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やっぱりダメみたい

 ここで指揮官、どうしてか勢い付いた。どうにも自分を助ける為に兵がやって来た、と勘違いしている様子。パッと顔色が明るくなって、そして。


「おい!お前ら!コイツは逆賊だ!この場で即座に刺し殺せ!私を助けろ!早く!そいつを殺すんだ!何を愚図愚図している!私の言う事が聞けないのか!」


 この声に応じたからなのか、そうでないのか。槍を構えた憲兵は俺に向けて「大人しくしろ!」と脅し付けて来た。

 その数、五人。まあ不審者一人を制圧するのに五人居れば充分と言えるだろう。しかも俺を囲ってきて槍を向けて少しでも怪しい動きをすれば刺そうとする空気である。やる気満々だ。


「なあ?質問、良いか?この国で一番偉い奴に会いたいんだが、何処に行けば良い?」


「何を言っている?増々怪しいな。おい、動くなよ?まさか敵国の間者、とは見えないが。キサマを尋問して洗い浚い吐かせる。誰か、コイツに縄を掛けろ。」


 憲兵の隊長であろう男がそう言って部下の一人にそう言って縄を準備させた。


「・・・おい、何故そっちのびしょ濡れの男を縛っているんだ?おい、どうした!?おい!一体どうした!」


 その縄を持ち出した憲兵は俺では無くビショビショな指揮官の方を縛り始める。ソレに疑問、不審、不安を感じてどうにも憲兵隊長らしき男は声を荒げた。

 これから縛られる指揮官も声を大きくして偉そうに言う。


「何をするか貴様は!私を誰だと思っている!縛るのは私の方では無い!そっちの男だ!と言うか、私は殺せと命じただろうが!」


 指揮官は身体が動かない。だけど口だけは開く、喋れる。なので必死になってそう言葉を発しているのだが。憲兵はしっかりキッチリと指揮官を縛り上げた。


「もちろん俺が操ってやらせてるんだけどね。」


 指揮官を縛り上げた憲兵はどうしてそうしてしまったのかが全く理解できないと言った混乱した表情になっていた。だけど俺はこの憲兵の口を固めているので喋る事は出来ず。


「・・・何がどうなっている?訳が分からない。」


 憲兵隊長はどうやら理解の及ばない、自らの目で見た異様な光景に呑まれて次にどう指示を出して良いか判断できなくなっている様だ。力無く漏れたその言葉の続きが出てこないみたいである。


「えーっと、もう一回、良いか?この国の一番偉い奴らの所に連れて行ってくれ。この国の行く末、意思決定?をしてる奴らが居るはずだよな?そいつらに俺は用事があるんだよ。案内して貰えると助かるね。まあ、片っ端から、隅から隅まで一瞬で調べられる方法は持ってるんだけどさ。一応は正式に面会を望むのもアリだろ?まあ最終的にソレが叶わなければ殴り込みに行くだけなんだけどさ。」


