信用に足らない
「とまあ、そう言う訳だ。ここまで全て俺の思い付きと気まぐれで来てる。で、全部説明したし、俺の質問、良いか?」
「・・・納得はできない。だが、分かった。何が聞きたいんだ?」
渋い顔したリーダーの青年は俺に向けてジッと瞳を向けてきている。そこには敵意は無い様に見える。
戸惑い、と言った要素がふんだんに含まれているようだ。一体俺が何を聞きたいのかと言った部分に集中している。
「さて、今回の軍の派遣に関しての内情を教えてくれないか?ああ、別にお偉いさんたちの腹の中を洗い浚い吐けって訳じゃ無い。一般の兵士にそんな事が解るはずが無いからな。だから、出兵にどう言った理由で招集されたのかってのを教えてくれればいい。」
「・・・何故そんな事を。まあ、良い。オレたちはこの度、突如出現した長蛇の壁の調査と破壊を主な目的として集められた。その後は壁の奥にある「はず」の村の占拠、占領だ。その後に首都へと連絡、追加の軍を派遣してその村で軍の再編成の後、新選民教国へ戦を仕掛けると言う流れだった。」
ザックリとした枠組みは分かった。どうやらノトリー連国は戦争を諦めていないらしい。
「まだもうちょっと聞いて良いか?一般人と、お偉いさん達との認識の差ってやつ。なあ?ここまで来る間において何か感想は?」
「感想?・・・緑一面、だな。これまで長い年月荒廃した大地だった、この国は。それが、ここまで進軍して来るまでの大地は何処を見ても緑、所々木々があって小さい森まで出来上がっている所まであった。異常だ。異常過ぎる。信じられる訳が無い。幻でも見ている気分だ。」
「で、それを国家元首は知っているか?」
「そんな事を末端の兵であるオレたちが関与する訳じゃ無い。と言うか、コレだけの事を知らずにいる事の方がおかしいと思うが。」
「戦争するよりも今こうして緑の大地として再生した国土の開発をしようって話は一切出て無いのか?」
「そんな話があればこうしてこの場にオレたちが居る事は無かっただろうな。」
「なるほどな。良く分った。この軍の総指揮官の俺への対応はクソだったし。どうにも緑に変わっている大地に関しても何にも関心が無かった様に見えたしなぁ。前回に俺が軍を追い返した事ってどう言う風に捉えてるんだか?」
「・・・で、オレたちは、部隊はどうなる?こうして軍がバラバラになったのはアンタの力、でやったんだろ?話を聞いていて勘付いちまったんだが、まさか、信じたくはないが、この緑一面は・・・そうなったらこの数でアンタに対抗できるとは思えないしな今更。」
どうやらリーダー、頭もそこそこ回るし勘も良いらしい。そして俺に対し「どうあっても敵わない」そんな風に感じた様だ。危険意識を高く持っている様子。
リーダーは不安そうに後ろで控えている部隊を俺がどうするつもりか聞いて来たのでソレに答える。
「うん、話が聞けて良かったよ。ああ、安心してくれ。別に殺戮がしたい訳じゃ無い。誰一人殺す気は無いよ。うーん?いや、殺すかな?悪逆無道の極悪人が居れば、そんな奴を見逃してやったりはしないな。」
コレだけの数が集まっているのだ。中にはそう言った輩が混じっている可能性は高いだろう。
とは言ってもそう言った者を一々俺はこの場で探し出して「必殺仕事人」をする気は無い。俺にそんな義務は無い。面倒臭い。
俺のこの言葉にリーダーの青年はホッとした様な、不安な様な、複雑な表情に。
溜息を吐きつつも眉根を顰めて未だに真っすぐな瞳を俺に向けてきて言う。
「大体聞きたい事は聞けたのか?なら今後の俺たちはどうしたらいい?取り敢えず、アンタに降伏する。指示をくれないか?」
「うん?降伏?別にしないでも良いよ?このまま解散で。取り敢えず集め纏めた部隊はこのまま総指揮官の所に向かえば良いんじゃない?本隊に合流してそれから命令を待てば?」
