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戦争は始まりますか?

 その数が膨れ上がれば上がる程に行軍と言うのは速度を出せなくなる訳で。

 まだノトリー連国軍はこの「魔改造村」にまで到着すらしていない。

 そりゃ全軍の足並みを揃えて進まねばならないのだろうからその歩みは遅くなる。それこそ一万二千と言う数だ。この村に一日二日で辿り着く訳が無い。

 歩兵、騎馬兵、重鎧兵、魔法兵。兵種は色々とあるだろうが、これらを全て統括して進ませなければならないのだから、さあ大変だ。

 と言うか、コレだけの数を何処から集めたのだろうか?ちょっと俺には想像が付かない。まあ戦争なんて詳しくその内容を知らない方が幸せなんだろうけども。


 さてそれだけの数だ。無理に進ませようとして一日中歩き詰めでは兵士たちは疲弊して戦場に出れば使い物にならなくなるだろう。そうなれば士気も底辺にまで下がっているはずだ。

 休息も計算して入れて進まねばならないとなれば一日で稼げる距離はそこまで大きくできない訳で。


「それでも斥候とか、或いは先行隊ってのが前に出て先に現場に到着して安全の確認とか、仮で拠点設置とかをするんだろうなぁ。でも、まだ来ない。うーん。」


 逆にメリアリネスの方の進軍速度は目に見えて早い。と言ってもその一部だけなのだが。

 どうやら三千の騎馬隊を編成して一早く迂回ルートを進んでいるみたいなのである。

 以前にこの「魔改造村」がどれ位の大きさなのかをメリアリネスには伝えている。一応は地図も使って。

 俺が作成した精緻な地図を見てメリアリネスもアーシスもギョッと目を見開いていたが。

 取り敢えずはそれを参考にきっと新選民教国側の軍は進んでいるはずである。


「ノトリー連国を上下から挿む様にして進んでるからなぁ。魔改造村の壁を利用して軍を締め上げる様にして責める気かな?でも、死人を俺は出す気無いんだけどね。」


 戦争と言う解決策は安易で力づく、そして判り易いと言う点で直ぐに飛びつきたくなる代物ではあるが。

 しかし非効率的で長引けば長引く程に失われる物が多くなる損をする手段である。

 金も物資も人の命も一気に、大幅に減らしてしまうこんな無益な事は出来ればしない方が良いのだ。


 だがまあ、始まってしまっては仕方が無いのでソレを俺が今回は止めるのであるが。

 だってノトリー連国と新選民挙国の間にこうして「魔改造村」を作ってしまったのだからしょうがない。

 戦争に巻き込まれて村を荒らされるなんてのは真っ平御免だし、そんな真似をやらせる気も無い。


「本当は外交でも何でもやって戦争自体をしない様に立ち回るべきだったんだろうけどさー。俺、余所者だしねぇ?」


 二つの国の揉め事に俺と言う個人の首が突っ込める隙間など最初からある訳が無い。まあ今は成り行き上こうなっているのだが。

 俺が今回こうしてこの戦争にちょっかいを出して止めようとしているのは、それこそ偶々で、そして無理矢理と言った感じである。


「村を救うのにノトリー連国の首都にいるだろうお偉いさんたちの説得から始めたら良かったのか?いやいや、それは無い。だってそんな事して時間を無駄に使ってたら村の住人が何人か死んでただろ。そう思える位に酷い惨状だったしな。」