 この言葉に憲兵隊長はハッとなって俺を睨んで言う。


「キサマ、まさか敵国の交渉人だとでも言うのか?いや、しかしそうであれば何故、こんな場所に一人で?道案内を求める?何なんだ、キサマは?」


 俺に槍をまだずっと向けたままである憲兵たちは。そして最初の時よりも剣呑な雰囲気を漂わせている。そこに響く指揮官の声。


「だから言ったであろうが!さっさとコイツを殺すんだ!」


 この声で憲兵が一斉に槍を俺に突き刺そうと動いて来た。


「もうそろそろ良いか。ここでこれ以上無駄に時間を使う意味も無さそうだ。」


 穏便に、とは言わないまでも、ある程度は手順を踏んで、そんな気まぐれでこうした対応をしてみたが時間の無駄になってしまった。上手く行かないものだ。


「取り敢えず都市中央には何だか立派な建物があるみたいだし、そこに観光気分で向かってみるかぁ。」


 縛られている指揮官を引きずって俺は歩き出す。もちろん憲兵たちの槍なんて俺には一切刺さったりしない。

 憲兵たちは一歩踏み込んだ体勢のままで俺の魔力固めで動けなくなっている。


「どう言うつもりだ!?私をどうする気だ!?解放しろ!止めろ!引きずるな!離せ!この縄を解かないかぁ!お前ら何とかしろ!」


 指揮官は相変わらずやかましい。気絶する前の状態とこれではどうにも同じだ。


「ショック療法?でも試してみるか?」


 俺はできるだけ、限り無く、自分では抑え込んで魔力を込めた「雷の球」を作り出す。

 そこからもう一度念入りに「雷の球」から魔力を抜いて行きつつ、球が消えない様に配慮して極力威力を下げる試みをして行く。

 出来たソレを指揮官に向けてポイッと投げて当てる。


「あばばばばっばあばばばばばばっばばばばばばばば!あばば!?」


「まだまだあれでも駄目だったの?マジで俺の制御能力、低過ぎない?・・・まあそれでもギリギリ死んで無いのはこの指揮官がしぶといから?それとも只の偶然?はぁ~、取り敢えず大人しくなったから、良いか。とは言え、このまま放置して死なれても困るし、回復はしておくか。」


 魔力を指揮官に流して最低限の治療はしておいた。しかし気を失った指揮官は目覚める気配は無い。

 一応は黙らせる目的は達したので俺は気絶したままの指揮官を引きずってそのまま目的地へ向かった。


 そうして奇異の目で通行人に見られつつも到着したのは国会議事堂?に似た建物。その門の前。

 当然ながらそこには門番が立っていて不審な者が近づいて来ないかを監視している。

 当然ながら俺はその監視対象として見られてしまう様な状態な訳で。


「そこのお前!止まれ!一体この場に何用でやって来た?ソレにその引き摺っているのは・・・は?コロシネン候!?」


 ここに来て名前発覚。この指揮官、コロシネンと言うらしい。だけどそんな事はどうでも良かった。


「えー、何て言えば良いのかね?ここまで俺が何を言っても通じなかったから自信が無いよ。どう言えば、言葉を選べば、物事がすんなりと進むと思う?」


「キサマ!コロシネン候を離せ!人質か卑怯者!」


 門番からはとうとう卑怯者呼ばわりされて何だか腹が立って来る。だが俺はまだここで我慢した。


「あー、人質ノ命ガ惜シクバ、コノ国ノ代表者ヲ此処ニ集メロ。交渉ダ。」


 片言の日本語的なニュアンスと言って良いだろうか?妙に演技染みていて、しかし平坦なセリフを俺は門番に向けて言づける。

 これに門番は悔しそうな顔で俺を睨んで来る。ここで門番は四名居たのでその内の一人が建物の方に向かっていった。どうやら俺の言った言葉を偉いさんたちに伝えに行ってくれたと思って良いのだろう。


 もしこれでこの建物に居る守備兵たちが一斉にここに集まってくる様だったらもう遠慮はしないでブッ飛ばしても構わないだろう。

 その時は向こうが下した判断が俺を何とか数で圧倒して捕縛しようとする試みと捉えれば良い。

 そうなったらここで一暴れしてスッキリしよう。恐怖を植え付けて二度と「魔改造村」に近付かない様に脅して終わりにする事とする。


 さて、建物とここの門までは相当に長い距離ある。なので伝令が行って、そして誰かしらでもここに戻って来るまでは時間がそれなりに掛かるだろう。相当にこの建物の敷地は広い。


 さて、それまでの間に俺が怪しい動きをしないかどうかを見張る為にこの場に残っている三人の門番は槍をこちらに向けてきている。三方から俺を囲む様にして。


(前回に軍がやってきた時に脅して撤退させたけど。あれだけのモノを見せたのにもう一回派兵して来るとかなぁ。また中途半端に脅しても「二度あることは三度ある」なんて面倒が起きそうだしな。ここで徹底的に一番上を潰しておいた方が良いはずだよな)