俺がそう言うとリーダーの青年は難しそうな顔をして口元に手を当てて少々の考え事を始めてしまう。
ぶっちゃけ捕虜とか鬱陶しいし、それを取る意味が俺には無い。とは言ってもこのリーダーの青年は俺の味方になってくれそうなノトリー連国側の人物になりそうなので「それもアリか?」とちょっとだけ考えた。
さてどうにも青年が考える時間が長い様に感じる。ふとここで俺は「そこまで変な事言ったかな?」とちょっと戸惑った。
どう考えても俺の言葉はこの青年にこんなに深く考えさせる様な内容では無かったように思うのだが。
しかしここで思考を纏めた様で青年は自己紹介を始める。
「オレ、いや、私の名はワングと言います。名乗るのが余りにも遅くなり過ぎてしまいましたが、ご容赦を。取り敢えず、失礼とは思いますが今思い付いた話を少しだけ聞いて貰えませんか?」
畏まった態度に変わり、ワングと名乗った青年はどうやら考えたその内容を俺に聞いて欲しいと言って来る。
これに俺は「おいおい、どうなるんだ?」と内心ちょっと面倒だと思ってしまう。
この後、俺はノトリー連国の首都に殴り込みに行ってお偉いさん方を脅して「国土開拓しろや!」と申し付ける気だったのだ。
恐らくそれをすればもう問題は九割解決したも同然、そう、これまでの経験で言ってそんな風に考えていたのだが。だけどもここでワングのこの流れである。面倒な事を言い出さなければ良いのだが。
「壁の向こうにあると言うその村に受け入れて貰えませんか?もちろん全員とは言いません。希望者だけで良いんです。捕虜と言う形で村に住まわせて貰えないでしょうか。もちろん毎日懸命に働きます。お願いできませんでしょうか?」
「おいおい、どう言うつもりなんだよその申し出は。何企んでんの?」
ワングが何を思ってこんな事を要求して来たのか俺にはさっぱり分からない。こんないきなりな事を急に決めれる訳も無い。
「言っちゃなんだけど、君たち信用無いんだよ?解って無いの?村に攻めて来た奴らを「ハイソウデスカ」って言って簡単に受け入れられるはず無いでしょ?」
「村への移住希望者が恐らく部隊の中に大勢いると思うんです。そんな私も貧しい村の出身です。貴方の話を聞いていて私はその様に豊かな村であるならばそちらに移り住みたいと本気で思いました。受け入れて貰えないとしても、せめて一度で良いので村の様子などを見させていただけたりはしないでしょうか。」
このワングの言葉に嘘は無い。だが、裏はありそうだ。まあそこまで大きな裏側でも無さそうだが。
このまま収集した部隊を本体、指揮官の元に持って行ってもどうせ手柄としてカウントして貰えないだろうと考えているだけかもしれない。
そこで村の様子を確認させて貰え無いかと求めて、村の様子などをその目にして、その報告も付け加えて功績にできないか?と思い付いたか、どうだか。
降伏も受け入れない、だけど殲滅もしない。そんな事を口にした俺に対して捕虜として村で働く、などと言った方便を使って身の安全の確保、という見方もある。
ワングの言葉の中に嘘も謀りも混じっていない様に聞こえるのは「村への移住」も本気で考えているからだろう。
そもそも「本隊に合流すれば?」と俺が突き放した後にワングは俺への態度を変えている。
(どう話が転がったとしても、多少なりともプラスになる様にとすぐに計算してこんな事を言って来たんだろうなあ)
何だかワングの本心がちょこっとだけ見えてきた。結構ずうずうしい思考を持っていると言うか、しぶとい?と言うか、只では転ばぬ精神?いわゆる図太い神経をしている。
ここで俺が甘い対応で受け入れるか、ピリ辛な態度で突き放すか。どちらを取るのが良いだろうか?