 ソレにどこぞの誰とも知れ無い人物がいきなり現れて説教をし始める何て事をしても、役人どもはそんな俺の言葉に何て耳を貸さなかったに違いない。

 国の大臣でも、宰相でも、貴族でも、なんでもいいが、権力を持つ者たちに俺の言葉を聞く態度を取る様に力を見せて脅せば良かったか?コレも駄目だろう。

 ソレはそれで俺の事を新選民教国の時みたいに「化物」とか「魔王」だなどと言って恐れて従う様に見せかけて裏で反発して来ていたはずだきっと。

 そんな面倒な展開になっていればそれもソレで無駄な時間になってしまうだけだっただろう。


 見つけた時にはもう今にも潰れて消滅してしまいそうな村を救うのにそんな悠長な事をしてはいられなかった。

 ソレに村には支援は来ていないとも聞いていた。コレを知れば国の中枢の事は窺い知れると言うモノである。


「・・・お?やっと来たな。騒いでるなぁ。やっぱこの情報は得ていなかったんだな。」


 ノトリー連国軍の斥候だろうか?兵士たち三十人が壁からかなり離れた距離からそれを見上げながら「どうなっている?」と困惑した顔で話し合いをしている。

 俺はソレをその上空から眺めていた。ここ数日はずっとこんな感じで壁の側の上空で待機してノトリー連国軍を待っていたのだ。


「さてさて、俺の話をちゃんと聞いて理解できる者が隊を率いているのかどうか。」


 俺はその隊の前に静かに降り起った。そしてご挨拶。


「お疲れ様です皆さん。この壁の事について知りたいですか?」


「!?・・・貴様一体何者だ!?一体何処から現れた!」


 まあ、やはりしょうがない。驚かれ、警戒され、槍をこちらに突き付けられた。

 俺の登場の仕方が悪いのがいけないのだが、それはソレ。俺が只者じゃ無いと相手に先ず分かって貰えねばここから話す事に理解を示そうともしてくれないかもしれないのだから。

 突拍子も無い現れ方の演出は仕方ないと言いたい。


「私、遠藤と言います。空から降りて来ました。」


「ふざけているのか?正直に言え。そうで無ければ痛めつけてでも口を割らせるぞ?」


 脅された。まあこれが普通と言うモノだろう。いきなり現れた不審者に対してしっかりと冷静に会話を試みようとする胆力を相手に求めるのは酷と言うモノだ。


「さて、もう一度繰り返しましょう。この壁が何なのか知りたいですか?」


 俺がこうして槍を突き付けられていても何らビビる所を見せない事で「おかしい」と数名が感じ始めて顔を顰めている。

 だが隊長なのであろう男が声を荒げて再び俺を脅す為の言葉を吐いて来る。


「キサマ!早くこちらの質問に答えろ!死にたいか!」


 残念な事に話し合いと言うのはできなさそうだ。俺はちゃんと相手の質問に答えたと思ったのだが。しかしここで少し考えてみた。相手の立場を想像して。

 そうすると「何者だ」の所は自己紹介に名前を口にするのではなく「この村を作った者だ」とか「この壁を作った者だ」の方が良かったのかもしれない。

 だけども俺はソレをスルーして話を前に進める事にする、無理矢理に。


「えー、皆さんはノトリー連国軍の斥候、ですよね?ハイハイハイ、では教えましょう。この壁を作ったのは俺です。ソレと、そちらの軍には引き返して貰いたいです。戦争なんて止めましょう。そう伝えてくださいそちらの総大将に。」


「・・・は?何を言っているキサマ?我らを愚弄し、謀るか?ふざけた事を口にするな。しかも戦を止めろだと?」


 やはり理解と言うか、何と言うか、こっちの言いたい事を伝えるのは難しい様だ。

 と言うか、伝わっているけれどもその訳が分からないと言う感じだろうか?

 相手がこちらを完全に下に見ているので俺の言葉が全く届いていない。向こうは俺を頭のオカシナ奴とでも思っているんだろう。コレはしょうがない。


「このままそちらの軍が進めばこの壁に止まらざるを得ないでしょう?するとですね、新選民教国の軍が挟み込む様にして動いているので時がバッチリ合うとそのままそちらの軍は痛い目を見させられますよ?」


「欺瞞情報を我らに与えて混乱を齎そうとしているのか?向こうの国の工作員か。しかも死を覚悟していると見える。お前たち、コイツを捕縛して本隊に連行するぞ。他の情報を絞り取る。」


