コレは酷い
「さて、呑み込んで貰おうか。もう二度と、戦争なんてするな。良いな?せっかく緑の大地が出来たんだ。そっちを開拓しろ。そもそもお前ら、馬鹿なんだろ。何だってこんなになるまで分からず屋みたいに今の状況じゃクソの役にも立た無い矜持だの、道理だのと口にした?お前らの持つ力なんてなんも怖くねーよ。無力だったな、アンタら。これで立場が理解できたか?」
既に今この場にはあの立派な国会議事堂?みたいな建物は跡形も無い。俺が消滅させた。
爆破し、燃やし、粉々に砕き、磨り潰し、消し飛ばし、圧縮し、吹き飛ばし、沈め、綺麗な更地にしてやったのだ。
その一部始終を目に焼き付けさせてやった。この議員六名に。
これに関して一応は人死には出していない。ここに勤めていた者たちは全員俺の「魔力固め」で操って避難させておいたから。
なので思う存分時間を掛けてたっぷりと「力の差」「格の違い」というモノを分からせた。
まあ大体半分程無くなるまでは何かとギャアギャアと騒いで俺に文句をつけていた議員たちだった。
最初は俺に向けて「蛮族」とか「下郎」とか「キチ外」とか「狂人」とか非難をしてきていた。
自らの主張を暴力で通そうとする矜持の無い能無し、道理を解せぬ思考せぬ獣、とまで言われた。
しかしそこで俺が議員たちに向けて「直にこの力を受けたいなら手を上げてくれたらやってあげるよ」と言ったら全員が顔を青褪めさせてピタッと口を開くのを止めている。どれだけ自分の身が可愛いと言うのか。
その後は「歴史ある建物が」とか「文化の象徴が」とか「我々の権威が」とか「こんな道理があってなるモノか」とか他にも何かと言っていた。
しかしその中に俺への懇願は無かった。破壊をしている存在に対して「止めて欲しい」と願う事をしなかったのだ。どう言う神経をしているのか?。
壊して欲しく無い物であればその破壊をしている当人を止めに入るのが普通だ。相手を直に抑えつけて阻止しようとする事をしないのであれば、言葉でソレを伝えると言った事は出来たはず。たった一言でも「止めろ」と。
しかし唖然とするばかりで議員たちはこの場が綺麗な更地になるまで壊れ行く建物を見ていたのだ最後まで。
そして今は俺の求めに応じるのか、応じないのかを聞く所である。
「さあ、答えは?長文聞く程今の俺は気が長く無いんだ。ハイかイイエで答えてくれ。」
「・・・こ、こんな、こんな事があってなるモノか!お前は一体何者だ!?何様だと言うのだ!誰に頼まれた刺客だ!?許さん!許さんぞぉ!おのれおのれおのれぇ!私の全てを以ってしてキサマを殺してやるぞ!死ぬその最後の瞬間まで絶望を抱えさせたままで長く地獄を味あわせてやる!」
そう叫んだのはオールバックの眼鏡をかけた議員。
「ああ、そう。じゃあお別れだ。恨みは無いが、そこまで憎まれちゃあ後が怖いから、バイバイ。」
その瞬間にオールバック眼鏡はお空の彼方に。もう二度と会う事も無いだろう。
ヒュン、と風を斬る音が微かにこの場に残響した後は静けさが戻って来た。
「ちゃんと最初に言葉にして伝えておいた方が良かったのかね?あー、あー、さて、残りの五名様?俺は此処に「暴力外交」をしに来た。こっちの話をマトモに聞く気の無い奴は今みたいに御退場願うけど、これで分かって貰えないとあんたら全員居なくなって貰うしかなくなるんだよねぇ。・・・あ、その時はコロシネン候?アンタにこの国を統治して貰おうか?どうする?一応そうなったら俺の操り人形として玉座に座って貰うけど?」
コロシネンは建物の破壊が中盤になった頃には既にその場にしゃがみ込んで頭を抱えて震えているばかりになっていた。
今の俺の言葉も聞こえているかどうかは分からない。
「ああ、俺に対抗できる戦力があるなら今この場で出しても構わない。それは待つよ。出されたそれらは全て潰して逆らう気を根こそぎ取り除かせて貰うから。」
「・・・きっ、キサマは新選民教国の刺客か?」
老人が俺に質問をしてきたが、ソレに俺は答えてやる。
「いいや、違う。」
「我々を引きずり落そうと企んでいるこの国の者から雇われたのか?」
「雇われてなんか無い。最初から俺は説明していたはずなんだがな?」
「何を馬鹿な・・・」
