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増えて山となり

 あれから早いモノで一ヵ月経つ。そう、もう一ヵ月だ。

 別に俺の生活はそこまで変わっていない。散歩して、昼寝して、飯を食って、寝る。

 その中にはドラゴンが入っていて少々の騒がしさはあったが、そこまで大きな事が起きたとか言った事も無い。

 順調過ぎてちょっと怖いと感じる位だ。俺がもっと豪胆な性格ならこんな妙な不安に苛まれずに済んだのだろうか?


 村の日常も順調に作られていて安定し始めて安心になっては来ているのだが、未だに農作物の異常成長とソレに伴っての収穫作業が日々繰り返されている。

 そう言った事で毎日が忙しく、村人たちは他の事に悩む時間など無いと言った感じだ。だって育てているそれらの作物が育ち過ぎると今度はせっかく育ったそれらが腐ってしまうのだ。勿体無いのである。

 そうやって採れて取れて採れまくって、そしてその量も問題になって来ていた。この「魔改造村」の住人たちの消費と収穫量のバランスが崩壊しているのだ。


 もちろん保存食にできるものは既にやってそれらは備蓄に回っている。

 それ以外は住人たちの食事に消費されてはいるのだが、しかしそれも限界がある。

 そう、採れ過ぎてしまっているのだ。手に余る程に。

 こういった物は売りに出して外貨を稼ぐと言うのをやるのだろうが、この村は特殊なのである。


 ノトリー連国に売りに行けないし、新選民教国にも拒否されている状況の「魔改造村」である。


 ソレに何か村で必要な物や足りない物があれば俺がソレを満たしてやっている状況だったりする。

 道具が無ければ俺が魔法でササッと造り上げ、その他の問題が起きればそこに介入していたり。魔法で全て解決してしまっている状態だ。

 こうして村の者たちの力だけでは対応できないモノは俺がパパッと熟してしまっている。

 なので今この村では「金を稼ぐ」と言った事が全くできていない状態なのである。


「その代わりに他の村への食糧配給をして、過剰も過剰過ぎる収穫は処理をしてるんだけどなぁ・・・」


 この状況は歪過ぎる。その内にそう言った施しを受けている村がこれに頼ってこれまでして来た村の営みを止めてしまうかもしれない。

 村人たちが施しを受ける事が当たり前だと思って仕事を放棄し始めてしまったらソレは末期だ。

 そんな死んだ村にしたくて俺はこうした配給をしていた訳では無い。

 そうした村の出身者の求めに応じて俺はその配給をしてやっていたのだ。


 そうした求めを俺にしてきた者たちにはその対価にこの「魔改造村」でこの先も一生懸命の働きを希望した。

 そう言った者たちは自らの故郷を救いたくてこの「約束」を受け入れて今も頑張って汗水たらして農作業をしている。


「そんな奴らは故郷が堕落の道をひた走る可能性なんて思いもしないんだろうなぁ。」


 この配給、配達は俺が今一人でやっている。以前に回った四つの村にはもうワープゲートを使って行き来し放題なのである。

 なので今は案内が必要無い。パッと行ってサッと帰って来る。コレだけだ。

 人は楽を知ればソレに依存をしてしまう生き物だ。いきなり村の広場に大量の食糧が連日置かれている状況に慣れてしまえばどうなるだろうか?

 その内コレに「働かなくても食っていける」と勘違いする者たちが増えてしまうだろう。与えられる事を当たり前に思われてしまうのは勘弁願いたい。俺は村人たちを養うつもりでこの行為をしているのでは無い。


「でも、それをしないでこの収穫物を捌けって?無理、なんだよなぁ・・・」


 今作っている収穫物の捌き先が無い状態なのだ。収穫が増えれば増える程に食糧倉庫を圧迫する。

 もう今は保存食用に作った倉庫が五つも増えた。相当大きめに作ったのにだ。ソレを考えると異常なのである。

 インベントリに入れてはいるのだが、際限無く入ってしまうのが少々怖ろしいのだ。そのうちにもしかして限界が来てしまうのでは?と多少の不安が浮上して来るくらいには収穫量が半端無い。


