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交渉?いいえ、そんな御大層なモノでは御座いません

 町を見て回ればそこそこに時間は経過する。屋台で串肉を買って食べ歩きながら香辛料やら砂糖を販売している店を探そうとあっちの店に入り、出て、そっちの店に入り、出て、と繰り返していく。


「うーん、こりゃ人に聞いた方が早いな。魔力ソナーで捜せはするんだろうけど。それはつまらないし?」


 でも、もうそろそろ店が見つからない事に諦めが入ってきた。もしかしたらそう言った雑貨店などはこの町に無いと言った可能性もある。

 だから先ずは通行人に聞いてみた。香辛料だけでなくて調味料を売っている店などが無いかと。

 そうするとその店は直ぐ側にあった。通行人はこちらの質問に対して「直ぐそこだ」と指で示してくれた。

 俺はソレに礼の言葉を言いつつ頭を下げる。そして示された方に行ってみればその店はあった。


「うん、とは言え、ボロイな外観。商売、やってんのかな?って言うか、店、潰れて無い?」


 入って見れば分かる、入れ無かったら潰れていると見て良い。

 そう言う訳でボロボロの風化しかけた表面の木のドアを開けて中へ。

 ドアにカギは掛かっていなかったので多分開店はしている、はず。

 しかし中は薄暗い。カウンターにも誰も居ない。開店休業状態?と一瞬思ったが。


「ハイいらっしゃい。何が欲しいんだい?店はこんな襤褸だけど、扱ってる品の質は保証するよ。とは言え、もう近年は売り上げがどうにもねぇ。安くしとくから、沢山買って行って貰えると助かるよ。」


 おばさんがカウンターの奥から出てきた。どうやら閉店などはしてないらしい。


「取り敢えず全部放出するかぁ。これで買えるだけください。あ、二人とも、量をどれ位とかはそっちで決めてくれ。俺じゃ分からないからさ。」


 おばさんは俺がカウンターに出したお金の量に驚いていた。いや、そちらでは無くインベントリから取り出している所を見ているのでそちらに驚いている可能性もあるか。

 しかし商売根性逞しいおばさんは直ぐに復帰する。


「あらまあ!こんなにかい?お金持ちが内に買い物に来るなんてどれくらいぶりだろうねえ!さあ、何がどれ位入り用だい?オマケしちゃうわよ~。」


 どうやらおばさん上機嫌である。ニコニコ顔で対応してくれる。

 そんなおばさんを同行している二人に任せて俺は店内でぼーっとする。

 俺の役目はインベントリに買った品を入れる役目である。持ち運び便利。荷物持ちである。


 カウンターの上から床にまで次々に品が並べられて行く。相当な量を購入していた。

 どうやらおばさんのサービスも大量に入っている模様。それらを俺はインベントリにひょいひょいと入れていく。


「毎度アリ~。またのおこしをお待ちしてますよ~。」


 そんな見送りを貰って店を出る。またのおこし、なんて期待には悪いが、この店を次に利用するかどうかは分からない。

 そうしてもう村に帰還しようかと人気の無さそうな路地に向かって歩いていたら。


「お前たちが内の三人をやった奴らか?」


 店を出て少し通りを歩いただけでどうやら見つかってしまった。

 それにしてもこうしてエンカウントしてしまうのはどうにも早過ぎると思う。

 六名の男が俺たちの前に立ちはだかる。一人は恰幅の良い人の好さそうな顔をしたオッサン。

 他五名はどうやらその部下と言った感じか。その腰には剣を、まあコレは護衛だろう。


「内の三人?はて、誰の事を言っているのか分かりませんね。どなたかとお間違えでは?」


 一応俺は惚けてみた。けれども言い訳は通じないらしい。


「この町では見かけない服を着た黒髪の成人したてと見られる男。ふん!お前しか居ないんだよ!」


 大声を出してこちらを恫喝しようとしてきたのはどうにも生意気そうな面をした青年だ。

 五人の護衛だろう男たちの内の一人である。声だけが大きく、そこに籠められた深い気迫と言ったモノは一切感じられないチンピラと言った様相である。どうやら修羅場の数が少ないヒヨコちゃん、と言った所か。