「目の前の現実を受け入れられないのはしょうが無いのかもしれないけど。この現状を受け止める度量も無いみたいだな。それって人の上に立つ者としてどうなんだ?ずっと周囲から生まれと育ちでちやほやされ続けて今の立場、その椅子に座ってんの?だったらもう何も言う事無いよ。これまでずっと自分たちの決定した方針に逆らう奴も、策が上手く行かなかった事も無いんだろうさ。挫折も失敗も苦難も苦労もしてこなかったんだろうな。だから今こんな事になっていても一歩も踏み出さず、解決の目処も見えて無い。自分の身の安全ばっかり考えて国の未来の事なんてさっぱり考えてやしない。為政者として失敗だよ、アンタらは。」
交渉をしようと言った気概も見えない。先程から俺が何者であるかを質問して来るばかりで。
この議員たちは今目の前の脅威に対して何ら対応、対抗しようと言った思考になっていない。
自分たちが納得がいかないから、納得できるだけの理由が欲しいだけ。そこから全く動いていない。
今大事なのはこの議員五名が俺の要求に対してどう言った答えをその口から発するかである。俺の正体など二の次であるはずだ。
なのに順番を履き違えて気にするのは俺の事ばかり。俺が言った事、要求した事に対して検討しようとする気配すら見えない。
修羅場を潜った事が一度も無いのだろうか?と言うか、無いんだろうこの様子だと。
ずっと呆けた顔で俺に視線を向け続けている老人は微動だにしない。どうやら思考を放棄している模様。
それ以外の残りの四人の議員はオロオロとするだけで俺の方すら見ようとしてこない。
為政者として失敗、こんな暴言を吐いた俺に対して怒る事も無く、憤る所も見せず、そして理論的に武装して反論、と言った流れにもならない。
この議員たちは今までこのノトリー連国での方針を決定してきていたのだ、曲りなりにも。
それなのに俺の暴論に対して何も言ってこないのは流石にこれ以上は呆れて何も言う気にならなくなった。
向こうのリアクションは只怯えて視線を彷徨わせるだけ。付き合っていられなくなってきた。
「みゃー!」
そこでいきなり俺の胸ポケットから「ツチノコ」が飛び出して来る。場違いでいて、それでいて空気が読めていないこんなタイミングである。
まあこの「ツチノコ」にとって何が大事かと言えばお腹一杯に魔力を食べる事であるからして、今この場での俺と議員たちとのやり取りなんて全く気にもしない、関係無いのでしょうがない。
いつも通りに魔力の玉を作り出すと「ツチノコ」はソレにパクリと食らい付く。毎度これで腹をポッコリと膨らませてまた直ぐに寝る。
「ツチノコ」をまた胸ポケットにしまってから俺はコロシネンに声を掛ける。
「あー、あー、コロシネン候?何時までも蹲って無いで立って立って、ほら。それで、アンタに頼みたい事があるんだが、受けてくれるよな?」
無理矢理に立ち上がらせたコロシネンの目の前に回り込んで俺はニッコリ笑顔で頼みを口に出した。
==== ==== ====
政変、ノトリー連国はあれから一週間経つ。今この国で采配を振るうのはコロシネンである。もちろん俺がやらせている。脅して。
あの五名の議員は各々の住居、屋敷にて軟禁状態にしてある。殺さずにおいてあるのは只の気まぐれに過ぎない。
あのオールバック眼鏡の議員は空高くすっ飛ばしてあるので墜落して死んでいる事だろう。
奇跡的に生きていたとしてもこの国に戻って来た所でその居場所は無い。
コロシネンのバックには俺が付いて逆らう者たちを虱潰しに力づくで分からせてある。反乱分子が残っていたとしても関係無い。クーデターでもして来たらソレを徹底的に潰すだけである。
そうして連日コロシネンの名前で暴れ倒してようやっとこのノトリー連国は静かになった。
そして俺はコロシネンに命じる。開墾、開拓を。
「もう分かってると思うけど、国土は既に緑に変わってる。以前の土の剥きだした乾いた大地じゃない。国の総力を挙げて、国民全投入で畑作って食糧生産ね。出来た作物は貧しい村に分け与える。そうして村に余裕ができたらまたそこで食糧生産。余剰をそうやって配給し合って目指せ餓死者ゼロ、ってね。」
今居る場所はコロシネンの屋敷である。ここが現在の国の方針を出す場所となっている。
そんな屋敷の一部屋でコロシネンは俺の言葉を聞いて頭を抱えていた。
この場にはコロシネン以外にもこの国の各運営に関わる職員たち、貴族たちが集められていた。
