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どうやら俺は相当嫌われている様です

 さて、ノトリー連国軍は撤退させる事に成功した。しかし次に話をしに行かなくてはいけない新選民教国の方はどうだろうか?素直にスムーズに撤退してくれるだろうか?

 そんな心配をしつつ俺は新選民教国の放った騎馬軍の方に次は向かうつもりである。この兵団にはノトリー連国軍を追わない様に約束させる予定だ。


 そのまま俺は撤退していくノトリー連国軍を見送った後は魔力ソナーを広げる。

 こちらに迫って来ているだろう騎馬軍の動きを知る為だ。


「・・・あー、もう結構来てるなぁ。タイミングが一日ズレてたらコレぶつかってただろきっと。ギリギリでも無かったけど、余裕も無かったなコレは。あぶねぇ。」


 そのまま俺は飛行してその騎馬軍へと接触する為に進む。そうして暫くも飛ばない内に遠くに砂埃の上がっている場所が見えた。

 俺はそこに向かって少しづつ高度を落としつつ接近する。丁度先頭を走っている騎馬兵の視界に俺が入る様に。

 そうして近づけばどうやら俺の事をしっかりと発見した様だ。進軍を止める合図なのだろう。先頭の兵が手を大きく後方に振っていた。

 すると次第に騎馬はその速度を落として軍全体が停止する。そこで俺はその止まった軍の前に降りる。


「いきなりこんな事を言うのは何なんだけども。引き上げてくれるかい?ノトリー連国軍は俺が撤退させたからさ。追撃は無しで。あ、俺の事誰か知ってる人いる?」


 もちろん俺を見つけて進軍を止める様に合図を出した兵は知っているだろう。そうで無ければ多分停止の合図は出していないだろうから。

 知らない奴だったならば空を飛ぶ俺を見つけてもそのまま騎馬を走らせて通り過ぎて行っただろう。

 その際に「何だアレは!?」と驚きつつも振り返ったりもせずに敵軍へと向けてそのまま進軍を続けたと思う。


「・・・エンドウ殿ですね?その言葉は本当なのですか?」


 ここで軍の真ん中から一騎前に出て来た。どうやら俺の事を知っている者である様だ。しかもその着ている鎧は周囲の兵が身に着けている物よりも装飾が付いていて役職が高い様である。この軍の纏め役かもしれない。


「俺が嘘を吐く理由は無いんだけどな。まあ嘘だと思われても仕方が無いか。それで、引いてくれるの?くれないの?」


「・・・女王陛下からは貴殿が現れた際にはその言に逆らわず言う通りにする様に仰せつかっております。しかし、私個人としては素直に「ハイソウデスカ」と素直にコレに従いたくないと言った気持ちですな。」


「ふーん、じゃあどうする?まあ俺としては別に従いたくないと言うのならソレはソレでしょうがないと納得するけど。軍を引き上げてくれればソレで良いしね今は。あなたの個人的な気分を考慮には入れないよ。抵抗するなら無理矢理にでも脅して帰らせるし。」


「貴方の力はあの「決闘事件」を直接この目にしているので疑い様が無いのですがね。しかし、相手をあの様な方法で見せしめの様に残虐に殺害した貴殿の人間性を信じる事ができないのですよ私は。」


「はぁ~。俺よりもあいつらの方がよっぽどな性格してんだけど?あの程度で残虐?寧ろ慈悲深いよ?あいつらが何て言って俺を殺そうとしていたかここで聞かせてあげるのは簡単だけど。それはそれで別だしな。俺へのアンタの気分がどうのこうのは今そもそも関係無いし、人間性がどうのこうのも今必要じゃ無い。アンタは女王陛下の言いつけに従って俺の言う事を聞いて軍を引き上げしてくれ。」