 この隊長の判断で俺を囲う兵は逃がさない様にとジリジリと包囲を詰めてくる。


「やっぱりダメなんだよなぁ。コレはどうやって丸く収めようかなぁ。・・・と言うか、あれ?どう考えても丸くはできそうも無いな?」


 きっとどうやっても丸くはならない。三角か、四角か、或いは五角、六角、七角、八角、九角。

 角が出るのは確定だろう。やはり俺が魔法を使ってビビらせて撤退させると言った手を使わねばならない様だ。何時もこうである。最後は力づく。


「しょうがないなぁ。まあ、空からやって来ました、って所はちゃんと全員に目にして貰いましょうかね。」


 俺はそのままスーッと空へと上昇していく。コレを唖然とした顔になって見送る斥候部隊の方々。

 空に上って行く俺を見上げるその顔は口が半開きになっていて間抜けになっている。

 理解が追い付かない、その顔が全てを物語っていた。目の前の自分が見た光景が信じられないのだろう。


「さてと、どうするかね?新選民教国軍は・・・まだ暫く放置で良いか。先にノトリー連国軍をどうにか・・・って言っても俺が脅して国に帰らせるだけなんだけどな。」


 正直に言えば、もっと上手く立ち回ってこの戦争を止めたいとは思っている。

 けれども「穏便」と言うのが通じるのは新選民教国の方はまだ見込みがあっても、ノトリー連国の方は駄目だ。

 俺の事を知らないから。俺の力を知らないから。


 こうして俺はノトリー連国方面に向かう。空を飛んで。

 斥候が来ていたのでそう遠くない地点に軍を止めているのだと思って真っすぐに進む。

 俺は魔力ソナーを使っていない。別にコレと言った理由は無い。

 まあ敷いて言うなれば、一々そうやって全ての動向を気にしているとストレスが半端無い、と言った所か。

 気持ちを空っぽにして待っているのと、何もかもを把握して神経を使い待ち続けるのとではストレスの掛かり具合が天地の差だ。

 こういった事は気にしたら負けである。逐一細かい部分まで気にしなければいけない様な場面でも無い。

 戦争と言う規模の大きいモノであるならばそこまで詳細を気にしないでも構わないだろう。まだ両軍は相まみえてもいない状態なのだから。


 それこそ今すぐにジャンケンをして相手に絶対に勝たねばならないと言った切羽詰まり過ぎている様な状態なら、相手の出す手を警戒して全力で魔力ソナーを展開しているだろう。

 だけどもそんな状況でも無いのだ。ノトリー連国軍を見つけるのに別に魔力ソナーを広げないでも見つける事は簡単だろう。

 何せ相手は一万二千と言う事である。そんな人の集団を空から眺めて見つけられない訳が無い。


「おー、見つかった。スゴイな。壮観だ。まるで映画のワンシーンみたいだな。さて、何をどうして見せれば、綺麗に撤退してくれるかね?」


 いきなり空から空爆を仕掛ける、なんて事をすれば混乱で兵士たちが規律も何も無く逃げ出してしまいそうだ。

 そうなれば転倒して怪我をする者も出て来るかもしれない。運が悪ければもっと酷い事も起こりうる。

 その転倒した者が他の逃げる兵たちに踏まれてそのまま死亡してしまう事だって考えられる。

 鎧を着た兵の重さは相当なものだろう。そうで無くても大の大人の全力の逃げ足に踏みつけられ続ければ息も付けない程に衝撃と苦痛が続いてそのショックで死んでしまうだろう。


「はぁ~。最初にやる事となると、この軍の総大将に話を付ける?って所かな。まあソレも無駄に終わるかもしれないけども。」


 俺は一人としてこの戦争で死人を出したくない。コレは只の子供じみた我儘だろう。

 しかし俺の全力を出せばソレも達成できるはずだ。けれども、ここで矛盾が俺の中に有る。

 面倒なのだ、ぶっちゃけ。俺がそこまでしてやる義理も無ければ責任も無い。悪い大人の考え方である。正直に言って俺は俺だけの事だけしか考えていない。


(毎回こうして事ある毎に義理も責任も無いって言って逃げているだけな気がするなぁ。うん、自覚してるわぁ)


 俺はきっと見ず知らずの大勢が死んでも別に気にも留めたりしないんだろう本当は。それでもこうして両軍がぶつかる前に何とかしてみようと動いている。それを簡単に出来る力を持つのに、それを使わずに。何処までも偽善だ。


 さて、これは戦争だ。ならばこの兵たちも自分たちが死ぬ覚悟は持っているはずで。


「いや、そうじゃ無いな。死ぬかもしれないと考えてはいても、それは自分だとは思いたく無くてその事実を正面から受け止めて無いんだな。」


 この兵士たちは一般から招集された農民兵と言った感じなのだろう。粗末な鎧と槍と言った装備で揃っている。

 この中で強い覚悟を持って臨んでいる者はどれ位の数居るのだろうか?自分の立ち位置が今どこ等辺にあると認識しているだろうか?農兵たちは一人一人がちゃんと「絶対にこの戦争を生きて帰る」などと言った決意を胸に秘めている者は少ないのではなかろうか?


