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もう一度追い返す

「なあ?アンタはこの軍の一番偉い人で良いのか?そうであったなら話をしようか。」


「何をしているか者ども!この不審人物を早く捕えんか!」


 どうやら末端の部隊長と言った所か。俺のこの求めに応じてくれないのならば無視して良い。

 俺は止まらずに陣の中を進む。恐らくは中心にこの軍の総指揮官がいる、と思う。

 なので真っすぐ進む。止まらない。


 何で空から一気にそこまで行かないのかと言うと、俺の事をしっかりと末端の兵士たちにも認識させる為だ。

 この中に前回の行軍に参加している者が居たとしたなら、追い返す為に見せたあの「爆発」を知っている者が居るはず。

 兵士たちの多くがアレをやったのが俺だと言う事を知っていたならば、きっと今回の軍の派遣には参加していないと思うし、今この場に俺が来ている事を知った者から逃げ出すと思える。君子危うきに近寄らず、である。


 今この場にやって来ている兵士の数は魔力ソナーで感知してザっと一万と言った所だ。

 前回よりは少なくなっているのだが、恐らくは目的が違うからだろう。

 この度の軍はこの「魔改造村」の占拠が目的と見られる。そうでなければ村の「防壁」を破壊しようとする動きを最初にはしないと思うのだ。


 さて、俺は槍を360度から向けられている。そして一斉に突き出されるのだが、俺には刺さる事は無い。

 槍先を無視してドンドンズカズカ歩き続けた。


 捕まえろと言う命令を出されているのだが、兵士たちはどうやら槍で囲まれても何の動揺も見せない俺に危機感でも覚えたのか槍で刺し殺そうと動いたのである。


「貴様ら!誰が殺せと言った!捕縛しろと・・・は?」


 俺にそもそも刃先が刺さっていない事に気付いた隊長らしき男は唖然とした顔になって一瞬動かなくなる。

 だが俺がそもそも歩みを止めないで兵士を掻き分けて進んでいくので慌てて「そ、そいつを止めろ!」と叫んだ。


 槍が刺さらない、殺せない、だったら歩かせない為に押し止める。当然の指示だろう。

 と言うか、そもそも捕縛を命令していたのだから俺を抑え込む事ができねば話にならない。

 ここで今更兵士たちが素手にて俺に襲い掛かって来る。最初からそうしろとツッコミを入れたい所である。


 だけども俺から2m離れた所で兵士たちは全員止まる。それ以上俺に近付け無い、踏み込めない。

 俺が進めば前方を塞ごうとしている兵士たちは押される様にして後退し続ける。

 もちろんソレは魔法で俺の周囲にバリアを張っているからである。男に掴み掛かられて喜ぶ趣味を俺はしていない。


 そのバリアの範囲を歩き続けつつ広げていく。3m、4m、5m、6m、7m、8m、9m、10m。


 広がって行くバリアに押されて兵士たちは遠ざかって行く。中にはバリアに剣を叩き付けたり、槍を突きこんだりしている兵士も見られたが、それは意味を為さない。その程度で壊れる様な魔力の籠め方をしていない。


 さて、キリ良く俺は10mでバリアを止めたのだが、どうやらその事にホッとしている兵士たちがほとんどだ。これ以上に透明な見えない壁が際限無く広がり続けた場合の結末を想像していたんだろう。

 しかし、たった10m、されど10mである。今この一万もの数の兵が整列して陣を敷いているその一部にポッカリと穴が出来ている状態だ。

 上空から見たらさぞかし見事な円が見える事だろう。そしてコレのせいで陣形が乱れてこの事態をまだ知らない兵たちは一体何事かと驚いているに違いない。


 俺は無人の野を行くかの如くに陣の中央に向けて歩き続ける。

 そうして暫くしてやっとどうやらこの軍の総司令官と見られる者を発見した。


「アンタがこの軍の責任者?そうであったなら、話をしようじゃ無いか。別に難しい話をしようってんじゃない。こんな御大層な数の人数引き連れてやってきたのはご苦労な事なんだがな。何用でこちらに?」


「キサマがこの先に存在する村を不法に占拠していると言う魔導士か。ならばキサマを殺せば終わりだな。お前たち、やれ。」


 いきなりのこの対応に俺は話し合いができない奴がやって来た事を知る。

 もう少し交渉と言った感じでこちらの様子を窺って来る様な輩であったならばソレに少しくらいは付き合って長話くらいはしても良かったのだが。

 こうも何故頻繁に俺は出会う奴にいきなり殺意を向けられなければならないのか?