「君たちはもう知っているし、現場を見た人たちも居たと思う。逆らえばどうなるかは、俺の口からは言わない。既に体験している者も居るから。さあここに居る者たちで頑張って今後のこの国を変えて行ってください。以上。」
顔を青褪めさせて一切を諦めた様子で項垂れる責任者たち。俺が方針を出すだけで内政に全く関わるつもりが、これ以上の口を出すつもりが無い事を知っているのだ。
俺が出すのは「魔法」のみ。要するに「言う事聞かない奴には暴力を振るいます」と言っているのである。
この国は俺一人の力に全く対抗できずにこうして屈しているのだ。
万の兵士でも、数百の精兵でも、十数人の達人でも、俺をこれまで止められる者は居なかった。
(この国の貴族が抱えていた私兵には結構強そうな奴が数多く居たけど、誰も俺に傷一つ付けられなかったんだから諦めもするよな)
俺と言う個人を国と言う存在が全力を賭しても止められない。こうなったらお手上げでしかない。笑うしかないだろう。
一週間の間での出来事の大半は俺に対しての武力抗戦。貴族たちがコロシネンの出す命令に反抗してのモノだ。
コロシネンが議員たちを軟禁し、国の権力を簒奪した事を公表。
そしてこれに対してその他貴族たちが起こしたのはコロシネンを逆賊として討伐する事だった。
そんな事を一週間程度で治めたのは偏に俺の魔法で電撃特攻を仕掛けたから。
コロシネンを連れて全ての貴族たちの屋敷へ一つ一つ丁寧に突撃。そこで従属か、或いはぶちのめされたいかを聞いたのだ。
従わない貴族はその見せしめに屋敷を先ず更地に。それでも反抗して兵を出してきたらそれも全部潰す。
最終的にそれでもギャーギャーうるさく喚く奴には俺の特性ジェットコースターを味あわせて黙らせた。
全部でどれだけの貴族が居たかは数えて無かったので忘れたが、素直に従属を選んだ貴族はその内で二つの家しか出なかった。
俺は部屋を一人出て行く。そしてコロシネンの屋敷から去ってから大きく一つ伸びをした。
「うーん!これでノトリー連国の問題は全部片付いただろ。・・・あ、いや、当人たちからしてみれば爆弾を抱えさせられたみたいなもんか?うむ、知らん。俺の手を煩わせたのが悪い。恨むならあの五人の議員の器の小ささに文句を言ってくれ。」
これでようやっと「魔改造村」には手を出してこなくなったと言える。
俺の命じた内容を必死に熟す事が最優先、それをしなかった場合は俺がまたノトリー連国に乗り込む事となる。そしてまた暴れる。
そんな事をされたら堪ったモノでは無い、そんな風にコロシネンやその他の貴族、役人たちは思っている事だろう。
なので彼らの持つ俺への恐怖が薄れてしまうまではノトリー連国が戦争に動く事はまず無い。
「さてと。じゃあ久しぶりにメリアリネスに会いに行くか。この件は教えておいた方が良いだろうしな。」
こうして俺は新選民教国にワープゲートで移動。とは言っても城の中にいきなり出た訳では無い。
以前に食糧を詰め込んだ倉庫に移動している。
「補給は要るかねー?別にそこまで減っては無いな。まあ本当だった戦争の補給物資になるはずだったけど回避したからなぁ。まあそれも俺がやったんだが。」
予想よりも減っていないと言う事は市場に出していないと言う事。恐らくは城での食事に少しづつ消費しているモノと思われる。もしくは兵たちの食事に少量ずつ出しているのか。
「まあどう言った方法で消費していたとしても文句は無いね。美味しく食べて貰えてたらソレでオッケー。んじゃ行くか。」
倉庫から出てうろ覚えの道順で玉座の間への道を辿る。そんな途中で俺の事をギョッと目を見開いて驚きの表情で固まる城内警備兵が。
そして止まってくれと声を掛けられた。どうやら勝手に城の中を歩き回らないで欲しいと言う事らしい。
「エンドウ殿、どなたにご用事であらせられますか?陛下にですね?ではご案内致しますのでお一人で歩かずに私の後を付いて来てください。お願いします。」
そうしてその警備兵に付いて行けば大きな扉の部屋の前。
「エンドウ殿がお見えになりました。」
その部屋の中へと声を掛けて入室の許可を得ようと声を張る警備兵。その声音には緊張感が含まれている。
廊下に良く響いたその声は当然他の兵やメイドなどにも聞こえている。そして聞こえていた者たちの表情はその誰もの表情がカチコチに固まっている。
(俺はそんなに危険人物か?)