 さて、時々忘れそうになるのだが、本当にここはファンタジーだ。別世界だ。馬の様な、馬で無い様な動物にどうにもノトリー連国の貴族?立派な鎧と剣を佩いている者が騎乗しているのである。

 そいつらは軍の中腹から後端に陣取っていて前方に一般兵が固まっている布陣なのだ。

 コレは正面から軍がぶつかればその一般兵から死んでいく形となり、撤退となればその中腹から後端に居る者たちから即座に逃げ出す形である。


「うーん、何かホントにもう嫌な感じだなぁ。・・・アレかな総大将は?さっさと終わらせるか。」


 上空からの観察を止めて俺は一際豪奢な鎧を着た人物の前に降下する。


「お話があります。この戦争、止めてくれませんか?」


「何奴!?貴様何処から現れた!?」


 総大将だろうその者の護衛と見られる兵士たちがそんな言葉を俺にぶつけて来た。まあここに来る前にあの斥候隊長から受けた内容と全く同じだ。当たり前である。

 不審人物がいきなり目の前に出て来たとなればその対応がそもそも当然な事である。


 しかしここでその時と違うのは俺が宙に浮いている所だ。

 俺が「空からやって来た」と答えても信じて貰えないのはもう既に分かっている。なのでこうして最初から見せている訳だ。俺は只者じゃ無いよ、と。


 まあでもそんな存在であろうとなかろうと護衛たちの仕事は変わらない訳で。

 そんな俺の事をギョッとした目で見つつも即座に包囲を完成させて槍先をこちらに向けてきている。いつでも俺を串刺しにできる様にと。


 さて俺の浮いている高さはその一番豪奢な鎧を着た人物と視線を合わせる位である。

 その人物はそのファンタジー馬に騎乗している状態なので結構な高さに俺は浮いている。


「私の命を狙う刺客か?いや、違うか。これ程までに堂々と正面切って戦争を止めろだなどと言って来る刺客など居るはずも無い。」


 そんな言葉が俺に向けて放たれた。それを口にしたのはその豪奢な鎧を纏っている人物。


「さて、今のこの奇妙な状況をどうしたら良いモノか?私の器量が試される所だな?」


 その人物はどっしりと構えて落ち着いていた。冷静に俺に向けて鋭い視線を向けて来る。

 そこに俺はざっくりとここに来た経緯を語って相手の反応を見る事にした。


「斥候に軍を引き上げる様にと伝えてみたんだけどさ。どうやら話が通じなくて。いや、違うなぁ。聞く耳を持たれなかったって言えば良いか。進軍を中止して国に戻らないと新選民教国の軍が挟み撃ちを狙ってやって来て無駄に痛い出費を払う事になるって忠告したんだけどさ。捕縛して来ようとしてきたからこっちにこうして直接忠告しに来たよ。全く。」


「お前はこちらの味方、との認識で良いと言う事か?ソレが本当なら、と言うか、信じられる内容でも無いので拘束して尋問をしようと動くのが普通だろう。余りにもお前は怪しい。斥候たちは正常な判断をしたと言う事だな。」


 どうやら俺と御偉いさんが話をし始めてしまったが為に護衛たちは困惑している様だ。

 手の平を護衛たちに向けて動きを制しているお偉いさん。どうやら俺を見定めるつもりらしい。


「味方、では無いな。うん、敵でも無い。俺は俺の思い付きで動いてる。その場合にそちらの軍がギャアギャアと暴れるかもしれない不安があって止めに来たんだ。ノトリー連国がどうして戦争をお隣の国に仕掛けているのかの事情は知らないがね。俺にも事情ってモノが在ってさ。いや、そちらからしたら俺の存在は不条理に感じるかもね、真実を知れば。」


 コレに俺は味方でも無ければ敵でも無いと言っておく。こちらはこちらでやりたい様にやっているとも。

 しかしこれでは俺の言いたい事は伝わらないのは百も承知だ。そしてその通りに追及を受ける。


「何を言っているのか意味が伝わらんぞ?勿体ぶらずにその考えを私にぶつけてくれば良いだろう?こうして寛大にも私が会話に応じてやっているのだ。その真実とやらを言わねば何時まで経っても先に話が進まんのではないか?」