 これまでに出会ってきた人物全員がそう言った者たちでは無いのだが、しかし如何せん納得しずらいものがある。


 こうして軍を派遣して来たならば、ノトリー連国内で会議が開かれたはずだ。

 そしてその会議ではきっと俺が「ナパーム」な脅しをして軍を引かせた事は議題に上っているはず。

 そうしたら「ヤベー奴が相手だ」と言った議論がされてしかるべき。

 そこから結論が出て「潜在的脅威は攻め滅ぼせ」か「触らぬ神に祟り無し」かになるとみられる。


「で、これか結果は。うーん、首脳陣は頭悪い奴らばっかりが集まってるのかね?」


 現場に居てそれを直に感じた者たちと、安全な場所に居て実際あった事を目にしていない者たちとでは認識に大きな隔たりがあるんだろう。

 百聞は一見に如かず、だ。幾ら言葉でその状況を報告しても、幾らその時の臨場感を言葉で伝えても、それを実際に目にしていないお偉いさんたちが正しくその現場を理解、認識できる訳も無い。

 そしてお偉いさんたちの決定に断固反対しても部下の者たちはその立場から抵抗できる事なんてたかが知れている。

 物事を正しく理解できていない者たちが勘違いや思い違いで決めつけた結論に下っ端の者たちが逆らえる立場に無いのだ。


 そして今俺の目の前で偉そうに「殺せ」と命じたこの男は「理解」を出来ていない方の者である、と。


「どう言う事だ?何故先程から誰もコイツに近付かずにおるのか!さっさとやらぬか!」


「前回の時の指揮官の人だったらもうちょっと話が早かったんだけどなぁ。・・・あ、今この場に居ないって事は前回の件の責任取らされて左遷されたのかな?あー、不味ったわー。こんなのが代わりに来ると分かっていればもうちょっとやり様があったかも?」


 後悔しても遅いとはこの事だ。この分だと恐らくだが、またこの軍を俺が脅して追い返してもきっとまた軍を編成し直して、指揮官を挿げ替えて、再びやって来るに違いない。

 そう言った事を多分数度繰り返してやっと軍の派遣を停止すると言った感じになると予想される。

 ソレは面倒だ。面倒過ぎる。今回の一回で打ち止めにして欲しい所である。


 俺は暇だが、こう言った対応に何度も何度も駆り出されたくは無い。

 どうせならノトリー連国の対応はこれきりで終わりにさせて新選民教国の方でメリアリネスとの話し合いもしておきたいのだ。


「こうなれば直接俺が出向くしかないのかなぁ。もうそんなの何度もやって来たし、いつもの事かぁ。」


 俺は魔力をどんどんとバリアに注ぎ込む。すると円形のバリアはどんどんとその広さを拡大させていく。


「こ、これはどうなっておる!?誰か!誰かコレを何とかしろ!止めるのだ!」


 俺の広げるバリアは容赦無くあらゆるモノを押し込んでいく。俺を中心に広がって行くバリアを兵士たちは止めようと必死になって力を込めて押してくるのだが、それは一向に効果を為さない。