 さて、そんな大量に収穫できてしまっている状況をドラゴンに聞いてみたらアッサリと「土壌の魔力」が過剰だと答えが返って来た。

 それらの影響を受けて農作物たちはグングンとその成長速度を上げているのだそうで。


(俺が悪いんじゃ無いんだよ・・・荒野を耕すのに俺一人の人力で何年かかると思ってる?ソレを魔法でチョチョイのチョイだぞ?しょうが無いだろうよ、俺は専門家じゃ無いんだから・・・)


 開墾するのに下手すりゃ何十年も掛かるなんてのが普通なのだ。それを俺一人でやろうと思い付いたらそこは魔法が使えるのだからソレに頼るのは当たり前であろう。

 と言うか俺一人の人力だけで荒野を畑に変えるなどと言ったらそもそもが無謀で無理な話である訳で。

 魔法が使えなかったら俺はそんな「この荒野を緑に変える!」などと宣う事など有り得なかったはずだ。


(話によるとノトリー連国がどうにも動き始めてるって言うしなぁ)


 この一ヵ月の間に一度メリアリネスの所に相談に行っている。その時に聞かされたのは「ノトリー連国」の戦争準備の事である。

 コレはどうにも潜伏させている者からの情報らしく「輜重隊」の増員やら増強などをしているとの事であるそうなのだ。

 この動きは絶対に俺がやっている事に起因する。そう、あの四つの村に与えている食糧が首都の方へと廻っているのだと。


「戦争は回避したか?とか思ってしまっていた甘い俺が居たんだよなぁ。すっかりと忘れてたぜ。」


 四村にバラ撒いた食べ物は別に戦争を起こそうと思っての事では無かった。しかし結果はコレだ。

 村の者たちは食いきれない物は首都に売りに出したんだろう。村は寂れていく一方だったので必要な道具の整備や金の貯蓄などは無いと見て良い。

 なのでそれらを補う為にも余剰は首都へと売りに行き、そして金を稼いで必要な物を買い村に戻る。当たり前の事だった。

 まあそれができる程の量を四つの村に分け与えていたと言う事になるので、コレは「魔改造村」の収穫量が如何に異常であるかの証拠とも言える。


「それこそ信じられん位に大量に採れてるからなぁ・・・でも、ノトリー連国が兵を出したら恐らくここに先ずはぶち当たる訳で。」


 この「魔改造村」は新選民教国に一番近い立地、ここを通らない訳が無い。

 だけどもここを進もうとすれば俺が村の安全の為に、そしてノトリー連国がいきなり横暴な事を仕掛けてこない様にと思って作ってある壁が立ちはだかる。ソレも広大な、長大な範囲にだ。

 恐らくは壁ができている事なんてノトリー連国側は知らない。


「コレを回避しようとすればかなりの遠回りになるだろうからなぁ。絶対に正面突破する為に壁を壊しにかかってくるだろ?はぁ~憂鬱だなぁ・・・」


 ノトリー連国がどれだけの数の兵士を出撃させるかは分からない。

 壁を壊そうとして来たならその時は俺が対処する事になるだろう。

 こうなると、さてどうしたモノかと考える。戦争などと言うのはしないのが一番だ。

 さてそうなれば俺がこの戦争を止めるにはどんな事をすれば良いだろうか?


「えー、そんな訳で、メリアリネス、どうしたら良い?」


 そして今俺は城に居る。新選民教国の。


「・・・私に聞かれても困るのですが?と言うか、突然来られてその質問はどうかと思いますけど?」


 メリアリネスはどうもご機嫌斜め、少々虫の居所が悪いらしい。ちょっとキレ気味である。


「冷たいなぁ。何かテキトウに思い付いた事を無責任に口に出してくれたら良いんだよ。何が解決に繋がるか分からないしな。今は真剣に考えるんじゃ無くて何でも言ってみるって感じで。」


「・・・はぁ~、無責任、ですか?私の今の立場を分かっていて言っていますか?それは?」


「王様、頑張ってくれ。こんな話は臣下たちには聞かせられないだろ?」


「私はエンドウ殿の興した村の件については一切関わらないと申し上げましたが。」


「いやー、そこを何とか?何かしらこの国にとっても良い案が出るかもしれないし?ここは国の事も考えて、ね?」


「・・・そもそも荷が重過ぎます。私の理解を超える状況に何を言えと?」


 終始キレ気味にそう返してきたメリアリネスは想定外が起き過ぎて理解ができないと言った様子。頬をピクピクと痙攣させてこちらを軽く笑顔で睨んできている。

 その目は「全部お前のせいだ」とでも言いたげである。そもそもの当初の考えておいた予定を俺にぶち壊されていて、かつ、今の現状である。俺に文句の一つも言いたい、と言うか、言う権利があると主張したいんだろう。


