もしこの「ツチノコ」が俺の胸ポケットから飛び出したのを俺に対して敵意を持つ輩が見たら、何と喚き騒ぐだろうか?怪しい生物を飼う危険人物?正体不明の禍々しい呪物を扱う最悪の魔術師?

 取り敢えず何とでも表現をして幾つもの俺の「二つ名」を作ってはばら蒔いて、俺への悪い印象を他の関係無い者たちへと広める事だろう。


 ソレを恐ろしい事だとメリアリネスは考えていると。それで俺の認識の甘さに怒っていると。


(俺は別にそんな事になっても脅威とは思わないからなぁ。そこで温度差が、ねぇ?)


 俺にとってはこの「ツチノコ」の事は別に秘密にしておく事でも何でも無い。

 なので俺はドラゴンから聞いた事を混ぜてこの「ツチノコ」がどうやって生まれて、どうやって育つのかをはじめから詳しく説明した。

 俺も自分のおさらいとしてこの「ツチノコ」をより良く知る為に頭の中で情報を整理しつつ説明した。


「・・・そんな事があるのですか?ソレは、それはもう既に世界的に周知されていなければならない重大情報では?い、胃が痛くなってきそうです・・・」


 神経性胃炎を起こしかけているメリアリネス。どうやらこの話は世界的に見たらヤバイ情報だったらしい。


「今の所は別に問題は起きていないし、心配しないでも良いんじゃない?事が起こったら俺が責任もって対処するし?」


「貴方がそもそもの元凶では?自覚は?自覚は無いのですか?アナタは今この国で何と言われているか分かっていますか本当に?」


 無表情で、怒りの声でメリアリネスは俺に顔を寄せて来た。その迫力で俺は身体を引く。


「いや、だってさ。しょうがないでしょ。世の中なる様にしかならんよ?どうにでもなる世界なんて自分の手の平の中だけで管理できる狭い範囲くらいだよ?そう考えれば諦めもつくんじゃない?俺は、まあ、行き当たりばったりで正直生きてるって自覚してるからこの程度では何ともなぁ。」


「貴方は他を黙らせられる、有無を言わせない力を持っているからそう言えるんですよ・・・」


 まるで魂が口から抜けているかの様に脱力してしまうメリアリネスは椅子に深く沈む。

 メリアリネスが真面目に考えなくてはいけない問題では無いのに深刻になり過ぎだと俺は思うのだが。

 だってコレはメリアリネスが自らの意思でやった事では無い。当事者は俺である。メリアリネスは無関係だ。


「もう良いです。全て聞かなかった事にします。そんなモノ、対処方法なんてあるはず無いじゃないですか・・・」


 諦観してしまったメリアリネスは暫く放っておくしかない。俺がこれ以上何を言っても気を取り戻せたりはしないだろう。

 なのでもう既に用事の無くなった俺は村に戻った。


「さて、後はそのうち真珠を売った代金を受け取りに行くだけ、かな?後はノンビリとしていようか。」


 ====   ====   ====


 アレから二ヵ月が経つ。平和だ。何の問題も起きていない。

 ノトリー連国は俺の命じた件について全力で準備をしていてこれから実行と言った感じだ。ちょくちょくと様子を確認しに行っていたが、逆らった事は何もしている様子は無い。

 新選民教国の方も海鮮品をばら蒔いたりはしていないので市場の混乱と言うのも無い。気まぐれに俺が食べたくなった時には海に入って収穫し、おすそ分けをメリアリネスにしていた位だ。