 このセリフに残り四名の男はうるさいと言いたげにその顔を青年に向けていた。

 しかしここでどうやらこの六名の中心と言えるだろう恰幅の良い男が言う。


「貴方が食料品を通りで販売していた事は承知しています。しかも、私の許可を貰っていない事も、ね?」


 どうやらこの男が・・・さて、名前は何と言っていたか、忘れた。あの気絶させた三人の男の所属する組織のボスである様だ。確か、そう。


「バレるんだか、バレないんだか?なんて言ったっけ?」


「キサマぁ!バレルラス様を愚弄するか!」


 護衛の青年は怒りを込めてそう言うのだが、当の本人はどこ吹く風と言った感じだ。どうやらどっしりと構えてこちらの出方を窺うつもりらしい。懐は深い様だ。


「お初にお目に掛かりますね。私はバレルラス。この町を牛耳る者ですよ。さて、そんな私に逆らう愚か者が出ていると聞きましてねぇ。最近は面白い事も無かったモノで、こうして私自身が直接その者を見てやろうと思い立ちまして。まあ、暇なのですよ。付き合ってくださいな。」


 ニッコリ笑うバレルラス。どうやら修羅場を幾つも潜り抜けてきた経験があるんだろう。

 ソレを元に自らが今「安全」だと確信をしてのこの態度の様だ。五名の剣を携えた護衛と、相手はどう見ても一般人三名。話にならない、はずだ。

 いや、普通の恰好は同行した二名で、俺は口の悪い青年護衛の言った通りに見かけない服を着ているので正体不明と判断すると思うのだが疑い深い者は。


 それでもバレルラスは自らに危害が及ばないと決めつけているのか、どうなのか?度胸はある様子。

 この中々に余裕のある態度に俺は一応挨拶をして返してみる。


「俺は遠藤だ。宜しく。それで、何であんたの許可が必要なんだ?」


 俺はそもそもこの町の法を知らないので、もしそう言った約束事がちゃんと法律で決まっているのであれば俺の方が今回は悪者だ。

 だけども俺はソレを気にしたりしない。どうせ俺はこの国の国民じゃ無いのだ。

 何事も俺は俺の思い付きでやりたいと考えた事を、やりたいようにやる。


「おやおや、本当に分らないので?アナタはどうやら余所者であるようですなぁ。ならば、知らないのはしょうがありません。教えて差し上げましょう。」


「あ、やっぱいいや。俺もうこの町に来る予定今後無いと言っても良いし。で、用件は何?」


 俺はバレルラスの言葉の後に間髪入れずそう返す。知らなければどうと言う事は無い、と言った俺のこの態度と対応にバレルラスはようやっとここで表情を崩した。

 とは言えまだ余裕の顔は崩さない。口端がちょっとだけ引きつっただけ。


「・・・ええ、そうですねぇ。では勿体ぶらずにお伝えしましょう。ウチの若い者が三名やられていますから、その報復ですよ。舐められたら終わりです、こうした世界はね。だから、アナタがた三名には痛い目を見て貰って、晒し者になって頂きたく思いまして。そうですね、やられた事の、最低は三倍、その位で良いでしょう。償って貰いますよ?」


「え?嫌だけど?」


 これまた即座に切り返す俺。もちろん俺は「ノー」と言える男だ。ここで断らない訳が無い。

 これにやっとこ護衛たちの額に青筋が立つ。そして先程から大人しく黙っていた青年護衛はさっきからどうやら俺への怒りで言葉が出て来ずに居ただけの様子。その顔は般若みたいになっていた。

 バレルラスも俺のこの態度に完全に顔面を引きつらせながら言う。


「この私を誰だと思っているのでしょうかね?本当に困ります。自身の置かれた現状を把握できない程の愚か者とは話が通じない。いっその事、憐れんだ方が良いでしょうか?」


「いや、そもそもアンタがどれだけの者であるか何てこの町に来たばかりの俺が知るはず無いじゃん?そもそもこの程度の町を支配しているくらいで何偉そうにしてんの?と言うか、支配って意味、分かる?」