 恐怖をマトモに自らで受けた訳では無い偉い者たちからすると、実際にソレを体験した部下の報告などは軽く見る傾向にあるんだろう。

 そうして正確に状況などを掴めていないから「もう一度」なんて話に流れる訳で。

 二度三度と失敗が重なって初めてそうした「尻で椅子を温めている役人」は実感を得ると。

 そうして「まさか」とか「そんな」とか「有り得ない」などと言った言葉を連呼してようやっと現実、現状がどれだけヤバいのかを自覚する訳だ。

 恐怖を体験した当事者となって初めて他人の言葉の本当の意味を知るなんてアルアルな話だ。


 ちゃんと上司が部下の事を信頼して「現場・現物・現象」をしっかりと深く受け止めていれば今この様な状況にはなっていないと思う。


 さて今この場には妙な緊張感が漂っている。とは言っても俺を監視、見張る門番三人にだけだがソレは。

 俺は非常にリラックスした状態でなるべく居ようと考えていたので肩の力を抜いて腕組をして立っている状態である。

 ここまで辿り着くのに俺は酷くストレスを受けている。まあそれもしょうがない。そう言った流れを取ったのは俺自身だ。

 しかし少しでもそのストレスを受け流す事を目指して全身の力を意識して抜いていた。

 だがこの俺の態度が門番の一人には鼻に付いたらしい。


「何なんだコイツは。何様のつもりだ?なあ?こいつはコロシネン候に凶器を向けていない。今俺たちが槍を突き込めばコイツを抵抗させずに無力化できるんじゃないのか?」


 そう、俺は別にこの人質作戦?なんてどうでも良かった。コロシネンは既に地面に転がしてある。こんな馬鹿になど俺は意識を向けていない。凶器などの類一つだって向けてもいなかった。

 言葉だけの脅し、行動が伴なっていない。これに「おちょくられている」と門番たちはそう受け止めたらしい。

 だから門番の一人がそんな提案を口走るのだ。そしてその言葉に乗って残り二人がグッと槍を構える体勢に力を入れる。


 そして一拍。そこには門番に槍で三か所を突かれているコロシネン。


「ぎゃああー?!な!なんだ!?何故だ!何で私がこの様な目に!?」


 俺は咄嗟にその場を一歩横にずれて、その俺の元居た位置に代わりにコロシネンを割り込ませたのである。

 どうやらこちらの隙を伺う為に既にコロシネンは気が付いていたらしい。

 そうでないと突かれて直ぐにこうして叫び声などは上げられないだろう。


「キサマ卑怯な真似を!コロシネン候を盾にするなどと!コロシネン候を解放しろ!」


 兵士が一人そう叫んでコロシネンに槍を刺してしまった事をガン無視だ。

 コロシネンに怪我をさせたのはさも俺かの様に非難の目で睨んできている。

 俺が悪い訳じゃ無い、門番が早まった考えで阿呆な決断をしただけだ。この門番の行動のくだらな過ぎさに俺はその点に関してツッコミを入れる気になれない。


「・・・なあ?コロシネン候の動き、見えたか?いきなり立ち上がるとかじゃ無く、目の前にパッと、一瞬で出て来たかのような・・・?」


 顔を青くしていたもう一人の門番がそう言って腕を引いてコロシネンから刺さった槍を抜いた。俺を睨んできている門番も槍をコロシネンから抜いている。


 割り込ませたのは俺がソレをやっているのだが。もちろん魔法を使っての事である。

 まあ地面に転がしているコロシネンに魔力を纏わせてそのまま瞬時に持ち上げただけ。

 その持ち上げる速度は急速で、初動が有り得ない位に無い高速な動きである。兵士たちの目にはさも瞬間移動したかの様に見えたかもしれない。

 俺にばかり槍を刺そうと言う意識で居たので地面に転がっていた助けるべき存在の事なんてこの門番たちにの頭には無かったのだその瞬間は。


「うぐううううう!痛いイイィ!お、お前らの顔は覚えたぞ!よ、よくも私を槍で刺すなどとぉぉぉぉお!痛いイイィ!」


 喚くコロシネン。この言葉でやっと門番は自分たちがヤベエ事をしたと言うのを把握した。馬鹿だ。一拍も二拍も遅い処じゃない気付くのが。

 こんなアホな奴らを重要な建物の警備に採用してるとは、いったいどう言った基準であるのだろうか?信じられない事である。


 せめてここで救いだったのはコロシネンに槍が刺さった場所が命に別状は無さそうな場所ばかりだった事だ。肩、腕、脛。

 それもまあコロシネンに対しての救いなのか、門番たちに対しての救いなのかは定かでは無いが。


 とは言え、ちょっと刺さった深さが相当だったので血が多めに流れていた。止血しないとダメっぽかったので不本意ながらも俺はコロシネンの治療をしておく。


 だが門番はヤバかった。アホにアホを重ねた行動を取ったのだ。これには俺もびっくりである。


「くっ!二人でコイツを抑え込むぞ!」


 汚名返上、名誉挽回、そんな事を思考したらしい。つくづく現状の理解ができていない門番たち。どう言う思考になるとこうした行動を取る様になるのか?