 もちろんこの村でも海の幸パーティはした。住民たちは喜んでくれていた。

 ドラゴンが「うむ、美味い」と言ってバカスカ食いまくるのを殴ってでも止めたと言う場面などはあったが。


 そして米だ。順調に育成は進んで収穫量も増やした。味の方も不満は無い位に品種改良を完成させている。

 魔力を土壌と水に混ぜて生育させていたのでバンバカ米が収穫できまくった。念願の海鮮丼を作って食べたのは言うまでも無い。


「・・・これが、スローライフと言うモノか。」


 俺は一人そんな事を気取って呟いていたそんな日に事は起こった。


「みゃー!」


 何時もの様に「ツチノコ」が俺の胸ポケットから飛び出してきたので毎度の事で同じ様に魔力玉を出す。

 これに変わらずパクッと食いついて丸飲みした「ツチノコ」が。


「・・・みゃぁァぁァぁァぁァぁー!」


 叫んだ。俺は直ぐに思考が追い付かずにこれにびっくりしてしまう。何事かと。

 そしてそこから「ツチノコ」が光り輝き始めたのだ。そこでやっと俺は気が付いた。


「え?成体になるのかコレ?早くね?」


「ほほう、中々に早かったな。」


「うおっ!?驚かせるんじゃねーよ。ってか、いつの間に・・・」


 俺の隣にはドラゴンが立っていた。今先程迄は確実に居なかったのに。

 ドラゴンに気を向けつつも光る「ツチノコ」からは視線を外さずに見ていると、その姿がドンドンと変わっていく。

 そして最終的に光が治まった頃には「ツチノコ」はどうやら成体に変わっていた。


「しゃー!」


 鳴き声が「み」から「し」に変わっている。いや、それ所じゃ無い。

 その大きさ?いや、長さと言うべきなのだろうか?相当なものになっていた。


「・・・見た感じ、翼蛇?ちょ・・・長すぎだろ、デカすぎだろ。ヒフミノヨノゴロ、翼は六枚?」


 三対の翼を背に持つ巨大で長大な蛇がどうやらこの「ツチノコ」の成長した姿らしい。


「エンドウの影響をそこそこ受けてはいるがな。」


「おま、俺の考え読めるんか・・・」


「勘だ。」


「しゃー!」


 翼蛇はその頭?鼻先?を俺に擦りつけて来る。この巨体だ。力も強いので押し付けられると仰け反りそうになる。

 そこら辺の加減を感じ取っているのか、翼蛇はそこまでぐいぐいと俺にすり寄ってはいない。


「エンドウを親と思っておるんだろう。甘えたがりな様だな。うむ、本来であれば幾星霜掛けて少しづつ魔力を溜めて世界を放浪して成長していくのだがな。こうも短期間で高濃度の魔力を毎日何度も与えられていれば中身の伴わぬ成龍ができてしまうのは結果が見えていた。」


「お前それ先に説明するべき事だっただろ・・・」


「まだまだこやつはこの様な姿でも子供と変わらん。エンドウ、お前がこれからも面倒を見て行くのだな。責任を持って。」


「ハメられた気分なんだが?」


「いやいや、お前が自分の意思で卵を孵し、餌をやっていたのだろう?ならばソレは誰の責任でも無く、お前のやった事だ全ては。」


 フハハハと笑うドラゴンに俺は文句の一つも付けたかったが、それはできなかった。

 色々な事をドラゴンに教えて貰って疑問を解消していたのだ。今回の件でも。

 イラっとさせられたとしても、俺はコイツの知識面に対して文句を付けられる程には恥知らずでは無い。


「しゃー!しゃー!」


 翼蛇が鳴くので何かと思ってそちらに意識を向けると、どうやら俺に餌を求めているらしい。口を開いたり閉じたりしてどうやら食べたいアピールをしてきてる。


「・・・ドラゴン、コイツにはどれ位の魔力を与えれば良いんだ?」


「ふむ、分からん。そこまでは知らんな。成長しきったのなら一日二日は別に魔力を得ずとも腹を減らすと言った事も無いと思うが?と言うか、ここまで成れば体表から空気中の魔力を随時吸収するだろうから放っておいても大丈夫だろう。」


「とは言っても放置は無しだろ・・・まあ、しょうがねーか。ホレ。」


 俺は試しに「ツチノコ」の時に与えていた分量の魔力玉を出して翼蛇の顔の前に差し出す。

 しかしここで要求が出た。翼蛇からである。地面に丸を三つ書いたのだ。器用に、尻尾の先で。

 いつの間にか俺たちの頭上に翼蛇の尻尾だろうものがあってソレを俺の目の前に下ろしてきて地面に「〇」を三つ書いたのだ。

 この翼蛇、それこそ何処まであるの?ってくらいに体がメッチャ長い。ここに頭があるのにそんな体の長さで反対側の尻尾を俺の目の前まで持って来ているのだ。器用である。


「確か蛇って全身が筋肉で出来てるって話だったっけ。これ位の事は出来るんだな。んでもって知能も高いのか。と言うか、ドラゴンと同じなんだもんな。そうか、分かるのか。」