「・・・ふぅぅ~。分かりました。これより本国へこのまま引き上げます。・・・全軍転進!帰還する!」


 大きな溜息を吐き出して撤収指示を出すその男はさっさと踵を返して騎馬を走らせた。さも俺の顔など長くは見ていたくもないと言った感じで。


「そんなに俺を敵視する程の事だったか?あの決闘。まあさっさと次だ、次。」


 まだ別働で動く歩兵中心の五千の軍が残っている。そちらに俺はさっさと向かう。そっちもさっさと引き揚げさせるつもりだ。

 どうやらメリアリネスは俺を恐れての事なのか、もしくは下手を打って俺の機嫌を損ねさせる事が怖いのか。

 軍に俺が現れて何か要求をしたらソレを呑み込めと指揮官に言い含めている様であるので次も楽に終わるだろう。


 五千の方は騎馬軍とは大きく別ルートを進んでいるのでそちらへと次は向かう。

 あっちに行ったりこっちに行ったりと少々忙しくし過ぎかと思うのだが、自分がやりたい様にやろうとしたらこうなっているのだ。

 いつもいつもこうして俺があれをしようコレをしようと思い付くたびに何かと動き回る羽目になっている。良い加減に自覚をしているつもりなのだが、しかし毎度の事をそうならない。


「何も考えてないんだよなぁ。もうちょっと慎重さが・・・なんて言ってたら何も楽しく無いし。」


 今回の「魔改造村」を作るのは結構内心で楽しんでいた。アレコレと労力は掛かったし、苦労もしたが、終わり良ければ全て良し、と言った感想である。


「とは言っても今その尻拭いが、ねぇ・・・あー、見えて来たな。」


 そうしていつものボヤキを吐きながら飛行していると目的の軍が見えて来た。

 俺はそのままその中心だと思われる所の上空まで飛んで行く。そして騎乗しているので良く目立つ。


「あー、あの人が総司令?何かめっちゃド派手な服着てら。・・・鎧じゃ無くて良いのかよ?まあいっか。・・・うーん?話、通じるかね?」


 そのド派手な服を着た馬上の人物の前に降り起つ。心配をしつつ。


「すみませんが軍を止めてください。そして国に引き返して貰えますかね?このまま進んでも戦争は始まらないんで。」


「キサマ何者だ!名も名乗らずに私の前に突然現れいきなり何を言うかこの無礼者めが!・・・おい、こやつを捕らえろ!」


「おおぅっふっ・・・まさかまさかの、ここに来て馬鹿を起用ですかメリアリネスってばよ・・・」


 心配が当たった。こんなに即座に当たらなくても、と思わずにはいられない。この捕縛命令で俺を包囲して来る兵士たち。

 しかし中にはどうやら俺の事に思い当たる節がある者が数名居た様だ。その数名の兵たちはその顔色をサッと青くしてジリジリと少しづつ下がってこの場から少しでも離れようとしていた。


「はぁ~・・・俺は遠藤。メリアリネスからアンタは何か俺の事で伝えられている事は、無いのか?」


 ここでちゃんと確認だ。相手は話が通じなさそうな人物ではありそうだが、しっかりと報連相は欠かせない。

 もしかたらちゃんと互いに情報をやり取りすればこの捕縛しろと言った命令も無かった事にできるかもしれないのだ。

 しっかりとここはコミュニケーションを取って可能性を掴み取る。


「・・・なるほど。キサマが女王陛下の言っていた人物か。はっ!この様な何の覇気も無い男に何ができるとでも?いきなり現れた事には驚かされたが、だから何だと言うのだ?こんな奴の言う事を聞けだと?ふざけるのも大概にして欲しいモノだ。」


 無理っぽい感じでした。諦めたくないけれど、多分ダメ。こう言うセリフを吐く輩は大抵が地位や名誉や権力や立場にモノを言わせて相手の話を聞かないし、下に見て来るし、身勝手を押し通そうとする。


 さてここで、この男は俺がやったあの「決闘」の事を知っているのか、それとも知らないのか。

 知っていれば当然こんな態度を俺に向ける様な事は無いと思うのだが。こう言う奴は「力」さえその目にしていれば大人しくなる、はずである。

 アレを直接目にしていなくとも俺のこれまでにやって来た事を話で聞いていればどうか?