 兵士たちの踏ん張った足が地面を削りながら後退していく。拡大は止められない。


「一旦この軍を崩壊させてから撤退させて、その後を追う感じでお偉いさん達に挨拶しに行くかね。・・・はぁ、またこのパターンだよ。」


 新しい土地に観光に行くと大体こうだ。確かに俺は何かとやらかしている事は認める。

 だけどもそれで毎度の事、国のお偉いさんに挨拶しに出向く事が多過ぎる。

 一番上に先に話を通しておくと今後に俺が何かと思い付いた時にやり易いと言うのはあるが。


「ああ、そうか。俺がこの世界に遠慮をしていないのがダメなんだな。自覚した所でそれでも今後同じ事を繰り返すんだろうけど。」


 この世界に俺を止められる奴が居ないであろう事を分かってやっている。だからこうして何の気負いもせずに国へ喧嘩を売る様な真似を平気でこれまでしてきていたのだ。これ以上にタチが悪い事も無いだろう。

 それでその事を自分で愚痴っているのだから最低だ。傍若無人だ。厚顔無恥、面の皮が厚いと言える。

 そして守るべきモノも無く、只自分の我儘でこの世界をあっちこっちにほっつき歩いているのだから傍迷惑、迷惑千万だ。

 今回を機に数年は何処かに腰をしっかりと下ろして身を落ち着かせた方が良いだろうか?


「それも今回の事が終わってからだな。・・・何処を終着点としたら終わりなんだコレ?」


 これまでのノトリー連国の各地の荒れ具合を見てそもそも土地の貧しさが問題であると思ってソレの解消に行動してみたが。

 俺が「大改造びふぉあー・あふたー」してみた大地の事を首脳陣は知らないのだろうか?それをほったらかしで今回のノトリー連国軍の派兵である。

 そもそも俺はノトリー連国の全域、と言うか、魔力ソナーで調べ感知した荒れた土地はその全てを漏らす事無く緑の土地に変えている。

 なので首都の周辺の土地も範囲内だ。それこそ深い緑に覆われたはずなので分からなかった、知らなかったなどと言うのは有り得ないと思うのだが。

 それこそこれまでずっと土肌が晒されていた大地に急激な緑化が始まれば、ソレは異常として偉い奴らの耳にその情報が入るはずだ。上に報告は上がるだろう、そんな異常事態は。

 ソレが入っていないなんて事は流石に無いだろう。いや、無いと思いたい。

 そんな情報が上がる事も無い様な腐った、捻じれた、歪んだ体制では無いと信じたい。


「とは言え、それを分かった上で軍を出したのだとしたら、それもソレでどう言った理由なのか聞いてかないとダメか?あー、うん、何となくクダラナイ理由なんじゃ無いかって思っちゃうなぁ。」


