この後の事なんて何も考えてないよ?
俺は周囲に魔法で壁を張って奴らが逃げ出せない様にしておいた。その後はドラゴンだけを置いて他のメンバーを連れてこの場を離れる。
そして一緒にそのまま置いて来た二名の居るお店に向かう。魔力ソナーで捜せば一発で場所は判明した。
そちらに到着後はお金を追加で渡してその喫茶店?に全員いて貰う事にして俺だけがドラゴンの元に再び戻る。ゆっくりと。
取り敢えず着いた時には事は済んでいるだろうとの予測だ。まあ、ドラゴンが奴らを執拗にいたぶっていなければの話だがコレは。
「・・・で、まだやってんの?」
「ん?戻って来るのが早かったな。うむ、こやつらが一体どれだけの種類の命乞いの言葉を吐き出すのかちょっと試そうとな。だが、こいつらはどうやら、ふむ、頭が悪い様でなぁ。」
「趣味が悪い。まあ良いけど。じゃあまだ俺はそこら辺を散歩して回って来るから。それまでには片付けておいてくれよ?」
また俺はこの場を離れる。どうやらドラゴンが楽し気にしているのを見てピンと来たのだ。
コレはこの場に残ると胸糞悪くなりそうだな、と感じてである。あくまで俺は今回を他人事の様に捉える事にした。実際にやっているのはドラゴンだし、と言った感じである。
ドラゴンは奴らをどうやら撲殺をするつもりらしいのだ。何せ周囲が派手な壊れ方を一切していない。
本気になってドラゴンが暴れればそこら中が瓦礫の山にでもなるだろう。だけどその気配が一切無かった。魔法も使った様子は無い。
「自分の身体を使って暴れたかったのかね?一人顔が見る影も無い程になって倒れてたけど。あれ、ピクリとも動いて無かったからなぁ。」
恐らく死んでいる。殴り殺されたと言った所だろうか。人を一人殺すのに素手で殴って、などと言う方法を取るのはかなりの手間であるはずだ。
人と言うのは結構侮れない生命力をしているのでソレを殴るだけで殺すと言うのは中々に苦労と労力が掛かるはずである。
「ドラゴン、毎日の農作業で身体を使っていたはずなのに。ここでも奴らと肉体言語で語らうつもりなのか?」
まあそんなコミュニケーションは犠牲になる方となったらソレは只の地獄だろう。
見た目は「人」ではあるが中身は超強力な存在である。ドラゴンが軽く力を込めて殴れば人など簡単に吹き飛ぶ。
それだけの膂力を持つドラゴンだから、まあ、奴らを全員殴り殺すなどと言うのは別に難しい事では無いのかもしれない。いや、寧ろ簡単な事だろう。
「あいつらの顔色、真っ青だったからなぁ。でも、因果応報、自業自得なんだろうな。さて、皆が居る店に戻って俺も一杯お茶休憩でも入れれば終わってるかな?」
行ったり来たり、それが俺の宿命とでも言わんばかりである。メンバーを待たせている店に俺はまた戻る。
何処かで別の店に入って一息入れていても良かったのだが、それを止めてゆっくりと散歩気分で遠回りしつつ戻った。
店に辿り着いて俺も茶と茶請けを頼んで一息入れる。ここで待機していたメンバーたちはドラゴンの事を少しだけ心配している様子だった。
そう、少しだ。それ以上と言った感じでは無いのである。だからソレが気になって聞いてみた。するとこんな風な答えが返って来た。
「あー、その、ドラゴンさんは凄い、力持ちで。しかも頑丈って言うのはまあ、皆知ってるんです。昨日の事も目の前で見てました。それで、その、エンドウ様がこうしてこちらに何も言わずに戻って来て気を楽にしておられると言うのは大丈夫な証拠とでも言いますか、何と言いますか。」
そう言う事らしい。ドラゴンが農作業をしている事はこの場に居る全員がその仕事ぶりを見ているんだろう。
そして集めた収穫物を一気にドラゴンが運ぶ場面は幾らでもあったと。
追加で昨日は大男二人を軽々と気絶させる程であるのだからその喧嘩の強さは保証されていると。
ついでにあの三十人と言う数に対しては俺がこちらにドラゴンを伴って帰って来た訳では無く、それに何も言及しない事で無事なのだろうと悟る、と言った所か。
要するに俺とドラゴンが「普通」では無いと、既にこの場のメンバー全員が認識していると。
(まあ、悪い事では無いんだがなぁ。話が早い、って言えば、それはソレ、そうなんだけど。ちょっと、ちょっとだけ・・・うーん)
心配されない、と言う事は信頼の証と嬉しく思うべきか。どうなのか?