 しかしどうにもこの男の言葉からしてそんな「事実」を耳に入れた所で俺の「力」なんて信じたりはしないんだろう。

 何処までも自己中心的で自分で直接見た事、聞いた事、体験した事、信じたい事、しか受け入れないのだろうこう言った性格の者は。

 と言うか、自分の事が一番大事で他の事何て全く気にもしないのだろう。自らの都合の良い事だけを受け入れて、その他は「有り得ない事」として世の中が自らを中心に回っていると、それ以外に無いと思い込んでいる。


 兵士たちに未だに俺の包囲を解く様に指示しないそのド派手な服を着た男。ここで俺は疑問に思って聞いてみた。


「なあ、ちょっと今、関係無い質問して良いか?何で、戦争なのに鎧着てないんだ?」


「・・・何を言うのかと思えば。はっ!笑わせる。戦争など前線に立つ雑兵どもに突撃させるだけの下らん御遊びだろうが。そんな事に鎧?はっ!この私が直に戦う事などあり得んな。何故そんな重い物を身に纏わねばならんのだ。恐れるに足らん者ども相手に鎧を着るなどと、他の貴族の笑い物になれと言う気かキサマは。」


 何をどれ位に勘違いすればこんな発言を本気でする様になるのだろうか?

 根本的な考え方が全く違う、何もかもが違う、有り得ない位に違う。俺はこれに一瞬だけクラッと眩暈がした。分かり合えないんだなぁ、と。


 この貴族とやらはノトリー連国をどの様な認識で捉えているのだろうか?

 いや、問題はそこだけじゃなかった。今の発言で周囲の兵たちの表情が変わったのだ。

 そう「コイツに軍の指揮を任しちゃおけねえ」と言った共通意識が兵たちに芽生えた瞬間だった。


(まさかメリアリネスはこの貴族を「処分」するつもりでこの軍に据えたのかなぁ・・・)


 この貴族は余りにも戦争を知らなさ過ぎると言うか、舐めていると言うか。

 このまま本当にノトリー連国軍と戦っていたらきっと被害が甚大になった事だろう、この歩兵軍の方だけは。

 その責任をこの貴族に負わせるつもりだったと言うのならば腹黒に過ぎるし、残酷極まる。

 たったそれだけの為に死人の山を作り上げる事に躊躇しなかったと言うのであれば俺はメリアリネスをもうちょっと厳しい目で見ないといけない。


(とは言っても俺が戦争をさせなかったけどさ、結果的には)


 ぶつかり合いは回避した。死人は一人も出ていない。ここで俺は大きく溜息を漏らしながら言っておいた。


「はぁ~・・・それで、俺の言葉に従って軍を引き上げますか?それとも逆らってこのまま軍を進めますか?一応は言っておきますけども。ノトリー連国軍は俺が撤退させました。このまま行っても戦争にはなりませんよ?」


「誰がキサマの言う事などに従うか。しかもキサマが撤退させた?嘘を吐くならもっとマシなモノにしろ。時間の無駄だったな。おい!軍を進めろ!余計な時間を食った。さっさと全軍に合図を出せ。」


 言うと思っていた。素直に従っちゃくれないんだろうな、そう思っていたが、そうなってしまった。

 俺はここでしょうがないと思って魔法で実力行使して帰って頂こうかと考えた所で太鼓の合図が鳴る。


 ドンドンドン・ドンドン・ドドドン。


「・・・は?アレ?」


 俺はここで驚かされた。意外や意外、この太鼓の合図はそのまま進軍、では無く、どうにも「撤退」の合図だったから。

 次々に兵士たちが反転、どんどんと引き返していく。


「おい!コレはどう言う事だ!?何故私の命令を無視している!」


 このド派手服な貴族もこれには驚いていた。何が何だか分からない。

 しかしコレは誰かが勝手に撤退の命令を出して太鼓での全軍への指示出しをさせていると言う事だ。

 この歩兵軍たちの総司令はこのド派手服貴族では無いのだろうか?俺の勝手な思い込みだったのか?

 まさかだとは思うのだが、命令系統が二つに分かれているとでも言うのか。


「おい!私は進軍と命令しているのだ!誰だ!勝手に撤退合図を出させているのは!」


 怒り心頭のド派手服貴族は喚きながら周囲を観察する。しかし近場周囲に居た兵士たちはコレを白い目で見ている。何せこの貴族がクソ発言をしているのをその耳に入れているからだ。