「へいへい、じゃあ何処から話したモノかね?」


 俺のこの態度にここで堪忍袋の緒が切れた護衛の一人が声を荒げる。


「無礼者が!ギマール様に対して何たる態度!許されざる!我が手でその汚い命刈り取ってくれる!」


 そして槍をそのままその護衛は突き込んで来た。独断で、本気で、俺を殺す為に。

 どうやらギマールと言うのが今俺が話している男の名前らしい。そう、男である。フルフェイス兜で顔の造形は良く判らない状態。若いか老いているかの判断も声からは想像しにくい。

 そのギマールが殺意バリバリな護衛を止める隙も無く、槍は俺の胴体に。まあ刺さらないのだが。


「!?・・・!?」


 必死になって槍を何度も押し込もうとしているその護衛は酷く混乱をしている。自分の放った一撃が刺さらない事に。


「そ奴を捕らえよ。ああ、こちらでは無い。そこの勝手な行動を取った馬鹿をだ。」


 このギマールの言葉に即座に三名の護衛が動いた。そしてまだ槍を俺に押し込もうとしていたその勝手に動いた護衛を地面に押し倒して拘束を開始する。

 そいつはこの場から引っ立てられて何処かへ消えていく。その際にそいつは何故だどうしてだと喚きながら抵抗を見せていた。


「すまんな。血の気の多い勘違いをした者が紛れていた様だ。忠誠心が高いと見ての採用だったのだが。まあそれは良い。話の続きをして貰えるかな?」


 俺はさてどうしたモノかと考えたが、全ての始まりから語る。村が死にそうなのを見つけた所からざっくりと説明をする事にした。


 この先の村が貧困で消滅しそうだった事。


「ふむ、その様な事になっておったか。私は知らなんだ。」


 役人が数年も来ておらず困窮を訴え様にもそれも出来ず。支援すら無い。


「なに?余りにもその様な管理、杜撰過ぎるだろう。本当か?」


 その村を俺が援助して救った事。


「信じる事ができんな、その言は。まあ私自身がこの目で見ていないから、と言う理由だけだがコレは。」


 この先のその村を保護する為に巨大で長大な防壁を設置している事。


「ふむ、それで戦を止めて引き返せとな?ん?微妙に違う?はて、お前は何を言いたいのか・・・何?壁の事も村の事も以前より既に新選民教国は情報を得ている?」


 俺は両軍を止める力を持っているので戦争を止めようと動いている事。

 新選民教国は壁の件を理解してソレを元に作戦を立ててこちらに進軍している事。


「お前は新選民教国と繋がっておるのか・・・いや、待て、では何故こちらに相手の軍の動きを教えに来た?こちらも向こうも軍を止める力?世迷言か?」


「あー、やっぱその目で確かめないと信じちゃくれないよな。じゃあちょっとすまないけど、俺の力を見て引き下がるかどうか決めてくれるか?今から、そうだな。この軍の後方を滅茶苦茶にして見せるから、ソレで判断してくれ。」


「・・・一体私に何を見せる気だ?」


「コレを見て統率が乱れて恐怖で逃げ出す奴も出るかも。そう言ったのを罰したり敵前逃亡で死罪、とかは無しで。と言うか、撤退する時に混乱で死人が出ない様にちゃんと指揮は執ってくれよ?」


 俺はソレを告げて空高く飛んで行く。


(あー、後で新選民教国の方の軍にも説明しに行かなきゃ駄目だな、こりゃ)


 恐らく向こうには俺の事を知る者も軍に居る事だろう。そうなれば俺が「引き返せ」と言ったら素直に聞いてくれると思う。

 そうじゃ無かったらこのノトリー連国軍と同じ様に脅しで撤退させねばならないと言う手間ができるが。


「しょうがないか。結果、殺し合いが始まらなけりゃ良いんだ。俺がやりたい様にやれば良いよな。」


 ドンパチしたけりゃ俺を始末してみせろ、と言う事である。まあ多分そんな事ができたら俺を殺したそいつがこの世界で最強になるのではなかろうか?

 まだまだ世界は広いし、その全てを俺は知っている訳では無いが。今分かる所で言えば、少なからずこの両方の軍に俺を殺す事ができる実力者はいないだろう。

 と言うか、これまで会って来た存在で俺を殺しうるのはドラゴンくらいでは無かろうか?