そして決断してしっかりと俺は言葉にする。
「受け入れは拒否だな。村の見学もさせる気は無い。捕虜とか只タダ面倒なだけだ。村で働く?いや、間に合ってるよ。軍は首都にまた御帰り願おう。さあ、もう話は終わりだ。お疲れさん。」
俺は即座に椅子から立ち上がってテーブル上をササッと素早く片付けてインベントリにしまった。
続いて自分が座っていた椅子、次にテーブルと連続でインベントリにポイッとしまい込む。
残るはワングの座る椅子だけだ。コレを片付けたら軍の指揮官を捕まえてノトリー連国の首都の偉いお役人どもの面を拝みに行くつもりである。
俺の躊躇いも迷いも無い動きにワングが驚愕した様な顔になる。でもそれは一瞬だけ。次には。
「ま、待ってください!もう少しだけでも考えて頂けませんか!?」
と言ってワングは椅子から立ち上がった。その隙を見逃さずに俺は椅子をインベントリに片付けた。
立ち上がったのは悪手だろう。片づけが全て完了したのでもう俺にはこの場に残る用事は無い。
ワングの申し出には一考の余地が確かにあったが、時と場合が悪かったと思って諦めて貰うとする。
俺は無言で空へ上昇する。遥か上空から指揮官の居る場所を確かめてそちらに飛行し、即座に到着。
指揮官の目の前に着陸して俺は用事を単刀直入に述べる。と同時に質問を一つした。
「さて、アンタを連行させて貰いに来た。とその前に、聞かせてくれるか?この辺り一面の緑がアンタの目には入ってるか?ソレをどう思ってる?」
散らばってしまった兵士を連れ戻す命令を部下たちに出していた指揮官はこれに。
「キサマ!よくも!この様なふざけた真似、許さんぞ!ものども!殺せ!こいつを殺せぇ!」
何だかお約束?いつものパターン?毎回こう言った態度の奴らからは「殺せ」としか言われていないような気がする。
とは言えこの命令に従おうとする者が少ない。周囲には三十名は兵士?騎士?が居るのだが。
剣、或いは槍を俺に向けて来たのは七名だけ。そう、コレだけ。俺に攻撃がそもそも届かない事を既に悟っている者の方がこの場には多い。
そんな中でローブを見に纏い赤い宝石の付いた短めの杖をこちらに向けている女性が一人。パッと見で二十台前半?だろうと思うのだが。
「我求むるは獄炎なり、眼前の障害を消し炭へと変える赤、顕現せよ、敵を滅ぼせ」
どうやらその女性、魔法使いらしい。何だか小声で呪文の様なモノを唱えているのだが、どうにも俺に向けてそれを放とうとしているようだ。
詠唱が終わると杖に付いている宝石の輝きが増す。すると親指の爪程の大きさの火がその先に出現した。
その後は次第に時間が経つにつれて宝石の光が増していくのと比例してその火が渦を巻き大きくなって炎と化す。
その炎は次第に球形を取り始める。大体直径2m位になるとそれは発射された。
ソレは俺に着弾。大きな大きな爆発を生む。その衝撃を受けて周囲に居た兵も騎士も指揮官も吹っ飛んで行く。
「・・・で、魔法使いも一緒に吹っ飛ばされて誰も居なくなったんだが?」
当然俺は無傷。あれ位じゃどうって事無い。ドラゴンのブレスだとちょっと危ない、ってくらいなのでこの程度の威力の炎、爆発では俺に傷一つ与えられはしない。ちょっとうるさかったので耳が少しキーンとなった程度だ。
爆発の威力で上がった土煙が治まった所で俺はツッコミを入れる。
「おいおい、数名が意識を持って行かれて気絶してるぞ?大丈夫じゃ無いだろコレ。何で使った?」
仲間が爆発で被害を受けている。自爆覚悟で俺に対して最大威力の攻撃を接近戦で打ち込んたと言う事なんだろう。
だけども結果は散々。起き上がった魔法使いが何とも無いピンピンしている俺を見て「ど、どうして・・・」と絶望の表情をその顔に浮かべていた。
相当自信があった攻撃魔法だったんだろう。その魔法使いはヘナヘナと力無く地面に座り込んだままだ。
ソレが効かなかったと言う事で他の魔法を俺に対して試してみると言った気概が湧いてこないようで心がへし折れてしまっている模様である。
そしてこの攻撃、どうやら指揮官に無断で魔法をブッパなしたらしい。指揮官が怒りを露わにしている。