 撤退合図はその後三回続けられて叩かれた。兵士たちはコレに従いぞろぞろと方向転換して元来た道を戻り進んでいく。

 その間も「逃げるな」やら「命令を聞かぬか!」とか「処罰するぞ!」などと喚き続けるド派手服貴族。


 そうしている間に周囲には誰も居なくなった。俺とその貴族だけがこの場に残っている状態である。

 そしてそのド派手服貴族、顔真っ赤。相当な熱量の感情がその顔に血を昇らせているのだろう。今にも頭の血管が切れて倒れてもおかしく無いのでは?と思える位である。


「・・・ぶ、ぶぁかなぁ!馬鹿な!バカな馬鹿なばかな馬鹿な!ばかなああああああああ!こんな事が有り得て堪るかアアアアアアアアア!」


 恥辱、この貴族にとって今のこの状況は考えられない程の濃密なソレだろう。

 そしてソレを否定したくて声を上げるに、これ程に魂の籠った叫びとなるのは当たり前だ。


「この!私を!誰だと!思って!いるううううううう!」


 かなりの憎悪である。さて、この感情を誰にぶつけるつもりだろうかこいつは?


「お前かぁァぁァぁ・・・」


(俺なんだな、そこは。メリアリネスじゃないのかよ)


 俺はこの軍の撤退に関しては何らの関係も無い。この軍にも副官が存在しているだろうし、もしかしたらそいつが勝手に撤退の合図を出す様に命じたのかもしれない。

 しかしこの貴族にとっては俺がきっかけでそうなったのだから、今のその感情のぶつけ先が俺になるのはしょうがない。

 只コレは冷静になっていないからこそ、矛先が俺に向いているのであって。

 よくよく考えれば全てメリアリネスが事前に今回の事を準備していたのであると分かるはずだ。


(で、その「始末」を俺に押し付けようと?有り得ないだろ、メリアリネス?)


 この貴族を俺に「消させる」為にコレを前もって仕込んでいたと言うのであればメリアリネスは相当に強か、と言うか、悪女である。


「俺は快楽殺人者じゃねーよ。そんなに簡単にアレもコレもと殺したりはしないぞ?・・・いや、してたか?」


 今、目の前で護身用であろう短剣を抜いてこちらに向けてきている貴族を殺そうとは思わない。

 俺を殺そうと思ってその短剣を抜いたのだろうが、俺は別にコレを返り討ちにしようとは思えなかった。

 幾ら何でもこの貴族が憐れだな、そう感じたからだ。この貴族は今俺へと明確な殺意を向けて来てはいるが、俺はソレを何だか「可哀想だな」と思うのだ。


 俺への悪態、女王から受けているだろう命令を無視、それらの罰は今この貴族が感じている「恥辱」で天秤が取れているんじゃ?と捉えている。


(ソレに、この憎悪は本来ならメリアリネスに向けられるべきモノだろ?何でソレが俺に向けられねばならんのだろうか?)


 これ以上の事を俺がこの貴族に対してする必要は無いし、する気も無い。この貴族にはその感情を本来の向けるべき相手、メリアリネスに向けて貰いたい所である。


「メリアリネスが考えたのか、或いは他の側近が考えていた事だったのかは知らないけどさ。コレはそっくりそのままお返ししてやらんとな。」


 真実は分からない。俺を良い様に使ってこの貴族を片付けようとしていたのか、或いは本当にコレは偶々であったのか。

 どっちでも良いのだが、俺はこの貴族を魔力固めで動けなくさせた。

 これ以上この貴族に対応する気は無いのだが、このまま放っておいても良いモノでは無い。

 俺が拘束しなければきっと下馬して俺に襲い掛かって来るのが目に見えていた。


「うーん?解らせるにはどうしたら良いモノなのかね?良いや、さっさとほっぽり投げよう。俺が判決出さなきゃいけない案件じゃねーや。」


 ワープゲートを出してこの貴族をそのまま中に通す。騎馬ごと。

 そしてしっかりと向こうの城に着いた時点で拘束を解除、ワープゲートを消す。

 これで後は向こうがどうにかする事だろう。この件に関しての事は俺が一から十までやらねばならない事じゃ無い。


「さて、戦争は回避した。・・・うん、何らの解決には繋がっていないけど。あー、どうしよっかなー?」


「みゃー!」


 そんな一息ついた所で「ツチノコ」が胸ポケットから飛び出してくる。どうにも食事の時間らしい。

 毎度変わらず俺は魔力をこの「ツチノコ」に与える。いつも通りにコレをパクッと食べた「ツチノコ」はまたしても学習せずにポッコリお腹となってやはり地面にポトリと落ちる。

