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商売大成功?

 町の中にはすんなりと入れた。と言うか、俺がそもそもワープゲートを使っての事であるので検問など一切スルー、不法侵入である。


「いらっしゃいませー、いらっしゃいませー、本日赤字出血大安売り、食料品大量販売をさせて貰っております。どうぞ皆さま、一つご覧になって言ってくださいませー。」


 俺はそんな言葉を平坦な口調で大きい声で言い放つ。ソレに道行く人々は何だ何だと顔を向けてくる。

 ここは町の中央に近い所で他に露店商売をしている者たちがちらほら見えていた。

 そこに紛れ込んでの販売だったので最初はそこまで目立たなかったのだが、例の看板娘が出した屋台の前に立ち始めたら男たちが視線をこちらに向け始めたのだ。下心満載である。

 でもまだ遠巻きに見るだけでその視線は看板娘に向けられていて俺の口上など聞いちゃいない感じだ。


 しかしコレに一人が気付く。看板に。そう、俺たちが出している店の看板には本当に「捨て値」としか言えない値段が掛かれている事に。

 ソレは一応は村長とそれからこの販売に選ばれた九名が相談しての値段である。ドラゴンはコレに何も口を挟んでいない。


 さて、分かり易く言えばこうだ。「一つどれでも十円」である。

 俺はこのノトリー連国の物価は知らない。けれどもコレはこの世の中でだけでなく、俺の元居た世界でも有り得ない値段だろう。

 ソレに釣られて一人の男が近づいてきて俺に問う。


「・・・おい、本当に、この値段で売ってくれるのか?」


 ソレに答えたのは俺じゃ無くドラゴンだ。いきなり俺の前に出て来て威勢良くこう述べる。超ドヤ顔で。


「そうだ!私の育て、収穫した作物を!この値段で売ってやろうと言うのだ!感謝するのだ!」


「アホ!ソレは商売で言う様なセリフじゃねーよ!」


 俺はドラゴンの頭をパコッと殴っておく。だけどもこのコントなどよりもその質問して来た男はドラゴンの美貌の方に驚いていた。

 何せ屋台の陰で品出しの仕事をしていたドラゴンがいきなり飛び出してきてそう答えて来たのだからしょうがない。


「で、何をお求めです?今回持って来た量はかなりのモノではありますが、早い者勝ちですよ?あ、どうぞ他のお客様は列を作ってお並びいただけますか?一斉に群がられてはこちらも対処ができませんので。」


 早い者勝ち、その言葉がじわじわと野次馬たちに浸透していく。そして駆け引きが始まった。

 今この場に居る者たちはその手には何も持っていない者ばかり。

 だから大量購入するにしてもソレを入れる袋やカゴなどを持って来ていない。

 このまま列に並んで自分の番になってもその両手だけで抱えられる分量までしか買えないのだ。

 そこに気付いて列に並ぶよりも自宅に戻って買い物袋を持って新たにここに来る方が良いだろうと判断した者から走り始めた。中々の頭の回転の良さと決断力の持ち主であるそう言った者たちは。


 そしてそう言った動きを見て焦った者たちが俺たちの屋台に群がろうとしてくる。自分が先だ、こちらが先だったと争いながら。

 ソレを俺とドラゴンで一人一人捕まえて列を作らせていく。こちらの内側に並んでください、と。


 そう、俺は事前にこうなる事を予想してあったのでポールを立ててソレを紐で繋いだ物を用意しておいたのだ。行列を整列させるアレである。

 ソレをササッと準備してそこへと客を誘導していく。コレを見た他の者たちもそちらにガヤガヤと群がって行く。

 俺とドラゴンで列が長蛇になってもコンパクトに纏まって通行人の邪魔にならない様にとその列の形を整えていく。


 そうやって瞬く間にこの場で、この場だけが、活気を取り戻す。それこそ局所的と言う形で。

 後から来た何も知らない暗い顔で通りを行く者たちはこの客の塊を見て「何だ?」と一瞬奇妙なモノを見たと言った目になり。

 そしてソレを通り過ぎようとして次に看板を見て驚きの表情で二度見をし、屋台の前で立ち止まる。

 そして大量に買い物をした客たちのホクホク顔に視線が行き、俺たちが客に伝える支払合計金額とその客が抱える食料品の量を比べて耳を疑っている。

 そんな通行人がハッとなって我に返った時には長蛇の列に目が行っていた。例外無く。

 恐らくこの反応は「自分も並ばなければ」と言った思いからなのだろう。

 そういった者たちのほぼ九割が列の最後尾に慌てて並びに行くのだ。しかし残りの一割はと言えば、コレはどうにも諦めたか、或いは自宅に戻って資金と買った品を運ぶ道具でも持って来るつもりでこの場を去るのだろう。