 この国の門番の選定基準は本当にどうなっているのだろうか?一発逆転を狙う様にと兵士たちを教育しているのだろうか?人質を取られていても気にせず攻撃を仕掛ける様に教え込まれているのか?


 再び門番が俺に襲い掛かって来た。槍を大きく振りかぶって俺を打ち付けるつもりらしい。しかも前後から。

 大きく構えた二人の門番はジリジリと俺との距離を調整、タイミングを計って挟み撃ちを狙ってきていた。

 そしてソレを俺が避けた場合のその隙をついて攻撃を仕掛ける為にと観察を続ける残りの一人も知能が足りていない。


「馬鹿げてる・・・どうしてそうなるんだ・・・」


 俺は思わずぼやいてしまった。こいつらマトモじゃ無い。門番からしてこんな行動を取って来る国である。国家権力を握っている奴らの思考もこうなればお察しだと思わざるを得ない。


 そして振るわれる槍。横薙ぎが前後から迫って来た。それを俺はヒョイと上に躱す。

 ついでにまた俺の居たその場所にコロシネンを割り込ませた。


「へぶしっ!?・・・き、キサマラぁァぁァ!この私をぉぉぉお!?殺す気かぁ!?」


 門番たちは俺が上空に逃げるとは思っても見なかったんだろう。そしてコロシネンを二度も害する事になった事も想定外だと思っているに違いない。


「こ、コロシネン候!どうして我々の攻撃に当たりに来るのですか!?」


 門番、何処までも脳味噌が足りていない。コロシネンが自らの意思で攻撃に当たりに来ていると思っている様子。どれだけドエムだよ、とツッコミは入れない。正直こいつら、面倒臭い。


 しかも門番は自分たちの取っている行動を棚に上げてコロシネンに責任転嫁しようとする発言である。何処までもヤバい門番らである。


「どんなコントだよコレ・・・面白くも何とも無いよ。早く誰か来てくれよ・・・」


 この場を纏めて収められる責任者が早く来てくれる事を願う俺。もうこんなクソコントに付き合わされたくは無い。

 だがやって来たのは追加の兵士三十名。これにがっかりする俺。どうやら建物に向かった門番は不審者を取り押さえる為の応援要請を出しに行っただけ。

 この結果に俺は心底ウンザリ。そこにどうやらこの追加の兵士たちの隊長が俺に告げて来る。


「言いたい事があるなら尋問の際に聞いてやろう。痛い目を見たく無かったら大人しくこの場で捕縛されておく事だ。暴れるなら死なない程度に痛めつけて素直になれる様にしてやるぞ?もっとも正直に話す気が無いと言うのであればたっぷりと時間を掛けて拷問で吐かせてやるが?」


 もう嫌だ。出て来る奴らがこの先も人の話を聞かない、交渉もマトモにできない奴らなんて。

 この国の決定機関、そいつらと顔を付き合わせるまでに後何度、この様な目に遭わされるのだろうか?


「もういい・・・もういいや。」


 俺の今の気分は最低だ。だから、八つ当たりする。この兵士たち全員に。


「・・・オラオラオラ!かかってこいや!もう馬鹿馬鹿しくてやってられないよ!」


 俺はコロシネンの脚を掴む。そして「魔力固め」で真っすぐに。ソレを手に俺は兵士たちに突っ込んだ。


 ====  =====  =====  =====


 そして一分後、この場に立っているのは俺一人。武器として振り回したコロシネンはもちろん俺の「魔力固め」でコーティングされているので外見上は怪我一つ無い。しかしその精神は既に死に掛けである。

 グルングルン、ビュンビュン、バヒュンバヒュン、ドカンガツン、バキンボカン、ドシャンビキン、と言った具合に兵士たちをコロシネンでぶん殴り、薙ぎ払い、叩き潰し、吹き飛ばし、カチ上げ、と暴れたので身体の方が無事でも心は砕けてしまった様だ。


「・・・もう、コロシテ・・・いっそ、コロシテ・・・」


 コロシネンはどうやら観念したらしい。だが、行き過ぎている。殺してと呟き続けてしまって会話がちょっと難しい状態だ。俺はコロシネンを殺す気は毛頭無い。


「取り敢えず、俺の言う事、ちゃんと聞いてくれる気になった?なら、暴れた甲斐があったんだけど?うーん?これなら最初からこうすれば良かったか?もういっちょ暴れとく?」