この場合は俺では無くドラゴンの事である。俺がこの様にどうにも微妙な気持ちになるのはおかしいのだが。
そうして自分の事では無いのに何故だか浮かんできたモヤっとした気持ちが消えてから俺はもう一度ドラゴンの所に。
今回は取り敢えずワープゲートで一瞬で現場に戻った。事が終わっていなかったらまた散歩をしてこの町を歩いて時間を潰そうと考えて。この町を観光する気分である。
「うむ、エンドウか。終わっているぞ。さて、買い物の続きをしよう。」
「うーん、お疲れ、でもないか。この程度でドラゴンは弱音吐く訳が無い。よし、それじゃぁまだもう少しここで待っててくれ。衛兵呼んで来る。別に俺がコレの始末を付けないでも処理は町の治安部にやらせりゃ良いんだしな。」
俺はそう言ってドラゴンにまだもう少しだけこの場に残って貰う。
取り敢えずこの町の衛兵詰め所は魔力ソナーで位置は即座に把握した。武器防具、その他いろいろな物が多く保管されている大き目の施設。それをざっくりと幾つか目星を付けている。
小さくこじんまりとしたモノは武具店だろう。だからそれらは排除した。魔法で思考能力を上げてあるとこうして得た情報の整理整頓が一瞬で済むのは楽ちんだ。御都合主義はストレスが発生しなくて良い。魔法バンザイ。
魔法・魔力に対して道理も理屈も理論もイマイチ深い所まで理解できていない俺ではあるが、便利に慣れてしまったので感謝だけは忘れない様にしておく。そうでないと自分が何だかダメ人間になった様な気分になるから。
(・・・あ、この程度の町にどれ位の衛兵が居るんだ?ソレにその練度は?腐敗が進んでいたりしないか?まさか悪の組織とズブズブに絡まっていてそもそも町を守る為の組織が住民を逆に苦しめているとかは?)
こんなタイミングで変な事に気づいていしまった。まさかとは思うのだが、そんな事を考えてしまった。
(いや、いきなりこんな事が思い浮かんで来るなんておかしいだろ・・・じゃあ何でそんな事をいきなり疑ったんだ?その元になった事は、何だ?)
自分の意識にこんな疑問がいきなり浮かんできた事は何度かある。その時の事を思い出して今と比べてみた。
(・・・魔力ソナーか。俺は限定的に得る情報を絞ったりとかしていたつもりだけど。それは受けた情報は、脳を魔法で強化していたから取捨選択が容易だったってだけか?広げた魔力は寧ろ接触したモノの情報は全てキャッチしていた?)
何と無く理屈は合っている様に感じるが、これが丸ッと正解かと聞かれると自信は無い。
ここは深く考えるとドブ沼に嵌りそうだ。なので思い付いた事に関しては「そんなバカな」と思って一旦忘れておく事にした。
そして目的の場所に到着、するまでに色々と道行く人々に衛兵詰め所の事を聞きながら歩いていた。その結論として。
「・・・おい、やべーじゃねーか。大体誰に聞いても話の結果が、どいつもこいつもヤル気が無くて助けを求めても兵たちは応じてくれなかった、だって?癒着じゃ無いのか?只の仕事放棄?どうなってんの?」
どうにもおかしい話になってきた。俺がこのまま詰め所で訳を話して現場に来て貰えるのか?
来てくれたとしてもあの死屍累々を衛兵たちがちゃんとしっかりと片づけてくれるのだろうか?
そもそも俺の話をちゃんと聞いてくれる耳を持っているのか?