「俺は村に一度また仕入れに戻るから、この場は皆に任せる。直ぐに戻るから、えー、ドラゴンがアホな事をし始めたらぶん殴ってでも止めておいてくれ。んじゃ、行ってくる。」


 俺は予想以上に持って来た品が減るのが早いのにちょっとビビって早めに村に一度戻った。

 そこでまた村長とパパッと再び相談して食糧倉庫からバンバンとインベントリに物を放り込んで行った。コレに村長からは。


「まだまだ余裕がありますので大丈夫です。今日も、まあ何と言いますか、有り得ない程の収穫を終わらせましたので。心配は要りません。なので寧ろもういっその事、倉庫の中身を全て持って行かれた方が早いのでは?」


 とか言われる始末だ。なので俺も「余ったら戻せば良いよな」と言った返事をして全ての倉庫の中を空っぽにした。

 そして戻って見た所で俺は真顔になった。何故かって?ドラゴンが男を、しかも大男二人を首を締め上げる様に持ち上げていたからだ。


 しかし周囲はコレに全く気を向けずに買い物をしている。売り子をさせている看板娘も、客も何ら気にした様子が無いのだから俺は「ドウシテコウナッタ?」しか感想が出てこない。


「・・・ドラゴン、二人を放してやれ。もうそいつら気絶してる。殺すんじゃないぞ?」


「分かっておる。そこの路地裏にでも放置しておくから気にするな。」


「気にするなって言っても、なぁ?何で俺が居なくなっていた十分にも満たない時間でいきなりこうなってるんだよ・・・」


 俺が呆れた感じでそう聞いたらドラゴンは「ん?聞きたいか?」と大男をほっぽり投げつつ言ってくる。


「いや、後にしようか。先に販売を熟してしまおう。ドラゴンも手伝ってくれ。」


 こうして俺たちは行列を捌くのに参加して並ぶ客たちに何をどれだけ欲しいかと言った要望を聞いて行く。

 そうしていれば既に二時間は過ぎただろうか?もうちょっと時間が掛かっていたかもしれない。客が残り八人となった。

 まだまだ俺のインベントリにはかなりの量が残っているのだが。そう、こうなると売れ残りと言うヤツである。

 残りの客は全員が袋を持って来ていたが、これら残りを無理矢理サービスして持たせる様な真似も無理だろう。量が半端無いのだ。たったコレだけの数の客で持って行ける訳が無い。