 取り敢えず前回に追い返したときの軍の総指揮官の報告をマトモに信じちゃいないんだろう首脳陣は。

 そうじゃ無いとこうしてまた軍を出す事はしないだろうし、総指揮官をこれ程の話を聞かない奴にやらせたりはしないだろう。


「うーん、俺が直接話しをしに行っても会話が成立するか?コレ?胸糞悪くならないか?話通じるか?言葉、通じるか?」


 それこそいきなり出合って即座に俺を殺す様に命令を出した指揮官である。こっちの言葉なんてその耳にすら入っていなかった様子だった。

 そんな奴を軍の指揮官に命じた奴らの程度がこれである程度知れると言うモノである。


 さて、バリアの拡大は俺がそんなボヤキを溢している間も止まらない。

 軍は既に敷いた陣の崩壊を早々にしており、末端の兵士たちはそこそこの数が逃げ出している状態だ。

 賢い、或いは決断の早い部隊などはこれに一纏まりになって動いていたりする。どうやら有能な部隊長などがある程度の数は居た様だ。

 そう言った部隊は散りじりになりながらも集合をしようとしている動きをしているものもあった。


「話を聞いてみるならそっちの隊長さんに聞いてみた方が早そうか。」


 ここで俺はバリアを広げるのを止めた。その時にはバリアの半径は200mは広がっていた。


 そもそもこの軍は緑の中をここまでやって来たはずだ。そう、俺の周囲は以前までは黄土色で乾いた大地だった。

 しかし今は全域が緑一色である。コレを目にしておかしいと思わ無い訳が無い。ここまでの行軍で異常をその目にしない訳が無い。


「いや、首都の中に籠りきりで外の様子なんてこれっぽっちも気にしてこなかった馬鹿だったら?」


 妙な部分でそんな不安が浮かんでくる。異常を異常と思わない、考えつきもしない。まさか、よもや、そんな思いが拭いきれない。


「・・・末端の兵士となら多少の話はできそうか。なら偉い奴らからじゃ無くて平民階級の兵士から聞き込みしてみようか。」


 俺は一旦バリアを解いた。そして陣が崩壊してバラバラになっている部隊を再び纏めようと動きを見せる場所へ俺は近づいた。

 恐らくはその動きをしている纏め役は話ができる相手だ。そう勘が働いてゆっくりと歩いてそちら側に向かった。

 急いで向かわなかったのは相手側に心の準備をさせる為である。やろうと思えば一瞬でそちらに到着できる。

 しかしそれでは覚悟の決まっていない狼狽えた状態で俺の相手をする事になるだろう。そうなったら俺と会話をしようにも冷静に話し合いができない向こうが。

 なので時間をしっかりと掛けて俺が近づいている事を向こうに認識させなければならない。

 これで相手がそのまま待機するか、バリアが無くなった事で攻めて来るか、逃げ出すかの様子見もできる。相手のリアクション待ちと言うヤツである。


「それにしてもほったらかしにしていたらホント、良く育ったなぁ。」


 緑が眩しい。初めてこの地を訪れた者が、この大地が最初一面、土しかなかったのだと誰が思うだろうか?

 それくらいに今は有り得ない位に様変わりした事に自分でもちょっと驚く。自分でやっておいて。


 そうやって静かに歩き続ければいつの間にかかなりの距離を歩いている。

 目の前には盾を構えた者たちが五十名横並びで俺に対峙していた。その背後には弓兵がおり、そのまた後ろに槍を持った兵士が並んでいた。

 弓兵は既に矢を番えていつでも弓を発射できる様にと待機状態。どうやら初撃は矢での攻撃を試みると言った感じか。

 その後に槍兵に突撃を敢行させるのだろうか?盾持ちはどうやら壁役と言った所か。


「さて、これ以上進むと、うーん?多分矢が降って来るだろうな。待つか。」


 相手に無駄に緊張を覚えさせると恐慌が起きる。そうなれば恐怖に駆られて誰かが勝手に矢を射かけて来る可能性が高くなる。

 そうなれば一斉に周囲の者たちにその動きが連鎖されて俺に向かって矢がどんどんと雨あられになる事だろう。

 そうなれば余計に面倒だ。その矢の雨などは俺にとっては何でも無い事であるのだが。

 相手側にとっては矢の攻撃に掠り傷一つ負わない俺に対してより一層の恐怖を覚えてしまう事になるだろう。

 そうなったら話し合いが余計に遠のく。俺はノトリー連国が軍を「魔改造村」に寄こした理由をざっくりとでも聞いておきたかったからこうして手間を掛けているのだ。

 魔法と言う力を持っている癖にこのやり方はもの凄く下らない事であるかもしれないが、俺は先に直接、末端の兵士たちからこれまでの経緯を聞いておきたかったのだ。


 待っている間、緊張感が漂う。俺にでは無く、向こうの兵士たちの間に。表情がもの凄く硬い。

 だが暫くして俺が動かないでいる事を不審に思ったらしい。ぽつりぽつりと弓の構えを解いていく者が現れた。

 まあ単純に構えを取り続ける事に疲れて解いたと言った事も考えられるが。

 待ち過ぎて弛緩してきたんだろう緊張感が。隣り合わせた兵士たちが互いの顔を見合わせ始める。

 多分その心の中は「どうなっているんだ?」の疑問で一杯になっているのだろう。


(ここで待ちの構え解いたらダメだよな。向こうが使者を出して来るまで徹底して動かないでいよう)


 慌てず騒がず、ここで俺から先に動いたら向こうがまた緊張状態に戻ってしまう。

 ここで大事なのは向こうの部隊の隊長?纏め役?に覚悟と冷静さを持って貰う事である。

 そのタイミングを見極めて俺は声を掛けねばならない。話を聞かせて欲しい、と。


(今何分経ったかなぁ?もうそろそろ、良いか?)