「うわぁ・・・一体何で俺はこんな不安にさせられなきゃいけないんだ?気まぐれとは言え一応はこの町の治安を心配しての行動なのに。詰め所に入るの、止めようかなぁ・・・」
ソレでもここまで来てしまった。もう今目の前なのだ、その詰め所は。
「うん、別に俺はワープゲートがあるから、せっかく来たんだから入る、何て選択肢は取らなくても良いんだけども・・・良いんだけども・・・」
気が変わって「はい、じゃあ衛兵に頼るの止めます」となっても戻るのにワープゲートで一瞬だからどうとでもなるのだが。
取り敢えずここまで来たら俺自身で一度確認をしておいた方が良いだろう。どれ位酷いのか、と。
俺は意を決して詰め所へと入る。正面入り口のドアを開けて中を見れば何とも小奇麗な内装だ。
奥にはカウンターが見えて用事がある者はそこに行けば大丈夫、と言った感じでしっかりと訪れた者たちに優しい、分かりやすい作りである。
「しかしカウンターには誰も居ない、と。受付は?と言うか、誰か常駐している者はいないのか?」
カウンターにはどうやら呼び出し用のベルがおいてある。だが俺はソレを使わないで魔力ソナーをこの詰め所全域に広げて人が居るのかを確認した。
「居るなぁ。だけど、こいつら何やってんの?カードゲームに興じて賭け事?遊んでる?寝てる奴も居る。酒飲んでる奴も居る。暇そうにボーっとしてる奴も居る。ここは、場末の酒場か何かか?」
俺は「終わってんなぁ」と呆れた。この町の治安を守るはずの組織はどうやらもう機能していないと見える。
しかしここで俺は頑張って諦めなかった。一人くらいはマトモな奴がいてくれればソレは救いだろう。
カウンターのベルを鳴らす。対応する者が一人くらい現れてくれればと。そんな願いで。
しかし幾らベルを振ってチリンチリンと鳴らし続けても誰もやって来ない。そもそもこのベルの音がその兵士たちがたむろしている部屋に届いていない様子。
「・・・これでこいつら給料貰ってるの?・・・ふざけんなよ・・・?」
俺はこの時、突然会社勤めの頃の感覚が蘇って来ていた。そしてその感覚から怒りが湧き上がってきている。
給料泥棒、ごく潰し、役立たず、無能、勤務態度最低、お荷物、クズ。
「なるほど、こいつら要らないな。寧ろ居無くなってくれた方がありがたい奴らじゃねーか。」
俺はベルを鳴らしながらそのヤル気の無い集団の居る部屋に一歩一歩ゆっくりと近づいて行く。
どれ位の距離で奴らが俺に気付くのか、それを確かめる為に。
だけども誰もその部屋から出てくる気配は無い。どうやらベルの音は聞こえているらしいのだが、誰も対応に出ると言った気は無い様子だ。
魔力ソナーで部屋の中の把握はしたままだ。そして誰もが「おい、あの鬱陶しい音を誰か止めてこいよ」と言って対応を押し付け合っている。
しかしとうとう俺はその部屋のドアの前に到着してしまった。そしてゆっくりとそのドアを開ける。
部屋の中の者たちにはその俺がどんな風に目に映っただろうか?