「こうなったら全部売り切りたい所だったんだけどな。と言うか、俺の常識が非常識だから当たり前に残るのはしょうがないか。」


 インベントリ、それは異次元ポケット。何でも入る、どれだけでも入る。

 だが一応は残れば持って帰れば良いだけなので、ここで売り切りたいと思ったのは俺の只の心情でしかない。


 そうしている間にも残りの客の対応が終わった。後は撤収作業である。

 とは言ってもその後は買い物タイムだ。この後はこの町で稼いだ金でアレもコレもソレもと手当たり次第に様々な物を買う予定である。

 とは言え、今回は時間的にもメンバーの疲れ的にもそれは明日にしようと言う事にして今日は村に戻る。


「それじゃあ皆、忘れ物は無い?それじゃあ通って通って。」


 俺はワープゲートを出す。それをもう慣れた感じで今回のメンバーが通って行く。


「うん、何事も無く上手く行ったな。・・・大男二人の話は・・・忘れてしまおう、うん。」


 あの時は周囲がその件に関して何らも気にしていない様子であったので俺も気にしない事にする。

 どうせ客同士での諍いをドラゴンが割り込んで力尽くで止めたのだろうと思っておく。


 さて、稼いだお金はもちろんいつも通りに俺のインベントリの中に入れてある。どれだけ入っているのかを把握はしていない。

 コレを使って明日は同じメンバーで、同じ町にて買い物をして回る予定である。

 翌日の朝にまた村長宅前に集まって出発予定である事を確認し、こうしてこの日は解散となった。


 そうして次の日。「みゃー」と言う鳴き声で目が覚めた。どうやら「ツチノコ」がお腹を空かせて目が覚めたらしい。

 ここで「ツチノコ」が俺の頬っぺたに噛みついて来る前に魔力の玉をすぐさま出してやる。


「ふぁ~・・・ぁァぁあ。うんしょ!っと。今日は何も起きなけりゃ良いんだけどな。」


 快調な目覚めであったのだが、今日の買い物に対して一抹の不安が浮かび上がって来て背伸びをした後にちょっとだけ小さい溜息を吐く。


「まあ、行って見なけりゃ分らんか。昨日のあの大男二人が・・・絶対俺たちを探してるだろうなぁ。」


 ドラゴンが昨日持ち上げていた男二人の人相、アレはどう考えても駄目な方の輩であると判断できるモノだった。強面である。

 そもそも話が通じる男たちであったなら、ドラゴンはそこまでの事をしなかったのではないかと俺は思うのだ。

 その話し合いがそもそも話し合いが通じずその男二人が他の客の迷惑となった、と言った流れで無ければあそこ迄の手をドラゴンは出さないと思うのだ。

 あれでいてドラゴンは弁えている所もあるし、頭だって悪い訳じゃ無い。今回の販売でやって良い事とダメな事くらいの分別はできるはずだ。


「だから何だよなぁ。あの男二人は何かしらやらかしてるはず。それが何だったのか、聞いてみるか。個人でのやらかしなのか、もしくは後ろ盾なんかが居ての行動であるかは、重要だな。」


 あの場で只自分たちの都合だけを押し付け様としたマナーもモラルも無い人間ならば放置で良い。

 しかしそれが何処かの組織の命によって邪魔しに来た者たちだった場合が面倒だ。その場合は報復だと言った形で俺たちを探し出してケジメなるモノを着けようとしてくるに違い無い。


「・・・あー、それこそ場所代?みかじめ料?とかか?あー、それが一番可能性高そうだなぁ。嫌だなぁー。そうじゃ無ければ無許可販売が法に引っ掛かったか?」


 嫌だとは言っても別に怖いモノでは無い俺にとっては。ドラゴンが既に撃退しているのだからその程度の力しかあの男二人には無かったと言う事である。コレを怖がる部分は無い。

 そんな奴らが数を揃えてワラワラと俺たちの前にやって来た所でドラゴンがソレをさも楽し気に全て返り討ちにする光景しか思い浮かんでこない。


「で、昨日の男二人は何だったの?」


「うむ?ああ、アレか?店の前にいきなり現れて列にも並ばずに「金を払え」と訳の分からない事をいきなり言ってきたので黙らせた。」


「・・・やっぱりかぁ。」


 俺よりも先に村長宅の前に既に来ていたドラゴンに昨日の件を聞いてみた。するとどうにも俺の予想した通りである様子。

 呆れた感じでそう感想を述べる俺にドラゴンが質問をしてくる。何を知っているのか、と。

 なので俺はそこら辺の知識と言うか、社会の仕組みと言うか、そう言った説明をドラゴンに教えた。

 一応は良い面、悪い面と言った部分も多少は交えて説明を終える。そして。


「そのいきなり「金払え」宣言は悪い方のアレだな。もしこれがもっとマトモであればいきなりそう言った風に突撃はしてこないと思う。まあ俺も実際にそう言った事に巻き込まれた経験は無いから断言とかできないけど。」


 先ずあの通りで商売をするのに許可が必要だったとして。しかしそう言った無許可販売を取り仕切る役員だって、現れて目の前でいきなり「金払え」などと要求はしないだろう。話合いや説明などを先にして来るはずだ普通なら。

 これが怖い顔した大男が二名で「金払え」といきなり言って来たならソレは恫喝ではなかろうか?