 ちょっと現実逃避して実際の俺の知る蛇の雑学を思い出す。しかし次には気を取り直した。

 こちらの言葉が分かるのだろう。そしてコミュニケーションもしっかり取れると。ならばやり易い。

 追加で二つ魔力玉を作って翼蛇に差し出す。するとソレを一口で丸飲み。そして次には、ぽむ、と小さい可愛らしい音が翼蛇から聞こえて来た。


「・・・あそこ等辺がこいつのお腹、って事なのかね?」


 翼蛇の全長を考えてみても、妙に中途半端な部分がぷっくりと膨れ上がっていた。


「幼体の時と比べると、何だか、こう、可愛さが無いなぁ。」


 そんな俺の感想はこの翼蛇は気したりなんてしないんだろう。「しゃ!」と短く鳴いて地面に顔を投げ出して動かなくなった。


「腹一杯で、寝たのか?幼体の頃とこれじゃあ何も行動が変わらねーじゃねーか。おい、ドラゴン。」


「言っただろう?体は大人、中身は子供、だとな。」


 それ、逆、とちょっとツッコミを入れそうになった。名探偵なコナンドイルじゃあるまいし、と。


「・・・そのままダラしなく伸びきったままで寝るのはみっともないから、蜷局を巻きなさい、蜷局を。」


 俺は翼蛇に向かってそう言ったのだが、既に聞こえていない様である。

 時折「しゃ・・・しゃ・・・」と短く鳴くのでもしかしたら夢でも見ているのかもしれない。


「厄介な大きさになったなぁ。コレは早々にドラゴンみたいに人の形を取らせる様にしないとダメか?何とかならん?」


 俺はドラゴンに向けてそう言ってみた。


「ふむ、私が教師役か。まあ良いだろう。エンドウには楽しませて貰っているからな。これもまた面白そうではあるな。良し、次にこやつが目覚めたら話をしてみてやるとしよう。」


 丁度その時に村長がやって来た。そして開口一番。


「エンドウ様、コレは、ちょっと・・・」


 ソレは色々と言いたい事が大量に含まれた「ちょっと」だった。村長の声音は深く、そして重たいモノである。


「あー、うん、悪さはしないと思うから、多分。何かあったら俺が責任もって対処するし、危険がそっちに及ばない様にも気を付けるから。それとドラゴンも居るし・・・あ、なんか微妙に不安になってきた。」


 翼蛇は俺の側に居たはずのドラゴンなんかには目もくれずに俺に餌をねだっている。

 もしかしたらドラゴンの言う事を翼蛇は聞かない、無視する、何て事になると面倒だ。教育面で。


「うむ、こやつが暴れでもすれば私が全力で上下関係を叩きこんでやるとしよう。」


「バカお前、この村を消滅させる気か馬鹿。」


「わっはっはっはっは!ここ最近は全然暴れていなかったのでな!その時は良い運動になりそうだ!」


「俺の言った言葉、伝わってる?ねぇ?もう一回言おうか?」


 俺はドラゴンを睨むのだが、別段コレに怯む様子も無いドラゴン。これに俺は諦めた。


「その時は俺が全力で結界を張って隔離しないとダメか・・・」


 何だかその時がいずれ必ずやってくると確信が持ててしまう。その事で俺は溜息と共に肩の力が抜けていった。


 ====   ====   ====


 そうして翌日の早朝。俺は早速この翼蛇を魔力固めで拘束しなくちゃいけなくなった。


「・・・俺が止めなかったらこの村壊滅だったじゃねーか・・・」


 昨日はあの後でこの翼蛇はずっと眠りコケて寝覚めたりはしなかったのだが。

 俺が朝食を食べて家の外に出れば待っていたかの様に蜷局を巻いて翼蛇が大人しくしていたのだ。

 なので早速餌をやったのだが、今度は別段寝たりなどせずに食休みと言った感じで静かに動かずジッとしていた。


 ここで俺が「お前に名前を付けてみても良いか」と口にしたらコレに反応して翼蛇は「しゃ!しゃ!」と二度鳴いた。

 翼蛇、などと毎度呼ぶのは何とも響きが宜しく無かったし、ドラゴンにも名付けをしてるのでどうせならこいつにも、と軽い気持ちで考えてみたのだが。


「嫌なのか、良かったのか分らん。どっちだよ。喜んではしゃいだのか、変更を求めて地団太踏んだのか、どっち?ああもう、一度拘束を解くぞ?暴れるなよ?俺の言っている意味が分かるか?付けた名前が気に入らなかったら一回、気に入ったりしていたら二回鳴くんだぞ?いいか?バタバタすんなよ?この村滅茶苦茶になっちまうからな?」