「あ、そうそう、ソレとさー。コッチの国で収穫物、売って良い?土地の魔力が落ち着くまではこの調子で農作物が急成長し続けてバンバン採れるだろうってドラゴンに言われてさー。ちょっと持て余し過ぎて困ってるんだよ。」


「・・・突然意味不明な事を言わないで貰えませんか?土地の魔力?採れ過ぎる?ドラゴン?持て余す?ちょっと言っている意味が解らないですね?」


 メリアリネスの表情に徐々に怒りが混じり始めている。これはどうにも俺に対して以前に抱いていた畏怖と言ったモノがメリアリネスの中で薄れて来ていたりするんだろう。

 俺が余りにも自由奔放に勝手に動き回るモノだからメリアリネスはこれに怒りの感情が芽生え始めたと言った所か。

 対処に困る、と言った部分が余りにも大部分を占めているのだろう。女王としてこの国に今君臨しているメリアリネスにとって自身に理解不能な問題を持ってこられている状況。それは膨大なストレスとなってメリアリネスに降りかかっていると。

 ソレにアイデアを出して欲しいと俺が願うのは無茶ぶりを振っていると言った感じに受け止められている、と。


 そこに執務室の隅に控えていたアーシスが口を開いた。彼女はメリアリネスの秘書だ。当然最初からこの部屋に居た訳で話は最初から聞いていた。


「陛下、もう受け入れてしまえば宜しいのではないでしょうか?ノトリー連国の動きは明らかです。ならば我が国も準備を進めねばならないでしょう。この申し出を国で買い上げて備えとしてしまえば宜しいかと。」


 アーシスは若干の呆れを含みながらメリアリネスにそう意見を出した。

 コレに諦めの境地とでも言える程に表情が「無」になったメリアリネスは机に突っ伏した。そして。


「ワカリマシタ・・・アーシス、では、受け入れ準備の為に空き倉庫を幾つか見繕っておいてください。そこにエンドウ殿をご案内して差し上げて。」


 こうして話し合いは終わり、俺はその後に兵士の案内を受けてこの城の空き倉庫と見られる場所に到着する。

 こちらです、と言われてその倉庫に入ってみれば相当な広さだ。いわゆるテニスコート位に広い空間である。

 とは言っても屋根はそこまで高いモノでは無い。精々3mあるか無いか。

 先ずは此処に保存食を詰めて行って欲しいとの要望であった。


(村の倉庫に大量に有るから順に詰めていくか。あ、あー・・・村長と住民たちには言っておかないといけないか。先走ったなぁ、でも、大丈夫だろ)


 日々「魔改造村」では消費しきれない程の収穫がある。それを腐らせたりしない様にと毎日が戦いの如くに住民たちは必死に作業を行っている。

 その中で保存食用にと色々とそうした下拵えやその保管などもやっているので、もしかしたらその内に働き過ぎで倒れてしまう者が出てしまう恐れもあった。

 しかし良く食べて、良く働き、良く寝る、と言った習慣をさせているので住民たちに疲労の様子は今の所見られない。

 それでも突然隠れた疲れが表層面に浮き上がって来て倒れる者も出るかもしれない。それを俺は警戒している。


(まあ多分ソレは・・・ないんだろうなぁ)


 時折俺は村人たちをランダムで健康診断をしていたりする。村を散歩するついでに魔力ソナーに接触した者たちの中から無作為に一人の心身状態をこっそりと確認していたりするのだ。

 ソレをしていた中で一人としてそう言った心配のある者は出なかった。なので恐らくはまだまだそう言った心配は今の所必要では無いんだろう。

 今ではドラゴンが高笑いをしながら農作業に従事しているので他の者たちの負担も減っている模様である。

 何せドラゴンは無限の体力を以ってしてかなりの速度で一日の仕事を熟して、その余剰を他の仕事にまで首を突っ込んで別の仕事の補助処理をしている。

 本人はコレを別に気にもしない所か結構楽しんでやっているので誰もコレを止めると言った事もしない、できない。

 なので日々の収穫量はドラゴンが来た前と後で相当な量の違いが出ている。もちろんドラゴンは働いたその分だけ食うのでその差を考慮すれば日々の収穫量の上昇は微々たるモノと言えなくも無かったのだが。