 俺の煽りにブチリと何かが引き千切れる音が聞こえた様な気がする。

 そしてソレは気のせいではなかったようだ。青年護衛が剣を引き抜いて無言で俺に斬り掛かって来ていた。

 この護衛にとっては忠誠を誓う相手を馬鹿にされて我慢がならなかったのだろうが。


「アンタらの業界とやらは何でもカンでも力づくで解決する手法もあるんだろ?だったら俺もソレに倣わせて貰うよこの場は。」


 斬り掛かってきた青年護衛は吹き飛ぶ。俺に到達する直前で。大体3mくらいは飛んだ。

 俺が何もアクションを起こさずに吹き飛ばした事が信じられなかったんだろう。バレルラスと残りの護衛たちはポカンとした顔になっている。

 どう言ったからくりで撃退したのか分らないからこそなのだろう。理解の範疇から超えた事象を見ると人は一瞬で思考を硬直させて動けなくなるものだ。


「・・・な!?どうやって今のを!?えーい!全員で掛かれ!かかれぇぇぇ!」


 バレルラスは叫ぶ様に命令を出す。即座に俺の事を脅威だと判断したからだ。そこには恐れが混じっている。

 先程までの余裕が一切無くなっているのは予想外だったからだろう。俺の事を最初から舐めていたから今こうして狼狽える事になっているのだ。迂闊過ぎである。

 自分の身が大事だと常に思っている者は暇だからという理由で危険な場所に自らの脚で来たりはしない。例え護衛が幾人居ようとも。


 だけどもこのバレルラスはそんな者では無かった。小物だ。随分と。

 この町を牛耳る者だと言っておきながらのこの体たらく。ハッキリ言って、愚か者の所業である。


「小物過ぎるだろ、この対応。さて、三倍だったっけ?では、やって見せてくれよ。出来るのならな。」


 不可視の一撃が護衛たちを吹き飛ばしていく。コレは只単に俺が魔力の塊をぶつけているに過ぎない。

 けれどもそんな事を分からない者たちにはどうして自分が吹き飛んでいるのかなど分らないんだろう。

 見えない衝撃を受けて倒れていく者たちは別に死んじゃいないし、気絶もしてない。

 だが起き上がろうとはせずに俺の事を顔だけ上げて見て来る。その視線には恐怖が込められている。

 どうやら相手が悪過ぎたと言う事をやっとこれで悟った様だ。


「な、何をしておるお前たち!や、奴を早くヤらんか!ええいどうした!?立て!立てぇぇぇぇ!この私を守れ!お前たちの役目は私を守る事だろうが!」


 バレルラスは叫ぶ。この命令に従って護衛たちは立ち上がるのだが、俺には向かってこない。

 俺の前には出て来るモノの、一切近づいては来ない。護衛対象を守る様にして壁を作るだけ。

 そしてジリジリとすり足で後ろに下がって行く。俺から逃げ出す機会を観察しつつ。


「バレルラス様・・・撤退の指示を、お願いします・・・」


 護衛たちの纏め役だろう男がそう主人に懇願する。小声で。しかしコレには。


「この私に逃げろと言うのか!バカ者が!舐めているのか!?奴を!奴をさっさと殺せ!殺さぬか!」


 バレルラスだけが状況を分かろうとしていなかった。最初に俺に対してアレだけイキっていた青年護衛も今はその顔を青くしていると言うのに。

 俺に対して最初は余裕の態度であったのが、今はその見る影も無い。バレルラスは本当に中身が小物であるらしい。


 俺の勝手な妄想だが、大物であればここで俺に対して交渉を持ちかけてきていると思う。命を助けてくれるなら要求があればできる限り呑む、とか?