 もう既に五分は睨めっこをしている。これ以上余り時間を掛けたくは無い。何せ俺が飽きてしまう。この状態に。

 こらえ性が無い自分に苦笑いが起きる。ひとしきり自分自身に呆れた笑いを出してから俺は声を張って伝えた。


「話を聞きたい、そっちの代表に。俺は君たちに危害を加える気は無い。出て来てくれないか?」


 こんな言葉を信じられる訳が無いと思う。だがこの硬直した状態を変化させようと思ったら俺のこの求めに行動を起こさねばならない。

 求めに従い代表を一人俺の前へと出すか、突撃を仕掛けるのか、逃亡を試みるのか。


 突撃なんて選んだ場合の相手の心理としては俺が「危害を加える気は無い」と言った部分に因るだろう。

 そう言っているならば敵が攻撃を仕掛けて来る事は無い、と言った余りにも浅い考えで。

 反撃はしない、などとは言っていない事を認識できない、自らの都合だけを見ている部隊長と言えるだろうそうなれば。

 攻撃を受けた時に「やられたからやり返した」などと俺が言ったら、その部隊長は「そんな、騙したのか!?」と絶望した顔でも浮かべそうだ。


 ここで逃げ出そうとしたならば俺の力量を見誤っていると見て良い。しかし臆病とはその時点では断言できない。

 隊を、部下の命を預かる立場の者としてそう言った決断を下すのは勇気と覚悟が必要なはずだから。

 とは言ってもその部隊長が小心者で自分の命を一番に大事にする者であったならば、ここで兵士たちに突撃を命令して自分だけ逃げ出すと言った事をする可能性もある。

 兵士たちを囮にして自分だけ助かろうとする、何て事をしないとも限らない。

 そう言った場合でも俺の事をまだまだ舐めていると言っても過言じゃないが。まあ俺の力の全貌を知らない者にはどうしようもない事ではある。


 さて、ちゃんとここで話し合いを出来る者を出してきた時の事を考える。

 俺に交渉の余地があると見てその決定をしたのならば賢明な判断を出せる者が部隊長をしていると言っても良い。この隊を纏める隊長本人が来てくれればもっと良い。

 だけども此処で俺に奇襲を掛ける為に死兵を募って俺に差し向けてきた場合の事も考えなければいけないだろう。

 そんな不意打ちを食らった所で俺は傷の一つも付かないのであるが。

 この場合は俺に対しての殺意が未だに高い事を示している。それは「慣れ合わない」と言った意思表示、この部隊を纏める者が国の決定に命を殉じている証拠とも見れるだろう。

 俺への奇襲、暗殺が失敗に終わればその後は突撃を敢行して来るか、或いは降伏する事を申し出てくるか。どちらかだと思う。降伏してくれたら面倒は無いのだが、そうは思えないこう言った場合。