 ソレが毎日となれば積み重なるものであって、これがいわゆる「塵も積もれば山となる」であった。一ヵ月と言う短い期間ではあるが、馬鹿に出来ない。

 今後もまだまだドラゴンは「魔改造村」に滞在するつもりである様なので、土地の魔力が安定し始めるまではこのペースが続くと思うと怖ろしいと感じてしまう。

 そこで村の食糧倉庫の増築も考えなければいけなかったそんな所でメリアリネスにこうして相談に来たのだ。

 そしてソレは正解だった。こっちの国で買い取ってくれる事になったのだから良い流れだ。


「まあ食べる物が充分でも、兵士の数が集まらなきゃ戦争はできないんだろうけど。そこら辺は俺が考えるこっちゃ無いからなぁ。」


 ここで俺は一旦村へと戻って今回の話を住民たちに説明する事にした。

 村長との話し合い、ソレと住民たちへの了解を得て俺は村の食糧倉庫の中から適当に種類を見繕ってインベントリに入れていく。

 村の倉庫が一つ空になる程度にして俺は再び城の倉庫へと移動。そこでバンバンと物を詰めに詰めていく。

 主に中心になるのが干し野菜、次に塩漬け野菜と言った所だ。後は乾燥させた豆類だ。そう、野菜盛沢山である。

 それらに使っている種類は豊富だ。十種類以上である。良くもまあ俺も調子に乗って色々と種類を集めたモノである。


「干し肉とか辺りは別に国の方で頑張って頂いて。村じゃ動物性たんぱく質、ってよりも、植物性たんぱく質を中心だからなぁ。」


 日々俺もサボっている訳では無く、この一ヵ月で他にも何かしら収穫の種類を増やす為に色んな農産物を村で試していたりした。

 その中に豆系の収穫物も結構ある。この豆関連は成功してそちらは村で主に消費している。


 まあ野菜ばかりだと飽きも来るので時折狩猟に出て小動物系の獲物を獲って来る村人も居るのだが、その量はそこまででは無い。

 干し肉などを作れる程の肉の量は無く、大抵はその日の食卓に一品食べ応えのある品が並ぶ程度と言った感じだ。

 一応は畜産関連もやっているのだが、そちらはまだまだ肉の収穫と言った所まではいかない。肉を定期的に食したいのならば相当に頭数を増やさねばならない。まだまだ相当な年月がそれには必要だ。

 その代わりと言っては何だが、ダンガイドリの卵は今定期的に食べる事ができていたりする。

 ダンガイドリの餌として今は収穫した野菜の下処理して廃棄になるはずの野菜くずを与えていたりする。エコである。

 養鶏?と言って良いのか分からないが、ダンガイドリの飼育、育成はかなり順調である。

 野菜だけでは栄養不足かと最初は不安だったのだが、どうにもこの餌が続いたらダンガイドリは体型がどんどんと変化していったのだ。

 何とも生命の神秘と言って良いのか、どうなのか?一回り体格が小さくなったのだ。痩せた、と言った訳でも無く。そしてその獰猛さ?と言ったら良いのだろうか、気性と言ったら良いのか。

 それらも落ち着いて大人しくなっていったのだ。これには俺もビックリだった。

 もしかするとダンガイドリの生態とは食べる餌と巣となる場所の環境が影響するのかもしれない。まあ俺は研究者では無いのでこれ以上は別に詳しくなるつもりも無い。

 因みに以前に食した時の卵の味と比べて、この村での食べる卵の味はソレとは一段劣っている、と言った感想を受けた。しかしマズいと言う訳では無く美味い事には変わり無かったのだが。餌が違えば卵の味もかなり変わる様だ。


(これが、スローライフ?いやいや、それは違うか。暇だと感じると結構あっちこっちと遊んで回っていたからなぁ)