 俺は慎重に魔力を抜く。先ずは尻尾の方から。そして段々と胴体、首、頭と拘束を解いていく。


「しゃ!しゃ!」


 どうやら俺の言葉の意味を理解もしているし、名前も気に入って貰えた様である。


「じゃあお前の名前は今度から「リュー」な。で、お前はいつになったら親離れするの?」


「しゃしゃしゃ~。しゃしゃしゃ~。」


「何でお前は俺の言ってる事が分かって、俺はお前の言ってる事が理解できないのかね?」


 そうなのだ。俺は何故かこのリューの言っている事が分からないのだ。クロの時とは違って本当に分からない。


「まあコミュニケーションは今の所で深刻にならない程度は取れてるし。後はドラゴンに教師をして貰って「人化」ができる様になれよ。そうじゃ無いと、お前のその巨体、何処に行っても迷惑させちゃからな?」


「しゃしゃ~。シャシャシャシャー。」


「うん、ごめんな、意味が通じないんだよ。俺にはお前の言葉が分らんのだ。」


「しゃ~・・・」


 どうやらコレにリューは落ち込んでしまった。しかし気を取り直したのかすぐに俺にその頭を擦りつけて甘えて来る。


「まあ、ぶっ飛んだ性格は・・・してないみたいだな。こんな巨体に甘えられて潰されそうだけど。潰されそうだけど。」


 リューの性格はどうやらお転婆と言った感じはしない。俺の言う事をちゃんと聞く様だし、勝手やたらと破壊行動を取ると言った事も無さそうだ。まあ一度気に入らない事があったりしたらちょっと暴れただけでそこら中で大惨事、な感じだが。


 こうして暫く甘えさせた後に俺はリューに一応は教えておいた。


「あー、上見ろ、上。遥か空の彼方なら、お前が自由に飛んでも、別に、迷惑する奴は居ないだろうから、ちょっと散歩しに行ってきてみな。村からそんなに離れたりしない程度でぐるっと軽く飛んで来い。」


 もしかしたらリューが空を飛ぶ事に因って何かしらの世界に気候変動的なモノが起きる可能性も無くはないかと考えたが、そんなモノをここで予想などできやしないと、その時点で思考放棄した。

 既にドラゴンと言う存在が各地に飛び回っており、その影響がこの世界にどの様に出ているかと言った事も分かってはいない。そんな事を観測などできやしない。

 なのでリューには一度この大空に翼を広げて飛ばせて世界の広さと言うのを体験させてみるのが良いかと考えたのだ。

 取り敢えず体験させるなら早い方が良さげだろうと、そんな軽い考えで。


「で、飛んで行ったは良いモノの、何処まで行った、アイツ。」


 散歩に出て見ろと言った後のリューは速かった。まるで目の前で新幹線が最大速度を出して通り過ぎて行くみたいな感じだ。

 ぎゅーん、と即座に上昇していったリューはお空の彼方に消えていった。その巨体が小さくなり過ぎて見えなくなってしまうくらいに。


 心配はあるが、どうしようも無い。勧めたは良いが、無責任に俺は「どうでも良いか」とその場で寝転がった。

 あの巨体、リューをどうにかできる存在など多分、今の所は俺とドラゴンぐらいだろう。

 空の散歩をするリューを目撃する者がもしかしたら出るかもしれないのだが、それもどうしようも出来ない事である。

 その内に腹が減ったら戻ってくるかな?と考えて俺は晴れた空を行く雲を眺めながら今日もボーっと日向ぼっこをして過ごす事にした。


 そして昼前になって村長がまたやって来た。その話の中身はというと。


「・・・翼持つ蛇が空に昇るのを見た村の者たちがアレは何だと私の所に詰めて来ておりまして。その、エンドウ様から皆に纏めてご説明をして頂きたく。」


「あ、はい、スイマセン・・・」


 どうやらリューの空昇りを見て腰を抜かした幾人かの住民が説明を求めて殺到しているとの事だった。

 村長はこの村で何事かが起きれば直ぐに俺の所にソレを相談しに来てくれる。こちらもそうして貰えると何かと有難い。

 こうして俺はそうやって殺到して来た者たちをここに集めて貰える様に村長に頼んでおいた。


「まあ百聞は一見に如かずだろうから直接見て貰った方が早いよな。・・・いや、普通は止めておいた方が良い案件だコレ。」


 村長が行ってしまってから気付いた。俺が説明を直にするとは言え、遠目で見て腰を抜かしたと言う者は直近でリューをその目にしたら気絶して暫く使い物にならなくなるかもしれない。危険だ。

 とは言え、俺が言葉だけで説明した所で果たして信じて貰えるものだろうか?リューにこの村で暴れたりしない様に住民の前で説明をした方がしっかりと互いを認識し合うのではないだろうか?