 そのドラゴンは俺と敵対していると言った訳でも無い。となれば俺が誰かに殺されると言う心配は考えるだけ無駄な案件だと言えそうである。


 こうしてくだらない事を考えつつも充分な高度を取って軍の後方に盛大に爆撃をしてやった。

 とは言ってもコレを兵士たちに当てたりはしていない。兵士たちから大分離れた場所に三撃ほど盛大に大爆発させただけだ。

 もちろん演出として炎を撒きあがらせてド派手にやって見せた。

 あれだ、特撮モノで敵側のキャラクターがヒーローにボッコボコにされて最後に爆発するアレ。確か専門用語?で「ナパーム」と言うのだったか。

 ソレを規模を大きくしたヤツである。炎は周辺に飛び火したりしない様に調整はしてある。

 なので軍の方に火の粉が飛んで炎上したりはしていない。延焼はしていない。

 まあ相当な熱量があったのでコレの余波は軍の外側に配備されていた兵士たちには届いただろう。

 ソレと火柱は相当に高くまで上がっているので軍の中枢にいる兵たちにも見えているはずである。

 当然ギマールにもコレは見えていると思われる。これを見て撤退指示を出して素直に国に帰ってくれれば良いのだが。


 こうして再び俺はギマールの前に現れて一言。


「さて、俺の力は信じて貰えた?この脅しで素直に国に帰ってくれると嬉しいんだが。」


「・・・よかろう。こんな馬鹿げた力を軍に向けて放たれるのは勘弁願いたいからな。全軍に命令だ。国へ帰還する。即座に撤退せよ。」


 ギマールは一人の騎士に向かってそう言った。その騎士は副官だったのだろう。この命令に敬礼を一つして他の騎士たちに伝令を走らせる。

 そして即座に太鼓の音が「ドンドンドン・ドンドンドン・ドンドンドン」と鳴らされた。どうやら撤退の合図であるらしいコレが。


「して、国を単独で落とせる力を持つお前はこれからここで何をするつもりなのだ?」


 ギマールは俺に向かってそんな質問をしてきた。コレに俺は。


「いや、別に何も考えてないけど?取り敢えず平和が一番?今は目の前で起きそうだった戦争を止められて一息つく所かな。ああ、一応は新選民教国の軍にそちらの撤退を追わない様に言いに行かないとな。ソレと向こうも国に帰る様に言っておくから安心してこのままのんびりと国に戻ってくれ。」


「私は撤退の理由を追及された挙句に責任を取らされて将軍の座を降ろされるだろうがな。ふう・・・お前と敵対をして軍を全滅させられるよりかは余程マシだ。」


「もしかして、また新たに将軍が据えられてまた攻めて来る?」


「その可能性は高いな。そもそもこの軍を率いるのは別に誰でも良かったのだ。どうせぶつかり合って適度に削り合い、計算された損害が出たら即座に撤退をする計画であったからな。酷いモノだ。馬鹿な話だよ、全くな。この戦争で死ぬのは一般兵ばかりで、高位貴族どもはこれに物見気分だ。反吐が出る。そんな作戦に従わなくてはならない立場の自分自身を殺してやりたい気分だよ私は。・・・あぁ、私も動揺してしまっているのか。思わず愚痴を溢してしまったな。」


 どうやらギマールは俺の見せた大爆破を見て内心は相当に動揺をしているのだと言う。

 表層面上は冷静に見せていてもどうやら口からはソレが零れだしてしまったらしい。

 そのおかげでノトリー連国がどの様な国なのかが良く分った。しかしコレに俺が直接に国をどうこうしようとは思わないが。


 こうして俺の見せた爆破で強大で巨大な動揺を兵士たちが孕んだままにノトリー連国軍は撤退を始めた。ゆっくりと、しかし確実にこの場から離れていく。

 ここで最後にギマールが聞いて来る。


「お前の名は何と言う?良ければ聞かせてくれ。」


「うん?遠藤だ。」


「分かった。エンドウだな?お前の事は新選民教国よりも遥かに大きい脅威だと報告しておく。」


「何がどうなって脅威なんだよ・・・俺は平和主義だぞ?別にそっちの国を滅ぼそうだなんてこれっぽっちも考えちゃいないんだが?」


「お前の様な者が何の思想も無く、何処かに所属している訳でも無く、フラフラと自分のやりたい事だけをやっているその事自体が脅威だと言う事だ。」


「はぁ~。反省はしている。でも、後悔はしていない。そっちのお偉いさんたちが賢明な判断をしてくれる事を願うよ。」

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