俺がその光景を想像したらちょっとしたホラーだな、と感じたのだが。奴らはそうでは無かったらしい。
「あぁ?さっきからウルセェと思った。ここまで鳴らしながら来やがったのか。」
「おいおい、関係者以外立ち入り禁止だぜ?さっさと帰んな。」
「用があるなら受付が居ただろうが?手続きはそっちでやんな。」
「つか、受付居たらここまで入って来させねーよな?」
「おう、今日の当番誰だったよ?あ?お前じゃねーか?」
「バカ言うな。俺は一昨日やったつーの。」
「はっ!コイツじゃん!寝てやんの。」
「そういや昨夜に遅くまで賭けやって朝から眠いとか言ってやがったな。」
「おい、そいつ起こせよ誰か。」
「あ、嫌だよ寝かせとけって。コイツ寝起きがすこぶる悪いとそこいらの物を手あたり次第にぶっ壊すんだぞ?」
「放っておけば良くね?どうせ俺らの責任じゃねーだろ。」
「そりゃそうだ、ちげーねぇ。おう、続きだ続き。」
俺がやって来てそれぞれがやっていた事を止めていたのだが、それを再び始める男たち。そして直ぐに誰もが俺に興味を失って続きに集中をし始めている。
「要らんなぁ。本当に、要らん。なあ?ここは、この町の治安を守る衛兵詰め所で、あってるんだよな?」
この俺の質問に答えてくれる奴は一人も居なかった。さて、結論は出た。必要無い。
俺は手の平に魔力を集める。そしてソレをドアの前に置いて去る。
外に出た後にその魔力の塊を俺は一気に解放する。それは風、竜巻。
あっと言う間に衛兵詰め所をトルネードが破壊する。
取り敢えず被害が拡散しない様にと詰め所周辺を魔力の壁で囲って残骸が周囲に飛び散らない様にしてある。
しかし中に居た奴らには何らの保護は施していない。良く見ればトルネードに巻き上げられてギュルンギュルンと空を舞う者たちが見え隠れしていた。
全てが壊れ果てたのを見届けた後に俺はその場から離れてドラゴンの元に戻った。
「おう、エンドウ、戻ってきたか。ところで、あの暴風はお前がやったのだろう?この町の兵隊たちはどうした?」
「勤務態度最悪どころじゃ無かった。性根まで腐ってたみたいだから腹立って潰してきた。反省はしていない。後悔もしてない。アレはダメだ。」
「ではコレの片づけはどうする?一気にこの場で焼いてしまうか?」
「うん、取り敢えず使えそうなモノだけ勿体無いからここで毟り取った後に全部焼いちまおうか。」
この町の治安は最悪で、そしてその治安を守るはずの守備戦力も最悪だった。
ここで何が起ころうともこの町の住民は何も変わらないだろうし、何も思わないだろう。
やってしまった事はもうどうしようも無いし、こうなってしまったらこの死体の山を片付ける責任は俺にある。
「さて、コレだけの事が起きたこの町の今後はどうなるかね?」
悪党が一気に減り、そして衛兵詰め所が潰れ、多くの住民に食料が行き渡り、金の動きが一時的に起きた。この影響はどんな変化をこの町に齎すだろうか?もしくは何もかもが鎮静して何も変わらないのか。
俺はそんな心配をしながら犯罪者集団たちの屍から金、武器等を剥ぎ取ってインベントリに入れていく地味な作業を続ける。
ドラゴンはキッチリとこいつらの息の根を止めているので生き残りは一人も居ない。
「あ、どうせ潰すなら一人くらい生かしておいてアジトに案内させてそっちもついでに潰しに行けば良かったじゃ無いか。・・・でもまあ、そこまでする事でも無いか。」
別にソレは俺のしなくてはならない事では無いのだ。この町の治安部隊が本来ならやらねばならない仕事だろう。
しかしその治安組織が根っこから腐っていて機能していなかったのだからしょうがない。まあそっちは俺が今先程壊滅させてしまっているのだが。
そうして大体の作業を終えて俺は高熱の塊を生み出してソレを骸の山へと放つ。
ソレは即座に全てを灰にして中空に消える。一瞬の出来事だ。あたかも目の前の死体の山は最初から無かったかの様にこの世から消える。
「さて、ドラゴン、皆が待ってる。行こうか。買い物もさっさと終わらせて村に戻ろうぜ。」
その後はワープゲートでメンバーの待つ店に即移動。そこでドラゴンも「自分も休憩を入れる」と言って店でアレモコレモソレモと注文をして飲み食いを始めてしまって買い物の再開とはならず。
「取り敢えずまあ、こうして金を使うのは別に良い事だよな。じゃあ村の皆用のお土産に此処でテイクアウトを買って行くかぁ。」