 さて、ここで敢えて俺は近付て来る者へと魔力ソナーで敵意があるかどうかを調べるのをしないでおく。

 敵意が残っていても俺と対話をする事もできるし、俺に近付く者を囮として前に出し話し合いに応じると見せかけて他の者が俺へと襲撃をしかけて来る事も想定する。


 人の顔と言うのは裏も表もある。そして目の前には大勢のそんな顔が入り混じる状態だ。

 俺に敵意を漲らせこちらを睨む兵士も居れば、怯えて今にも悲鳴を上げて逃げ出したそうにしている者も居る。

 その顔が即座にクルクルと裏になり、または表になる事も有り得るのだ。俺はソレを見極めてから話をし始めないと余計面倒が増す。

 今は相手の敵意を引き出す様な行動を俺からは取れない状態だ。何せ俺は話が聞きたいだけなのだから。

 兵士たちが勝手に暴れ始めてもダメ、勝手に逃げ出そうとしてもダメ。現状維持で様子見、と言った判断をさせなければ今のこの状態は直ぐに崩壊してしまうだろう。

 俺が余りにもここで派手にやらかしてしまうと話し合いもできない程のカオスになる。それは勘弁だ。


「それもこれも相手の出方次第ってのがあるからなぁ。ここで俺が何もしなかったとしても、勝手に向こうがパニックになって訳の分からない行動に出るとも知れ無いし?」


 悩ましい所だ。兵士たちが勝手に被害妄想を膨らませて恐慌状態に陥ってあれよあれよと部隊崩壊が起きても不思議では無い緊張感が漂っているのだ。

 俺がここで只何も言わず、何も動かずに突っ立っているだけでソレが起きそうな雰囲気が残っているのである。勘弁願いたい。

 ここで「魔力固め」で兵士全員を動けなくさせるのは簡単なのだが、ソレだと俺への恐怖でマトモに話を出来なくなる可能性も残っている。

 別に拷問をして情報を引き出そうと思っている訳では無い。分かり切った腐れ外道の悪党から情報を絞り出そうとしている訳では無い今回は。

 只の一般兵に対してその様な酷い事をしようなどと俺は考えて無い。


「・・・出てこないなぁ。話を聞きたいだけなのに、俺はそんな事も満足にできないって、ちょっと凹む・・・」


 所詮俺は魔法が無ければ何もできない一般人。それが今しみじみと俺の中に浸透する。

 交渉事は会社勤めをしていた時の経験もあって昔取った杵柄だと思っていたのだが。

 ソレは今の状況や現状、状態、前提条件がそもそも間違っている。それを俺は気付く。


「うん、俺はそもそもこんな立場と相手で交渉なんてした事無いわ。当たり前だわ、上手く行かないのは。と言うか、上手く行って堪るか、って所だな、うん。」


 殺し殺される、そんな空気感の真っただ中での交渉なんて俺が「日本人」で只の「会社員」として働いている時に有り得るはずが無いのだ。

 そんな経験をするとは、それは一体どう言った時だろうか?平和な社会で生きていた俺にはそんなの想像もできない。

 敢えて言うのであれば、そんなシチュエーションはフィクションの中だけで、俺はソレを傍観者としてその場面を見ているだけであるだろう。そもそもそんなのは経験とは言えない。

 こんな俺が交渉の当事者になって殺気立った兵士たちを丸く収める、そんなの無茶無謀としか言いようがない。


 そんなこんなで暫くの時間が過ぎる。俺は待つ間に色んな事をこうして考えていたのだが、最終的に全部が全部「くだらないな」と纏めた。

 結局俺は最後の手段として「魔法の力で全て解決!」ができてしまうのだ。悩む方がおかしかった。

 要するに開き直りである。馬鹿の考え休むに似たりとは今の俺の事だろう。

 その結論に至った時にようやっと相手に動きがみられたのだった。

 三名が前に出て来てゆっくりと俺に近付いて来る。どうやら話をしてくれるらしい。

 とは言え油断はできない。いや、油断していても俺に危害を加える事など相手にはできない。力の差があり過ぎる、向こうと俺とでは。


「・・・何の話を聞きたいのか?そもそも一体お前は何者だ?聞きたい事が山ほどあるのはこちらの方だ。」


「お?ちゃんと度胸もあってしっかりと冷静さを保っていても敵意は控えないのな。まあいいさ。俺は遠藤、宜しく。」


「挨拶など無用だ。名など名乗って何になる?どの様な訳があってこの様な事になっているんだ?こうなったのはお前の、力なのか?危害を加える気が無いと言ったな?やろうと思えばこちらを打ち倒せると言う事なんだな?それも、一人で。」