まるで俺に悟られない様にと動きをピタリと止めてその場で微動だにしなくなるのはやめて欲しい。
とは言え、そうして恐れられる様な事を俺はこの国でしでかしているので何も文句が言えない。
「・・・入って貰ってください。」
部屋の中からメリアリネスの声が返って来る。これに警備兵が「失礼します」と言って扉を開けて俺に中に入る様にと促す。
そこは大きな大きな長方形の机、そこにどうやらこの国の大臣だろう者たちがみっしりと並び座っている。
奥の中央にメリアリネスが居てその背後にはアーシスが控えており、その雰囲気は妙に硬い。
「・・・何か御座いましたか?こちらにやってくると言う事は、大きく事が動いたのでしょうか?」
メリアリネスは笑顔だが、しかしその雰囲気からは「余計な事は抱えたくない」と言った事がアリアリと感じられる。
「えー、あー、ノトリー連国は今後、戦争を起こす事は無い。俺が躾けたから。」
「は?・・・はい?」
結論から伝えてしまった事によってメリアリネスの思考処理が一瞬でパンクしてしまった様だった。
なので俺はこの件をどこら辺から説明したモノか思考してから口を開いた。
「知っての通り、俺が管理してる村があるだろ?そこを向こうさんが占領しようと兵を向けて来た訳だ。コレを追い返した上で上層部に俺が突撃して力で屈服させて革命して来た。これからは俺の言う事を聞く奴が内政を取り仕切るからコチラに戦争を仕掛けてくる事は無いよ。あ、ちゃんと俺は否定しておいたからね?新選民教国の遣いじゃ無いって。まあこうしてソレを教えに来たのは義理だな。」
目を瞑り、眉根を顰めてこめかみに手を当て呻くメリアリネス。どうやら俺の言った事を必死に理解しようとしてくれている様だ。
他の大臣たちは「は?何を言っているんだ?」と言った顔である。メリアリネスの秘書であるアーシスは俺の言った事を理解している様で澄ました顔で立っていた。
「・・・一々理解するのに努力が非常に要る報告をしないで欲しいのですが?いえ、アナタは私の臣下では無いのですから別にこの様な文句は只の愚痴にしかなりませんね。まあそれでも頭の痛い事は変わりませんけども。」
メリアリネスがそう言って諦めた顔で俺を見る。小さく溜息を吐いて「心配が一つ無くなったのは良いのですけど」と小声でボヤいている。
「ああ、それでさ。これからあの村に商人とか派遣してくれない?あの土地って塩関係は全くだからさ。俺が与えた分は暫く持つけど、それが無くなってからじゃ遅いし。」
ここで俺が追撃、と言うか、あの村の将来を考えての要求をメリアリネスに求めた。
「・・・別に構いませんが。と言うか、与えた?一体何を・・・」
「ここの国は塩は海から採ってる?製塩事業とかは?」
ここで塩関連の事を聞いてみればどうやらこの新選民教国では海から塩を採取しており、安定した供給をしているらしい。
取り敢えず「魔改造村」からは大量の食料を出すと言う事で俺の「宜しく頼むよ」の一言で国のお墨付きの付いた商人が派遣される事になった。
メリアリネスは「関わりたく無い」と本当に誰にも聞こえない様にと小声で溢していたが、俺にだけはソレは聞こえていたりする。
もちろん聴覚を魔力で強化していたので偶々その一言を拾っているのだ。
(そんなに頑なにあの村の件に関わりを持ちたく無いって、何を思っての事なんだろうか?)