 この俺のもう一度暴れる宣言にコロシネンは。


「助けてくれぇぇぇぇぇぇ!もうアンタの言う事は何でも聞くから!逆らわない!嫌だぁァぁァ!」


 本気泣きされた。大の大人がギャン泣きである。この言葉に俺はコロシネンを「魔力固め」から解放した。

 そして建物内部の案内をさせる事に。そうしてぶっ倒れている兵士たちを無視してこの場を後にする。


 こうして建物の中に入って会議を開いていると言う部屋に向かう。廊下を行く際にはコロシネンの縄を解いてあった。

 コレは縛られたコロシネンを見て警備兵に異常事態だと騒がれない為だ。

 そうした警備に見つかったらコロシネンに言い訳をさせて大人しくさせる様に命じておいてある。


(まあ各所が血だらけの服を着ている偉い奴がこんな場所を普通に歩いてたら「大丈夫だ、問題無い」とか言われても絶対に「そんな訳無いだろ!」って内心思うよな)


 それでも多少の時間稼ぎにはなる。とは言っても既に門番たちと一悶着したし、追加で来た兵士たちを全員ぶん殴って無力化していたりするのでソレがどれだけ稼げるかは分からないが。

 既にもう不審人物がやって来ている事は連絡されて警戒態勢が上がっているはず。門番の応援要請の件はもしかしたら偉い奴らの耳にも既に入っているかもしれない。


「・・・ここです。今のこの時間ならまだ会議は終わっていないはずです・・・」


 コロシネンは力無くそう言って大きな扉の前で頭を垂れる。どうやら俺に振り回されたのが相当に効いているらしい。随分とその顔はやつれている様に見えた。

 俺はコロシネンにドアを開けて先に入る様に言う。これに素直に従うコロシネンはドアをノックせずにスーッと開いて中に入った。


「・・・む?コロシネン候、何故貴方がここに居るのかね?今頃はまだ作戦実行中で例の村の占領をしているはずではないのか?」


 大きな円卓、ドア側の反対に位置する奥の席に座っていた人物がそう口にする。

 その人物は頭部は丸ハゲ、しかし顎に生やした髭だけはロングで真っ白、綺麗に整えられていた老人だ。


 テーブルにはその老人合わせ六名。これがどうやらノトリー連国を牛耳る者たちである様だ。


「はぁ~。ようやっとかぁ。とは言え、これも俺が正式、とまでは言わないまでもある程度の手順を踏んでの面会とかしてみようと気まぐれを起こした結果だからなぁ。」


「何者だ一体そ奴は?ソレにコロシネン候、血だらけでは無いか。大丈夫なのか?どう言った事なのだ?事情を説明せよ。」


 その疑問が出るのは当然だ。説明を求める権利もあるかもしれない。けれども俺は先に問いたい事があった。


「お宅らの所の兵士ってどいつもこいつもロクでも無い奴らばっかりなんだけど、どう言った教育してたらあんな風になるの?ホント、くそみたいな奴ばっかりなんだけど?」


 これに反論してきたのは六名の内の一番若そうな人物。髪の毛をオールバックにして眼鏡を掛けていた。


「許可も取らずに会議に乗り込んで来て、挙句名乗りもしない闖入者が何を言う?その様な事を言える権利が貴様にあるのか?」


「あー、そう言う感じ?まあそれならそれで良いけど。やっと話が多少はできそうな相手が出て来た事だし。ここでつまらない事にイラつくなんて無駄だよな。じゃあ名前から。俺は遠藤。宜しく。とは言っても別にアンタらの名前なんて俺は知りたいとも思えないし、アンタらの名乗りは要らないよ。コッチの要求をちゃんと受け止めてソレを守ってくれたらソレで良いよ。」


 俺のこの言葉に六名の議員たちの視線がコロシネンに突き刺さる。説明責任を果たせと、お前こんな奴連れて来てどう言う了見だ、と。視線だけでそう言っているのが伝わって来る。

 だがコロシネンは黙って俯いたまま。一言も喋らない。


「脅してから要求を聞かせた方が良い?それとも要求を聞かせてから脅した方が良い?」


 どちらにしろ脅すのは変わりないのだが、もし先にこちらの要求を伝えた場合にはそこで「話し合い」「交渉」と言った事を持ちかけられるかもしれない。そうなれば俺はソレに応じる事もやぶさかではない。