「お前は私を殺す気か!何故なにも言わずにあれだけの魔法を放った!この馬鹿者が!しかし、これで奴はバラバラに・・・あ?」
指揮官が魔法使いの震えている状態を見てからワンテンポもツーテンポも遅れて俺が生存している事に気づいて唖然顔になる。
魔法使いは怒りをぶつけられて恐れ戦いているのだと、どうやら指揮官は勘違いをしていたらしい。ソレで俺が無傷なのに気づかなかったと。
まぁあれだけの衝撃と熱を直撃したら普通の人なら死ぬだろうから俺の事を気にしなかったと言うのは別におかしい事じゃ無いかもしれない。
けれども指揮官としての立場としてソレはどうか?結果を先ず確認もせずに自分の命を優先、しかも部下への叱責を先にするなんてちょっと有り得ないと思う。
ソレに俺が「普通では無い」と認識できていない指揮官の鈍さはどうあっても上に立つ者の資格が無いと思えるが。
「さて、ここで大人しくして貰う為に何をして見せたら良いかね?このまま無理矢理首根っこ掴んで連れて行っても向こうで自由にさせたらその口から文句ばかり発して鬱陶しそうだしなぁ。最初のこれでガツンとド派手にやって、ちゃんと俺がどれ位の力を持っているかしっかりと理解して貰った方が良いよな?付け入るスキがある、何て余計な事を考えられても困るし。よし、徹底的に知って貰おう。」
俺は前回に軍を追い返した時と同じ様にこの指揮官に俺の力を見せる事にした。
地位も名誉も金も権力も俺には通じない、そうここでしっかりとこの指揮官には心に刻んで貰う事にする。
「おい、アンタ、これから俺が起こす事を良く見ておくんだぞ?ああ、大丈夫だ。殺したりはしないから。でも、逆らったらコレが頭上に容赦無く降り注ぐって事だけは肝に銘じておくように。」
俺は手のひらを青空へと向けた。いや、別にそんなアクションを起こさなくても魔法は使えるのだが。演出だ。
今から俺が何かしますよ、と言ったアピールで分かりやすくする為である。これから起こる事が俺のやった事であると。
忽ちの内に空は暗雲に包まれる。さっきまでは青一面だったはずの空が。
そしてゴロゴロと音が鳴る。それこそ激しく、連続して、大音響で、それが止まらない。
ソレは落ちる。大地に着弾してから「バアン」と何かが破裂する音が響く。
それがそこら中で起きる。そう、雷がこの地域一帯に降り注いでいる。止めどなく。
不思議と雷は人には落ちず、大地に光と音と、火花を少々散らすだけ。まあもちろん俺が人に当たらない様に誘導しているのだが。
さて、一分ほどたっぷりと雷は続く。それこそ百以上は発生していると思う。そして落ちている。
コレだけの雷を落とされて腰を抜かさない者はどうやら居なかった様だ。誰も彼もが小さく悲鳴を上げて自分に雷が落ちない様にと願いながら蹲っていた。
指揮官も漏れ無くその無様を晒している。この場で立っている者は俺だけ。そんな中で女の魔法使いだが、彼女だけは唖然と空を見上げて茫然自失と言った様相をしていた。
「さて、分かって貰えた?コレを頭に落とされたく無かったら大人しくしてくれると嬉しいね。うん、結局脅し付ける位しかイキってる奴を大人しくさせる手段が無いって、ちょっと複雑な気分になるよなぁ。」
まるで自分が暴力の権化にでもなった気分になってしまった。ちょっと落ち込む。
力で解決が一番手っ取り早く、そして確実だ。自分の身が一番大切だと宣う者に対しては特にそうだ。
なのでこう言った場面では使う事に躊躇いは無いのだが、余りにもこう言った事が多く重なるとどうしても自身が馬鹿の一つ覚えになったように感じて凹むのだ。
もっと違う方法で相手を黙らせる方法は無かったかな?と後で考えたりもするが、どうも上手い手は浮かばない。
これで賢者呼ばわりされるのが増々嫌になるループである。だからと言って魔王呼ばわりされるのも勘弁願いたいが、どうせなら魔王の方がどちらかと言われるとマシなんじゃ無いかと今なら思う。
名は体を表すと言うモノだ。こうして力づくで人を従える何て、そりゃ確かに「魔王」呼ばわりされてもおかしくは無いのだから。