 事情も何も説明せずに現れて即座に怒鳴る様にお金の請求など常識外れだろう。


「なーに!また現れたら私が対応してやろう!今度は遠慮せずに暴れてくれようぞ!」


「止めろ止めろ。止めてくれ。お前が遠慮なんてせずに暴れ回ったら町が壊滅するだろうが。」


「むはははははは!冗談だ!しかし夢に見る位には恐怖を与えてやろうか。それくらいは良いだろう?」


「おいおい・・・はぁ~程々にしてやれよ?と言うか、お前が冗談とか、マジで止めろよどっちか判断付かねーよ・・・」


 こうしてドラゴンとの会話をしている間にメンバー全員が集まった。

 既に朝食は全員は摂ってから来たらしく直ぐに出発となった。


「あれ?俺だけ食べてないの?・・・まあ、良いか。町に行ったら何か買って食えば良いしな。」


 そうしてワープゲートで再び町へとやって来た。因みにこの町の名前を俺は知らない。知らなくても問題は無い。

 さて買う物は今回のメンバーに任せて俺は金を出すのと買った品をインベントリに入れる役割である。

 あくまでも村の住民に必要な物を購入するのである。俺の欲しい物を買う訳では無い。

 そこら辺の事は既にメンバーには説明をして買う物をあらかじめ考えておいてくれと言ってあった。なので今日は何かと問題が起きなければ直ぐに事は終わる予定だ。

 この町の事を知っている者がメンバーに居る。なので案内を頼んで全員で纏まって歩いたのだが。俺はここで疑問を口に出す。


「一応は、まあ何があるか分からないから全員で行くけど。こんなに人数要らなかったか?」


 ここでメンバーの女性の一人が意見を口にした。


「あの、二手に分かれるのはどうでしょうか?えっと、その、ドラゴンさんがお強いのは昨日の事で良く理解しました。なので半分に分かれてそれぞれ買い物を済ませると効率が良いかと。」


「うん、そうだな。ドラゴンを護衛で。此処から遠い場所の店の方に行って貰って手分けした方が良さそうか。ここの近辺は俺が護衛で。人数は半々じゃ無く、俺と、うん、ソレと二人で良いぞ。後の残りはそっちで手分けして荷車に買った荷を乗せたり運んだりで人足として連れて行ってくれ。それじゃあ動こうか。」


 今日は俺のインベントリに荷を入れるだけだと色々と見た目が手ぶらで妙な事になるので一応は荷車と買った品を詰め込む木箱などを揃えてやって来た。カモフラージュの為である。

 しかし二手に分かれるのであれば俺の方は荷車は要らない。ドラゴンの方に使って貰って後で合流後にインベントリに纏めて買った品ごとソレを入れてしまえば良い。


 取り敢えず荷車の上の木箱には満タンに昨日稼いだ貨幣を詰めておく。買い物でお金が足りないとなって追加を貰いに俺と一々また合流したりするのは面倒だ。

 木箱に詰められたお金の量を見て若干メンバーが引いているのだが、コレは無視しても良いだろう。


 こうして二チームに分けての買い物は順調に進んだ。と思う。

 取り敢えず俺の方には昨日のあの大男の関係者と見られる者たちは現れなかったからだ。


「もしかしたらドラゴンの方に行ってるかもしれないなぁ。だけど、まあ、大丈夫だろ。人質を取って卑怯な真似をしてこられても、ドラゴンなら被害も出さずに軽くあしらえるだろうしな。」


 昨日の大男たちは俺が戻ってきた時には気絶していたので当然俺の事は認識していないのだ。俺の所にそいつらがやって来る可能性は相当低い。

 なので心配なのはドラゴンがやり過ぎない事である。もし昨日の大男たちがまた再びドラゴンの前に現れた時、どんな事になるか分からない。


「殺すのは、まあ、ちょっと待った、って感じだな。そいつらがクソでクズで外道であれば即刻やっちまえ、って感じなんだが。おっと、過激な思考は抑えろ、俺。」


 俺は時々思考が極端になる。精神不安定だと自分でも認識しているのだが。

 どうしても目の前に人の心を持たない悪党の類が現れると「やっちまう」のである。


「こんな魔法なんて力を持って、しかも、ああ、森の中でいきなり弱肉強食に飛び込んだからなぁ。ソレでまだ「法律」とか「道徳」とかが絡んで来てどうにも複雑怪奇だよ。」


 悪すなわち滅す、みたいな。やられる前にやる、みたいな。しかしだからと言って法を守るの大切、道徳は捨てちゃ駄目、とか、てんで纏まりが無い心模様。

 自分が魔力を膨大に持っていて、魔法などと言う御都合主義を極めたシロモノを使える事で悪を、外道邪悪を憎む心にブレーキが掛からなくなっている。そう言った輩に死と言う結末を与える行動に直ぐ出てしまう。