とは言えそんな事を俺はこの場でメリアリネスに聞こうとは思わない。
俺の用事はこれでほぼ全て片付いたと言えるのでこの場を去る事にする。
「それじゃあ暫くは俺あの村に居るから、何かあれば使者を出してくれ。そうしたら直ぐにコッチに顔は出せるから。んじゃ宜しく。」
俺は部屋を退出する。それを誰も止める者はいない。
部屋を出た後は人気のない場所に移動してワープゲートで「魔改造村」に帰還する。
「あー、やっと終わった感があるなぁ。後は、別に何も起きないよな?新選民教国からはこの村に兵を出して占領、何て真似はしてこない、はず。うん、はず。」
まだあの国に妙な勘違いをした阿呆が居ないとも限らない。だけどもその可能性は低いと見て俺はまだ暫くはこの村でまたのんびりと過ごす事にした。
「みゃー!」
こうして「ツチノコ」がまだまだ幼体?であるのでコレが成体になるまではこの村に居るつもりだ。
「まあソレが何時になるかは分からんが。」
そうぼやきながら俺は魔力の玉をいつも通りに作って「ツチノコ」に食べさせた。
==== ==== ====
それからまた一ヵ月経った。メリアリネスは約束を即座に実行してくれたらしく、一度商人がこの村に訪れている。
その際には非常に、と言うか非常識、と叫ばれ驚かれている。
ノトリー連国の経済や国土状況をどうやらその商人は以前から良く知っていた様であった。
情報は金、それを一番重要と考えて商売をしている者である様で。
(まあノトリー連国にスパイをする為の偽装商人だったりするのかもしれないけれども)
この商人が新選民教国のスパイで相手側の事情を探るのに使っていたのかもしれないのは置いておく。それは今回のこの村に塩を持って来てくれた件とは関係は無いから。
こちらからはその塩に見合った分量の村の生産品を持たせて御帰りになって貰った。
村の住民の中には以前に商売に関わっていた者が居たのでその者に交渉を任せている。
こちらは貨幣の持ち合わせがスッカラカンな村であるので俺がそれらを多少は用意しておかねばならないと考えた。今後はこうした交渉面で金銭のやり取りもできる様に準備は必要だろう。
今回はそう言った準備をしていなかったのでこちらの出す物品の量を多めにしてある。
一応は日持ちする加工品と言った形ではあるのだが、別にこれに文句は言われず商人はすんなりと帰っていた。
メリアリネスが散々「関わりたくない」と溢していたのでソレが言い含められていたのかもしれない。
そう言った事で初回は上手くいった。何も問題は無かったので今後も定期的に塩の仕入れはできるだろう。
そこら辺の商人の来る間隔は村長と話をさせてあるので俺はもうその点に関して関わる事も無くなる。
暫くはこうして塩だけの仕入れになるだろうが、その内に肉や道具などの方もこの分だと村で要求が出て村長がそこら辺の必要分を纏めて商人に持って来て貰う様に頼んだりとする流れに最終的になる予定である。
そうなったら俺の手から完全にこの村が離れる事になって行くはずだ。
「さて、それまではこの村でのんびりするけども。村に貯えとして置いておくお金を稼いでおかなきゃな。」
如何せんこの村から住民に出稼ぎをさせる為の人の余分は無かったりする。
仕事はたくさんあって毎日毎日地道な努力を続ければ食に関しては心配が無い程に収穫量はある。
だけどもコレを余裕があるからなどと言ってサボるのは頂けない。そう言った者には食べさせるなと俺は告げている。
この村でのルールを働かざる者食うべからずにしてあるので、毎日一生懸命、食べる為に働いている住民たちである。
俺はそんな中でダラダラと毎日を過ごしていたりするのだが、別にこれに白い目で見られたりはしていない。
この村の基礎を作ったのは全て俺であるからして。そこにここの住民たちは「住まわせて貰っている」と言った意識があった。