「・・・ふ!ふっ!ふざけるな!これがキサマの起こした現象だと!?あり得るはずが無かろうがぁ!」
「あ?まだそう言う事を言っちゃえる気概は残ってんの?じゃあオマケだ。」
指揮官の目の前、そのすぐ側に一発、所じゃ無く十発程最後に落としてやる。
いや、それだけじゃ無く左右、背後にもバンバンと三十発以上は雷を落として最後は終わらせた。
俺が上げていた手を下げればいつの間にか空は青空が。
「うーん?俺が直接コレを操ってるって印象が小さかった?直に手から発射して見せた方が説得力があったか?」
指揮官は無事だ。しかし蹲ったままに器用に顔を上げて俺を睨んできている。まだそれだけの事を出来る何かが心の中に存在しているらしい。
しかし身体の方は正直だ。命一杯に力んで縮こまり、どれだけだよ、と言いたくなる位にブルブルと震え続けている。まるで裸で極寒の中に放り投げられたかの様である。
ソレが治まる様子は無く、何時までも俺を睨んできていたので先程のも説得力が無かったかと俺は思ったのだ。
なので手のひらを開いてその中に雷の「球」を出してみる。
相手の魔法使いから「火の球」を食らったのでソレを真似てみたのだ。パチパチと青白い色でそんな音を立て続けるコレを見つめて俺は「さて、これどうしよう?」と呟く。
この後の事を考えていなかった。これをそのまま指揮官に向けて放つと言う事はしない。
誰も居ない場所に目掛けてソレを放てばいいだけなのだろうが、コレ、威力がどれ位になるかを俺は把握できていない。
なので余波が危険であるのだ。どれ程に被害が拡大するか分からない。なのでこの「雷の球」を着弾させる場所のその周囲を魔力の壁で囲わないとダメだろう。手間だ。
まあその位の手間はどうって事無いのだが、それでも俺は思ってしまう「どうしてそんな手間を掛けなきゃならんのか?」と。
「まあ一人も殺す気が無かったんだからしょうがない手間賃だよなぁ。でも、指揮官一人だけの為にソレをするってのは、どうもなあ。」
既に指揮官以外の兵士たちは戦意喪失している。と言うか、恐らくは長時間、長期間、兵士として役には立たなくなっている事だろう。
だって「おお・・・神よ」と誰もが土下座状態で命乞いをしているのだから。しかも神様に向けて。俺では無く。
きっとトラウマが深くなり過ぎて今後戦争に出られなくなってしまっているのではないだろうか?
まあそうであればノトリー連国の上層部の方針を大きく挫く事に成功しているとも言えなくもないが。
と言う事で俺は「雷の球」を放つ。誰も居ない場所を目掛けて。ちゃんとソレを指揮官が見ていると確認して。
そして着弾、の後に周囲が「ピカッ!」と白く染まる。目を開け辛い程の真っ白。
その後は轟音。雷鳴がたっぷり連続で十秒以上鳴り響き続けた。直径5mはあろうかと言う雷の柱が天へと到達する程の高さに達している。
腹の奥に響いて思わず力が全身に入る程の空気の震えはこの周囲一帯の音を全て潰した。
ソレが治まれば静寂が場を支配する。そこに俺は自分でやった事ながらに文句をつける。
「うるせぇ・・・眩しい・・・加減したのに、ちゃんと込めた魔力抑えたのに・・・」
相変わらず俺は魔力制御が下手糞だった。これに俺はがっかりしながら指揮官の方を向いた。
そこには震えの止まった指揮官。これに俺は「アレ?」と一瞬思った。だけどなんて事は無い。
「気絶してるだけか。ショック死してたらどうしようかと一瞬焦ったわー。」
白目を剥いて土下座状態で顔だけ上げて白目になっている指揮官。器用な形で気絶したモノである。どうやら筋肉の緊張がそのままに意識が吹っ飛んでこうなった様だ。よりにもよってこんな体勢で硬直してしまうとは思わなかった。
ここで声を上げる者が一人、魔法使いである。それは怯えて掠れているがハッキリとこちらに伝わる声量だった。
「お許しを・・・どうか、どうか、お許しを・・・お許しを・・・」
どうやらこの魔法使いだけが俺の事を正しく認識できている様だ。他の兵士たちは未だに神に祈りを捧げ続けている。俺がやった事だと兵士たちはどうして認識できていないのだろうか?