 次点で命乞いだろうか?助けてください、何でもします、と言った具合か。


 この二つの違いは大きいだろう。力があると誇示しつつ自らの安全を相手へ要求するのと。

 いきなり「助けてくれ」と懇願して来るのとでは、そこには大き過ぎる差がある。


 だが今はそんな交渉ができる空気じゃない。こうして対峙している状況に陥った時に一番賢い対応と言うのは、護衛を俺にけしかけて逃げる機を窺うと言った所だろうか。

 護衛は守護対象の命を優先せねばならないのだから、自らの命に代えてもバレルラスをこの場から逃がす行動に出るのが当然だ。そして護衛はその求めをバレルラスにしている。

 しかしそれは拒否されてしまっているのだが。


 まあここでバレルラスを逃がすと言っても、敵わないとハッキリと分かっている相手に無策に突っ込んでいくなんて事は出来ないだろう。

 既に四人同時に俺に向かって来て返り討ちにあっているのだから手詰まりと言っても良い状況だ。


 しかも、護衛対象のバレルラスは俺の事を殺して無力化し、危機的状況をクリアしろと命令しているのだ。

 こんなに馬鹿な話は無い。今目の前で起きた事をまるで理解できていない。いや、理解できていてもソレを受け入れがたいだけなのかもしれないが。

 プライドだけは人一倍高いのだろうか?自らの命が危ない事も認められない程に狭量な心の持ち主であるならば滑稽な事である。

 ソレに巻き込まれそうな護衛たちは今にも逃げ出したいと言う顔をしている全員が。俺はこれを見てヤル気を無くした。


「・・・はぁ、もう良いよ。さっさと行って。俺は追わないから。逃げたきゃ逃げて良いよ。」


 俺の言葉を聞いて一斉に護衛たちは引いて行った。喚くバレルラスを引きずって。


「さあ、村に戻ろうか。妙な時間を食わされたなあ。まあ、いっか。」


「宜しかったので?」


 バレルラスたちが居なくなった所でそんな疑問を投げかけられた。どうやらメンバー二人は俺が奴らを見逃した事を不思議に思っているらしい。

 俺が強大な力の持ち主と言う事で「敵対者は全員殺す」とでも思っているのだろうか?ソレはどんな暴虐だろうか?

 いや、それを俺は否定できない。それと似た事をこれまで随分と俺はやって来ていたはずだ。


「まあ確かにあいつら俺を殺すだけじゃ無くて二人も殺そうと考えていたかもしれないしね。それを考えたら見逃すって言うのは宜しくない事だったのかもね。でも、なんだかなぁ?気分じゃ無かった、としか言いようがないかな?駄目だった?」


「いえ、エンドウ様の思う通りで宜しいかと。」


「そんなに畏まった言葉遣いじゃなくていいよ。もっと気楽に接してくれ。堅い固い。」


 何だか自分が厄介事ホイホイになった気分になる。何をしても、何処に行っても、何かしら、誰かしらに絡まれている様な気がする。と言うか、されている。

 対処方法や行動をもっと見直さなければならないだろうか?でも、俺はそんな計画性を立てて動くと言った堅苦しい事をしたくない。

 ソレは締め切り、とか、期限、などが付いて回るから。計画遅れとかそんな言葉で追い詰められたくない。

 思い付きで何の決め事も無く動く事の何と気楽な事か。しかしそれで何かと「あれもこれもしたい」と動き回り過ぎている自分を自覚しているので何とも言えないが。

 そうして動き回って各地で絡まれていれば世話は無い。自業自得なのだろう。


 こうして俺たちは「魔改造村」に帰還する。その後は各家に買ってきた調味料やら香辛料の分配をしてその日は終わった。


 それから四日間、俺は村の農作業を手伝った。一日中、日向ぼっこでボーっとしているのがつまらなくなったのだ。

 起きては「みゃー」と鳴いて魔力を求める「ツチノコ」と戯れる、などと言う事はしない。餌やりを終えれば、またリクライニングチェアでぼけっとする。そんな毎日は精神が溶けて無くなっていくような感覚になった。

 コレを危険視して俺も働く事にしてこの四日間は朝から晩まで働いた。


「とは言っても、各現場に行って魔法でホホイノホイ、だからなぁ・・・働いた感が無いんだよなぁ。」


 しかしコレのおかげで村の住民たちには相当な自由時間と言うモノが発生していた。俺が魔法一発で収穫作業を終えるのでほぼ開拓した畑の八割は昼前までには作業を終えている。