この飲食店で売られていた甘味とお茶の葉を欲しいと店員に相談したら一応お持ち帰り用も販売していたのでまだまだ余っている金を投入してそれらを大量に買い込んでおいた。
買った物はその場でどんどんとインベントリに入れていく。それを店員が口をあんぐりと大きく開けて放心状態で見ていたのだが、別に構わずに突っ込んでいく。
もうこの町には来る事は無いだろうと思っての事である。一人くらい見られたところでどうと言う事は無いだろう。
そうした作業が終わった丁度の時にドラゴンも満足したらしく注文した甘味を全て平らげていた。こうして買い物再開である。
まだ買っていない予定の品を売っている店を全員で手分けして探し回って買い物を手早く済ませたら「魔改造村」に帰還した。
その後は村民を呼び集めて買った品を全員均等になる様に分けていく。お土産も。
今回の余ったお金は貯蓄として残してある。今後で何か入り用な物ができたらコレで購入する予定である。
何時までも俺が魔法で入り用の道具を作り出していてはキリが無いだろう。この村はこの村で俺が居なくても回る様になって貰う予定だから。
そうして翌日はまたいつもの収穫作業に戻る日々だ。俺が食糧倉庫を空にしてしまっているのでまた保存食の用意である。
まだ俺のインベントリには昨日の売れ残りが入ってはいるのだが、それを倉庫に戻すのはしない。一々面倒だから。
「今日の予定は二名が俺に付いてきて昨日の残りを別の町に売りに行く。で、ドラゴンは収穫作業を手伝ってやってくれ。」
「ふむ、良いだろう。私の手に掛かればこの程度の作業などチョチョイノチョイよ。わはははは!」
何故にドラゴンがこれ程までに上機嫌なのかは俺には訳が分からないが、不機嫌であるよりかはよっぽど良い。
こうして昨日とは違って少人数での販売をしに別の町にワープゲートで移動だ。
その町にも門から正式に入らずに内部への不法侵入である。一々入町手続きなどをする気は無い。
許可が出るまでにいちいち時間が掛かるだろうし、面倒だ。それとこちらはこの国での身分証明と言ったモノを所持していない。それを求められれば提出できないのでこの方法しか町に入る手段は無い。
さて昨日の町とは違って本日のこの町では売る値段を一段階上げる。それは今日訪れたこちらの町の方が首都に近く、そして多少の経済は回っている様子だったからだ。
だからと言って売値は本当に安い。価格破壊、と言った具合の値段は変わらずである。
昨日はいわゆる日本円で「一品十円」と言った感じで売っていたが、ここは「二十円」でと言った具合で売るつもりである。
ここ等辺は今回の同行するメンバー二人とも相談しての値付けである。俺にはこの国の物価が分っていないから。
そうして屋台を立てて、品を並べてと、そうして売り始めた場所が余り良くなかったのか。最初の方は客足が無かった。
一応はそこそこに人の通りがある道で販売を始めたのだが、こちらへと近づいて来る者は販売を始めてこの一時間で十人程度だった。
まあその十人全員が値段に驚いてこちらを疑いつつも大量購入を漏れ無くして行ってくれているのだが。
「警戒心があるのかね?まあ買って行ってくれた人の口コミでこれからお客さんが増えて行ってくれると良いんだけどな。」
言うなれば俺たちが付けた売値は儲け度外視、と言った感想を持たれる値段設定だ。
まさか騙されるのでは?とか。真っ当に商品として出せない様なクズを捨て値で販売しているのでは?とか。
不味い食えたものじゃない食品を売ろうとしている?とか。詐欺なんじゃ無いか?とか。
そんな事を思われている可能性がある。まあコレは正直言ってしょうがないと諦めるしかないだろうそうなれば。
看板に掛かれている値段を見れば誰だって怪しいと思うだろう。それこそ有り得ない値段で売っているのだから。
「あと一時間が勝負だな。これで客足が増えなかったら本日は終了にしよう。」
俺は今回連れて来た販売メンバー二人にそう言っておいた。これに二人とも「そうですね分かりました。」と口にする。
それから大体30分後にソレはやってきた。大量の人、人、人である。
これに俺は咄嗟にインベントリから行列を整える為の整理ポールを取り出してサッと並べた。
「えー、お客様、こちらに順序良くお並びください。それができない方にはお売りする事はできません。行儀を弁えてください。」
そう言いながら俺は店になだれ込んで来ようとしてくる客を魔法の壁で抑え込む。