コレだけの事をやったのに、雷は俺がやった事だと理解している者はこの魔法使いしか居ないらしい。
怯えさせたままにするとこのまま何も話が進まなさそうなので俺は魔法使いに声を掛ける。
「ちゃんと言っておいたけど、殺さないって。大人しく散らばった兵士を集めて国に素直に帰ってくれれば良いんだよ。取り敢えずこの指揮官は連れて行くから、コイツの次に偉い奴は誰?そいつに後の事は任せるから、さっさと行動してね?それじゃあまた会わない事を祈ってるよ。」
俺は意識の無い指揮官を掴んでそのまま引きずりつつワープゲートを出してソレを通る。
そして到着したのは首都である。当然門から正式に堂々と入るなんて事はしない。いきなり街の中である。
「テキトウに中心部にあるド派手でデカイ建物に行けば良いのかね?・・・あ、いや、人に聞けば良い事だった、うん。」
俺はいつもいつも何でも大体最後には魔法で解決してしまっているので人に頼ると言う事を忘れかけている節がある。
魔力ソナーで即座に一発で発見してしまう事もできてしまうが、一応は間違いが無い様にこの首都に住む者に話を一度は聞いておいた方が良いだろう。
間違いなんて幾らでも起きる。魔法は信頼も信用もできる代物なのだろうが、だからと言って間違いが起きないとは言い切れないのだ。
とにもかくにも魔法を使って得た情報であってもソレを使い判断を下すのは所詮は人だ。人は間違いを起こす存在である。自分で自分を余り過信しない方が安全だ。
「それでも頼り切ってる部分が多いけど。あ、スイマセンそこの方、この国で一番偉い人たちが集まる場所って何処か教えて頂けませんか?」
そんな事を聞かれたオッサンは俺を見てギョッとした目をした後に訝し気な表情になった。
まあ当たり前だろう。人一人を引きずって、しかも国の中枢を担う者たちが集まる場所は何処だと問われたのだ。
テロか?そんな事を思い浮かべる可能性が滅茶苦茶高いはずで。そして今の俺は何処からどう見ても不審者そのものだった。
そしてそのオッサンは正しい行動をした。逃げ出したのだ。即行で、ダッシュで。
そもそもがだ、怪しい人物に声を掛けられて、そしてその問われた内容も明らかにおかしい。どうにも上等な軍服?を着ている気絶した人物が引きずられていたら、そりゃ逃げ出す選択肢が出て来るのもおかしくは無い。
そしてこのオッサンはその選択肢を躊躇わずに選び、実行できるだけの決断力、行動力があったと言う事である。
「・・・いきなりコレか。そりゃそうだわ。憲兵を呼ばれるか?そのまま只逃げ出しただけか?」
オッサンが助けを呼びに行ったのであれば、ここで待っているだけで俺の得たい情報を持つ者たちが集まって来る事だろう。
だけど不審人物から只離れるだけを望んで逃げたのだとしたら、ここに何時まで居ても意味は無い。
「ああ、道案内をさせるだけなら気絶してるこいつを起こしてしまえば良かったな。こう言う所が俺はいつも抜けてるんだよなぁ。」
起こすにしても優しく起こす気は無かったので水の玉を作って未だ目の覚めそうにも無い指揮官の顔にぶつけてみる。
一回では起きなかったので二回三回と連続で試すのだが、起きない。
なので調子に乗って十回、二十回と連続で、そして当てる時も次第に勢いをつけて行って衝撃も入る様にと威力を上げていった。
そして二十七回目、やっと指揮官は気を取り戻した。
「ぶへぁ!?・・・ぶほっ!げほっ!げほぉっ!おぇぇぇ・・・ど、どう言う事だ?私は一体どうして、どうなった?ここは、何処だ?」
指揮官の服はびしょ濡れ。俺がバシャバシャと水の玉をぶつけ続けたので顔だけでは無くそこら中に水が散ってソレが服に沁みている。
「目が覚めた?じゃあ道案内して貰える?ああ、まだ頭の整理ができてないならもうちょっと位は待つけど。ふざけた真似したら即座にコレを撃ち込むから、宜しく?」
俺は手の平の中にパチパチと音を弾けさせる「雷の球」を出して見せる。
コレを見てどうやら直ぐに気絶する前の事を指揮官は思い出した様だ。顔色を青くしてブルブルと震え出した。
「わ、私をどうするつもりだ?き、キサマの求めるのは、身代金か?だ、だったら金なら幾らでもやる!だから、わ、私を今すぐに解放しろ!」
相変わらずこの指揮官は何も分かっちゃいないらしかった。余程自分の身だけが可愛いらしい。
しかしここで余計に面倒臭くなる展開がやって来る。
「そこの怪しい奴!抵抗するなよ!大人しく縛につけ!」
どうやら逃げたあのオッサンは憲兵を呼んだようだった。