なのでこうして俺がこの村に住み、仕事もせずに日向ぼっこの昼寝三昧でも誰も文句を付けに来たりはしないのだ。
俺が別段偉そうな態度で住民に接していないという点もあるかもしれない。とは言え、俺は積極的に村を歩き回ったりしないので人と接する機会もそこまで多くない。
時々村長が村で起きた小さな出来事やらそこまで深刻でも無い問題を話に来るくらいである。
もちろん本当にヤバい時は直ぐにでも俺の所に連絡に来いと指示は出している。なのでこうしてそう言った厄介事が持ち込まれていないと言う事はこの「魔改造村」は平和である証拠と言える。
お金が無くても食べるに困らず、真摯に毎日働き続ければ飢餓の心配も無いこの村は言うなれば天国だろう。
以前のノトリー連国に見捨てられたあの村の住民たちにしてみれば。
「さて、久しぶりに仕事をしてみますかね。うーん?何をして金を稼ごうか。そうだな。魚、かな?海・・・以前に釣りをしたけど、あの時は海の魔物?が釣れちゃったし?釣った感が無いんだよなぁ。」
こちらの大陸に来た時に最初に立ち寄ったあの港町の事を思い出した。
なので海の幸を今回はゲットしてみようと考える。俺のインベントリには肉関連は依然としてまだ残っているが、海関連の食材が無い事を今更に気付いた。
「貝、海藻類、魚、後は甲殻類?カニエビかな?後は珍味関連ではナマコ?はちょっと嫌だな。」
この世界は当然俺の知る地球では無いので海の生物にはどの様な奇妙な生き物が生息しているか全く分からない。そして何が食べれてどれがダメというのも俺の知識には入っていない。
寧ろ地球の海の事だって全体の数パーセント?しか解明されていないと聞いた覚えがある。地球の全ての生物が発見された訳じゃ無い。寧ろ見つかっていない物がわんさかあるくらいだろう。
そうなればこっちの世界、その広大な海がどれだけ調査を進められているのだろうか?とか考えればそれは小数点が入るくらいの数値ではないだろうか?と言うか全く解明できてなくて0.00パーセント?
魔法があってもソレが海に関して特化したモノとかでは無い訳だ。しかもこの世界の魔術師も「何でもできる」と言ったそこまでの極限に鍛え上げられていると言った訳でも無い。
海に関しては「調査」などと言う表現を使うのはおこがましいと言ったレベルか。判明していない事の方が大半であろう。
「よっしゃ!久しぶりに海にゴーしちゃいますか!海鮮丼が食いたい!」
御都合主義、極まれり。実を言うとこの「魔改造村」で米を育てていたりする。そう、コメである。
まだまだ量は収穫できていないのだが、野生で偶然に発見した稲らしき植物を採取、それを人工栽培して増やしたのだ。
ソレを村の一角に田んぼを作って本格的に稲作し始めていた。俺の魔法でチョチョイノチョイである。
偶々ノトリー連国の方に散歩に出た際に発見したのは本当に幸運である。これが成功すれば俺は米食いたい放題だ。
と言うか、俺がノトリー連国の国土を緑に変えた際にバラ撒いた植物の種や実の中には「米」は入っていなかったはずだ。
こうしてソレが見つかったこの「米」はもしかしてこの国の固有の品種なのかもしれない。
まあ既に俺の中ではそんな事は全く以てして興味の無い案件と化している。米が食えればソレで良いのだ。
この村にまだまだ長く住み続ける理由が出来た。俺はここで自分が納得できる「米」を作り上げる。品種改良する気満々であった。
「そして気が早いけど!海鮮丼!ドン!ドドンがドン!もう一回叩けるドン!」
この時の俺はもはや妙なテンションになっていて一人で奇妙な踊りを舞っていた。
幸運だった事はこの踊りを誰も見ていなかった事であろう。
こうして俺はワープゲートを開いてさっさと港町に向かったのだった。