 とは言え、俺はリューの精神構造をまだまだ分かっちゃいない。ドラゴンの事は大体もう分かっちゃいるが、生まれたてと言って差し支えないリューの内面を俺は把握できていない。


「早急にドラゴンにリューの教育をさせないとダメだろうな。とは言え、人化を出来る様になってくれるだけで相当に世話をするのが楽になるだろうけども。どうだろ?」


 問題を手早く、かつ一括で解決させるにはリューにドラゴンの様に人化を使い熟せる様になって貰うのが手っ取り早い。

 しかしドラゴンに全て任せるのには漠然とした不安が残るのは俺の心配し過ぎなのだろうか。


「はぁ、リューがいつ帰って来るか分らんし、先に住民に説明して終わるかな?話してる最中に絶妙なタイミングで戻って来る、とか無いよな?」


 全て俺の間抜け具合が悪いのだが、もう俺はどうにでもなれと言った気分だった。

 住民たちが納得いったとしても、しなくても、そこは「嫌なら出て行ってもオッケー」と脅すだけである。

 無責任この上無いと言われても言い返せないが、今のノトリー連国には故郷に戻っていったとしても、まあ大丈夫だろうから。

 寧ろ人手を歓迎されて扱き使われる運命が待ち受けているかもしれない。


 そんな風に考えていたら十五名の住民と村長がやって来る。男も女も年寄りも子供も混じっている。

 さてどうやって説明しようかと思ったのだが、ここに来てどうにも旨い言葉が浮かばない。


「あー、えー、皆さんが見た空を昇る蛇と言うのは俺の、何と言うか、あれだ、ほら?愛玩動物、です。可愛がる対象。ついでに言うとアレを観察してもいる。あー、えー。何かあれば俺が責任取るから皆さんは気にしないでください。この村でアレが暴れたりする事はさせないので心配しないでください。これでもまだ恐ろしい、怖い、と言う方が居ればこの村から出て行っても構いませんので。今の状況を受け入れられ無いと言う方は申し出てください。帰郷の際には旅の資金をお渡ししますので。」


 俺がワープゲートで送って行ったりはしない。だけど情けで一応は旅行代金は出すと言っておく。無一文で放り出したりはしない。

 俺の言葉を聞いても住民たちは言葉を発しない。誰もが誰も互いに無言で顔を見合わせて微妙な表情を作っている。

 そんな中で辛うじて一人の男が声を上げる。


「あの、本当に、アレは暴れたりせんのですか?」


「うん?そんな事になったら俺が取り押さえるから大丈夫だ。」


「取り押さえるって・・・あの巨体を、長さを、ですか?」


「あ、信じて無い?うん、まあ信じられないよな。でも、アンタは俺の力を知ってるだろ?まあそれでも信じられないのはしょうが無いね。証明して見せようとしても肝心のアイツ戻って来て無いしな。」


 戻って来ていない、その言葉で男はサッと顔を青褪めさせた。蛇がダメなのか、そもそも小心なのか。はたまた単純に化物怖い、なのかはその表情からは読み取れない。

 リューの巨大さと長大さを考えれば今戻って来られるとここに集まっている住民たちを踏みつけてしまう可能性がある。危ない。

 そこら辺を考えてしまって男は青褪めたのかもしれない。まあそんな事にならない様に俺が配慮はするが。


「取り合えず今はそれくらいしか俺からは説明できないんだ。怖かったらこの家の付近に近寄らなければ良いだけだぞ?ここはその他とはソコソコ距離を離した位置に建てたからな家を。さて、それじゃあコレで他に質問などや意見が無ければ解散だけど、何かある?」


 俺はここで「遠慮するな」と付け加えたりしたのだが、他に口を開く者が出なかった。

 なので「はい、解散」とこの集会を終わらせて住民たちを仕事に戻らせた。

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