 ボヤキながらも買い物は続く。脇道の陰で先程買った品をインベントリにポイッと入れて再び次の店に歩き始める。


 さて、こうしてガバガバドンドン大量の買い物をしている訳だが、その際に店の店員は驚いたり喜んだり焦ったり困惑したりと反応は様々だ。

 そう言った店員の反応はこの町に活気が無く、経済が止まってしまっている事を分かっているからこそ。

 そこに俺の様な「異質」がやって来た事で町は少しだけ流動する。そう、お金の動きができるから。

 服、日常品、農具、調理道具、食器、修理用道具などなどの様々な品を買い漁っている。

 そうして「金は天下の回り物」が起きれば自然とそこから経済は回る。

 儲けた金で仕入れをし、そしてソレをまた売って利益を出し、その利益から生活費が、次の商品の仕入れが、と様々な部分にお金の流れが波及する。


 だがコレは一時的なモノだ。その内また停滞するだろう。その理由としてはこの町で俺「だけ」がお金を使っているからだ。

 幾ら俺がここでお金を使ってばら撒いても、コレを切っ掛けに全てが動き始めるかと言えば、それは無い。

 もっと大勢の人たちが日常でお金を使う様にならなければ直ぐに今の状態は停止する。俺一人の力ではたかが知れているのだ今回のこの場合は。

 商人がこの町にもっと多くやって来て売る、買うの動きが活発化しなければ本当の解決にはならない。


「そしてその問題の根底に食糧問題って事だよな。」


 俺はもう手を加えた。このノトリー連国の国土の大体九割は既に俺の魔法で耕し、土に水を与え、種をばら撒いた。

 その結果が出るまでは「魔改造村」で収穫した作物を各町村に販売しに行くつもりである。


「さて、もうそろそろ向こうと合流しようか。取り敢えず片っ端から店を空っぽにする勢いで買い揃えたし、向こうももうそろそろ終わってるだろ・・・おい、ドラゴンどう言う事だよ?」


 俺は魔力ソナーを広げて向こうの様子を確認したらどうにも町の一番の広場に全員が集まっていた。

 しかしそこに居たのはドラゴンだけでなくそのメンバー、ソレに向かい合う様に三十名が。


「予想通りかよ・・・面倒だなぁ。」


 取り敢えずまだ集まったばかりの様で動きは見られない。これで乱闘が始まったら本当に収拾を付けるのが面倒臭くなると思ってその前に現場に到着する為にダッシュでそちらに向かった。

 そんな俺の後を必死に付いて来る二人に途中でお金を持たせて何処かの食事処で待っていて貰う様に言っておいた。

 二人の気配?はもう既に覚えた。後で魔力ソナーで捜すのは簡単だ。今は俺が単独で向こうに合流した方が良いと思っての事である。

 俺はそこで空中飛行に切り替えて即座に現場に向かう。一応は魔法光学迷彩も掛けて警戒をしつつだ。


「てめえらよくも昨日はやってくれたな。今日はその礼をしてやる。そのお綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしてやるから覚悟しとけや。・・・女は上物だな。ウチで充分に楽しんだ後はクソみたいな値段で奴隷として売ってやるからな?嬉しいだろう?」


 広場に着陸したら聞こえて来た台詞がコレだ。嫌な気分に即座にさせられてちょっとキレそうだ。

 しかしコレを聞いていたドラゴンは胸の前で腕組をしたままに首を傾げて不思議そうだ。

 さて、どうにもこの犯罪組織の者たちであろう三十名はどうやら普段からこうした事には慣れているのだろう。そんなドラゴンの態度にヘラヘラした様子だ。

 どうせ相手はちょっと力の強い素人だ、と勘違いしてるのかもしれない。数で押せば片付く、と。


 昨日ドラゴンにやられた二名は怒りの形相なのだが、他の残りの男たちは「何だってこんな奴らにこの数で?」とでも心の中で秘かに思っているんじゃないだろうか。

 その証左として誰もが何となくヤル気が見られない態度である。警戒心がゼロ、とまでは言わないが、誰もが誰も雑談をし始めている。


 そんなタイミングで俺は姿を現した。コレに最初に気付いたのはドラゴンだ。


「おお、エンドウ、今来たのか?そっちは買い物はどれ位済ませた?こちらは、見ての通りでまだ全然だ。取り敢えずこいつらを潰してこの町の「掃除」をしてしまうのはどうだろうか?どうせこやつらはロクでも無い集団なのだろう?ならば良いよな?」