 だけども只々文句だけ、偉そうな態度でこちらを馬鹿にする言葉や狼藉者やら無能だと罵ってきた場合は力づくで俺の事を理解して貰う事になる。


 脅してから要求を伝えれば端から相手がビビッて即座に首を縦に振って了承をするかもしれない。

 けれどもその時には理性を置いてけ堀の野獣外交となる。弱肉強食。不変の真理。そう言った流れには余りしたくはない。

 だってここに居るのは議題を出して、論じ合って、そして国家運営の方針を出しているはずなのだ。

 やはりここはちゃんと話し合いで相手に納得して貰う機会は与えておきたい。互いに言葉の通じない獣同士では無いはずだから。

 納得がいかない力づくで従わされると言うのは後々で「気分が変わった」などと言って反発する者も出てくるかもしれない。それでは面倒だ。

 まあそんな気が起きない位に徹底的に何もかもを破壊し尽くして「勝負にならないよ?」と見せつける事もできる。いや、最初の派遣された軍にはソレを見せつけているのだが、今こうした状況になっている。信用は無い。


 それでもこうしてこの国の決定を出す最高権力を持つ議員がここに六名も居るのだ。流石に話ができる者が一人くらいは居ても良いはず。理性と自制心を持つ者が居ても。


「話にならんな。警備の者たちは何をしていた?」

「下らん事で神聖なこの場に立ち入りおって。コロシネン候、処罰は覚悟しておるな?」

「何故この様な野蛮な者がここに立ち入れたのかは分からないが、つまらん者が何を喋ると言うのだ?時間の無駄だな。」

「コロシネン、後で事情は聞こう。直ぐにそ奴をここから追い出せ。」

「会議の邪魔をしたキサマは万死に値するな。我々の貴重な時間を奪いおってからに。」

「どの様な罰が宜しいかな?今日の最後に刑の決定も話し合うとしよう。」


「危機感を微塵も持た無いって、どう言う神経してるの?これまでどう言った人生歩んで来てんの?どう言った教育受けて来たの?マジでホントにそんな事言っちゃうの?俺がここまで来た苦労は?面倒は?」


 非情に残念、などと言う言葉では生ぬるい徒労感が押し寄せて来た。これに抗う気力が俺には湧いてこない。その精神の余力が残っていなかった。


「俺の求める事は戦争を止めろって事と、壁に対して、その先の村に対して、これ以上ちょっかいを掛けて来るなって事だけだ。守れるよな?守れないんだったら・・・俺は容赦、できないぞ?もうこれ以上は無理だ。一々書類に署名とか、文言決めとか、条件の擦り合わせとか、やらないから。ここでアンタら、約束しろ。一言「はい」と口にするだけで良いんだ。約束、してくれるよな?」


 だからここで俺の要求だけを口にした。そして俺はコロシネンの方を向いて「なぁ?」と同意を求めた。

 これにコロシネンは身体をビクリと微かに震わせてか細い声で「はい・・・」と漏らす。


「コロシネン、キサマはこの怪しい輩の言葉に従うと言うのか?はぁ~、私たちを前にして良い度胸だな?」


 多分この老人が六名の中で一番偉いのだろう。代表してだろうか?コロシネンに対して若干の苛立ちを込めた言葉を投げつけた。

 だけどコレにコロシネンは反応しない。俺が声を掛けた時とは違って微動だにしない。

 コレはこの老人よりも俺の方を遥かに恐れていると言う証拠である。


「残念だよコロシネン候。君はどうやら疲れている様だ。隠居してその後の全てを息子さんに引き継いでもらった方が良いだろう。」


 老人はコロシネンを切り捨てる発言をする。これには流石にコロシネンはグッと全身に力を込めた。だが、何も言おうとはしない。


「君はある程度は使える駒だったのだがね?それも今日でお終いとは。いやはや、次は誰を代表にして兵を出せば良いと言うのだ。」


 俺を無視するかの様に思案を始める老人。コレは俺の要求など端から呑むつもりは無いと言う態度と見て良いだろう。

 だから俺はここで結論を出した。言葉にするのではなく、行動で示す。

 こう言った相手は自らの口で「降参」の言葉を吐かせなければ自分の置かれている立場と言うのを理解できないんだろう。

 話し合いができると思っていた俺は自分で自分を「バカらしい」と心の中だけで罵った。

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[一言] 次回 マ○クラ建物破壊RTAしよーぜ! おまえツルハシな!! いやせっかく有効な解らせ方法見つけたんだから 有効活用しないと
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