 村の住民たちは朝から晩まで働いているのだが、俺は一日中時間が有り余っている。だって俺は仕事などしていないから。敢えて言うが、プータローでは無い。

 働かなくとも食っていけるから、村の仕事を手伝うと言った事もしないだけである。

 日がな一日ボーっとしつつ「ツチノコ」に魔力を与える。日向ぼっこで昼寝して、腹が減ったら飯を食べる。暇だと思えば海に出てクルーザーで大海原をぶっちぎりの速度で走らせたり。

 魔力薬で得た莫大な金を世間にバラ撒く為にマルマルで思い付きで事業を起こして雇用を捻出したり。

 香草焼きの店舗に突然の訪問監査をしに行ったり。何となく各地を巡って時間潰しをしていたりする。


「ああ、何と堕落か。このままずるずるとダメ人間マッシグラカ?」


 そんな事をボヤキつつも倉庫を満タンにした俺はメリアリネスの所に報告をしに行く。

 取り敢えず倉庫に詰め込んだ物の種類が判る様にと目録をパパッと簡単なモノを魔法で作ってしまう。

 インベントリには紙は入っているし、字はソレにチャチャッと魔法で入れてしまえば手早く終る。魔法バンザイ。


「早いですね。仕事を余り増やされたくないのですけれども。」


「何だ?メリアリネスは遠慮が無くなってきているな?日頃の鬱憤が相当溜まってるのか?」


「それはそうですよ。覚悟を持ってこうして王になりましたけれども。私の当初の計画とズレた、と言うよりも、全部崩壊ですよ?エンドウ殿のおかげで。」


 執務室に入れば早々にこんな会話だ。メリアリネスはどうやら自棄っぱちになってしまっている様である。しかもソレが俺のせいであるとも言われてしまった。


「いや、俺が謝る所なんて何処にも無いからね?恨むのであれば俺の事を「魔王」として利用しようとした奴らに言ってやってね?お前らがクダラナイ事を考えなけりゃ良かったんだ、って。」


 コレにメリアリネスは黙ってしまった。まあ俺を利用しようとしたのはメリアリネスもであるだろうから。ここは返す言葉も無いのだろう。

「魔王」呼ばわりを撤回するに戦争で勝ってから、などと言って俺の力でさっさとノトリー連国を無力化しようなどとしたのだから。

 とは言えソレを別に俺は不愉快に思っているって訳でも無い。今ではもう気にせず「どうでもいい」とまで考えている。


「じゃあ後は戦争がどう動くか暫くは様子見か。よし、俺戻るわ。さてと、また村でゴロゴロ?あー、娯楽が無いなぁ。」


 俺はここで何かしらあの「魔改造村」に娯楽施設が作れ無いかを考えた。そしてこれならいけるか?と言ったモノを思い付いた。


「釣り堀くらいはイケるんじゃね?」


 ワープゲートを通って早々に思い付いたソレを俺は実行に移す事にした。

 とは言っても作る場所は無い。既にイイ感じの空いている土地は無く、俺は肩を落とす。


「水路は通したし、溜め池も作った。井戸も掘ったし、水場の確保に困らない様にとそこら辺の水仕事関係や炊事関連は動線引いて計画的に作ったはずだからなぁ。確かに釣り堀なんて娯楽を作る場所は・・・無いか。」


 別に俺は釣り堀など作ってそこで魚を釣るなんて事をせずとも海に出て釣竿を垂らせば良いだけだった。

 クルーザーで海を爆走させているのだからその位は簡単だった。しかしそうでは無いのだ。この村に娯楽が欲しいのであって、俺があっちにこっちにそっちにと飛び回って追い求めると言ったモノでは無いのだ。