 午後には残りをパパッと終わらせてその日の仕事は終了となってしまい、最初の一日目は逆に住民たちは「この後どうしよう?」と言った空気感になっていた。


 人生と言うのは働き、食べて寝るだけでなく、余暇が必要だ。精神の豊かさを保つ為に。

 なのでこの自由時間の確保と言うのは良い事だったのだろうと思う。俺が偉そうに言えた事では無いのだが。


「むはははは!エンドウ!見ろコレを!私が最初から育て上げて収穫したモノだ!どうだ!デカいだろう?むははははは!デカイ!デカいぞぉぉぉぉぉお!」


 ドラゴンはどうやら畑仕事を気に入ったらしく、住民に教えて貰いながら一つ作物を育てていたらしい。

 そしてソレは巨大なスイカの様な作物だった。あくまでもスイカの「様な」であり、ここは異世界で、現代日本では無い。

 俺が思い出すスイカは縦に黒い線が入っているイメージだが、コレは横に入っている。

 そしてドラゴンが抱えるソレは運動会で良くある競技「大玉転がし」で使用する玉くらいの大きさがあった。


「・・・おい、その品種って普通にそれだけの大きさになる代物なのか?」


「違うな。エンドウの魔力が土に膨大に浸透しているのを吸い上げて成長しておるからコレだけ大きく育ったのだ。」


「なあ、ドラゴン?その魔力、後どれ位で落ち着きそうだ?」


「ふむ、エンドウ、お前は作物の収穫で魔法を使って一気にやっただろう?その影響もあって恐らくは一週間ほどは延びたぞ?」


 土の中で育つ物は当然地中に対して魔力を流し込んで収穫物を地上に出したので、ソレが原因でまた土壌内の魔力量が落ち着くのを遅らせてしまったらしい。


「迂闊だったなぁ。何で俺はそんな簡単な事を思いつかなかったんだ・・・」


 俺がこの事で軽く落ち込んでいたらドラゴンは巨大スイカモドキに齧り付いていた。


「ふむふむ、中々美味い。少々味は薄めだが、みずみずしさと歯ごたえが中々だ。この風味だと焼いて食うのは、無いな。煮るか?それとも、塩に暫く漬け込んでおくのがいいか?うーむ、悩むな。両方やってみればよいか。」


 あっと言う間にスイカモドキは半分に減っていた。ドラゴンの食う速度が異常に早い。人形態の状態であるのにだ。竜形態になって食べている訳でも無いのにこの減り方は尋常では無い。

 しかも食いながらに味の品評もするし、調理に関してもどうやら一家言ある様な言い方だ。


「ドラゴン、お前一体何処目指してんだよ?つか、誰得?美食家気取り?」


「うん?エンドウも食べてみるか?遠慮はしなくて良いぞ?」


「いや、食わないよ?待て待て待て?何でそれ持ってにじり寄って来るんだよ!?」


 スイカモドキの中身は緑色。赤じゃ無い。でもどうやらウリ科?と言った部分は共通するのか、何なのか?

 かなりの水分をその身に宿している様でまるでキュウリみたいな様相だ。


 俺はドラゴンからの「食ってみろ」攻撃に負けて一口分を抉り取り、口に入れてみた。その感想は。


「うん、濃い塩気のあるキュウリみたいな味だな。だけど、何だろ?香りは全く嗅いだ事無い別物だ・・・うん、不味くは無いけど、俺の脳内が混乱する。」


 見た目がスイカと似ている。味が塩キュウリで、香りが嗅いだ事の無いモノ。しかしマズくは無いと言った点でどう評価したら良いかの難しさを俺にもたらした。


 さて、そんなこんなでそう言った日々をそれからまた三日間。

 俺はその三日間での収穫で魔法での作業をすると言うのをしなかった。

 またそれで土壌内の魔力が増えたら面倒だ。これから考えなくてはならないのはその土壌内の魔力が落ち着いて安定し始めた状態の農作業、収穫量で。

 そこから導き出されるこの「魔改造村」での住民の数と、その食糧消費量のバランスを計算せねばならないのである。

 なのでこの三日間また俺が魔法で収穫を手伝うと土壌内魔力の安定化が遠のく。


「ここまでやったんだから目処が立つ所までは俺が付き合わないとダメだよなぁ。」


 まだまだこの村で俺は最低でもあと半年は居ないとダメだろう。土壌内の魔力安定と、そこからの農作物の収穫量の様子見に、そこから食糧消費量と食糧備蓄などの計算などなど。