 初対面同士で挨拶は大事だろうに、名乗りに意味は無いとぶった切られてしまった。悲しい。まあそれだけ俺に対して敵意が満タンなのだろうけれども。

 向こうが一体お前は何者だと言うから名乗ったのに虚しい限りである。


「うーん?さっきからそっちばかりが俺への質問をしてくるけど、まあ良いか。ちゃんとその質問に俺が答えたら、そっちも俺の知りたい事を教えてくれよ?それじゃあ、何から答えるかね?」


 三人の内の一人、横並びでいる真ん中の男が俺に対して質問をぶつけて来ていた。精悍な顔つきの青年だ。どうやら彼がリーダーである様子。

 髪は短く揃えられ、ちょっと釣り目がちなのは俺への警戒で緊張感からだろうか?細身だが鍛えられているのが分る背筋のピンと伸びた立ち姿の綺麗さが爽やかさを演出している。


 さて、こうなると相手の疑問を先に解消してしまった方がスムーズに後で俺の知りたい事を答えてくれるだろう。

 しかしそうなると何を何処から、どの程度まで話したら良いモノか?そもそも俺が何を言っても相手が話の内容を信じてくれなければどうしようもない。

 ここで最初から最後までを説明するのに面倒だと思って話を端折ると問題は積み上がるばかりだと思えた。煙に巻く様に誤魔化したりしても当然駄目だろう。テキトーにざっくりとした内容でもちょっと不安だ。


 ついでにここでノトリー連国側に俺の味方となってくれる者を作っておいた方が後々に有用なのではと考える。

 なので俺はこの三名にしっかりと話を聞いて貰う為にもテーブルと椅子、それと茶と菓子まで出してその三名に座る様に勧めた。真摯な対応を心掛ける事に決める。


 これに三名はギョッとした目で俺のこの行動を見て驚いて剣を抜き放った。

 だが出て来たのがお茶会を開くための一式だと分かると理解不能と一発で分かるポカンとした顔に。


「ちょっと長くなるからゆっくりと話を出来る環境にしてみた。後ろの部隊の人たちに休憩を取る様に連絡しておいてあげてくれ。立ちっぱなしも疲れるだろうからな。さて、俺が何者かって事、の前に、事の発端?となった俺の疑問から説明しようか。話の途中に疑問が出てきても最後まで一応は先に聞いてみてくれ。」


 三名の内の一人がこの場から離れて部隊の方に戻って行く。どうやら素直に俺の言った事を実行してくれるようだ。

 しかしその表情は凄く眉根を顰めたモノであった。どうやら俺を増々胡散臭い人物と捉えたらしい。

 せっかく俺は相手に警戒心を持たせない様にと考えて動いていたのだが、どうやら好感度は今も急降下と言った所なんだろう。逆目に出ている様だ。


 お茶しながら話をしようなどと勧めたのがいけなかったのか、どうなのか。まあ敵だと思われる相手とのんびり茶を飲むなどと言うのは呑み込めない事態だと言うのは分かる。普通じゃ無い。

 しかもついでに牧歌的、気持ちの良い風の吹くこんな空の下で野原の只中である。そんな場所にいきなり何処から出したのか意味不明のテーブルに椅子、茶と菓子である。ドン引きして一層に警戒心を上げるのは当たり前か。


 リーダーの青年が椅子に座った。座るまでにたっぷりと一分くらい時間が掛かっている。もう一人の男は椅子に座らなかった。護衛の為に直ぐに動けるよう立ったままでいるつもりらしい。


 俺はリーダーが座った所で話始める。ノトリー連国がどうして新選民教国へと戦争を仕掛けたのかと言った疑問から始まったと述べる。

 そこから荒れた国土に、国からの援助無く死ぬ寸前の村、その救助、村の復興発展などなど。

 緑化計画、戦争を止めた事、各地区の死にかけの村に食糧援助もした事。

 その他もろもろ、この「今」までの経緯を隠す事無く全て喋り切った。

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