 ソレを拾って毎回俺は胸ポケットに「ツチノコ」を入れる。どうやら「ツチノコ」もこのポケットがお気に入りの様で直ぐに眠ってしまう。


「こいつの名前も決めた方が良いのかね?でもなぁ?成体になってから決めた方が良いか?この状態で付けた名前が成体になったらイメージ合わなくなっちゃったりしたら嫌だしなぁ。」


 この「ツチノコ」が成長したらどんな姿になるのか想像ができない。なので名前を付けるのは一旦保留にする。


「毎度毎度起きては魔力を食べて直ぐ寝るしな。どんな性格してるのかとか分らんし。まあ良いだろ。そんな事より、どうすっかなー?」


 俺はこのノトリー連国と新選民教国の戦争をどうにかしたいのだ。「魔改造村」が安定して存続し続ける為に。


「こういう時に良いアイデアが浮かんできてくれれば良いんだけどな。と言うか、国と国との交渉なんて規模がデカすぎて想像できんわ。俺はそもそも、元はと言えば一般人だぞ?無理があるよなぁ。馬鹿の考え休むに似たりかぁ。」


 政治に首を突っ込んで「はい、解決!」と言えるくらいの知恵なんて持ち合わせていない。そんな交渉の経験なんてした事あるはずが無い。


「ここはメリアリネスに相談する所か?・・・いや、もういっそのことノトリー連国の上層部にカチコミして「戦争止めろや!」って脅すか?・・・うん、ヤ●ザの発想だ、これじゃあ。」


 ここで俺は一つ深呼吸をして頭を冷やす。脅して止めると言うのはこれまでに何度かやっていたっけ、と。そして一つ一つ俺の今後の行動を思案する。


「戦争は無駄でしかないと説得する?いや、それこそ無駄かぁ。解っててやってるんだもんなノトリー連国は。そもそもそれの何が原因かって、この土地がいけないんだろ?・・・ああ、単純だったな。」


 俺はずっと「人」を見ていた。そして政治で考えていた。しかしコレはもっと単純で簡単な話だったのだ。


「うん、全部やっちまうか。出来ちゃうよなぁ。さて、これで誰に迷惑が掛かる?誰にも掛からないよな?」


 他に色々と問題はありそうだが、そんな後の事の心配をしていては今思い付いた案を実行などできなくなってしまう。


「見切り発車で行こう。結局何かしら起きたらその時々に対処すれば良いや。俺はこの世界で自由にやって行くって決めてたんだった。」


 俺はこういう時に腹を決めるのが早かった。コレをやっても別に誰にも迷惑を掛けたりしないはずだと、その一点で誰にも相談せずに決めてしまう。


 俺は先ず海に飛ぶ。そこでインベントリにそれこそ大量にごっそりと海水を取り込んだ。

 次にノトリー連国の荒れた土地だ。それを、と言うか、その俺が認識している「全土」を耕す。

 そこにインベントリに入れた「海水」から塩分を取り除いた「水」をばら撒いた。それこそ土砂降りと言うくらいに。満遍無く、全ての地域に。

 その水は乾いている解された土にまるで底無しに吸い込まれていく。


 その様はまるで天変地異だっただろう他人から見たら。いや、俺が見ていても感想は「有り得ねーな」だった。

 その水をたっぷりと吸った土に俺は上空から適当に余っている作物の種をパラパラと雑に落としていく。

 果物などから得られた種などもその中に入っているので所々で木も生えて来る事だろう。

 これでその種が根付けば数日で芽が出て来るはず、きっと、めいびー。それで後は放っておけばきっと一ヵ月も経たない内に見渡す限りのこの茶色い土地が緑に変わっているはずだ。


 海水から排除した塩分は例の四つの村に分け与えておいた。余りにも塩の量があるのでソレを入れる相当な数の壺を作らねばならなかったので、寧ろそっちの方が面倒だったくらいだ。