「お前、何かと理由付けてるけど、ちょっと暴れたいだけなんだろ?言い繕わないでも良いんじゃないか?らしくも無い。とは言っても、殺した所でその片付けもちゃんとしないと死体を放っておくとそこから疫病が出るかもしれないからしっかりと処理もしないとダメなんだぞ?こんな町の中心でそんなのが発生したらこの町壊滅するからな?面倒だって言って処理を俺に押し付けるんじゃないぞ?ソレが分かっていれば、やっちゃっても構わないんじゃないか?」


 俺とドラゴンで勝手にこの後の事が決まって行く。まあ向こうにしたらコレには「ふざけるな」と言う感想しか出てこない事だろう。

 向こうからしたらいきなり何処から現れたのか分らない正体不明の俺。それがこの場の中心となっているドラゴンと言葉を交わしているのである。しかもこの集団の処理、などと言った内容で。


「テメエは誰だ?そいつの仲間か?だったらお前も一緒に死ねや。と言うか、俺たちを掃除するだぁ?テメエ一人現れた所でこの人数をどうやって捌くって?やれるもんならやってみろや。」


 怒りをしっかりと込めた言葉が俺に向けられて発せられる。まあしょうがないコレは。キレるのは当然である。

 相手がこうしてキレた事で逆に俺はそこでやっと心の落ち着きを取り戻し始めた。


「あー、アンタらはこの町にとってどう言った存在なのかを聞いても良いか?」


「何を言うのかと思えば、テメエ、この町のモンじゃねえのか。ああ、そりゃそうか。そうであったらこいつをここまで激怒させる様な事はしねーよなぁ。」


 そんな呑気なセリフで俺の質問に答えたのはその手に酒を持つ男だった。この三十名の中で一番ヤル気が無さそうな男である。

 どうやらほろ酔い気分で気持ちよさそうに広場の一角でフラフラとしながら俺たちを見てきていた。そして言う。


「俺たちはなぁ?金を得る為には何でもござれ、手段問わずの、犯罪なんてやっていない罪は無い、ってな。お前らは絶望しながら俺たちの利益に変えられちまうのさ。その身ぐるみを先ず剥いで、男は殺して、女は散々犯して飽きたら売るのさ。それくらいは朝飯前ってね。」


 この酔っ払いはそう言ってふざけた動きで身振り手振りも付ける。そのセリフとおちゃらけた態度で他の男たちが一斉に笑う。ちげーねえ、と。


「うん、ドラゴン、容赦はしないで良いぞ?やっちまえ。あー、でも、殺すなら取り敢えず生き地獄を充分に味あわせてからの方が良いな。こいつらが今までに生み出してきた被害者たちの心が多少慰撫されるくらいには、地獄を見せてやれよ。」


「ほほう、なるほど。それはそれでやりがいがありそうだな。ではソレで行くか。」


 俺とドラゴンのこのやり取りにこのクズ集団は「はぁ?」と一瞬呆けた。

 そして未だに自分たちが舐められていると言うのが解ってどうやら全員怒ったようだ。

 相手を馬鹿にしてチャラチャラした態度でいる事は自分たちの特権であると言いたげである。

 こうした輩は自分たちが逆に相手に馬鹿にされ舐められていると感じたならば直ぐにでも激昂する。器の小さい奴らの集まりである。

 一人くらい危機感とやらを感じてこのタイミングで逃げ出そうと言うヤツはいないのだろうか?

 俺とドラゴンのここまでの余裕の態度を見て誰も「ヤバい相手かもしれない」とは思いつかないのか。


「テメエらは一人も逃がさねーぞ?今更命乞いをしても遅いからなぁ。精々後悔を抱えて死んでいけや。」


「うん、逃がさないと言うのはこっちのセリフだな。大抵こうして何かと血生臭い事に流れ当たるのはどうしてなのかね?」


 毎度の事ながら何かと動いて成し遂げた後には大抵こうしてクズやチンピラの相手をしている。

 その回数、と言うか、遭遇率と言うか、そう言ったものが高過ぎる様に感じる。まるでお約束の様である。

 でもしょうがない。こうなってしまっては流れに身を任せてしまう。


「それじゃあドラゴン、楽しんでくれ。」

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