 ノトリー連国のこれからの国家動向への警戒もしなければならないだろうし。

 新選民教国の方には、メリアリネスにこの「魔改造村」の処遇なんかも相談しておきたい。

 ノトリー連国にこのままこの「魔改造村」を渡す気は俺には無い。メリアリネスには条件付きで譲っても良いかな?くらいには考えている。

 とは言ってもメリアリネスからは既に「関知しない」との言葉を受けてしまっている。それをどうにかしなければ話にならないのだが。


 === ==== === ====


 そうしてそれから三ヶ月が過ぎた。土壌魔力含有量?は安定化して今は以前の様な膨大な量が収穫できる訳ではない。

 しかしここに住む者たちの人数を充分に支えられるだけの量が採れていた。備蓄、保存食などへと回す分量も余裕である。

 一先ずの山は越えたと言っても良い状況だった。しかしここでまたノトリー連国が余計な動きをしてきたのだ。


 兵を出してきた。何処に?ソレはこの村の「防壁」に向けてだ。

 どうやら前回に俺が脅して引き返させたのは余り良い手では無かったという結果になるだろうこうなると。


「回りに目を向けずにこっちに真っすぐ軍を向かわせて来るのはどうなんだろうなぁ。」


 ノトリー連国の荒れた国土は今や、緑一面に変わっている。俺が変えた。

 戦争なんて事を考えずにこの緑と変わった国土をどう利用し、変えていくのかと言った部分に力を注げば良いモノを、どうやら国の首脳陣は戦争狂であらせられる様だ。

 コケにされた、とでも考えての事なのだろか?それとも別の思惑があっての事か。既に壁の前には軍が列を作って陣を敷いていた。


 俺はこの三ヶ月、ノトリー連国の事などすっかり忘れて農作業に没頭していたので今回のこの件に「ああ、そう言えば」と深刻には考えていなかった。

 魔力ソナーも広げて警戒をしてはいたのだが、この村の防壁を少し超えた辺りくらいまでしかその範囲を伸ばしていなかったので気付くのが大分遅れた。


 そしてこのノトリー連国の軍隊は工兵隊を前に出してきた。どうやら壁を壊すつもりらしい。

 ソレを俺は魔力ソナーで感じながら農作業を今続けている。


「お疲れさんだなー。そんな事で俺の生み出した壁が壊せるはず無いのに。」


 工兵隊はツルハシの様な道具を壁に叩き付けていた。しかしそのツルハシの尖った先端は壁をほんの少しですら削れずにいる。

 全力で兵士たちがかわるがわるツルハシを叩き付けるのだが、一向に壁は壊れない。

 屈強な身体の兵士たちが幾度も挑戦し、そして敗れていく。壁は一欠けらもほころばない。


 そして壁を壊すのを諦めたのか、今度はその壁の根元へツルハシを叩き付けた。

 どうやら壁の下を掘って穴を作り通じさせようと言う方向に変えたらしい。

 でもそれ位の事への対策はもうしてある。地面の地下深くまで壁が埋まっているのだ。工兵隊が土を掘って壁の向こう側に通じる穴を作る事は不可能である。

 そして工兵隊は2m程土を掘ってから諦めたらしい。この作業に掛かった時間はおよそ二時間行かない位だろうか?

 兵士が大勢通る為の相当大きな穴を作ろうとしてかなり広い範囲の土を掘っていた様だが、どうやらそれ以上は一旦上司に報告をしてから続行か中止を決めようとした様だ。現場から一人、どうにも監督官だろう者が陣の方に戻って行っていた。


 俺はここで農作業を止めた。そして一緒に作業していた者にこの場を離れる断りを入れる。


「すまん、どうやらノトリー連国が攻めてきたみたいだ。俺はそれの様子をちょっと見て来るから、心配せずに作業を続けていてくれ。」


 俺のこの「攻めて来る」と言ったこの言葉を聞いてもこの住民に動揺は無かった。

 寧ろ「行ってらっしゃいませ」と言われる始末。まあコレは俺への信頼の証と思って良いのだろうと思う。

 俺の力は既にこの「魔改造村」の住民全員が知る所である。そしてドラゴンの力も。

 なので軍が攻めて来たと言っても、ソレに俺とドラゴンが対処するのであれば安心だと考えているんだろう。


 こうして俺はワープゲートでノトリー連国軍の前に出た。そう、目の前に。俺はそのまま堂々と歩いて陣の中心に向けて進む。

 これに気付いた兵士たちは間抜けな顔を晒していた。どうやらどの様に対処すれば良いかを決めかねているらしい。

 いきなり現れて、そして堂々と陣の中を進む不審人物。まず登場の仕方からして何も無い場所からいきなりヌルッと現れたのだから、まあ、ワープゲートを知らない者たちには思考が停止してしまうくらいの衝撃になっているのかもしれない。


 そして俺が堂々と歩く姿に軍の関係者かどうかを計りかねていると言った所だろうか。

 こう言った場合には普通に呼び止めて職務質問くらいしても良いモノだと思うのだが、幾ら役職の無い下級兵でも。

 しかし俺のこの一切の揺ぎ無い態度に声を掛けられないんだろう。陣の中に入って30mは進んでしまった。

 そこでようやく大声で俺を止める声が響く。


「キサマ何者だ!?お前たちは何故こいつを止めようとしなかった!囲め!さっさと捕縛せよ!」


 どうやら兵士たちに命令できる立場の者がやっと現れたようだった。

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