「魔改造村で取れた作物は・・・取り敢えずこれまで通りで良いだろ。村の奴らがどんな風になるかは向こうの責任だしな。」


 あの四つの貧村に配給している物資はこのまま継続を行うつもりだ。しかしそれによって齎された村の最終的な結末に俺は責任を持つつもりが無かったが。


 取り敢えず今もまだ「魔改造村」では収穫量が半端無い。そうやって配給をしていてもまだ余裕で余りに余る収穫物の処理が問題だ。

 勿体無い精神でそれらを保存食にしてはいるモノの、それでもギリ追いついていないと言った状況だ。


「メリアリネスに頭を下げて市場に出させて貰おうかなぁ。いや、ノトリー連国内で売り飛ばすか?捨て値で?」


 ちょっと俺は今危険思想になっているのでは?と疑う。そんな捨て値で売り捌いた場合、ノトリー連国で経済破壊をしてしまわないだろうかと。


「まあ、構わないよな?取り敢えず村で誰かしら商売をやれる者を数名集めて売らせるかぁ。」


 いい加減「魔改造村」に新たな倉庫を作るにしたってそれでは何らの解決にはならない。

 そこに詰めるのは精々が保存食に加工した食料ばかりだろうから。


「金を稼ぐなら今の内、だろうなぁ。後々でこの状況が落ち着いてからだと多分遅いだろうし。」


 俺はそう予想をして「魔改造村」に戻った。そして村長と相談して今出せるギリギリの人数、十名を選出させる。


「で、何でその中にお前が入ってるんだよ?村で働いていてくれた方が助かるんだが?」


「何だ、良いでは無いか。私は自由だ。何をしても構わんだろ?私が居ればバンバン売れるぞきっと。わはははははは!」


 その十名の中にドラゴンが居るのだ。そしてその残りの九名の内、三名が「美人」である。そう、あの元奴隷の、である。

 どうやら作物を捨て値で売り捌くにしても看板娘とやらを前に出して、ソレに釣られて鼻の下を伸ばし近寄って来た男たちをホイホイすると言った要員である様で。


 その三名は身嗜みを整えて何処に出しても恥ずかしく無いくらいに輝いている。どうやらしっかりと普段から良く働き、良く食べ、良く寝る生活をしっかりと取っていたんだろう。

 肌の艶も良い、健康的な体格、そして今は「看板娘」と言う事で精一杯に村で出来るおしゃれをしていた。


「うん、俺が一緒について行くから、おい、ドラゴン、お前・・・無茶したり余計な事、するなよ?」


「ふはははは!何を言うか。私も方々を観光して来たからな。路上商売と言うモノがどの様な仕事であるかは分かっているぞ?」


「・・・いや、それが心配なんだが?解っているつもりが一番危険なんだぞ?って言っても、もうしょうがないか。こうなったドラゴンはどうしようもないからなぁ。」


 こうして売却するあれこれを運ぶための道具の準備する所から始まった。そもそも荷車を用意せねばならないし、それらを並べて販売する屋台も作らねばならない。

 まあ俺がそれらを一瞬で作ってしまうのだが、魔法で。


 そうしたら積荷の用意だ。取り敢えず幾つもある倉庫から村長と話し合って運び出す品を取り出していく。

 とは言っても俺がインベントリを使えるのでその中に放り込んでいくだけなのだが。


 そう、作った荷車や屋台は言って見れば「見せかけ」だ。ほぼ全ての労力は俺が片づけるからだ。

 魔法にインベントリ、そう、この二つがあれば物流崩壊待った無し。市場に過剰放出が可能なのである。


 この光景を着いて来ていた売り子担当の者がその目で見ていたのだが、信じられないモノを目にしたと言いたげに全開で瞼が開きっぱなしだった。


「よし、じゃあ準備は整った。行こうか。」


 俺は十名が集まっている村長宅前でそう宣言する。だけども此処でドラゴンに質問された。


「うむ、エンドウよ、ソレで何処から行くのだ?いきなりこの国の首都か?それとも他の町や村か?」


「そうだな、ここから真っすぐ首都に向かう途中にある町でいっちょやってみるか。そこでなら幾らばら撒いてもいきなり本国の役人がやって来て俺たちをとっ捕まえようとしてくる、何て事は無いだろ。」


「で、稼いだ金はどうする?その稼ぎはその町で使わねばその町の経済がより悪化するだろう?」


「ドラゴン、お前って中途半端に頭が回るな。何処でそんな知識・・・まあ良いか。確かにそうだなよな。だから徹底的にその町で買い物して回るぞ。取り敢えず、服だな。ソレとその他では色んな道具に、装飾品でも、それこそ何でも良いな。その町に悪影響が出ない位には何でもカンでも買って行けばいいさ。」


 こうしてドラゴンとの問答も終わって俺たちはワープゲートを使って移動を開始した。

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