見えない壁に遮られ行く手を阻まれた先頭の人々が背後から押し寄せる他の人たちに圧されて壁に「ぶげご」と張り付く事になっている。
しかしそんな中から一部に通行できる部分を見つけた者がそこに入り込んだ。そう、それは行列整理の為に魔法の壁を作り出していない部分。
何も無い場所なのに前に進めない、そんな疑問は誰もが誰も気になる事ではあったのだろうが。
しかしそれを誰も口には出さずに少しづつ空いている透明な通路に人々が入り込んで人集りが整って行く。
「押さない、駆けない、喋らない。列に並んだ方々はお静かにして順番をお待ちください。」
俺はそう言いながら客を捌いていく。一人、また一人と買い物をする客を制限しているのだ。
一人終わればまた一人、と言った感じで列の一番先頭の客を店前に誘導。その先頭の部分の魔法の壁を解除してはまた塞ぎ、の繰り返しで客の対応が一気に膨らまない様に調整していく。
今日の販売メンバーに連れて来たのは二人だけだ。なので多くの客を一度で大勢捌くと言った事ができない。
そんな流れでも買い物を終えた客の顔は誰もが嬉しそうである。まあコレだけ安く食料品が手に入れられたのなら誰でも嬉しいだろう。
さて、そうして販売が順調にいっている時にそいつらは現れた。大男、しかも強面が三名。
「おいテメエ!誰に許可を取ってこんな場所で商売してやがる!」
いきなり大声で脅された。これでは客が委縮してスムーズに買い物ができない。
「ここいら一帯はバレルラス様の縄張りだ!ソレを解っててやってんだろうなぁ!?」
ここで俺は奴らの顔の周辺から魔法で空気を抜いた。スッと。
次の瞬間には男たちは当たり前に吸えるはずだった空気を吸えなかった事で「うっ!?」と呻いて一瞬呼吸が止まる。
そこで俺はそいつらの顎を狙って魔力の塊を飛ばして当ててやった。その魔力にはもの凄く硬くなるイメージを込めている。
すると男たちの顔は音も無く斜めに勢い良く跳ね上がる。その後は力無く膝から崩れ落ちて地面とキスをした。
(うん、俺にしては上出来も上出来だな。気絶で済んでる。死んでない、これ、大事)
脳震盪を上手く起こせたのだろう。男たちはそのまま起き上がる気配も無い。
「えー、皆さん気にせずに買い物をお楽しみください?」
俺はそう言って客を捌くのを再開した。そうはいってもまだまだ客はざわついている。巻き込まれたりしたくないからだろう。
明らかに厄介事なのだ、この男たちが現れたのは。でも今は気絶している。今がチャンスなのである。
客たちもソレに気付いて自分の番になると素早く求めている品を示すようになった。
男たちが復活する前に買い物を済ませてここからさっさと撤退をする事に決めたようだ。
この男たち三名はどうにもこの町で幅を利かせている組織の一員なのだろう。ならばそいつらに目を付けられる前にやる事をさっさと済ませてこの場を去ると。それが一番賢いやり方だろう。
誰もこんな奴らに絡まれたくはないはずだ。
こうして作業の速度は上がる。その後には騒ぎも無く、客たちもさっさとヤバくなる前に退散をしようと買い物に悩まない。
「残念ですが、売り切れ完売です。買えなかった方、申し訳ございません。」
客が十名程残っていたのだが、行き渡らなかった。買えずで終わった客たちは悔しそうにして去って行く。
「いやー、こうして全部なくなると気持ちが良いなぁ。それじゃあ撤収作業だ。二人とも、お疲れ。・・・おっと、何か欲しい物とかあったりする?あるならこれで買い物してから帰ろう。それと飯も食べて行こう。」
俺は二人にこう提案した。その返事は。
「あの、香辛料とか、砂糖などを購入していきたいと考えているのですが、宜しいでしょうか?」
俺はコレをもうちょっと詳しく聞いてみた。砂糖も香辛料もどれだけの値段がするのかと言う部分をだ。
何せどうにも申し訳なさそうにして俺にそう聞いて来たので「お高いのかな?」と思ったからだ。
すると話を聞いてみれば「かなり値が張る」と言った模様。しかし食は大事だ。俺はコレに買ってはダメだ、とは言わない。寧ろ。
「よし!じゃあ、じゃんじゃん買おうか!・・・あ、でもこの町の事知らんから売ってる店から探さんと駄目だな。まあ観光しながら買い食いしつつ回ろうぜ。」
因みに気絶している男三名はそのまま捨て置いた状態だ。起こしてやる気は一切無い。
(起こしてもこっちには何の利も無いからな)
こうしてこの町を見て回りながら香辛料探しを始めた。