「水路に魚を放して増えるのを待つ?うーん。そこら辺がせいぜいか?」


 何かしら食せる魚を川、溜め池などに放しておくのは別に悪い感じでは無い。しかし安定するには時間が掛かるだろう。気長に待つしかない。

 この村に引いた水は此処からかなり遠くに見えている山から流れてきているモノだ。水量はそこそこ豊富なので枯れると言った様子は今の所は見られないので安心である。


「後は一年を通しての気候の経過と気温変化を注意しないとなぁ。ソレもまあ村長に記録を取る様にと言っておいたけど。」


 今はまだ良いのだが、コレはその内に俺が魔法で耕した土地の保有魔力とやらが尽きた時の為だ。

 その時になったら気候や気温、天気などの変化に合わせた作物を見繕って作業をして行かねばならなくなるだろうとの予測である。


「その前に、戦争が起こるのは確実だろうけど。はぁ~、さてそこに俺はどうするかね・・・」


 戦争に俺が介入、その時にはどの様な結末が一番良いかと、丸く収められそうか?とボンヤリ考える。


「あんまり俺は賢く無いんだからそう言った事は誰かにポイッと丸投げしたい・・・」


 新選民教国で俺が「魔王」と認定されていたのは撤回して貰っているのでこの戦争に俺が出しゃばる理由はもう無い。

 最初の内はメリアリネスにノトリー連国を「追い返してくれ」的な事を頼まれていたのだが。ソレはもう無効と言っても良いだろう。そもそも今更俺はこの戦争でノトリー連国を潰す気など無いので。


 だからと言って別にノトリー連国に肩入れすると言った事でも無い。双方やり合いたいなら勝手にやってくれて結構、と言った感じだ。

 その際に俺のこの「魔改造村」は巻き込んでくれるなよ?と言った立場である。


「でもなぁ。戦争するって分かってて、その悲惨さを知っている俺は無駄な犠牲が出る事に目を瞑ってもいられないんだよねぇ。はぁ~難儀だ。」


 自分とは全く関係無い人々、その死。それを分かって、知っていて、戦争を放っておくと言った事は非常に気分が宜しくない。寝覚めが悪くなりそうだ。

 死人なんて出なければ出ない程イイに決まっている。そもそも戦争などと言うモノはやらないで良いなら、やらない事が一番である。平和が一番である。

 死人が増えれば増える程に世の中に悲しみと憎しみが蔓延するのだ。そんな陰気な世間に誰がしたいと言うのだろうか?そんな事を誰も願うはずが無い。


「しょうがないかー。どうなるにしろ、俺がやらねば誰がやる、ってか?」


 俺はここで腹を決めた。とは言ってもその時にならなければどうするかと言った事も決めかねる。今アレコレ悩んでもしょうがないのだ。

 ノトリー連国が実際にどう動いて来るのかの計画など俺は知らないし。メリアリネスがどの様な対処をしてコレを迎え撃つ気なのかも知らない。


「恐らくはノトリー連国の方が先にこの村にまでやって来るだろうしなぁ。そうしたら・・・うーん。」


 向こうはこの地が俺に因って魔改造されている事を知らないはずである。この現状を見たらきっと相当大きな混乱を起こすだろう。

 その時に進路を塞ぐ壁を真っ先に破壊しようとしてくるのか、はたまた壁を前にして進軍を停止して探りを入れに来るのか。

 俺はその時のノトリー連国の対応によってどうするか決めるのが良いだろう。


「後は、メリアリネスは軍をどう進めるつもりなのかって所だな。ちょくちょく顔を出しに行ってそこら辺の作戦とやらを聞いておくか。」


 まだ両国共に戦争を始めると言っても動き出すのは暫く先であるだろう。

 その時になるまでは俺はこの村でのんびりと過ごしていればいい。


 こうして後何日先に始まるか分からない戦争を俺はこの村で待つ事に。


 そんなこんなで時の経つのは早いモノでそれから二ヵ月が経過している。ノトリー連国は首都から軍が出陣した。その数は一万二千。


「うーん?基準が分らん。コレは相当多いのか?頑張ったのか?もしくは少ないのか?計算してコレだけの数なのか、集めに集めてこの数字?」


 戦略、戦術のセの字も知らない俺にはこの数が今回の戦争において多いのか少ないのかの判断が付かない。


「メリアリネスの方が出した軍の数は八千だろ?コレは、大丈夫なのか?」


 その差は四千。相当な差であると俺には思えてしまうのだが。


「新選民教国の方の軍の動きはこの村を大きく迂回して遠回りだな。メリアリネスはどうにもやっぱりこの「魔改造村」には一切関わらない、触れないつもりなんだな。」


 ノトリー連国は真っすぐにこの「魔改造村」へと軍を進めている。壁があるのを知ってか、知らずか。

 こうして俺が「魔改造村」を作り出していなければ互いの軍は真正面からぶつかり合う予定になっていたのだろう。


「まあだけどしょうがない。そうはならなかったんだから。さて、どんな結末になる事やら。」

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